ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

勝手に試合に参加した旭日機甲旅団。大洗を危機から逆転させ、勝利を納めることが出来た。
無断参加したことを怒鳴られた宗谷。しかし、これはまだ序の口だった。


第9章 答え無き問い 『伝統とは何なのか?』

 試合が終わり、かほたちは久しぶりの陸での買い物を楽しんでいた。その一方で、宗谷は荷物持ちをやらされてくたびれている。

 

「おーい、まだ買うのかよー」

 

「もう終わるよ、そろそろ休憩しようか。宗谷くんも疲れてるしさ」

 

 そして、レストランに入って席についた。宗谷はやっと休憩が出来たので大きく息を吐いた。

 

「っはぁー、疲れたぁ。みんな買うもの多すぎるだろー。特に服とかこんなに買ってどうすんだよ」

 

「宗谷くんには分からないかもね。年頃の女子はお洒落しないといけないんだから」

 

 飲み物を注文して待っていると、宗谷がさっきの試合の話を持ちかける。

 

「そういえば俺たちが合流するまでに試合はどうだったんだ?」

 

 宗谷は会話を全部聞いているとは言わなかった、()()だったとはいえ、流石に言えるわけがない。町に移動してきた時は受信機を切っていたので、荒野の時の話を聞くふりをしたのだ。

 

「大変だったよー、って言いたいとこだけど、宗谷くん私たちの会話全部聞いてたでしょ?」

 

 栞がいきなり痛いところを突いてきた、宗谷は誤魔化したが今度は通じなかった。

 

「私たちの通信機には『傍受警戒(ぼうじゅけいかい)システム』っていう機能が入っているから、傍受してたことはお見通しだからね?」

 

『傍受警戒システム』とは、過去に大洗女子学園とサンダース附属高校との試合の際、無線傍受されていたということがあった。

 そこで対応策として、万が一傍受されていた場合に警報がなるシステムが付いている通信機を備え付けることを義務付けられたのだ。

 

 そのため、武部はずーっと傍受されていたことを知っていたのだ。仮にも聖グロが傍受していたら、作戦は全て筒抜けになっていたはず。

 それなのに全くバレている様子がなかったことと、チリがかほたちのいる位置に正確に来れたことで、傍受していた相手が宗谷だと分かったのだ。

 

「え!?武部さん、それ本当なんですか!?」

 

「うん、でも町に来たとき辺りからプツって切れたけどね。いやー、宗谷くんも人が悪いねぇ。女子の会話を全部盗み聞きするなんて」

 

 そこまで言われたらもう誤魔化せないが、宗谷は誤解を解くために慌てて話を続ける。

 

「確かに聞いてはいたけど、勘違いするなよ?()()じゃなくて()()だからな」

 

「どっちも一緒だよ、全部聞いてたんでしょ?」

 

「ま、まぁ。戦況把握のために・・・・・」

 

「宗谷殿ー、ひどいであります。プライバシーの侵害でありますよ」

 

「プライバシーのことは全く聞いてないから安心しろよ」

 

 そう言ったものの、ジーッと睨まれた。さっきルフナにも睨まれたというのに・・・

 

「でも、助けに来てくれたのは嬉しかったよ。ありがとう、宗谷くん」

 

 かほは優しかった、さっき少し落ち込ませてしまったことが気掛かりだったので安心した。

 

「じゃあ罰として、ここは宗谷くんのおごりね!」

 

「は!?マジかよ!」

 

「嫌なら河島副指導員に言っちゃうよ~?」

 

 脅しだ、脅しだがここは乗らなければ後でヤバいことになることは予測出来た。

 さっき怒られたばっかりだというのにさらに逆鱗に触れさせるわけにはいかない。結局宗谷が全額払ったのだった。

 

「ったく、お前らも人が悪いぜ」

 

「私たちの会話聞く方がよっぽど悪いよ~」

 

 そんなことを言い合いながら店を出ると、やや白髪混じりで、白地に花柄の着物を来た女性が立っていた。顔立ちが誰かに似ている。

 

「藍、久しぶりね。帰ってきていたの?」

 

「お婆様、お久しぶりです」

 

 話しかけて来た女性は華の母であり、藍にとっては祖母に当たる百合(ゆり)だった。当時、華が戦車道科に入ることを嫌がっていたが、華道で新境地を見せたことで戦車道の履修を承知してくれた。

