再び、ポケモンマスターに   作:てんぞー

3 / 7
ククイ研究所~リリィタウン

「それじゃあ改めて久しぶりだね、オニキス。こうやって直接顔を合わせるのはホウエンぶりになるね」

 

「あぁ、あの時は本当に大変だったな、まぁ、今ではいい想い出だよアレも」

 

 苦笑しながらククイが用意してくれたブレンドコーヒーを手に取る。ソファに座りながら、ククイと、そしてククイが言う助手のリーリエという金髪の少女を見た。ククイはいつも通りだが、リーリエという少女は初めて見る。しかし、ククイが彼女を助手と呼んだ割にはその両手は()()なのだ。まるで今まで労働なんてした事がないかのような、そういうお嬢様な手をしている。

 

 この世界、研究者もポケモントレーナーを兼任している。なぜなら研究中にポケモンを育成するし、その面倒を死ぬほど見るからだ。そしてその間に手はどんどん汚れ、傷ついて行く。まともなポケモントレーナーであれば、手が綺麗だなんて事はまずありえない筈なのだ。そうなると間違いなく何らかの事情があるのだろう。雰囲気的に良いところのお嬢様臭さがあるし、家出娘を預かっている、という所だろうか?

 

 ククイも苦労しているものだ。

 

「な、なんか同情的な視線が気になるけど―――PWCへと向けた調子はどうだい?」

 

「悪くない。トップエースは180をマーク、レベルが低くても168をマークしてる。漸く自分に一番適した戦術が完成された、って感じだ。たぶん()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からもう伸びる事はないだろう。後は俺が学んで、知識を増やして指示のキレを上げるのと、育成で出来る内容のバリエーションを増やす事だな。その為にもアローラ地方のポケモンのデータ、使わせて貰うぞ」

 

「あぁ、そこには異論はない。個人的な友人として君の戦いを応援しているしね」

 

 ククイはそういうとニカ、と笑みを浮かべた。浅く焼けた褐色の肌は完全に陽気なアローラの男の姿だった。ククイはどちらかといえば快男児と呼べる部類の男だ。閉鎖的なアローラ社会の中でもそこから飛び出した男だ。たまにこういう滅茶苦茶なのが閉鎖社会では生まれてくるよなぁ、とククイと談笑しているとあの、とリーリエが口を開いた。

 

「し、失礼します……その、オニキスさん? はどういう方なんですか?」

 

「ん? 俺か? しがないポケモントレーナーだよ、特に珍しくもない」

 

「君が珍しくもないポケモントレーナーなら世界の大半から珍しさが消えるよ。リーリエ、彼はね、現在のジョウト地方に君臨しているチャンピオンなんだよ―――つまり一つの地方で最強って言われている上に、世界で十指に入る実力があるって言われているトレーナーなんだ」

 

「へぇ、そうなんですか……?」

 

 持ち上げ過ぎじゃないか? と思いつつもリーリエの方は寧ろ良く解っていない様子だった。やっぱり、箱入り娘、というかお嬢様っぽさがある。世間に疎いらしい。まぁ、有名人になりたくてなっている訳ではないからちやほやされない分には別にどうでもいいのだが。すかされるのはちょっと悲しみは感じなくもない。ともあれ、

 

「ククイは出場するのか?」

 

「いや、僕は流石に今回は遠慮しておくよ。あくまでも研究者だしね。ポケモンバトルは確かに好きだけど……ポケモンマスターを目指す、という程の覚悟は僕にはないよ。だからそれはそちらに任せるとするよ」

 

 まぁ、モチベーションはバトルでは大事な要素の一つだ。それがないというのであればククイに強制させるものではない。ホウエンに居た時にバトルしたときは、結構いい感じだっただけにそのククイの言葉は落胆するには十分なものだった。それを察してかククイはははは、と小さく笑い声を零すと、

 

「代わりに……って言っちゃうと聞こえが悪いケド、アローラ地方の準伝説級のポケモンの話は知っているかな?」

 

