塔による圧制、独裁。世界は一つにまとまったけれど、それは虚偽の統一でしかない。戦おう、我々の業と。

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執筆期間とその他の都合上短め


されど民は歌う

 

 

 

 

 雨が降る。まるで数多の槍が天の意思を代行しているかのように降り注ぐ。冷たい我々を責め立てるように降り積もる。

 

「かの凄惨な戦争、終末戦争から一三〇年余り、ようやく我々は安寧を手に入れることができました」

 

 囁くような甘い暗示が、あちこちに設置されたスピーカーから繰り返される。人の往来など無いに等しいのにもかかわらず、データに焼き付いた文言は止まらない。

 電光掲示板の鮮やかなライトが私を浮き彫りにしている。国民の晴れやかな未来を示すとされている青色が、この瞳と同じ輝きを持って私を吊し上げる。目を背けたくても、いかに疎んでいても、動くことは能わず。どさくさで髪止めが行方不明になっていたらしく、セミロングの髪が私の喉に絡んで鬱陶しいほどこの上ない。

 どうにかして耳を塞ぐことはできないだろうか。我らが母の、偉大なる国家の歴史を初老のオスとうら若きメスが笑顔で解説しているその様は、今の私には毒にしかならなかった。とびっきりの変態が馴れ馴れしく体を撫でまわしてくる様に酷似した不快感に襲われてしまう。ありったけの殺意が湧いて出てくるほどに、無知は、恐ろしく、惨たらしい。

 

「偉大なるダイダロス様が心を痛められ、私たちに秩序と平和をもたらしてくれました。私たちのこれからの発展も約束されています。ダイダロス様は今でも私たちを見守ってくださっています。それでは、数ある偉業の中でも特に栄誉ある食糧革命についてお話致しましょう」

 

 モザイクが覆うこの街に、生を感じさせる匂いは無く、虚偽と虚勢の名残だけが漂っている。

 ああ冷たい、熱い、頬が熱い。こんなにも体は冷え切っているのに、元々熱など持たなかったこの身が、今を生きたかったと叫んでいる。指一つでも動かそうものなら関節の全てが軋みを上げる。煩わしい、そして汚らわしい。私が私として生まれたことをお恨み申し上げます、創造主様。

 遥か彼方、バベルの塔が私たちを見下す。これ以上に無い暗喩であろう。天に迫ろうとした人間が神の怒りを知り、言語が分断され、相互理解を不可能にしたとされる伝説上の建造物。正式名称は他にあったとはずだが、普段興味を持たなかったせいか思い出せなない。

 少なくとも、あれはバベルの塔だ。我々の未来の予示であり、私の望む果ての写し姿。いずれ世界は分かたれ、私のいない現実に真実が解き放たれる。そうなった時、奴らはどうするのだろうか、忌々しくも尊い、大いなる兄弟様は。

 私の死角から雨水の溜まりが跳ねる音がした。不規則に、弱弱しいそれは轟音にかき消されそうになりながらも着実に私に近づいてきていた。

 

「ねえ、逃げないの?」

 

 彼にそう問いかける。正常に発声できているか、私の耳では判別がつかなかったが、変わらぬリズムがその返答であった。

 呆れたものである。もし、私に辿りついたならば、彼は間違いなく殺される。即座に、弁明も釈明も余地なく、無残にも殺される。わかり切った結末に、何故彼は歩み寄ってくるのだろう。あれほど嫌悪していたはずである。あれほど牙を剥き出しにしていたのに、眼球の奥にたぎる憎悪の嵐はすさまじいものの筈なのに。

 もう知ったこっちゃない。どうせ終わりだ。私も、彼も、ここで死ぬ。国家警察団の追跡を振り切ることは不可能に近い。彼はともかく、私はつい最近まで一般市民だったのである。権力を疎みながら、それを表に出すことを憚って、腹を晒しておきながら心中を隠し、けれど与えられた今を享受し、いつの間にか齢を重ね続けていた私が、そうある様にしか生きられない彼らに及ぶはずはなかった。

 彼はどうなのだろう、体を引き摺りながら、今ちょうど枕頭に立ち、私を見つめている大柄な男なら、国家様に立てついた英雄気取りの彼一人だったのなら、なんとかできたのだろうか。

 ああそうに違いない。私のせいだ。全部私のせい。私が足手まといになったおかげで二人とも死ぬ。私たちは夢を見たまま死ぬのだ。晴れ空と開けた平原に走り出す夢想を掲げて絶えるのだ。

 実に無様で滑稽だ。蚊程の力と分不相応な願い。こいつらは解放されるために戦っているのではない。墓を作るために銃を手に取っているのだ。無様な墓標に大層な文言を連ねるために鮮血を散らそうとしているのだ。

