再び、ポケモンマスターに   作:てんぞー

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戦の遺跡~リリィタウン

「1:1の勝負でこの私が敗北する訳ないじゃない」

 

 床に倒れたカプ・コケコの上に座りながら疲れた様子でサザラがそう断言した。疲れてはいるが―――ちょうど良い疲れ、という奴だ。ここ最近、PWCへと向けたトレーニングの中でテンションは上がって行くものの、見慣れたメンツ相手のスパーリングばかりでややフラストレーションが溜まっているのは見えていた。今回、カプ・コケコの相手はサザラに溜まっていたフラストレーションを吐き出す為の良い機会だったとも言える。

 

 最近レッドのピカ相手に負け続きだったし、明確に自分が強い、という事を認識させる事に対しても悪くはなかった。なおサザラとピカの勝負は純粋にピカが化け物なだけなのだ。基本的に種族値が高いポケモンが強いポケモンバトルと言う環境の中で、格上を殺す事に凄まじく特化しているレッドのピカは、まさにサザラメタと呼べる存在になっている。

 

 いや、大半のエースアタッカーはピカを相手にすることが難しいだろう。ポケモンを強くするために進化させるのは基本的な事で、強いポケモン程種族値が高い。その中で本来のピカチュウの種族値をキープしたまま、ただひたすらに上の連中と戦う事を求めた。その極限がレッドのピカだ。

 

 そりゃあ究極的に種族値の暴力で殴り合う事に特化したサザラでは勝てない。致命的に相性が悪いのだ。そしてレッドに対する勝率の低さはこれが原因だ。終盤に入ってから残されたアタッカーの衝突、エースとエースとの衝突でピカによって先に此方の二枚看板の片方を落とされてしまうのだ。これに対して勝利できるのはスティングだ。元々がメガスピアーである彼女はその能力の9割をAとSのみにぶち込んでいる。ぶっちゃけ、何らかのサポートでもない限りか、野戦でもなければ一発食らえば即座に死ぬってレベルで耐久力が存在しない。

 

 だがSではピカを上回っている。総合的なトータルではどっこいなのだ。だからピカを相手にまともに殴り合える。だけどその事を考えると序盤で運用するアタッカーがもう一枠必要になるので、アタッカー3、4枠というスタイルをレッド戦では重要視する様になる。ピカ一人を警戒する為に全体の構成を考えなくてはならないのだ。

 

 つくづくあのピカチュウは反則だと思う。それはともかく、

 

「これで遊びは終わりだ、コケコ。お前も十分に満足しただろう? もしこれでも満足できないならアーカラのハノハノリゾートに遊びに来い。暇なときにならこっちで相手をしてやる」

 

「ツカマエナイ……ノカ」

 

 起き上がって此方に近寄ってくるサザラの頭を軽く撫で、顎の下を軽く撫でるように掻いてからボールの中へと戻す。それを腰のボールベルトへとセットしながら、カプ・コケコに背を向けて歩き出す。

 

「悪いな―――今更準伝なだけのポケモンに興味はないんだ。俺と自然に合わせられ、その上で理解して共に歩む輩にしか興味はねぇのさ。じゃあな。お前のデータは有効活用させて貰うぜ」

 

 怒りの前歯互換の自然の怒りやエレキメイカー等の能力はこれからも転用することが出来そうな能力だ。黒尾にだって此方のアローラにしか存在しない《じょうおうのいげん》を既に体得している。此方の地方にはまだまだ見ぬ面白い能力や、育成に転用できそうなものがありそうだ。そんな事を考えながら戦の遺跡の外へと出た所で、

 

 褐色、老の巨漢を見た。此方が戦の遺跡から出てくるのを見て、男は頭を軽く下げた。

 

「本来であれば島キングであるこの私がやる筈のお役目でしたが……役目を押し付けてしまったようで、まことに申し訳ないですぞ」

 

「いや、気にするな。島キング……ってのは島の統括者だろう? となると今の時期、内輪の事ばかりじゃなくて色々と忙しい筈だ。ポケモン協会から人員は出ていてもそれで土着の問題のあれこれはどうにかなるもんでもないしな……ハラ」

 

 島キング・ハラはそう言われると困ったように苦笑を零し、腹を軽く叩いた。

 

「そうですなぁ……そう言われると助かりますなぁ……カプ・コケコをゲットしないでくれましたし」

 

「あぁ、うん。それはね……」

 

 本当なら割とゲットしたい所ではある。カプ・コケコにはあんなことを言ったが、ゲットして育成して調べるのが一番いいし、物凄くやりたい。未知のポケモンの育成なんて面白いに決まっているではないか。しかも鈍足なアローラ環境の中でも最速クラスの高速アタッカー。鈍足なアローラの中で先に殺すために進化したのだろうか? そんな事を調べる為にも是非ゲットして調べたかった。だけど無理なのだ。

 

