月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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「Who Killed Cock Robin②」

 ぼくは、ほんの少しだけ……ほんの少しだけ疑っている事柄があった。

 天海くんと白銀さんが次々とみんなに聞き込みをしたり、証拠を探しているうちにグルグルと頭の中で〝ある可能性〟が膨らんでいくのを感じている。

 

「大丈夫? 香月さん」

「う、うん大丈夫……」

 

 焼け落ちた死体は正直、直視すれば吐き気を催す程の酷いものだ。

 そんな感想を抱くのも酷いことだって分かっている。けれど、人間生理的に受け付けないものは存在するもので……顔色を青くしてでも必死に証拠を探すしかない。

 

 うつ伏せのその姿。最原くんと同じくらいの身長。

 そこにあるのは最原くんの死体のはず……だ。でもどうしてだろう。どうしようもなくぼくは不安に苛まれている。これは本当に最原くんなのか? 

 

 例えばそう、無印のダンガンロンパでは双子の姉を利用して入れ替わり、江ノ島盾子が身を隠していた。

 5章の身元不明の死体だって、戦場むくろの死体を再利用した罠だった。

 だから、ぼくは不安で仕方がなかった。

 

 ――この死体が、どうして最原くん自身だと言えるのか? 

 

 そんな保証はどこにもなく、そしてこの死体が最原くん以外である可能性も否定しきれない。

 でも、その推測はつまり……最原くんが、探偵様が黒幕側であることを示唆することになってしまうんだ。それを信じたくないから、ぼくはその可能性を必死に頭から追い出そうとしている。

 けれど、どうしても脳裏にチラつく不安が心にもたれかかり、最悪な展開を予測してしまう。

 

「これ……本当に最原くんなのかな」

 

 ポツリと呟いた言葉に、天海くんが目を丸くしていた。

 

「……」

 

 追求はない。

 視線を交差させ、不安に揺れているだろうぼくに天海くんが笑いかけてくれる。それだけで、ぼくもへにゃりと情けない笑顔を浮かべることができた。

 

 ああ、ぼくはやっぱり役立たずだ。

 でも、そうだよな。最原くんとピッタリ同じ身長の人なんていないし……と、そこまで考えて、ぼくは遥か昔に感じる彼女のことを思い出した。

 

 

 ――「はい、私に用かしら」

 

 彼女が、東条さんがまだ生きていたとき。

 ぼくがみんなとクッキーを作って、迷惑と思いつつも夜中に渡しに行ったときのこと。

 

 

インターホンを押すとすぐに東条さんが出てくる。

…… けれど、どこか違和感があった。

首を傾げて上から下を見て気づく。当たり前のことだが、彼女は今ヒールの高い靴を履いていない。なんとなくいつもと違う気がしたのはそのせいだろう。素の身長は恐らくぼくや、最原くんと同じくらいだ。

 

 

 ――そう、確かあのときそう思ったんだ。

 

 

「こんばんは、えっと、こんな時間にごめん……」

「いいえ、まだ起きていたから大丈夫よ」

「あの、これ…… 食べてほしいんだ」

 

 口が回らない。緊張して目が回りそうだ。

 

「これは…… 昼間のお菓子かしら。日頃のお礼、というのなら受け取れないわよ」

「ううん、ぼくが食べてほしいんだ」

 

 

 思い出が蘇る。

 

 

「昼間…… 東条さんはあんまり食べてないでしょ? みんなで作った力作なんだから、一緒に作ったきみにも食べてほしい。それに、ぼくは山ほど食べた」

「…… ありがとう香月さん」

「同じものをみんなで食べたほうが美味しい…… はずだよ」

「そうね、でもこんな時間に食べたら体調管理としてはよくないわよ」

「ぼ、ぼくは食べてないよ? よかったら明日食べてねってことで……」

「食堂はもう閉まっているものね。お腹が空いていても食べられないわ」

「…… うん」

 

 

 次々と湧いてくる東条さんとの話が、会話が、ぼくをその場で立ち止まらせた。心配する二人の声が遠い。

 

 

「ねえ、香月さん。この場で開けてもいいかしら」

「え? う、うん」

「東条…… さん?」

「みんなと一緒に食べた方が美味しいって言ったのは貴女よ」

 

 ぼくがあげたものなのに、こちらにクッキーを差し出す手袋越しの綺麗な指先。いつもの丁寧でお上品な感じとは違って悪戯気に笑う超高校級のメイド。

 

「手で取って食べると思っていたわ。からかってごめんなさい」

「あ……」

 

 そうだ、あのときは口をぽかんと開けてあーんしてもらおうとしちゃったんだだっけ。

 

「ありがとう、香月さん」

「ううんぼくも、改めてこんな時間にごめんね」

 

 手を振って室内に戻る東条さんの姿で、思い出は途切れた。

 けれど、ぼくは大事なことを思い出したんだ。

 

 きっと、ぼくがそれを知ったのは偶然だった。

 ぼくだけが知っている事実。

 

 ――東条さんの身長は、ヒール付きの靴を抜いて最原くんと同じくらい。

 

 焼け爛れた死体を前に、ぼくは涙を零す。

 知りたくなかった。辿り着きたくなかった。そんな推測に、ただ静かに泣いた。

 

 まだ確信じゃない。

 まだ確定したわけじゃない。

 

 でも、確認する価値のあること。

 

 勇気を出すんだ。

 確かめるんだ。

 

 もしこの推測が当たっているのなら、この状況は彼女の死をこれ以上ないくらいに侮辱するものだから。

 ぼくを庇って死んでいった彼女の死を、汚す行いだから。

 

 許すわけにはいかない。そう、許すわけにはいかないから。

 

「香月さん?」

 

 ボロボロとみっともなく涙を流しながら、そっと死体に触れる。

 想像もつかないほどの感触。込み上げてくるものを飲み下して、脇の下に腕を差し入れる。炭化していなければ崩れることはない……はず。

 

 そして確認する。

 そう、この死体が最原くんではないという証拠を、確認する。

 

「……」

 

 嗚咽が漏れる。

 確認した。してしまった。そして確信した。

 

「モノクマ……」

 

 掠れた声を漏らす。

 

「尻尾を、掴んだぞ」

 

 そして泣いたままに無理矢理笑う。

 

「この死体は……最原くんじゃない」

 

 気づいてしまったことを。

 そうして、黒幕が誰だったのかを知って、ぼくは泣いたまま笑っていた。

 

 ――最原くんが、超高校級の探偵が敵だという事実を手にして。

 




誰も原作そのままとは言っておりませんとも。
うぷぷ、うぷぷぷぷ。
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