さて、状況の整理が終わったところで次の話題に移ろうか。
ぐるっと見回すと、三回目で少し慣れたみんなの表情がよく見える。本当は慣れてなんてほしくはないけれど。だから余計に決意する。大丈夫、これで終わりにするからって。
「さっきので、地味に皆のアリバイは出揃った感じになるのかな」
小さく手を挙げて白銀さんが言う。
演奏会までの流れのおさらいだったからそうだね。
「そっすね。だいたいはそうなんじゃないかと思います」
「念のためまとめようか」
ぼくがそう言うと、皆頷く。時系列も皆がどうやって演奏会に集まってきたのかも話したので、それをいったんまとめておきたい。
――二人組で行動していたのは?
ぼくと天海くん。
白銀さんとゴン太くん。
百田くんと春川さん。
茶柱さんとアンジーさん。
――一人で行動していたのは?
キーボくん。
入間さん。
王馬くん。
――事前に演奏会の準備に参加していたのは?
主催の赤松さん。
エスコートの練習で早めについていた白銀さんとゴン太くん。
百田くんに引っ張られて昼寝から起こされた春川さん。
研究教室の飾り付けをしたアンジーさんと、茶柱さん。
――最後に研究教室へ来たのは?
忘れかけていて滑り込んできたという、王馬くん。
「こうだね」
みんなが頷く。
――〈コトダマ みんなの行動記録〉
「次は事件までの流れでしょうか? でもみなさんゾロゾロ移動していましたよね?」
「そうっすね。はぐれていた人はいなかったと思います」
キーボくんが首を傾げてつぶやいた。天海くんも同意をして全員を見回す。ぼくは一度はぐれそうになっていた白銀さんを止めたけど、あのとき止めておいて良かったと思った。トイレに行くだけにしても火急でさえなければ寮の部屋に戻ってからでも大丈夫だろうっていう判断だったけど、今更ながらちょっと失礼だったかもしれない。
こうしたイベントごとがあるときほど殺人事件が起きるから、嫌な予感はずっとしていた。一人になってほしくはなかった。みんな一緒の行動をしてさえいればアリバイはできるから誰かを一人にしたくなかった。
……いや、本音で言うと白銀さんが首謀者だったら嫌だから、目を離したくなかっただけかもしれない。天海くんと白銀さんのことは信頼しているけど、それを平気で裏切ってくるのが『ダンガンロンパ』だから。ぼくはただ二人をそばに置いて安心したかっただけだ。なにかが起こるかもしれないと、思っていたから。
「あ、でも私、みんなで帰る途中で誰かがトイレに行くのを見た気がしたんだよね」
あれはなんだったんだろうと首を傾げる白銀さんだけど、みんながそれぞれ確認をしても複数人がちゃんとそれぞれ帰路についているのを見かけていたりで該当者は見つからない。
「あー、あー、自分たちを疑うのもおもしろいからいいけど、余計なことに議論が割かれると困るからちゃんと言うね! それならボクが通りました!! 学園長だから夜の見回りくらいするよね! めんごめんご! トイレに入ったりはしたけどそれだけだよ!」
……と思っていたら、まさかのモノクマから答えが飛び出してきた。
けれど、さすがにここでモノクマからフォローが入るのは怪しすぎる。誰かを庇っている? いや、ぼくはその相手が誰かを知っている。正確には、ぼくと天海くんと白銀さんは……だけど。
首謀者が誰かを今回確信して、二人に話してからは白銀さんの目撃した人が最原くんだったんじゃないかと思っていた。部屋を火事になるようにしてから脱出してきた最原くんの姿を偶然見ちゃったんじゃないかって。
探偵の役割を持っているわりに案外ツメが甘いなとか思ってたんだけど、ここでモノクマが庇うということはますます怪しい。もし本当にモノクマだったとしても、なにをしていたのかは不明だ。見回りなんて嘘だろう。いつもしてないくせに。
