華の母である百合は、『大洗女子学園に男子がいる』ということを聞かされる。百合は『伝統ある武芸を汚しに来ている、すぐに追い出せ』とみほと華に強く言い放った。
その言葉を聞いた宗谷は、誤解を解こうと思い、百合と2人きりで話をしたが、誤解を解くことは出来なかった。戦車道をするに辺り、多少の不安要素はあるが、宗谷はその不安を振り払って開会式に向かっていった。
聖グロとの練習試合から1週間後、大洗女子学園戦車道科のメンバーは、全国大会の開会式の会場に来ていた。宗谷たち旭日のメンバーも一緒だ。
ただ男子が参加するなんてことは今までなかったのでかなり目立つ。周りからチラチラと見られていたが宗谷は全く気にしていなかった。それどころか開会式の壮大さに感激していた。
「いやー、スゲーなぁ。流石全国大会の会場ってだけあるな」
何も気にしていない宗谷に対して、福田はそんなことを思えるほどの余裕はなかった。周りの視線がかなり痛いのだ。
「なぁ宗谷、俺たちかなり浮いてるよな・・・」
「そんなの分かりきったことだろ?今更気にしても仕方ないって」
「そりゃそうだけどさぁ・・・・・俺たち参加しなくて良かったのにわざわざ鮫のいる海に飛び込むような真似しなくても・・・・・」
男子がいるというだけで批判の声を買われることは分かりきっていたことなのに、わざわざ参加することを選んだのだ。何かあるのではないかと勘づいていた。
「武道の嗜みとして、開会式に参加せずに本戦にしかでないなんて失礼千万だろ?」
いや、武道としての失礼がないようにしたかっただけだった。みほは無理に参加しなくてもいいよと言ったのだが、『自分達も参加します』の一点張りだったので、仕方なく参加させたのだった。
福田はかなり気にしていたが、他の5人は楽しそうに会場を回っていた。岩山は売店でグッズを買い、柳川は会場を回りながら写真を撮り、水谷は北川と一緒に散策していた。
楽しそうにしている姿をみほたちは嬉しそうに見ていた。懐かしい景色と新しい景色が目に写る。
「私たちも、37年前の今頃はこんな風に会場を歩いていたのかな?」
「そうかもね、でも今は宗谷くんたちがいるから何か昔と違う感じがするなぁ」
「あら、西住さん」
声をかけてきたのはダージリンだった。まさか会場で会うことになるとは驚きだ。
「ダージリンさん、また会いましたね」
「2、3ヶ月ぶりに会うみたいな言い方ですね」
『フフッ』と笑うダージリン、その間に入るように宗谷が挨拶する。
「ダージリンさん、お久しぶりです」
「まだ1週間程しか経っていませんわ。それより、あなたの理由の意味をずっと考えていたのだけれど、結局分からなかったわ」
「見つからないのは仕方ないと思いますよ。こんな名言を知っています?『判断材料が無いのに推論するのは禁物だ』」
「シャーロック・ホームズの言葉ですわね。確かに判断材料はありませんし、これと言って確信付けられるものもありませんしね。いずれ分かりますわね」
そう言い残すとその場を去っていった。ダージリンはこの1週間ずっと考えていた。
『ここに来たのは、もう1つの西住流があったからです』
宗谷が言い残した『もう1つの西住流』とは、一体何なのだろうか?西住流と言えば『撃てば必中、守りは固く進む姿に乱れなし。鉄の掟、鋼の心』と聞いたことがある。
射撃も防御も動きも全てに無駄を見せまいとする感じだが、この流派で15連覇を達成したと言っても過言ではない。名の通り、射撃は百発百中で防御力が高いドイツの戦車を使っている。そして隊列も乱れることがない。
西住流の後取りになったまほはこの流派を守り続けていたが、みほは正反対の行動を見せてまほに勝った。だがもう37年も前のことだし、みほ自身で新しい流派を作ったと言うことも聞いたことがない。だとしたら宗谷自身の解釈で言ったのかもしれない、そう思ったのだった。
〔まもなく、戦車道全国大会の開会式を始めます。出場校はの代表者は、対戦相手のくじ引きを行いますので集合してください〕