 来る前にポケモン協会にマジでゲットするなよ、と脅迫されたので。あいつら人を伝説ハンターか何かと思ってやがる。俺だって好きで伝説のポケモンとは―――まぁ、合っている部分はある。それは確かに認めるし、自分から捕まえに行っているのも事実だ。どうしよう、言い訳する余地が消えた。それならそれでいいわな、と納得する。まぁ、それに今の時期、余計なポケモンを育成するだけの余裕もないか、と思い直す。

 

「俺のベストメンバーは既に決まっているからな。今更ぽっと出の準伝や伝説には興味はない。サブ落ちした連中もまだやる気を見せている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しな。これ以上は余分というもんだ」

 

「ほっほっほ、流石にチャンピオンの言う言葉は違いますなぁ」

 

 そう言ってハラは笑ってからそれでは、と言葉を置いた。

 

「今回のお礼にアローラ式の家庭料理を昼食にご馳走しようかと思いましてな」

 

「それは是非とも」

 

 ただの昼食だけで終わらないんだろうな、と確信しつつハラと並んでマハロ山道を降りて行く。悲しい事だが大人になると純粋な好意で食事に呼ばれる回数は本当に少なくなってくるのが解る。そういうのを気にしなくて済むのはプライベートの友人ばかり。初対面、仕事先の相手と食事をするときは大体商談だったり相談だったり、何らかの話を詰めてくる事だ。

 

 故に食事を断る事はしない―――めんどくさいが、これも仕事と割り切る。

 

 社会での処世術を何時の間にか覚えて使う様な大人に成ってしまった、と思わなくもない。果たしてボスも昔はこんな風に会話をしたり、食事して商談をしたりしていたのだろうか? 気になる話ではある為、何時か聞き出そう。そんな事を考えながらマハロ山道から島キングであるハラの家へと向かう。

 

 

 

 

「あら、キングと言う割には普通の家なのね」

 

 そう言ってボールの外に出ていたサザラに軽く呆れる。マハロ山道を降りてリリィタウンに入った所に島キング・ハラの家はあるらしく、古いアローラ式の、風通しの良い木造の家だった。大きさはそれなり、と言えるレベルではあるが普通と呼ぶようなレベルの家だ。特に何か、豪華という訳でもない。勝手にボールの内側から飛び出してきたサザラは飛び出た所でハラの家をそう評価した。自分もそう考えて口に出さなかったのにあっさりと言った事をハラは笑い飛ばした。

 

「まぁ、島キングではあっても、地主でもなんでもありませんからな! そういうのが気になるのであればキャプテンのイリマを求めると良いですぞ。……それにしても自由なポケモンですなぁ」

 

「ウチは性格に関しては自由主義でな。……モンスターボールも開閉スイッチの破壊対策に内側から開けるように特注品をシルフカンパニーに作って貰っている。だから完全にこいつらを縛れている訳じゃないんだ。それで迷惑をかけたら済まない」

 

「いえ、お気になさらず―――寧ろその自由な性質こそアローラに合うでありましょう! となるとポケモンの分も用意したほうがよろしいでしょうな」

 

「わぁい!」

 

「少しは申し訳なく思え馬鹿」

 

 そんな言葉を投げてもなんのその、カプ・コケコとタイマン出来たのがそれほどまでに楽しかったのか、上機嫌という様子で鼻歌を口ずさみながらついて来た。

 

 なお、ボール破壊用の対策はガチである。やっている人は少ないのだが、それでも時折暗殺者とかの相手をしたりする場合があるので、それ対策に常に自分のモンスターボールは内側からも開けられる様にしてある特注品に揃えているのだ。これならボールを奪われた場合、開閉ボタンを破壊された場合でも自由にポケモンを繰り出す事が出来る様になる。

 

 割と切実な理由から生まれたモンスターボールなのだ。

 

 それはそれとして、ハラの家の中へと進み、奥方に挨拶をしてからは椅子に座り、アローラ料理のロコモコを待っている間、今のアローラや環境の話を進める事となった。その間、話を聞いているだけではどうにも暇らしく、サザラが外へと飛び出してギルガルドを素振りし始めていた。相変わらず戦う事しか脳味噌ねぇなアイツ。そんな事を考えながらが話を、そして視線をハラへと戻した。

 

「……ウチの馬鹿が本当に失礼した」

 

「いやいや、何度も言いますがポケモンと人が共に身近に生きる事が、それがアローラの生き方。縛るのでも縛られるのでもなく、共に生きながらそれを統べる。流石音に聞こえしカントー王者と納得するばかりで」

 

「余り持ち上げないでくれ、褒められ慣れてるから」

 

「はっはっは、その返しは初めてですなぁ! まぁ、近頃は観光客の流入などでややアローラの生き方というのも変わりつつありますがな……」

 

「懸念するところか」

 

 その言葉にハラはどうでしょうなぁ、と難しそうに呟いた。

 

