月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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スプランクラーの雨が降る

「嘘……」

 

 誰かが呟いた。

 ぼくもその気持ちは痛いほどに分かっている。嘘だったらどんなに良かっただろう? さっきのバックドラフトも、焦げ臭い香りも、目の前の現実も、全て嘘に変えてしまえたら良かったのに。

 

「……っ最原くん!」

 

 赤松さんが部屋へと入っていく。

 せめて、最原くんがあの中にいなければいいのにと願った。

 けれど、彼は風邪で寝込んでいたから、その望みも薄い。分かっている。分かっているよ。またぼくは失敗した。ぼくが持ち込んだ精油が原因かもしれないのだから、またぼくのせいかもしれないんだ。

 たとえ誰かに体良く利用されたのだとしても、ぼくが原因であることには変わらない。

 

 ……変わらないんだ。

 

「無事か、ハルマキ」

「……ありがと」

「よし、終一を探すぞ」

 

 百田くんと春川さんは短いやりとりの後に部屋に入っていく。これも赤松さんと変わらず。素早く彼らは最原くんがいるかいないかを確認しに行った。

 まだチラチラと燃え上がる火に怖気付いて、ぼくはそれができない。

 

 やがて、部屋の中にスプランクラーの水が降り始めた。

 

 

 

 

 

ー!! 

 

 

 

 

 

「た、大変なことになっちゃったわねー! うう、グロいわ。オロロロロ」

「まだなんも見てへんやん!」

「スプランクラー、作動サセタ。安心シテ中ニ入ッテ」

「グッチャグチャでドロッドロの死体はまだかぁ!?」

「オイラたちなにしに来たんだっけ」

 

 それと同時に迷惑な5匹もやってきた。

 これはもう、アナウンスこそ鳴っていないけど最原くんの末路を表しているとしか思えない。

 確認をしない限りシュレディンガーの最原くんだけど……短い悲鳴。赤松さんの声だった。

 箱が開けられて、結果が確定してしまったみたい。それは絶望を表す悲鳴。彼の……最原くんがどうなったかを明確に表す音だった。

 それを聞いて、外にいたみんなも本当に〝それ〟が起きたのだと確信していく。

 

「あ、あの……香月さん。ありがとうございます」

「ううん、茶柱さんが無事で良かった」

 

 彼女を押し倒した状態で難を逃れたので、まだぼくらは床に伏せたままだった。起き上がった茶柱さんからお礼を言われて、ぼくは嬉しいやら複雑な気持ちやら……優しく微笑みたいのに、苦笑いになっちゃったかも。

 起き上がって、ぼくは白銀さんたちの隣に。茶柱さんはアンジーさんの隣へとそれぞれグループに戻った。まあ、そんなもんだよね。少し気まずい。

 茶柱さんもぼくも、なんとなく距離を縮められなくてそのままになってしまっている。お互い、悪いわけじゃないのにね。人間関係って複雑だ。

 

 そうしていると、赤松さん、百田くん、春川さんが入っていった部屋から声があがり、同時に学園全体のモニターからお知らせを意味する音が響き渡った。

 

「死体が発見されました! 一定の捜査時間のあと、学級裁判を開きます! いつものようにちゃっちゃと捜査してくださーい!」

 

 放送が入り、ぼくは顔を覆う。

 既に泣きそうになりながらも、立ち上がり、部屋へフラフラと向かっていった。

 捜査、しなくちゃいけない。捜査して、犯人を捕まえて、それでまたおしおきがあって、また明日が来るんだ。

 しっかりしろ、ぼく。挫けるな、ぼく。ちゃんとやらないと。探偵の最原くんがいなくなった以上、みんなとの話し合いが重要になる。だから、ちゃんと捜査しないといけない。

 今までちゃんと捜査していなかったわけではないけど、今回は余計にだ。

 失敗は絶対に許されない。

 

 探偵は殺されない。

 今まで築かれてきた、そんなダンガンロンパのお約束がぶち壊された。

 

 だからこそ黒幕の予想がつかない。

 きっと黒幕は今までにない展開とやらをやってみたかったとか、そんな思惑で動いているんじゃないか? 

 一番最初の星くんのときもそうだけど、この才囚学園の事件は不可解な点があまりにも多すぎる。黒幕が自ら動いて暗躍しているとしか思えないんだ。

 

「……大丈夫っすか?」

「うん、行こう。捜査しなくちゃ」

「スプランクラーも止まったみたい……火は消えたみたいだね」

 

 声をかけてきた天海くんと、部屋を覗き込んだ白銀さんと一緒に部屋へと入る。

 果たして、そこには信じたくなかった。見たくはなかった。そんな光景が広がっていた。

 

 ベッド下の床にうつ伏せに倒れた体。靴も靴下も履いておらず、頭のほうは火の手が酷かったのか、誰だか分からないくらいにまで焼かれてしまっている。

 背格好から辛うじて最原くんかな? というのが分かる程度だ。

 

 そして彼の頭の付近に割れた花瓶の破片。あの、赤松さんの研究教室にあったという大きな花瓶が割れて彼の下に散らばっていた。

 いくつか集まったモノクマの置物は棚に残っているものと、落ちているものがあるがどれも炎に舐められたのか半分溶けていたり酷い有様になっている。

 

「はーい、オマエラお待ちかねー! モノクマファイルー! 電子生徒手帳をアップデートしたからしっかり見るクマ!」

 

 わちゃわちゃしているモノクマーズをかき分け、モノクマが姿を表してそう言った。

 傍で電子生徒手帳が機械的な電子音をあげたので、ぼくらはそっと手帳を起動させる。

 

 

 

【モノクマファイル3】

 

 現場は最原終一の部屋。

 死亡推定時刻は午後10時半頃。

 死体発見時刻は午後11時15分頃。

 

 最原終一の部屋にて、床にうつ伏せに倒れた状態。全身に火傷を負っており、特に頭部、背部が焼けただれ、人物の識別も満足できない状態である。

 残り人数から消えた人物がいないことから、被害者は最原終一と思われる。

 

《コトダマ モノクマファイル3》

 

 

 

 こういう人物の識別も危ういとき、まず疑うべきは被害者の入れ替わり……なんだと思うけど、別に最原くんにそっくりな双子とかもいないし、みんなもずっと赤松さんの演奏を聴いていたから彼を殺しにくるタイミングなんてなかったはずなんだよね。

 いったいどういうことなんだろう……やっぱり、疑うべきはなにかの行動による自動的殺人あたり……かな。

 

「捜査しようか」

「ええ、やるっすか」

「みんなそれぞれ解散しちゃったけど……裁判は朝じゃなくてこのあとだよね。わたしはともかく、2人は眠くない? 大丈夫?」

「大丈夫、ぼくはお昼寝したし」

「俺も平気っすよ」

「そっか……なら始めちゃおう」

 

 そうして、探偵不在の捜査が始まった。

 

 

 

 

 




短くてごめんなさい!思いっきり寝落ちしてました!(言い訳)
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