月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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学級裁判―序曲―

「さて、まずはなにから話し合うっすかね」

 

 席について三回目ともなればもう慣れたものだと思う。

 本当は慣れちゃいけないんだろうけど、みんな積極的だ。

 

「どうしよう、やっぱり凶器について?」

「いや、状況の整理からだろ。みんなよく分かってないんじゃないか?」

「ゴン太は、なんで火事になったのか知りたいんだけど……」

被害者については話さないの」

 

 赤松さん、百田くん、ゴン太くん、春川さんからの意見が出てぼくは考える。

 いきなり最原くん黒幕説なんかを出しても信じてもらえるわけがない。そもそもみんなはあの死体を最原くんだと確実に思っているわけだし、下手に切り出し方を間違えればぼくが裁判を混乱させたということで犯人候補にされかねない。ダンガンロンパでは失敗するたびに発言力が減っていって、最後にはどれだけ優勢でも失敗し続ければ探偵側が負けるとかいう理不尽が待っている。

 リアルでそんなことが起きるかどうかは分からないけど、一応その前提で駒を進めて行かないと怖い。

 

 ぼくだって必死なんだ。ここまできたらやるしかない。でも疑われておしおきまで行ったらそれこそ嫌だし、できれば避けたい。

 保身に走るのは臆病者のサガだけど……誰だって死にたいと思うわけがないじゃないか。ぼくだってこれに巻き込まれなかったらこんなに頭を使って頑張ることはなかったわけだし。

 

 だからぼくは、ひとまず百田くんに同意する。

 

「ぼくは百田くんに同意するよ。まずはなにがあったのかを整理してからじゃないと、この事件は紐解けないと思うんだ」

 

 時系列順に行かないとよく分かんないよねって。

 

「えっと、それならピアノの演奏会からだよね」

「うん、お願い赤松さん」

「げぇ、そこからかよ。そんなところから説明しねーと分かんねーなんてお前らバカばっかか?」

「ビッチちゃんはちょっと黙っててくれない? 順序の大切さも分からないなんて可哀想だよねー」

「び、ビッチ……!?」

 

 ああ、うん。入間さんと王馬くんのやりとりはおいておいて、やっぱり大事なのは順番だよね。みんな唐突な事件発生で驚いていたし、そこから整理するのほ大切だと思うんだよ。

 

「私の演奏会からだよね。えっと、私は準備の前に最原くんの部屋で挨拶をして、そこで演奏会の曲が部屋に流れるようにしてほしいって頼まれたよ。だから演奏会のときはキーボくんに、最原くんの部屋への放送スイッチを入れてもらったんだ。それから、準備には……」

 

 赤松さんの視線が移動する。

 その言葉に反応したのは数人。手伝ったと思われる人達だ。その中にはもちろん、白銀さんの姿もある。

 

「わたしとゴン太君は一緒に研究教室まで行ったよ。ゴン太君には、エスコートの練習を手伝ってほしいって言われて……地味に嬉しかったから、はりきって早めに行っちゃったんだよね。だから二人で赤松さんのお手伝いもしたよ」

「ゴン太が無理を言っちゃったから……」

「ううん、むしろすっごく嬉しかったからいいんだよ。推しからのお誘いに答えない人はいないって」

「おし……?」

「あ、なんでもない。ゴン太君のお誘いがすごく嬉しかったってことだよ」

 

 純粋な彼に対して困ったような笑顔で対応する白銀さん。

 まあ、うん。その概念を知られちゃうのは嫌だよね。ただでさえゴン太くんは純粋なんだし、余計なことは教えたくないんだろう。

 白銀さんは黒髪赤目が好きって言ってたからなあ……。多分春川さんと百田くんの関係も応援しているだろう。

 

「あとオレらも準備の手伝いをしてたぜ! なあハルマキ!」

「あんたが手伝うぞってうるさいからでしょ……せっかく寝てたのに」

「ハルマキ、あんな真っ昼間から寝てたのか?」

「……夜のことがあったからね」

 

 赤松さんの演奏会を充分楽しむために昼寝をしたのは、どうやらぼくだけじゃなかったらしい。こうやって言っているということは、多分百田くんに誘われなかったら夜まで寝ていたんだろうけど。暗殺者というくらいだし寝なくても別に平気だろうとは思うが、気持ちの問題なのかな? 

 赤松さんの演奏をちゃんと聴きたかったんだろうなという意志が透けていて、なんだかちょっと微笑ましい。友達だもんね。

 

「そうそう、オレらは準備の前には終一に会ってるぜ。見舞いに行ってから準備を手伝いに行ったんだ」

「あのときは普通にしてたね。妙に部屋が暑かったけど」

 

 部屋が暑かったのは共通……かあ。確か事件後も、火事があったことを加味しても暑かったはずだし。

 

「準備に来てくれたのは、あとキーボくんもだよ」

「放送のことを聞いたのも一応そのときですよ!」

 

 なるほど、事前に聞いていたんだね。

 

「転子はアンジーさんと時間になる五分前にはついていました。アンジーさんは黒板を装飾し始めてしまったので手持ち無沙汰になってしまいましたが……転子も準備を手伝えば良かったです……」

「転子はそのままでいいと思うんだー? そわそわしてるの可愛かったもんねー?」

「か、可愛い!? そ、そんなことありませんよぉ……」

 

 こんなときではあるけど、照れる茶柱さんに癒される。つい先日まで落ち込んだままだったから、こうやって回復している姿を見ると複雑ではあるが、安心するからだ。ぼくが元気付けられたら良かったんだけどなあ……でもそんなのただの傲慢でしかないから、思うだけに留めておかないとね。

 

「入間さんは?」

「お、オレ様はぁ……ちょっとやることがあって研究教室にいた。没頭してっと忘れそうだから必要なモンだけ持ってバカ松の研究教室まで行ったんだよ。それからはテメーらも知ってんだろ」

「ば、バカ松……」

 

 入間さんの口の悪さはいつも通りだから置いといて。

 

「で、俺と香月さんが来て、時間ギリギリに王馬君が滑り込んで来たんすよね」

「そうそう、オレったら演奏会のこと忘れかけててさー。いやー、焦った焦った! 間に合って良かったよ」

 

 嘘くさい……けど、なにをしていたのかは本人しか知らないからなあ。

 

「えっと、これで全員が演奏会に来るまでの経緯は大丈夫かな?」

「うん、これで出揃っているはずだよ」

 

 白銀さんの言葉に赤松さんが返し、そして再び議論が動く。

 ここからは全員が知っている通りだ。しかし、その流れもおさらいすることになるだろう。

 

 アロマのことで確実に一度はぼくに疑いの目がむくと思う。そのときまでに心のじゅんびをしておかないとね。じゃないと心が押し潰されてしまいそうだ。

 

「……」

 

 大きく息を吸う。

 そんなぼくの様子を、じっとモノクマが見つめていた。気づいてはいた。気づいてはいたが……それを無視して話を進める。

 

 それこそ、本当に気持ちが暗くなってしまいそうだったから。

 まだまだ学級裁判の本番はこれからだ。

 

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