ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

15 / 54
前回のあらすじ

福田は4号の操縦手、冷泉七海のことが気にかかっていた。聖グロ戦の後から様子がおかしい七海に対して、何とか励まそうとする福田。
たどり着いた真実は、戦車の横滑りに失敗してしまったことで、操縦手としての自信を無くしてしまったことだった。七海を何とかして励まし、不安要素を消し去ることに成功した。
そして迎えた準決勝で、かほたちは衝撃的な事実を知ることとなる・・・・・



第14章 大洗VSプラウダ 雪原で伝えられた真実

 プラウダ高校との準決勝戦の3日前、大洗女学院は試合前の最終調整に入っていた。最終調整と言っても、エンジンの冷却水や、エンジンオイルを寒冷地用に変えるだけなのだけで、今以上の改良は出来ないのだ。

 

  宗谷たちは戦闘服を真っ白な寒冷地仕様に変えると言った対策を取ることにした。色はそれっぽくないが、これでも迷彩服の1つに分類されると宗谷は言った。だが、戦車道で迷彩服はあまり役には立たない気もするのだが。

 

  去年準優勝で終わったプラウダ高校、黒森峰には隊列の弱点を突かれて大敗してしまったとか。

 そして今年は『電子戦』に挑戦するとかで、攻略がかなり難しい相手になると予測されている。

 

  そこで1つ問題があった。かほたちは電子戦法で立ち回る相手と交戦したことがあるため、どのように立ち回れば良いのかはある程度は分かる。しかし今年入った1年生のあいかたちや、宗谷たちは対処の仕方を知らない。

 

 更に悪いことに宗谷たち旭日の6人組は電子戦という戦法があることを今初めて知ったのだ。

 

 対処法を知らない以前の問題だったが、宗谷は「相手が電子の力で立ち回るのなら、俺たちは電子で予測出来ない立ち回りをしてみせる」と啖呵を切った。

  サンダース戦でロケット砲を出してカリオペを撃破したこともあったので、杏は任せてみることにした。何だかんだあっても、勝利に導くのだから。

 

ーー

 

 

  そして試合当日、試合会場に近づくにつれて寒くなってきた。プラウダ戦は雪原での試合だと聞いていたが、まさか雪が降っているとは想定外だった。手が悴むような寒さと、白い雪が学園艦を包んだ。

  薄暗くなった時に試合会場に着き、戦車を降ろして準備を進めてた。その最中に、懐かしい人が近づいてきた。プラウダ高校の現指導長のカチューシャだ。37年経った今でも、背の低さは全く変わっていない。

 

「久しぶりね、ミホーシャ。今年も私たちのプラウダの勝利で飾らせて貰うわ」

 

  強気なのは相変わらずだった。みほは苦笑いを浮かべながら電子戦のことを聞いた。

 

「それより、今年は電子戦に挑戦させるって聞きましたけど、本当なんですか?」

 

「本当よ、私は嫌だったけど」

 

『私は嫌だった』、と言うとカチューシャの考えでは無かったということなのか?みほは聞き直した。

 

「それって、どういう意味なんです?」

 

  みほの質問にカチューシャはため息をつき、つまらなそうな顔で答えた。

 

「娘が言い出したのよ、『私も電子戦が出来れば絶対優勝出来るから』って。実力でいけば良いのに、流行りに乗りたいって聞かないんだもの。結局承知したけど、あなたも思わない?つまらなくなったって」

 

  自分自身もそう思っていたので、カチューシャの意見には同意出来た。どんな試合でもそうだが、チームワークは欠かせない要素だ。そのチームワークを機械に任せて戦うなんて面白味がなくて当然だろう。

 電子の力に任せるのも1つの戦法かもしれないが、チームプレイとは程遠いように思える。

 

「戦法に楽しいもつまらないもないだろう?結論、勝利すれば良いのだから」

 

 会話に割り込んできたのはまほだった。黒森峰が準優勝戦を終えたので、決勝で当たる高校がどちらになるのかを見届けに来たのだろうか。

 その後ろにはしほと夏海も一緒にいた。夏海が試合以外で会場に来ることは滅多にないことなのでみほは驚いていた。

 

