ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

ロケット砲を搭載したシャーマン、『カリオペ』の猛攻を受けながらも、何とか勝利する事が出来た大洗女子学園。
試合が終わった翌日も、練習に励む生徒たち。しかし、準決勝戦を迎える前に、1つ解決しなければならない問題があることは誰も気付いていなかった。


第13章 2人の操縦手

 俺の名前は福田彰、旭日機甲旅団の副隊長兼チリの操縦を担当している。近衛時代の時は戦車、装甲車の操縦技術を学ぶ操縦科に所属していた。

 まぁそう言っても、入学して夏休みに入るまでの前期の間は偵察技術を学ぶ偵察科に所属して、後期から操縦科に転属という形でやってきたんだけど、2年生に上がって3ヶ月もしない内に廃校になっちまった。

 で、今何故大洗女子学園(ここ)にいるのかと言うと、宗谷(こいつ)と戦車道っていう武芸に出るのも楽しそうだなぁと思ってついてきた。

 戦車道に関しては、基本的な知識と歴史は知っていた。宗谷(こいつ)が旭日機甲旅団を創った時に、「戦車道に出るために準備するぞ」って言い出した時は「正気か?」って思ったよ。

 細かいルールは知らなかったけど、『男子が出たことがある』なんて聞いたこと無かったから、前代未聞の挑戦だろ思ったけど、戦車に乗ってドンパチするって言うのは近衛のときほとんど無かったから魅力は感じていた。

 

 初めての試合のときも、ここまでするのかって思ったほどだ。100%実戦というわけではないのだけれど、俺は楽しんでいる。

 

 今何をしているかって?今は訓れ・・・・・じゃなくて練習中だ。内容は泥濘(ぬかるみ)からの脱出。スタックした時に適切な対処が出来るようにするための練習をしている。戦車は履帯(キャタピラ)を備え、どんな悪路でも走行出来る造りだ。

 簡単に言えば、履帯という道を作りながら走っているというわけだが、何10トンという重量を分散させることは出来るが100%消すことは出来ない。

 

そういう訳だから抜け出せなくなるほどの泥濘にはまったら、別の戦車から手伝ってもらうしか方法はない。そうならないために、自力で脱出出来るようにするというのがこの練習の目的らしい。

 脱出方法は履帯の下に岩か木の板等といったグリップ出来るものを敷く。あとは外にいる人が岩や板を敷きながら指示を出し、ゆっくりと操作して脱出する。

 一気にアクセルを吹かすと下に敷いた物が飛んでいってしまうため、また元の状態に逆戻りしてしまう。

 

 そのため、脱出するときは外からの指示と、落ち着いて動かすことが出来る平常心が大事になってくる。ようは『焦らず進め』ということ。

 今は順番待ちをしている。3ローテ目で、チリ(俺たち)の前にポルシェティーガーと3式中戦が先行してやったが、やっぱりポルシェティーガーは脱出に半端ない時間を使ってたな。

 最大重量59トン、焦らずに進んでもどんどん沈んでいく。最終的には自力で脱出したけど。特に驚いたのは、3式中戦もすぐに脱出したということかな。

 

 乗員は携帯ゲームばかりしている奴しかいないのに、手こずる素振りを見せることなくすんなりと脱出したからな。人は見かけによらないというのはまさにこのことだな。

 

 で、M3の番で練習している最中だ。ああじゃない、こうじゃないと言っている。そして外にいる指示役は泥だらけになって、履帯はスリップしている。指示もまともに通っていないみたいで、車体は左右に揺れている。

 あー、このままじゃ・・・・・と思っていたら完全にはまった。こうなったら自力脱出が出来ない。で、チリ(俺たち)の出番となる。

 

「はぁー・・・・・チリ!脱出の手伝いをしてあげろ!」

 

 桃副指導長がチリ(俺たち)に指示を出す。言われた通り、脱出の手伝いをするために準備を始める。ワイヤーを引っ掛けて引っ張るだけだから、救助するのは簡単だ。何故俺たちがしなければいけないのかっていうのは、救助をすることに慣れていることと、エンジンの馬力が高いからというそれだけの理由。

 エンジン出力だけで言えばポルシェティーガーの方が高いが、モーターで走るため高負荷をかけ続けると火を吹いて走行不能になってしまうから牽引が出来ない。

 

 消去法でポルシェティーガー以外の戦車で見たときにチリが一番出力が高かったから選ばれたというわけだ。選ばれたのは良いが、全く嬉しくない。

 

