不死人が異世界から来るそうですよ? 作:ふしひとさん
城壁を越えた先には、広大かつ壮健な城郭都市が広がっている。
ここは神々に棄てられた都市アノール・ロンド。かつては火の時代の象徴として栄華を極めていた。しかし、大王グウィンが薪となるため旅立ったのを契機に、凋落の一途を辿った。
黄昏に染まっていたアノール・ロンドも、今では薄暗い闇で包み込まれている。都市の支配者が入れ替わったのを暗示するように。
十六夜たちはフラムトに案内され、アノール・ロンドの廻廊を歩く。薄暗く、静けさも相まって不気味な雰囲気が漂っている。
行き着いたのは巨大な扉。十六夜たちが扉の前に立ったとき、彼らを迎え入れるように独りでに扉が開く。
扉の先には、玉座に座る名亡きの姿があった。
十六夜たちは玉座まで繋がる赤いカーペットの上を歩く。
「……何故この世界に来た」
名亡きの言葉には明らかな拒絶の意思が含まれていた。
「おいおい、遥々世界を越えてやって来たのにその言い草かよ。もう少し歓迎してくれても良いんじゃねえの?」
軽口を叩きながらも、十六夜の目は険しい。
いつものように全身を鎧で覆い、外見は普段と特に変わりない。しかし、以前の名亡きではないと断言できる。確実に何かが変わってしまっていると肌で感じる。
「……フラムト、貴様がここに連れてきたのか」
十六夜たちの背後に控えているフラムトに目を向ける。その声色は十六夜たちに向けたものと比べ、ゾッとするような冷たさを帯びていた。
しかし、フラムトは表情を変えない。
「この方たちは王のご友人だそうで。遠路遥々お越しくださったのに、無碍に追い返すのはあまりに忍びなく、お通ししました」
フラムトはそう言いながら頭を下げる。
しかし、名亡きは知っている。この蛇はまだ火の時代を諦めていない。十六夜たちをここに招き入れたのも、そんな意図があってのことだろう。
「名亡きさん、フラムトさんから全部聞いたわ。この世界の現状も、そしてあなたがやろうとしてることも。自分を犠牲にして世界を救おうとしてるなんて、思いもしなかった」
道中、飛鳥たちはフラムトからこの世界の成り立ちと、名亡きの使命を聞かされた。
1人の男が運命に翻弄された末に名亡きとなり、恩人の使命を受け継ぎ、己が犠牲になることを承知の上で、殺し殺されを繰り返してきた。
それを聞いたとき、言葉が出なかった。飛鳥たちが想像していたよりも、名亡きのこれまではずっとずっと悲惨だった。
「……少しだけ違うな。俺が薪になっても世界は救われない。いつか必ず火は消える。問題を先延ばしにするだけだ。箱庭で未来の不死人と出会った。そのとき、未来でもはじまりの火は消えかけていることを教えてもらった」
だからこそ、これまでの全てが無意味だと知った名亡きの心境は如何なるものなのか。飛鳥たちが窺い知れるものではない。
「なあ、フラムト。俺が火を継いでもいつかは消えると知っていたんだろ? お前の話は確かに胡散臭かったが、俺は本気で世界を救えると思って戦ってきた。お前の目に、俺の姿はさぞ滑稽に映っただろうな」
その紅い目で名亡きを見つめるだけで、フラムトは何も言わない。
「不死に苛まれる人々をこれ以上増やすくらいなら、俺が終止符を打つと決めた。世界を深淵に堕とし、全てを無に還す。無論、この俺自身もな」
自身も含め、世界の全てを終わらせる。それが名亡きの── 闇の王の目的。
あまりにどうしようもなく、身勝手で、そして哀しい決意だ。
「名亡きの気持ちも、わかるけど…… 何も知らずに深淵に呑まれた人はどうなっちゃうの……!?」