「夏海ちゃん、試合以外で会場に来るなんて珍しいね」

 

「お久しぶりです、みほさん。旭日が順調に勝ち上がって来たようなので、どんな戦い方をするのか見ようかと思って来ました」

 

 相変わらず固い。みほ()()()()ならまだしも、『さん』付けで呼ばれると他人の子供に会っているような感じになる。最後におばさんと呼んだのは、中学に上がる前だっただろうか。

 話は戻るが、夏海自身が『〇〇の試合を見に来た』と言うことは今まで全く無かった。わざわざ試合を見に来たとなると、かなりの脅威になると確信したからだろう、敵ながら見事な選択だ。

 

ーー

 

 

  一方、大洗チームはスタート地点に移動しているところだった。気温はマイナス6℃という寒さで、エンジンや駆動系に異常が発生しないか心配していた。

  スタート地点に到着した後も、かなりの寒さに凍えそうになっていた。 雪も降っている状態で試合をしなければならないのが一番辛い、暑さならどうにか出来るが、寒さはどうにも出来ない。

 ちなみに、極寒の地で戦ったソ連兵は、戦車の中で焚き火をしながら暖を取ったと言われている。エアコンが無い戦車ならではの手法だが、気を付けないと戦闘する前に自爆していたかもしれない。

  スタート位置について準備を進めていくなか、かほはチリの後ろにカバーを被ったそりが繋がれていることに気づいた。

  大きさは子供が乗る用より10倍ぐらい大きく、カバーはそりの下ギリギリまで被さっている。もの凄く気になる、かほは宗谷に尋ねた。

 

「ねぇ、宗谷くん。これ何なの?」

 

「一発逆転を狙うモノだよ」

 

  自慢げに答える宗谷にかほは呆れながら聞き返した。

 

「また?今度は何なの?」

 

「それはいざって時までのお楽しみさ。一応言っとくけど、ロケット砲とかじゃないから心配無用だぞ?」

 

  ロケット砲じゃないにしても、とんでもないものだったら困るんだけど、と心の中でかほはそう言った。

 

「ん?おい、誰か来たぞ」

 

  岩山が指を指した、その方向から見知らぬ2人が歩いて来た。歩いてきたのはプラウダ高校の現隊長であり、カチューシャの娘のサティと、副隊長であり、ノンナの娘であるルリエーだ。

  旭日の全員は2人の背の差に驚いていた。サティは小学5年生ぐらいの背丈しかなく、ルリエーはその2倍ほどの高さだった。

 カチューシャとノンナもお互いにかなり背丈の差はあったが、娘まで背丈に差が出るとは少々驚きだ。ポカンとしている宗谷たちに、背の低いサティがビシッと指を指した。

 

「去年1回戦で負けたチームが、私たちと戦えることを光栄に思うが良いわ!今年も私たちプラウダが決勝に勝ち上がるんだから!」

 

  強きな面は母であるカチューシャに瓜二つだ。宗谷がサティの前にしゃがんだ。

 

「悪いけど、今年は大洗が決勝戦に上がるからあまり強きにならない方が良いぜ」

 

  ムッとしているサティを差し置き、宗谷はルリエーに手を差し出した。

 

「それじゃ、お互いに頑張ろうぜ」

 

「・・・・・あの、握手なら私とではなく、サティ様とした方が宜しいかと」

 

「へ?あんた隊長じゃないの?」

 

  不思議そうにしている宗谷にかほが慌てて説明した。

 

「宗谷くん!隊長はあっちのサティさんで、こっちは副隊長のルリエーさんだよ!」

 

「は!?あんた副隊長なのか!?」

 

  驚く宗谷にルリエーは静かにうなずいた、そしてサティは怒っている。

 

「あんたね!人を見た目で判断しないでよ!隊長はわ・た・し!!」

 

 詰め寄るサティに宗谷はまだ信じられないという顔をしていた。

 

「マジか・・・・・こんなにちっちぇのに隊長とはたくましいねとしか言えねぇな」

 