 宗谷がワイヤーをかけて、合図を出す。これでM3(こいつ)助けるの3回目なんだよなぁ・・・・・でも、今はそんなことを気にしてはいない。それ以上に気にかかっている奴がいる。4号の操縦手(ドライバー)を担当している冷泉七海だ。

 

 ここ最近、いやサンダース戦の前・・・・・ん?いや待てよ、聖グロ戦の後辺りからか?様子がおかしくなったのは。一応念のために言っておく、恋人関係になりたいからという訳ではないからな?それだけは絶対に揺るがないぞ。

 

 とりあえずそんなことは良いとして、様子がおかしい。大事な事だからあえて2回言った。心ここにあらずって感じで練習に身が入っていないように見える。

 操縦手の勘ってやつかな?角谷科長が言うところによると、様子が変らしい。いつもならすぐに脱出するらしいけど、今回は時間がかかっているって呟いている。俺も何処と無く違和感を感じている、こんなとこでミスするか?って。あ、はまった。

 

「よーし、福田。救助(レスキュー)開始だ」

 

 宗谷の指示で俺はチリを4号の前に出す、西住隊長が申し訳なさそうな顔してるなぁ。で、助け出したは良いけど、こんなにミスしてんのみるのは初めてだな。おっと、次は俺たちか。

 うーん、宗谷は右に30度って言ってるけど50度ぐらい動いても大丈夫そうだな。まだ履帯はグリップしてるし、っていう感じで操縦手は車長の指示だけではなく自分の考えで戦車を動かすことが出来る。

 基本は車長からの指示が絶対だが、場合によっては俺の判断が良かったってこともたまにはある。

 

 お、いい感じじゃん。で、宗谷はここから30度左って言ったからその通りに従って・・・・・冷泉の落ち込んだ顔が俺の視線に入ってきた。一体どうしちまったんだろうか。ん?何か宗谷が叫んでいるよう・・・・・やべ!ボーッとしてたら60度回ってた!!って慌ててもこりゃ手遅れだな。スマンな宗谷。

 

「福田ぁー・・・・・しっかりしてくれよー」

 

「悪い、悪い。でもまだ何とかなるだろ、何とか自力で脱出するから心配すんなよ」

 

 その後、何とか自力で脱出出来た。まぁ、近衛の時は出来て当たり前だったから、何てことはない。操縦科の時は「自力で脱出出来るようになれ」って耳にタコが出来るほど言われてきたからなぁ。

 

 練習が終わった後は全員で洗車をする、そこら中泥だらけにしたから中々綺麗にならねぇな。他の連中も一緒に洗車しているけど、やっぱり苦労してんな。洗車が終わった後は整備をして、明日の予定を聞いて今日の練習は終わる。

 でも俺たちはまだ帰らない、何故かって?その日の練習のフィードバックをするためだ。お互いのミスしたところ、気付いたところを言い合って問題解決に努めるのが目的だ。

 

 今日の内容は、やっぱり俺がミスったことだな。原因は冷泉(あいつ)を見てて考え事してたなんて言えるわけがない。当然、ただ考え事をしてたと言っておいた。やべー・・・・・宗谷がめっちゃ怪しんでる。

 

「お前が考え事をするなんて珍しいな」

 

「俺だって考え事の1つや2つはするって」

 

 うーん、ここで「冷泉の様子がおかしいんだけど」って言うべきだろうか?まぁ、こいつらの事だし多分言っても大丈夫だろう。話題がこれだけっていうのも何かアレだし。

 

「なぁ、ここ最近冷泉の様子がおかしいなぁって思うんだけどさ。お前らは何か感じないか?」

 

 言っちまった、言っちまったけど、俺1人で抱え込むよりかマシか。うーん・・・・・話振っておいてあれだけど全っ然ピンと来てねぇ感じじゃん。やっぱ俺にしか分からねぇってことかなぁ。ん?宗谷(あいつ)は少し違うな。思い当たる節でもあるのか?

