不死人が異世界から来るそうですよ?   作:ふしひとさん

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巡礼人

 

 ペルセウスとのギフトゲームにも勝利し、レティシアは無事ノーネームに所属した。ただし、十六夜たちのメイドとして。十六夜と飛鳥、耀の3人で所有権を等分するらしい。

 当初は名亡きにも所有権があったが、名亡きが「いずれいなくなるから必要ない」と言って、その場の空気を死なせたのはどうでもいい話だ。

 早いもので、それから1ヶ月の月日が経った。

 ノーネームの館の裏にある農園。見渡す限り広大な土地が広がっているが、魔王の襲来により農園としては死んでしまっている。

 再び作物を収穫できると信じて、青空の下で子供たちが農作業に勤しむ。そんな中、明らかに異質な全身甲冑の男が四又鋤で畑を耕していた。

 名亡きである。今の彼の姿からは、アルゴールと死闘を繰り広げた戦士の1人とは思えない。

 一心不乱に四又鋤を振り、凄まじい勢いで畑が拡張していく。その仕事ぶりに、子供たちは尊敬を込めた眼差しを向ける。

 

「……」

 

 名亡きがやってることといえば、農作業と簡単なギフトゲームくらいだ。しかもここ最近、ギフトゲームの参加対象に「名亡きは除く」と書かれることが多い。そのせいで、農作業の比率が圧倒的に高くなっている。何故そうなったのか、理由は皆目見当がつかない。

 除外されてるのは名亡きだけで、十六夜たちは数々のギフトゲームに参加し、踏破している。

 ノーネームは着実に復興へと進んでいる。だからこそ、ある考えが心をよぎった。

 ──もう、ロードランに還っていいのではないか?

 十六夜たちの力は、名亡きの想像よりもずっと強力なものだった。これから先、自分の助力は必要ないと思ってしまうほどに。

 

「名亡き様ー!!」

 

 黒ウサギが慌てた表情で走ってくる。

 四又鋤を振る手を止める。どうやら何かあったみたいだ。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 箱庭の北側で火竜誕生祭という、新たな階層支配者のお披露目を兼ねた祭典がある。

 絶対にトラブルの種になると、黒ウサギはその祭典があることを意図的に隠していた。しかし、サウザンドアイズから飛鳥宛に祭典の招待状が送られたことで、結局3人にバレてしまった。

 十六夜たちは置き手紙だけ残し、黒ウサギに黙って火竜誕生祭に向かってしまった。

 その置き手紙には、今日中に3人を捕まえなければコミュニティを脱退するという旨が書かれていた。祭典を隠していた意趣返しらしい。ちなみに、黒ウサギだけでなく名亡きとレティシアも連れて来るようにとも書かれていた。

 ということで、名亡きたちは箱庭の北側にやって来た。

 

「……」

「……」

 

 名亡きとレティシアは無言で街道を歩く。2人とも寡黙な性格なので、こうなるのは必然だった。名亡きは特に何とも思っていないが、レティシアは違った。何か話した方がいいのだろうかと、気難しい顔をして考えている。

 黒ウサギはどうしたかというと、北側にあるサウザンドアイズ支店の近くへと跳んでった。

 98万キロメートルも離れた場所で火竜誕生祭が開催されるのだ。十六夜たちでもその距離を自力で移動するのは不可能だ。となると、白夜叉に頼る可能性が高い。

 名亡きとレティシアが街を歩いているのは、黒ウサギを振り切って街に逃げた十六夜たちを待ち伏せするためだ。

 夕日で辺りが橙色に照らされている。煉瓦造の建物も相まって、名亡きはかつて神族たちが繁栄していた都市アノールロンドを思い出した。

 見上げれば優しい光を放つランプが無数に吊るされているのと、楽しそうな笑顔を浮かべた人々が行き交っているので、アノールロンドのような寂寥さは微塵もないが。

 ふと、向こうから人が来るのに気づく。

 使い古したであろう灰色のローブに身を包み、顔は見えない。枝のように細く、乾涸らびた腕から相当な高齢だと推察できる。

 大きな亀の甲羅のようなものを背負い、鎖で巻きつけている。老体には荷が重すぎるのだろう。杖をつき、その足取りは重い。

 名亡きは少し横にずれ、レティシアとの間に空間を作る。老人は軽く一礼して、その空間を通り過ぎる。

 

「名亡き、北の街はどうだ? 東側とは様式が変わっているだろう」

 

 沈黙に堪えかねて、レティシアが話題を振る。

 どうだも何も、レティシアが言った通り東側とは様式が違うという感想しかない。

 とりあえず当たり障りのない言葉で褒めておこうと思った、そのとき──

 

 

 

 

「あんた、薪の王かい?」

 

 

 

 