「ちっちゃいからってバカにしないでよね!今年は私たちも電子戦法を取り入れるんだから、あんたたちなんてギタギタに出来るんだから!」

 

 何処かの悪者が言いそうなセリフに宗谷は苦笑いを浮かべた。そして、ルリエーが腕時計を見ながらサティに伝えた。

 

「サティ様、そろそろ戻りますよ」

 

「分かったわ。覚悟しなさい!私が編成した重戦車隊でボッコボコにするんだから!!」

 

 何やら気になる捨て台詞を言い残してサティとルリエーは戻っていった。()()()()とは、一体何の事なのだろうか。ソ連の重戦車と言えば、ドイツ軍で『巨人(ギガント)』と呼ばれ、恐れられたカーベータンこと、KV2ぐらいしか思い付かない。

 他に重戦車と呼べる戦車はソ連には無かった記憶がある。何を企んでいるのかは気になるが、準備を進めるために作業に戻った。

 

ーー

 

 

 〔それでは、これより大洗女子学園とプラウダ高校の準優勝戦を始める!〕

 

  雪が降る空にアナウンスの声が響く、いよいよ準優勝戦の始まりだ。全車エンジンをかけ、試合開始の合図を待つ。10秒後に信号弾が空高く上がり、『パーン!』と鳴った。

 

〔試合、開始!!〕

 

  一斉に戦車の隊列が動き出す。大洗は、廻りに警戒しながら進み、見つけたら撃破する。撃破した後はすぐにその場を離れ、次の標的(ターゲット)を捜す。撃破出来なかった場合は深追いせずに次にいくという作戦に出ることにした。

  廻り警戒するというのは、雪で視界が悪いため、見つける前に見つけられて撃破されるという最悪なパターンを避けるため。

  そして深追いをしないのは、狙った標的が囮だという場合を想定してのことで、過去にみほたちが初めて交戦したときに深追いをしたばっかりに敵の思うつぼにはまったという教訓からなっている。

  作戦としては申し分ないという感じではあるが、今年は電子戦を取り入れたプラウダ高校。どんな試合展開になるのかは予想が出来ない。宗谷は初めての雪原の戦闘に心を踊らせていた。

 

ーー

 

 

  試合開始から20分後、状況は最初と何も変わっていない。進む道は何のへんてつもない雪原が続いているだけで、プラウダの戦車はおろか履帯の跡すら見つかっていない。

 

  地図を見ても市街地が一部あるぐらいで、あとは平地しかなかった。お互いに視認しやすいため、戦闘は膠着(こうちゃく)状態になるとかほは予想していた。

  それから2~3分後、岩山が照準器をボーッと覗いていると、異変に気付いたのか福田に停止するように言い出した。

 

「福田、一旦停止してくれ」

 

「何で?別に何もねぇぞ」

 

  福田はそう返したが、宗谷は岩山の指示に従うように言い出した。

 

「福田、ここは一旦止まろう。岩山(こいつ)の勘は結構当たるから、何かあるのかもしれない」

 

 福田はうかない様子だったが、岩山の勘は信じられるのか言われた通りに停車した。普段は全く当たらないのに、こういった時の勘はよく当たるのだ。

 宗谷が隊列を止め、岩山に改めて聞き直すことにした。周りを見る限りでは特に変わった様子は無い、敵戦車らしき音もしないのに、隊列を止めたのは理由があるはずだ。

 

「岩山、何か見えるのか?」

 

  岩山は宗谷の質問に、照準器を覗きながら答えた。

 

「だってさ、目の前の地面おかしくねぇか?そこだけ妙に盛り上がってるじゃねぇか」

 

  宗谷が砲塔から頭を出して見てみたが、違いは全く分からない。首を傾げる宗谷に、岩山が提案を持ちかけた。

 

「1発地面に向けて撃ってみるよ、それで何も無かったら何も無しってことになるからさ」

 

「分かった、1発だけだぞ。何発も撃つと敵にバレるからな」

 

  宗谷はそう言うと通信機を手に取り、全車に「少し待って欲しい」と連絡を入れた。宗谷もこのまま進んだらダメだろうという勘が働いていたので、岩山の勘を信じてみることにしたのだ。

