絶望のデスロード
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あれから、随分と仲良くなった女子陣と体育館に移動して、モノクマの登場も滞りなく終了した。
やはりというかなんというか、モノクマーズもいることから大分ぼく達が置いてけぼりになってしまったけれど、毎回あるコロシアイのルール説明やらなんやらはモノクマも言う通りマンネリ気味なほどまったく同じ内容で逆に安心したくらいだ。
あ、あと初めてあの緑のモノクマーズ…… モノダムだっけ? が話すのを聞いた。
話せないんじゃないかとか、実はあれこそが監視カメラの役割をしてるんじゃないかなんて思っていたから拍子抜けだったかな。
あと、今回も見せしめはなかった。
初代以降見せしめはあったりなかったりするけれど、基本重要人物が削れることはないし、みんないい人達だからあまりそういうのはしてほしくないのが本音だな。
個性豊かなのは初対面で分かってるし、せめて仲良くなる楽しみがほしい…… いや、削れることを今から考えるのはよそう。不謹慎だ。
ぼくなんかには到底できない勇気ある行動を取る赤松さんや、百田くん。茶柱さんに、ゴン太くん。
あのモノクマに口ごたえするだなんてぼくには恐ろしくてできないけれど、それをして 「コロシアイをしないって精神は大事だよね!」 なんて言葉を引き出す赤松さんは尊敬する。
だってぼくにはそんなことできないから。
最初はモノクマに対しても反抗してやろうとは思っていたんだ。
でも、できなかった。いざ目の前にしたら全然体が動かなくて、一歩だって踏み出すことはできなかった。
モノクマはそんなぼくを見て笑ったような気もする。それでも、動けなかった。
そして、その後に続いた 「だってそういうやつらがコロシアイに手を染めて行くのが面白いんだから」 という直球な言葉にちょっとした罪悪感を抱き、ぼくはそっと目を伏せた。
ぼくは生放送を楽しんでいた側の人間ではない。けれども、〝 ダンガンロンパ 〟が好きなことは紛れもない事実だからだ。
誰とも目線を合わせることができなくて、やはり反発の声をあげたりすることもできなくて、唯一自分が〝 ダンガンロンパ 〟というものを知っていることも言えなくて…… ただ波が引くのを待つように床を見つめていた。
ぼくはなんて弱虫だろう。
普通なら、赤松さんみたいに励ましたりするんだろうけど……
ぼくはただ、疑われるのが怖いだけなんだ。
たとえぼくが本当のことを言ったって、モノクマはなに食わぬ顔で演技を始める。そしてぼくがまるで首謀者かのように振る舞い、孤立させてこようとするだろう。
確か初代の公式IFがそんな流れだったはずだ。
戦場さんや苗木くんはそんな状況でもみんなの信頼を最終的に得ることができたが、ぼくはまず最初の時点で耐えられない。
動揺して、余計な嘘まで吐いてますます疑惑が深まるに決まっている。
大体知りすぎているんだ。なにか口走ったらそれこそ終わりだ。
疑われてしまえば身の潔白を証明することなんて、できない。それこそ初代の4章のように死をもって、でしか。
さすがにそんな勇気は持ち合わせていなかった。
そうやってぐるぐると考えているうちにみんなはモノパッドでコロシアイルールを確認し、これからの方針を考え始める。
ルールは大体いつもと一緒だ。モノパッドは壊しちゃいけないし、校則違反をしたらモノクマーズの乗っている殺人兵器〝 エグイサル 〟に処分されてしまう。
そのふざけた名前とは違い殺傷性は高いだろう。ドシンドシン音させてるし…… まあ、使われることは滅多にないだろうけれど。
だっておしおきとは違って画面映えしないだろうし、ダンガンロンパ側としてはなるべく使いたくないんじゃないかな。
「香月さん、大丈夫…… ?」
