そしてそれを聞いたイチカの感情。
「すまなかった。」
「はっ?」
ラウラの独房での謹慎が終わった後、イチカは教室で、いきなりラウラから90度頭を下げられ謝られた。
「なんだよ、急に。」
「私は、危うくお前を殺しかけた。そのうえ、お前の体調を整えてくれている者達を…。」
「あの人達に謝るのが先だと思うけどな。」
「そちらの方は、先に謝罪した。………聞いてはもらえなかったが。」
「まあ、あの人(守代)じゃぁな。」
守代は、腕を骨折させられたのだ。そう簡単には許して貰えないだろう。
「本国が私の尻拭いをしてくれた…。」
「だろうな。」
「それでなんだが…。」
「なんだよ?」
「はいはい、その話は一応機密でしょ?」
そこへツムグが話に割って入ってきた。
「仮にも軍人なんだから、そういうことをこんなところ(教室)で、話ちゃダメでしょ?」
「…ぐっ。」
ラウラは、ツムグに言われたことに歯がみした。
ツムグは、相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべている。
「……おい。どういうことだよ?」
イチカは、なにかを察したようだ。
「イチカ。その話は、医務室とかでしようね。一般生徒がいないところで、もちろん…先生も。」
「…そういうことかよ。」
ツムグにそう言われ、イチカは頭を振り、吐き捨てるように言った。
ラウラは、目を見開きイチカを見つめた。
「あんた…言ってたな…。この世界が嫌いだって。」
「うん。」
「……俺も…嫌いかもしれねぇわ。」
「そう。」
「教官の弟…、私は…。」
「その言い方やめろ。イチカでいい。」
「わ、分かった、イチカ……、その…私は…。」
「ボーデヴィッヒまで、俺と同じになるなよ。」
「しかし!」
「やめろっつってんだよ!」
食い下がるラウラに、イチカは怒鳴った。
教室にいた生徒達がその怒鳴り声に一斉にイチカ達の方を見た。
「イチカ。落ち着こう。心臓に悪い。…君も、いい加減に諦めようね。」
「くっ…。」
イチカを落ち着かせようとポンポンと背中を軽く叩きつつ、ラウラにそう言った。
ラウラは、ツムグを睨んだ。
ラウラからの睨みなど気にせず、ツムグは、ペロッと舌を出した。
やがてチャイムが鳴り、千冬が入ってきた。
千冬は、イチカとツムグ、そしてラウラが対立しているのを見て、顔をしかめた。
「何をしている?」
「あ、きょ…織斑先生…。」
「なんでもないよ~。席に着こうか。」
「…ちっ。」
イチカは舌打ちして席に着いた。
ラウラは、オロついたが、やがて観念したのか自分の席に着いた。
千冬は、教室の後ろに行くツムグの背中をひと睨みしてから、出席を取った。
***
「第二の検体の話ですか?」
「…ボーデヴィッヒを使う気だろ?」
授業が終わった後、医務室でイチカは、守代に聞いた。
「私は知りません。」
「嘘つけよ!」
「本当です。」
嘘ではない。
検体に使う人間の選別は、世界機構の方に権限がある。または、イチカのようにツムグの推薦というのもあるが…。
「それは直接本人が?」
「…いえ…、たぶん…そうじゃないかって思って。」
「そうですか。」
淡々と受け答えする守代に、イチカは、ムカッとしたが堪えた。
彼女のこの態度は今に始まったことじゃないが、イチカとしては、ラウラのような少女までもがこのプロジェクトに利用される可能性を危惧していた。
今現在までの発展した文明のために、犠牲が無かったとは思えないし、その尊い犠牲が無ければ現在(いま)がなかったとは理解しているつもりだ。
だがしかし、だからといって無駄に犠牲を強いることが良いことではない。
もしもイチカの予想通り、ラウラがイチカに続く、ツムグの臓器移植の第二の検体になるのだとしたら……。
「もしそうだとしたら…、お仲間ができますね。」
「っ! 喜べるかよ!」
守代の言葉に、イチカはついにキレた。