 本来なら私はそれを笑ってあげなければならない立場の筈だ。上と下、支配と被支配、奴隷と王、家畜と飼育者。言い表すなら、これが正解。

 それなのに。

 なのに。

 だのに。

 私は後悔してしまっている。目頭が熱く、朦朧とした意識の最後に彼を見られないことを悔いている。安価なおもちゃの如く壊れやすい身体を憎悪している。――なにより死ぬのが恐ろしい。

 ついこの間まで、最悪死んでもいいと、こんな社会にいるのが苦痛だと思っていたのに、末恐ろしい人形の一部品として人生を終えるぐらいなら、自分の手で生涯を終えたいと思っていたのに……。

 ああ、この状態の私が言える立場ではないか。彼より愚かなのは、

 

「馬鹿だ」

 

 それは、どちらが発したのだろう。もう、そんなことも分からなくなってしまった。思考が怠い。視界を確保しておくことも危うい。嗅覚もシャットダウン、次いで触覚が。

 ……給湯器のアラームが聞こえる。そうだ、起きたらまずコーヒーを淹れなきゃ。二人分のパンを焼いて、缶詰は出しちゃいけない。食事には気を付けなきゃ。

 そういえば、彼とはあれが初めての会話だっけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽が本領を発揮する前。

 締め切られたカーテンから漏れる白光が嫌に眩しい。今日も天は絶好調なようだ。

 

「昨日の国家国警団の制圧作戦により、中規模テログループ、『天使の福音』の本拠地は壊滅、同組織が事実上消

滅したとロムウェル上級管理官が発表しました。これにより極東第七区に発令されていた非常事態宣言と立ち入り規制が一部解除される見通しで……」

 

 そこまで聞いて、私はテレビの電源を切った。唯一まともそうな番組も、ここ最近散発していた反抗事件のせいで台無しに、代わりに国営放送が全チャンネルを仕切り、安っぽいプロパガンダと国警の糞犬どもの中継ばかり見かけるようになってしまっていた。

 

「最悪だわ……」

 

 そんなものを朝から見せられて気分がいいはずもない。勿論『塔』の連中に諸手を挙げて賛同し、隣人を監視し、隙あらば奉仕の見返りを狙う腐った輩どもには垂涎ものなのだろう。私には関係ない。たとえ、世の九割九分がそうなのだとしても、本来、私のような人間こそが処罰されるべきなのだとしても、徹底的に忌避し続ける。……今回に関しては、しらを切り通せるものではないのも事実なのだけれども。

 給湯器からマグカップにお湯を注ぎ、粒状のカフェオレを注ぎ込んで、トースターからパンを取り出し、軽やかにバターを塗って配膳する。郊外で一人暮らしをする少女には無縁のこの行為。食事をするだけであれば、つまるところどこでもいいわけだ。テレビが見たければモニターの前に陣取ればいいし、何か作業をしていればその周辺に置いておけばいい。配膳というのは、同居生活独特の行動だ。しかし、私には同居を許せる間柄の人間はいない。親族はおろか、数少ない友人だって私の聖域に足を踏み入れることは認可できない。

 では何が起こったのか。何が私の無意識の戒律を書き換えたのか。

 

「起きてる?」

 

 築三〇年改修予定皆無のアパートの一部屋、我が1LDKのほんの少し豪華な城の、本来私の安らかなる寝床であったはずの部屋をそっと覗くと、珍妙な拾い物はまだ覚醒しておらず、ゆったりと一定間隔で掛け布団を浮き沈みさせていた。これが私の就寝中に目覚めていようものならたまったもんじゃなかったが、どうやら私の目論み通り、彼はそうそうに起き上がるようなことはしないだろう。もしかしたらトーストを焼くのは彼が起きてからでもよかったかもしれない。

 彼の枕元に綺麗に畳まれた、ところどころ穴の開いたジャケットを一瞥して、ついさっきの報道を思い出す。『天使の福音』。ここ最近の目立ったテロ活動の主体となっていたグループ。悲しきかな、反逆の狼煙は豪雨に呑まれてしまった。

 十中八九、彼はその生き残りだ。上着に縫われた紋章が確固たる証拠となっている。それに、私が拾った当初、体中に擦り傷を作り、頬を焦がし、死に体になりながら路地裏を徘徊するという行為は、彼ら以外を連想できなかった。

 私たち人間とは決定的に、圧倒的に、種族的に違うとそう思わせる何かも決め手だろう。

 そんな得体のしれない怪物を匿ってしまったら。

 

「やっちゃったなぁ、どうすんだ、あれ」

 

 頭を掻き毟りたくなったが、髪によろしくないと思いとどまって、代わりにソファのクッションに顔をうずめる。とても柔らかい。私の寝床は今朝も絶好調、さすが私の愛人。

 何を隠そう、私はついに犯罪に手を染めてしまったのだ。 朝からプロパガンダを、洗脳的な手段を躊躇なく使い、密告が日常、『神』の恩賞が生きる糧となったこの国家で、極悪人を匿ってしまった。配給の少ない貴重な応急道具も使用してしまった。もし通報されようものなら、一発で銃殺刑もあり得る重罪を犯してしまったのだ。反社会的と糾弾され、市中を引き摺りまわされ、裏切り者と罵られる薄汚い犯罪者と化してしまったのだ。