「あー……確かカプ、だっけ?」

 

 そうだ、とククイがニヤリ、と笑みを浮かべながら人差し指を立てた。

 

「このアローラ地方は非常に面白い地方でね、伝説のポケモンは存在しないんだ。少なくとも他の地方の様に明確な形として伝説のポケモンが存在するのは確認されていない―――だけど、その代わりにこのアローラ地方には四体のポケモンが、守護者であるカプが存在する。その強さはそれぞれが準伝説級なんだけど、驚く事になんと()()()()()()()()()()ところがあるんだ」

 

「へぇ、確かにそれは面白いな」

 

 伝説種、準伝説種といえばポケモンの存在するこの世界においては秘された存在である。なぜなら彼らには通常のポケモンを遥かに超える強い力が存在するからだ。それをポケモンは誰よりも良く自覚している。だからこそ人前に出現しないのだ。

 

「カプ・コケコ、カプ・ブルル、カプ・レヒレ、そしてカプ・テテフ。遥か昔から存在する四体のカプはそれぞれの島の守護者として君臨し続けている」

 

「ゲットしようとする奴はいなかったのか?」

 

「勿論いたさ。そしてその度にカプも島民もそういう連中を追い返してきたのさ。一種の宗教の様なものだよ、カプに関しては。手出し無用。このアローラ地方におけるタブーの一つだ。おかげでカプも自由にやってるもんだ」

 

 ククイはそう言うと帽子を脱いで頭を掻き、だけどね、と呟く。

 

「他の地方を歩いて僕は見てきた。そこには伝説や準伝説にまつわる話が出てくるのと同時に、それらに関する失敗の話も出てくる。アローラはそういう話が極端に少ないんだ。カプとアローラの密接な関係はやっぱり、そういう失敗が()()ないところから来ているんだとも思うんだ」

 

 まだ、という事はやはり、この大量の観光客とトレーナーが増えた中で、今まで通りの環境を維持するのは難しいと考えているのだろう。実際、難しいだろうとは思う。とはいえ、何もしていないだろうとは思うし、

 

「ポケモン協会に保全を頼んだろ?」

 

「あぁ、うん……申し込もうとしたんだけどね……」

 

 歯切れの悪い言葉と共にククイは困った表情を浮かべた。そこでうん、と腕を組みながら頷き、

 

「……アローラ側に断られちゃった」

 

「おぉぅ……もぅ……」

 

 恐るべきは田舎の閉鎖社会。まさかそういう行動に出るとは……そう思いつつもククイは説明する。アローラの島民は基本的に閉鎖された社会である為に排他的であり、なるべく自分たちで成そうとするのが基本であると。また同時にカプはアローラの守護者である、守護神でもある。それはアローラ文化の誇りでもあるのだ。その為、それを他人に管理されたくないという反骨心から自警団を組織し、カプが住まう遺跡周辺を警備しているそうだった。

 

「ちなみにカプ自身はそこらへんまったく興味がなくふらふら飛び回っているよ」

 

『とことん空回っていますわね』

 

 カプとアローラの関係の道化っぷりが発覚したところで、少しだけ残念なように思えた。伝説種、或いは準伝説は他のポケモンと比べると非常にユニークな能力を持っていたりする。育成家としてはそこらへん、専用技とかに関しても非常に興味のある相手ではあった。こんな閉鎖された環境で育ってきた種なのだから、絶対にカントー等の大きな地方では見られない特殊な種族構築しているんだろうなぁ、というのは見えた。超気になるのは事実だが、流石に強硬突破して見に行くことははないだろう。

 

「私がこっそり運んでもいいのよ!!」

 

 空間の切れ目から聞こえ覚えのある声がそんな事をささやいてくるので、拳で切れ目を殴って破壊する。リーリエが相変わらず首を傾げているのが可愛いなぁ、と軽く現実逃避しつつ落胆していると、

 