開会式が始まる、ダージリンは聖グロのメンバーと合流するために中に入っていった。
会場の中はざわめきあっていた。どこの学校と試合をするのか、どの戦術でいくか、そんな声が飛び交っている。
ステージには協会長のしほ、黒森峰戦車道科科長を勤めるまほ、そして副科長を勤める
「ハァー・・・席がないっておかしくねぇか・・・?」
「足腰鍛えると思えば何てこたぁねぇよ」
「まぁ・・・そう思えば良いか・・・」
岩山の笑顔を見て、福田は気にしなくなった。始まりを待っていると、ステージに進行役の女性が立ち、開会を宣言した。
〔それでは、これより戦車道全国大会の開会を宣言します!〕
会場が一気に歓喜に包まれる。慣れないメンバーは一瞬ビクッとなる、宗谷たちも一緒だった。そしてトーナメント決定のために各校の代表者たちが会場の真ん中に集合する。
トーナメントの決定方式は、公平的にくじ引きで決まる。公平という一方で、1回戦目からいきなり強豪校と当たる可能性がある。栞は不安そうにかほがくじを引くところを見ていた。
「う~、緊張する~。去年1回戦目で黒森峰と当たったから今年こそは別の学校と当たりたいよ~」
栞の一言に福田も一気に緊張感が増した。
「そうなると最悪だな・・・・・」
そして、かほがくじを引いた。出てきた数字は8番、幸いにも1回戦目は黒森峰ではなく、決勝まで当たることもなかった。さらに運が良いことに、シード下に入ったので2回試合をしたら決勝戦に上がれる。
大洗のメンバー全員がホッとしていたが、誰よりもホッとしたのは杏たち科長3人組だった。杏は小さくガッツポーズをしている。
「よーしよし、これで1回戦は何とかなるかな?」
苦笑いを浮かべる柚子。
「去年はいきなり黒森峰と当たって絶望感しかありませんでしたからね」
冷や汗を滲ませる桃。
「1回戦突破だけじゃダメですよ。ここで勝ち上がってくれなきゃ困ります」
そうだ、決勝まで勝ち上がり優勝してもらわないとならない。大洗は窮地に追い込まれている、優勝してくれなければ抜け出せなくなる。
〔それでは、西住協会長よりお言葉を頂きます。西住協会長、宜しくお願いします〕
進行役がしほにマイクを渡した。しほがステージの真ん中に立つ。
〔今年も戦車道全国大会の季節が来ました、あなたたちの成長には目を見張るものが多いと感じています。新しく戦車道を始める1年生もいれば、そして再びこの舞台にたつ2、3年生もいます。常に勝つことを先に見据え、試合に挑んでもらいたいと思っています。以上です〕
会場が拍手に包まれる、みほから見れば何処か遠い存在に見えた。北沢が宗谷に話しかける。
「目を見張るものが多いってさ、こりゃ勝ち上がるの辛いなぁー・・・あれ?」
横にいたはずの宗谷がいつの間にか消えていた、さっきまでいたはずなのに。
「おい、宗谷何処行った?」
コソッと柳川に聞いたがいついなくなったか気付いていなかった。メンバー全員も同じで、何処に行ったのか誰も知らなかった。
会場を見渡しても宗谷らしき影はない、そんな状態で式は終わりを迎えようとしていた。進行役が終わりを告げようとしたとき、逸見がマイクを取った。
〔突然ですが、皆さんは近衛機甲学校という防衛学校を知っていますか?〕
静かだった会場がざわつき始めた、初めて聞いた人もいれば名前だけ知っている人もいる。だが今何故、この話をするのか誰にも分からなかった。しほとまほも顔を見合わせたが心当たりがない。
〔何故こんな話をするのか、疑問に持っている人が大半だと思います。理由は簡単です、今ここにその元近衛だった男子たちがいるからです、ライトを当てて!〕
カッとライトが大洗側に当てられた、だが目標は大洗ではなく5人しかいない旭日のメンバーだった。みほたちはこんなことになるなんて当然知らなかった。勿論、残った福田たちも同じだ。手で光を遮りながら岩山が福田に話しかけた。