 迂闊だったのは否定できない。昨日の自分を殴ってでも止めるべきだったのかもしれない。或いは、その行為の正当性を自身が表意しきるまで問い詰めるべきだったのかもしれない。

 やってしまったものはしょうがない、時は不可逆、事象は固定され、私の歩む道を黒く染め上げる。……布団から一生出ないで生きていたくなってきた。

 ともかく、私がすべきは自らの行いを悔いることではなく、生産的に振る舞うことだ。覆水盆に返らず、私がこれより為すべきことは、身の振り方を考えることだ。

 先立って勤務先に欠席の連絡を入れておいた。ほぼ皆勤だったためか店長にえらく心配され申し訳なさが微塵ほど湧き出てきたが、周囲一帯を巻き込む大威力の爆弾を放っておくわけにもいかず、平謝りに近い形で電話を切る羽目になってしまった。

 

「さて、とりあえず食べますか」

 

 気分を入れ替えるには、腹に物を入れるのが最適だ。腰を落ち着けて、私はようやく温くなったカフェオレに口をつけた。

 この分じゃトーストも食感が悪くなってるかなぁ、と手を伸ばして一瞬、

 

「動くな」

 

 私の喉に厳つい掌があてられた。

 

「あら、目が覚めたのね」

 

 さすがプロ、というべきか。気配を断つのはお得意だったらしい。彼は私の後ろを取って、不穏な動きに即座に対処できるよう構えを取っていた。

 

「ここはどこだ」

 

 きわめて冷徹な、且つ青く澄まされた憎悪を乗せた囁きが耳に届く。

 

「落ち着いて、とりあえずパンでも食べない?」

「答えろ」

「貴方が手を離したら考えてあげる」

 

 ふむ、取り付く島もない。大ピンチ。

 いくらこっちが一緒くたにされたくなくとも、なくとも、彼にとって私は体制派の人間であるし、私が緊急連絡をたった一度繋げば彼の命は無いに等しい。ムキになるのはなんら変ではないが、そろそろ力が込められ過ぎて呼吸があやふやになってきた。これでは答えられるものも答えられない。

 

「少なくとも私はあなたを突き出したりはしないわ」

「信じられるか」

 

 期待通りの反応。無理もない。私も無粋な言い訳だったと反省しているし。

 さてどうしたものか。そろそろ頸椎損傷で人生の終焉が訪れるビジョンが私の瞼の裏に鮮明に映し出されるようになってしまった。彼の警戒心は国警のそれを遥かに凌駕している。こちらからのアクションは逆効果だ。が、向こうは私を即座に殺すことなんてできない。なぜ自分が生かされているのか、その訳を聴かずにはいられないだろうから。これ以上首を絞められると絶命前に乙女の尊厳を著しく損なわれてしまう危険があったが、自分の首の骨の代価には到底釣り合わない。大人しく向こうの出方を待たなければ。

 努めて柔和な態度で彼に取り合う。

 

「私を殺した後、当てはあるの?」

「もしもの為に場所は用意してある。逃走経路はなんとかできる」

「ここがどこかも分からないのに?」

「貴様みたいな小娘が俺を遠くに運搬できるはずもないからな、予想はしやすい」

「そう……」

 

 ダメだ、肝心なところをこいつは見逃している。用心は一人前だが、冷静さはというと今一つなところがあるらしい。

 

「じゃあ聞くけど、なんで自室にあなたを連れ込んだのか、理由は分かる?」

「褒賞目当てだろう、テロリストの報奨金は馬鹿にならないからな」

「……もう一つ、何故私はその場で通報しなかったのかしらね、ポイントを稼ぎたいのなら、応急手当をする価値もなかったはずでしょ?」

 

 男の眉がひそめられる。視線を下に落とし、自分の怪我の具合を確認したかと思えば、処置の跡を物珍しそうに眺め、私にまるで幻獣を見る現代人のような眼差しを向けてきた。

 ようやく動揺を見せたか。というか、自分の傷病の度合いも把握しないまま駆け回るつもりだったのか。こいつ実は馬鹿なのではないか?

