テロリストに家族を殺された立花白雪
彼女が追い続けるは、伝説のテロリスト通称【鬼神】一人の少女が伝説を超えるまでの短い生涯とは。

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復讐に染まった世界で踊る彼女は儚くも美しい

「7件の殺人と内乱罪で被告立花白雪に死刑を言い渡す」

 

(はぁ・・・結局は死刑か。まぁどうでもいいや。)

私は自身への死刑判決に驚くことも、悲嘆にくれることもせずただただ裁判長の眼だけを見ていた。私は20歳にして小規模テロ組織に入り2年間で7人を殺害し今ここに死刑が確定した。

しかし立花白雪のそれは過激派組織に見えるような凄惨、陰湿な暴力ではなくの(かたき)ため、そして一人のかけがえのない男のためにその力を振るった強くも儚い復讐劇だった。

 

始まりは私の19歳の誕生日が間近に迫った冬だった、ここ最近紛争は中東の国々だけではなくなり、世界各国にテロ行為が蔓延し日本でもいくつかの地域が争いを始める戦乱の世に戻ってしまっていた。私は、静かな田舎町で争いとは無縁の生活を送っていた。テロ行為が蔓延しているとは言っても大部分は政府によって鎮圧され徐々に平和な国に戻りつつあった。だが

 

「お頭、終わりました。この家の住人は誰も残っちゃいません。」

 

ある夜突如として家を襲ったテロ組織に両親や姉、弟を殺害された。私は、母によって地下の物置に匿われ生き延びたがその間に家族が殺害される断末魔をただ震えながら聞き続けることになった。

 

「ご苦労・・・しかし殺すのはやはり忍びないな、生かしてやるべきだったんじゃないのか?」

 

「仕方ありませんよお頭。それもこれも今の政府が悪いんですよ俺たちは正義のためにこうしてるんです。それにこの家は政府の高官と繋がっていたって話でしたから見せしめのためでもあるんです」

 

構成員と思われる男と頭目と思われる男が考えの違いについて話している。男はどこか寂しそうに

東雲の空を見つめ呟いた。

 

「そうか、仕方ないか・・・よし、もうそろそろ夜が明ける撤収するぞ」

 

私は、襲撃者の様子を少しでも見るために地下から顔を出す。20人ほどの構成員のグループでみな凶悪そうな顔をしている、しかしその先頭を行く男に私は目を奪われた。他の構成員から頭一つ分抜けた長身に薄明るい空間で其れ自体が輝いているような白銀の髪、他の構成員が銃を持っているにもかかわらずわきに抱ええる十文字槍、その後姿を私は生涯忘れることはなかった。

集団が過ぎ去り家は静けさを取り戻した。かつての家族だったものの肉片と血の海にたたずむ白雪。バラバラのパーツとかした父と心臓を突かれ即死ししたであろう母と姉弟の遺体にガソリンを撒きマッチを擦る。

 

「父さん、母さん、悠紀那姉さん、龍・・・絶対にあいつら殺すから!先に向こうで待ってて」

 

黒煙とともに燃え盛る生家を背に歩く。家族を殺した男たちへの復讐を誓い白雪は生まれた土地を後にする。皮肉にも19歳を告げる0時00分の時報が鳴り響いていた。

 

 

 

 

それから1年ほどしてからテロリストの間ではある噂が流れていた。武装集団を壊滅させる女性の話だ。噂ではこれまでに10余りの武装集団が解体され全員が捕縛されている。

その女性は、政府に自ら乗り込み武装集団解体を引き受けると申し出たらしい。政府側もその鬼気迫る申し出を断ることができずにその女性に任せたらしい。

 

とある廃工場に悲鳴が響き渡る。ショットガンを抱える筋骨隆々の男と長い髪を後ろで束ねた女が向かい合っていた。2人だけを見れば男が女を襲っている絵になるのだが、男の怯えた顔と足元に転がる数十人の男が気絶した様子は異様な光景だった

 

「わ、わかった…俺らが悪かった、降伏する…」

 

「そう。でもこれは私からの八つ当たりだから諦めてね」

 

