戦車道全国大会の開会式が行われた。旭日の6人も開会式に参加したが、逸見の思惑により、全国の目に晒されることになる。
そして宗谷は逸見に呼び出され、しほと面と向かって話をすることになる。
戦車道科の生徒たちの前で色々と聞かれたが、特に気にする素振りを見せずに全ての質問に答えた宗谷。最後には宣戦布告を突き付けてステージを後にした。
そして大洗は、第1回戦のサンダース戦が迫っていた。
現在は試合中、流れはあまり良いとは言えない、やや追い詰められぎみだった。
「よし、セット完了だ。後はここのボタン1つで『ドン』だぜ」
水谷がポルシェティーガーにある仕掛けをしていた。一発逆転を狙う最終兵器だと言っていたが、見た目はかなり簡素だった。
「こんなもので逆転なんて狙えるの?」
栞は不安そうに見ている。見た目はただの筒だ、筒に付属の部品がくっついているだけで、大きさも戦車砲弾を一回り程度大きくしたぐらいだ。それにかほたちにはどう言うものなのか全く知らされていない。
「狙えるさ。パッと見はそう見えないかもだけどさ、これでも立派な武器だぜ?」
「・・・心配だけど、信じるしかなさそうね」
「信じろって、絶対に大丈夫だからさ」
そう言うとポルシェティーガーに乗り込んだ。美幸たちは使い慣れてはいないので、砲手担当の
「かほ殿、大丈夫でしょうか・・・」
由香が心配そうにしている、かほは何とか元気付けよとした。
「大丈夫だよ、それより
そう言うと通信機を手に取り、宗谷に向けて通信した。
「宗谷くん、あの筒何なの?」
〔あれか?あれは『※4式20
「ろ、ロケット砲!?そんなの使って良いの!?」
「仕方ねぇだろ、あんな厄介者に出てこられたらこれしか打つ手ないぜ?」
「う・・・そうだけど・・・」
「とにかく細かいことは後回しだ。行くぜ!」
試合開始2時間前、大洗女子学園の学園艦は試合会場に着いて戦車を降ろしていた。第1回戦はサンダース大学付属高校、主としてシャーマンが出てくると予想している段階だった。
唯一の謎は新戦車の導入、一体どんな戦車が入ったのかは誰も知らない。百歩譲ってイスラエルの『※スーパーシャーマン』ではないだろうと考えているが、お金持ち学校なので何を仕掛けて来るかわからない。ましてや過去に傍受機を飛ばしていたのだから尚更心配になる。
だが、当時隊長を勤めていたケイは『試合はフェアなプレイで行くものだ』と言っていた。自分の考えを曲げようとする感じではなかったので今になってもフェアプレイで行こうと考えているはずだろう。
みほたちが観戦席に座ると、隣の人が呼び掛けてきた。
「あ!みほ!久しぶりね!」
呼び掛けてきたのはケイだった、やっぱり昔とあまり変わっていなかった。
「ケイさん、久しぶり」
「見てたよ~?大洗に来た男子、えっと宗谷くんだったっけ?」
協会長に対して宣戦布告を突きつけたのだ、その場にいた全員が見いていたので宗谷はかなりの有名人になっているようだ。悪い意味で・・・
みほは苦笑いを浮かべた。
「え、えっと・・・その、まぁあれだけのことしたら・・・ね。」
「中々の強者だよねー、あの協会長に対してあの態度を見せたからねぇ」
笑顔で容赦なしに攻めてくる、これには他の指導員も苦笑いを浮かべるしかない。杏がケイに聞いた。
「そ、それより、新戦車ってどんなやつなの?噂でしか聞いてなかったから気になってたんだよねー」
取り合えず宗谷の件は後回しにして少しでも有力な情報を聞き出そうとした。
「どんなやつなのって言われてもねぇ、シャーマンにちょっと改造しただけよ?」
シャーマンに改造をしただけ、思い浮かぶのはファイヤフライか回収車であるM32ぐらいしかない、あとはクロコダイルだろうか?
「今回はかなり変わった戦車が出てくるから楽しみにしててねー」
ケイは笑顔だ、その笑顔は相変わらずだ。
「ケイ、敵に塩を送る真似をして良いのか?」
慌てて反対側を見るとまほとしほが座っていた。今は黒森峰も試合中もはずなのだが?