  砲弾が装填され、照準を合わせる。的が無い場所に撃ち込むなんて無駄なことなのだが、時にとんでもないモノが出てくることもある。岩山は自分の予測地点に向けてトリガーを引いた。

 

『ズバーン!!』

 

  弾が地面に当たり、雪が巻き上がった。それから10秒ほど待ったが、何も起きなかった。岩山の勘は外れてしまったようだ。

 

「あっちゃ~、外れたかぁ。すまねぇな、宗谷」

 

  頭を掻きながら謝る岩山に、宗谷は笑って返した。

 

「仕方ねぇよ、誰しも100%全て上手くいくわけが無いからな。みんなすまねぇ、何もなかったみたいだ」

 

 

  宗谷の一言で緊張が解けた。取り越し苦労だったようなので、早速前進しようとしたその時、前から弾が2発飛んできた!それと同時に雪の中から2輌の戦車が姿を現した!

  雪の中に隠れてチャンスを伺っていたのだろう、しかしバレたと思って攻撃される前に出てきたようだ。出てきた戦車はSU-85という対ティーガー用の※駆逐戦車だ。前面装甲が厚いので正面からの撃破は無理だ、別方向から攻撃して弱点を探すしかない。

 

 急な戦闘にも、かほは冷静に指示を出した。散開して攻撃すると言い、大洗チームは隊列を崩して攻撃を仕掛け始めた。ヘッツァーと同じで砲塔旋回機能が無いため、横か後ろなら攻撃も届かない。

 SU-85の乗員は攻撃をしようとするが、機動力の差が歴然のため、車体を旋回させてからでは攻撃が届かないのだ。乗員は慌てながらサティに通信し、助けを呼ぼうとした。

 

「サティ隊長~!作戦Aは失敗です~!助けてください!」

 

「あんたらバカなの!?こんな簡単な作戦でしくじるなんて!まぁ良いわ、すぐに行くから持ち堪えなさい!」

 

  しかし、その通信の30秒後に1輌撃破されてしまった。履帯を撃ち抜かれて行動不能に陥り、ポルシェティーガーの一撃でエンジンを撃ち抜かれてしまった。

  残った1輌は隙を突かれて逃げた。全車撃破とはいかなかったが、大型の駆逐戦車を撃破出来ただけマシだろう。そしてすぐにその場を離れた、1輌逃がしてしまったので追っ手がすぐに来ると予想したのだ。

  そして予想は的中した。サティが搭乗するT-34と、例の『重戦車隊』が大洗チームの現在位置に迫っていた。サティは持ち込んだタブレットで予測を立て始めていた、初めて使っているわりには大分(だいぶ)扱えているようだ。

 

  扱い方は至ってシンプルで、相手の現在位置と使用している戦車の種類を入力すれば5種類ほど戦術が表示される。その内の1つを選んで、他の戦車に指示を出せば終わりだ、何にも難しくはない。そしてサティは、作戦Bとして全車に新しい作戦を伝えた。

  作戦Bもシンプルだ、ただ的に向けて遠距離射撃(アウトレイジ)を仕掛けるだけなのだから。

 

ーー

 

 

 大洗チームは市街地に近づきつつあった。視界は若干悪いのだが、建物が見えてきたのである程度視認出来ていた。

 かほは市街地を避けようと思っていた。雪が積もっていなかったら隠れて攻撃をするために使うつもりだったが、慣れない雪での戦闘のため、狭い市街地は極力避けようという策だ。

 市街地のエリアはそう大きくは無いため、遠回りにはなるが迂回しようとしていた。ここまま何も起こらないことを祈っていたが、そう上手くはいかない。

 

「みんな!重戦車隊が来たぞ!!」

 

 宗谷の声が全車に伝わり、全員が一斉に後ろを向いた。サティが言っていた重戦車隊が迫っていた、ただ重戦車というよりは重()()()()隊と言うべきだろう。

 

 戦車は対ティーガー用に設計されたSU-85やSU-100などの駆逐戦車しかない。だが85ミリ砲(SU-85)と100ミリ砲(SU-100)の脅威がかほたちを襲おうとしていた。

