プラウダの猛攻から逃れるために建物に立て籠ったかほたちは、宗谷から衝撃的な真実を聞かされた。『戦車道で優勝出来なければ、戦車道科は廃科。そして、学園艦も廃艦処分になる』と。
この絶望的な状況を、かほたち大洗女子学園はどうやって打破するのだろうか?
みほたち大洗女子学園の指導員たちは、プラウダ高校との試合を見届けていた。
今現在はどちらも動くことなく、膠着状態だった。大洗は動こうにも動けず、プラウダは大洗が出てくるのをただただじっと待っている。37年前と全く同じ状況を見届けながら、杏がポツリと呟いた。
「・・・・・穂香は、
その一言に、指導員全員が反応した。優勝出来なければ、戦車道科は無くなり、学園艦も廃艦処分となるのだ。
37年前は杏が『優勝出来なければ大洗女子学園は廃校になる』と伝え、その時も全員動揺していた。初めての本戦で、優勝出来なければ廃校になると聞かされたが、みほたちは『ここまで来たからには、絶対に優勝する』という一心で危機的状況を打破したのだ。
もっと早くに伝えるべきだったかもしれないと思った時もあったが、いつ言えば良いかと考えていたら時間が過ぎてしまい、今に至っている。
結局、プラウダ戦の前日に生徒会3人だけ集めて、廃科かになるという真実を伝えたのだ。流石に動揺を隠しきれてはいなかったが、穂香は「全員が何か言ってきても、全員が納得出来るように説得する」と言った。
みほたちはモニターに映る、静かな建物を静かに見つめていた。
立て籠っている大洗チームは、宗谷からの衝撃的な真実に、何も言えない状況にいた。だが、一番驚いていたのは生徒会の3人だった。
この事は誰にも話していないし、穂香たち自身も聞かされたのがプラウダ戦の前日だったので、宗谷が知っているはずがないのだ。穂香が宗谷に聞いた。
「・・・・・宗谷くん、その事を何処で知ったの?」
宗谷はかほたちの方を向いた。
「旭日機甲旅団を結成した2年後に、大洗女子学園戦車道科が無くなるかもしれないって聞いたんです。あくまでも風の噂だったので、信じるつもりは全く無かったんですけど」
「じゃあ何で学園艦が廃艦になるって事実も知っていたの!?風の噂だとしても、そこまで情報は流れていなかったはずよ!」
怒鳴る穂香に宗谷は冷静な声で答えた。
「戦車道科が無くなれば、大洗女子学園は
宗谷が言ったことは全て当たっていた。穂香はこれ以上何も問い詰められなかった。
「・・・・・じゃあ、試合前に私たちに伝えなかったのは何でなの?」
今度はかほから質問が飛んできた。宗谷は真っ直ぐにかほの目を見た。
「逆に聞くけど、『優勝出来なかったら廃科、そして学園艦も廃艦になる』っていうプレッシャーを抱えながらここまで来れたか?」
宗谷からの質問に、かほは何も答えられなかった。『そんなことはない』と言い返したかったが、そう答えられるほどの自信は無かった。宗谷は話を続けた。
「西住指導員たちは、みんなにプレッシャーにならないようにここまで隠してきた。やり方はともかく、これは仕方の無いことだとは思わないか?」
「だとしても、今この状況で、そんな追い詰められるようなこと言われても、私たちのためにはなったとは思わないよ、思えないよ!」
怒るかほに、宗谷は何も言えなかった。宥める言葉が見つからなかったのだ。栞たちがかほを宥め、静かになったところに穂香の声が響いた。
「・・・・・旭日のメンバー全員はこの事を知っていたの?」
穂香の一言に、宗谷を除くメンバー全員が静かにうなずいた。そして、柳川が口を開く。
「言うべきだろうって思った時もありました。だけど、プレッシャーに負けて、試合に影響が出たら、全てが水の泡になったかもしれないんですよ?だから、あえて言わなかったのは間違っていなかったと思います」
柳川の答えに同感した人もいたが、それ以上にショックが大きい人の方が多かった。そして、旭日に対する信頼を無くした人も多かった。かほもその1人だ。
「宗谷くん、あなたがしたことは間違っていなかったかもしれないけど、私は正しいことだとは思わない」
かほが睨むように宗谷を見た。宗谷はその表情を静かに見つめた。
一方、偵察に出た福田と七海は建物に隠れながら着々と情報を集めていた。ある程度集めた情報を整理すると、次の事が分かった。
1、フラッグ車はいない、おそらく別の位置で待機している
2、立て籠っている建物に向けて、SU-85、100が2輌ずつ入り口に向けて構えている
3、別の位置にKV-2、IS-2が砲を向けている
ということだ。
この状況を打破するには、建物の後ろから出て、攻撃を避けつつ市街地を脱出するか、向こうが折れて別の位置に移動するまで待つかのどちらかだ。
どっちにしても正面突破は難しいので、この2つのどちらかに絞るしかないだろう。必要な情報は取れたので、さっさとずらかることにした、敵の懐に長居は無用だ。
2人は陸王に乗り込んで、その場を去っていった。だが、ことはそう上手くいかない。陸王が去った直後に、SU-100の乗員がその跡を見つけたのだ。戦車にしては聞き覚えの無い音がしたので見に来たら、明らかに戦車の物ではない跡が残っていた。
大洗女子学園が何か仕掛けて来たと察し、サティに報告するために慌てて自分の搭乗している戦車に戻っていった。
陸王に乗っている2人は、さっきと同じように遠回りで戻っていた。福田はためらい無しに飛ばしていたが、七海は心配していた。
遠回りしているとは言えど、物音1つしない状態の中をサイドカーで爆走しているのだ。バレている可能性が非常に高い、そう思っていたが福田はお構い無しだ。七海はインカムを通して福田に話しかけた。
「福田、もう少しゆっくり走らないか?」
七海はバレることを心配しているのだが、福田は全く別のことを心配しているようだ。
「どーせ
福田は更にスロットルを吹かした、力強いエンジン音が市街地に響く。もう少しで着くというタイミングで、小屋の陰からT-34が姿を現した!
