不死人が異世界から来るそうですよ?   作:ふしひとさん

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次回予告詐欺になってしまいました。猛省。


立ち向かう人

 その日、平和な箱庭で珍しい事件が起きた。

 殺人事件だ。それも、殺されたのはガルド=ガスパーである。良い噂を聞かないとはいえ、それなりに地位のある人物だ。

 彼ら憲兵が普段取り締まるのは、酔っ払いや物盗りなど、小物の犯罪者である。2度と訪れないであろう大きな事件に、彼らは不安に思いつつ、この地域を守るのは自分たちだと奮起していた。

 

「なん、だ…… これは……!?」

 

 憲兵たちは目の前の光景に絶句した。胸に抱いていた様々な思いは、あっさりと霧散した。残ったのはただ1つ、純然たる恐怖。

 地べたに打ち捨てられた肉の塊。周囲には血が散乱している。これが数時間前まで人だったと、誰が信じられるだろうか。

 

「俺がやった」

 

 全身を鎧で包んだ男がそう言った。彼の口調は呼吸をするように淡々としていて、本当に人を殺したのか疑いそうになる。だが、自白してるなら彼が犯人なのだろう。

 

「き、貴様がやったのか……!」

 

 憲兵たちは一斉に剣を抜く。しかし、その手元は情けないくらい震えていた。自分があの無残な肉塊にならない保証はどこにもない。

 

「ま、待ってください!」

 

 名亡きと憲兵たちの間にジンが割り込む。

 

「誰だ、この子供は……?」

「ジン=ラッセルだよ、ノーネームの……!」

 

 ジンは大きく息を吐く。

 名亡きがガルドを殺したことは事実だ。だが、ことに至るまでの状況を考えれば、情状酌量の余地は十分にあるはずだ。

 ノーネームのためにも、名亡きのためにも、ただの殺人者として引き渡すわけにはいかない。名亡きが箱庭にいれるかどうか、今はジンの小さな肩にかかっている。

 

「名亡きさんがガルド=ガスパーを殺害したのは理由があるんです。彼を拘束する前に、どうか話を聞いてくれませんか?」

「ふ、ふざけるな! この状況で子供の話なんて聞いてられるか!!」

 

 しかし、誰も剣を納めない。

 ノーネームにもっと信用があれば、結果は違ったのだろう。己の非力さに拳を強く握り締める。

 どうすれば話を聞いてくれるのか、ジンは必死に頭を働かせる。そのとき、彼の隣にいる飛鳥が口を開いた。

 

「確かにこんな緊迫した状況で、そう思うのも無理はないわ。ただ、少し落ち着いて私の話を聞いてくださらない?」

 

 飛鳥の言葉を聞いて、憲兵たちの緊張した表情が幾らか和らいだ。

 彼女の恩恵にはこんな使い方もあるのかと、ジンは感服する。

 

「……どういうことだ、手短に話せ」

 

 憲兵の1人が剣を下ろした。それに呼応するように、他の憲兵たちが次々と剣を下ろす。

 

「後はお願いね、ジン君」

「はい、任せてください……!」

 

 飛鳥の恩恵により、ガルドは他のコミュニティから子供を人質として連れ去り、しかも既に殺してしまったのを暴いたこと。

 飛鳥を逆上して襲いかかってきたガルドから守るため、名亡きはガルドに攻撃したこと。

 これらの点を強調して、名亡きがガルドを殺すに至った経緯を説明する。

 憲兵たちの表情からは、ガルドのあまりに人の道から外れた行いに対する驚愕が現れていた。

 

「本当なのか、その話は……!?」

「しかし、確証がどこにも……」

 

 ジンの話が嘘か真か、いずれわかることだろう。しかし、この場で判断を下すにはあまりに情報が足りなすぎる。

 憲兵たちも名亡きをただの罪人として捕縛していいのか、決めあぐねている。

 

「……間に合った?」

 

 そんな状況を打ち破るように、耀と黒ウサギ、十六夜がやって来た。足の速い耀に、黒ウサギたちを早急に連れてくるよう頼んでいたのだ。

 

「よ、耀さん! それに黒ウサギ!」

「く、黒ウサギさん……!?」

 

 憲兵たちからも安堵の息が漏れる。ノーネームはともかくとして、箱庭の貴族でありサウザンドアイズの専属審判である黒ウサギ個人に対しては絶大な信頼がある。

 

「こ、これは……!」

 

 黒ウサギは顔を青くしながらガルドだった肉塊を見た。

 耀から話は聞いていたが、それでも今の今まで信じられなかった。まさか名亡きがこんなことをするなんて。

 

「……名亡きさん、本当にあなたがガルドを殺したのですか?」

「ああ、そうだ」

 

 短く肯定して、それっきり口を噤んだ。

 言い訳すらしないその姿は、いっそ清々しくすらある。

 

「……YES、わかりました」

 

 黒ウサギは憲兵たちに向き直った。

 

「憲兵の皆様、名亡き様の身柄を黒ウサギに任せてくれませんか? 箱庭の貴族の名に懸けて、彼の処遇は白夜叉様に断じてもらいます」

「白夜叉様に!?」

 

