嘔吐表現あり、注意。
「クラス代表戦に向けて特訓するのは、いいんだけどさぁ。」
「なに?」
「なんで、箒と鈴とセシリアがいるんだよ?」
イチカの経過を見るスタッフ達の他、体育館の端にいる三人を見て、イチカが言った。
「あいつ(ツムグ)に変なことをされないか監視だ。」
「同じく。」
「わたくしは…、応援ですわ!」
三人はそれぞれそう言った。
「邪魔しなきゃいいよって、ことで。」
ツムグが人差し指を立てて笑ってそう言った。
ニヤニヤしているツムグを見てイチカは、はあ、っとため息を吐いた。
「でも鈴音さんは、クラス代表だからこっちの手はあんまり見せられないよ。」
「分かってるわ。」
「えっ、鈴が代表なのか?」
「そうよ! 無様に負けたら承知しないんだからね!」
「うわぁ…。」
イチカは、額を抑えた。
「イチカ君、心音が乱れてます。」
「いや、そう言われても…。」
守代に言われ、イチカは困った様子でそう答えた。
鈴からプレッシャーを貰ってしまい、イチカは、困った。
「じゃあ、始めよう、イチカ。」
「…ああ。」
「避ける練習をしようか。」
「また移動の練習かよ。」
「やっぱり足がついていけるかが勝負の鍵だと思うんだ。飛ぶ練習もしようか。」
「飛行しながらの攻撃とかって全然だしな。」
「この間の授業は中断したもんな。」
それは少し前にやったイチカへのエネルギー譲渡の実験の失敗のことだ。SEが切れてしまったため補充に時間を取られISで飛ぶ授業が中断となってしまったのだ。
「体育館の天井にぶつからない程度に飛んでみよう。」
「分かった。」
イチカは、返事をしてから白式で飛んだ。
が、天井にぶつかった。
「うーん。まずは、ぶつからないよう、飛行高度を制御できるようになろうか。」
「くっそー!」
悔しがるイチカは、着地しようと降下し…、そして床に激突した。
「…着地の練習もね。絶対防御がなかったら全身骨折だぞ?」
四肢を伸ばしてうつ伏せで倒れているイチカをツンツンとつつきながらツムグが言った。
その後は、上下に飛んだり着地したり(というか墜落)を繰り返した。
「やっぱ飛ぶのは難しい?」
「い、イメージが…。」
「一夏ーー! そんな奴より、私が訓練の相手をしてやるぞ!」
箒がそう叫んで前に出ようとしたが。
「ダメです。」
しかし立ちはだかった守代にすげなく却下された。
「なぜだ!」
「あなた達は、あくまで見学者であって、訓練の相手をすることを許可していません。」
「何を言う! 私は…。」
「篠ノ之博士の妹様ですよね?」
「っ! 知ってるなら…。」
「ですが、それとこれは別です。もしイチカ君に何かあった場合、その責任を取れますか?」
「それは…。」
「それにあなたは、ISのランクがCだと聞いています。ツムグさんとは雲泥の差があります。」
「!? 奴にそんな適性があるというのか!?」
「彼が言うには、細胞を自由にコントロールするから可能なのだそうですよ。そうでなければそもそも女性にしか扱えないとされるISに乗ることすらできません。」
それを聞いて箒達は、ハッとした。
よく考えたら世界初の男性IS装者は、イチカだと公表されているが、ツムグのことは公表されていない。
これは、ツムグが自らの細胞をコントロールするからISに乗れるのであって、イチカと違って適性があって乗られるのではないからだ。強いて言うなら、女しか認識しないISに、自分が女だと無理やり認識させているような感じだ。つまりツムグの場合は、男としてISに乗っているとは言い難いのだ。それゆえにISに乗れることは公にされなかった。
まあ、知られたところで、アイツならできるだろうなっと、知人達は思うだけだったというのもある。
「イチカ~、だいぶ良くなってきてるぞ。ファイト。」
ツムグが声をかける。
イチカは、ゼーゼーと息を切らして、ふわりと降下した。っというか、疲れて降りたという風が正しいかもしれない。
「イチカ。」
「なんだよ…。」
「飛ぶのは嫌い?」
「嫌いっていうか…、イメージができないんだ。」
「飛ぶ夢は見たことがある?」
「それぐらい…、っ?」
「気持ちよく飛ぶ夢を思い出してごらん。」
ツムグは、にっこりと笑ってそう言った。
ツムグのその助言があってか、それからは劇的にイチカの飛行制御が良くなった。
「どう?」
「……メッチャ気持ちいい。」
「よかったね。」
「これでいいならもっと早く言えよ!」
「自分なりの自主トレーニングってのも必要だからね。イチカは、センスがいいから自主トレーニングの後にちょっとの助言で十分だと思ったんだよ。」