そう言うと女は自分の倍近くありそうな相手の襟を掴みそのまま入口へ放り投げてしまった。扉が歪むほどの力で激突し男は一瞬で失神してしまった。女は全員を拘束しどこかに連絡すると歪んだ入口を蹴破り外に出た。冷気を帯びた風は彼女の記憶を呼び起こさせるようだった。

 

「これで20件目…今回もハズレね」

 

寒空を見上げ1人つぶやく私、立花白雪はまたハズレたと気を落とす。あの日以来目に焼き付いた白銀の髪を持つ男を殺すためだけに政府へ強引に入り込み情報を集めていた。

そして政府内の危険人物リストにあった白髪の槍を持つテロリスト通称【鬼神(きしん)】と言う一つの目的にたどり着いた。かつて日本を戦場に変える発端となった防衛省襲撃事件の首謀者の一人で世界中の紛争地帯で伝説として語り継がれる男。しかし、目的の鬼神はあの夜を境に消息不明ということで一切の情報が途切れていた。

 

「仕方ないか、今日はこの辺で切り上げよう」

 

また明日もある。きっと明日こそは。そう自分に言い聞かせ私は家路に付く。

 

明くる朝、私は政府で5本の指に数えられる男にに呼び出された。会合の部屋は完全防音、窓は無く入口は屈強な大男が警備している。中に入ると男が2人。1人は呼び出した本人で政府の幹部。一目で高級なものと分かるスーツに身を包み時計やネクタイ、靴などもすべてブランド品で固めた還暦の男。もう1人はスーツの上からでもわかるほど鍛え上げられた身体の壮年の男。嫌な予感しかしない

 

「お呼びですか?」

 

「まぁまぁそう焦らずにささっ掛けなさい。」

 

幹部の男はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら自分の目の前の椅子を指す。仕方がないので私は席に着く

 

「それで要件は何でしょうか?私は今日も忙しいのですが」

 

「だから少し落ち着きなさいって。ささっお茶でも飲んでね」

 

目の前の冷めた紅茶を薦められたが手を付けたくはない

 

「呑まないのか?まぁいいさて本題に入ろうかね」

 

ようやく本題に入ろうとする幹部の男、しかしこの男のもたらした話は、私にとって生きている意味に匹敵するほどのものだった。

 

「君の追っている男、通称【鬼神】が少し前にここ東京で確認された。」

 

私の全身の毛が逆立った。家族の敵、殺しても殺しきれない男、俱に天を戴かないと決めた男。

 

「どこにいるんです?私はそこに行かなきゃいけません答えてください!」

 

「まぁそう熱くなるな立花君。少しは落ちついて話を聞け。」

 

幹部の男の横に座っていた男が口を開く。

 

「あぁ紹介が遅れたね。彼は政府軍の統括をしている男でね、今から君に任務を言い渡す依頼主でもあるんだ」

 

「任務?」

 

「そうだ、【鬼神】は確認されたがすぐ消息不明になってね、しかしそれと同時期に新しい武装組織が現れたんだ。関係があるとしか思えないので君に潜入捜査を頼みたい」

 

「わかりました。私に間者をやれというのですね。それでは失礼します」

 

出ていこうとする私の背中に幹部の男が声をかける

 

「あぁっとそうだ、その鬼神だがね、殺害せずに、捕縛しろとの命が出ている」

 

「それだけは出来ません絶対に」

 

足早に去っていく白雪の後姿を見ながら、幹部の男は薄笑いを消し隣の男に話しかける

 

「なぁ君はあの小娘をどうする?」

 

「素晴らしい実力の持ち主であるのは確認できました、結局こちらから出したものには手一つ着けませんでしたね。正式に政府軍に入隊してもらいたいところです」

 

幹部の男はああそうだなっと言いつつも

 

「この一件おそらくは奴の死か鬼神の死をもって終焉するだろう。あの女が生き残れば、その時は消えてもらわねばな」

 

残虐な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

「さて潜入捜査か・・・」

 

自宅に戻り一人酌をしながら考える。手元には帰り際に渡された資料もある

 

「テロリストになるってことだよなぁ。それにこの組織武力交渉を好まない組織みたい・・・」

 

なんにせよ武装組織は憎むべき人間の集まり、どうせ消えるならどんな奴らも同じこと。そう結論付けた私は明日からの潜入捜査に備え部屋の電気を消した。

 