 

「冷泉さんの様子が変わってたのは気になっていたんだが、福田(お前)はいつから気づいてたんだ?」

 

「え?いつから・・・か。あまりはっきりとはしないが、確か聖グロとの試合の後からだと思うけど、お前も気にかかってたのか?」

 

「西住から相談受けててたんだよ。様子が変だけど、どうやって接したら良いかって」

 

 なんだ、西住隊長から聞いてただけか。まぁ、一番近い存在だからな、気づかない方が変か。

 

「そうか、聖グロとの試合後からか・・・・・原因は分からないけど、その辺りからか。よし福田、報告はお前から西住隊長にしておいてくれ」

 

「え!?何で俺なんだよ!?そこは車長の宗谷(お前)の役目だろ!?」

 

「俺経由するよりかはお前から直接言った方が説得力あるだろ?」

 

「説得力上の問題かよ!」

 

 マジで俺がすんの!?確かに説得力はあるかもだが!車長で俺よりか人望ある宗谷がしたほうが絶対に良いと俺は思う!

 

「良いじゃん、俺も福田(お前)の方が良いと思うけど」

 

 岩山ぁー・・・・・

 

「確かに、経由するよりかはな」

 

 柳川ぁー・・・・・

 

「一言言うだけじゃねぇか、何も難しくねぇぞ?」

 

 水谷ぃー・・・・・

 

「ガンバ、福田」

 

 北沢!ガンバって何だガンバって!俺は他人と話すことが苦手って訳ではないんだぞ?て言うか俺に味方はいねぇのか!まぁ良い、言い出したのは俺だからな。言い出したことにはきちんと責任(?)は取る!

 

「分かったよ、俺から報告しとく」

 

「よろしくな」

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 ・・・・・そして、今日を迎えて俺は報告に来た。ただそれだけだ、ただそれだけなのに、何で武部(あいつ)は俺を怪しそうに見るんだ!!いけね、余計なことを考え無いようにしないと。

あくまでも俺は西住隊長に報告に来たんだ。うん、そうだ。ためらいを見せたら余計に怪しまれる、普通に接しれば良い。

 

「宗谷に頼まれて報告に来た、冷泉の件でだ」

 

「分かったわ、ちょっと来て」

 

 西住隊長は冷泉に聞かれないよう、格納庫の裏に連れてきた。武部はあいっかわらず怪しんでいたんだが、ほっておこう。今は報告が優先だ。

 

「宗谷が西住隊長から聞いた。冷泉の様子がいつもと違うってな」

 

「うん、私も同じことしてたから分かるんだ。隠し事しているんだってこと」

 

 え?隠し事?隊長隠し事してたの?マジで?いや、取り敢えず、そこは置いておこう。西住隊長も俺と同じタイミングで異変を感じていたらしい、でも原因は分からないって言ってる。俺はもう予測出来てるんだけど、ここはあえて言わないでおこう。

 

「俺が異変感じたのは・・・・・聖グロとの試合のあと辺りからだったっけか。そっから何となくだけど、動きが違うように感じてきたんだよな。西住隊長は、何か思い当たる節ないのか?」

 

「私には分からないんだ。車長なのに、情けないよね」

 

 おいおい、何で西住隊長(あんた)が落ち込むんだよ。何も悪いことしてないのに。

 

「車長だからって、気に病むことはねぇと思うけど。冷泉(あいつ)初めて会ったときからあんな感じだったし、上の立場だからってあんたが落ち込んでたら士気に影響してくるぞ」

 

「・・・・・そうだよね。ありがとう福田くん、冷泉さんとは一度面と向かって話してみるよ」

 

 こう思ったら失礼かもしれないが、そうしてくれ。俺は冷泉(あいつ)を励ませる自信が全くないからな。

 よし、報告は終わった。俺は戻るぞ、武部にこれ以上睨まれるのはごめんだからな。さぁ、さっさと戻るか。

 

 ん?冷泉か・・・・・相変わらず暗いな。でも、初めて合った時よりも暗い。どうしよう、声掛けとくか?でもそれだと武部になに言われるか分からねぇしなぁ。

 

「さっきからずーっと七海ちゃん見てるけど、何か用があるんなら呼ぼうか?」

 

 うぉ!!噂をすれば武部が!