 

「ほら、説明してみなさいよ」

 

 男は渋々、しかし警戒は殆ど解かないまま私の喉から手を離した。

 気道が元に戻る瞬間軽く咳き込んでしまったが、声が若干出にくい以外の症状は無い。

 

「昨日の晩もろくに食べられてないんでしょ? 色々とあったみたいだしね」

 

 さりげなくテーブルを差して、食事はいかがと誘ってみる。ドンパチあったのは確か午後五時、それから何一つ口にしていないとなれば、彼のお腹の状況は考えるまでもない。

 

「こいつは……」

「うん?」

 

 ところがどっこい、男は数歩後ずさると、不安の入り混じった視線を私に向けてきた。食事相手に何を怯えることがあるのだろうか。

 少しして、思い当たる節があった。

 

「大丈夫よ、私、菜食主義者なの、それに、このメニューのどこにそんな要素があるのよ」

 

 私がそう言うと、彼は恐る恐る椅子に座って、まじまじと観察した後、パンを齧った。

 そこからは早かった。私が三口頬張る間に彼は一枚を易々と平らげ、流し込むようにカフェオレを片付けてしまった。欠片も散らばってしまっているし、綺麗に食べてほしかったが、彼が静かに嗚咽を漏らし始めてしまうと、何も言えなくなってしまった。

 彼がまともな食事をしたのはいつ以来だったのだろうか。私には想像できない。泥を食し、汚水をすすって生きている彼らが。私たち人間とほぼ同じなのに、生態的には同一なのに、まともな幸福を得られない。どちらかというと反社会的で、貧困層に数えられる私ですらまともな食事と寝床を得られているというのに。

 生きているという実感。生き残ってしまったという罪悪感。もしかしたら私には彼を犯罪者と呼ぶ資格はないのかもしれない。疑問も反感も全て飲み込んで、媚び諂って頭を下げ続けてる私なんかよりも、抗ってのたうち回って噛みついて罵っている彼の方がよっぽど、『生』を自覚しているのではないか。世界を見ているのではないか。

 少し、この世界の話をしよう。今この地球を支配しているのは私たち人間と、限りなく人間に似た『擬人類』、エイリアンとも呼ぶべき存在だ。身体、社会の構造、思考、言語発達、そのどれもが一緒。

 ともかく、私たちはどちらも惑星を支配できるほどのポテンシャルを持ち、事実君臨している。にも関わらず、人間は彼らを掌握してしまった。生殺与奪を管理し、徹底的に尊厳を破壊し、心を折り、不条理を押しつけた。同じ言葉を解し、自我を持つことも分かり切っている彼らを私たちは蹂躙したのだ。それがたったの百数十年前。彼らが発見されてから、それらは先祖によって迅速に完遂された。

 結果、擬人類は生物である権利を剥奪された。正確には、知性ある生物に当然用意された権利をすべて失い、奴隷、挙句の果てに家畜にされた。これにより人類は労働力の恒久的な確保と、食糧問題の革新的な解決方法を手に入れた。私たちは文字通り、彼らの血肉を貪って生活しているのだ。

 無論、これは幼少期に無理やり詰め込まれた知識だ。つまり、意図的に植え込まれた偽りの歴史であろうことは想像に容易い。元より無茶苦茶な話だと思うが、これを信じ切っている輩が圧倒的多数派だという方がもっと無茶苦茶な気がするのだ。

 体制派閥の中にも、擬人類の保護を訴えかける者もいるらしい。ある者は行政観点から、ある者は意識改革を進め、あくまで噂だが、テロリストに密かに援助を行っている過激な者もいるらしい。でも、その誰もが「賠償と責任」論で物事を進めている。自分たちが強者で、擬人類は我々が庇護すべき種族だったと。人類社会が混沌より抜け出して一世紀以上が経ち、今こそ彼らを受け入れるべきなのだと。

 誰一人として、塔に歪められた歴史に目を向けない。明らかな不正を、暴虐を、改竄を弾劾しない。わかりきっている。自分の命が惜しいからだ。権力に寄り縋り抹消を恐れて、真実を作り上げてしまっている。真の一歩を歩まずにいる。

 或いは、誰も気付いていないだけなのか。

 馬鹿馬鹿しい。実に不愉快だ。この世に生まれ落ちたことを後悔するレベルで愚かしい。その力が私に無いことも、腹立たしい。

 目の前の男が共食いを恐れた時、舌に感じる幸福感を味わって涙した時、私は静かに憤った。彼と話す前、保身を考えてしまった自分を、頭ではわかっていたつもりだったのに、社会に汚染されたままだった自分を、殺してしまいたくなるほどに。

 

「……迷惑をかけた」

 

 不意に男が礼を言ってきた。

 

「毒が入ってるかもしれない、とか思わなかったの?」

「お前、つい数分前に自分が行ったこと忘れたのか」

「そういえばそうね。……これは私のエゴだもの、あなたが気にすることでもない、私が満足するためにやったことだもの」

「満足?」

「そう、当てつけなの。私の不満を行動に示しただけ。塔でふんぞり返ってる連中がどうにも気に食わないから、一矢報いたかっただけ」

「君は……」

 

 何か言いたげな様子を向けられても困る。ままを話しただけなのに。私が彼を助けた理由なんて本当は無いのだ。自棄を起こしただけで、そこに魂胆なんて無い。私に主張など存在しない。信念も意欲も無い私には、彼にどうされる筋合いも無いのだ。

 

「君は、勇敢だ」

「……は?」

 

 刹那、思考が漂白される。

 

「何を言ってるの」

「勇敢だと言ったんだ」

 

 私が? 臆病者のこの私が、勇敢?

