この世界で一番のファン
「ほら見て、この帽子。モノクマ柄で可愛いでしょ? いつものやつもいいけど、やっぱり僕はこれがお気に入りだな。最高に可愛いよね、このデザイン。ふふ、どうかな? 赤松さん、可愛くない?」
「え……? あ、えっと……」
エグイサルの操縦席から立ち上がり、手を広げて帽子を取り、本人的には紳士的なつもりなのだろう礼をする。どこか芝居がかった仕草にみんな息をのんでいた。信じられない。信じたくないというように。
話しかけられた赤松さんだって顔を真っ青にしたまま言葉に詰まっている。信頼していた……それも、わずかにでも心を寄せていた人があんなふうに豹変してしまったんだ。無理もない。あまりにもあんまりすぎる。
彼が黒幕だという結論に納得がいっていたとしても、話し合いのときと、いざ本当にその姿を目にしてしまったときでは衝撃の度合いが違って当然だ。
黒幕バレするまでの最原くんはおとなしいけど頼もしい人だったから、こうして早口で喋り続ける仕草にすさまじい違和感を覚えてしまう。
恍惚としたままマシンガントークをする彼に圧倒されてしまって、口を挟む余裕がなかなかない。
自分が率先して彼の真実を暴いた癖に、ただ唖然とするしかなかった。
「モノクマがただのマスコットだったなら、可愛いとも思えたんすけどね」
「そう? 残念だな」
だけど、天海くんは違った。
ぼくだってそう思う。モノクマのことは好きだけど、それはグッズを集めたりするときに思うことであって、実際にコロシアイに巻き込まれている立場じゃ恐怖の対象でしかないから。
「うわ、ここまで嘘みたいなことあるんだ。オレでもドン引きしちゃうんだけど……最原ちゃんってばイイ趣味してるよね」
「褒めてくれてありがとう王馬くん! まあ、皮肉なんだろうけど、嬉しいよ」
続いて王馬くんも復活して嫌味を言った結果。
薄ら笑いを浮かべた最原くんにそう返され、彼は一瞬めちゃくちゃ嫌そうな顔をしてから、ニコニコと笑顔を貼り付ける。
「嫌味言われて喜んじゃうなんてもしかしてドMなの? それなら入間ちゃんとすっごく気が合うんじゃないかな。マゾ同士で仲良くしてなよ」
「オレ様ぁ!? や、やめろよぉ……こっちに振るなよぉ! キショイ原と一緒にするんじゃねー!」
「終一……」
赤松さんと同じく百田くんもかなりショックを受けているし。
「や、やはり黒幕は男死でしたか! これだから男死は信用ならないんですよ。そこから降りてきた瞬間にこの転子がギッタギタにしてやりますから覚悟してくださいよ!」
「茶柱さんのネオ合気道を受けてみるのもいいよね。やっぱり実際に体験できるっていうのは嬉しいものだからね。黒幕甲斐があるよ」
「……あなた、どうにかしてますよ」
勇ましいことを言っている茶柱さんも、その実かなり動揺している。ネオ合気道の構えをして最原くんを見上げているけれど、それは彼にとって威嚇程度のものにしか見えていないらしい。
いやむしろ……。
「プンプン! いくら褒められたってボクは最原クンのこと許さないんだからね! 潜伏ヘタクソ探偵! 童貞!」
「あははは、承認欲求が強くてごめんねモノクマ。でも、いいトリックだったでしょ? 東条さんのときも、演奏会のときも。おしおきもすごく良かったよね。東条さんの超高校級のメイドとしての矜持と、香月さんの絶望する
自分の体を抱きしめるようにして頬を染める彼の眼差しは、まっすぐとぼくを見る。彼が見ているのは、ぼくで間違いないけれど……ぼくではない。
最原くんはオタク特有の早口で捲し立てるように、ぼくらを理解のできないコトダマの洪水で溺れさせようとしていた。
……ああ、そうか。
「ああ、すごく尊い光景だったな。それに、真宮寺くんのおしおきもすごく良かったと思わない? あれは江戸川乱歩の『鏡地獄』と引き回しの刑をモチーフにしてたんだよね。顔がそっくりのお姉さんに恋してる民俗学者の彼にはピッタリなおしおきだったでしょ? これ以上ないくらいの皮肉で、尊厳の踏みつけで我ながらすごくいいアイデアだったと思うんだ!」
「なにを……言っているんですか? ボクの集音機能が故障したわけではないですよね……? 本当に同じ言語で話しているんですか……?」
分かってしまった。
最原くんは、ぼくらのことをキャラクターとしてしか見ていない。