「お姉ちゃん?そっちの試合は?」
みほが恐る恐るまほに聞いた。
「・・・もう終わった、まだつめは甘いが我が西住流を継ぐものとしては良い試合だった。自分なりの戦い方を見つけて、自ら実戦に移しているしな」
「・・・自分なりの戦い方って、コンピューターに頼って戦う『電子戦』のこと?」
『電子戦』、それは『電子機器予測戦法』の省略語のことである。相手のデータをタブレット端末のソフトに打ち込み、相手が次の手をどうやって来るかを予測する戦法のことだ。
10年前辺りから大学選抜チームが取り入れ、その当時は地図などを簡単に見れるようにするための策だったのだが、そのうちに予測するソフトが出たことから一気に進歩していった。
今は一部の高校で使用されているところが多い。その一部は黒森峰を始めとしたベスト4の高校が主とし、実績はかなりのものなのだという。『戦車道の隊長を勤める者は必ずタブレットを携帯するとこ』など新しいルールが出たこともあったが、タブレット所持をしていない高校には不利だということで廃止された。
戦車本体が変わっていくことはなかったが、戦い方は日々進歩している。これが時代の流れというものなのだろうか、少し寂しい。
その一方で電子機器に頼らず、己の力で戦うと言う高校も少なくない。その1つが大洗なのだ。電子機器に負けてしまう点もあるが、機械に言われた通りに動くだけでは成長が見込めないということもあり、大洗女子学園では、電子機器系を一切使用していない・・・携帯は別として。
「お姉ちゃん、思わないの?電子機器ばかりでつまらなくなったって」
みほは電子機器を使うのは悪いことではないと思っているが、その一方でつまらなさを感じていた。主流になっているものを取り入れる、当たり前のことかもしれない。
だが頼る物が出来てしまえば、自分で考えることが出来なくなり、最悪の場合、チームとして勝ち上がれなくなるのでは?とみほは感じていた。隊長はタブレットを見て、その通りに指示を出せば良い。仲間がどう言っても「この通りに従え」で終わるのだろう。
「寂しくはない、新しい戦い方を見せるのは悪いことではないからな。『老兵は消え去るのみ』だ」
「お姉ちゃん・・・」
「みほ、まほ、そろそろ試合始まるよ」
ケイが2人の会話を止めた、徐々に険悪な空気になってきたのでそろそろ止めようと思ったのだろう。2人は目の前のモニターに視線を変えた。
〔それでは、大洗女子学園とサンダース大学付属高校の試合を開始する〕
音楽と共にアナウンスが試合開始を告げる。隊長を担っているかほと、サンダースの現隊長であり、ケイの娘であるリンが向かい合っていた。かほは笑顔で挨拶をする。
「よろしく」
リンも笑顔で返した。
「こちらこそ、良い試合にしようね!」
2人が挨拶をしている最中、宗谷たちもぼつぼつと準備を進めていた。燃料、弾薬、砲搭の旋回状態、そして・・・
「おい宗谷、これって嫌がらせに入らないのか・・・?」
福田がポツリと呟いた、今宗谷たちがいるのは観戦席の目の前だった。男子が出場するという事例は今までなかったので、
会場にいた人は知っているが、初見の人たちは謎に包まれているに違いない。おまけに仮生徒と言うことで砲搭に大洗の校章もないため、迷って参加しているんじゃないかと言い出す人もいた。
とは言っても許可は出ているので何のためらいも無く試合に出れる、宗谷は気にせず着々と準備を進めた。
「まぁこれを嫌がらせと捉えるか、『知られるチャンス』と捉えるかはお前次第だけどな」
「知られるチャンスって、あれだけ悪目立ちしたんだから嫌と言うほどに知られてるよ」
準備を済ませ、宗谷たちは一旦チリの前に並んだ。
〔それでは、隊長は各校に戻ってください〕
モニターを見る限りでは挨拶を終えて戻っている様子しか分からない。そろそろ試合が始まると直感し、装備の確認に入った。
チリの前では『鉄帽よし』、『戦闘服よし』、という声が響く。桃は『早く乗れ』とツッこみたかったが流石に恥ずかしかいので黙って見ていた。