 人生で最も目を丸くした瞬間だ。二の句が告げない。

 そんな馬鹿な、人間より人間らしいこの男こそ、その言葉が似合うのでは?

 私たちを、人間を忌み嫌う、擬人類の台詞じゃない。罵声こそ脚本に書かれて然るべきだ。

 

「勇気無きものが、塔の糞犬どもに見つかるリスクを冒してまで俺を匿うか? 矜持無きものが不満を覚えるか? お前をそうさせたのはお前の心だ、お前の心が戦っているからだ。お前は化け物にしちゃあ、あまりに俺らに近すぎる」

「……なによそれ」

 

 声が震える。舌がまともに廻らない。

 

「お前も静かな反逆者だということだ」

 

 彼の瞳が、私の動揺を包み隠さず投影する。

 

「私はただの小市民よ。不満を持ちこそすれど、反旗を翻す気力は無いし、あなた達鼠の様な黴臭い生き方もしたくない、それに」

 

 あなたが思ってるほど、愚かな個体ではない。その一言は、寸でのところで飲み込めた。ただ、細められた彼の眼と、硬く引き結ばれた唇から察するに、言わんとしたこともだいたい察しがついてしまったのだろう。

 本当は彼らの行う反逆的な行動、過激で野蛮な行為を、ともすれば私は認めていなかったのか。テレビを見て、目をそむけたくなるような嫌気は塔だけが要因ではなかったのか。

 それでは変わらない、そんな微力では無力に死すだけだ。無駄な労力、不毛な努力でその命を散らすなど馬鹿々々しい。

 声を荒げなければ存在すら伝わらない、しかし、相手は豚が檻から脱走したぐらいにしか思っていない。殺処分も致し方ないと、瞬時に判断してしまう強者なわけで。

 別の戦い方を問われても私は知らない、それほどまでに、塔の奴らは狂っていて。

 じゃあ私は、なんでこんな過ちを?

 

「お前もかなりやり手だと思うがな」

 

 思考のトリップを打ち消したのは彼の立ち姿。露骨なにやけ顔を本棚に向けている。ラインナップは擬人類由来の創作作品だ。彼らの宗教的根拠、娯楽作品、民族音楽等々、ほぼ全てが禁書指定されている代物ばかりだ。一般市民が手にしていいものではない。

 

「どうやって揃えた?」

 

 私の心情の混沌を見抜いての問いだったのか、それは暗澹とした密室の空気を入れ替える清涼な風となった。おかげで心の揺り幅は鳴りを潜めて、普段通りの受け応えをできるようになった。

 

「私、本当に欲しいものがある時は結構足が伸びるのよね」

 

 家宅捜索をされれば間違いなくアウト判定を食らう面々は、違法スレスレの手法を長年繰り返して徴集したものだ。特に貴重なものを入手するために何度か危うい目にも遭った。

 

「これなんぞ俺らですら持ったことも無いんだぞ」

「発行元が大分前に潰されちゃったみたいだしね、そのせいで今もあなた達への紙の配給が滞ってるとか何とか」

「これもだ。ああ、懐かしい、本家は戦前に完結して以来だとか」

「確か子孫がまだ御存命で文化存続のプロジェクトの為に一念発起したんだっけ? 一度見かけたことがあったけど」

 

 お前やけに詳しいな、化け物の癖に。そんなことを思われている予感がする。彼の唖然と開かれた口を見るに間違いない。

 

「今の娯楽なんかより、あなた達の物の方がよっぽど面白いじゃない。検閲もなく、思想の介入もなく、統一もされていない作風。生きているということを実感するのよ。自分も、作り手も……後者は過去形の方が正しいけど」

 

 私は生まれながらに不完全という烙印を押されたことがある。それは持つべき道徳が欠けていたからと言われた。誰からだったか、確か、初等教育機関の教師からだったか。

 塔の定めた道徳は、塔への奉仕精神だ。それがお前にはない、お前は欠陥品だと、そうやって言こなされた。結果的に私は教育機関を中途で脱退し、訳アリの者が集うグレーなお店……業務は真っ当で真っ白なところだが、そこに転がり込んで、そこの経営者の斡旋で今の住居を得られた。

 灰色の生まれ、灰色の生き方、灰色の最期。私はそういう道しか知らない。だから私は擬人類の文明に惹かれたのだった。人類と正反対の、一人一人に誇りと栄誉ある世界を。

 そりゃあ、多少の無茶もしたくなるでしょう。諸々を込めて、大層な笑顔を彼にぶつけた。

 

「変わった奴もいるもんだな」

「でしょう? 私以上の変人なんてこの辺りには存在しないわ」

「てっきり、脳の無い人形ばかりだと思っていた」

 

 バツが悪そうに肩の筋肉を揉み解す彼。

 