 

「あいつら遠距離射撃(アウトレイジ)をするつもりだぞ!市街地に逃げ込んだ方が良い!!」

 

 宗谷は相手の攻撃を避けるために建物を盾にしようという策でいこうと提案したが、かほは37年前の二の舞になりたくなかったため、宗谷の意見と反対の指示を出した。

 

「いや、市街地には敵戦車が潜んでいる可能性が高いからこのまま迂回した方が良いよ!全車、相手の攻撃を避けつつ迂回して、一旦態勢を立て直してください!それから反撃に移ります!」

 

 結局他の戦車はかほの指示に従い、迂回する方を選んだ。市街地に敵がいるかもという考えを持つ方が多かったので、多数決で決まってしまった。

 

 宗谷は迂回ルートを選んだのは危険ではないかという考えていたが、結局はいつもの成り行き任せでついていくことにした。全体を纏める隊長は宗谷ではなくかほなのだから。

 

 後ろからの攻撃が猛威を奮い、弾着する度に雪が高く舞い上がった。命中する可能性が高かったが、速度の方は大洗チームの方が有利に立ったので引き離すことが出来た。このまま逃げ切れば、そう考えていた矢先、今度は横から攻撃が来た!

 かほが弾が飛んできた方向を見ると、重戦車のIS-2が身構えているではないか!サティが先の先まで読んだことが身を持って感じた。これが電子戦法の力という事なのだろうか。

 

「今度こそ市街地に逃げ込むぞ!IS-2の砲手はかなり手慣れてる、真っ向勝負は不利だ!」

 

 流石にかほもこれは不利だと思い、宗谷の指示に従うことにした。市街地に逃げ込む大洗チームをIS-2は容赦なしに攻撃してくる、どうにか市街地に逃げ込めたが攻撃は止まない。

 そして、全車立て籠れそうな建物を発見し、攻撃回避のため、一斉に中に入っていった。チリを最後に全車入れたが、建物の回りに次々と弾着して地面が揺れた。

 

 成す術もなく、どうしようか考えていたとき、攻撃が止んだ。これ以上は無駄だと察したのか、急に静かになった。何が起こるのかと待っていたらサティの声が聞こえてきた。

 

「大洗女子学園!立て籠るつもりならそれでも良いけど、時間切れになりそうになったら今度こそ全滅させるから覚悟しなさい!!全滅したくないなら最後まで足掻くが良いわ!!」

 

 かなり上から目線で言われてしまったが、今まさにその状況に置かれてしまったので、足掻かなければ勝てそうにない。結局二の舞になってしまったので、かほは落ち込んでしまった。

 全員が呆然としているとき、宗谷がチリから降りて呼び掛けた。

 

「おーい、これからどうするか話し合おうぜ。ボーッとするよりかマシだろ?」

 

 かほたちは宗谷の呼び掛けに応えるかのように、空いたスペースに集まった。全員暗い表情をしているが、宗谷は笑っていた。

 

「おいおい、そんな顔すんなよ。こんなことで落ち込んでたら決勝戦で勝てなくなるぞ」

 

「だ、誰が決勝戦で負けるか!!私たちを甘く見るな!!」

 

 励ましのつもりで言ったのだが、梅に怒りを売ってしまうことになるとは・・・・・

 

「わ、分かってるって。今はどうするか考えようぜ?」

 

ーー

 

 

 一方、プラウダチームは次の作戦の準備を進めていた。作戦Cは、立て籠っている建物から戦車が出てきたら即撃破するという、またもシンプルな作戦に出ることにしたようだ。

 他にも良さげな作戦はあるのだが、あまり面倒なことはしたくないというサティのわがままで却下された。そしてルリエーは、何故時間を置いて攻撃を仕掛けるのかが分からなかった。

 相手の場所は分かっているのだから、一網打尽に出来るはず。それなのに相手に余裕を持たせるなんて、こっちからしたら何もプラスにならない。ルリエーは通信機でサティに聞いた。

 

「サティ様、あいつらに時間を与えて宜しいのですか?」

 

 ルリエーの質問にサティは自信気に答えた。

 