ケイは宗谷たちの動きに感心していた。今までどこの学校を見ても搭乗前に装備の確認をしているのは見たことは無かった。そして、審査員がスターターピストルを鳴らした。
〔試合、開始!〕
合図と同時に戦車が一斉に動き出す。チリも装備確認を終らせ、動き出す。
「西住、現在の位置を知らせてくれ」
まず確認したのはお互いの位置関係、連携を取る上では重要項目の1つだ。試合の初っぱなに聞くことはまず無いが、今は離れているので位置関係を把握するのは重要だと思ったのだ。
「え?えっと、今はスポット3にいるよ。」
〔じゃあ15分後にスポット16で合流しよう。通信終了〕
敵に傍受される場合もあるので会話もなるべく素早く済ませる、近衛時代の癖だ。下手したらモールス信号で会話してしまうかもしれなかったのでまだマシな方だ。
「あ、ちょっと・・・もう、すぐに切らないでよ~」
かほは頬を膨らませた、一方的に掛けてきて切ってしまったのだから当然だろう。ただ気になるのは15分後に合流すると言ったことだ、15分後
そして15分後、かほは驚いていた。宗谷が言った通り、15分後にスポット16で合流したのだ。宗谷は二ッと笑っていた。
「よーし、合流出来たな。後は4号の護衛をする形で行動を共にするぞ」
チリは4号の後ろに付き、ゆっくりと進んでいった。他の戦車はチームでバラバラに動き、見つけたら報告、その近くにいるチームが集合、撃破といった形で仕留めていこうと考えていた。
チーム編成は
チーム1は平地のスポット16、チーム2は少し離れたスポット39、チーム3はスポット26、チーム4は森林地帯のスポット56にいた。森林なら障害物が山ほどあるので身を隠す時にも引き離す時にも使える。だが反対に、上手く隠れる場所も少なくないため、待ち伏せ攻撃を仕掛けられる可能性もある。
そして、チーム4は周囲に十分警戒しながら進んでいた。
「うーん、開始から30分経ったけど静かだねぇ」
穂香が呟く、確かに静かすぎる。今までなら戦闘になっていてもおかしくなかった、嵐の前の静けさとはまさにこの事か。
「相手がビビッて出てこないだけですよ、今年は余裕ですね」
梅はそう言って笑ったが、他の乗員は笑えなかった。去年のベスト4が攻めないなんて考えられない、サンダースの去年の試合のビデオを見たが開始早々からすぐ攻めていた。
去年に限ったことでは無く、今までもそうだった。試合開始と同時に攻め、攻めて、攻めて、攻めまくるといった試合展開を見せていた。今年に入っていきなり守りに入る試合展開を見せるだろうか?
「かほちゃん、そっちはどう?」
穂香は真剣な声でかほに通信した。
〔こっちも静かです、いまだに相手チームが見つけられません。〕
「そう、気を付けてね。何か今年は妙に静かだから何か企んでいるのかも」
「リンさん、準備完了です」
サンダースは新しい戦車のセッティングをしている最中だったようだ、攻めに来なかったのはこの作業をしていたからだろう。
「オッケー、
「ラジャー!」
宗谷もこの静かさには怪しさを感じていた。攻めがない、いや無さすぎる。
「・・・水谷、お前耳が良かったよな?」
「まぁ、そこそこってとこだけど、それがどうかしたか?」
「暫くヘルメットを訓練用(インカム無し)に変えて、頭を外に出しておけ。戦車の音がしてもだが、それ以外の音がしたらすぐに報せろ」
水谷は言われた通りしたが、理由は分からない。と言うより、
「なぁ・・・チリと4号の音以外何もしないんだが?」
「無駄口叩かずに黙って聞いてろ、任務に集中出来なくなるぞ」
宗谷もヘルメット変えて耳を澄ませていた。響くのはエンジン音と風の囁く音だけ、怪しい音は何1つしない。
チーム4は緊張感が解れつつあった。特に何もないので少し緊張感を解いても良いだろうと思っていた矢先だった。
『ヒュルルル・・・』
何かが墜ちてくる音が耳に入ってきた。穂香は空を見た、すると弾が数十発チーム4を目掛けて墜ちて来た!