 

 

「ここはお嬢さんの来るようなとこじゃない。帰りな」

 

翌朝、私は繁華街の裏路地を少し進んだところにある(くだん)の組織までやって来た。ビルの間にできた空き地にテントを張りキャンプを形成している。しかしリーダーと話す前に大男に因縁を付けられてしまった。

 

「そんなこと言わずにさぁいいだろ?いい働きはするからさぁ」

 

「しつこいぞ帰れ!それとも痛い目見なきゃ気がすまねぇ変態さんか?」

 

襟首を掴まれた、ちょっと実力を見せてあげないとだめらしい。襟を掴んでいる手の親指の付け根あたりを握り外へ振るう。手は離れ男はバランスを崩す。そのまま顎を後ろに押してやると、自分より遥かにデカイ男がいとも簡単に後ろへ倒れる。

 

「痛い目を見たのはあんただったね」

 

この騒ぎに気が付いて周囲はにわかに騒めき始めた。これじゃ逆効果だ・・・

 

「いやぁ見事、見事だね。いくら下っ端とは言えうちのもん張っ倒すとはねやるじゃんお嬢ちゃん」

 

ざわついていた人混みの奥から一人の男が姿を見せる。ローブの上にマント、両手には黒の手袋。肌を殆ど晒さない井出達の大柄な男。資料の情報だとこいつがこの組織のリーダー島津幽雨か・・・

 

「あら、ありがとう。あなたが噂の「風神」島津ね?」

 

「おっ?その名前で呼ばれるのは何年ぶりかなぁ。しかしそんな昔の話をよく知ってんな、お嬢ちゃん俺のファンか?」

 

「昔って5年ほど前の話でしょ?それにお嬢ちゃんて私はあんたと大して変わらないわよ」

 

【風神】島津幽雨・・・日本の中心部が戦場へ変わった直後の戦場で彼は人間離れした槍捌きと生まれた土地のお家芸である一撃必殺の剛剣、更に卓越したゲリラ戦術で政府軍の制圧部隊200余りを壊滅に追い込みその後の活動家達の繁栄の礎を築いたと言われている。流石に誇張もあるだろうがそれでも尚政府は、あの【鬼神】と並び生ける伝説として警戒してる。

 

「いやいやすまんすまん。それに俺ももう表立って暴れる歳じゃないさ、俺の今の武器はこの弁論さ。」

 

べーっと舌を出してみせた。

まぁだがっと声のトーンを下げた彼からは言いようのない殺気がにじみ出ていた。これが「風神」・・・鬼の殺気っ!!

 

「怪我もしてないし自業自得とはいえうちのもんやられたんだ、黙ってはいないぜ?ちいと痛い目見てくれや」

 

「本性だしたわね・・・いいわ【風神」の力を見せてもらうわ。私が勝ったら入隊の件考えてね?」

 

精一杯の愛想を振りまいて条件を付ける

 

「ははっいいだろう勝てたらなぁ!!」

 

仲間から投げられた木刀を手に凄まじい勢いで突進してくる島津幽雨。それを横によけて後ろに回り込む。

 

「後ろ取ったわよどうするの?」

 

懐の短刀を振り下ろすが、さも当然のように木刀で受け止める。

 

「止めたぜどうするよ?」

 

「なっ・・・がっ!」

 

宙へ浮かぶほどの蹴りが腕に叩き込まる。何とか空中で姿勢を戻すが

 

「さて宙じゃ避けられねぇよなぁ!!」

 

居合切り!?鞘無しの状態から放たれる神速の居合、短刀で直撃を避けるがガードごと後ろへ吹き飛ばされる。幸い落ちた場所は瓦礫の山、しかし思った以上にダメージは大きく頼みの短刀も根元から砕けていた。

 

「おーい生きちょるか?直撃はしとらんし、後ろに飛んだんだ生きてるだろー?」

 

一歩一歩近づいてくる島津がまるで台風のような気をはらんでいる。何か武器になるものは・・・

ふと右手に何か尖ったものがあたる。瓦礫の中から顔を覗かせるそれを引き抜きと、木でできた鍵槍が姿を現す。

鍵槍とは「横手」と呼ばれる金具が装着された槍で相手の武器を絡め取ったり、受け止め取りと言う使い方をする戦国時代特に関ヶ原の戦いでは、槍の殆どはこのタイプだったらしい。