「なぁ、この開会式って新人はこんな風に見せびらかせられるなんてあったっけ?」
「あるわけねぇだろ、それだったら今頃1年生がこんな風にされているだろ」
立って参加していたのでより一層目立つ、会場中は男子がいることを知り騒ぎ始めた。そんな状態の中、逸見は旭日のメンバーに呼び掛けた。
〔あなたたちの隊長と話がしたいの!今すぐここに来るように言いなさい!〕
そう言われてもいない人を呼ぶことは出来ない、福田はステージにいる逸見に向かって大きな声で叫んだ。
「俺たちの隊長はどっかに行っちまってますよー!ここにいる連中に聞いても誰も知らないって言ってまーす!」
〔携帯とかで呼びなさい!今すぐに話がしたいの!〕
逸見はそう言うが携帯を持っていないのにどうやって呼べば良いのだろうか?ただただ焦りしか出ないし、宗谷は戻ってこない。とりあえず探しに行こうとしたとき、宗谷が戻ってきた!福田は焦り気味で問い詰める。
「お前!何処行ってたんだよ!」
「トイレ探してたんだよ、全くなくてさ。で?これどういう状況だよ」
状況判断が全く出来ない。トイレに行って帰ってきたら何故かライトアップされている、福田はステージ前に行くように言った。
「呼ばれてるぞ、早くステージ前に行けよ!」
「呼ばれてる?何で?」
「良いからさっさと行け!」
早く行くように促し、宗谷は慌ててステージ前に来た。目の前にはしほとまほと逸見、回りには他校の戦車道科の生徒が見ている。
会場中ざわめきが増した、深緑の服を着た男子が立っている。何故男子がいるのか、そんな声が飛び交う。見渡している宗谷に、逸見が質問をする。
「あなたが元近衛の男子ね、名前は?」
ありきたりな質問にビシッと敬礼をしながら答える。
「旭日機甲旅団隊長兼チリ車長、宗谷佳であります!」
自己紹介する宗谷を差し置き、まほが逸見に聞いた。
「逸見、これはどういうつもりだ?」
「見せしめですよ、男子がいるべき場所ではないことを教えるための」
まほは納得がいかないが、しほはいい機会だと解釈していた。どういう人物なのかを見るのには丁度良い、しほがマイクを手に取った。
「あなたが、大洗女子学園に来た男子生徒?」
しほの一言で会場がシーンとなった、声が嫌と言うほど響くが宗谷は声を張り上げて答える。
「そうです」
声が会場の隅まで響く、それでも気にしていない。ただ質問に答えているだけなのだから。
「まず1つ、何故大洗を選んだの?」
「何故・・・ですか。強豪校に興味が無かったからと言うべきですかね?それに、黒森峰に入学させてくれなんて言ったところで受け入れてはくれないでしょう?」
理由をはっきりと述べた。福田たちは余計なことを言わないか心配しながら様子を伺っていた。気づけば公開処刑でも見ているような雰囲気に包まれていた。
「確かに、男子を黒森峰に入れるなんて考えた事がないけど、理由はそれだけ?」
「もう1つあります。ここを選んだきっかけと言うべきですかね」
「何?はっきり言いなさい」
大きく深呼吸をして、5秒ぐらい間を開けて答えた。
「『もう1つの西住流』があったからです」
会場がまたざわめき始めた。西住流といえばあの西住流だ、もう1つの西住流なんて存在するのだろうか?当然しほもまほもそんなものは知らない。
「もう1つの西住流?何か勘違いしているようだけど、西住流は1つだけよ?」
「そうでしょうか?では聞きますが、37年前に西住みほ指導員が黒森峰に勝った時に見せた戦術は、
まほはハッとした。37年前にみほとの一騎打ちの時に見た戦術は西住流と少し違ってはいたが、100%そうではなかったとも言い切れない。
見た目は少し変わっていたが、流派として芯を貫いていたように感じた。まほはそう思ったがしほは違った。
「・・・そうよ、あんなものは西住流ではないわ」
冷たくあしらわれた。その一言は、西住流に反することをしていると言っているようなものだった。