 

「い、いや。何もない」

 

 本当はあるっちゃあるんだけど、呼んだところで何話したら良いか分かんないから今はいいや。

 

ーーーーー

 

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ーーー

 

ーー

 

 

 今日の練習は射撃だ。止まった状態での射撃、走りながら射撃する走行間射撃、そして遠距離射撃(アウトレイジ)、今回は操縦手の腕がどうとかは全く関係ない。射撃に関しては砲手(ガンナー)装填手(ローダー)の連携が物を言うからな。

 練習の内容はただ的に向かって1発ずつ『ドン』とするだけだ。ただし、リボルバーショットをするときは、操縦手()とも連携を取らなければならない。その点を踏まえれば、走行間射撃の方がまだ楽だ。

 

 砲弾は、トリガーを引いて弾が発射されるまで少しラグが出るから、目標に対して少し修正をしないといけない。

 走行間射撃なら修正が効かせやすいが、リボルバーショットは後ろにいる戦車()を見えない状態で撃ち抜かなくてはならないから修正が効かない時がほとんどだ。

 

 そして俺はその後に進行方向に向けて態勢を立て直さなければいけない。一番厄介なのはそこだ、1回転させるは良いがミスったらスピンしまくって障害物に当たるか、周りにいる友軍を巻き込む可能性が非常に高い。

 めっちゃ危険なんだけど、後ろを取られた後に砲搭旋回させてたら間に合わないからリボルバーショット(この方法)が案外手っ取り早かったりする。

 

 それに追ってる敵がいきなり真正面向かれたら誰でもビビるだろ?それで対応が出来ずにやられた、ということになるから絶対に当たらないという訳ではない。でも初めてのリボルバーショットは避けられたけどな・・・・・

 

 この練習するときは絶対真似したいって言ってくる奴がいる。「そう簡単に出来るはずがないだろ」と常々思っているがな。それにこの技はおすすめしない、回転させるから履帯に負担掛かるから切れやすくなる。

 

 危険な上に自分の戦車を自爆させかねないからな。だから教えてほしいと言われても、よっぽど操縦の腕に自信がある奴以外には教えるつもりは全く無い。

 リボルバーショットを教えて自爆したとか言われたら嫌だからな。でも冷泉(あいつ)ならすぐにマスターしそうだけど。

 

ーー

 

 

 整備が終わり、片付けも済んだ。さっさと帰ろう、そう思っていた。うん?4号から声がしてんな。誰かいるのか?この格納庫にはもう誰もいないと思ってたんだが。と、何のためらいもなく操縦席を覗いた。冷泉が座ってた、まぁ思ってた通りだったけど。

 

「な、何でここにいる!!」

 

 何かめっちゃ焦ってんな。こっそりと練習したかった感が半端なしに伝わってくる。よっぽど恥ずかしいのか分かんねぇけど、すっげぇ顔赤ぇな。

 

「何でって言われても、そんだけ声出してたら誰にも聞こえるって。残って練習すんなんて、結構真面目だな」

 

「ほ、ほっとけ!!」

 

 あー、帰っちまった。練習の邪魔したみたいで罪悪感が残ったんだが、まぁ良いか。別に誰かに話そうって気はないし、俺もさっさと帰るか。

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 ・・・・・今日はやたらと冷泉(あいつ)に睨まれてる気がする。あいつってあれか?ずっと根にもつタイプか?まぁ、俺にも責任はあるから反論出来ないし、後で謝っとくか。

 で、今日の練習は後ろを取られたときの対処と言われたけど、「森の中で鬼ごっこをする」って言われてもさっぱり意味が分からない。

 

 宗谷が聞いてきたけど、内容は1対1で攻撃をする役と逃げる役に分かれてやるらしい。

 攻撃する役は通常の弾を使わず、当たると色が付く『カラー弾』という特殊弾を使うと聞いた。聞くだけだと防犯グッズの『カラーボール』と似たような感じだな。

 逃げる役はこのカラー弾に当たらないように逃げ、600メートルの距離を無事に逃げ切れたらクリアということらしい。

 

 ちなみに攻撃する役はただ色を付けるのではなく、エンジン部や弱点に命中させるように撃たないといけないらしい。で、指導員がこれは確実にやられたと判断した場合はその場で終了して次のチームに交代する。

 宗谷は理解したみたいだけど、俺は説明されるよりも実戦した方が理解しやすい。

 

 練習場は説明された通り森だった。いや、森というより林というべきだろうか。木々の幅は、パッと見戦車がギリ2輌通れるかぐらいだけど、ここ走るのかよ。俺が一番苦手な地形なんですけど、まぁ練習なら仕方ねぇな。

 

 俺たちと組むのは4号か、しかも俺たちが逃げる役、絶対に逃げ切ってやる。苦手ではあるが、それを克服すると思えば何てこと無い。

 先行して89中戦と3突がやっているところを見たが、どっかの強盗集団を戦車で追い掛けているようにしか見えないのは気のせいか?カラーボール擬きを投げ(撃ち)ながらカーチェイスをしている、みたいな感じにしか見えない。