「分かってないわね、これも作戦の1つなのよ?この寒さであいつらからしたら危機的状況、戦意を削るにはもってこいじゃない。この調子で時間ギリギリまで待って、戦意ゼロの状態でボッコボコにするのよ!」

 

「・・・・・成る程、相手の心理を突こうという訳ですか。流石です」

 

「フッフッフ、そうでしょう?あなたもこれくらいは考えられるようにならないとね。さぁ、あいつらがどう出るか見物ね」

 

ーー

 

 

 大洗チームはどのような作戦で行くかを模索していたが、どの作戦にも共通してある欠点があった。それは、相手の位置が分からないということだ。建物が密集している中で動けば、待ち伏せされてやられてしまうという最悪なパターンは避けられない。

 ある程度位置の把握出来れば良いのだが、降雪がより一層激しくなってきたので、徒歩で行くのは危険だ。だが戦車でいくとエンジン音が響くので任務終了前に撃破されてしまう可能性が高い。

 他に作戦を考えなければならないのだが、どうやって偵察をするかが全く思い付かなかった。それを見かねてか、宗谷が動き出した。

 

「今は()()を使うしかないようだ。福田、カバー外すぞ」

 

「え・・・・・使うのか?噴進砲よりも使っちゃダメそうなんだけど・・・・・」

 

 福田は乗り気ではなかったが、宗谷はチリの後ろに繋げていたソリのカバーを外し始めた。そして、カバーの中に隠れていたモノが姿を現した。1発逆転を狙うモノに、かほたちは驚愕していた。

 

「な、何これ!()()()()()じゃない!!」

 

 秋子が指を指す先には、ワイヤーでソリに固定されている大型のサイドカーがあった。一発逆転を狙うモノがまさかサイドカーだったとは驚きだ、宗谷がカバーを畳ながら説明した。

 

「こいつは※『97(きゅうなな)側車(そくしゃ)付自動2輪車、陸王(りくおう)』っていうんだ。近衛の偵察科で使われていた、1000㏄級の大型サイドカーだ!」

 

 福田が乗り気でなかったことに納得出来る。砲でなければ戦車でもなく、()()()()()なのだから。梅が宗谷に詰め寄った。

 

「お前バカなのか!!こんなもの使えるはずがないだろ!!」

 

「今は陸王(こいつ)を使うしか方法がありませんよ。徒歩で行ったら遭難してしまう可能性はあるし、戦車ではすぐにバレる。となれば答えは1つでしょ?」

 

 腕を組む宗谷に、今度はかほが真剣な顔で詰め寄ってきた。

「大丈夫じゃないよ!これ使ったことがバレたらどうするのよ!」

 

 珍しく怒鳴るかほに、宗谷は冷静に答えた。

 

「ルールには『バイクの使用を禁ずる』って無い。何かあっても旭日(俺たち)の責任だ」

 

「だけど、流石に使えないよ。サイドカーなんて」

 

「戦車じゃないからって懸念することはないだろ、戦車以上の攻撃力があるわけじゃないんだ。機動力はあるけどな」

 

 宗谷は笑っているが、かほたちは笑えなかった。その表情を読んでか、宗谷は提案をした。

 

「俺はこの状況を打破出来るのは陸王(こいつ)しか無いと思っているけど、どうしても使いたくないんなら、俺も使わせないが、どうする?西住」

 

 いきなり決定権を振られ、かほは戸惑いを見せた。

 

「え?な、何で私に聞くの?」

 

「このチームの主導権を握っているのは俺じゃないからな、ここは隊長である西住に決めてもらうってわけさ。時間はあまりないけど、返答を待つぜ」

 

 宗谷はチリにもたれ掛かり、入り口に視線を向けた。そしてかほは、どうするか考え始めた。

 偵察にサイドカーの組み合わせは良いのだが、戦車道で使うべきか否か、迷うところだ。当然のことながら、今までサイドカーはおろか、バイクを使った学校も見たことがない。

 本当は使いたくない、使いたくないが他に作戦は無い。かほは迷いに迷った末、ついに結論を出した。

 