「生きとし生けるものが深淵に呑まれれば、闇と同化して深淵そのものになる。そこには安寧も苦痛もない」
アルトリウスの指輪を付けずに深淵に飛び込んだとき、名亡きは死んだ。いや、死んだというよりも闇に溶けていった。
完全なる闇── 深淵に堕ちたとき、何も感じなかった。不快さも、快さも、そこには何もない。
当時、名亡きは不完全な不死だったからこそ篝火に逃げることができた。はじまりの火が消えた今、人は完全な不死となり、闇の中に溶け続けるしかない。
「俺を悪だと思うか? だが、これだけは言える。苦痛しかない世界に比べれば遥かにマシだ。今もなお深淵の侵食は続いている。もう誰にも止められない。お前らにできることはないし、俺もここから動くつもりもない。理解できたら箱庭に早く帰れ。ここが深淵に呑まれるのも時間の問題だ」
飛鳥は思い出す。長くはなかったけれど、名亡きと共に過ごしたノーネームでの日々を。
名亡きは箱庭の世界に馴染むように四苦八苦していたけれど、その力を振るうのはいつだって誰かのためだった。そして、誰かのために傷つき、死んでいた。
飛鳥たちは誰よりも近くでその姿を見てきた。その姿が嘘なはずがない。
「私は…… 帰らない。だって、名亡きさんがこんなに苦しんでるのに、放っておけるわけないじゃない!」
「俺が苦しんでるように見えるか」
「ええ、見えるわ! 名亡きさんだって本当はこんなことを望んでいないでしょう!? 箱庭に帰りましょう! あそこならきっと世界を救う方法があるはずよ! そうでしょ、黒ウサギ!」
「それ、は……」
飛鳥は祈るような表情で黒ウサギを見る。
黒ウサギは口を閉ざしたままだ。こんな闇に覆われた世界を救う方法が、本当に箱庭にあるのだろうか。
否定はしない。もしかしたら、そんな方法も探せばあるのかもしれない。しかし、その場しのぎのように無責任な肯定はできない。
飛鳥は悲痛な表情を浮かべた。黒ウサギの沈黙が全てを物語っている。白夜叉のような規格外の修羅神仏がいる世界でも、この世界は救えないのか。
「俺はもう、後戻りできない。ここから離れるつもりはないし、今更別の解決手段を探すつもりもない」
名亡きも夢を見ていた。自分一人が犠牲になって世界が救われるという、御都合主義な夢を。
しかし、世界はいつだって残酷だ。夢のような解法はいつまでたっても現れない。この世界を救う方法が都合良く箱庭に転がっているとも思っていない。
それに、ロードラン以外の地を深淵に堕としている。歯向かう者たちも、そうでない者たちも、分け隔てなく終わらせた。今更違う手段を取れるわけがない。
「世界を無に還す、か。俺たちが会ってきたどの魔王よりも魔王らしい発言だぜ、名亡き。対魔王専用コミュニティ『ノーネーム』の一員として、こんな大物の魔王様を見逃すわけにはいかねえな」
今まで静観を決めていた十六夜がとうとう動き出した。不敵な笑みは消え失せ、その代わり敵意が剥き出しの目をしていた。
「お前と闘うのは楽しみだったけどな、今はそれ以上にムカついてんだ。俺たちに黙って元の世界に帰ったのはまだいい。そっちの都合もあるからな。けれど、はなっから全部諦めて世界をぶっ壊そうとしてんのが気に食わねえ!」
黒ウサギたちは息を飲む。十六夜がここまで怒りを露わにしたことが、今まであっただろうか。
「……逆廻十六夜。お前を潰せば、久遠飛鳥たちも諦めるか?」
名亡きは玉座から立ち上がる。その手には無骨な剣が握られている。
無銘の剣。かつての銘や担い手を忘れてしまった哀れな剣だ。名亡きが不死院を出てから最初に出会った武器でもある。