「……確実にカプに会える訳じゃないけど、カプが祀られるその遺跡に入る便宜を図っても良いかな、とは僕は思っているんだ。一応アローラ最高の権威だしね、僕は」

 

「本当か!」

 

「おっと、だけど勿論タダでは、とは行かないよ? 僕らの業界では一つの借りがどれだけ大きなものかを誰よりも君が一番良く理解しているだろう?」

 

「良し、ホウオウ、ルギア、ギラティナ、イベルタルから好きなのを選べ」

 

「まて、それは止めるんだ。君は良くても僕が殺される。というか横の空間から今にも出て来そうだけど」

 

 横の空間が砕けて今にも《やぶれたせかい》に通じそうなのを異能で上書きすることで封じ込め、此方へと出てくるのを封じ込める。日常的なやり取りなのでもはや慣れた事だ―――こうでもしなければ風呂の時とか狙って襲ってくるし、情事の時にまで混ざって来ようとするから必須だとも言えるが。

 

 ともあれ、

 

「僕が欲しいのはそういうのじゃなくて、もっと別の交換条件だよ」

 

 そこでククイは一旦言葉を区切り、

 

「―――スカル団を知っているかい?」

 

 ククイの言葉にリーリエがスカートの端を少しだけ強く握ったのが見えた。そしてそれと同時に思い出すのは町中でエンカウントしたチンピラだった。そういえば髑髏のマークが印象的なチンピラだったな、と。それを思い出しながらククイへと告げればあぁ、それそれ、と言葉を向けられた。

 

「スカル団はね、今アローラを騒がせるギャングみたいなものさ。とはいえ、やっている事は町中のチンピラや不良と変わらないよ。徒党を組んで少しだけ悪い方向に青春を過ごしているだけさ。ぶっちゃけ、カントーとかジョウトでは普通にいるタイプのチンピラだよ」

 

 思い出すのはサイクリングロードに出現する暴走族の姿だ。楽しかったカントー時代。一度、ボスに言われてサイクリングロードの暴走族を絞めてみろ、と言われたので暴走族連中のモヒカンを燃やしてサイクリングロードを疾走させたことを思い出す。あの頃はほんとやんちゃしていたなぁ、と。それはともあれ、

 

「それがなんか問題なのか?」

 

「まぁ、こっちだとな。あんまり法律に触れる様な事をしている連中ではないんだよ。ちょっとばかし迷惑になるような事はしているけどね。だけどスカル団はいわばアローラの負の象徴なんだ」

 

 その言葉に首を傾げる。チンピラが、と。ちょいワルな感じで青春しているならぶっちゃけ、アクア団やマグマ団の様な迷惑さはないし、ギンガ団の様な失敗すれば次元大崩壊しそうな事もないし、どっかのカエンジシヘッドみたいな獄殺兵器を持ち出している訳じゃないし、非常に平和じゃないかと思う。

 

「いや……アローラにはちょっとした悪習があってね、その結果スカル団は駆け込み先みたいなものなんだ。まぁ、言ってしまえば失敗した人間の逃げ先なんだ。僕も別段それを悪いとは思わない。成功の裏には常に失敗が存在する。それを認めるからこそ社会は成立する訳だけど」

 

「あぁ、成程。なんとなく見えて来たわ。アローラにおける悪役なのか」

 

「そうなんだ。狭い島だからね。昔から島巡りって文化があって、それに失敗した人間を蔑む風潮があるんだ。そしてスカル団はその失敗した人間の集まりなんだ。たった一回の失敗で……とは思わなくもないんだけどね。僕も島の人間で既婚者だ。何か表だって口にすると……」

 

 暮らしにくくなる、と。まぁ、それはなんとなく解った。そしてククイもそれなりに気にしている事だと。そしてそれにおそらく横のリーリエが関わっているのも。ソファに座るケツの位置を軽く調整しつつそれで、と呟く。

 

「どうすりゃあいいんだ」

 