「『あんなもの』、ですか・・・ずいぶん冷たいですね。自分の娘が新しい戦術を作ったというのに」
「所詮その場しのぎで作ったものに過ぎないわ。あなたは、本当の西住流を知らない」
「確かに、その通りです。ですが、
宗谷の指摘に逸見が反応する。
「失礼だぞ!あの素晴らしい流派をコケにする気か!」
「落ち着け逸見、まだ話は終わっていない」
まほが宥め、逸見は大人しく指示に従った。そして次にまほが聞いた。
「冷たくて、固い感じたと言ったわね、どういう意味かしら?」
「西住流は、『撃てば必中、守りは固く進む姿に乱れなし。鉄の掟、鋼の心』、でしたっけ?」
「・・・それが何か?」
「西住流は素晴らしい流派だと思います。しかし、自分には鉄のように冷たく、そして固い規則に縛られている、そう感じたんです」
鉄のように冷たく、固い規則に縛られている。あくまでも宗谷の見解だがまほには何故か響いた。
「では、今のが私が思う西住流であるなら、『もう1つの西住流』とは何なのかしら?」
厳しい口調でしほが聞き返す、宗谷は真っ直ぐにしほの目を見ながら答える。
「西住流の言葉を借りるなら、『自由な発想、奇術で挑みチームワークで切り抜ける。自由な掟、楽しむ心』、それがもう1つの西住流ですかね?」
ニッと笑う宗谷、そしてみほは何処か嬉しかった。特に気にしたことは無かったが、そういう風に捉えてくれた人がいたということが何よりも嬉しかった。ただしほは納得がいかないようだ。
「試合に『楽しむ心』、何て必要ないわ。そんなものは邪魔になるだけよ」
「時にはそんな心も必要だと思いますが、あなたがそう言うならそうなんでしょうね」
岩山たちはハラハラしながら見ていた。呼ばれていたから行かせたのだが、協会長相手に遠慮無しに自分の考えを語っている。柳川が心配そうに福田に話しかける。
「おい、そろそろ止めないとヤバいんじゃねぇか?」
福田は半分諦めているというべきなのか、平然と会話を見ていた。
「呼んだのはあっちだからなぁ、それに宗谷が目上に対してもあんな感じだってことは前々から知ってただろ?」
「だからってこれ以上続けたら協会長組敵に回すことになるぞ」
「大
福田は静かに笑っていた。『笑っている場合じゃないだろ』と心の中でツッこんだのは言うまでもない。
そしてステージ前はいつの間にか沈黙していた。宗谷としほはただ静かに目を合わせている。あまりの静かさに堪えかねたのか、まほが口を開いた。
「あなた自身は、それがもう1つの西住流だと捉えているのか?」
「私から言わなくても、家族であるあなたならすぐに気づけたと思いますが。西住指導員と決勝戦で戦ったあなたなら、西住まほ科長」
宗谷の目線がまほに変わる。急に視線が変わり、まほは一瞬戸惑いを見せた。
「・・・私も、お母様と同意見だ。『もう1つの西住流』何てものは、無い」
まほはそう答えたが、本心はみほの見せた戦い方に魅了されたところがあった。認めたかったが、しほの圧が掛かったこともあるので素直に認められなかった。
誰にも見えない位置で、強く握りこぶしを作った。そして宗谷の視線がしほに戻る。
「あ、今更ですけど試合の出場許可を出してくれたことは感謝しています」
「勘違いしないで。あなたたち元近衛の実力が見たかっただけ、情に負けて許可を出したわけではないわ」
「そうですか、じゃあ俺たちはそれなりに覚悟を見せないといけませんね」
そう言うと、休めの姿勢を取り、しほに向かって大声で叫んだ。
「大洗の平和は、この1戦にあり!我々旭日は、如何なる時も、大洗と共に戦い抜く!そして、『大洗伝統護衛の任』を成功させることを、今ここで宣言する!!」
覚悟を見せた宗谷に対し、『おおー』っと静かに歓声が上がる。その姿を見て、福田たちも覚悟を見せる。
「旭日機甲旅団副隊長、福田彰以下5名!宗谷隊長に付いて参ります!一同、敬礼!!」
旭日の5人が一斉にビシッと敬礼をする。覚悟を決めた言うべきか、表情は真剣だった。それに対し、宗谷も敬礼を返し会場は一気に湧いた。そして、しほは宗谷にこう言った。