「俺たちに支援をよこしてきた資産家も、塔の思想と何ら変わりがなかった。所詮は道楽と、粛清されにくい立場にあって、増え続ける財を浪費する為だけに物を投げつけてくるだけで、真に俺らのことを考えてはいなかった。いざ身持ちが悪くなると引き払って知らんぷり。おまけにそいつは掃討作戦の指揮官をやっていた……」

「うん、そいつの顔なら今朝方放映されてたわね。いかにもそんなことを平然とやってのけそうな面構えをしてたけど、本当にそこまでのクズだったとは」

「いつか殺す」

「ええ、ぶっ殺してやりなさい」

 

 彼が凄み、握りこぶしに殺意が込められる。願わくば、彼の復讐が達成されんことを。

 

「……あなた、名前は何?」

 

 そういえば、まだ彼の名前を知らなかった。私の中で彼彼と呼称し続けるのはさすがに疲れる。

 とは言え、彼が簡単に名前を教えてくれるとは思っていない。

 テロリスト……最早そう呼ぶのはやめよう。レジスタンスとしての活動が長そうな彼が、そうそう足がつくようなことはしないはずだ。

 称号が、私が起こした小さな奇跡の呼び名が欲しかっただけだ。

 彼が私の顔を注視する。閉じられた幕を一瞥し、部屋の隅々まで観察する。もう一度本棚に顔を向け、確認するように私に視線を戻した。逡巡、

 

「リョウマ、だ」

 

 辛うじて聞き取れる声量。人類に対する警戒と不審を、この部屋の安堵が上回ったらしい。

 

「リョウマね。本名かどうかは聞かないでおくわ」

「助かる」

 

 リョウマ、真偽はともかくいい名前だ。確か、遥か昔の島国の、変革の立役者だったか。一国を駆け回り、改革を先導し、最期は体制派の凶刃に倒れた英雄。未来を見ることは叶わなかったが、確実に未来を築き上げた偉人。

 名付けた人間も、それを夢見たのだろうか。

 

「私はシイナよ」

 

 リョウマが名乗ってくれたことを、真偽は別として彼のことを声に出せるようにしてくれたことを、単純に嬉しく思った。

 

「リョウマはこれからどうするの?」

「できることなら早くここを離れたい。生き残りと合流して、別の勢力と接触を図りたいのだが……これ以上シイナの邪魔をするわけにもいかんからな」

「あら、私はもう少しいてくれて構わないのだけれど」

「せっかくここまで蒐集したんだろう? 俺がいるといつか必ず国警に嗅ぎ付けられる。そうなればお喋りな住人がお前を殺すだろうよ。だが今の体たらくじゃ帰路を無事に済ませられないだろうからな」

 

 リョウマは身体のあちこちの治療痕を私に見せつけてくる。それを施したのは私なんだから強調しなくてもいいんだけど。

 

「ま、明日には出ていくことにするよ」

 

 一日程度じゃ怪我の具合は変わらない、そう言いかけて、私は喉の当たりの違和感に気が付いた。現実的、論理的ではない、私の知らない恐ろしく澄んだ異物が言葉を妨げた。引き留めるにあたって、必要のない感情があった。

 私はこの感情を知らない。形容できない、感受できない、発声できない。なぜだろう、これまで一度も味わったことのない苦痛。だが、これまでのどの感情よりも、「生」の概念を彷彿とさせる。

 

「好きにしなさい」

 

 それだけ口にすると、私は食器を片付けるために台所に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 やむなく欠勤した私だったが、予定が空いたところで特にすることが湧くわけでも無いし、とにかく彼の傍を離れることはできなかったので日中はリョウマと共に読書をして過ごした。彼はまるで好奇心収まらぬ幼児の様に書を貪り、収まらぬ興奮を度々ぶつけてきた。私も私でこれまで真正面から共有できる相手もいなかったので、はしたない言動が垣間見られるほどに熱を帯びてしまうこともあったが、その都度彼の生暖かい視線に我を返し、逃げるように活字に意識を向けた。

 なんと態度のでかい居候なんだろう。そう思ったこともしばしば、それも不思議と不快と感じた時は一度もなく、何でもない時間を、この破滅に満ちた世界の中を、淡々と過ごせることが幸せでならなかった。間違いなく、私は世界で最も幸福な人間だった。

 気が付けばもう太陽は沈み始め、塔の明かりがひざ元を照らし、絢爛豪華、まるで剛健な王の宴の様相を呈していた。実態は全て悪意の目、監視と罰則の権化なのだけれども。

 

「そろそろご飯にするわ」

 

 本を閉じながら彼に伝えるも、彼は耳のリソースすら目の前の文学に裂かれているようだった。

 よくもまあ体力が持つものだ。私ですらおよそ半日没頭したら休息を脳が欲するというのに。

 変な感心をしながら立ち上がったと同時に、玄関のベルが鳴らされた。私の城を訪れるなんて珍しい。数か月に一度、配達人がよそからの手紙を持ってくるぐらいの頻度だから、余計にそう感じてしまう。