「あ、えっと、大丈夫…… だよ」
ありがとう、最原くん。
ぼくが黙っていて気になったんだよね。そうだよね。
あんなに赤松さんが希望を持たせてくれているのに、まったく駄目だな。
そして話し合いは進み、みんなが前向きになった。
怪しい場所。出口の場所。
そんなもの見つけられる場所にあるはずがないと思っていたけれど、ゴン太くんが…… あの最初に出会った裏庭でマンホールを見かけたと言ったからだ。
確かに他の場所にはマンホールみたいなものはなかったし、怪しい。
出口なんてあるわけない。ぼくはそんな固定概念で意識から外してしまっていたようだ。
けれど…… 出口なんて都合の良いものが用意されているのか?って思うのは変わらない。
きっと地下があったとしても出口はだまし絵だったとか、迷路だったとか、そんな展開になるだろう。
そんな未来が想像できるためすごく気は進まないが、ゴン太くん達に続いて最終尾でついていく。
これでついていかないのではロボットよりも空気が読めない。
内心どう思っているかは別としてさ。
天海くん、最原くん、赤松さんがその場に残って話し合うのを横目にぼく達は裏庭へと向かった。
裏庭に入り、後三人を待つ。
暫く待っていると天海くんを先頭に最原くん、赤松さんと入って来たのでみんなの視線が一斉にゴン太くんへと向いた。
「みんな揃ったみたいっすね。それで…… 問題のマンホールはどこっすか?」
「えっと、あの草むらの中だよ」
「あー、確かに」
「草むらの中に大事な穴ってか! 女の体と変わらねーな!」
それは、体格の大きなゴン太くんも余裕で入れそうな、大きなマンホールだった。
でも金属の大きさを考えると持ち上げるのも大変なんじゃないかなって。
みんなが揃ってスルーした入間さんの発言を、ぼくも聞かなかった振りをして頷く。
「うわー、このマンホール重そうー。持ち上がるのー?」
「ボクがやってみましょうか」
そう言ってマンホールに近づいて行くキーボくんを見守る。
ロボットなんだし、かなり力はあるんじゃないかな。あ、でも学ラン風の装甲があるとはいえ、ロボットでもスリムなほうだから持ち上げてもバランス取るの大変そうだな…… ちょっと支えてあげたほうがいいのだろうか。
「クッ、ぐぐぐぐ…… ! 残念です。ビクともしません」
「え? ロボットの力でもビクともしないのー?」
「ああ、その点に関しては安心してください。ボクの腕力は、ちょっと力持ちの老人ぐらいの設定です」
「ショボい設定だな!」
支えるとかそれ以前の問題だったみたい。
キーボくんはマンホールに手をかけ持ち上げようとしてたけれど、1ミリも持ち上げることなくそのまま諦めてしまった。
そんななんでもないような声で 「すみません」 とか言われても…… 期待しただけがっかりというか…… 合いの手を入れているアンジーさんや入間さんもどことなく呆れた顔…… はしてないね。
アンジーさんって喜怒哀楽のマイナスの部分を全然見せないけれど、内心ではどうなんだろう。ちゃんと呆れたり悲しんだり寂しくなったりできるんだろうか。
表情だけだと分からないから、いつの間にか追い詰められていたりして…… そんなことにならなければいいけれど。
ああ、ぼくが言えたことじゃないか。
出口なんてないだろ、なんてネガティブに考えている暇があるならみんなを信じてみるってことくらいしないと。
キーボくんの腕力の設定が、試作中に起きた悲劇とやらのために低く設定されたらしい新事実が明らかにされたりしたが、結局はゴン太くんがマンホールを持ち上げることになった。
「さっき覗いたときは持ち上げられたから、きっと大丈夫だと思うよ」
それを早く言って欲しかったよね。
……〝 早く言って 〟なんて言ったら、さっき茶柱さんとやっていたように早口言葉になるだけなのかな?
