月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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「Who Killed Cock Robin③」

 

 どうしよう、ぼくはこれをはっきりと言うべきなのか? 

 ぐるぐると頭の中で考えては、けれど結論を出せずにいる。

 

「香月さん?」

 

 心配そうにぼくの顔を覗き込んできた白銀さんにびっくりしたぼくは、少しだけ後退した。

 

「えっと、さっきこれが最原くんじゃないって……」

 

 小声で尋ねてくる彼女に、そういえば口に出してしまっていたなと今更後悔した。上目で天海くんに視線を移すと、こちらもやっぱりぼくを見つめてきている。明らかにさっきの発言を聞かれていた。

 しまったな。本当にしくじった。どこにモノクマの監視カメラがあるか分からないのに、黒幕についてを憶測とはいえ口に出しちゃうとは。

 これを彼……最原くんに聞かれていたらまずいなあ。どうしようか……さっきの真意を天海くんと白銀さんに言うべきか……いや、あんな言葉を聞かれたんじゃ、誤魔化しきれる気がしない。

 証拠だけ見せて、どこか静かな場所で話すことにしよう。

 

「……これを、見てほしいんだ」

 

 見張りの百田くんとゴン太くんは入り口からこちらを見張っている。

 彼らからは位置的にも、ぼくらが死体を囲ってしまえば真実を見られることはないと思う。だからぼくはもう一度死体の上半身を反らせるように、少しだけ持ち上げた。

 

「え」

「うそ……」

 

 天海くんはすぐに目を逸らした。ああ、そうだよね。ごめん、ほとんど火傷で見えないとはいえ、彼に直接見てもらうなんて、天海くんにも東条さんにも大概失礼なことをしちゃったな。

 白銀さんも呟いて、ぼくを見つめてくる。答えは分かっているのに、信じたくないといった表情だった。

 

 ぼくは再び電子生徒手帳を起動して、モノクマファイルを開く。

 

 

【モノクマファイル3】

 

 現場は最原終一の部屋。

 死亡推定時刻は午後22時半頃。

 死体発見時刻は午前23時15分頃。

 

 最原終一の部屋にて、床にうつ伏せに倒れた状態。全身に火傷を負っており、特に頭部、背部が焼けただれ、人物の識別も満足できない状態である。

残り人数から消えた人物がいないことから、被害者は最原終一と思われる。

 

 

「さっき、言ってたよね。モノクマファイルの記述は、被害者を最原くんだと断定する内容じゃない。生存しているぼくらの中から消えたのが最原くんだから、最原くんだと仮定しているだけなんだ。そう、だって最原くん以外のクラスメイトはみんな、赤松さんの演奏会を聴いて、生きてここに来たんだからね。だから最原くん以外にありえなかったんだよ……以前の被害者やおしおきされたみんなを除いて」

 

 ぼくの言葉に白銀さんは「そんな」と口にして、天海くんはなにかを考えるように顎に手を置いて「その可能性は、除外してたっすね」と言った。

 

 当たり前だ。そんな可能性、普通なら思い至らない。ミステリー小説ならいざ知らず、これは、ここは現実なんだ。ぼくらの目の前に映る景色も、死体も、東条さんや星くん、夢野さんや真宮寺くんが殺された事実も、そのときの悲しみも、悔しさも、絶望も、全部全部ぼくらが感じた〝本物〟で、〝現実〟なんだ。

 

 けど、こうして現実に殺人事件と向き合わされている以上は、真実から目を逸らしてはいけない。ぼくらが放り込まれたのは本物の人を使っている点だけが異色の〝ゲーム〟なんだから。

 

 なら、ここで起こることもミステリー小説のように複雑怪奇だったり、人の死を冒涜するような所業も平気でしてくるのだと気付いていないわけではなかった。あのモノクマだもん。

 

 そして敵が最原くんだと言うならば、探偵に憧れ、探偵としてこの場にいた彼の紡ぎ出すシナリオは、彼を主役として動いている。そう、星くんと東条さんのときもあった違和感。

 彼は間違いなく、暗躍し続けている。でも、その暗躍の仕方は少し詰めが甘いと思うんだよね。

 一番最初の事件のときもぼくは黒幕が暗躍しているだろうことに気づけていた。そして、今この場にある死体はうつ伏せになっていたからか、肝心の証拠が消しきれていない。やるなら徹底的に削り取るなり焼き上げるなりするべきだったんだ。

 それをしなかったのは、ひとえに犯人が〝トリック〟による死体損壊にこだわったからなんじゃないかな? 

 彼はあくまで探偵にこだわっているのだと思う。もしかしたら、本格推理小説みたいな物語を描いて楽しんでいたのかもしれない。

 

 疑惑がぼくの中で確信となってしまっているので、どんどん最原くんへの印象が最悪に塗り替えられていく。

 

「天海くん、白銀さん、この事実は学級裁判で言おう。それと、彼が本当に黒幕なのか……このコロシアイの首謀者なのか、トリックを解くのも大事だけど、そっちも調べないと」

「香月さん、まずは順番が大切っすよ。きっとトリックが解けないと、彼を追い詰めることはできないと思うっす」

「ちょっと混乱しちゃった。ごめんね。えっとね、うん。天海くんが言う通り、先にトリックについて調べるべきだと思うよ。ショートカットルートが設定されてる推理ゲームって……ほら、なかなかないよね。小説も漫画も、やっぱり犯人よりも先にトリックだよ。真実はいつもひとつ! って」

 

 ものすごく上手な声真似を披露して白銀さんが困った笑みを作る。

 えっと、その漫画は犯人を指定してからトリックを暴くほうが多いんじゃないかな……

 

「でも、そうだね。追い詰めるのにも証拠を集めないと」

「一応、別の可能性も追っておいたほうがいいっすよ。万が一彼が首謀者じゃなかったら、大変っすから」

 

 もうその線はないと思うけど……心に留めておこう。

 

「……ごめんね、失礼します」

 

 念のため死体の写真を撮って保存する。

 もちろん、失礼のないように布で軽く覆ってだ。大勢に見せる写真なんだから、彼女を侮辱するような行為にならないようにしないと。

 

「それじゃあ、次は聞き込みっすかね」

「今夜なにが起きたのか……みんなの共通認識を確認しておいたほうがいいよね。地味に食い違って覚えていたら、困るから」

「うん、それじゃあそうしようか」

 

 こうして、ぼくらは次は聞き込みに向かうのだった。

 

 

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