名亡きも己の素性も忘れてしまってるからか、この剣に妙なシンパシーを感じた。性能の良い武器たちに出番を奪われてからも、捨てることができずにいた。
最期を迎えるまでは、この剣で戦おう。
無銘の剣の刀身に闇を纏わせる。闇の王となった名亡きは闇を自在に操る力を手に入れた。かつての深淵の主マヌスのように異形化しないのはソウルの強靭さ故か。
「名亡きからのご指名だ。お前ら、手ぇ出すなよ。こいつは俺の喧嘩だ」
「十六夜様だけ戦わせるわけにはいきません! 黒ウサギも加勢します!」
「そうだよ、私たちだって……!」
「何遍も言わせんな、すっこんでろ! お前らじゃ足手纏いだ」
自分勝手かつ乱暴な口調で怒鳴るが、それは十六夜なりの優しさだった。
これはギフトゲームではない。血で血を洗うような壮絶かつ悲惨な殺し合いだ。そんな戦いに巻き込むわけにはいかない。
何より、飛鳥たちでは名亡きに太刀打ちできないだろう。そう感じさせるだけの力が、今の名亡きにはある。
「……YES、わかりました。十六夜様、ご武運を」
「おう、わかったからさっさと離れろ」
黒ウサギたちは部屋の端に移動する。
十六夜は一瞬だけ申し訳なさそうな目を黒ウサギたちに向ける。そして、すぐに名亡きへと向かい直る。
「待たせたな、名亡き」
「……」
両者の間にはまだ距離があるが、その身体能力を考えればあってないようなものだろう。
極限まで研ぎ澄まされた闘気が渦巻き、悲鳴をあげるように空気が震える。
「──行くぜ」
最初に動いたのは十六夜だった。強烈な踏み込みにより、音を置き去りにして名亡きの目の前まで迫る。
轟音が遅れて耳に届く。名亡きが辛うじて知覚できたのは、目の前で拳を振るうモーションに入った十六夜の姿だった。
だが、今の名亡きには攻撃を防ぐ必要も、躱す意味もない。相討ち上等と言わんばかりに無銘の剣を振るう。
刃が十六夜の脇腹に触れた。闇に溶かされる悍ましい感覚を味わいながら、名亡きを思いっきり殴り抜く。
名亡きは地面に足を着きながらも、殴られた衝撃で大きく後退する。
十六夜の頬に冷や汗が伝う。もし一瞬でも名亡きの攻撃が速ければ、果たしてどうなっていたか。
いや、それよりも問題なのは攻撃の手応えのなさだ。それを裏付けるように、今の名亡きからはダメージを負った様子が微塵も感じられない。
まさか、傷すら負わない完全な不死身だとでもいうのか──!?
「追え」
仮初めの意志が与えられた闇── 人間性が、名亡きの空いている手から放たれる。
火に魅入られた蛾のように、人間性は十六夜に向かって宙を走る。
速さはない。おそらく牽制だろう。しかし、この攻撃も触れてはならないと本能が警告している。
十六夜は逆に前に進むことによって人間性の間を縫い、どうにか触れることなくやり過ごす。
「!」
その先に待っていたのは、無銘の剣を振り上げた名亡きだった。強引に体勢を変え、振り下ろされた刃を紙一重で躱す。
十六夜なら躱すと読んでいたのだろう。名亡きは瞬時に十六夜の腕を掴み、そのまま地面に叩きつける。
背に地面を着けた十六夜が見たのは、今まさに無銘の剣を突き立てようとする名亡きだった。
躱せない。そう判断した十六夜は刀身に掌を当てることによって、鋒の行方を逸らす。その結果、鋒は心臓ではなく肩を貫いた。
白夜叉に授けられた太陽の光の加護が、あっけなく闇に掻き消される。
体の中に無数の虫が蠢き、内側から食い荒らされるような感覚。食い込んだ鋒から闇が侵入する── と同時に、体の内側から何かが湧き上がってくる。
「!?」
十六夜の体から暴発したように光が溢れ出し、名亡きを無銘の剣ごと吹き飛ばす。
名亡きは空中で体勢を立て直し、地面に着地する。名亡きが目にしたのは、地面に横たわる十六夜の姿だった。