「嘘ばっか」
つまらなそうに王馬くんが吐き捨てた。けれど、それ以上追求するつもりはなかったようだ。モノクマに関してはいったん保留にするのかもしれない。
「嘘じゃないよ! 本当だよ! もう!! ボクはぷんぷんです!!」
「と、トイレでナニしてたんだよ!!」
「ナニだよ!!」
「ひょえっ!? 本当にナニしてたの!?」
「何だよ! と書いてナニともナンとも読めるよね。ナンだよ!! ナンを作ってました!!」
「トイレでぇ!?」
「はあ……あの馬鹿二人はほっといて本題に戻ろうよ」
「さすがにどうかと思います」
入間さんとモノクマの会話はわけが分からないので放っておいて……春川さんとドン引きしている茶柱さんの言う通りに本題に戻る。どこまで話したっけ……混乱してきた。
どこからか取り出してきたナンをくるくるまわすモノクマはとんだ裁判のノイズだ。モノクマーズがさっと自分たち用に用意したお皿に投げ飛ばしているのも視界から外して前だけを向く。食べるのかな。いやいやいや、気にしちゃダメだ。真剣な話し合いをしているのにふざけないでほしい。
そもそも演奏会にも来てたくせに見回りもなにもないだろうに。
「えっと、混乱してきちゃったよ。つまりみんなで一緒に帰ったってことだよね?」
「そ、そういうことになるはずだけど……」
ゴン太くんが確認をして赤松さんが肯定する。
「そのあと、解散する前に楓があちちってなってみんなびっくりしたんだよね〜?」
続きを話してくれたのはアンジーさんだ。
そうだ、赤松さんが最原くんの様子を見たいからと言って彼の部屋のドアノブに手をかけて、そして引っ込めた。少しでも手を触れてしまったから火傷してしまっているはず。今彼女は包帯を巻いているけど、痛みは大丈夫だろうか。火傷したはずなのに、そのまま研究教室でレクイエムとしてピアノを演奏していたから、絶対に痛いはずなんだけど、あれじゃあ冷やしてすらいないんじゃないかな。
彼が参加できないなら、演奏会を中止してずっと自分が看病していたらよかった。彼女ならそう思っていてもおかしくない。自罰的な行動をしてしまっていても仕方ないのかもしれない。けど、裁判場で凛として立つ姿には痛みを考える以上に、怒りで犯人を追い詰めてやろうという気迫みたいなものを感じる。
さて、これで演奏会前のアリバイから事件発生までのおさらいができたわけだけど……ここまで、ある程度静かにしていた王馬くんが発言をする。
「つまりはこういうことだよねー?」
――全員、事件が起きたときには演奏会に参加してたって。
王馬くんが指を口元に当ててニヤリと笑う。薄寒いその笑みで嘘つきな彼から出てきた言葉は、残酷な『真実』だった。
そうだ、全員演奏会に参加していた。そして、帰るのも一緒だった。だから、事件が起きたのは最原くんが一人で部屋にいるときということになってしまうんだ。
「んー、そうなるとねー、やっぱり自殺の線もあるって神様が言ってるよー?」
それもあり。でもまだ
話し合っていないことがある。
事件が起きたとき、いったいなにがあったのか? だ。
これに関してはぼくは察しがついてるけど……また疑われちゃうから嫌だなあと憂鬱になる。
「そもそも事件が演奏会の最中に起きたとは限らねぇだろーが! 演奏会の前にすでに終わってた可能性もあんぞ」
百田くんがぼくらのほうを見て、けれど流れを変えずに話題を続けてくれる。
ぼくらが話していたことが気になっているのだろうけど、今は事件の謎のほうをどうにかしないといけないと分かっているのだろう。そうして彼が口にしたのは。
「王馬、演奏会の始まるギリギリに滑り込んできたオメーが一番怪しいんじゃねーか!」