 百合はちょっとした用があって試合を見ていなかったので、宗谷たち旭日の男子6人が試合に参加しているとは聞いていなかった。

 

 華からも戦車道科に男子が入ったということも聞いていなかった。つまり、百合にとっては初対面であると同時に、新事実を知らされることになったのだった。

 百合と藍はさっきの試合のことを話していた。宗谷はかほにこっそりと話しかける。

 

「お婆様ってことは、藍のおばあちゃんってことか?」

 

「うん、百合さんって言うの。華道の家系で、『五十鈴流』っていう流派家元なんだって」

 

 2人は会話を終わらせ、かほたちの方を向いた。

 

「皆さんも、お疲れでしたね。とてもいい試合だったと聞きましたわ」

 

「いえ、攻められてばっかりでしたから。でも藍さんの射撃には色々と助けられましたよ」

 

 かほは謙虚にそう言った。すると百合の視線は宗谷に向く。

 

「あら?この方は?」

 

 宗谷は慌てて荷物を置いて敬礼しながら自己紹介をした。

 

「大洗女子学園戦車道科、旭日機甲旅団隊長の宗谷佳であります」

 

「大洗女子学園戦車道科?フフフ、面白いことを言いますね」

 

 百合は笑っていた。男子が女子学園にいるはずがない、冗談だと思ったのだ。

 

「いや、本当ですって。仮生徒ですけど」

 

 宗谷は頑なに本当の事を告げる。そして、百合の表情が変わった。驚いているのか、怒っているのか分からない、『無表情』というものだった。

 

「・・・藍、本当なの?」

 

「は、はい、お婆様。彼も戦車道科の一員です」

 

「・・・そう・・・藍、華を家まで呼んでもらって良いかしら?話がしたいの」

 

「わ、分かりました、お婆様」

 

 百合は家の方へ歩いて行った、6人は何があったのか分からなかった。そして宗谷は、なんだか嫌な予感がしていた。

 

 

ーー

 

 

 

 百合に呼ばれた華は、実家に向かって歩いていた。その途中で人力車を引いている男性に呼び止められた。五十鈴家の奉公人を勤めている新三郎(しんざぶろう)だ。今は結婚しているが、今でも奉公人として五十鈴家に使えている。

 

「お嬢、お久し振りです。帰ってきていたのですか」

 

「新三郎、久しぶりですね。それと、お嬢はやめてください、恥ずかしいです」

 

「実家に向かうところですか?」

 

「ええ、お母様に呼ばれて。藍が何かしたのかしら」

 

「藍お嬢は何かやらかすようなことはしないと思いますが、とにかく行きましょう。お乗りください」

 

 華は人力車に乗り、実家へ向かった。思い当たる節は無い、あの時は戦車道科の履修を許してはくれなかったが藍の時は喜んでいた。

 といっても、内心は華道の履修を望んでいたようで少し残念そうにもしていた。今になって戦車道の履修をやめさせなさいとでも言われるのか、華は心配だった。

 家に着くとみほが家の前に立っていた。華が呼ばれたことを聞き付けて待っていたのだ。みほも藍が華道の履修を咎められると思い、仲介役をしてあげようと思ってきたのだ。

 

「呼ばれたことを聞いてきたの。どういう話なのか聞いてる?」

 

「いいえ、何も聞いていませんわ。藍からも来るようにとしか」

 

「そう、やっぱり藍さんのことかな?」

 

「だとしても、何とかして説得しますわ。藍も戦車道の履修を頑張っているというのに、今さら別の科目を履修させるわけにはいきません」

 

 そういうと2人は家の中へ入っていった。その様子をかほたち6人組が見ていた。藍は不安そうにしている。

 

「お婆様がお母様を呼ぶなんて・・・まさか!戦車道の履修を止められるとか!」

 

 慌てる藍を栞が宥める。

 

「だ、大丈夫だよ。初めは百合さんも賛成だったんでしょ?」

 

「初めはそうでしたけど、元々華道の履修を望んでいたので、華道の履修にしてほしいって言われるかもしれません」

 

 会話を聞いていた宗谷はある提案を持ちかけた。

 

「だったら直接聞けば良いじゃんか。五十鈴、ちょっと家に上がっても良いか?」

 

「構いませんけど、何をする気なんです?」

 

 

ーー

 

 

 

 そして、6人は話し合いがされているであろう部屋の前に来た。

 