 白夜叉。サウザンドアイズというコミュニティに属する幹部の1人である。

 その力は絶大で、箱庭の東の地区には敵なしとも言われている階層支配者だ。彼女の裁定なら、ほとんどの箱庭の住民が納得できるだろう。

 それに、黒ウサギは白夜叉と親しい関係を築いている。罰を下されるにせよ、どうにかその重さを減らすことができるはずだ。

 

「……わかりました。あの方の審判なら私たちも従いましょう」

「ありがとうございます!」

 

 こうして、名亡きたちはサウザンドアイズへ足を運ぶことになった。

 

「……」

 

 これまでのやり取りの中、十六夜だけがガルドだった肉塊に一切目を向けず、その場に佇む名亡きを見ていた。まるで、彼の正体を見極めようとするように。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 サウザンドアイズ支店にいるという白夜叉に会いに、名亡きたちは桜並木を歩いていた。

 桜の美しさに、飛鳥を始めたとして女性陣は感嘆の声をあげる。

 舞い散るピンクの花弁を見ながら、この木は人の血を養分にしてるのだろうか、と名亡きは1人物騒なことを考えていた。

 名亡きの世界に桜はなかった。自分が這い蹲っていた世界との違いを、改めて感じさせる。

 

「すまない、迷惑をかける」

 

 名亡きがポツリと呟いた。ガルドを殺すことが、こんなにも迷惑をかけるなんて思いもしなかった。

 それに対して、黒ウサギは困ったように笑いかける。

 

「いえ、気にしないでください。名亡き様のいた世界と箱庭の世界の常識が違うのは当たり前です。しっかりと箱庭の常識を伝えていなかった黒ウサギたちに非がありますから」

 

 名亡きは首を横に振り、黒ウサギの言葉を否定した。

 

「……きっと、お前たちに落ち度はない。他の世界では、こうも簡単に人の命を奪いはしないのだろう?」

「……そ、それは」

 

 言葉に詰まる黒ウサギ。それは名亡きの言葉を肯定するのと同義だった。

 自分の世界がどれだけ悲惨で狂いきっているのかは、十六夜たちの自分が死んだときの反応で理解した。

 元より自分の世界が素晴らしいものだと思っていない。寧ろ掃き溜めよりもタチが悪いと思っている。だが、ここまで命の重さに違いがあるとは思わなかった。

 現に、ガルドの命を奪った行為自体には何ら疑問を抱いていない。それが許される場であるなら、それこそ呼吸をするように殺すだろう。

 誰が悪くてこんな事態が起こってしまったのか。いや、きっと誰も悪くないのだろう。黒ウサギたちも、名亡きも、誰も悪くない。

 それをわかっているからこそ、2人の会話は終わってしまった。

 

「そんなに謝らないでちょうだい、名亡きさん。やり方がどうであれ、私を守ってくれたことに違いはないんだから」

 

 2人に助け舟を出すように、飛鳥が会話に入ってきた。

 

「そういえば、ドタバタしててちゃんとお礼を言えてなかったわね。ありがとう、名亡きさん。おかげで助かったわ」

「ああ」

 

 そんな彼らのやりとりを聞き、ジンは名亡きがどんな世界からやって来たのか気になった。

 

「あの、名亡きさんのいた世界はどんな場所なんですか?」

 

 何となく名亡きには聞きづらくて、隣にいた十六夜に聞いてみる。

 

「不死の化け物がわんさか彷徨ってる世界だとよ。そして、あいつ自身も不死の1人だ。実際、俺たちの目の前で一度死んだ」

「ふ、不死!?」

 

 あまりにも規格外な名亡きの恩恵と、そんな者たちが多数存在するという世界に、ジンは驚きの声をあげる。

 神仏級ならまだしも、人の身でありながらそんな恩恵を持つなんて、箱庭全体を通してもそうそういないだろう。

 

「そんな世界だからこそ、あいつはああして狂っちまったんだろうな。詳しいことは知らねえから、気になるんなら直接名亡きに聞いてみな。教えてくれるかは知らねえが」

 

 ふと、洋風な民家の中で一際異彩を放つ和風の建物が見えてきた。事前に話に聞いていたが、あれがサウザンドアイズの支店だろう。

 

「見えてきました、あそこがサウザンドアイズの──」

「いやっほぉぉぉぉぉぉ!!!! 久しぶりじゃの黒ウサギぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 和服を着た少女が店から飛び出し、勢いそのまま黒ウサギに抱きついた。黒ウサギもろとも、近くに流れていた水路まで吹き飛ぶ。

 黒ウサギの膨よかな胸に飛び込み、頬ずりをする少女。事情をよく知らない問題児たちは呆れた目を向ける── ただ1人、名亡きを除いて。

 名亡きはただ、戦慄していた。

 何だ、アレは。

 魂がざわめく。まるで悲鳴をあげるように。

 この感覚は覚えがある。薪の王グウィンと対峙したときと似ている。グウィンは薪となり疲弊していたとはいえ、この少女からはそれ以上の何かを感じる。

 見た目はただの少女だ。勿論、見かけだけで敵を判断してはいけないのはわかっている。だが、これはあまりにも──!