「ぐぬぬ、男死に同意したくはないのですが……絶対に演奏会の最中に殺されたってことにしてるあたりも怪しいですね……これだから男死は! 論点ズラしはお得意の技ですよね? そうはいきませんよ!」
確かにそうだ。
王馬くんは演奏会の最中に死んだと決めつけている。その前に最原くんのお見舞いに誰かが行っている。もしくは殺しに行っていて誰にも目撃されていないだけかもしれないのにだ。
「最原を最後に見たのは誰?」
「私は寝るから準備に専念してって言われて、それからは会ってないよ。お昼くらいの話だね」
春川さんの言葉に赤松さんが答える。
赤松さんがそれから会っていないのなら、それが最原くんを見た最後のときになるんだろう。鍵がかかっていただろうから他人が勝手に部屋へは入れないだろうし……。
「えー、みんなどうしてそんな話をしてるの? それより怪しいのは香月ちゃんじゃないの? ほら、なんであのときあんなこと言ったの?」
唐突に王馬くんが大声で驚いた風にそう言って、裁判場は静かになった。
「換気はしてって言ったのに! ……って。まるで火事になる心当たりがあるみたいだったよね? 星ちゃんのときもそうだけど、事故でもクロにはなっちゃうんだよ。ねえ、香月ちゃんはなにを知ってるの?」
背中に汗が伝う。
こうして糾弾されるのは何度目だろう。これからもきっと慣れることはない。
頭の良い王馬くんは頼もしくもあるけれど、それと同時にこんなにも恐ろしい。
みんなの脳裏に思い浮かんだのはあのときの会話だろう。
アンジーさんだって、間近で聞いていた。
――「あつっ……え?」
――「どーしたの? 赤松ちゃん」
――「……えっと」
――「熱い……! ね、ねえ、ドアノブがすごく熱くて……どうしたのこれ!」
――「ドアノブが熱い……っすか?」
――その異変に、その違和感に、その不安にみんなが最原くんの部屋の前に集まる。
――「ど、どういうことですか? ドアノブが熱いって……」
――「こういうの探偵漫画で見たことあるよ。確か、ドアノブが熱いときって中が火事になってたり……あ」
――ぼくは、その言葉に真っ青になった。
――「換気はしてって言ったのに!」
「……ひとまず、香月さん。お話だけ聞かせてくれるっすか?」
へたに庇うよりも流れに乗ったほうがぼくの疑いを晴らせると思ってくれたのだろうか。天海くんが優しい表情でぼくを見つめる。
「わ、分かっ……たよ」
小さくすぼむ言葉。
ぼくの立っている席が真ん中に移動して晒しあげれる。
何度この場に立っても慣れない。
恐怖で押し潰されそうになりながら、必ず疑いを晴らしてくれると天海くんを信じて話し出した。
お久しぶりでございます。
めちゃめちゃ緊張しています。一応リハビリも兼ねて書いております。
5年ぶりでしょうか? 戻ってまいりました。
ただいまって言っても待っている人が今もいてくださるかどうかは分かりませんが……ちまちまと書いて、不定期で最後まで書ければいいな、と思っています。
他作品もいろいろ書いてますが、これが一番書くのに頭使っているので時間かかるんです。5年もかかったのは、一度筆を置いたらひどいスランプになってしまったからですね。どうでしょう、前みたいに書けてるかな。
犯人判明で4章移行。首謀者登場で次 5章へ移行。裁判中断で捜査してラスト裁判の最後のほうでさらに6章へ移行しておしおき……までプロットだけならちゃんと書き直してできています。
あ、これだけは注意しておきたいのですが、これからは他作品のコメント欄で催促するのはやめてくださいね!! 頼みますよ!!
一通り読み返して予定通り書いているつもりですが、すでに話の中に出ているのに矛盾しているなにかを見落として書いている要素がありましたら遠慮なくご指摘してください。