 とっとと済ませて夕飯の支度をしよう。冷蔵庫にはまだ貯蓄があったはずだ。例のアレを使わなくても、選択肢は数多い。

 中心部の邸宅にはモニターが設置され、わざわざ出向かなくても来訪者の姿を確認できるらしかったが、ボロアパートにそんなハイテクなものは存在しない。

 しかし、来訪者は大方配達人だろう。それ以外これまでいなかったし、これ以降も増やそうとは思わない。その手紙も私を追い出した施設の連中からの義理の連絡に違いない。

 取り合いたくもなかったが、宅配者に罪は無いので仕方がなく愛層をよくして出迎えてやるとする。

 

「宅配ご苦労様で

 

 

 

 

 

 

 

「伏せろ!」

 

 

 

 聴覚が消える。否、爆音が集音機能を吹き飛ばした。

 

 ……なんだ、一体何が起きたというのだ。

 

「くそっ、大丈夫か!?」

 

 私が次に目にしたのは、コンクリートに舗装された下り坂と、逞しい大腿筋が躍動する光景だった。

 

「ちょ、下ろしなさい、下ろしてってば!」

 

 脇に抱えられている。そう認識した直後、羞恥心が暴走して体を捩じり、手足を猛獣の様に震わせた。たまらなくなったリョウマが私を乱暴に立たせると、私が地に足つく感覚を取り戻す暇もなく私の手を引いて走り出した。

 

「ちょっと、ちょっと待ってよ! 何があったの? なんで私たち外にいるのよ!」

 

 説明を、説明を求む。

 

「なんでって、お前覚えてないのか!」

「覚えてって……」

 

 気絶前、私は何を見たんだっけか。晩御飯の支度をしようと、席を立って、ドアホンが鳴って、ドアを開けたら、そしたら……。

 二、三個の足音が、革靴の踏み鳴らす音が背筋を凍らせる。

 跳ねるように振り返るとそこには黒と金の装束が、私が生涯で最も関わりを持ちたくない人種が、鬼の形相で迫ってきていた。

 

「国警ぃっ!?」

「ああそうだ! どうやら嗅ぎ付けてきたらしいな!」

「そんな……」

「市街地に行くぞ!」

 

 リョウマの急な方向転換に、引っ張られていた私は足をもつれさせるが、生への執着が体勢を立て直させた。

 確かに、市街地と言えば夕暮れ時に帰宅命令が出されていない無二の特例だ。まだ二時間ほど時間の猶予もある。振り切るにはもってこいの場所なのだろう。

 

「やっぱりお前、人形にしちゃあ出来過ぎてるな」

「なんで、今、そんなこと、言うの」

「普通だったら『なんで市街地に?』って叫ぶところだろ? それをしないってことは普段からシミュレーションでもしてたに違いない」

「はぁ、いや、喋る余裕、はぁ、無いんだけど」

 

 監視の目を疎んでいたのは然りだが、具体的な思考など何一つしていなかった、そう伝えたいのに、動悸と状況が反論を許してくれない。というか、さっきからリョウマは私を買い被りすぎではないのか。もしかして、私の部屋で読んだ何かに変に影響されている……?

 ともかく、体力はそこそこある方だという自負はあれど、基礎身体能力が標準並みである私は、日々身体を酷使してきた彼に比べたら貧弱そのもので、彼の導き無しでは私は縄に縛られて即刻断罪であっただろう。

 国警との位置も余裕がない。彼一人だったのなら話は違っていたのだろうが、今この時は私のいうお荷物が存在している。少しでも判断を間違えれば、彼の宿願も泡と消えてしまう。それはごめんだ。

 

 

 

 

 

 にわかに暗雲立ち込める空模様、スピーカーから波打つ空言が民衆の胸を叩き、数多の目が隣人を追う恐懼すべき街並み。

 自己嫌悪に陥る隙も無いまま、私たちは賑わいの残る繁華街に辿りつくことができた。彼は素性を隠すためフードを被り、上手く人ごみに紛れるために速度を落とし、しかし慣れた足取りで人の波に紛れ込んでいく。

 あれほどうるさく耳に響いてきた足音は遠のき、見当違いのところで国警どもの怒鳴り声が沸くぐらいだ。

 

「なんとか撒いたみたいね」

「だといいんだがな」

 

 私に目もくれず、周りの街頭や店先に気を張るリョウマ。

 

「このまま日没まで時間を潰す。夜の暗がりが誤魔化してくれるはずだ。住民が引き始めたら俺たちも出るぞ」

 

 彼の提案に私は頷くことしかできずにいた。国警の姿を認めなくなった瞬間から、ついに反逆者としてリストアップされ、流浪者に身を落とし、明日の安否さえあやふやになってしまったと、その自覚が胸中を攪拌してしまっていたからだ。

 日々の安寧を捨て、修羅の道に落ちる。避けては通れぬ道だったとはいえ、その予期せぬ到来に動揺しない方がおかしい。

 