「へっ!?」
ゴン太くんはマンホールに近づくと軽々と、まるで汚い雑巾を持ったときみたいに左手の指先だけでマンホールをつまみあげた。
いやいやいやっ! そのマンホール、きみも通り抜けられるくらいの大きさがあるんだよ? その大きさの鉄の塊だよ!? それを指先でって…… どうしよう、思ったよりも力が強いぞゴン太くん。
ちょっとミカンとかレモンとかのエッセンスを抽出するのを手伝ってくれないかな。彼なら器具なんてなくても圧搾法ができそう。
ちょっと果物の皮を握りつぶすだけだからさ! 果肉の方は虫さん探索に使わせてあげるから…… なんてぼくが考えている間にマンホールのフタが吹っ飛ばされて行った。
いくら人に当たらないようにっていっても、投げるのは紳士的じゃないと思うよゴン太くん……
ゴン太くんの腕力を 「魔法じゃ!」 なんて言ってる夢野さんや、それを褒める茶柱さん。
キーボくんをからかう王馬くんなんかが口々にお喋りしながらマンホールを覗く。
「暗くて、静かだよね…… なにもいないのかな?」
「え? さっき覗いたときはなにもなかったけど」
「地下道かあ…… ダンジョンだと定番中の定番だよね。あと、地味にパニックホラーに出てきたり」
赤松さんの言葉に返したゴン太くん。
それに地下道という言葉に反応して白銀さんがたとえ話をする。確かに、地下というのはゲームでありがちだ。それが序盤のダンジョンか最難関ダンジョンかは別れるところだけど。
「なにかあったら転子がお守りしますよ! ただし、男死は自己責任でお願いしますね!」
「じゃあ…… 男子はゴン太が守るよ」
そこでそれを言えるゴン太くんは本当にいい人だと思うよ。
「…… 静かすぎる気がするんすけど。モノクマやモノクマーズはどうしたんすかね」
「そうだネ。てっきり、僕らを腐った羽虫のように踏み潰しに来ると思ってたけど……」
よかった、ちゃんと危惧してる人はいるんだね。
アンジーさんは気づいてないって言うし、王馬くんは今のうちだって言うけれど……やっぱりぼくは気が進まない。
明確な監視カメラがないからみんな油断しているのかもしれないけれど、思い出してほしい。
ぼくらみんながそれぞれ自己紹介するまで静観していたモノクマのことだ。
なんらかの手段でこちらの出方を見ていると考えたほうが自然だ。
絶対泳がされている。というか、希望を抱かせて突き落とすのが目的だろう。
みんながやる気に満ち溢れているから、なにも言わないけれど。
女子が先にハシゴを降りて地下道に入ることになった。
先頭は守ると言ったとおり茶柱さんで、順次に女子が降りて行く。
途中入間さんが赤松さんのパンツを見てからかうというハプニングがあったが、最原くんが真っ赤になる被害だけで済んだ。
赤松さんにとってはとんだ災難だよね。
「想像してたのよりも広いな」
ポツリ、と星くんが呟いた。
それだけで少し音が反響しているようで、小さな呟きだったのにもかかわらずやけにはっきりと聞こえる。
「おっ、やっほー! やっほー! おお!」
それに目を輝かせた王馬くんがコダマが返ってくるのを楽しむ。呑気だなあ。
「なに、ここ」
「工業用の通路じゃないかしら。この学園は古い工場の跡地にあるのかもしれないわね」
「それが今も残ってるっつーことか」
「ああ、敷地が広いのも地味に納得というか……」
春川さんの疑問に東条さんが軽い考察を交えて答えると、百田くんが広い地下道を見渡しながら頷いた。
敷地が広いだけじゃ、助けも来ないし気づく一般人すら誰もいないという説明はつかないと思うけど…… よっぽどの田舎でも中々難しいだろ。
「それよりも…… あれ、みんな気づいてるっすよね。親切に出口が書いてあるっす」
「…… 親切なんですか? わざわざ出口なんて書いて怪しくないですか?」
怪しいよね。罠以外あり得ないと思うけど。
ぼくはやっぱり行きたくない。なによりも、足が竦む。なせだか行ってはいけない気がする…… ぼく、別にトンネルにトラウマなんてないはずなんだけどな……