分かってしまう。ぼくは『ダンガンロンパ』を知っているから。ぼくだけが理解できてしまう。
彼は、ノンフィクションのぼくらのコロシアイを、ただただフィクションとして消費しているんだ。
同じように生きている人間なのに、今の最原くんにとってぼくらは『推しのキャラクター』でしかない。
ぼくらが足掻いても、なにを感じても、叫んでも、死んでも、絶望しても、同じ場所にいるのに画面越しの劇を見ている程度の気持ちしか抱いていないんだ。
最原くんは、推しのどんな顔でも、たとえそれが死に顔だとして喜ぶ、歪んだ愛情を持つ一人のファンとしてそこにいる。
「終一、オメー自分がなにを言ってるのか分かってるのか……!?」
「狂ってるよ……あんた」
まだ混乱している百田くんと、苦いものを吐き捨てるように言った春川さんのことも、最原くんは凪いだ瞳で見つめるだけ。きっとどんな罵倒だって今の彼には効かないだろう。キャラクターのどんなセリフでも喜ぶファンのように。
「すごいオタクだ……私たちのオタク? 嬉しくないねこれ……これが……推しがいつも感じてる気持ちなのかな。うん、地味にダメージ受けちゃった。これが本当の知りたくなかった豆知識」
「そこなの!?」
白銀さんは逆にメンタルが強すぎると思う。
「ぼくたちのことをコロシアイの舞台に上がったキャストの一人としてしか、見てないってこと……だよね?」
「うん……あのね、最原くん。フィクションと現実を混同するオタクは悪なんだよ。こういう人がいるからオタクは肩身が狭くなっていっちゃうんだから」
ぼくと白銀さんの言葉にきょとんとした最原くんは困ったように笑った。
「まさか! ちゃんと現実とフィクションの区別はついてるよ? みんなは生きてるじゃないか! みんなが今感じている怒りも、困惑も、犠牲者が出たときに感じた悲しみも、絶望も、全部、全部作り物なんかじゃない。キミたちの感じている気持ちは間違いなく真実なんだ!」
熱を込めて話していても、どこか他人事に聞こえる。
「現実とフィクションの区別がついているうえで、僕はみんなが大好きなんだよ。僕は、みんなのこの世界で一番のファンなんだ!」
彼が黒幕だというのは推理で分かっていた。結論は出ていた。それなのに、どうしてこんなにも……こんなにも悲しくなるんだろう。
「さ、最原君どうしちゃったの……?」
事態をうまく飲み込めていないゴン太くんがようやく震えた声を出す。
思い出の中の最原くんがどんどん壊されていく。穢されていく。踏みにじられていく。あの彼とはもう会えない、あまりにも遠くなってしまったのだと突きつけられるようだった。
そして、それは、ぼくでこれだけショックなんだから……なら、彼女は。
「最原くん……もう、もうやめてよ……!」
赤松さんの悲痛な声に、ぼくまで胸が苦しくなって泣きそうだった。
Q.真宮寺のトリックは?
A.誘導はふんわりしたけど、真宮寺なのでオートでコロシアイの参加してくれると信じてあんまり最原は介入してません。
・黒幕な最原
一番見たくない黒幕最原概念を抽出してます。自分がこれを食らったときに最悪〜!!!!って手を叩いて笑って喜ぶタイプの黒幕加減。
・白銀
最原があまりにもオタク仕草なので、現実とフィクションを混同してヤバいことしてる犯罪者と一緒。という認識を受けている。泪と違って知っているわけではない。
・アンケート
アンケートにお答えいただきありがとうございます。
まだしばらく設置しておきます。
ところで全員記憶あり紅鮭団ルート勢が多いんですけど、それって最原と白銀の気まずさがマックスで地獄みたいな胃痛に苛まれることになりそうなんですが正気か?
皆さんはそれが見たいって、コト!?
紅鮭団は何が見たい?
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全員記憶なし
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全員記憶あり
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香月のみ記憶あり
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香月、天海、白銀、最原に記憶復活あり