月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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マッチポンプ

 ……と、そこでいよいよモニターからチャイムが鳴り響いた。

 

「はいはい、捜査はそこまでだよー!」

 

 元気よくモノタロウが手を上げる。

 今回はどうやらモノクマじゃなくてモノクマーズからの放送らしい。モノクマは一体なにをやっているんだろう? 

 

「いよいよ始まるのね……!」

「もう三回目やんなあ」

「っしゃオラー! このまま六回目くらいまでぶっちぎろうぜぇぇぇ!」

「仲間デ殺シ合ウ……ダメダヨ」

 

 相変わらずまったく統率の取れていないモノクマーズに苦笑いが漏れる。

 こんなことで笑うのもちょっと違う気もするけど、これからぼくらにとっては最終決戦みたいなものだ。どこまでやれば黒幕を引きずり出せるか……分からないけど、なんとか今までの情報を使ってやるしかないんだ! 

 

「あ、もう行かないと行けないんだね」

「うん、早めに行かないと」

 

 赤松さんに返事をして、三人で向き直る。

 

「あれ、三人はまだ行かないの? 早めに行かないとモノクマが叱りに来ると思うんだけど」

「もう少ししたら行くんで、赤松さんは先に行っててほしいっす。あ、もちろんピアノには触らないんで安心してください」

「心配してるのはそこじゃないんだけど……うん、分かったよ。先に行くね」

 

 ちょっと不審そうに見られたけど、さすがにあの話を赤松さんの目の前でするわけにはいかない。先に行ってもらうしかないんだよね。

 

 そして扉が閉まり、ぼくら三人だけになった。

 そういえば入間さんとかには会わなかったっけ? どこにいたんだろう。

 

「香月さん、白銀さん、準備はいいっすか?」

「……うん」

「だって、やるしかないもんね」

 

 静かになったところで天海くんが口を開き、問いかけてきた。

 なにせ、今回のことで黒幕を察しているのはぼくたちだけだ。

 最原くんが生きているかもしれないというのも、彼が黒幕かもしれないというのも、全部憶測にしかすぎない。確信とまではいかない。それでもぼくらはその可能性に賭けている。

 

 でないと……でないとこの事件でまたおしおきが執行されてしまう。

 しかも、今回の事件でおしおきされるべきクロとなるのは、恐らく赤松さんだ。

 

 最原くんは色々な要因が重なった末の不幸な事故死。

 その決定的な最後の引き金を引いたのは赤松さん。最愛の人を自らの演奏が殺したと知った赤松さんは絶望して、最期には悲惨なおしおきで死んだ彼の元へ……そんな心のしんどくなるような、ダンガンロンパらしいといえばらしい筋書き(ストーリー)

 

 このまま黒幕を放っておいて、流れのままに学級裁判を行えばまず間違いなくそういうことになってしまう。それだけはなんとしてでも避けなければならない。

 

 もちろん赤松さんのことが好きだからというのもあるが、一番はやはり黒幕のシナリオ通りに踊らされるのが嫌だから……という理由になる。

 これはきっと黒幕のシナリオ通り。今までのこともきっとそうだ。黒幕はぼくらを操りながら「しんどくて辛いけれど希望に進んでいく最高のダンガンロンパ」を演じさせようとしているに違いない。

 そのわりには不幸な事故死が多かったり、黒幕自らが工作していたり、しかも黒幕そのものが探偵役をこなしたりとマッチポンプもいいところだ。

 

 黒幕ならもっと慎重にやってもらわないと。

 操り手がずけずけとストーリーに乱入してくるのはどうかと思う。仕掛け人自らマッチポンプを繰り返すだけでは質の良いストーリーになんてなるはずがないのに。だからどうしても気にくわない。

 

 ぼくならもっと……。

 

「これ以上犠牲が出る前に終わらせるっす」

「うん、もうあんな思いしたくないもんね」

 

 そこまで考えてから首を振った。

 

 ぼくはなにを思っていた? 「ぼくならもっと上手くシナリオを組める」? そんなの最低な考えじゃないか。確かに黒幕がいちいち介入する物語なんて二流もいいところだとかなんとか思ってしまったが、そんなのフィクションでの話。リアルであるここでは、そもそもデスゲームなんて起こらない方がいいに決まっているのに。

 

「どうしたの?」

「自己嫌悪中……かなあ」

「え、本当にどうしたの?」

 

 不思議そうな白銀さんに、軽蔑されてしまわないか少し不安になりつつも口を開く。

 

「ううんと、ミステリーの黒幕ならちょっと誘導するくらいで、がっつり関わらないでほしいよなあって。ぼくならそんなストーリーの小説があったら、そんなことをしないと満足に事件も起こせられないのかーなんて思っちゃうしって。不謹慎なのは分かってるんだけど、今回特にそう思うんだよね」

「ああ、確かにそこは地味に管理能力が試されるところかも……」

「前々から思ってはいたっすけど、こうして学級裁判や派手なおしおきをやるということは、見世物にさせられている可能性もあるんすよね……そうなると、確かに黒幕が深いところまで関わるのってよくないと思います。完全にシナリオ通りにするなら、ただのドラマ撮影でいいわけっすから」

 

 天海くんがキョロキョロと辺りを見回しながらそう言った。

 多分、カメラを探しているんだと思うけど、やっぱりカメラは見つからない。この学園にあるのはモニターだけだ。そのわりにはモノクマやモノクマーズがぼくたちの位置を把握していたり、ちょうどいいタイミングで現れたりするので、絶対になにかぼくらの動向を確認するための物があると思うんだけどね……。それが把握できない。

 

 と、そこで「ぼよーん」といつものように間抜けな音をたててモノクマが現れた。

 

「クマー! オマエラ、早く植物園のところにまで来なさーい! エグイサルの塗料にするぞ!」

 

 錆じゃないんだ……。

 いや、もしかしてあの赤いエグイサルのことかな? どちらにせよ死刑宣告みたいなものだけど。

 

「今から行くよ」

「そうっす。行きましょう」

「うん」

 

 頷き合うと、モノクマは満足したようにまた物陰に隠れてそこから消えていった。隠し穴がそこら中にあるんだろうなあ。

 

「向かうときに俺はちょっと、もう一度最原くんの部屋に行ってきます」

「え、でも間に合わないんじゃ」

「さっと行ってくるだけっすよ。あのモノクマのことっすから、無闇な理由で参加者を殺すのはできないはずっす。最終手段で手を出してくる可能性はありますけど、基本的にはコロシアイを重視してますからね」

「でも、危ないと思うよ?」

 

 白銀さんも引き止める。

 けど、天海くんは意外と頑固なのか首を振った。

 

「こうしている間にも時間は刻一刻と迫ってるっす。行きましょう」

「わ、分かったよ」

「早めに合流してね」

 

 そうして急ぎ足でぼくと白銀さんは植物園へと向かい、天海くんは一旦最原くんの部屋へと戻っていったのだった。

 

 




先週はごめんなさい!思い切り曜日を間違えておりました。これからもちゃんと更新は続けるのでよろしくお願いいたします!
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