「ま、とりあえず行ってみるっす。ここで立ち止まっていても状況は変わらないんで」
「う、うん…… そうだよね。やらなくちゃ分からない。希望を持つことに越したことはないよ」
天海くんに最原くんが前向きに返し、赤松さんは嬉しそうに 「こんなに〝 超高校級 〟が揃っているんだから大丈夫」 と断言する。
「おう、赤松とは気が合うな! オレの言いてーこと先に言われちまったぜ! 記念にハグでもするか?」
「…… ううん、やだ」
はっきり断るなあ……
「どさくさに紛れて当ててもらおうとしましたね? これだから男死は…… !」
その発想が真っ先に出てくるのもどうかと思う。
あれかな、ハグってアメリカンなスキンシップみたいな? 宇宙飛行士なだけあって海外留学が長いとかあるのかな。どうだろ。
…… とまあ、みんなでワイワイと騒ぎながらトンネルの中に入って行った。このときまでは確かに希望を持っていただろうね。
きっと大丈夫。
きっと助かる。
きっと出口がある。
そんな希望。
希望と絶望はダンガンロンパの永久のテーマと言ってもいい。
つまり……
「泳がされてるだけ…… だと思うけど」
「ネガティブなこと言うと本当にネガティヴになっちゃうと思うよ。私も、キャラになりきるとき言葉とか気持ちから入るんだけど…… って、地味に自分語りだね。ごめんね」
聞かれてた。
「ううん、ごめん。大丈夫…… ちゃんと付き合うよ」
「言葉は一番簡単な変身の魔法じゃぞ。MPいらずじゃがムラが激しい。あまり多用するでない…… なんでこんなに階段があるんじゃ……」
うう、いっぱい聞かれてる……
トンネルから少し上に行く階段があり、それを登っていく。ハシゴで降りたよりも上には行っていないので、まだ地下道のはずだ。
「ううん、大丈夫。大丈夫。みんなで力を合わせればきっとこんな罠も…… !」
階段を登り切ると、そこはトラップだらけのダンジョンになっていた。
重い鉄格子をみんなの力を合わせて押し開け、功を焦って走り出した赤松さんが足場を踏み外す。
いや、足場が落とし穴のように開いたんだ。
落下して行く彼女に手を伸ばした最原くんが一緒に落ちていき、いきなり二人消えてしまった。
「赤松さん! あ、て、転子がお守りするって言ったのに…… !」
「ね、ねえ大丈夫だよね? これでし、死んじゃったら…… 地味に笑えないよ」
「ちょ、ちょっとぉ…… こんなの聞いてねーよぉ……」
「大丈夫よ。この空洞、滑り台のようになっているみたい。これなら怪我もしづらいと思うわ」
「あくまで出口に行かせないための罠ってわけか……」
星くんが結論を言って、そのまま進む。
みんな赤松さんが落ちて行く場面は見ていたからその周辺を大きく跨ぐかジャンプして通過。その後も慎重に歩いていけば無事に渡りきることができた。
「っとぉ、はっ!?」
そして渡りきったあたりでプロペラのついた爆弾が飛んで来た。
それを避けようとバックステップで下がった百田くんが、先ほどまでは開くことのなかった二番目の床板の下に落ちて行く。
炎に模した布が下からの風で捲り上がり百田くんの視界を塞ぎ、そのまま下へ。
爆弾を避けるにも場所は限られ、次から次へと来る罠に、分かりきった仕掛けにさえ引っかかって脱落する人が続出。
それを終えても上から降って来た檻に捕らえられる人、ジャンプして近づくと移動速度が異常に上がるリフトなどによりみんな落ちていってしまった。
運動神経の良さそうな東条さんや星くん、ゴン太くんや茶柱さんも誰かを助けるためや巻き添えを食らって脱落してしまった。
運動が得意だなんてないのに、なぜぼくはこうしてリフトの前にいるのか…… 答えは出ない。
「たはー、張り切ってたくせに皆貧弱だなー」
「仕方ない、よ……」
「なーんか、向こう側にゴールって見える気がするけど…… 香月ちゃん行けそう?」
「……」
「ねえ、返事くらいしてくれない?」
「ごめん……」
「あーあ、やる気でないなぁ……」
王馬くんは何度かみんなが挑戦していたのを見てかリフトの動きを分析しているみたいだった。