「明確に解決できるとは僕も思っていない。だけどスカル団の子たちは本来、そこまで悪い子たちじゃないんだよ。トップのグズマに関しても僕の個人的な知り合い―――いや、友人だ。そして彼の事は良く解っているつもりだ。別につぶせ、とかどうにかしろ、みたいな事を頼みたい訳じゃないんだ」

 

「目にかけておいてくれ、って事か。別に丸ごと吸収してOBC(ウチ)で丸ごと雇ってもいいんだぞ」

 

「流石に確実に会える訳でもないのにそれを頼むのは傲慢という奴さ、何より、スカル団と島巡りに関連する悪習の類は外部の人間ではなく、僕たちアローラの人間で向き合うべき問題なんだ」

 

「了承した。ま、やり過ぎない様に注意するさ」

 

 それを聞いたククイはどこか満足そうな表情を浮かべてからちょっと待っていてくれ、と言葉を置いた。立ち上がると下の研究室へと走って行き、リーリエと共にここに残された。おっと、割とまともそうな娘と二人きりにさせられてしまった。アクの強いのを相手にするのは得意なのだがこう、明らかに普通なのは寧ろ苦手だ。

 

 変な連中とばかり付き合ってきた人生が憎い。

 

 ともかく、待っている間は暇なので、黙っている必要もない。

 

「大丈夫か?」

 

「え、あ、は、はい」

 

「……」

 

 物凄くテンパっている、というよりは警戒されている。一応今はアロハ姿、と威圧感のない服装なのにここまで怯えられると落ち込みたくなってくる。そこまで……そこまで怖くないよな? ジョウトではかっこよい系のチャンピオンとして人気なのだが、一応。チビっ子たちが真似をして帽子とコート姿をするぐらいには。

 

 そんな心の傷と戦っていると、リーリエがあの、とおずおずとした様子で声をかけて来た。

 

「その……オニキスさんは、ポケモンバトルの凄い方、なんですよね? ごめんなさい、私正直ポケモンバトルの事は疎くて」

 

「あぁ、気にするな。価値観は人それぞれだから。それよりなんだ。お兄さんが何でも答えちゃるが―――あぁ、そうだ、俺に惚れるなよ? 一応既婚者だからな」

 

 後ストーカー多数。そう付け加えるが、リーリエには意味が通じない模様。ここまでくると逆に今までどれだけ大切に育てられてきたのだろうか、とは思わなくもないが、リーリエが口を開いた。

 

「その……オニキスさんにとってポケモンとは何ですか?」

 

「現実」

 

 リーリエの質問は前、コガネテレビでインタビューを受けた時に向けられた質問だった。だからその時と全く同じ返答をリーリエに返す。自分にとってポケモンは一言で例えるのなら現実という言葉に尽きる。それにリーリエは可愛らしく首を傾げた。

 

「現実、ですか?」

 

「あぁ。どれだけ否定してもポケモンは俺達と共にいる。一緒に生きているんだ。命を、意思を、形を、魂を持って。だからこそ俺達は何よりもポケモンと向き合わなければならない。それが現実と向き合うという事だからだ。つまりそれは生きる、という事でもあるんだ」

 

「え、えーと……?」

 

「……ははは、ちょっと難しいか。まぁ、これは俺の人生観だからな。簡単に言えばポケモンは生きています。彼、彼女たちは生物です。私と同じ命を持っています。だから接する時は常に本気で向き合いましょう、という事だ」

 

「あ、成程」

 

 まぁ、元々ポケモンが現実ではない世界から来てしまったのだ―――だからこそ誰よりもそれを深く胸に刻んでいるつもりなのだ。ここは現実で、現実からは逃げられない。そして逃げもしない。

 

 誰よりも、自分がそう決めた。

 

 だからこそアルセウスの帰るかどうかの言葉を蹴り飛ばしたのだ。

 

 俺はオニキス。

 

 トキワ・オニキス。トキワの森のオニキスで、ジョウト・チャンピオンのオニキス。

 