 背後から老婆のような掠れた声が聞こえた。

 耳を疑った。だって、この世界では決して聞くことがないと思っていた単語を、確かに聞いたのだから。

 衝動に任せて振り返るも、そこにあるのは人混みだけだった。名亡きはしばらく立ち止まり、呆然とそれを見つめる。

 薪の王。始まりの火に己の身を焚べ、世界に光を齎らす者を指す。それを知るのは、名亡きと同じ世界の住人しかいない。

 あの老婆が、そうなのだろうか。

 名亡きと同じく、この箱庭に召喚された者がいたとしても不思議ではない。正確には薪の王になる直前だが、一目見ただけで薪の王と判別できるのは不可解だ。

 

「……名亡き?」

 

 レティシアが心配そうな表情を浮かべる。アルゴールの前ですら平静を保っていた名亡きが、初めて動揺を見せたのだ。彼女が不安に思うのも無理はない。

 

「……いいや、何でもない」

 

 空耳、だったのだろうか。

 名亡きは進む方向へと向き直り、歩き始めた。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 結局、飛鳥はレティシアが捕まえたが、十六夜にはまんまと逃げられてしまった。

 十六夜は黒ウサギに任せて、名亡きたちは小休憩をしていた。

 

「飛鳥、名亡き、待たせたな」

「これは……?」

 

 何か買ってくると言ってその場から離れていたレティシアが、クレープを持って帰ってきた。

 レティシアの持ってるクレープを見て、名亡きと飛鳥は首をかしげる。そもそも食に娯楽を求める余裕なんてない名亡きは勿論、戦後の日本からやって来た飛鳥もクレープを知らない。

 

「クレープだ。なんだ、知らないのか?」

「くれーぷ……」

「美味しいから一口食べてみろ。何事も経験だぞ」

 

 飛鳥にクレープを渡す。

 ちなみに事前に食べ物は必要ないと言っていたので、名亡きの分はない。

 どうやって食べるのか分からない様子の飛鳥だったが、やがて意を決したようにクレープにかぶりついた。

 そして、顔を綻ばせる。

 

「美味しい……! 甘くて口の中がとろけそうだわ!」

「うん、気に入ってくれたようで良かった」

 

 レティシアは満足気に頷く。ふと、何も言わずに佇んでいる名亡きに目を向けた。

 

「なあ、一度でいいから顔を見せてくれないか。恩人の顔を知らないというのは、どうにもきまりが悪いんだ」

「……すまない、どうしても顔を見せるわけにはいかない」

 

 この兜だけは絶対に脱ぐわけにはいかない。亡者と何も変わらない顔を見せれば、厄介ごとのタネになるのは明らかだ。

 

「謝らないでくれ。こちらこそ無理を言ってすまなかった」

 

 レティシアは残念そうに顔を俯かせる。

 事情を知る飛鳥は気まずそうな顔をしている。

 

「あら、何かしら?」

 

 カップなどの小物に紛れて、とんがり帽子を被った小人がいる。

 

「妖精じゃないか。あのサイズが1人でいるのは珍しいな。はぐれか?」

「はぐれ?」

「あの手の小精霊は群体でいることが多いんだ」

 

 飛鳥は精霊に近づき、まじまじと見つめる。

 

「……」

 

 名亡きはさり気なくダガーを手に握る。

 精霊から悪意は感じないが、警戒するに越したことはないだろう。

 精霊は「ひゃっ!」と可愛らしい声をあげると、そのままどこかへ飛んでってしまった。

 

「残りはあげるわ!」

 

 飛鳥は食べかけのクレープをレティシアに渡し、精霊の後を追った。

 

「俺が追う」

 

 早歩きで飛鳥の後を追う。

 辺りを見回しながら歩いていると、程なくして飛鳥を見つけた。

 飛鳥の肩にはさっきの精霊が乗っている。どうやら懐かせるのに成功したようだ。

 

「あっ、名亡きさん」

「そいつは?」

「私もよくわからないんだけど…… ラッテンフェンガーと言ってたわ」

「そうか」

 

 精霊が不安そうな顔で名亡きを見てる。やはり全身甲冑が恐怖感を与えてしまうのだろうか。

 

「あすかー、だれー?」

「この人は名亡きっていうのよ」

「……ななき?」

「ああ」

 

 精霊は少しだけ警戒を解いてくれた。その様子に飛鳥も安心したように微笑む。

 

「折角だし、もう少し街を探索してみましょう!」

 

 名亡きたちは街を歩き回り、やがて洞窟で開催されている展示会に足を運んだ。

 ガラス細工の展示品が並び、飛鳥は目を輝かせながらそれを見ている。

 名亡きは何も言わず、飛鳥の後ろを歩く。

 

「大きい……!」

「でっか〜」

 

 洞窟の最奥には広いスペースがあり、鋼鉄の赤い巨人が佇んでいた。

 

「製作、ラッテンフェンガー…… 作名、ディーン…… もしかしてこれ、あなたのコミュニティが造ったの!?」

「らってんふぇんがー!」

「凄いのね、あなたのコミュニティは」

「えへへ〜」

 