槍などは使ったことがないが四の五の言っている暇はないので槍を構え島津幽雨の前に躍り出る。

 

「おっ嬢ちゃん槍を使うのかい?俺もちいと槍を嗜んでたなぁ・・・どれ腕前見せてみ」

 

剣を構え直す島津幽雨はどこか嬉しそうだった。

 

槍を突き出し弾かれる、相手の剣を受け止め切り払う、そんな切合が続くこと約2時間。

 

「ふぅ・・・やるなぁお嬢ちゃん、ただもう時間もたちすぎた次の一合で終わりにしようや」

 

嬉しそうな島津は再び居合の構えをとる。

 

「はぁはぁ・・・奇遇ですね私も同じことを考えていましたよっ!」

 

全身全霊を込めた私の突きと彼の居合斬りが衝突する。刹那周りの雑踏が消えた気がした。

互いの武器は木とは言え粉々に砕けていた、引き分けだ。

私は極度の緊張から解放された事と、疲労でその場に膝を付く

 

「ははっいやぁ強かったなぁお嬢ちゃん。あんたがもう少し経験を積んでたら危なかったなぁ」

 

「はぁはぁ・・・何言ってんのよ、余裕そうな顔してるじゃないの」

 

そうか?と彼はわざとらしくとぼけて見せる。差し出された手を取り体を起こす。

 

「よし認めるよ、ようこそ反政府組織【枯尾花(かれおばな)】へ。そういやまだお嬢ちゃんの名前聞いてなかったな、俺は知っての通りかな島津幽雨だ」

 

さっきまでの狂気じみた笑顔から一転し人懐っこい感じの笑顔で名乗る。

 

「立花白雪よ、これからお世話になるわ」

 

互いに手を握り合う。この時から運命は、大きく揺れ動くとこになる。伝説のテロリストと伝説となりつつあるテロリスト殺しの間で。

 

 

 

 

 

それから一年ほど私は、様々な仕事をしてきた。デモ行為の護衛、構成員の護身術指南、事務仕事。組織から離れれば、依頼された要人暗殺、テロ、反政府グループの解体。

一年の間に幽雨から槍の指南を受け達人とも呼べる領域にまで達しつつあった。その槍を用い6人を殺害、仕事の様は自他共に機械のようにに変わりつつあった。

 

「はぁやれやれ今日も終わりね。そういえば私がこの組織に入ってからどのくらい経つかしら?」

 

「ん?何を言い出すかと思えば。来月で丁度2年目だな、そういえば来月は誕生日じゃないか?」

 

何気ない会話

 

「あ、そういえばそうね私も22かしら?」

 

「あぁそうだな、はよしないと婚期を逃すぞ。」

 

うるさいわよっと笑いあう。しかしこの関係を打ち壊すように定期連絡用の無線が彼女を呼んだ。

 

幽雨と別れ、自分の家で無線に出る。

 

「はいこちら白雪です」

 

「白雪君、君に非常に重要な任務を下す。」

 

無線から政府軍統括の男のあまりに無機質な一言を告げられる。

 

「来月の第2水曜に【枯尾花】総統、島津幽雨を暗殺してもらう」

 

無線の声がひどく遠くに感じた。しかしいつしかこういう日が来るのもわかっていた、否定することはできない。

 

「・・・了解しました。」

 

私は短くそう告げると無線を切る。カレンダーを捲り日付を確認する。

 

「ふっ・・・婚期を逃すか・・・ほんと余計なお世話だったわよ」

 

第2水曜日、何かの悪戯かそれとも因果なのか私の誕生日であった。

 

翌日いつもの通り組織のベースキャンプに出勤し

昼頃にのそのそと来るであろう幽雨を待った。

 

「え、今夜9時にとっておきの場所に案内する?なんだ急に、気持ち悪いねぇ」

 

「結構大事な用事なのよ、それとも来れない用事が?」

 