「・・・・・その陸王を使って偵察作戦を実行しよう、それしか方法は無いから」

 

 かほの結論にざわついたが、穂香もかほと同じ考えだった。

 

「やっぱそれしかないよね、私もそれしか無いって思ってただったんだ」

 

「ちょっ、正気ですか!?」

 

 驚く梅に穂香はこう返した。

 

「絶望的までとはいかないけど、この状況を打破出来るんならやむを得ないと思うよ。それに・・

 

「答えが出たんなら、さっさと動きましょう。プラウダの方も何かしら動くのを待ってるでしょ?」

 

 穂香が何か言いかけたが、宗谷が遮った。宗谷の目を見ると、『今は言うべきタイミングじゃない』と言っているように見えた。

 

「あー、ごめん、ごめん。陸王の使用を生徒会長の私が許可する、すぐに出撃して」

 

「了解!陸王出撃準備にかかれ!2分以内に出撃させるぞ!」

 

 宗谷の指示で旭日が一斉に動き始めた。岩山は燃料の残量を確認し、柳川が側車に付いている機銃の弾の残量を確認した。

 ここで1つ疑問なのは、誰が陸王を操縦するのかということだ。流石に大洗チームの誰かにやらせるはずがないので、旭日の誰かになるだろう。かほは宗谷が操縦するのかと思いつつ、聞いてみた。

 

「ねぇ、この陸王、誰が操縦するの?」

 

「あー、俺でも出来るっちゃ出来るんだけどさ、ここは元偵察科だった、あいつに任せることにした」

 

「あーあ、結局俺の出番ってことか」

 

 チリの陰からライダースーツに着替えた福田が出てきた。ヘルメットもチリの操縦用とはまた違ったものを着用していたが、インカム付きであることだけは変わってなかった。

 元偵察科所属だった福田なら陸王の操縦なんてお茶の子さいさいだろう。

 

「で?任務の内容は?」

 

「敵戦車の位置と数を調べて欲しい、出来れば相手の作戦内容も聞いてくれたら助かるけど」

 

 宗谷の冗談にため息をつきながら、福田も1つ頼み事をした。

 

「そんなこと出来るかよ・・・・・それより、敵の懐に入るから偵察要員として1人連れていきたいんだけど」

 

「そうか、基本的には2人で動いてたもんな。岩山、福田のサポートに・・

 

「ま、待て!私が行く」

 

 福田の偵察任務のサポーターに、七海が出ると名乗りを挙げた。これには宗谷も驚きを隠せない。

 

「え?冷泉が行くのか?・・・うーん、どうする福田?」

 

「行きたいんなら別に構わねぇよ。七海(こいつ)以外とこういうこと得意かもしれねぇし、どうします?西住隊長」

 

「この調子じゃ暫く動けそうにないから大丈夫だよ。だけど、気を付けてね」

 

 かほから許可を貰ったところで、福田が予備のライダースーツとヘルメットを七海に渡した。ヘルメットはともかく、格好は制服でも良かったのだ。ライダースーツを渡したのは、形は見た目からということらしい。

 陸王は燃料、弾薬を満タンに補給し、暖機運転をさせてエンジンを暖めていた。

 福田が陸王に乗り、スロットルを吹かした、吹かす度にエンジンが力強い音を響かせる。陸王に乗るのは2~3年ぶりで、ここ最近はずっとチリに乗っていたこともあるので、少しずつ勘を取り戻していた。

 

 その最中に七海も準備が整い、陸王の側車に乗り込んだ。乗り心地を試していると、福田が毛布を渡した。

 

「・・・・・何だ、これ?」

 

「戦車の中と違って風と雪を遮ってくれるものないからな、無いよりマシだろ?」

 

 七海はいらないと思ったが、結局寒さに勝てず使うことにした。七海が毛布にくるまり、暖機が終わったところで出撃準備完了となった。

 敵が表口で構えていると読み、出撃は裏口からすることにした。陸王がゆっくりと前に進み、出口に構え、福田が最終確認を始めた。

 地図とメモ出来る紙、機銃弾数、小型の通信機、偵察要員、そして陸王(相棒)。全ての確認を済ませ、ヘルメットに付けていたゴーグルを付けた。

 