「こんなの絶対にバレるって!やめようよ!」

 

「バカ、静かにしろ。そんなことしてたらすぐバレるぞ」

 

 かほが何とか落ち着かせて、耳を澄ませる。襖越しから華の声が聞こえてきた。

 

「あの、お母様?私、呼ばれるようなことをしたつもりはないと思うのですけど」

 

 百合は静かに目をつぶっていた。緊迫感の中、みほが話を切り出した。

 

「どうして華さんを呼んだんですか?まさか、藍さんに戦車道の履修を辞めさせる訳ではないですよね?」

 

「・・・華を呼んだのは藍のことではないわ。大洗女子学園に男子がいると聞いたの。どういうことなのかしら?何故、女子学園に男子がいるの?」

 

 外で聞いてた宗谷は冷静さを失いかけた。五十鈴家が絡んでくるほどの大事(おおごと)になるとは・・・

 

「お母様、宗谷くんに会ったんですか?」

 

「ええ、4号戦車の乗員たちと一緒に歩いているところを見かけたわ。女子学園に男子がいるなんて、ふしだらにもほどがあります」

 

 百合は宗谷のことを嫌っているようだ。みほは何とか宗谷たちをフォローしようとする。

 

「でも、宗谷くんたちは悪い人たちじゃありません、とてもいい人ですよ」

 

「宗谷くん()()?まだ他にもいるの!?」

 

 みほは口を滑らせてしまった。百合からしてみれば、宗谷以外にも男子がいるなんて信じられないこと。みほはが今さら訂正しても遅いと思い、ありのまま伝えることにした。

 

「そ、そうです。宗谷くんを含めて6人います」

 

「そんなに・・・華、どうしてすぐに伝えなかったの!」

 

 百合は余計に怒り始めてしまった。華はおそるおそる答える。

 

「それは、私たちも伝えられたのはあまりに突然だったので伝える時間が無かったんです」

 

「だとしても、それほど大事ならすぐに伝えるべきでしょう!?男子たちと一緒に授業を受けるなんて、今すぐに学園長に電話します!」

 

「お母様!この件は学園長も把握していますし、彼らも戦車道科の一員として試合に出ることが決まっています!」

 

 外でこの言い争いを聞いている6人は複雑な気持ちだった。藍の履修の件では無かったものの、旭日の今後の事には大きく関わることだ。

 藍は一言言いたかったが、今の百合にどんな言葉をかければ良いのか分からず困惑していた。しばらくしてみほが何とか宥め、お互いに落ち着いた。

 

「百合さん、驚くのは分かりますが彼らは立派な戦車道科の一員です。近衛が廃校になってしまって、行く場所を失っても、戦車に乗りたいという想いで大洗に来ているんです」

 

「理想だけで語るなら簡単です。彼らは戦車道という伝統ある武芸を汚しに来ているのも同然、行く場所を失ったからここに来たなんて、いい迷惑だと思わないんですか?」

 

 2人は何も言えなかった。百合が言っていることは間違っていない、むしろ受け入れたこっちが間違っているのかもしれない。しかし、今の彼らは大切な戦車道の生徒だ。追い出すなんて出来ない。

 部屋の外で話を聞いていた宗谷は、思い詰めた気持ちでいた。『手助け』のつもりで来たのに、『伝統を汚しに来た』と思われていたことがショックだった。だが、そう思われても仕方ない、元々女子しか出られない武芸なのだから。

 

「宗谷くん、大丈夫?」

 

 かほが心配そうに話しかけた、宗谷はため息をついた。

 

「まぁ、仕方ないな。だけど、言われっぱなしでここを離れるわけにもいかないな」

 

 そう言うと立ち上がり、部屋の扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

 百合の声が聞こえてきた、大きく深呼吸をして扉を開けた。みほは慌てた。

 

「そ、宗谷くん!?いつからそこにいたの!?」

 

「すみません、最初から全部聞いてました。藍さんに誘われて来たんですけど、ここを通ったら話が聞こえてきたので、つい」

 

「藍に誘われて来て、たまたまここを通り掛かった時に聞いた」。こう言えば、藍には音沙汰なしで済むと思ったのだ。

 みほと華は言葉が見つからなかった。こんなことを最初から聞いていたと言われたら、なんて言ったら良いか分からない。

 

「・・・みほさん、華、ちょっと席を外してくれないかしら。2人で話がしたいの」

 