はいはい、ないですよと生返事をし職務に戻っていく後姿を眺めていた私の胸を言いようのない痛みが襲う。

まるで胸を切り裂かれたような痛みに私は思わずその場にうずくまる。何なのこれ・・・

少し眠ることにしよう。一末の不安を残しながらもキャンプに設置された仮眠室で眠りにつく

 

 

 

 

 

「さぁ時は満ちたか」

 

 

 

 

はっと目を覚ました時すでに辺りには闇夜に包まれ耳が痛いほど静まり返っていた。

時計を見ると丁度11時30分だった。急いで支度を済ませて小高い丘の上へと向かう。

ここは私が偶然見つけた秘密の場所のようなものだ。待ち合わせ場所の事もすっかり忘れ

ここまで走ってきた。道中は獣道だが頂上は開けていて桜の大木が街を見渡すように鎮座している

息を切らした私は、待ち合わせ場所のことを思い出し後悔する。今日は何か変だ・・・

ここの桜の大木はフユザクラと言う名称らしく、12月ごろに一度花を咲かせ春に満開になる品種で誰がどういう経緯で植えたのかはわからないが木は本当に大きく枝が大きく広がり屋根のようになっている。

まだ3分の1程度しか咲いていないにも関わらず普通の木の満開のように咲き誇っている。

ふと気が付き目をやると桜を背に静まり返った街を見つめる男がいた。ズキッと頭が痛む

私はこの男を知っている。鍛え上げられた長身に腰まであろうかという白銀の髪。

見覚えのある、黒の手袋とローブ。あれは・・・そんなはずは・・・!!

 

「鬼神・・・いやなんであなたがここに、答えないさい幽雨!!」

 

ゆっくりと振り向いた幽雨は、風に流れる桜の花を儚げに見つめ語り始めた。

 

「そろそろ来る頃だと思ってたよ。君の感じている通り、風神島津幽雨は俺の仮の姿。鬼神と言われるこの姿こそ本来の姿、君はよくやってくれた。君という特異点、イレギュラーのおかげで俺の死は先延ばしにされた。君は俺を殺すために今日まで生きてきたわけだ。俺もまた俺を殺せる人間に出会うために今日まで生きてきた」

 

幽雨・・・鬼神は足元にある槍を担ぎ上げる。彼の槍の腕前は未知数、私に教えた以上に数々の技を持っているはず。唖然として立ち尽くす私を見て鬼神はふっとさも面白げに口の端を上げると

 

「と少し格好を付けてみただけだ、だが俺を殺せる人間を探してきたのは事実だ。さぁどうする?俺をこの場で殺すかそれともお前が焼いた肉人形のところに行くか?」

 

 

その言葉で私の中の何かが切れた。腰に差した大小の日本刀を同時に投げる。鬼神はさも当然のように槍でそれらをはじくが

無論それは牽制にすぎない。わきに抱えた布を取り払い十文字の槍を取り出す。これは幽雨から達人の域に達した証に譲り受けた槍だ。

槍を握るとテロリストに対する憎悪に頭が塗り替えられていく

 

「世のために、人々の安息の日々のために。貴様ら不穏分子は生かしておけん。ここで死ね鬼神!」

 

「そうだそれでいい。全霊をもって来い立花白雪!!」

 

互いに槍を突き出す。穂先がぶつかり合いキンと火花を散らす。槍を横に薙いできた鬼神に対し彼より小さい体を活かし下に潜り込む、そのまま喉元目掛け槍を突き入れるが後方宙返りからの蹴り上げ所謂サマーソルトキックにて躱されるどころか腹部に強烈な一撃をもらう。

 

「がっ!はぁはぁ・・・」

 

「どうした?その程度では俺は殺せんぞ。それともあの肉どものもとに行きたいのか?」

 

頭に血が上りがむしゃらに突進するが振り回された槍で吹き飛ばされ桜の幹にたたきつけられる。肋骨が何本か折れているようだ、口から赤黒い血を吐き出す。座り込みながらも忍ばせていた自動拳銃を鬼神に向け乱射するが当てられない否当たらない。移動が読めない、体がほぼ揺れることなく横に移動している。傍目から見れば瞬快移動だ。無論歩き方によってそうなっているのは理解できるが体が追い付かない。

 

「弾切れか。はぁ・・・お前でも駄目だったか。お前のような傑作にはもう一生会うことはないと思っていたのに残念だ。」

 

