月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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学級裁判・第二幕「フキノトウは芽吹かない」①

 

―ノンストップ議論 開始―

 

「あのときうっかりポロッと喋っちゃったんじゃないかな〜? どうして香月ちゃんはあんなことを言ったの?」

「確かに泪はそんなこと言ってたね〜。どーして焦ってたのー? ねえどーしてー?」

 

 詰め寄るような話しかたに圧倒されて怯みそうになる。けれどそれではダメだ。ちゃんと話さないと。

 

「そ、それは……確かに思わず言っちゃったけど……」

「あれは犯人の思わず出ちゃった言葉に聞こえちゃうんだよね。ちゃんと説明できるの? 香月ちゃん」

「だからと言って彼女が犯人とは限らないっすよ」

「落ち着いて、ゆっくり話してくれる?」

 

 天海くんと白銀さんの援護に少しだけ視界が潤う。彼らに露骨に庇ってもらうなんて情けない。ダメだ、こうして緊張するとどうしてもこうなってしまう。別に泣きたくなんてないのに。むしろこんなんで泣いていたら不利になるだけだ。しっかり説明しないと。

 震える言葉でぼくはなんとか話しだす。

 

「最初から説明するよ……さ、最原くんにとある精油を持ってきてほしいって頼まれてたんだ。フランキンセンスっていう精油で、部屋の温度が高いとすごく揮発しやすくて、32度でも引火してしまう種類なんだ。でも……」

「そんで換気しろって終一に言ってたわけだな? 確かにあいつの部屋はかなり暑かった」

「ああ、それはね。風邪ひいてて寒いって言ってたから、最原くんに頼まれててゴン太が暖房をつけたよ!」

「最原くんは元々フランキンセンスがそういう精油だって知ってたよ。助手をしている所長さんのところで使っているのを見たことがあって、香りが好きだからぼくに頼んできたんだ。だから、引火するなんてありえないはずなんだ

 

 百田くんがぼくの話を引き継いでくれて、さらにゴン太くんが暖房をつけたことを証言してくれた。最原くんが精油の特性を知っていたことはぼくしか聞いていなかったけど、そもそも暖房をつけて揮発していたくらいじゃ火事になったりはしないから……と考えていたわけだけど、口に出して換気してって言ったのに! なんて口走っちゃったのは真実だ。

 当然のことながら、王馬くんがこの隙を逃すはずがなかった。

 

「それは違うんじゃない? その精油の特性を最原ちゃんが知ってるって聞いたのは香月ちゃんだけだよね? なら、嘘でもなんでも言えるじゃーん! ね?」

 

 言われるとは思っていた。だから、ぼくも王馬くんの言葉を聞きながら反論をしていく。

 

「フランなんとかって精油が揮発して燃えやすいってのを、最原ちゃんが知ってたとは限らないよね? その証言をしてるのは香月ちゃんだけ……じゃあ、最原ちゃんが知らずに暖房で揮発した精油が自然発火した可能性だってあるんじゃない?」

「そ、それは違うよ!」

「なにが違うの?」

「発火じゃないんだ。フランキンセンスの引火点が32度なのであって、自然発火するわけじゃない!」

 

 ぼくの反論で誰かがハッと鼻で笑う声がした。そんな笑いかたをする人なんて、今この場には一人しかいないので自然と入間さんのほうにぼくは目を向ける。

 

「んだよチン馬。引火点と発火点の違いも分かんねーのか!? 中学の理科からやり直したほうがいいんじゃないでちゅか〜? ひゃはははは!」

「驚いたな〜便器の蓋がパクパクして喋ってる! 臭いからその蓋閉じててくれない?」

「べっ、便器ってそんなぁ……その、そんなことしたことねぇーしぃ……」

 

 王馬くんの反撃は素早かった。そして入間さんの撃沈も早かった。落ち込むなら最初から意気揚々とそんなことを言わなければいいのに……とは、口が裂けても本人には言えない。

 王馬くんは入間さんを黙らせると、いかにも不満です! という風に唇を尖らせて僕に文句をつけてくる。

 