 て言うかこんなことを常日頃やってんのか、結構面白いじゃん。よーし、順番回ってくるまで動きを見て学習すっか。

 

ーー

 

 

 

 うーん・・・・・順番が回ってきたは良いんだが、いざ目の前にすると結構狭そうだな。チリ(こいつ)の幅って確か3メートルぐらいだったよな。行けるのか?これ・・・・・でも、同じぐらいのポルシェティーガーが通れてたんだから、大丈夫か。

 

 

「福田、操縦に関してはお前に任せる。思いっきり突っ走れ!」

 

 

 宗谷、緊張を解そうとしてくれる計らいはすっげぇ嬉しいんだけど・・・・・俺にはプレッシャーになるから出来れば何も言わないでくれた方が非常に気が楽なんだけど。ん?待てよ、「お前に任せる」ってことは・・・・・最初っから俺の自己判断で行けと!?ヤバイ、冷や汗が・・・・・

 

 

〔練習始め!!〕

 

 

 桃さんの声がスピーカーを通して響く、俺はアクセル全開で4号から全力で逃げる。えっと、確か4号(あっち)の砲手は・・・・・えーっと、五十鈴(ごじゅうすず)だっけ?

 いや、そんな変な名前じゃなかったような・・・・・まぁ良いか、後で聞き直そう。それに今はそんな事考えている場合じゃない、結構ヤバい。

 

 思ってる以上に車体を木に擦って車速が落ちてる。このままじゃ確実に当てられる、五十鈴(あいつ)の射撃の腕もかなり高いんだ。

 もたついてたら1発で当てられる、急ブレーキしてフェイントかけるか?でもそれだとこっちも車速落ちるから今の状況じゃ出来ねぇな。

 

 くっそ、こんなとこ走り慣れてねぇからムズい!カラー弾が木に当たって七色に染まっていってる、チリにも少しずつ色がついていってんだろうなぁ。うん?宗谷か?

 

「福田!4号が迫ってる!木を盾にしながらジグザグに走れ!俺もなるべく指示を出す!」

 

「了解!」

 

 やっぱしそう来ないとなぁ。後ろ見えねぇし、それが良いよな。でも、宗谷(あいつ)が自由に操縦させてくれたからコツが掴めて来たぜ!

 俺が木に擦っていたのは曲がるタイミングが少し早かっただけだ、2秒位置いて曲がれば上手く行くはず!また木がある、宗谷が右に曲がれって言ったから、さっきの反省点を踏まえて。よし!上手く行った!

 

 あと200メートル、100メートル・・・・・50メートル!よし!逃げ切った!あーー、キツかったー。苦手分野をやると頭使うから結構疲れる。

 

 リボルバーショットばっかりやらないで、たまにはこの練習もしないとなぁ。それにしても、五十鈴(ごじゅうすず)の射撃が的確過ぎる、避けるだけで手一杯だった。あえてもう一度言う、キツかった。

 

 追われる立場がこんなに辛いものかと改めて実感した。だけどこれからも手を緩めるつもりはない、『情けは人のためにならず』だ。次は手こずらずに突破してやる。

 

ーー

 

 

 学校が終わって今は放課後。フィードバックも終わったから、そろそろ帰ろうかというところだ。あ、練習の休憩中に五十鈴(あいつ)に名前を聞いてみたけど、『ごじゅうすず』じゃなくて、『いすず』だった。

『ごじゅうすず』なんて言わなくて良かった。

 て言うか『ごじゅうすず』なんて名前の人いるわけがないよな。だけど、どう読んだら分からない名字の人とかたまにいるしな。

 

 それにしても、冷泉はやっぱり凄い。あの後チーム編成を変えて、練習しているところを見たけど、正確に無駄の無い動きをしてたなぁ。それも、放課後残って練習している賜物だろうな。

 ちなみに、今は格納庫の外にいる。何でかって言うと、冷泉(あいつ)を待っている。不審者から守ってやろう的なことじゃなくて、昨日のことを謝ろうと思っているだけだ。

 

 わざとじゃないんだけど、覗いたことを謝った方が良いかなぁと思っただけだ。練習の邪魔しちまったし。お、出てきた。

 

「おい冷泉、ちょっと良いか?」

 

「・・・・・何だ?」

 

 呼び止めただけなのに、めっちゃ怪しい奴を見る顔しているんだけど・・・・・俺ってそんなに怪しい奴に見えるか?

