「今回は泊まるとして、明日から旅を共にする仲なので、自己紹介とかでもしておきましょう。私はユウと申します」
「…お、おう。俺はキルト。元ヴァンガード所属…というのは有名な話か」
ヴァンガード。
俺がさっきから言ってた駆除隊の名前だ。
俺はあそこでトラブルを起こし、今はこの辺境に逃げ込んでいる。そのトラブルというのはユウの口ぶりからして大体予想つくだろうが、一応話しておこうか。
「俺は殺人を犯した。自分で言うのもなんだが余りにも駆除隊として成績が良かったもんで、同胞から小馬鹿にされたことに対して我慢できず、手に持っていたナイフでそいつの喉をかき切り殺してしまった。俺はその犯行を自首し、そして遠く街から離れたこの草原で静かに生活をしていた」
一通りの過去を聞き終わると、ユウもそれに呼応するように自分の過去を話し始めた。
「私は母が重い病気を患っていて、幸い魔法などは少し使えるのでそれで強いモンスターを倒して小遣いを稼ぎ、そして薬を買おうと思っていたのですが…。母は私が薬を買って家に帰ったとき、呆気なく死んでいました。どれくらい時間がたったのか知りませんが、肉体が少し腐食していました。私は家を出て、そして生きる目的を失くして当てもなくここをふらついていたところ、偶然あなたを発見したのです」
「ふーん…」
「私はキルトさんが悪い人ではないことを良く知っています。あの殺人を犯したというニュースが流れた時は流石に驚きましたが…。しかし強い者に悪い人はいないっていうではないですか。きっと何らかの事情があって殺人を犯したのではないかと思っていました」
「………申し訳ないな、そこまで思わせておいて。ついかっとなってやってしまっただけだから、事情もクソもないんだ。それ以上でもそれ以下でもない」
この言葉を聞いてユウはしゅんとなるかと思いきや、あまり表情は変化していなかった。気を遣っているようにも見えるけど。
「いえ、いいんです。どんな下らない理由であろうと、事情は事情なのです。あまり劣等感を抱く必要などありません。私だって、同じくらい愚かでしたから」
さり気に俺の事を愚かと言ってしまったユウであったが、その屈託のない笑顔は悪気があったようではなく、言葉の綾だということに気が付いた。
……間に合わなかったのと殺人を犯したのでは、愚かさに違いがあるような気がするが。
「明日からどこへ行きましょうか? とりあえず『ラグナロク』に向かおうと思うんですが」
「……「ラグナロク』か。まあそこでしか天空世界に行けないからなぁ…。そこに向かうしか無い気がするけど。俺は他に行くとこないし」
「決まりですね。では次の日、そこへいきましょうか」
……天空世界と空往き者の関係について話しておこうか。
まずこの世界には天空世界なる空間が存在しており、そこには神が所々に住んでいる。この世界の創造神、破壊神、様々な物を司る神、魔神さえも。
本来ならその世界に人間が足を踏み入れることは許されないのだが、ごく稀にそれを許可された人間がいる。
それが空往き者だ。
そしてほぼ全ての旅人は、この天空世界に足を踏み入れ、魔神を討伐することを目的としている。
だから天空世界へ行くことを目標とする者の定石として、必ず空往き者を仲間に加える必要があるのだ。
ちなみに何故魔神を斃すことが目標とされてるのかというと、それは例の大戦争が起きたからだと言われている。人間側のリーダーが半ばヤケクソ気味に魔神が首謀者であり、彼を倒せばこの世界に安泰が訪れると提唱し、それから魔物を倒して旅する冒険者は魔神を斃すべく冒険している。
『ラグナロク』とは天空世界へ足を踏み入れるためのゲートの名前である。そのゲートは世界のどこかにあると言われており、居場所を知った者は必ず誰にも明言したいことを名状しがたい者に約束されている…と、言われている。真偽は定かでは無いけど、天空世界に足を踏み入れた者がいるにもかかわらず全く『ラグナロク』についての場所の情報が出回っていないところを鑑みると真実である可能性は高い。
…俺が知っているのはここまでだ。
「ではもうここらで寝ましょうか。眠くなってきましたし」
「ん…ああ、そうだな。じゃあユウ、明日からは頼むよ」
「私は憧れのキルトさんのもと共に戦えることを光栄に思っています。明日からはなるべくサポートに徹しようと思っていますので、どうぞ宜しくお願いします」
俺とユウはそれぞれ違うベッドの中に入り、そしてそのまま眠りに就いた。
静寂の中、外から雨が降っている音が微かに聞こえた。