「・・・伝統護衛、と言ったわね。大洗女子学園を最後まで守れるのかしら?」
「目的は、必ず達成させる!それが我が旭日機甲の誇りであり、使命であります!我が旭日に二言はない!」
そう言い残すと宗谷はその場を後にした。会場は困惑と歓声が交差していた、杏は冷や汗をかいた。
「ヒェー、やってくれるねぇ。協会長相手にも容赦ないね」
そう言う杏に福田が笑いながら言った。
「すみません、うちの隊長はあんな感じですから。でもあんな破天荒だからこそ、この旅団を引っ張っていけているんでしょうけど」
こうして、開会式は幕を閉じた。参加した生徒たちは旭日がどういった戦術を見せるのか、どんな人たちの集まりなのかを噂していた。
分かっていることは、『謎に包まれている旭日機甲旅団6人は、協会長の前で覚悟を見せた』、ということだけだ。今後この旅団が大洗女子学園と勝ち上がって来るのかは、また別の話である。
会場は生徒全員が出ていったのでがら空きになった。静かになったステージの上に、杏と逸見が立っていた。杏が逸見に問いただしている真っ最中だ。
「あなたでしょ?聖グロに私たちの情報を流したのは」
「ええ、その通りです 」
逸見は誤魔化さず、素直に答えた。変に誤魔化されるよりかはマシだが、杏は怒った。
「何でこんなことをしたの!」
「ここは男子が来るべき所じゃないっていう見せつけです。『ここはあなたたちがいるべき場所じゃない』って思わせるために。ですが、協会長が話始めたので、そのまま流れに任せただけです」
逸見は全く罪を感じていないらしい。むしろやりきったという感じしか伝わってこない。せせら笑いを浮かべる逸見に怒りを覚えた。
「言っておくけど、
「もう何もする気はありません。これ以上深入りしたらこっちが巻き添え喰らいそうですからね。勝ち上がれるといいですね」
そう言い残すと逸見は去っていった。始めは男子がいるべき場所ではないと思っていた自分がいた、でも今は彼らも大洗女学院戦車道科の生徒として見ていたのでバカにされた気分で余計に腹が立った。
「見ていなさい、私たちの生徒は必ず決勝戦まで上り詰めて優勝にこぎ着けるんだから」
杏は厳しい目で、見えなくなるまで逸見を睨み続けた。
開会式が終わり、4号組と宗谷を除く旭日のメンバーは、学園艦出港まで4時間ほど時間が余っていたので近くの喫茶店で休憩していた。
その喫茶店は過去にみほたちも来たことがある場所で、注文した品が『ドラゴンワゴン』という戦車運搬車の模型で運ばれるという変わった店だった。
「「「「ハァー・・・」」」」
岩山と柳川、そして水谷と北川は大きくため息をついた。4人全員で共通しているのは『宗谷が協会長相手に喧嘩を売った』ということ。
協会長相手に『宣戦布告』を突き付けたようなものだ。ため息も付きたくなる、岩山はテーブルに突っ伏していた。
「やってくれたぜ・・・あの野郎・・・・・」
柳川は携帯のゲームをやりながら冗談混じりに言った。
「俺たちの味方何て、いねぇんじゃねぇか?」
鼻で笑いながら水谷が返答する。
「フ、俺たちの味方なんて元々いないだろ、一番最悪なのは協会長を完全に敵に回したことだけだよ」
肘を付ながら北川もその返答に続いてポツリと呟く。
「協会長・・・絶対に俺たちのことマークするだろうなぁ・・・」
完全に落ち込んでいる4人に、福田が励ましの声をかけた。
「やっちまったものはしょうがねぇよ。後は俺たちがどれ程の実力を見せつけるかだよ、マークされていても俺たちは俺たちの道を進めば良いだろ?」
突っ伏していた岩山が顔を上げた。
「言うだけなら簡単だけどな・・・」
福田の励ましは届かず仕舞いで終わってしまった。どう言ったら言いか迷っていると、かほが戸惑いを見せながら言った。
「でも、お婆ちゃ・・・じゃなくて協会長にマークされているんなら期待されているって捉えても良いんじゃないかな?」