「準備完了!出撃する!!」

 

 福田がスロットルを吹かし、インカムの電源を入れた。そして、タイヤを空回りさせて、ロケットスタートで飛び出していった!通信機には福田の声が聞こえてきた。

 

「旭日ライダー偵察隊(リカルセンツチーム)、出撃!!」

 

 宗谷がロケットスタートで出た煙をはらいながら、通信機を福田のインカムに繋げた。

 

「ここでロケットスタートするな!!バレるだろ!!」

 

 〔悪りぃ、悪りぃ。昔の癖が出ちまった、でも大丈夫だ、相手にはバレてねぇよ。取り合えず、俺の予測地点まで行って様子見てみる〕

 

「分かった、気を付けろよ」

 

 偵察隊は出撃した、後は情報を待つだけだ。宗谷はまたチリに寄り掛かった。

 

ーー

 

 

 勢いよく出撃した陸王は、予測地点から遠回りで走行していた。福田の予想では、敵戦車は掘っ立て小屋を盾にするような形で、チリたちが立てこもっている建物に砲を向けているのではないか、と思っていた。

 何かを盾にするのも1つの戦術だ、それだけで攻撃がしづらくなるのだから、絶対にそうしているに違いないと確信していた。

 雪は陸王をに向けて吹雪き、陸王の走行跡を消していった。福田が七海に大丈夫どうかを聞いた。

 

「冷泉、大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、私のことは良いから前向いとけ」

 

 やれやれと思いつつも操縦に集中し、予測地点に着いた。福田と七海は陸王から降り、建物の陰に隠れながら偵察するポイントを探し始めた。

 

ーー

 

 

 情報を待っている大洗チームは、防寒対策を取りながら作戦を立てていた。市街地を出た後、どのように立ち回るか、編成はどうするかなどを。

 宗谷は見張りをかって出て、チリに持たれていた。

 

「勝てるのかな・・・・・私たち・・・・・」

 

 あいかが不安そうにポツリと呟いた。初試合の1年生たちからしてみれば、本戦でここまで追い詰められた状況に置かれては堪えるものだろう。

 

「勝てるかじゃない!勝たないといけないんだ!!」

 

 梅があいかに怒鳴った、急に怒鳴り出したので全員驚いた。その梅を穂香が宥めた。

 

「落ち着きなよ、勝たないといけないのはごもっともだけどね・・・・・」

 

 あの明るい穂香が、こんなに暗い表情を見せたことがあっただろうか。2年間一緒だったかほたちはこんな表情を見たことはなかった、そして真剣な目でかほたちを見た。

 

「みんな、今から言うことは冗談抜きで本当の事だから、よく聞いて。この試合で優勝出来なかったら、大洗女子学園戦車道科は・・

 

()()()()。そうですよね?」

 

 穂香の声を遮るように宗谷が付け足した。その一言で、驚きが沈黙に変わった。かほが宗谷に聞き直した。

 

「宗谷くん・・・・・今の、どういう事なの・・・・・?」

 

 宗谷は視線を変えず、かほの質問に答えた。

 

「言った通りさ、この試合で優勝出来なかったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 宗谷から伝えられた信じられない真実に、かほたちは何も言えなかった。そんなかほたちの間を、静かに風が通り抜けた・・・・・

 




※解説

駆逐戦車

対戦車用に開発された戦車の1つで、ドイツでは『ヤークトパンツァー』と呼ばれていた。


97式側車付き自動2輪車『陸王』

旧日本軍がハーレーをモデルにして開発したサイドカーで、主として偵察や輸送任務に従事していた。制式化は1937年のことで、終戦まで活躍していた。
その一方で悪路走行に特化しており、側車の車輪に動力を伝えて走る、2輪駆動方式(通称2WD)機能も兼ね備え、バックギアを付けて後退走行も可能にしていた。




今回も読んで頂き、ありがとうございました。

突然伝えられた戦車道科廃科の危機、そして学園艦廃艦の危機。この真実にかほたちはどうやっていくのでしょうか?

感想、評価、お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。