(勝てない・・・みんなごめんなさい・・・)

 

家族の顔が脳裏に浮かんだ瞬間一つの考えが脳を揺らした。ゆっくりと起き上がる私に鬼神は歩を止めた

 

「ほぉ?まだ立てるのか。そうでなくてはな」

 

私は桜の木を大きく揺らす。赤黒い生命が喉から駆け上がってくるが、それでも揺らし続ける。

 

「何をしている?せっかく起き上がったから何をするかと思えば、もういい死・・・なんだ?」

 

鬼神は見開いた。巨大すぎる桜の大木が揺れだし散った花びらによって前が塞がれていく。

 

「さぁ終わりの時よ鬼神。贅沢な死に場所よ。この桜吹雪、貴様に散らせるものかぁ!!」

 

桜吹雪を掻き分け鬼神の胸へ槍を突き刺す。倒れた鬼神の上に馬乗りになり短刀で止めをさす・・・刺そうとするが。

 

「どうした?家族の敵の心臓を抉り出せるチャンスだぜ?刺せよ」

 

「刺せない・・・鬼神は憎い、けど幽雨あなただけは刺せない、師として一人の男性としてあなたは刺せない!」

 

気付けば目からは大粒の涙が頬を伝い幽雨を濡らしていた。それを黙ってみていた鬼神・・・幽雨が静かに口を開いた。

 

「今まで俺のもとにはお前と同じような境遇の奴らが何人か居た。皆お前と同じように俺を憎み俺を殺すために動いてきた。無論政府の人間が絡んでいることも知ってた。しかし奴らは俺を殺す時になって初めて心の内を明かした。みな政府から俺を殺せば報酬を渡すと言われていたらしい、莫大な金と絶対的な地位に目が眩んだんだろうないつしか復讐を果たすと言う目的は報酬を貰うことに変わっていた。そんな奴らに殺される謂れは無い・・・だがお前は違った。純粋な殺意とあろうことか俺に対しての想いをぶつけやがった。」

 

だからと幽雨は震える手で血濡れた衣服から小さな拳銃を取り出すと

 

「お前の覚悟と想いを認めてやる」

 

自分のこめかみに引き金を引いた。

 

パンっという乾いた音と共に血しぶきが飛び散る。

もう誰の目で見ても彼の死は明らかだった。

暫く私は唖然として動く事ができなかった。何とか立ち上がり今はもう動かない幽雨を見下ろす。

 

「何が婚期を逃すよ・・・馬鹿ぁぁぁ!!」

 

東の空が明るくなるまで私は彼の遺体にすがり泣き続けた。

 

 

 

「これがだいたいの概要よ理解したかしら」

 

仕切りの向こうにいる記者という男に私はすべてを話している。結局あの後私は、政府により拘束され死刑になることが決定した。法廷では傍聴席に座っていたお偉いさんがたの薄ら笑いが目立ったが気にすることはなかった。幽雨の話からするとどの道あいつらは報酬を渡さずに事件を闇に葬るつもりだったみたいだったから。

 

「立花白雪面会終了の時間だ。」

 

私のそばに立っていた男が無機質な声で退室を促す。

 

「ええ分かっているわ。では、記者さんごきげんようもう二度と会うことは無いけれど。」

 

私は男の誘導で扉へと向かう、すると記者の男も立ち上がり

 

「最後に一つだけあなたは彼のことが好きだったのですか?」

 

「どうかしらね?いやきっとそうだったのかも知れませんね。」

 

私は振り向かずにそう答えた。扉の向こうは無機質な廊下でつきあたりに私の房がある。死刑まで2週間と少しだが今はこの世に何の未練もない向こうに行けば家族に会える、幽雨に会える。

それだけで十分だった、房の中で自虐をするように微笑むと重い扉が静かに閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長い長い時をかけてようやく完成いたしました。当初違う部分が多かったりなんだりと悩みまくってようやく完成までこぎつけました(さぼってたとか言わないで・・・)そしてできた作品が・・・うーんこれなのかぁうまくいかないものです。
さてこの作品(ネタバレになるので多くは言いませんが)誰も救われてないじゃないかと言う感じになると思う?ので別の結末も書くかもしれません。

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