 この世界で生きている、エヴァという妻を持った一人の男だ。ハチャメチャで辛い事もあって逃げ出したくなることもあった。だけど俺は生きているし、それに付き合ってくれた黒尾は―――ポケモン達も生きている。それを見ないふりをする事なんて出来ない。だからこそ、忘れてはいけない。

 

「生きる、というのは存外難しい事だ。死なないだけなら簡単だ。だけど目的をもって生きるという事はその為に動く必要がある。金を稼ぐ必要がある。目的を見据え続ける必要がある……真面目であればあるほど、現実は重くのしかかってくるものだ。だけど、だからこそ生きるってのは楽しい物さ」

 

 ……その言葉の意味を今のリーリエは理解できないだろう。

 

 だけどいつか、大人に成る前に解ってくれたら、それはとっても素敵なものだと思う。

 

 

 

 

「ククイの奴もやるもんだ」

 

 ククイ研究所を出た所で手にしていたのはククイが発行してくれた手形だった。そこにはマハロ山道への登頂許可が書かれており、これを入り口であるリリィタウンで見せれば通して貰えるだろう、とククイが用意してくれたものだった。他の場所、遺跡への侵入許可に関しては後日発行してくれるとして、今回は前払いでこれを用意してくれた。何ともまぁ、気前のよい事だった。

 

『ご機嫌ですね?』

 

「まぁな」

 

 ボールの中から聞こえてくる黒尾の声に機嫌よく答えながらククイ研究所から坂道を上って行き、ハウオリシティの外れからアローラ1番道路を抜けて、リリィタウンの方角へと向かって行く。

 

 此方の方は整備、整頓されているハウオリシティとは全く違う様子を見せていた。

 

 ハウオリシティがメレメレ島における観光客向けの都市である様に、此方の方はそうではない人達―――つまりは島民の為の場所だった。リリィタウンはメレメレ島における普通の生活を送る島民の村になっているらしい。

 

 この一番道路もある程度は整備されてはいるが、明確に道が引かれている訳ではなく、木製のフェンスによって道を区切った後は道路を平たく押しつぶしてそのまま、という田舎の道を思い出させるつくりになっている。そこを走り回っているのは観光客や島外からやって来たトレーナーの姿ではなく、褐色肌が目立つ少年少女たち、つまりは島民たちの姿だった。

 

 此方は大人たちとは違い、不躾な視線を向けてくることはなく、此方がリリィタウンへと向かって歩いていると手を振って挨拶をしてくる気持ちよさを持っていた。それに軽く手を振り返しながら歩いてリリィタウンへと向かって行く。

 

「ま、やっぱガキは元気に走り回っているのが一番だよな」

 

 どことなく閉鎖的になっているのは子供たちではなく、その上の世代からか、と草むらの中へと飛び込む子供の姿を見ながら呟く。

 

「見つけたぞゴンベ! 今日こそ捕まえてやる―――この鉈でな!」

 

 やっぱアローラのガキ頭おかしいわ。鉈を持った少年がゴンベと鬼ごっこしながらそのまま段差を飛び降りて行く姿をしばし見つめてから、日が暮れる前にさっさとリリィタウンへと向かってしまおうと足を速める。

 

 ぶっちゃけ、リリィタウンとハウオリシティはそう遠くはなかった。

 

 地図で確認した距離は徒歩で一時間ほど、飛行できるポケモンがいればかなり時間を短縮できるだろうが、ライド出来るポケモンを今回は借りてきていない為、普通に一時間歩いてリリィタウンへと向かった。

 

 幸い、勝負を挑んでくるトレーナーはいないし、野生のポケモンもボールの中から漂わす別次元の強さに警戒して、近づこうとすらしない。後はトレーナーの目につかない様に堂々と移動するだけなので問題なくリリィタウンへと到着した。

 

