月桂樹の花を捧ぐ   作:時雨オオカミ

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学級裁判・第三幕「アキレギアの告解」②

 

「あ〜笑った笑った! 香月ちゃんったらとんだ嘘つきじゃん! オレよりよっぽどタチ悪いね〜!」

 

 言っている言葉のわりに王馬くんの声は楽しげだ。

 正真正銘の嘘つきな彼がきょとんとしたあとに笑い出す……っていうのは、本当のところどう思われているのかが気になる。けど、正直に()いてみても帰ってくる言葉が本当かどうか分からないので、あえてなにかを問いただしてみることもないと思う。

 笑われたことにちょっと恥ずかしくなりながらも、その場で「えっと」と言葉を継ぎ足して続きを話しだす。

 

「ぼくが証拠隠滅したのは瓶に貼られてた嘘のラベルだ。だけど、これは普通のラベルじゃなくて、ただの真っ白なビニールテープだったんだ。

「そういえば、香月さんの貼り紙もビニールテープで貼られてたよね? もしかしてあれなの?」

「そうだよ。赤松さんはよく見てるね。倉庫には普通のラベルがなかったし、セロハンテープすらなかったから、ぼくも散水時間の貼り紙をするのにこのビニールテープを使ったんだよ」

「そうなんだね。セロハンテープもなかったんだ……」

 

 赤松さんは最原くんとよく探索してたから、ぼくの貼り紙もちゃんと見てたんだろう。あの貼り紙をしたのは星くんと東条さんの事件のときだから、よく覚えていたなと感心する。

 

 些細なことだから気にしない人も多かっただろうに。

 こうして思い出すことができる人がいるのも意外だったし、なにより赤松さんが……というのに、都合の良さを感じるほど。

 あまりにもちょうど良かったので赤松さんに質問を返す。

 

「赤松さんはテープ類がほとんどないの、知らなかった?」

「え? うん。私が使う機会もなかったし」

 

 赤松さんが不思議そうにそう返してくる。よかった、これで確信することができた。思わず口角が上がる。そして、ぼくは嘘をついて保留にしていた事実をはじめてこの場で口にすることにした。

 

「ぼくは、研究教室の瓶には全て、直接油性ペンで中身の名前を書いておいたんだ。だけど、星くんが亡くなったときに転がっていた瓶には『ハスカップ』と違う名前の書かれたビニールテープが貼ってあった……わけなんだけど」

「あれれー? でもそうなるとー、ビニールテープがどこにあるかは泪しか知らないってことじゃないかなー? 貼り紙に使ってたんだよね? そこはどうなんだべさ! って神様が気にしてるんだけど、どうなのかなー?」

 

 こういうときの真顔で詰めてくるアンジーさんって怖いな……なんて思いながら震える声で答える。

 

「最原くんは、知ってた」

「そこで終一が出てくんのかよ……」

「むしろ、ぼくは最原くんにビニールテープがどこにあるのかを教えてもらったんだ。あのとき、赤松さんと見つけたって彼は言ってたけど、赤松さんは知らないんだよね?」

「…………うん」

 

 百田くんと赤松さんが眉間に皺を寄せる。

 そうだよね。でも、本当のことだ。一回目の学級裁判で最原くんが否定したら、貼り紙に使っていたという明確な事実のあるぼくが窮地に立たされるだけだからずっと黙っていたことだけど、よく考えたらおかしい。

 彼は赤松さんと倉庫を探索してるときに見つけて知ったと言っていたけど、さっき赤松さんが知らないと言ったことであれが嘘だったことも分かった。

 

 今回の事件で、最原くんを疑った際に真っ先に思い出したのがこの事実だったんだ。星くんの事件で最終的に手を下した役になったのは東条さんだったけど、その裏に何者かによる工作があることはぼくだけが知っていた。

 

 それが、今回ようやく繋がったんだ。点と点がひとつの線になって形を浮かび上がらせている。

 

 あの事件の裏にいたのは、最原くんじゃないかという仮説を。

 

「学級裁判でクロになるのは、直接手を下した人だ。だから、事故でも東条さんがおしおきされてしまった。でも、その裏に、事件を操作していたかもしれない人がいた。それが最原くんだった。今回の事件もそうなんだ」

「こ、今回もってどういうことですか!? 演奏会も、火事もいろんなことが重なった結果起こった事故みたいなものだったと、さっきの話し合いで分かりましたよね? それも故意に起こされたって言いたいんですか? そ、そんなことが……あっていいんですか!?」

「偶然にしか思えなかったけど……ど、どういうこと?」

「……なるほどね」

「あー、そういうこと」

 

 茶柱さんやゴン太くんが混乱している中、春川さんと王馬くんは納得したように苦い顔をしていた。二人は最原くんから特に頼み事をされていなかったからか、客観的に状況を整理して理解してしまったんだろう。

 

 一発でみんなにも分かる説明は、ぼくならもう把握しているしているはず……それをみんなに尋ねてみればいい。

 

火事を起こした原因となる偶然、それは本当に偶然だったのか? その原因が複数重なったのは誰になにを頼まれたからだった? 