「伝統や伝えられてきた価値観は確かに大事でしょう。それが今のアローラを作っているのでしょうから。ですがそれだけで生き残れるほど現実は甘くないのも確かですなぁー……。アローラは今発展の時代を迎えておりますな? このまま続けば生活圏がポケモンの領域までに広がり、共に暮らせずぶつかるときが来ますな」

 

「そうなってくると必然的にアローラの外へと人を出す必要が出てくる……だけど今のアローラの閉鎖的な環境ではそれも難しい、か」

 

「そうですな。私はこのアローラが好きです。なるべくなら変わらないでいて欲しい気持ちもありますが、それでも時とは残酷なものでアローラは現代に適応する形で変わって行くしかありませんからなぁ……時のポケモンが何とかしてくれないもんでしょうかなぁ」

 

「あのセレビィでもそんなに器用じゃないさ……まぁ、出来るとしたらアルセウスだが、アレもそこまで博愛精神で溢れている存在じゃない」

 

【聞こえていますか―――オニキスよ―――私は創造神です―――私は今貴方の脳内に語り掛けています―――】

 

 帰ってくれアルセウス。妙な電波を送らずに帰ってくれ。軽く頭を片手で抑えると、ハラがどうしたのか、と聞いてくるが何でもないとしか答える事が出来なかった。誰が創造神から毒電波を傍受していたと言えるのだろうか。というかアルセウスもアルセウスで何故こんな真似を。いや、考えるだけ無駄だ。創造神の考えなんて高尚過ぎて人類に理解できるわけがない。……理解できないという事にしておいて欲しい。

 

 ニートしているのが暇だから話しかけたとかいう理由であってほしくない。ともあれ、

 

「となると今回のPWC開催はアローラとしても渡りに船だった、か」

 

「ですな。とはいえ、古い因習に支配されたアローラ、未だにPWCの開催に関しては否定的な部分は多いですぞ」

 

「デモや抗議が未だに届いている話は聞く―――島キングやクイーンではそこはどうにか出来ないのか?」

 

 その言葉にハラは頭を横に振った。

 

「島キングの称号はあくまでも()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()の称号でしかない―――それはただの許可で、そして優秀である、と言う証でしかないのですな。そこには権力や他人を言い含める力はないのですなぁ……」

 

「面倒な場所だ」

 

「理解していても、私達ではどうしようもない部分があるとしか言えませんな。スカル団も、このアローラが向き合わなくてはいけない問題の一つ。因習、風習、伝統もまた一つ。だけどそれに向き合う機会がなければアローラは進む事さえもできないでしょうな」

 

「そう考えるとやはりPWCみたいな大規模の交流は必要だったのかもしれないなアローラ地方には」

 

 PWCを通して世界各国からトレーナーが来るという事はそれだけアローラが注目されることである。そしてそれと同時に、アローラが世界を知るきっかけでもあるのだ。つまりアローラだけではなく、その外側にも世界があるという事をこの狭い環境は知る様になるだろう。このPWCアローラ計画、

 

 一番最初に賛同したのは島キング・ハラとククイだったらしい。

 

 面倒な地方である。そう思っていると鼻に肉汁と混ざったデミグラスソースの匂いが付く。食欲を刺激されながら視線を逸らせば、ライスの上に乗せられたハンバーグと目玉焼き、そしてその上からかけられたデミグラスの姿が見えた。

 

「はっはっは、暗い話は一旦これまでにしましょうか、お互い色々と立場や相談したい事もありましょうが、ここはひとつ、カプ・コケコの件に関するというお礼で一つ楽しんで食べてくださ―――」

 

「うっは、良い匂い! んー、この肉厚のハンバーグと滴る肉汁の様子、実にグッド! 食べていいわよね? いいのよね!?」

 

『はしたない……』

 

『アレがエースだと思うと憂鬱だな』

 

 庭から飛び込んできたまだまだ子供らしいリアクションのサザラに苦笑しつつも、ハラの好意を受け取る事にする。スプーンで黄身を割って、ソースとハンバーグと混ぜながらライスと共に掬い上げて口の中へと運んだ。

 

「うむ、美味い」

 

「我が家自慢の一品ですからな。ささ、酒はどうですかな?」

 

「いや、流石に昼間からは―――」

 

「いやいやいや、遠慮する必要はありませんぞ!」

 

 ハラの押しの強さに、田舎のおじさんの優しさを垣間見つつ、その日は夜までたっぷりハラと愚痴をこぼし合いながら飲みつつ過ごす事となった。

 

―――無論、帰還したのは明け方。

 

 エヴァにたっぷりと叱られるハメとなった。

 




 アローラの事情のあれこれとコケコを殴り倒す遊び。

 まだ開幕までちょくちょく時間あるので登場人物を紹介したりするフェイズ。アローラも引きこもりばかりではなく外に目を向けようとする人々は確かにいるのだ。ただしがらみから明言できないだけで。

 それはそれとして、一部キャラの口調が難しいわポケモン。

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