「えっと、失礼します……」
怖い。
伸ばした手が震えた。
星竜馬くん、夢野秘密子さん。ぼくらは二回もクラスメイトの遺体を調べて、捜査してきた。冷たくなった。あるいは血塗れの、その体を。
それだって抵抗があったというのに、今度の遺体は焼死体だ。
顔は誰だか分からないほどに焼け、背中だって波打つようにケロイド状に焼かれている。真っ黒焦げな遺体。
辛うじて人の形をしていて、そこにあるからという理由だけでやっと最原くんだと分かる程度の酷い状態だ。
肉が焼け焦げたような、ゴムが焼けたような酷い臭いが辺りを充満し、炎独特の残り香がぼくの鼻を掠めていく。
それでも、やらなければならい。
どれだけ泣こうが、喚こうが、捜査を放棄しようが、時間は過ぎ去っていってしまう。そして、その時間内に行動に移さなければ、ぼくたちは学級裁判でなす術もなくクロの一人勝ちによって殺されてしまうんだ。
「ごめんなさいっ」
だから躊躇いながらも、気持ち悪くなりながらもしゃがんで遺体を覗き込む。
勇気を出して、これ以上みんなの中から犠牲を出さないためにも。ぼくは捜査をして真実を暴かなければならない。
それがぼくにできる――唯一のやり方だからだ。
「やっぱり顔の判別は無理」
「身長は最原くんぐらいっすけどね」
「うん、でもモノクマファイルだとこれが最原くんだって断定されているわけじゃないんだよね。地味にそこは誤魔化されてるから、モノクマがなにか隠したいことがあるのかも。これ、ここの記述のことだよ」
【モノクマファイル3】
現場は最原終一の部屋。
死亡推定時刻は午後22時半頃。
死体発見時刻は午前23時15分頃。
最原終一の部屋にて、床にうつ伏せに倒れた状態。全身に火傷を負っており、特に頭部、背部が焼けただれ、人物の識別も満足できない状態である。
残り人数から消えた人物がいないことから、被害者は最原終一と思われる。
「こういうのって最初は入れ替わりトリックを頭に入れたほうがいいんだけど、わたしたちの場合、クローズドサークルで最大人数も決まっちゃってるから……それは考えにくいんだよね」
そう、今回に関しては事件が起きていただろう時間には全員、校舎ニ階の「超高校級のピアニストの研究教室」にいたんだ。全員にアリバイがある以上、真実候補は自動化された事件や、もしくは事故くらいしかなくなる。
事故だった場合、クロがどうなるかなんて考えたくもない。
正直、自分がクロ候補になるんじゃないかと怯えているくらいなんだ。
「オレはここにのこる。あと一人、誰か残って見張りを手伝ってくれ」
「そ、それならゴン太がやるよ! あんまり頭も良くないし、役に立つならそっちのほうがいいと思うんだ」
百田くんとゴン太くんが部屋の入り口に立つ。他のみんなはそれぞれ調べに行ったり、いったん自室へ帰ったりするみたいだった。
「とにかく、遺体で分かることはごくわずかっすね」
黒焦げ死体のそばにしゃがんでいた天海くんが立ち上がる。
ぼくもそれは同意見だった。
「ここに飾ってあった、元々赤松さんの研究教室にあった花瓶が割れてるっすね。近くにおいてあったはずっすけど、見事に遺体の下敷きっす。それから、遺体付近の床に残った液体が少しヒリヒリするような……」
「え、本当? スプリンクラーが作動したから、なにかあったんだとしても薄まっちゃってるだろうね」
〈コトダマ 床に溜まった液体〉
それから、ぼくたちは遺体以外も調べ始めた。
「換気扇は止まってるよ」
「あれだけつけておいたほうがいいって言ったのに……」
「この個室って、ほぼ密室だからあんまり換気扇をつけっぱなしにしていても気圧が低くなってきちゃって快適とは言えないんだよね……地味に」
ベッドで寝ていたのならなおさらか。
寝てしまっていては適度な換気というのもできなくなってしまうからね。その辺、この個室はほぼ密室みたいなものだから余計にそうだろう。
「それからこっちにある溶けた瓶とか、あとは割れた花瓶の破片が気になるっす」
「あ、多分その溶けてる瓶は、ぼくが最原くんにあげたアロマだと思う……」
そして、火事の原因のひとつかもしれないわけだ。
罪悪感を抱きつつもいったんはそれを隠す。いつものことだけど、ぼくは隠し事ばかりだな。
そうして、まだまだ捜査は続いていくのだった。
相変わらず短くて申し訳ない限り!!