 

 

『さいはらくんのたのみごと』

 

 

 これしか、ない! 

 

「みんな、思い出してみてよ。火事のきっかけになった偶然が、なんで起きたのか。ぼくの持ち込んだフランキンセンスの精油は最原くんに頼まれたから持ってきたものだった。花瓶は誰が持ってきたものだった?」

 

 ぼくはこれを最原くんから直接聞いている。でも、彼ならきっと許可を得るだろう。その持ち主に。

 

「最原くんが……調べるついでに見張るからって、部屋に飾っていいかって、聞いてきたけど……」

「ついでに赤松さん、演奏会をいつ開催するかをお願いしてきたのは誰だったっけ?」

「最原くん……と話して、演奏会をしてみることになって、風邪ひいてるなら明日にまわそうかって聞いたけど、今日がいいって言ったのは……最原くん、だったね……」

 

 赤松さんが真っ白になった顔をもっと青ざめさせて口にした。

 それと同時に、他のみんなも心当たりがいくつかあるのか目を見開いて思い当たる節を言っていく。

 

「部屋に放送機能を使って演奏を届けることになったのも、最原クンの提案でしたよね?」

「そうだね、それでキーボくんにお願いしてスイッチを入れてもらった」

「暖房を入れたのはゴン太だったけど、それも最原君に頼まれたからだったよ……その、こうして思い出すと……」

「全部最原からの提案だね」

 

 ばっさりと春川さんが切り捨てるように言葉を吐き出す。

 

「そう、火事が起こる原因になった複数の出来事……その全てで、最原くんからの頼み事がきっかけになってるんだ。それと、申し訳ないんだけど……赤松さんにもうひとつだけ聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

「ううん、大丈夫。私のことは気にしないでいいよ。なにかな? 香月さん」

「演奏会の曲目に『月光』を入れたのも、最原くんからの提案じゃなかった?」

「……そうだよ。もしかして月光も関係してるの?」

 

 赤松さんの様子にすごく心苦しくなる、けど追求をやめるわけにもいかない。

 ぼくは気づいたことを確認しないわけにはいかないから。

 

「超高校級のピアニストの研究教室の凶器って、確か楽譜だったよね?」

「うん、『モノクマ特製葬送曲』っていうふざけた名前の」

「ああ、そういえば楽譜の内容が『月光』に音階が似てるって話をしてたっすね」

「花瓶と組み合わせる凶器だった……ってことなのかな」

「あ? んな話してたか?」

「入間ちゃんは記憶力弱そうだもんねー! 覚えてなくても仕方ないか!」

「だだだ、だーれが快楽に弱いって!?」

「ええ……そんなこと言ってないんだけど」

 

 ぼくの指摘に天海くんと白銀さんが続いて、記憶を辿るように考え込む。

 入間さんと王馬くんがなにやら漫才をしているけど、そんな風に緩和していないと重苦しくなりすぎそうな話だった。

 

 火事が起きた原因に、最原くんが必ず関わっているという証明がされてしまったことでみんな気持ちが沈んでいるから、この二人のやりとりはある意味ちょうど良かったのかもしれない。

 

「オマエラさあ、死体が再利用されてる前提で話してるけど、そっちには根拠なんてないんじゃないの?」

 

 と、そこで突然モノクマが口を挟んできて全員がそちらを向いた。

 モノクマがこうして反論してくるということはつまり、真実に近づいているんじゃないかとぼくの鼓動が早くなる。

 

 でも、確かにモノクマのいうとおりに死体の再利用についてはまだ謎だった。そもそも死体が保管されているのか、いないのかさえもぼくらは知らされていないんだから。

 だけど、僅かな緊張感に包まれた裁判場で穏やかに手を挙げる人が一人。

 

 ――天海くんだった。

 

「あ、それなら俺が調べてきたっすよ」

「え、いつ!?」

 