あの光は十六夜の仕業だろう。今まで見たことのない力の密度だった。
力の底がまるで知れない。味方なら頼もしいが、敵に回すとなんと恐ろしいことか。
そう戦慄しながらも、名亡きは無銘の剣を下ろした。十六夜は起き上がれないと確信したから。
「十六夜様!」
黒ウサギたちは倒れる十六夜に駆け寄る。
「十六夜様、ご無事ですか!?」
「十六夜! 起きて、十六夜!」
息はしているが、意識はない。どれだけ名前を呼びかけても、肩を揺さぶっても、十六夜は眠ったままだ。
「箱庭に戻れ。ここはお前たちがいていい場所ではない」
名亡きはそれだけ言うと、部屋の端にいたままのフラムトに目を向けた。
「それと、フラムト」
「はっ」
一瞬にして膨れ上がる殺意。仮に十六夜の意識があれば、結果は違っていただろう。
名亡きは目にも留まらぬ速さで距離を詰め、フラムトの首を斬り落とした。
「ガッ──!?」
「フラムトさん!」
頭部が地面に転がると同時に、フラムトの巨体が後を追うように地面に倒れる。
「これ以上彼らに余計なことを言われたら困るからな。死ね」
名亡きは地面に転がるフラムトの首を冷徹に見下ろす。
「──、───」
「……!」
黒ウサギの耳がピクリと動く。
とうとう力尽きたのか、フラムトは光の粒子となって消えた。
フラムトが死んだのを確認すると、名亡きは無銘の剣を消し、玉座へと戻った。
黒ウサギは何かを決意した表情を浮かべ、倒れる十六夜を腕に抱えて持ち上げた。
「行きましょう、皆さん。十六夜さんが敗れた今、黒ウサギたちにできることはありません」
「待って、黒ウサギ! もう少しだけ名亡きさんと話させて!」
「聞き分けてください、飛鳥さん!」
黒ウサギの厳しい口調に飛鳥は押し黙る。黒ウサギの言葉がどこまでも正しいと分かっているから。
「名亡き様、失礼しました」
「……」
名亡きは玉座に座ったまま何も言わず、黒ウサギたちの背中を見送った。
誰もが暗い表情でアノールロンドの廻廊を歩く中、黒ウサギは口を開いた。
「飛鳥さん、黒ウサギもこのまま帰るそのつもりはありません。フラムトさんが今際の際に教えてくれました。黒ウサギたちにもまだやれることがあります」
おそらく、フラムトは耳のいい黒ウサギに向けて言葉を遺したのだろう。
「イザリスの魔女を探しましょう」
もしもダクソ全シリーズの主人公が一気に来たら
灰の人「うはw何度でも死ねるwおもしれw」ユーダイドユーダイドユーダイド
仮面巨人先輩「なあソウルだろ!? ソウル置いてけ! ソウル置いてって死ね!」
名亡き「……」→帰還の骨片
黒ウサギ「」
名亡き「お初にお目にかかります、白夜の王よ」
仮面巨人先輩「死ねえぇぇぇぇソウルよこせぇぇぇ!!!」ユーダイド
灰の人「乗るしかないwこのビッグウェーブにw!!」ユーダイド
名亡き「いや俺は関係な」ユーダイド
黒ウサギ「」
仮面巨人先輩「起き攻めだ、起き攻めを狙え!!」ドシャ!
灰の人「呪死うっぜえんだよ死ね! 二度とその面見せんな蛇女!」グシャ!
名亡き「……」メメタァ!
黒ウサギ「」
仮面巨人先輩「ソウルだ! 殺していい魔王のソウルだ! ソウルよこせ!!」
灰の人「審判決議中は攻撃するな? 分かってる分かってるw大丈夫w! 絶対やらないw絶対やらないからw!」ドゥゥゥゥン
名亡き「……」E:クラーグの魔剣
黒ウサギ「」
仮面巨人先輩「よこせ! お前らのソウルもよこせ!!」
灰の人「お前がw死ねw」
名亡き「……」残光ブンブン
黒ウサギ「」
結論:黒ウサギの胃が死ぬ
感想・評価を注ぎ火してくれると嬉しいです。