その一言が落ち込んでいた4人の心に響いた。北川がニッと笑った。
「期待されている・・・か、まぁ悪くねぇな」
暗い雰囲気が少しだけ明るくなった。落ち込んでいる場合じゃない、今は前に進むことだけを考えれば良い、誰もがそう思った。そして、宗谷が旭日結成の時に言ったことを思い出した。
『ここにいるのは俺が見込んだ戦車好きのばかりの集まりだ。みんな聞いていると思うが俺たち旭日機甲旅団は戦車が完成しだい大洗女子学園に向かい、戦車道という武芸に出場する。
きっと反響の声は来る、でもこれだけは忘れないでほしい。俺たちは反響の声を貰いに行くんじゃなく、戦車道に出場するために行くんだ』
そう言われ、その後に『続けられる自信がない奴は今の内に去ってくれ』と言われたが、誰も欠けることなく現在に至っている。戦車が好きだったから続けられた、そしてこの開会式はほんの通過点に過ぎないのだ。これしきのことで落ち込んでいる場合ではないのだ。
「そうだよな、俺たちも宗谷に期待されてここにいるんだ。今さら諦められねぇよな」
「ここで諦めたら旭日の名が廃る、あいつもそう思ってるよな」
「しゃぁねぇ、あいつに付いていくって決めたのは俺たち自身だからな。やるっきゃねぇよ」
口々に言い合い、お互いに士気を高めていった。元に戻ってくれたので福田はホッとした。そしてかほは笑顔でその様子を見ていた、今の旭日のように自分達も頑張らなければと思ったのだった。
「協会長があんたたちみたいな男集団に期待なんてするわけないでしょう?」
声がする方向に向くと2人の女学院生が立っていた。黒地の制服を着用し、帽子を被っていた。水谷が質問を返す。
「厳しいご指摘には感謝するけど、あんたら何者だ?」
「あんたたちに名乗る必要なんて無いし、ていうかこの制服見たら1発で分かるでしょ?」
バカにされているみたいで少しイラッと来たが、その苛立ちもかほの一言ですぐに消えた。
「・・・従姉ちゃん」
「「「「従姉ちゃん!!??」」」」
岩山たちが一斉に叫ぶ、それなのに福田は冷静だった。かなり驚愕的な事実であると思うのだが。
「・・・従姉ちゃんなんて呼ばないで、
そう言われかほは落ち込んでしまった、名前はまだ分かっていないがかほの従姉ということは間違い無さそうだ。
「おいおい、いくらなんでもそりゃねぇだろ。西住流戦車道の後取り、現黒森峰女学院戦車道科隊長、『西住
話し掛けて来たのはまほの娘の夏海、そしてエリカの娘のマリカだった。名前を言い当てられて夏海自身も少し驚いていたがそれ以上に驚いたのは岩山たちと4号組だった。
名前を知っていた理由はよくテレビに映っていたことと、雑誌でもよく取り上げられていたから嫌でも覚えられたという。マリカが辺りを見ながら聞いてきた。
「まぁ、名前のことは良いとしてあいつ・・・宗谷佳ははどこよ?」
2人は宗谷に話がしたかったらしい。夏海は辺り見渡し、いないと分かりすぐにその場を去ろうとした。しかし福田が止めた。
「ちょっと待てよ、あんた従姉なんだろ?いくらなんでも『あんた』だとか『同じ血筋を引いているとは思っていない』なんてあんまりじゃねぇか」
夏海に質問をしたつもりなのだがマリカが答えた。
「こんな元無名校にいる人間が同じ西住流を受け継いでいるわけないじゃない。もし
「黙ってろ副隊長、俺は隊長に聞いてんだ」
福田はマリカを無視し、夏海を問い詰める。
「・・・マリカの言う通りよ。西住流を受け継いだ人間ならせめて引き分けに持ち込めたはず。それなのに、かほは無様に負けた、お婆様の前でね」
「随分と厳しい意見だな、て言うか引き分けに持ち込むなんて簡単にいくかよ」
「あんた無敵の西住流を受け継いでいる西住隊長に対して失礼な態度ね」
福田は鼻で笑った。それどころか笑いを堪えているみたいだ。
「あんた!何が可笑しいのよ!」
「バッカだなぁ、『無敵』なんてあるわけないだろ。そんなものあったら誰も苦労しねぇよ」