「香月ちゃん挑戦してみなよ」
「えっと…… でも」
「ほらほら、いつまでもここにいるつもり? やるなら次また挑戦したときにためになる行動したほうがいいよ」
「わ、分かったよ……」
王馬くんはどうしても分析をしたいらしい。
まあ、ぼくの無様な動きでリフトの動きを見切れればいいけれど。
「よっ、とと…… 乗った!? ああ!?」
少し離れた位置にあったリフトはすぐに動きを早くし、ぼくの足元に滑り込んで来た。結果、乗れたがあまりにも勢いが良すぎてバランスを崩して下に落ちる。
「……」
気がついたら最初の地下道に戻っていた。
しばらく待って、王馬くんが近くの壁から排出される。
壁の穴は一方通行みたいで、こちら側から叩いても引っ張ってもビクともしない。退場専用のようだ。
「沈痛な雰囲気に支配されてるね! まるで大コケしたゲームの打ち上げ会場だよ!」
そして、待ってましたとばかりにモノクマが登場した。
「うわーみんなボロボロねー? 可哀想ー、同情しちゃうわー」
「もー、それにしても埃っぽいところだね。カシミア肌のオイラには耐えられないよ」
「その点モノダムはいいよな! 最初から安くて醜いボディだもんな!」
「モノダムもなんか言い返したらどうや? そのほうが殺伐として盛り上がるで?」
モノファニー、モノタロウ、モノキッド、モノスケと続く。
まあ、他がぬいぐるみるっぽいのにモノダムって子だけメカメカしい見た目してるからなあ。
「ッチ、ゾロゾロ出て来やがった。気づかれちまったみてーだな」
「気づいた?はて?」
最初から見てるって分かってたと思うけれど。
泳がされてるだろうってのは思っていたから、別に驚かないよ。
「オマエラが脱出しようとして失敗することくらい、ボクはとっくにお見通しだったけど?」
「オ、オイラも…… どっちかっていうと、比較的お見通しがちだったよ」
「…… それは嘘やろ」
そんな風に言って嘘じゃないわけがないよね。
「まあ? 何人かは最初から分かってたみたいだけどね。オマエラが届かない出口に必死に手を伸ばすのが見たくて黙っててあげたけど!」
モノクマと目が合い、すぐさま逸らした。
バレている。最初から予想がついていたことを。
「やっぱり罠だったんだ」
吐き捨てるように言った春川さんに、仲間がいたと少しだけ安心した。
「でも、出口がないわけじゃないんだろ?」
「んん?」
「あら、正解よ! 出口はちゃんとあるわ〜」
帽子を深く被り、最原くんがモノクマを睨む。
…… 最原くんそんなことできるんだ。気弱そうだけど、やっぱりすごいな。
「そうそう、出口はあるよ? でもそれに辿り着けるかはオマエラ次第ってわけ! ま、精々納得できるまで何度でもトライすればいいよ! アーハッハッハッハ!」
「きゃーはっはっは!」
モノクマの真似をするようにモノクマーズも高笑いし、その場から消えてしまう。
「んあー、頑張れば辿り着けるらしいぞ?」
「テメーはバカ代表か! あれだけ余裕ってことはぜってー辿り着けねーんだよ!」
最初とは打って変わって、みんなマイナス思考だ。
「だから嫌だったのに……」
「えっ、香月…… さん…… ?」
「あ」
声に出ていたようだ。なにやってるんだろう。
「そういえば、最初から分かってた人がいたんだっけ?」
「え、あ……」
王馬くんがわざとらしく 「春川ちゃんもそうみたいだよねー。あれ? 香月ちゃんももしかして……」 なんて言うものだからみんなの視線がこちらに集まる。
だから、嫌なんだってば。こんな風に一斉に見られるのは苦手なんだよ…… やめてよ……
「だ、だって…… ぼくらの自己紹介が終わるまでわざわざ待ってたくらいなんだよ? 絶対どこかで盗み見てるんだって…… なのに、ぼくらが出口を見つけて脱出しようとするのに気づかないなんておかしいでしょ? 泳がされてるとしか…… 思えなかったよ」
「ああ、だから地味に嫌そうだったんだね」
「ぬぐぐ、合理的に考えればモノクマたちがそうするのも納得できてしまいますが……」
ああ、いけない。