「っ…くそっ。」
イチカは、舌打ちしつつ、悪態をついた。
一方、箒達は、信じられないモノを見る目で見ていた。
「すごい…、たった一日でこれだけ飛行制御ができるようになるなんて…。あたし、あれだけできるようなるまでどれだけかかったと思ってるのよ…。」
「これがイチカさんのお力なのですね…。たった十日でわたくしを倒すほどの力…。」
「一夏…。」
代表候補生である二人は、イチカの適応力の高さに驚き、箒は、ツムグの指導でどんどん強くなっていくイチカの姿にショックを受けていた。
その時。
「うっ!」
「一夏!?」
「はいはい、燃料(※ツムグの血)切れだ。」
ツムグは、持ってた拳銃型の注射器で首から血を抜くと、倒れたイチカの傍によって首に突き刺して注入した。
「一夏、一夏!?」
「イチカさん!」
「ダメですよ。」
焦る鈴とセシリアが駆けだそうとするのを守代を始めとしたスタッフ達が止めた。
「どいてよ! 一夏が、一夏が!」
「いつものことですから。」
「いつものこと!?」
そうこうしているとイチカが立ち上がった。
「気分はどう?」
「…最悪。」
「吐きそう?」
「……。」
「誰か洗面器か、ビニール袋持ってきてー。」
白式を解除し、へたり込んだイチカの周りにタオルや、洗面器などを持ってきたスタッフ達。スタッフ達に隠される形で、イチカは、洗面器に吐いた。
嘔吐物が入った洗面器は、解析のために別の場所に持っていかれる。体内から排出されるナノマシンやツムグの細胞の量も大切なデータであるからだ。
むせているイチカを、箒達は心配そうに見ていることしかできなかった。
肩を震わせた箒がやがて。
「貴様ら、一夏から離れろーーーー!」
竹刀を振り回してスタッフ達に迫った。
だが次の瞬間、バシンッと見えない力で竹刀が弾き飛ばされ、竹刀が床に転がった。
「なっ…!?」
「暴力で訴えるのはどうかと思うよ。篠ノ之さん。」
ツムグが、パチンッと指を鳴らすと、竹刀がふわりと浮いてツムグの手に収まった。
「貴様、返せ!」
「はい。」
ツムグは、すぐに箒に向けて竹刀を投げて返した。
「次からもし暴力で訴えるようなら、見学も無しだからね。」
「貴様、何の権限があって…!」
「俺の権限はこのIS学園よりも偉いの。」
何のことはないとツムグは、腕をすくめた。
「ツムグさんの言う通りです。彼の発言によっては、あなたを退学させることも可能です。」
「なっ!」
「もちろん、それは代表候補生であろうと同じですので。」
守代は、あえて代表候補生である鈴とセシリアにもそう言った。
二人は、その言葉にビクリッと震えた。
「イチカー、今日のところはここまでにしようか?」
「…いや、まだやる。」
「そう。」
ツムグがイチカに確認を取った時、消灯を知らせるチャイムが鳴った。
「三人さん、寮に戻ってね。イチカは、別室だから寮にはいかないよ。」
こうして三人は、体育館から閉め出された。
***
体育館から閉め出された三人はしばし黙っていた。
「……どういうことよ?」
「……。」
「あいつがそんなものすごい権限があるなんて聞いてないわよ!」
「それはこっちが聞きたい!」
叫ぶ鈴に、箒も負けじと叫んだ。
「代表候補生を退学させることができるなんて、どれほどの後ろ盾がありますのかしら…。」
セシリアは、青い顔で体育館の扉を見つめていた。
「確か、椎堂ツムグって、監視されてるって話じゃないの? なのに自由に出歩てて…。それに一夏の特訓の相手なんて…。ねえ、あんた同じクラスなんでしょ? 何か知ってるでしょ?」
「すみません。わたくしは、ほとんど存じませんわ。ただ…、新たに設けられたカリキュラムとして椎堂ツムグが関わっていて…それで……。…っ。」
「ちょっと、大丈夫? 顔色悪いわよ?」
「だ、大丈夫ですわ…。それより、イチカさんが心配ですわ。」
「一夏…。」
「くそ…。」
箒は、壁を殴った。
「……頼むしかないのか…。」
「えっ?」
「いや、こっちの話だ。」
不思議そうに見て来る二人に、箒は首を振った。
やがて三人は、見回しをしていた教師に見つかり、寮に戻された。
イチカは、たぶん素質も勿論ですが、ツムグの細胞が入ったことで色々突然変異しているかも…。
あと心臓がツムグのだから、他の内臓に負荷がかかって、よく吐くとか。
ツムグがISを使える理由については、イチカとは異なる原理によるものだとしました。
ツムグならたぶん性別ぐらい変えるなんて余裕だと思う。