セシリアとの決闘から後日。
IS学園は混乱した。
まず自主退学者が続出。生徒達の抗議、親御さん達の抗議。トラウマになって部屋に引き篭もった一部の生徒達。
「減ったな。」
「そりゃ、あんなことがあったらな…。」
教室に入ると、まあ、生徒が減っていた。4分の1ほど減っていた。
生徒達は、ツムグの姿を見るなり、顔を青くさせて、ザザザッと引いていった。そして口々にバケモノと言う。
「ハハハ、良い反応だ。」
「マゾだろ、あんた…。」
「一夏! そいつから離れろ!」
「箒…。」
「あんまり離れないようにね。」
箒に掴まれ引きずられていくイチカをツムグは、ヒラヒラと手を振りながら見送ったツムグは、教室の後ろに行った。
授業が始まるが、ツムグの存在が生徒達の集中力を妨げた。
教科書には、今は封印されているゴジラの細胞と人間が混ざり合った世界で唯一の人間とぐらいにしか書かれておらず、まさか頭部を失っても復活する怪物だったなどとは一般人が知るはずがなかった。しかもその再生シーンが衝撃的なのだ。並程度のメンタルじゃ、耐えられないほどエグイ。試合会場の観客席で何人が吐いたことか。
「……椎堂ツムグ。すまんが教室から出てくれんか?」
「イチカが死ぬぞ?」
「っ…、教室のすぐ外にいるだけでもダメか?」
「……まあ、それぐらいなら。でも何かあったらすぐ入るからね。」
そう言ってツムグは、教室の外に出て行った。
すると千冬に生徒達が救世主を見るような目を向けた。
千冬は大きく息を吐き、授業再開した。
しかし数分後。
イチカが真っ青になり、胸を両手で押えて机に突っ伏した。
「一夏!?」
「どうしたイチカ!?」
隣の席の箒と千冬が慌てた、その時、バーンと教室の戸が開けられ、ツムグが入ってきた。
「はー、やれやれ。」
言わんこっちゃないとツムグは、ため息をついた。
「おい、貴様! 一夏に触るな!」
「このままじゃ死ぬって。」
ツムグは、箒を退け、イチカを軽々と肩に担ぎ上げると、教室から出て行った。
「一夏!」
「追うな。篠ノ之。」
「なぜですか、ちふ…。」
「織斑先生だ。…我々が行ったところでどうしようもない。」
「っ!」
後を追おうとした箒を捕まえた千冬がそう言い、箒は唇をかんだ。
それ以降、イチカは、授業に出なかった。
***
2、3日してイチカは、授業に出た。
心なしかゲッソリとしていた。
「大丈夫か、一夏!」
「……ああ、なんとかな。」
箒が心配して声をかけると、イチカは、少し力のない声でそう返事をした。
更に何があったんだと聞くが、イチカは黙秘した。
「なぜだ! 幼馴染である私に話せないのか!?」
「一応国家機密なんだよ。」
「なっ…。」
イチカは、そう言って席に着いた。
箒は、ギッと教室の後ろにいるツムグを睨んだ。
ツムグは、舌を出して大げさに肩をすくめた。
休憩時間になると、イチカのところにセシリアが来た。
「なんだよ?」
「…あの…。」
セシリアは、一瞬口ごもったが、すぐに言い直し。
「……あの時は…、助けてくれたのですね?」
「? …ああ。」
イチカは、セシリアが言わんとしていることを察した。
「あの時は…、ありがとうございました。わたくしの代わりに、お手を汚させてしまったことを、まことにお詫びしますわ。」
セシリアは、そう言って深く頭を下げた。
「いいって、そんなこと言わなくても。」
「ですが。」
「とてもじゃないが見てられなかったし、あいつがやり過ぎてたから黙ってられなかったんだ。それだけだ。」
「…けれど、あなたの命の恩人ですわ。これからはセシリアと呼んでください。」
「…分かった。」
「では、失礼いたしますわ。」
セシリアは、もう一度深く頭を下げてから去っていった。