 ハウオリシティが完全に近代化された都市だったのに対して、リリィタウンは本当に最低限の発展しか行っていない近代集落だった。木造建築をベースに空いた土地にぽつぽつと建築物を立て、中央に舞台の様なものを置いた場所だった。社会学者だったらこれを見てアローラ文化だ! なんて喜んだりするのだろうか? 自分からするとただの村としてしか見えないのが悲しいものだ。

 

 まぁ、さっさと抜けてしまおう、とリリィタウンへと入る。此方の方もあからさまな余所者に対して攻撃的な態度を取る事は―――なかった。

 

 寧ろ町中や、施設で働いているアローラ民の方がそういう態度は露骨だったような気がする。

 

 そういえば昔の、地球での話を思い出す。

 

 クー・クラックス・クラン、つまりは白人至上主義者の話だ。連中は人種差別思想を持った集団の中でも結構活動的なグループなのだが、面白い事にこの連中、自分のホームであるアメリカではなく、日本などの国に乗り込んで自分たちの思想を主張して活動したのだ。本当に面白い話だと思った。そして同時に本当に興味のある奴こそ意欲的で噛みついてくるのだというのも理解していた。

 

 そうすれば()()()()()()()()からだ。

 

 故にどうでも良いと思う連中ばかりがあとに残る。

 

 めんどくさい話だ。ま、今は関係のない話だ。バトルの邪魔さえされなければ基本的に田舎民の心情とかどうでもいい話でしかない。そして今回、そういうのを解決する必要はないのだ。ククイの頼まれごとはあるが、自分ひとりで解決できる様な問題ではないから、ちょくちょく様子を見てればいいだけだ。

 

 と、そんな考え事をしている間にリリィタウンの奥へと到着した。

 

 そこにはマハロ山道への入り口があり、それを登頂した先に戦の遺跡と呼ばれる遺跡が存在するとククイは言っていた。戦の遺跡はメレメレ島の守護神カプ・コケコの家のような場所であり、ほとんどの間留守にしているが定期的に立ち寄って身を休める場所になっている。その一番奥に祭壇が存在し、カプに認められた存在であれば、それぞれの遺跡の祭壇でカプと会い、戦うことが出来るらしい。

 

 が、

 

「おいおい、兄ちゃん。この先は立ち入り禁止だ」

 

 当然ながら褐色肌の若い青年がマハロ山道の入り口に立っており、道を封鎖していた。その言葉に対してサングラスを頭にかけながら苦笑を零す。

 

「たぶん俺の方が年上だ。それよりもククイからマハロ山道登頂の許可をもらっている。確認してくれ」

 

 ククイから受け取ったばかりの許可証を取り出して道を塞ぐ青年に見せると、それを受け取った青年が確認してから確かに本物だ、と呟くが、

 

「……いや、悪いけど諦めてくれ。今、ここを通す事は出来ない」

 

「どうしてもか?」

 

「あぁ……いや、別段アンタが悪いって訳じゃないんだ。ククイ博士が許可を出すって事は信頼できるって事なんだろうけどな、それはそれとして、別の理由でここを通す事は出来ないんだ」

 

 それはどういう事なんだ、と質問をすれば、青年が答えた。

 

「最近、カプ・コケコが地味に気が立っているんだ」

 

 青年は少しだけ困ったような様子で頬を掻いた。

 

「カプ・コケコはメレメレ島の守護神って話は知っているか? いや、まぁ、遺跡に向かう以上は知っているか。そのカプ・コケコは実は四つの守護神の内最も好戦的で戦う事を好んでいる守護神なんだ。ほら、最近外から強いトレーナーがいっぱい来ているだろう? その事もあって興奮しているみたいなんだ……」

 

「あー……確かにテンションの高い準伝級は災害の様なものか」

 

「あぁ、そうなんだ。普段は勝手に飛び出してバトルをしてストレスを発散しているんだけど、この状況でカプ・コケコも問題を起こさない様に自制しているみたいなんだ。だけど本来はバトル好きの性格だし、それを無理やり自分で抑え込んでいる物だから酷く気が立っているんだ。戦の遺跡に向かったらおそらく一切躊躇しない全力の殺し合いになる」