 そう言われ、2人は部屋を出た。部屋の中は宗谷と百合の2人だけだ。外に出た2人はかほたちも聞いていたことを知って驚いていた。

 

「あなたたちも最初から全部聞いてたの!?」

 

 かほは呟くように答えた。

 

「う、うん。全部聞いてたよ」

 

「ごめんなさいお母様、戦車道の履修をやめろって言われるんじゃないかと思って」

 

「だとしても、盗み聞きは良くないでしょ」

 

 みほに叱られ、しょぼんとなる5人。そしてかほがみほに宗谷のことを問う。

 

「宗谷くんどうなるの?百合さん相当怒ってたみたいだけど」

 

「それは分からないわ。後で分かると思うから、今は退くわよ」

 

 華とみほが5人を連れ出し始めた頃、宗谷と百合は無言無表情で向かい合っていた。どちらも何も言わず、息を殺しているのかと思うほどに静かだった。

 このままでは時間だけが過ぎていくだけだ、学園艦の出航に間に合わなくなるので宗谷から話始めた。

 

「先程、『伝統を汚しに来た』って言ってましたよね?あれってどういう意味なんです?」

 

「そのままの意味です。戦車道は伝統ある武芸であることは分かっているでしょう?」

 

「ええ、勿論です」

 

「元々女子しか出られない武芸なのに、行く場所が無いというだけで大洗女子学園に来るなんて、どういうつもりなんです?」

 

 強めの口調が宗谷を攻める。だがそれにも動じず、宗谷は質問に答える。

 

「西住指導員が言ったことには、少し語弊があります。()()()()()()()()()()ではないんです。確かに失いましたけど、その後の進路はここじゃなくてもありました」

 

「じゃあどうして大洗に来たんです?他にも進路があったにも関わらず、大洗を選んだんですか?」

 

 厳しめの口調で百合が聞き返す。宗谷は少し間を置いて答えた。

 

「大洗女子学園戦車道科のメンバーと一緒に勝ち抜くため、そして、守り抜くためです」

 

 本当は『もう1つの西住流があったから』と言いたかったが、そう言っても納得されないだろうと思ってあえて言わなかった。

 

「・・・守り抜くため?どういう意味です?」

 

「今の大洗は、誰かが手を差し伸べなければならない状態にあるんです。その状態から救わなければならない、私はそのために居るんです」

 

 大洗がそんな状態だと聞いたことはない。百合は怪しんでいたが、宗谷は構わず話を続ける。

 

「話は変わりますが、伝統に対する思い入れが強いあなたにとって、伝統ってどんなものなんですか?」

 

 唐突に全く関係ない話を振る宗谷、百合は顔をしかめた。

 

「いきなり何なんです?」

 

「正直、私は伝統というものは良く分からない物ですから、伝統をそこまで思うあなたなら答えられるのではと思いまして」

 

「それは・・・えっと・・・」

 

 百合は答えられなかった。『伝統』を深く考えたことは無かった。この五十鈴家に生まれた時から伝統というものは当たり前のようにあり、ずっと付きまとってきた。

 守らなければならない、後世へ伝えなければならないという使命を背負いながら生きてきた。それなのに、いざという時になって、『伝統とは何なのか』と聞かれても答えが見つからなかった。

 

「・・・私にとっての伝統なんて分かりません。でもこれだけは言えます、伝統は伝えられてきたことを守りながら後世に伝えるものだと」

 

 自分にとっての伝統何て分からない。でもこの答えは、間違っていないはず。ありのままを伝えて受け継いでいく、自分もその通りにしてきたのだから。

 

「では、私からも質問します。あなたは、伝統をどう思っているんです?」

 

 百合が同じ質問を返す、すると宗谷はこう答えた。

 

「私もあなたと同じ考えです。ですが、してきた通りにするだけでは、決して守っては行けない。だから、変えられるところを変えて、本質は守り、伝えていくものだと、思っています」

 

「それが、あなたの思う伝統・・・ですか?」

 

「はい。納得して貰えないでしょうが、それが私が思う伝統です」

 

 宗谷の目は真剣だった。華が戦車道の履修を認めてほしいと言ったときと同じ目だ。百合はその目を静かに見ていた。

 

「あの、そろそろ学園艦に戻らないと間に合わなくなりますよ」

 

 華が宗谷を呼びに来た、まだ解決していないがタイムリミットだ。

 