 天海くんはほとんどぼくと白銀さん、三人で固まって動いていたからそんな隙はなかったはずだ。覚えのない捜査に思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「ああ、別れてからすぐに調べてきたんすよ。裁判場に行くまでにっすね。ほら、閉じられているはずの夢野さんの研究教室が開いてましたよね? だから、東条さんのところにもさっと行ってきたんす。香月さんが事前に推理を聞かせてくれてたんで、俺はそれを確かめに行こうと思って」

「ああ、だから遅刻したんだね……それでも、調べてきたにしては早かったけど」

 

 白銀さんの言葉に同意する。

 確かに天海くんは行くところがあるって言って別れて、タイムアップ後に裁判場へ行くためのエレベーターのところに集合するのが遅れた。でも遅刻したといってもそこまで極端に遅かったわけじゃない。どれだけ探索が早かったんだとびっくりしてしまう。有能すぎる。

 

「まあ、開いてはいなかったんすけどね。その場にいたモノダムに捜査に必要だからって開けてもらったんすよ。夢野さんの研究教室が開いてたんだから、ここも捜査できないとおかしいっすよね? って言って」

「モノダム!?」

「なにしてるのよモノダムー!!」

「ええ、モノダムがー!?」

「なにやっとるねん!」

「正当性ガアルト思ッタンダ……」

「きゃーー? まさかの子供達からの裏切り……!! お父ちゃんは悲しいです……で、なにを知ったの?」

 

 ……モノクマ達も知らなかったらしくて、彼らを出し抜いた天海くんに感心する。やっぱりすごい。知られていたら見せしめとかされてもおかしくないくらい、デスゲームの禁忌スレスレのことをしているあたり、すごく度胸のある行為だと思う。ぼくだったら恐ろしくてそんな捜査を考えつくことすらできなかっただろうから。

 

「モノダムからは、遺体は研究教室で腐らないように凍結保存してあるって話を聞いたっす。必要だからとかなんとか。だったら、夢野さんの研究教室に遺体がないのはおかしいから、どこにあるのかを聞いたんすよね。そうしたら、東条さんのところにあるって聞いたんで、言ったんすよ。『夢野さんの研究教室が事件に関係あるなら、本人の遺体も関係があるかもしれないから確認させてほしいんす』って。そのついでに東条さんの保存容器も調べさせてもらいました。モノダムにはモノクマが呼んでるって言って出ていってもらいましたし」

 

 天海くんから提供された情報はなにもかもがはじめてのものだった。

 ダンガンロンパでは遺体の処理がどうなっているのかも推理材料のひとつになるけど、今回はどうやら残っているタイプらしい。

 

 それにしてもセキュリティがあんまりにもあんまりだ。モノダムがわりとチョロい部類だったのかもしれないけど、まさかモノクマに悟られていないとは。

 もしかして、閉じられてコロシアイに関係なくなった場所は監視の目がないんだろうか? それにしたってゲームマスター側の不手際が目立つけど。

 

「冷凍保存機はガラスの棺みたいになってました。外から顔が見えるようになっていてですね、夢野さんのほうはちゃんと入ってたっすけど……東条さんの遺体はなくなってました」

 

 ちょっと顔を青ざめさせる天海くんに、無理をさせちゃったなと罪悪感を覚える。そりゃそうだろう、遺体を棺越しとはいえ直接見てニコニコできる人がいるわけない。

 

「ありがとう天海くん……なら、決まりだよね」

 

 火事が起きたタイミングは恐らく赤松さんが『月光』を弾いていたとき。

 火事が起きた本当の原因が赤松さんの演奏でなくても、部屋にいた本人ならば火をつけて逃げることはできるし、そのまま隠れることだってできる。

 演奏会中に東条さんの遺体を移動させて自分は隠れ、あとは最原くんの部屋で火がつけばそれだけで事件は完成する。

 

 それならば、あの場にあった遺体の犯人は間違いなく『首謀者』だ。東条さんはおしおきで亡くなったのだから。

 

 首謀者その人こそ、この裁判で指名しなければならない『犯人』に違いないだろう。

 

「ピアニストの研究教室の凶器を知っていたのは首謀者しかありえないし、そもそもすでに退場している人の遺体を再利用するなんてことは首謀者にしかできない。そして、今回の事件のトリックには必ずある一人の人物が関わっていた……あの遺体の、東条さん殺しの犯人を指名するなら」

 

 指名するのはただ一人。

 

「犯人は首謀者……『超高校級の探偵』、最原くん。きみしか、いないんだ」

 

 モノクマをまっすぐと見つめながら睨みつける。

 怯える腕をまっすぐ突きつけながら。

 

 最初の事件からずっと裏で暗躍していたのだろう最原くんに届くように、怒りを込めて。そして、きっと彼に的確に効く(・・)だろう言葉を送り出す。

 