 今の自分で殺せるだろうか。そんな疑問が自然と心に浮かび上がる。

 名亡きは今まで、神だろうが竜だろうが英雄だろうが闇の眷属だろうが、立ち塞がる者は斃してきた。斃すまで挑み続けた。

 だが、目の前の少女に勝てるヴィジョンがほとんど見えない。力の差が歴然すぎる。久しくなって味わう絶望感だった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 サウザンドアイズのとある一室。

 そこは白夜叉の私室だ。

 障子や畳、壁掛けなどがある和室である。

 十六夜は姿勢を崩しながら座り、ジンと女性陣は正座をしている。そして、名亡きは膝をつきながらこうべを垂れていた。

 部屋の主である白夜叉は、肘掛けに肘をかけながら名亡きを見ていた。

 

「なるほど。それでおんしがフォレス・ガロのリーダー、ガルド=ガスパーを殺したと」

「……はい、いかなる処罰も受け入れる所存です」

「そう堅苦しくするでない。元より、私がいずれガルドの悪行を暴き、相応の罰を下す予定じゃった。私の管理する東区画で、随分と好き放題してくれたみたいじゃからのぉ」

 

 そう言いながら、白夜叉は扇子をいじる。

 普段のおちゃらけた様子からは窺えない、支配者に相応しい鋭い目を見せる。

 

「フォレス・ガロが傘下として加入していた666の獣とは既に話をつけておる。ちょちょいと口裏を合わせればどうとでも報告できるじゃろ。それに、向こうはガルドなんぞどうでもいいといった様子だったがの。まあ、黒ウサギの顔を立てるのもあるが、理由も理由じゃ。おんしを悪いようにはせぬよ」

「ありがたきご温情、恐縮の至りです」

 

 名亡きは一層深く頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございます白夜叉様!」

「その代わりと言ったら何じゃが、黒ウサギの胸を小一時間ほど好きに──」

「それとこれとは話が別でございます!!」

 

 白夜叉の頭をハリセンで叩く黒ウサギ。ハリセンで叩かれているのに幸せそうな表情をする白夜叉。そんな状況でも気にせず、深々と頭を下げる全身を鎧で包んだ名亡き。

 控えめに言ってカオスだった。

 

「改めて凄い絵面ね」

「うん、チグハグ」

「そもそも、どうして名亡きさんはあんなに畏まってるのかしら」

 

 名亡きは口調だけでなく、その立ち振る舞いも非常に畏まっている。

 ただの少女とは思わないが、どうして名亡きがそこまでするかがわからない。

 

「そっちの話は終わったみたいだな」

 

 それまで黙っていた十六夜が口を開く。まるで新しいオモチャで遊ぶのを我慢してるような表情だった。

 

「よお、サウザンドアイズの白夜叉さんよ。あんた、東の区画じゃ最強なんだって?」

「ふむ、相違ないぞ」

 

 十六夜は口元を凶悪に吊り上げ、すくりと立ち上がる。

 それに合わせて、飛鳥と耀も立ち上がる。

 彼らの闘争心を剥き出しにした表情からして、考えていることは同じらしい。

 名亡きだけはただ、石像のように膝をついたまま動かない。

 

「丁度良い。お前をぶっ倒せば、ノーネームの地位は一気に駆け上がるじゃねえか」

「そうね、私も是非ともお相手したいわ」

「うん、手っ取り早い」

「なっ、御三方!?」

 

 黒ウサギは慌てた声をあげる。

 これだけは断言できる。どれだけ十六夜たちが規格外の力を持っていても、白夜叉に勝てることはないと。

 

「血気盛んなようで結構。では、おんしらに一度問おう」

 

 白夜叉は薄っすらと笑い、袖の中から白いカードを取り出した。

 

「望むのは挑戦か、それとも決闘か?」

 

 




 ───オレの名前は名亡き。心に傷を負った不死人。キモガリで不幸体質の憎まれボーイ♪
オレがつるんでる友達は玉ねぎを被っているジークマイヤー。太陽になりたいっていつも言っているソラール。訳あって心が折れている青ニート。
 友達がいてもやっぱりロードランはジゴク。今日も不死人とちょっとしたことで落ちて死んだ。不死人同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時オレは一人で黒い森の庭を歩くことにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!
 「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながら小さいキノコを軽くあしらう。 どいつもこいつも同じようなソウルしか落とさない。
 小さいキノコはカワイイけどなんかしつこくてキライだ。折角森林セラピーをしに来たのに、もっとオレを休ませてほしい。
 「・・。」・・・またか、とやつれたなオレは思った。シカトするつもりだったけど、 チラっとキノコの顔を見た。
「・・!!」
 ・・・チガウ・・・今までのキノコとはなにかが決定的に違う。 スピリチュアルな感覚がオレのカラダを駆け巡った・・。
「・・(デカイ・・!!・・これって運命・・?)」
 エリンギ親分だった。右ストレートでガード貫通された。「キャーやめて!」エスト版も飲めなかった。
「ガッシボカッ!」オレは死んだ。スイーツ(笑)


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