月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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夜の食堂で

 1日の間にいろいろあった。

 朝に動機が発表されて、そのあとぼくらはそれぞれに与えられた課題をクリアするために動くことになった。

 今回分かったのは、この課題が2種類あるということだと思う。

 ひとつは、技術面で解決しなくてはならない課題。これからやる必要のあることだ。

 もうひとつは、筆記試験形式の課題。どちらかというと本人確認の意味があるようだけど、こっちはすぐに終わる課題だ。過去の記憶に忠実に答えれば課題クリアなので、多分こっちのほうが簡単だろう。

 ぼくや白銀さんの課題は前者、天海くんや百田くんのが後者…… だね。

 

 夕方になって、食堂へ行くと既にいろんな人が集まっていた。

 

「ぼくも用意しないとね」

 

 食堂に用意されているもので和風パスタでも作ろうかな。

 料理の香りも癒しの効果があるものだから、自分のアロマオイルを無理に使おうとするからいけないんだよね。ぼくのこの才能を使おうとするとやっぱり不審に映るというか…… わざわざ〝治してあげよう〟なんて上から目線に話したら反感を買うのは当たり前だよな。

 みんなは優しいけど、この状況でピリピリしているのもまた事実だし、アンジーさんが宗教まで立ち上げている現状でセールスみたいなことをしたって逆効果だ。

 ぼくの才能は…… 厳密には〝 香り 〟に敏感な嗅覚を表している。

 だから、料理の香りだってぼくの思い通り…… みんなの心を少しずつ、癒していくものになる。

 味に関しては、食べてくれる人にしか効果はないけど、食卓に置かれたいい香りの食事はその香りだけで人を安心させることができる。

 テーブルの上の食事は、本来なら暖かいものだからね。ぼくは親友のおかげでそれを知ることができた。

 思い出、思い出か…… こうやって人のために料理してると、感慨深くなってきちゃうな。ちょっとだけ前に進んだせいか、振り返る余裕ができたというか…… なんと言えばいいんだろう。複雑だなあ。

 

「お、もうできてるみたいっすね」

「うん、天海くんはどこに行ってたの?」

「みんな大変っすからね。邪魔したら悪いんでカジノに行ってました」

「そっか」

 

 やることもないし、他の人と交流しようと思ってもその人に課題があればできないわけだ。天海くんも遠慮してしまうよね。

 

「一応、最原くんと百田くんは課題が終わってるみたいだよ。最原くんは体調が悪くて部屋で休んでるみたい。あと、百田くんは春川さんについてるから、やっぱり一緒に過ごすのは難しいと思うけど」

「最原くんは体調不良っすか…… あとでお見舞いにでも行くっすかね」

 

 ぼくが天海くんとおしゃべりしながら食事を並べていると、慌てたように白銀さんが食堂に入ってきた。

 

「ご、ごめんね! 作業に集中しちゃって、思いっきり時間過ぎちゃってたよ!」

 

 白銀さんがやってるのはお裁縫だからね。集中して作業してたら時間も忘れちゃうよなあ。

 

「ちなみに、なんの衣装を作ってるの?」

「うーん、それはあとのお楽しみかな。完成するまで待っててほしいというか…… こういうのはお披露目する楽しみもないと」

 

 そういうものか。なら楽しみに待っていようかな。

 

「はあ、疲れたあとのご飯っていいよね……」

 

 食堂には和風パスタの良い香りと、他のみんなが作った食事のいい香りが充満している。そこにいるだけで幸せな食卓がやってくるような感じだ。

 実際には巨大な鳥かごのような場所に閉じ込められている閉鎖空間なわけだけど。

 

「いっぱい食べてね。ふふ、これでも昔はあんまり上手にできなかったんだよね。でも、料理も香りに通じるからさ。それに気づいてからは早かったかな」

「才能が活かされてるんすね。料理は科学…… という理念と似た感じっすかね」

「みんな食堂には来るよね……」

 

 それは…… だって、食欲には勝てないよ。

 体が資本だし、元気じゃないと頭もうまく回らなくなるし、できることもできなくなる。寝不足も大敵だ。なにかするなら万全な状態じゃないとね。

 

「ああん? 自動水やり機だあ?」

「えっと、水やり機じゃなくて、水差しなんだけど……」

 

 端の方から聞こえてくる会話に耳を傾けてみる。

 いまだ体調の悪そうな最原くんが、関わったらますます体調が悪くなりそうな人と話しているみたいだ。

 