「ヤバッ!全車、森から出るよ!」
穂香が慌てて指示を出したのも束の間、チーム4の回りに次から次へと弾が弾着し、地面が揺れ、砂埃が立ち込めて来た。
数十発来た内、3/4は木に当たったか、外れて地面に当たり、1/4は砲搭や車体に命中した。幸いにもエンジンがやられることは無く、全車は無事に森を抜けた。これで一安心・・・と思っていた。
「か、角谷先輩!目の前からシャーマンが来てます!」
あいかが報告したがもう手遅れだ、狙い通りと言わんばかりにシャーマンがチーム4を襲う。森に戻った方が無難だが、さっきの攻撃の後に戻るのはやられに行くようなものだ。
また来る可能性も零とは言えない、穂香はそのまま前進して、反撃するように指示を出した。
〔こちら
秋子から全車に向けて通信が入った、今チーム4に最も近いのはチーム1、3だった。かほはすぐ駆け付けるように返信し、チリと共にスポット56へ急行した。
急行している最中、宗谷は水谷に異変が無かったか改めて聞くことにした。
「水谷、何か聞こえたか?」
「うーん、カモから通信が来る3分前か?『ドシュ、ドシュ』って言う音がしたな。例えるならー・・・えっと・・・多連装ミサイルを発射したような・・・」
「冗談よせよ水谷、ミサイルを搭載した戦車なんて聞いたこと無いぞ」
北沢は笑ったが宗谷は一理あると考えていた。発射音までは聞こえなかったが、水谷が聞いた音が確かなら侮れない。
色々と考えている内にスポット56に着いた。シャーマンは4輌、パッと見は森に追い込もうとしている感じだった。チリと4号はシャーマンの後ろを取ったも同然、75ミリ砲のダブルパンチでシャーマンを撃退した・・・とは言い難かった。
「何だ?随分と呆気ねぇな」
岩山が照準機を覗きながらそう言った。特に反撃もすること無くシャーマンは去っていったのだ、岩山が言うように、呆気なかった。
「助かったよ、ありがとう」
穂香がお礼を言った。そして宗谷から質問が来た。
「一体何があったんです?」
「それが・・・よく分からないんです」
あいかが事の発端を全て話した。穂香の指示があった直後に弾が数十発飛んで来た後に退却、そして退却中にシャーマンと交戦した。
ここで気になるのは数十発飛んで来た弾だ。この試合で出場可能な戦車の数は10輌まで、数十発と言うことは少なくとも20発以上弾が来たことは間違いない。だがこれでは計算が合わない。
「おいおい、数十発一気に弾を飛ばせる戦車なんてないぞ。見間違いとかじゃないのか?」
「本当です!見間違いじゃないですよ!!」
あいかは必死に訴えている、あまりに必死だったので信じるしかなさそうだった。かほはあいかを宥めた。
「分かったから、落ち着いて」
あいかは宥めて貰って安心したようだったが、手先は震えていた。かなりの恐怖だったに違い無かっただろう。
「まぁ、目星は付いてる。多分『T34』だろ」
宗谷の一言でチーム全体がざわついた。かほは宗谷に違うことを伝えた。
「T34って、その戦車を導入してるのは『プラウダ』だよ?」
T34は旧ソ連(現ロシア)が造った戦車だ。低い車高に高い攻撃力を備え、『T34ショック』の引き金にもなった。
だが、そのT34を装備しているのはプラウダ女学院だ。いくらなんでもそんなことはあり得ない。
「いや、そっちじゃなくて・・・・・」
〔誰か!救援に来てくれ!!空からの攻撃と、シャーマンから攻撃を受けている!〕
通信の相手は3突の美幸だった。
かほたちには疑問が残るが、今は援護に向かうことが最優先だ。チーム1、4はスポット62に急行した。
一方、観戦席はざわついていた。モニターに写っていたのはシャーマンだが、少しかけ離れていた。砲搭の上に、見慣れない物が取り付けられていたのだ。
「ケイ、あんたも卑怯な手を使うようになったのね」
杏が睨み付けるようにケイを見た。
「ソーリーね・・・本当は使いたく無かったんだけど・・・・・」
ケイはしょぼんと顔を下に向けていた。
「まぁ、良いわ。あの子達なら、きっと打開策を見つけられるでしょ」
宗谷たちはスポット62に着いたが、すでにシャーマンはいなかった。チーム3が駆け付けて撃退したらしいのだが、聞いた限りではチーム1が駆け付けた時とほとんど一緒だった。
森の方に追い込まれるように攻撃を仕掛けられ、そこに駆け付けたチーム3からの攻撃から逃げるようにその場を後にしたという。美幸に話を聞くとあいかが言っていたことと全く同じだった。その会話に割って入るように宗谷が話しかけた。