「誰が、自分と同じ立場になって喜ぶかよ!」
「そうですか。」
キレるイチカに、守代は淡々とそう言っただけだった。
それ以降、イチカが喋らない限り守代は何も言わなかったため、苛立ったイチカは、医務室から出た。
「守代ちゃんに当っても無意味だよ。」
当然だがツムグがついてくる。じゃないと、イチカが死ぬからだ。
「うるせぇよ!」
「安心して。彼女を“イチカの代わり”の検体にはさせないよ。」
「…なんだと?」
「なに? やっぱり仲間が欲しかった?」
「ちが…!」
「けど、ラウラ・ボーデヴィッヒは、この先は無いね。」
「どういうことだよ?」
「彼女は、遺伝子強化試験体って言って、要するに作られた人間だ。元々生体兵器として作れたってこともあって、総合能力が高かったんだけど、ISの登場で、ISの適合を高くする実験で失敗してね~。それで弱くなってさ、周りから出来損ない扱いされてさ。だから自分を助けてくれた織斑千冬に酔狂するようになった。……ISと軍階級を今失えば、彼女に待つ末路は……、何かしらの実験体に利用されるか、廃棄処分だろうね。ハッキリ言って、産まれた時点で普通の人生を送るなんて許されてない。」
「なっ…。」
「まあ、彼女が所属しているドイツもドイツで、ラウラがやってしまったこと…、つまりイチカを殺しかけたことや、守代ちゃんをはじめとしたプロジェクト最先で働いてる選ばれた人間達を傷つけたせいで、プロジェクトに参加してたドイツは今肩身が狭いからね~。挽回するために、原因になった彼女自身を生け贄にするって決定が多数を占めてるっぽいし。」
「そんな…。」
「けど、もし彼女が検体になるとしたら、心臓以外の臓器の移植になるよ。腎移植くらいから始まるだろうね。」
「…なんで?」
「最終的には、脳以外の移植が可能になることが、このプロジェクトの最終目的だからだよ。」
「それって…、つまり最終的には、あんたの臓器や皮膚とか全部使うって事かよ! ボーデヴィッヒに!」
「……そうなるね。」
「アイツを検体にしないって言っただろ!?」
「イチカの代わり…にしないって意味でね。俺は推薦はしないけど、そもそも推薦権は世界機構の方にあるし。」
「っ!?」
「世界機構の方がラウラ・ボーデヴィッヒを検体にするのをすぐに決定しないのは、彼女がデザインベビーだからだろうね。身体の構造は、人間と同じだけど、遺伝子操作されているわけだから、うまく適合したとしても、他の一般人に流用できるとは限らないからさぁ。」
「もし普通の人間だったら…?」
「即決だろうね。」
そうキッパリと言って腕をすくめるツムグ。
イチカは、俯き、血が出るほど拳を握りしめた。
狂っている!
そんな言葉と感情がわき上がってきていた。
「正義と悪って紙一重だよ。結局、大多数が占めれば、そっちが正義だ。」
「だからって…、だからって!」
「まあ、こうなっちゃったのは、結局彼女の責任だし、死ぬか生きるかは彼女次第だ。イチカが手を出す必要も無いし、手を出したところで意味も無い。」
「……くそっ!」
イチカは、怒りの行き場を失い、壁を強く蹴った。
「イチカ。あんまり怒ると心臓に悪いよ。」
「うるせぇよ!」
イチカは、激情のまま、ツムグに殴りかかり、その顔を殴った。
ツムグは、抵抗せずイチカからの暴力を棒立ちのまま受け入れた。
マウントを取って殴り続けて、やがて疲れたイチカは、そのままツムグの上で上半身を丸めて泣いた。その間にツムグの顔の傷は瞬く間に治り、呻くイチカの頭を撫でた。
ラウラが、第二の検体なるかどうか、答えは否です。(ネタバレ)
ただ、彼女を取り巻く環境は、かなり危うい状況です。これ以上何か問題起こしたら速攻で実験体か廃棄処分かも……。
別にツムグは、イチカを挑発とかしてません。あくまで事実を言ってるだけのつもりです。
あと、守代さんは、感情が無いのではなく、自分で感情を抑止しているだけです。