 

「昨日のこと、謝ろうと思ってさ。練習の邪魔して悪かったな」

 

「・・・・・そんなこと?別に気にしてないから良いよ」

 

あー良かった。このまま恨まれたままだとどうしようかと思った・・・・・

 

「じゃあ・・・・・帰る」

 

「あ、ああ。呼び止めて悪かったな」

 

 ・・・・・何かあっさりだな。こんなもんか・・・・・ん?今一瞬不安そうな顔したような。・・・・・気のせいか。

 

ーー

 

 

 俺は寮に帰ったあとも気になっていた、冷泉(あいつ)が一瞬不安そうな顔したことが気にかかって仕方ない。やっぱ()()を気にしてんだろうかな、俺にもよくあったから気持ちは理解できる。

 

「福田!福田!聞いてんのか?」

 

 は!いっけね、次のプラウダ高校との試合をどうやっていくか話し合ってたんだった!

 

「あ、ああ。えっと、雪が・・・・・何だったっけ?」

 

「雪とか一言も言ってねぇよ。お前大丈夫か?」

 

 あれ?雪に気をつけながら戦闘するとか言ってなかったっけ?俺の聞き間違い?

 

「T34にどう対抗するかの話をしてたんだよ。確かに雪にも気を付けないといけないが」

 

 あー、そうだ、あの車高が低いT34の対抗策を話し合ってたんだった。聞き間違い以前の問題じゃねぇかよ。

 話し合いが終わって就寝になったが、どうも眠れない。明日、聞いてみるか・・・・・

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 昨日聞いてみるかと思いつつ就寝したわけだが、聞きにいくタイミングが見つからない。

 

 今日は午前中座学で、午後から練習という予定だったのだが、座学の合間にある休憩中に聞こうにも分からないところを聞きに来た人の対応に追われてて聞きに行けなかった。

 そして昼飯は西住隊長らと一緒に食ってるから誘い出そうにも武部(あいつ)がいるから「一緒についていく」なんて言いかねなかったから呼び出せなかった。

 

 で、午後の練習は走行間射撃の練習でずっと西住隊長と話し込んでて呼び出せない!はぁ、どうすりゃ良いんだよー・・・・・

 しかも今日は全戦車が整備する日だとかで生徒は残れないらしいしから、放課後になってもすぐに帰っちまうだろうなぁ・・・・・宗谷がやったみたいに、手紙出してみるかなぁ・・・・・

 

ーー

 

 

 授業が終わり、チリの整備も終わった。さっさと寮に帰って、手紙でも書くかなぁ・・・・・ん?格納庫の前に誰かいるな。冷泉じゃん。

 

「1人で何やってんだ?」

 

 気付いたら声をかけてた、何か悩んでそうだったから。

 

「・・・・・ほっといて」

 

「そうはいかねぇんだよ。ここ最近調子がおかしそうだし、悩んでいそうだし」

 

 どう言ったらいいか分かんねぇって顔してんな。とりあえず、話続けるか。

 

「聖グロとの試合で何をしようとしたのか知らねぇけど、思いっきり車体転覆させたよな?その失敗を気にしてんじゃないのか?」

 

 ちょっと動揺してんな、こりゃビンゴだな。

 

「・・・・・あのとき、西住から『横滑りで後ろに回り込め』って言われて失敗したんだ。それでーー」

 

「自信を無くした・・・・・と?」

 

 何も言わずに小さく頷いた、やっぱビンゴか。俺も一時期は自分の操縦技術に悲観したこともあったっけか。

 

「自信無くしてクヨクヨするよりも解決策見つけろよ、立場上は副隊長としての任も背負ってんだぞ」

 

 ・・・・・何も言わなくなっちまった。親の関係が上手くいってないってやつか?だとしたら・・・・・はぁ、俺がやるしかねぇのか。

 幸いにも、チリは俺たちが整備してっから格納庫に残ってるし、万が一何か言われても「練習のためです」って言えば済むだろ。

 

「ついてこい。お前の問題、解決させてやるよ」

 

 俺は冷泉を副砲室に座らせた。操縦席に一番近いって言うのと、指示通しやすいってだけ。北沢(あいつ)がいねぇから無線機が使えなくて、車内通話出来ないんだよ。

 エンジンをかけて、グランドにチリを出す。今日はここ最近は雨が降らなかったから、思いっきりいけるな。

 

「何をするんだ?」

 

「今から戦車ドリフトするから、どうしたら良いのかを身体と頭に叩き込んでもらう、それだけだ」

 

「は!?い、いい!降ろせ!!」

 

 焦ってんなぁ、トラウマにでもなったのか?

