イチカと鈴の会話。
短め。
クラス対抗戦に向け、イチカの特訓は続いた。
一方、鈴は、イチカと会話ができずもどかしい毎日を送っていた。
イチカと二人きりで話がしたいのに、ツムグが常に近くにいる状況。しかもイチカがツムグから離れすぎると、イチカが死ぬというのだ。だから強制的に離れさせられない。
「俺は、別に気にしないけどねぇ。」
まるで心の中を読んだかのようなタイミングでツムグが横を通り過ぎる間際に言った。
ギョッとした鈴は、ツムグを見て、顔を赤くしてパクパクと開閉させた。
「なんだったら、二人きりで話せる状況を作ってあげようか?」
「な、なななな…何言ってんのよ?」
「いいからいいから。イチカー。」
「なんだよ?」
「鈴音さんが二人きりで話がしたいらしいから、医務室行こうか。」
「そ、そこまでしなくても!」
「はなし?」
「俺がいると邪魔みたいだからさ。」
「まあ……、あんたがずっといるしな。」
「じゃ、行こうか。」
「ちょっとぉ!」
「早く早く。二人気にするにしても、イチカに負担がかかるんだから早くしよう。」
「!」
「だから、ね?」
ツムグは、にっこりと笑った。
***
医務室に来て、準備が整ってから鈴は、医務室に通された。
ツムグもスタッフも離れ、本当にイチカと二人きりになった。
「手短にお願いしますよ。」
二人きりになる前に守代に念を押された。
「なあ、話ってなんだよ?」
「……それよりも。」
「ん?」
「なによ…、これ。」
鈴は、ベットの上で上体を起こした状態のイチカに繋げられた機材の数々に顔色を悪くしていた。
「…エネルギーが切れたら、俺の心臓が止まるから、仕方ないんだ。」
「そうなの…。」
「で? 話ってなに?」
「……今更だけど。」
鈴は、少し間を置いた。
「久しぶりね。一夏。」
「…ああ。そうだな。久しぶり、鈴。」
二人は、笑いあった。
「元気…って言えないわね。」
「心臓が大丈夫なら俺は元気だ。」
「それって元気って言える?」
「そう言わなきゃやったられないつーの。」
「そっか。」
「親父さんは元気?」
「う…うん、たぶん、元気?」
「? 何かあったのか?」
「…私の親、離婚したの。親権は母親に移ったから、だから中国に行くことになったの。」
「そうだったのか。」
「ねえ、一夏、覚えてる?」
「なにを?」
「あの……、私の料理の腕が上がったら、毎日…。」
「酢豚を作ってくれるんだろ?」
「そう! それ!」
それは、小学生の時に交わした約束だった。
「……なあ、今になって思うんだけど…。あれって、要するに…。」
「あーあー! 言わないで!」
「…俺、こんな状態だしさ……。」
イチカは、自分に繋がっている管やコードの数々を見て苦笑した。
「だからさ、俺じゃなくても、もっといい男捕まえて作ってやれよ。」
「……えっ?」
「だから、俺じゃなくてさ…。」
「何言ってんのよ…。」
「こんな俺なんかじゃダメだって言ってんだよ!」
肩を震わせる鈴に向け、イチカが叫ぶように言った。
「鈴は未来がある……。俺は検体だ…。世界が俺を使った実験に注目してる…、俺はきっと生きられない。良くてホルマリン漬けだ。」
「一夏…。」
「今だって俺の体に何かあるかもしれない。いつ心臓が止まるか分からない…。俺に未来なんてクソも…。」
「一夏!」
次の瞬間、パアンッと鈴がイチカの頬を叩いた。
イチカは、呆然とし、鈴を見た。
「馬鹿じゃないの? ……だからって簡単にあきらめると思ってるの? あんたいつからそんな諦めの速い奴になったのよ…!」
「……だって…。」
「だってじゃない! 自由になれる可能性はあるって、あいつ(ツムグ)も言ってたじゃない! なんでそれに賭けようって思わないの!?」
「可能性は、限りなくゼロに近いんだぜ? どうやって希望を見出せって言うんだよ…。」
「ゼロじゃないんでしょ!」
「…ああ。」
「諦めたら…、本当にゼロになっちゃうじゃない…。諦めないでよ…。」
鈴の目からボロボロと涙が零れ落ちた。
「鈴……。うっ!」
「一夏!?」
「は、はあ…! り、鈴…。」
「誰か、誰か来て! 一夏が、一夏がぁ!!」
「ありゃりゃ、もう駄目だったか。」
ツムグがすぐに入ってきて、胸を抑えているイチカの手の上から自分の手を重ねた。すると、ヒューヒューと呼吸をしていたイチカの呼吸がすぐに落ち着いていった。
スタッフ達も駆け込んできて、鈴をどかしてイチカの処置がされていった。
「最高記録は一応更新したんじゃない?」
「…ほんの4秒ですが。」
「記録は記録でしょ?」
「一夏…、一夏ぁ…。」
「鈴音さん、悪いけど、もう医務室から出て行こうか?」
「えっ…? あっ、ちょっ!」
泣き崩れていた鈴を掴み、ツムグは、鈴を医務室から引っ張り出した。
「イチカ、叩いたでしょ? あれが引き金。」
「っ!?」
「今度から、突発的とはいえ、気をつけてね。」
閉め出される直後にツムグにそう言われ、鈴は、呆然とした。
ピシャリッと医務室の扉が閉まる。
鈴は、床にへたり込んだまま無表情でその扉を見つめて泣いていた。
やがて鈴は、太ももの上でこぶしを握り締め、扉の向こうにいるツムグを睨みつけるように扉を睨みつけた。
鈴、ツムグを敵と認識。
鈴に自分の気持ちを打ち明けたことと、叩かれたショックとかで、心臓に負担がかかってしまいました。
このネタでの一夏は、鈍感じゃない。