「香月ちゃんの換気しないから! って口ぶりだとそのせいで火事になったみたいじゃん。勘違いするのも無理はないよねー」

 

 まあ、確かにややこしい言いかたをしてしまったとは思う。でも、咄嗟で出てくる言葉なんてみんな村なものじゃないかと思う。さすがにこれは言いがかりだと思って口を開こうとしたら……天海くんが鋭い声で言った。

 

「王馬くん、謝るっす。入間さんにも香月さんにも」

 

 静かになる。さすがに王馬くんもこれにはきょとんとしていたし、ぼくもびっくりして彼を見る。入間さんだけが「おう謝れ謝れ!」と威勢を取り戻して揶揄していたけど、それも天海くんの雰囲気に気圧されたのかだんだんと声が小さくなってくる。

 

「……」

「謝るっす」

「わ、分かった分かった! ごめんね二人とも!」

「許さねーからなこの」

「入間さん、どうどう」

「いいよ、ぼくは。紛らわしい言いかたをしちゃったのは間違いないから」

 

 汚い言葉をどんどん吐き出してくる入間さんを赤松さんが落ち着かせている中、ぼくも答える。こんなことで議論が長引いても良くないのは誰もが分かっていることだからだ。

 

「……天海くん、結構怒ってる?」

「いや、そんなことないっすよ?」

 

 絶対怒ってるやつだこれ! 

 ぼくのために怒ってくれてる……と思うのは自意識過剰だろうか。でも、嬉しかった。それは確かなので、小さく「ありがとう」と返しておく。微笑ましそうにぼくらを見る白銀さんからはそっと視線を外して口元をきゅっと引き締める。

 

「じゃあ、精油が揮発していたとして……どうして火事になったのか……が、議論することになるのかな」

 

 赤松さんが話をまとめて次の議題に行く。

 今度はどうして火事になったのか? だ。

 

 まあ、これに関しては引火した……が正解だろうし、どちらにせよぼくのピンチは変わらないのかもしれない。

 けれど、ひとまず席が晒しあげられる真ん中から戻ることができたのでほっとする。火事が起こったタイミングは演奏会の最中だとぼくは分かっているが、結局みんなはまだそこには辿り着けない。

 

 そもそも火事になったトリックを解き明かさない限り、どのタイミングで火がついたのかは明らかにならないからだ。

 

 引火した理由は間違いない。

 部屋の床に落ちていたアレだと思う。そして、それが落下した理由は……。

 

 でも、本当にそんなことが可能なのだろうか? 

 そんな疑問が脳裏を過るけど、その疑問をぐっと飲み込む。できるかどうか、成功するかどうか分からないトリック。それを起こす。または起こしたように見せかけて冤罪をふっかけることができるのなんて、変わらずに最原くんしかいない……とぼくは考えている。

 

 なんとか、トリックを明かしてクロ指定……の前に、モノクマが裁判を強制終了させることなく彼を引き摺り出さなければならない。そのためには、議論の順番が重要だ。

 

 王馬くんや入間さんがいる中、そんな器用に裁判を進めることができるかどうかは正直不安でしかないけど、やるしかない。

 

 唇を噛み締めて前を向く。

 何度も天海くんや白銀さんに助けられている。それに赤松さんにも。

 その赤松さんにとって、真実は残酷かもしれない。それでも……やるしかないんだ! 




 〜モノクマシアター〜

 視聴者の皆様にお知らせです。

「フキノトウは芽吹かない」は番組概要欄にてはしめから予定されていた4章の名称ですが、この第二幕の最後にタイトルコールを行い、章移行をする予定です。
 いつもと違う章の移り変わりもテコ入れとしてはありだよね! ありでしょ?

 というわけで、章タイトルの切り替わり後も怒涛の章タイトル切り替わりがあります。それも元から予定していたシナリオタイトル通りに進まない程度で予定していたタイトルが使えなくなるんじゃ困るからね! せっかくボクが用意したんだから全部しっかりと使っていかないと。

視聴者の皆々様におかれましてはご了承のほど、よろしくお願いいたします!
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