 

「『やってみせ、言って聞かせてさせてみて、ほめてやらねば人は動かじ』って言葉知らねぇか?やってみせるからしっかり見てろ!」

 

 今のは山元(やまもと)五十六(いそろく)の格言だ。まぁ、そんなことは良い。ちなみに俺は、こういった難しいことをするときは何も考えないようにしている。考えすぎると頭パンクするからな。急ブレーキかけて、操縦レバーを倒しすぎないように操作する。

 

 車がドリフトするときは急ブレーキかけて、進行方向と逆にハンドルを切るって聞いたことがあるから、その技をレバーでやっている感じだな。ほら、上手くいった。冷泉が呆然としてるし、見てたよな?

 

「・・・・・お母さんの動きに似ている」

 

 似ている?そんなわけないだろ。

 

「気のせいだろ。俺はお前の母さんの動きなんて見たこと無いぞ?」

 

「そうなのか?とても似ているが」

 

 ・・・確か俺の記憶が正しければ、数年前の大洗女子学園が試合していたときの4号戦車の動きを参考にはしたけど、操縦してたの冷泉指導員じゃないよな?うん、だって試合中だったし。

 

「もう一回やってみせてくれ、それで覚えるから」

 

「良いぜ、100%理解するまで何回もやってやるよ」

 

と、俺は意気込んだが、これがマズかったと後で後悔することになる・・・・・

 

ーー

 

 

 気がつけば時間は夜の8時を回っていた。あいつ理解すんのは早かったけど、「もう一回」「もう一回」って言われるがままにやっていたら3時間も経っていた・・・・・

 

俺も俺だけど、冷泉(あいつ)限度ってモノを知らねぇのか?チリの操縦をさせるわけにはいかなかったから俺が操縦したんだが、あいつにもさせるべきだったかなぁ・・・・・

 で、今はコンビニの前で待たされている。もう帰りたいってのに何やってんだ?あ、出てきた。

 

「これ、やる」

 

 ・・・・・あ、飲み物か。ていうかそうならそうと言ってくれりゃよかったのに。

 

「ああ、サンキューな。もう遅いし、送るぜ」

 

 こんな時間まで付き合わされたけど、何だかんだ楽しかったな。あ、そうだ。どうやったら操縦上手くなるのか、聞いてみるか。

 

「なぁ、お前の操縦技術結構高いと思ってんだけどさ、どうやったら上手くなるのかコツ教えてくれよ」

 

「コツなんて無い。むしろ私の方が、お前に聞きたいことが山ほどある」

 

 へぇー、俺に聞きたいことが・・・・・は!?また聞き間違えたか!?

 

「冗談だろ?俺なんかに聞きたいことなんて」

 

「本当だ。リボルバーショットとかいう技をするときにやるあの回転、私には真似出来ない」

 

 やり方さえ分かれば簡単だと思うんだが・・・・・ましてやリボルバーショットなんて真似するもんじゃねぇぞ?

 

「・・・・・あ、そう。でも、俺たちはお前とは1年遅れで戦車道に出てんだぜ?トータル的に言えば負けてるよ」

 

「そんなことはない、私たちこそお前たちから学ばなければならないことは山ほどある。お前らが元近衛だからってわけではないぞ」

 

 誉められたのかどうかは分からんが、取りあえずはそう言うことにしておこう。これで冷泉の問題は解決か、西住隊長もホッとするだろ。

 

 俺は冷泉を家まで送り届けたあと、そのまま真っ直ぐ寮に向かって帰った。次はプラウダ高校と試合か・・・・・次も勝たねぇといけねぇんだよな。大洗女子学園を守らないといけない、俺たちと同じ目に逢わせないために・・・・・

 




今回も読んでいただき、ありがとうございました。
視点固定で話を書くのは初めてでしたが、いかがだったでしょうか?

ちなみに、あの後福田が寮に帰ったあとに宗谷から「何やってたんだ?」と聞かれた時、「チリに乗って練習してた」と答えたそうです。「2人で練習してた」と言うのが恥ずかしいからとかで、1人で練習してたように言ったらしいです。

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