「分かりました。では百合さん、お元気で」

 

 そう言い残すと部屋を出て、五十鈴家を後にした。そして学園艦を繋ぐ連絡艦に乗っているとき、かほが宗谷に聞いた。

 

「宗谷くん、あれからどうなったの?」

 

「結局解決しなかったよ、まぁ伝統を背負っている人なら簡単に認めてくれるはずはないんだけどさ」

 

 宗谷は笑っていたが、内心は残念な気持ちでいた。『伝統を汚しに来た』という言葉は心に刺さった、そう思う人もいることは何となく分かっていたはずなのに、言われるとどうしても気にしてしまう。

 町に戻ると福田が話しかけた。

 

「おい、宗谷。聞いたぜ、大変だったな」

 

「え?そうでもねぇよ」

 

「あ、あの!」

 

 あいかが宗谷を呼び止めた。後ろには1年生組6人も立っていた。

 

「ん?どうした?」

 

「今日の試合、助けてくれてありがとうございました!」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 いきなりお礼を言われて宗谷は困惑してしまった。助けには行ったがお礼を言われるほどのことをしたとは思っていなかったからだ。

 

「え?え?いや、あの・・・わざわざお礼なんて言わなくても良いのに、俺たちは当然のことをしただ」

 

「それでも、助けに来てくれたことはすごく嬉しかったです!」

 

「お礼ぐらい言わせてください!宗谷先輩!」

 

「駆けつけてくれた時、凄く安心したんですよ!」

 

 あまりに迫られるので、宗谷はどう言えば言いか分からずあたふたする一方だ。福田は笑っていた。

 

「ハハハ、良かったな、宗谷。お前も少しは慕われるようになったってことだろ?先輩何て言われちゃって、羨ましいぜ」

 

「それは嬉しいというか、何というかだけどな」

 

 そんな様子をみほと梓が懐かしそうに見ていた。初めての試合の時、M3のメンバーは全員砲撃の恐怖に耐えられずに逃げ出してしまったことがあった。

 試合の後に全員でみほに謝った、『逃げ出してすみませんでした』、そう言った。

 

「懐かしいね、梓さん。37年前もこんなことあったよね?」

 

「はい、聖グロの攻撃に怯えて逃げちゃって、みんなで謝りにきましたよ。みほさん怒ることなく許してくれましたよね」

 

「初めての試合だったから、怯えちゃっても仕方なかったと思うよ。それにみんな頑張ってたし、怒るところなんて無かったもん」

 

 みほはそう言って笑っていたが、黒森峰だったら戦車道科を辞めさせられていたに違いないだろうと思っていた。試合に『敗北』の2文字を残すのは許されないところなのだから。

 

ーー

 

 

 五十鈴家では百合が1人で縁側に座り、夜空を見ていた。そして宗谷に言われたことを思い返していた。

 

『変えられるところを変え、本質を守り伝えていくものだと思います』

 

(・・・・・宗谷さんが言っていることが正しいはずないのに・・・何なんでしょう、この気持ちは・・・それにあの目は、あの時の華に良く似ていた。戦車道の履修を認めて欲しいって言ってた、あの時の目に・・・)

 

「百合様、お茶が入りましたが」

 

「ありがとう新三郎、そこに置いておいて」

 

 新三郎がお茶を置いてその場を離れようとしたとき、百合が宗谷に言われた質問をしてみた。

 

「新三郎、伝統ってあなたにとってはどんなものなの?」

 

「伝統ですか?えっと・・・」

 

 新三郎も答えられなかった。伝統がどういうものなのかというのは答えられるが、()()()()()()()()()()()()と聞かれると、答えは見つからなかった。

 

「すみません、分からないです」

 

 新三郎は頭を掻きながら答えた。

 

「そうよね、やっぱりこの質問の答えは分からないものね」

 

 百合は笑った、そんな百合に新三郎が気になっていたことを聞いた。

 

「あの、さっき来ていた・・・名前は分からないんですけど、あの男子と何を話したんですか?」

 

「何故大洗女子学園に来たのかを聞いたの。そしたら、彼は『戦車道科を守り抜くために来た』って言ったわ。その後に今あなたに聞いた質問を聞かれたの、『あなたにとって、伝統って何なんですか』って」

 

「それで、百合様はなんて答えられたんです?」

 

 答えはすぐに帰ってこなかった、新三郎は聞いてはいけないことを聞いてしまったかと思ったが答えは返ってきた。

 