「やっぱな、『T34』だよ。言っとくけど、ソ連のT34じゃないからな?」
「ソ連のT34じゃないなら、何なの?」
「『T34カリオペ』だよ。ロケット砲の発射菅を備えたシャーマンのことだ」
T34カリオペ、それはアメリカが造った戦車搭載型の多連装ロケット砲のことで、主としてシャーマンに搭載され、小数ながら戦線に導入された。
ただ、発射角度を変えるために砲身と一体で動く仕組みなので主砲の発射が出来ないことが欠点だったが、戦線で改良されて主砲発射が可能になったものもあったと言われている。
「ロケット砲!?そんなの卑怯だよ!」
栞の一言に同感したメンバーが大半だったが、一応戦車には変わり無いことと、第2次の際に設計、戦線に導入されているので、反則ではない。
それにロケット砲と言えど、カーボン弾を使用していることは間違いなさそうだ。砲弾が装甲板を貫通しなかったことが唯一の証拠だ。
それに無断で出場させているわけでは無く、きちんと協会からの許可が下りているからこそここにいるわけなのだから咎めることも出来ない。
こうなれば徹底抗戦するしかないのだが、あれだけの数のロケット砲弾に対抗出来る戦車が無い。かほたちは途方にくれた。
「ハァ・・・
宗谷はチリに入り、鉄で出来た筒を取り出してきた。同じものが3本もあった。
「それ、何なんだ?」
梅が不思議そうに見た、宗谷は自慢気に答えた。
「一発逆転を狙う物さ」
と言うところで話は冒頭に戻る。噴進砲はポルシェティーガーの後部に3門設置している。まず1つ、ポルシェティーガーに設置したのは射撃の関係上、砲搭が前に出ている方が良いと言うこと。
そしてもう1つ、3門も設置したのは万が一不発した場合の予備として余分に設置したのだ。
発射方式は配線を伸ばして発射ボタンを車内に引き込んでいる。砲は一定の角度で固定されているので、角度の調整は出来ない。なので照準を合わせるなら砲弾の弾道を読み、車体ごと動かさなければならない。
水谷が優希と交代したのは、不発した場合に間違った対処をして暴発してしまう可能性があるため、扱い方を良く知っていないと危険だからと、宗谷が指示を出したのだ。
やむを得ないのだが、水谷は女子に囲まれている中で気まずさを感じていた。お互いに詳しく知らないもの同士で、本来なら出場出来ない男子がいて良いものか、水谷はそう感じていた。
「えっとさ、水谷って言ったっけ?」
「え?ああ・・・そうだけど・・・」
突然話しかけられ水谷はどう対応したら良いか分からなくなってしまった。
「気にしなくて良いよ?初めは驚いたけどさ、今は君も立派な戦車道科の一員なんだから」
「そうだよ。お互い敵同士じゃないんだしさ」
「ちゃんと撃ってよ?あんたの腕に掛かっているんだから」
優しい言葉をかけて貰って水谷は笑顔になった。まさかこんな風に思ってくれていたとは思ってもいなかった。
「おう!任せとけ!」
〔水谷、聞こえるか?作戦を実行する、スタンバイしろ〕
作戦は囮を森に送り、ミサイルが森に弾着する前に撃墜、そして次弾が来る前にカリオペを撃破する、という作戦だ。だがその作戦には1つ盲点がある、そのカリオペの場所が分からないのだ。
ミサイルの撃墜は何とかなるかもしれないが肝心の元を見つけないと作戦は無意味に終わってしまう。一体何処にいるのか、まずはそこからだ。
「チーム4、スポット39に行って下さい」
宗谷がチーム4に指示を出した、また断言するように。
「宗谷くん、本当にそのスポットにいるの?」
穂香は半信半疑だったが、宗谷は自信満々で答えた。
「絶対にそこにいます。ロケット砲を撃つのに匹敵する場所はあそこしかありません」
「分かったわ、取り合えず行くだけ行ってみるよ」
チーム4はスポット39に向かうため、隊列から離れた。この作戦で囮を勤めるチームは1で、チーム2は見張りのシャーマンを探して撃破することになった。
そしてこの作戦の主であるポルシェティーガーを率いているチーム2は、砲弾の撃墜がしやすいスポットを選ぶために別行動をすることにした。
そしてチーム1は森に入り、ミサイルが飛んでくるのを待った。チーム2はシャーマン探しに苦戦し、チーム3は撃墜可能なスポットについた。そしてチーム4は真っ直ぐスポット39に向かっていた。
水谷は射撃音が聞こえるように砲搭の搭乗口から頭を出して様子を見ていた。ポルシェティーガーの後ろに3式中戦が付き、万全の体制を整えた。