「いいねぇ。敵との和解。よくあるライバルが仲間になるっていう倍々ゲームみたいなもんだ。」
「なんだよそれ。」
ツムグの例えにイチカはツッコミを入れた。
イチカがすぐぶっ倒れたことで、再びツムグがいる状態での授業が始まった。
そうなると今度はイチカ自身が生徒達に非難の目を向けられるようなった。
「どーするイチカ。俺が言えば、別室で学習ってできるよ?」
「どーせ日常生活でのストレスチェックもするんだろ? 別にいいよ。」
「…ハハ、分かってるんだな。」
ツムグは、不貞腐れているイチカにそう言った。
仮に別室での学習となっても、世界初の男性IS装者である以上学園での生活は切り離せない。それなら最初からIS学園に入れる必要性がないからだ。
周りからの非難の原因はツムグにあるが、学園で唯一のIS装者の男子生徒である以上周りからの目は切っても切り離せない。だからイチカは、不貞腐れながらも受け入れたのだ。それはつまり、自分自身が見世物であることを自虐しているということでもあるのだが。
千冬は、この事態を重く見て守代にイチカにかかる負担の大きさについて問うた。
帰ってきた答えは、ストレス強度のチェックも経過を見るための大切な一環なので上(世界機構)からの命令がない限りはこのまま続行だということだった。
「イチカ君が好奇の目にあわなくなるには、ツムグさんの臓器移植が一般化する社会ができる以外にないでしょう。」
守代は、冷静な声でそう答えた。
そんな世の中がいつできる?
千冬はその問いを言いかけて口をつぐんだ。
もしかしたらイチカが生きている内には、そんな世の中は来ないかもしれないのだ。下手をするとイチカは、平均寿命を迎えることなく死ぬ可能性だってかなり高い。ツムグの臓器移植の第一号であることが不安を大きくさせる。
表向きは死亡届けが受理されていて、表沙汰になっていないプロジェクトの検体にされたイチカは、例え死んでも千冬のもとへは帰ってこないだろう。永遠に。むしろ死んだら自由もクソもない。解剖されてホルマリン漬け行きだ。
医務室から出た千冬は、廊下を歩いている最中に壁を殴った。
「すまん…。一夏…。」
己の無力さを嘆き、千冬は吐き出すように言葉を呟いた。
***
ツムグは、研究所の自分の研究室にいる守代の後ろにいた。
「で? ちっとは、距離を取っても大丈夫そう?」
「無線によるエネルギーの譲渡は、まだ距離を稼げません。」
「あ…そう…。」
「なんですか?」
「いやぁ、数分でダメだったでしょ? おかげでイチカにだいぶ無理な調整させちゃったからさぁ。」
「あなたが距離を取るからでしょう。おかげでイチカ君の体内でナノマシンの大半が機能を停止してしまい、それを取り換えなければなりませんでした。私達の苦労も考えてください。」
「まあ、そうなんだけどさ。」
「おかげで無駄な費用もかかってしまいました。反省してください。」
「…反省してます。」
ツムグは、サルの反省のように反省した態勢をした。
「まあ、いいでしょう。良いデータは取れたので。」
「そう。」
ツムグは、守代の横から守代のパソコンと書類を覗き見た。
「……せめて“心臓の動かし方”ができるようなればね。」
ツムグは、そう呟くと研究室から姿を消した。
それからツムグは、イチカが寝ているベットの横に出現した。
イチカがいるベットの周りは、沢山の機材に囲まれており機材から伸びる管やコードのような物がイチカの体に繋がっていた。
イチカは、酸素吸入機を口に付けた状態で眠っている。というか、眠らされていた。薬によって。
「……早く離れられるようになればいいね。」
ツムグは、イチカの頭を撫でながらそう言った。
次回は、鈴登場。