ここは、それでも挑戦するのが王道のはずだ。なのに、妙な説得力があるのか納得されてしまう。
「でも…… まだ一回失敗しただけだ」
最原くんが言った。
「うんうん! モノクマの言うことなんか関係ないよ。何回だって挑戦しようよ! 私はあんなヤツに負けたくない。みんなだってそうでしょ? それに、私みんなにも負けてほしくないんだよ! コロシアイなんてさせようとする誰かに屈しちゃだめだよ!」
赤松さんが士気を上げる。
「〝 超高校級 〟がこんなに集まる機会なんて滅多にないからね。きっと協力できれば、なんとかなるかもしれない」
最原くんも、諦めていないのか。
「みんな一緒に外に出るんだよ! それで、みんな揃ってここから出たら…… 外で友達になろうよ」
「…… 友達」
どうしよう、フラグにしか聞こえない。
それ、今友達になるんじゃだめかな…… じゃないと、二度と、永遠に友達になれないまま終わる人が出てきそうで…… 嫌だ。
誰か、ぼくのこの後ろ向きな考えをぶち壊してくれ……
「うん、こんな大変な目に遭ったんだからみんないい友達になれると思うんだ…… どうかな?」
みんな口々に賛同していき、下がっていた士気も元どおり。
でも、ぼくには目の前にニンジンをぶら下げられているようにしか思えない。それこそ永遠に届かない、夢。
自己紹介のときにはまだコロシアイではなく、おまけモードになることも考えていられたので楽観視できたが、今はそうもいかない。
必ずこの中の誰かが死に、そして誰かが人殺しになるのだ。
これが生放送されているのか、それとも秘蔵されているのかは分からない。でも、これが〝 ダンガンロンパ 〟というコロシアイゲームである限り、仲間の死ぬ姿を何度も見ることになるのだ。
その考えがどうしても頭をよぎってしまう。
「うん、みんなで頑張ろう! さっきは失敗したけど、次こそ上手くいくよ!」
王馬くんが真っ先に言い、二度目の挑戦が始まった。
「王馬くん…… どうして」
ねえ、ゴールの文字が見えていたのは確かだけれど…… ぼくはリフトに乗ったときに気づいたよ。
あの文字、ただのダミーだったじゃないか。
あのあともずっとずっと道が続いていた。
仮に、誰かが最後まで辿り着いても意味がない。
赤松さんの理想のためには、全員が脱落することなく脱出しなくちゃいけない。
本当に、分からない。
「な、なんでぇ…… ? どう考えてもハッピーエンドの流れだったのにぃ…… !」
やはりというか、失敗した。
今度はみんなダミーのゴール手前まで行ったが、やはりそこからは難易度が急上昇していてミスが目立ち始めた。
何度やっても、何度やっても、我慢して参加し続けても、ヘトヘトになるだけで一向に進まない。凡ミスまでチラホラするようになる始末。
もうやってられない。
十度目になって、ぼくは音をあげた。みんながぞろぞろと懲りずにトンネルに向かうのをただ一人、見送った。
もうやる気なんてなくなっていた。所詮元一般人。先の見えないことを積極的にやれるほど根性はないし、少しは休むように説得できるほど協調性があるわけでもない。
ただの我が儘だけれど…… そうして、次々と戻ってくるみんなを隅っこに座りながら眺めていた。
「ど、どうしたの? 香月さん! 足でも挫いた?」
「最原くん……」
「怪我したの!? ならゴン太が背負うよ! 一緒に行こう!」
「ゴン太くん…… ありがとう。でも、いいんだ。怪我なんてしてないから」
俯いたまま、縮こまる。
「え、じゃあなんで……」
「…… 疲れちゃったから、休もうと思って」
体感だけでもかなりの時間が経っている。
いい加減、潮時だろう。
「違うでしょ? 香月ちゃん。素直になりなよ…… オレだって、もういい加減にしてほしいって思ってたところだし」
「え、王馬くん?」
「別にさ、赤松ちゃんが諦めないのはいいんだけど、それを押し付けてくるのは脅しと一緒…… ってことだよ」
言って、くれるんだね…… 代わりに。いの一番に諦めたぼくが言うべきことなんだろうけれど。
というより、もしかしてわざと…… か?