「これを被れ。そこら中のカメラが俺たちを随時記録してるはずだろう」

 

 そうリョウマに手渡されたのは鼠色のフード。どこから掻っ攫ってきた物なのか、余計な詮索はこの際勘弁しておいてあげよう。

 この気遣いも勿論、リョウマが今、必要以上に話をしようとしないのが嬉しかった。静かに考えごとに耽られる状況ではないにしろ、彼がしっかり私の手を握ってくれる限り、私をリードしてくれる限り、私はいつでも現実に帰ってこられる。漠然とした不安に固まることは無いはずだから。

 それよりも。リョウマの方が私は心配になってくる。

 ここは彼にとっては『異世界』に等しい。異種族の文明の拠点、自分たちの迫害の原点であり、彼ら擬人類が到達すべき闘争の終着点なのだ。

 リョウマはどんな気持ちで、ここに居るのだろう。どんな心境で人々を眺めているのだろう。往来全ての人が、彼にとっては敵だ。およそ一世紀、人類史にしては、それほど長くない。されど。

 

 これは懸念ではない。憤懣だ。

 頭を振って、ここ数分の思案を抹消する。

 私は、彼の豹変が気に食わないのか。

 それは、許されざる罪、リョウマに対する侮蔑に他ならない。

 彼は神経を張り詰め、目立たない程度に辺りを見回して、隠遁に最適な場所を探しているようだ。幸いにも、私の邪念に勘付いた様子はない。

 彼の手を握る力を、ほんの少しばかり強める。リョウマは握り返してはくれなかった。

 

 あれから私たちは期を見ては人だかりに紛れ、国警の監査が終わった店を発見したならばそこに邪魔をして、日没までの二時間を手に汗握りながら過ごした。

 無論、店への対応は全て私がこなした。擬人類入店禁止を掲げる店が殆どで、彼を連れての行動は大きくリスクが伴った。大部分の人間は一言二言会話を交わせば判別がつくので、通り過ぎる者一人一人に警戒せねばならず、私の神経はだいぶ摩耗されてしまっていた。

 おかげであれから一度も国警の声を聞いていない。気が緩みそうになって、リョウマから注意を受けたほどである。

 とうとう頭上の雲は雨粒を抑えることができなくなったらしく、散発的に頬を冷たく濡らすようになってきた。それに合わせて、帰宅する人々の足並みもやや早くなっている。

 

「俺たちもそろそろ行こう」

「どこへ」

 

 私は人間。擬人類とは相容れない存在。彼は私の事を信頼してくれるかもしれない、同志として許してくれるかもしれないが、彼の他の擬人類はどうなのだろう。『天使の福音』の残党は。その他の反抗勢力は、人間を憎む、全ての生物は。

 私を見た時、私は原形をとどめておけるのか。

 リョウマは私の瞳を覗き込むように見下ろす。深呼吸を数度繰り返し、

 

「俺がなんとかするよ」

 

 ぶっきらぼうにそう呟いた。それで十分だった。

 

「じゃあついていくわ」

 

 もう嘘を吐くのはやめだ。これまで私の人生は嘘に塗り固められてきた。私の生き方も、考え方も……そもそも私の生まれる前から、世界が虚偽の膜に覆われていたのだ。

 戦いに身を投じて、何もかもが反転してしまう、衝撃的な事実を受け入れなければならない事態に蓋し遭遇するだろう。

 それでも、何も知らないよりは、何万倍もマシなのだと、私はそう思う。

 ……あのビル、もう閉館してるはずなのに窓が一つ開いている。閉め忘れなんてありえない。大抵のビルの施錠管理は自動だから、可能性があるとすれば、誰かが残っているというものだけれど、電気がついていない。瞬間、何者かが窓際からこちらに筒状のものを向けているのを目にして、

 

「狙われてる……!」

 

 

 驚嘆。

 

 

 

 

 リョウマの手を引く。彼は予想以上に重かった。私の身体が前のめりになって、ちょうどリョウマに重なって、

 

 

 

 

 

   凶弾が、私の心臓部を、容赦なく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 民(ヒト)は語る。国家に栄光あれ。

 

 人類に幸あれ。

 

 恒久的平和を望む。

 

 和を乱すものを排除せよと。

 

 正当性は我にありと。

 

 民を騙(カタ)る。

 

 我らの未来に栄光あり。

 

 人類に幸を授けると。

 

 理想郷へ導かれん。

 

 正義を保証すると。

 

 

 人は語る。

 

 ここは楽園。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コアユニットに直撃弾。個体名『RO417T』の機能停止を確認。以後もターゲットの捜索を続行します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人を模り(ヒトガタリ)、人を騙る(ヒトガタル)。欺瞞と虚妄を栄華と説いて。

 




1話完結にしては結構がっつり設定作ったのでこれで終わりにするのはもったいないなぁと思いつつ

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