「水を飲むのも…… 億劫で」

「んなもんシコ松にやらせりゃいいだろ! ベッドの上で大運動会でもすりゃ熱暴走で一周回って回復すんじゃねーのか?ひゃーっはっはっは!」

「入間さん!それは曲解のしすぎですよ!」

「……」

 

 頭が痛いって顔してる……二重の意味で。

 ほら、やっぱり体調悪化しそう。

 でも赤松さんは入間さんと一緒に料理してたみたいで、隣に座ってるし……逃げられなさそうだ。御愁傷様です。

 キーボくんも止めてくれるわけではないもんね。

 

「うっわーなにこれ!」

 

 声のした方向へ向くと、王馬くんがキッチンで大袈裟に騒いでいるようだった。

 

「これおにぎり? ホントに? 岩の塊じゃなくて? こーんな固いおにぎり食べさせられるなんて百田ちゃんかわいそー! ひ、悲劇だ! こんなの悲劇だよ! うわぁぁぁん!」

「殺されたいの?」

 

 シンプルに大惨事だった。

 やっぱりあの2人は合わせちゃダメだろ。水と油だよ。乳化剤がいたとしても和解なんて不可能だよ。

 たしかに春川さんが庇っている手元を見てみると、コンビニのおにぎりみたいにパリッと三角形が見えるけど、そんなの人の好みだろ。

 しかもそう言ってる王馬くんだって巨大なおにぎりをカレーの中で崩しながら食べてるくせにさ。

 見るに、あのおにぎりは巨大さからしてゴン太くんが作ったのかな。で、ゴン太くんがおにぎりとカレーの組み合わせにするわけないし、カレーのほうは王馬くんが作ったと見たよ。

 きっと闇鍋みたいに、互いになにを作るか内緒にして作って合わせたんだろうな。

 なんだ、仲良しじゃないか。微笑ましい。

 春川さんとの関係はまったく微笑ましくなんてないけど。

 

「王馬テメー行儀悪ぃぞ!」

「にしし、悪の総統はマナーに厳しいよ? はい、百田ちゃん。食事中に立ったらダメなんだよー。お婆ちゃんに習わなかった?」

「そもそも盗み食いはよくないよ……」

 

 白銀さんのぼやきは彼らの大音量の喧嘩で届くことすらなくかき消された。

 よくそんなにトムとジェリーみたいなことできるなあ。相手してるだけで疲れそう…… 深夜ハイみたいなテンションで騒ぐ王馬くんを、春川さんたちが相手をしている傍らではゴン太くんが困ったような顔で両者を交互に見ながらおろおろとしている。

 無視してご飯食べてていいと思うよ……

 春川さんも散々才能のことを言及されて疲れてるはずなのに、毎回相手しててすごいよ。ぼくだったら3回目くらいで反論をやめて逃げるから。

 

「はあ、春川ちゃんと遊んでると疲れるね」

「こっちのセリフなんだけど」

 

 うん、多分王馬くんにだけは言われたくないと思う。絡んできてるのは王馬くんだし……

 

「飽きちゃった。ゴン太ー、課題は大丈夫そうなの?」

「うん! もうすぐ生まれてくる虫さんの種類が5種類以上になるんだよ。早くに生まれてくる虫さんは元気いっぱい!」

 

 その中に、イニシャルでGが入る虫いない? 大丈夫?

 

「転子はー、大丈夫だもんねー」

「ええ、みなさん順調みたいですね……転子も頑張ります! 夢野さん…… アンジーさん、見守っていてください…… !」

 

 みんなそれぞれ課題は順調なようだね。それはなにより。

 ぼくの課題は前途多難だけど…… まだまだ時間はあるから問題ない。

 …… それに、どうせまたうやむやになるだろうし。

 だって、ニセモノ問題も事件が起これば課題をこなしてなくても無効になるとかなんとか言っていたし、そういうことだよね。

 ただ、放棄するわけにはいかないから、直接課題をこなすことができないぼくは、しばらく間接的にみんなをリラックスさせる方法を探すことになりそうかな。

 

 こうして、事件もなにもなく、課題が発表されて1日目は過ぎ去っていくのだった。

 

 





 これがいわゆるスランプというやつなのだろうか……
 遅れた上短くなってしまい、申し訳ございませんでした!
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