 

「それで注意喚起、という事か」

 

「あぁ、だから悪いな。ここは通せないんだ」

 

 申し訳なさそうに言う青年に気にする必要はないと告げながら、じゃあ、と言葉を続けた。

 

「俺がコケコのガス抜きに付き合おう」

 

「え? いや? いやいやいやいや、ダメダメ、ダメだって! そんなの自殺するようなもんだって! 猶更行かせられないよ! カプ・コケコは純粋な勝負能力で言えばこの4島の守護神で一番強いんだから!」

 

 青年が慌てるように此方を心配し、諭す様に言ってくるのに小さく笑い声が零れる。物凄い新鮮なリアクションだっただけに、違和感さえ覚えてしまうが……まあ、辺境で、しかもいつもとは違う服装なのだからバレないのも仕方がない。これがポケモン協会や身内が相手であれば、

 

『えぇ、まぁ、無言でボールの一つでも手渡されるでしょうね……』

 

 つまりちゃんとゲットしてこいよ? というアレである。お前らも大概神経図太いな。とはいえ、カプ・コケコがいる状態が確定なら自分としてもぜひエンカウントしておきたいところだ。故にここは押しとおりたいところだ。

 

「安心してくれ。俺もPWCに参戦予定のトレーナーだ。実力ならポケモン協会のお墨付きだ」

 

「ポケモン協会のお墨付きと言われてもなぁ、こっちじゃリーグとジムがないからあんまり馴染みがないし……良し、こうしよう」

 

 青年はそう言って手を叩いた。

 

「俺とアンタでポケモンバトルをしよう。その勝負で一人でもアンタの方に瀕死のポケモンが出たら、その時点で終了。大人しく帰ってくれ。だけど今連れているその二体のポケモンで俺の六匹を倒すことが出来たら戦の遺跡への通行を俺が許可するよ。どうだ?」

 

 青年の提示したその条件にニヤリ、と笑みを浮かべた。

 

「乗った」

 

 一も二もなくその言葉に飛びついた。寧ろバトル脳としてはその条件が一番都合が良かった。普通に言葉や、或いは金で言いくるめても良かったのだろうが、アローラ地方のポケモンバトルというものを見るのにはちょうど良い所だった。アローラ特有のポケモン、そしてZワザ。これからのバトルに備えてそれらを一度経験しておくのは悪い事ではなかった。故に深い笑みを浮かべ―――バトルの準備に入った。

 




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/9df3ccd6-87e7-419c-b13a-343ffcd31538/dc0a89e36f9ceb101dbb5dd5e549c9e6

 【技幅】x6なので習得しているワザから6個選んで装備。特性が複数ある場合は一つ選択して装備という形。

 以上、今回使用する黒尾とスティングのデータ。称号(一定以上の活躍による獲得)、体質、性質、天賦か否か、固有枠、個人枠、育成枠などに能力は分けられている。ポテンシャルが多ければ多いほど能力はたくさんつくけど制限があって、それを超える事はレギュレーションで違反という事で。

>『黒爪の愛人』 称号枠
>『固有種』 性質・体質枠
>『黒爪九尾の手管』 個人枠
>『キリングオーダー1st』 育成枠
>『黒爪の王冠』 育成枠2
>『魂の契約』 特殊枠
>《命枯れ果てる彼岸の地》 専用枠

 とまぁ、解りやすくデータを解説するならこのような感じで。こうやってしっかりと区分しておくと非常にバトル転がしやすいので(ダイスを片手に)。

 それはそれとして、碑文つかさ氏がまたまたポケマス絵を描いてくれたぞ! オニキス&二期終盤でだす予定だった蟲の天賦スティングの絵、まだ見てない人はピクシブかツイッターでチェックしよう!

 という訳で次回、2:6でvs青年。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。