「探偵が描いたシナリオにしては、随分と杜撰(ずさん)だったね。『僕の考えた最強のデスゲームシナリオ』でもやりたかったの? でもね、きみはちょっと自己主張が強すぎた。バレバレな暗躍なら、ないほうがマシなんだよ」

 

 殺されかねない煽り文句を吐き捨てる。

 背中は冷や汗でびっしょりだったけど、ぼくは最原くんを許せない。だから、煽ることを選んだ。

 

 これが推理小説ならば、全てを辿ったときに黒幕……事件の首謀者や犯罪アドバイザーみたいな役に全て行きつくような、仕込みしか存在しないトリックだったならガッカリするだろう。結局全部こいつのせいじゃんで済んでしまうような小説なら、ぼくは評価を下げる。

 もしかしたらゲーム時代のダンガンロンパをオマージュして尊重しているのかもしれないけど、それにしたってやりかたが下手すぎる。

 

 初代のラスボスはもっと見事だった。

 もしオマージュのつもりでやったのなら、これをオマージュだなんて口が裂けても言わないでほしいと強い言葉でファンのぼくは当然怒る。

 

 ぼくの煽りに乗ってもらわなければ困るわけだけど、モノクマは一瞬沈黙して、そして顔をあげた。さあ、どうだ? 

 

「は〜あ、しょうがないなあ〜。ま、一章で爆速解決しちゃうこともあるしそれよりマシかもね。うん、そうだよね。ボクはちゃんと忠告したのに聞かなかったのが悪いんだからね! はいはい、いいよ! いいってば! 許可する!」

 

 うんざりしたようなモノクマのセリフに食い込むように、頭上からなにかが降ってくる。

 

「どわぁ!?」

「な、なんですか!?」

「うわっ」

「びっ、びっくりした〜!」

「上から来るぞ気をつけろ! ってやつかな」

「心臓に悪いです!」

「キー坊は心臓ないじゃん!」

「それはロボット差別ですか? 心臓部ならちゃんとあるんですからね!」

 

 落下してきたのは一台のエグイサルだった。モノクマ仕様の、白黒な明らかに特別製のやつだ。搭乗口らしき場所がゆっくりと開いて、煙がモクモクと溢れ出す。

 

 この、派手な登場の仕方は……。

 

 

 

「だい、せい、かい! そうだよ、僕が黒幕だったんだ!」

 

 

 

 いつもはキリッとしていつつも、優しげな表情をしていた最原くん。

 でも今はモノクマ柄の帽子を被って、恍惚とした表情でモノクマのぬいぐるみを抱いていて、モノクマと同じように左目が血のように赤い……なにもかもが印象と違っているけど、間違いなく最原くん本人で。でも、僕らが知っている姿とはまるで別人だった。

 

 

 

「だけどそう言われるのは心外だな。僕は黒幕兼、脚本家として当然の演出をしてただけなんだから。あは、こうして四章程度で大舞台にまで引き摺り出されるなんて……絶望的でなんて素敵なんだろう!

 

 

 

 誰もが頼る『超高校級の探偵』最原終一だった人は――デスゲームの黒幕としての顔を見せて、ぼくらを上から見下ろしていた。

 




 ◯余談①
 実は今までのモノクマシアターの内容をよく見ると、自己主張が激しすぎる最原くんにチクチク言葉で責めてるモノクマという図になってたりするぞ!!

 ◯余談②
黒幕原ちゃんは首の左側にモノクマの左目と同じ赤いマークがあったりするぞ!(ただの性癖)

 ずーーーーーっと、これをやりたくてはじめた物語でした!

 SNSで黒幕原のイラストを見かけてからずっとキモい陰キャ黒幕原を見たくて見たくて見たくて見たくてしょうがなくて自分で書きました。

 二つ見たい場面の一つ目に五年越しでも辿り着けて良かった。
 もう一つ見たい場面があるんですが、それももうちょっとです。頑張ります。

 次から便宜上の五章です。
 お品書きは事前に黒幕原ちゃんが用意したモノなので、元のシナリオからズレてもちゃんと従ってタイトルを使わないといけないんですよね。そうしないと彼は怒っちゃうので。

 ところで紅鮭団についてなんですが、ちょっと迷っているのでアンケート設置しておきます。よければ答えていってくださいね!

紅鮭団は何が見たい?

  • 全員記憶なし
  • 全員記憶あり
  • 香月のみ記憶あり
  • 香月、天海、白銀、最原に記憶復活あり
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