 精霊は誇らしそうに胸を張る。

 ディーンを見て、名亡きはセンの古城の屋上にいたアイアンゴーレムを思い出した。

 アイアンゴーレムも強いことには強かったが、その決着には唖然とした。よろめいてる隙に攻撃したら、そのまま転倒し、屋上から真っ逆さまに落ちた。

 

「ねえ、名亡きさん。ハロウィンって知ってる?」

「ハロウィン?」

「名亡きさんも知らないのね。って、私たち3人とは世界が違うんだし当然よね」

 

 十六夜君から教えてもらったんだけど、と前置きしてるが、その表情はどこか得意げだった。

 

「ハロウィンは私たちの世界にある行事でね、子供たちが仮装をしてお菓子を貰うのだけど、元々は収穫祭だったの。名亡きさんもよく手伝ってるけど、ノーネームの裏手に農園跡地があるでしょ? 農園を復活させて、私たちのハロウィンパーティーをやろうと思うの!」

「……いいな、それは」

「ええ、名亡きさんも一緒に楽しみましょう!」

 

 兜の下にある名亡きの表情が、確かに歪んだ。

 この火竜誕生祭が終われば、名亡きはロードランに帰ることを検討するつもりだ。

 飛鳥が楽しそうに思い描いている未来には、名亡きの姿がある。飛鳥の言葉にどう答えればいいのかわからなかった。

 

「……俺、は──」

 

 名亡きの言葉を遮るように、洞窟の中にある灯りが消えた。辺りは一気に暗くなり、観客たちの困惑した声が響く。

 

「……見つけたぞ、ラッテンフェンガーの名を騙る不埒者!」

 

 女の声が洞窟の中で反響する。その声には剥き出しの敵意が含まれていた。

 綺麗であると同時に、どこか不気味な印象を与える笛の音色が響く。

 闇の中で何かが蠢く気配を感じた。

 誰かの悲鳴が響く。その気配の正体は、数えるのも馬鹿らしくなるくらいの大量の鼠だった。

 

「鼠っ!?」

 

 大勢で押し寄せる鼠たちは、まるで灰色の波のようだ。狙いは明らかに名亡きたち。普通の鼠とは違い、統率の取れた動きをしている。

 ふと、苦い思い出が胸に去来する。

 どこかの下水道。人喰い鼠に集団で嬲られて、命からがら切り抜けたと思ったら、毒に蝕まれて死んだ。それも一度や二度ではない。

 ここはロードランではないし、鼠の種類もまるで違うのはわかっている。それでも、心情的に皆殺しにしないわけにはいかなかった。

 さっさと逃げてくれたのか、目視できる範囲に人はいない。これなら巻き込む心配はない。

 

「久遠飛鳥、俺から離れるなよ」

「!!?」

 

 名亡きは飛鳥を抱き寄せる。

 普通なら赤面するシチュエーションだろう。しかし、飛鳥の顔からは血の気が引いていた。

 名亡きの本気の殺意が降りかかる。あまりの重苦しさに、空間が軋んでるようにさえ思えた。名亡きとしては、周りで蠢く鼠の大群を一刻も早く殺すべき敵と判断しただけだが。

 大群を前にして、近接武器でチマチマと潰すのは億劫だ。呪術で一気に仕留めよう。

 呪術。混沌の魔女イザリスが生み出した炎を操る業である。イザリスの炎は石のように頑強な古竜の鱗すら焼き尽くしたという。名亡き自身、その炎の強力さを身を以て体感した。

 呪術の発動に必要な触媒── 呪術の火をその手に宿す。師によって潜在能力を限界まで引き出された名亡きの呪術の火は、通常のそれと比べて突出した力を秘めている。少なくとも、ここら一帯を塵にできるくらいは。

 

「炎の嵐」

 

 火を纏った手を地面に着ける。

 そして、嵐が来た。

 名亡きと飛鳥がいる場所を中心に、地面から無数の火柱が立ち昇る。火柱は洞窟内を暴力的に照らし、地獄のような光景を飛鳥たちにまざまざと見せつける。鼠たちに逃げ場などなく、瞬く間に焼き焦がされる。痛みもなく灰となったのはせめてもの救いか。

 火柱が収まる。残ったのは火でグズグズに溶かされた岩肌と、嵐の後のような静けさだった。

 

「名亡きさん、火も操れたのね……」

「ああ」

 

 名亡きにできないことはないのではと、後に飛鳥は語ったという。

 

 





ぼくのかんがえたかっこいいてききゃら「ふはははは。名もなき亡者よ、貴様では我に勝てんよ」
名亡き「くっ……!」

パッチ「俺もいるぜぇ」
名亡き「パッチ」
ロートレク「お前だけにいいカッコさせんよ、クックック……」
名亡き「ロートレク……」
灰の人「大丈夫、わかってるから! 絶対に裏切るなって言われてるから! 絶対にやるなって言われてるから大丈夫! 」
仮面巨人先輩「┐(´д`)┌ヤレヤレ」
名亡き「みんな……」

悪魔超人「こ、これが友情パワーか」



 ──YOU DIED



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