水谷は双眼鏡で辺りを見渡した、砲弾が来る気配は無い。
観戦席ではどっちも動きを見せないので暇そうにしていた。大洗は各スポットに展開し、サンダースはカリオペの攻撃以外では特に目立った動きを見せていない。何か動きがないと見ている方は暇でしょうがない。
「はぁ~、暇だねぇ」
杏がため息をつきながら呟いた。
「仕方ないですよ。でも何か作戦があるんじゃないですか?」
みほが笑いながら言った。その一方でどんな作戦を立てたのかが気になっていた。もし自分だったら、照準を合わせさせないためにジグザグに走らせて、目標に対して距離を詰めて撃破する。
もし護衛役がいたら先にそっちを撃破して、その後にカリオペを、と考えていた。
だがこの作戦はカリオペの位置をある程度把握しなければ返り討ちに遭ってしまう。たとえ第1波を避けたとしても、捜索に時間を掛けすぎればすぐに第2波が襲ってくる。
「大洗は散開している、各戦車でそれぞれの役目を果たそうとしているんじゃないのか?」
みほの考えを読んだかのようにまほが話しかけた。
「そうかもね」
「森に行った2輌は囮だろう、そしてポルシェティーガーはロケット砲弾の撃墜。何を考えているのかは知らないが、それなりの策はあるんだろう」
「・・・そうだね」
西住姉妹の会話は何処か素っ気ない。今もそうだが、こんな時はいつもこうだった。
「それより・・・今年はまだ
「その戦車に乗っていた子達は
「・・・戦いから逃げた者に腕の良し悪し何て無いだろう。違うか?」
「そうかもしれないけど、私は惜しい生徒を無くしたって思ってる。彼女たちは、戦車道を続けるべきだった」
みほは自分の気持ちを伝えられるようになっていた。昔は引っ込み思案で、自分の気持ちを伝えることが出来なかったのに。
「・・・そうか・・・」
一言そう返すと、試合観戦を再開した。
カリオペの乗員らは早く射撃がしたくてウズウズしていた、リンからは「
「リンさーん、次撃ちましょうよ~。もう待ちくたびれましたよ~」
「そうねー・・・装填が完了したら、スポット56に撃って。そこに例の新型戦車がいるらしいから、大物を仕留めるチャンスだよ!」
「ラジャー!」
カリオペはもう既に装填が完了していたので、すぐに射撃の態勢に入った。砲弾の発射菅が、宗谷たちがいるスポット56の方を向く。
「射撃態勢オッケーです!」
砲手が準備完了を伝えた。後は射撃をすれば良い、何も難しくはない。
「よーし、ファイアー!!」
車長の指示でトリガーが引かれ、60発の砲弾がスポット56に向かって飛んでいく!
「ん・・・?来たか」
水谷が双眼鏡でスポット39の方角を見るとミサイルが飛んでいた。すぐに通信機を手に取り、チーム1に伝える。
「宗谷、聞こえるか?砲弾がそっちに向かってるぞ!」
〔了解、じゃあ作戦実行といこうか。頼むぞ〕
「了解、任せとけ」
水谷は望遠鏡でミサイルの軌道を見た。真っ直ぐに飛翔し、徐々に高度下げている。発射ボタンを手に取り、タイミングを計る。
「噴進砲撃つぞ!でかい音するから耳塞いどけ!」
美優たちポルシェティーガーの乗員は耳を塞いだ。水谷はカウントダウンを始め、「発射!」の掛け声でボタンを押した!・・・しかし。
「・・・ん?撃ったの?」
美優が確認したが、ロケット砲弾は発射されていなかった。
「クソッ!不発だ!次行くぞ!」
今度はカウントダウン無しでボタンを押したがまたも不発、これで残すのは後1発。
「宗谷、噴進砲が2発とも不発だ!全弾撃墜は厳しくなってきた!」
〔分かった。とにかく、全弾撃墜は出来なくとも、半分以下まで数を減らしてくれ。森から脱出するハメになったら向こうの思うつぼだ!〕
「了解!何とか持ちこたえてくれよ!」
弾道が変わったので、ポルシェティーガーを少し前に出すように指示した。これで撃墜に失敗すれば敗北にグッと近づいてしまう。
「頼むぜ、最後の1発だ!発射ぁー!!」
※解説
4式20糎噴進砲
大日本帝国陸軍が造ったロケット砲。簡素な造りではあるが、威力は絶大であったため、本土決戦に使用される予定だった。
スーパーシャーマン
イスラエルが中古で買い取り、105ミリライフル砲に改造したシャーマンのこと。名前もM4からM50に改名されている。1950年代から80年代まで使用された。
あとがき
今回も読んでいただきありがとうございました。宗谷が用意したロケット砲が2発とも不発、作戦は成功するのでしょうか?
感想、評価、お待ちしています。