「無理だって分かってる状況で諦めちゃダメって言われても、やっぱりしんどいだけなんだよね。赤松ちゃんの言ってることは正論だよ? モノクマに負けたくないのも分かるよ。でもね、疲れてるのに少しも休むことができなくて、文句も言えなくて、無理難題に挑戦し続けるなんて拷問と一緒だよ」
「ちょっと! そこの男死は勝手になにを言ってるんですか!」
勝手なんかじゃないよ。
ごめん、やっぱりぼくも言うべきだよね。
「赤松さん…… もし、もしにだよ? 赤松さんだけ出口に辿り着いたとしても、そこで何時間も、何日も全員が辿り着けるようになるまで待てるの?」
「えっ」
「全員で脱出するって、そういうことでしょ? それとも辿り着いたらあとはさっさと外に出るの?」
「バカ! テメー赤松がそんなことするやつに見えんのかよ!」
見えないよ。でもだからこそ言ってるんだよ。
出口に辿り着いた、その後のことをちゃんと考えてくれないと。
「それにさ…… 疲れた状態で挑み続けてもなにもいいことはないよ。やるにしても、今日はみんな色々あって疲れてるし…… 少し休んだほうがいいって」
見たところ、真宮寺くんや夢野さんも疲れてきているようだし。
「休むって、どこで休むつもり?」
「泊まるための…… 学生寮があったわね」
春川さんの質問には東条さんが答えてくれた。
「うげーっ! あんなとこに泊まんのか!?」
「贅沢は言ってらんねーだろ。俺がいた監獄よりは、よっぼどマシだぜ」
「なんだか、地味に肝試しみたいだね……」
「ま、仕方ないからガマンするしかないよねー。で、このあとはどうする? 一応まだ校則の夜時間とやらにはなってないし、夕食にでもする?」
「夕食にするなら用意させてもらうわよ」
「じゃあ、そうするっすか。明日は食堂の開くらしい朝8時に行けばいいですし」
トントン拍子に話は進み、その場でぞろぞろと食堂へ向かう。
校舎に戻ってから時計を確認すると、午後8時となっていた。
「ま、出口が使えなくても別の方法を考えればいいしね」
「それってコロシアイのことっすか?」
「へー、キミはそういう解釈をするんだ…… にしし」
周りを探っている感じのある王馬くんと、赤松さんと並び先導している気のある天海くんが意味深な会話をしながら食事していたが…… ぼくは気にしないことにした。
これ以上気まずくなりたくない。
「ねえ香月ちゃん。あんまり後ろ向きなことばっかり言ってると、もしかしたらコロシアイしようとしてるんじゃないかって思われるから気をつけたほうがいいよ。みんなを後ろ向きにさせて自棄っぱちにさせようとしてるようにも見えるからさ!」
宿舎への帰り道、食事中に忠告されたことを振り返る。
茶柱さんがすぐに見咎めてくれたけれど、その言葉はぼくに突き刺さった。
そうか、弱音を吐いちゃダメなのか。
そうか……
みんなを頼らないようにしないと。
これ以上、迷惑をかけないように。
「芳香浴したい……」
追い詰められ、しんどくなった内心で溜め息を吐く。
ああ、早く研究教室が開かないものか。
そうしたら、ずっと一人で迷惑もかけずにいられるのに。
今回から一章開始でございます。
原作のタイトル演出みたいなのがやりたいなって思っているのですが、なかなかうまくいきませんね。
・ネガティブ
錆理論の主人公がいかに鋼メンタルだったか分かりますね。