何か言い返してやりたかったがなにも言えなかった。ここで口喧嘩していても仕方がない。
「行くぞマリカ、目当ての奴はいない」
「じゃあいるっていうんなら帰らなくても良いよな?」
いつの間にか宗谷が来ていた。笑顔で夏海とマリカの前に立っている。 柳川が携帯を閉じながら宗谷に問いかける。
「やっときたか、またトイレか?」
「河嶋副指導員に怒鳴られてた。で、その後にここに来たら珍しい客がいたもんでさ、どのタイミングで会話に入るか迷ってたとこだ」
頭を掻いている宗谷に夏海がジッと睨みながら聞いた。
「あなたが・・・宗谷佳?」
「そうだ。名前知られてんならとか紹介しなくても良いよな?」
宗谷は敬礼をした、夏海も同じように敬礼を返した。礼儀作法は厳しく仕付けられて来たので出来て当然のことだ。
「それにしても、黒森峰の隊長、副隊長が俺たちに何かようでもあるのか?」
「あるからここにいるのよ!ここはあんたたちのいるべき場所じゃないって言いに来たのよ!」
エリカが言いたかったことを娘であるマリカが代わりに言ってしまった。親と子は考えることも一緒と言うことなのだろうか。
「いるべき場所じゃないって言われても、最終的に出場認めてくれたのは協会長だぞ?文句ならそっちに言ってくれねぇか?」
「あんたたちがここに来なければ済んだことよ!聞いた限りでは、自分たちの学校が廃校になったから大洗に来ているみたいじゃない!何か企んでるんでしょ!」
指を差しながら怒鳴り散らすマリカ。それでも宗谷は全然怯んでいない。全部聞き流しているような素振りを見せている。
「まぁ、でも。あんたら無名の部隊には無名校がお似合いよね、私たちの黒森峰に来なくて良かったわ」
「ちょっと!無名校だなんて酷くない!?」
「そうであります!37年前に、私たちの母が黒森峰に勝利してるであります。無名校だなんて言わせないでありますよ!」
栞と優里が反論する、マリカは鼻で笑った。
「少なくとも、今も無名校と言わざるを得ないと思うけど?去年1回戦目で負けたくせに」
何も言い返せなかった。去年の1回戦負けは事実、つつかれると痛いところだが否めない。夏海が呼び掛けた。
「行くぞマリカ、集合に遅れる」
2人は店を出ようとしたとき、宗谷がポツリと言った。
「・・・・・そこまで自信があるんなら、この大洗に勝てるんだよな?」
夏海の足がピタッと止まった。
「・・・
そして、店を出ていった。かなりバカにされたが、そんなことは誰も気にしていなかった。ただかほは、昔と違う夏海を見て寂しい気持ちになっていた。
戦車道本戦まで後5日、大洗では戦車道履修が練習を終えて格納庫前に集合していた。内容は1回戦目の相手の件だった。
「えーっと、分かってると思うんだけど1回戦目は私たちと一緒に試合した『サンダース大学付属高校』だから、気を抜かないようにね」
サンダース大学付属高校はアメリカの戦車を主に保有していて、どの高校よりもお金持ちであることでも有名であり、試合の時に傍受機を使って勝とうとしたことでも有名である。
多く保有しているのはシャーマンで、優香里がスパイで侵入したときはA6があったが試合で参戦したことはない。ここ数年はベスト3、4を行ったり来たりしているようだ、ちなみに去年はベスト4で終わったらしい。今は卒業生である『ケイ』が指導員を勤めていると聞いている。
「今年のサンダースは結構手強いよ~、優勝狙っているから旭日も勝つのは難しいかもね」
今年は新戦車を実験的に導入する予定でいると噂で聞いた、あくまでも噂なのだが。解散した後、宗谷は全員を集めた。
「いよいよ本戦だ、相手はベスト4だから気が抜けない試合になるぞ。協会長と西住夏海を驚かすほどの試合を見せてやるぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
いかがだったでしょうか?
次回からは本戦編に突入していきます!感想、評価お待ちしています。