「私も答えられなかったわ。正直分からなかった、伝統と常に一緒だったから自分にとってなんて考えたこともなかった」

 

「そうですか。と言うより、この質問に答えなんてあるんですかね?」

 

「いろんな答えがありすぎてこれという答えは無いと思うわ。人によって考えは違うもの」

 

 百合は夜空を見上げながら微笑みを浮かべた、空は無数の星が輝いていた。

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「よーし、じゃあ行ってこーい!」

 

 あの試合から2日後、格納庫前にまたこの声が響く。ようやく故障車の修理が完了した。戦車道科履修生が各戦車に搭乗し、練習場へ向かっていく。宗谷たち旭日のメンバーも一緒だ。

 

「よーし、2日ぶりの練習だ!全員しっかりと勘を戻せよ!」

 

 宗谷は張り切っていた。2日前に言われたことを全く気にした様子はない、福田は少しホッとしている。そして笑顔で話しかけた。

 

「2日ぶりの練習って、試合が終わった後も俺たちは自主練ばっかしてたじゃねぇか」

 

「意気込みだよ!さぁ頑張るぞ!」

 

 乗り込む前も今も、宗谷はこんな感じだった。福田たちはいつもよりも元気だなぁと思っていたが、かほは空元気を出しているのではないかと心配していた。

 この2日、お互いにずっと座学を受けていた。その都度宗谷を見ると何処か思い詰めているような感じが伝わっていた。話し掛ける度に「大丈夫だよ」と笑い飛ばしていたが、いつもと少し違う感じだと思うのだった。

 

ーー

 

 

 練習が終わり、旭日のメンバーがチリの整備をしている最中、またかほが宗谷を呼びに来た。今度は真剣な顔をしていた。

 

「宗谷くん、ちょっといい?」

 

 かほに呼ばれて宗谷は振り向いた。

 

「うん?ああ、ちょっと待っててくれ、すぐ行く」

 

 福田たちに整備を任せ、宗谷とかほは女子学園を後にした。宗谷は黙ってかほに付いていくと、海が見える展望台に着いた。

 

「何だ?今度は2人でゆっくりと景色でも見ようってことか?」

 

 冗談半分で聞いてきた宗谷に、かほは真剣な声で聞き返す。

 

「宗谷くん、あの日以来ずっと変だよ。今までと違ってテンション高いし、話し掛けても上の空じゃん」

 

「・・・・・そうか?」

 

「もしかして、百合さんに言われたことを気にしているの?」

 

 宗谷は一瞬戸惑いを見せたがすぐ笑顔を見せた。

 

「まさか、気のせいだよ」

 

「嘘つかないで!あなたがすごく落ち込んでいるのは分かっているのよ。だから、本当のことを話して!」

 

 宗谷は問い詰められ、何も言えなかった。10秒程の沈黙のあと、宗谷はため息をついた。

 

「五十鈴の婆ちゃんに言われたことが忘れられなくてな。『伝統を汚しに来ているんだ』って、守るためにいるつもりなんだがな・・・・・」

 

 宗谷は前屈みで柵にもたれ掛かった。声は落ち込んでいたが、かほにはいつもの宗谷に見えた。

 

「話は、それだけか?じゃあ俺は帰るぞ」

 

 宗谷はその場から去ろうとした。だがかほは呼び止めるように話し掛ける。

 

「そんなことない。宗谷くんは、間違ったことはしていないよ!正しいのかは分からない。でも、私は間違っていないと思う!」

 

 かほは真剣に訴えた。その姿を見て、宗谷はフッと鼻で笑った。

 

「なっ、何か可笑しい?」

 

「いや、君もそんな真剣な目をするんだなって思ってさ。それに、何か吹っ切れたよ。ありがとな」

 

 笑顔を見せる宗谷に、かほは安心した。

 

「なぁ、今からルノー行くか?」

 

「いいね、じゃあ宗谷くんのおごりね!」

 

「またかよ、まぁ良いか。じゃあ行こうか」

 

 2人はルノーに向かって歩き始めた。戦車道の全国試合まで、後2週間。

 

 

 




いかがだったでしょうか。当たり前にあるものがいざ自分にとってはどうなのかと聞かれると中々答えが見つからないものだと思います。
宗谷が言っていたことも一理あるかもしれませんが、答えはと言われても見つからないかも知れません。

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