「・・・・・ここまで来たか、掴まってろ!」
陸王が雪を巻き上げながら旋回し、逃走を図る。福田は追撃を警戒したが、あっという間に引き離した。加速力と最高速度に関しては陸王の方が長けているので、すぐに見えなくなってしまった。
ルートを変更して戻ろうとしたが、その先にはまた別のT-34が道を塞いで待ち構えていた。慌ててバックギアにギアチェンジしてバック走行で道を戻り、立て直して引き離した。
観戦席の観戦者たちは、陸王の登場に戸惑いを見せていた。何故サイドカーが?と。流石に指導員たちもこれには驚きを隠せない。
何も動きが無いと思っていたらサイドカーで爆走していたのだから。夏海は驚くこと無く、モニターに視線を向け、まほにこう言った。
「変わった戦い方をする連中ですね、戦車に足りないものを他のもので補っているように見えます」
夏海の言葉に、まほはこう返した。
「・・・・・確かに、あんなものを出して試合に出るなんて他の学校では考えられない戦法だな」
2人はそう言ったが、桃は納得出来ていなさそうだ。桃が杏に一言言った。
「・・・・・試合が終わったらきっちりと叱っておきます」
桃はそう言ったが杏は抑えるように促した。
「まぁまぁ、ルールには反していないわけだからほどほどにしてあげなよ。見た目からしても現代物じゃなさそうだし」
杏は興味津々で陸王を見つめた。戦車道でサイドカー、違和感がある一方で、新しい戦術を見せられている気がした。
立てこもっている大洗チームは誰も何も言わず、シンとしていた。宗谷は相変わらず真っ直ぐに外の方に視線を向け、岩山たちはチリの点検をし、急な出撃に備えていた。
頼みの綱である陸王からの通信はまだ無く、梅は苛立っていた。
「おい宗谷!陸王からの通信は無いのか!?」
「まだありません。というより、今は交信すらままならない状態ですね」
外からは陸王のエンジン音とT-34と思われるエンジン音が響き渡っていた。聞く限りだとどちらも攻撃することなく、走り回っているだけのようだ。するとあいかがM3に乗り込んだ。
「助けに行きましょうよ!サイドカーと戦車だなんて、絶対に不利ですか!」
その一言に全員が動き出したが、宗谷が止めた。
「やめとけ!こっちが動いたら
「宗谷先輩!福田先輩の操縦技術が高いのは知ってますけど、もしやられたらどうするんですか!?」
「やられたりしねぇよ。あいつはピンチになればなるほど、とんでもないことをやってのけるんだから」
「だぁぁーーー、ちくしょう!!全然引き離せねぇじゃねぇか!!」
陸王はひたすら逃げていた、そして逃げる先々で逃走経路を塞がれ、引き離したと思ったらすぐに追い付かれる始末だった。
ただ、サイドカーだと手加減しているのか全然攻撃をしてこない、それだけが不幸中の幸いだった。福田は右に左にハンドルを回し引き離そうと必死になっていた。
そして角を右に曲がり、次の角を曲がろうとした時、目の前にT-34が前に来て道を塞いだ。後ろにも回り込まれたので、今度は止まった。そして目の前のT-34からサティが頭を出して、陸王を見た。
「サイドカーを使うなんていい度胸してるわね」
睨むサティに福田はニッと笑いながら言い返した。
「ルールには『バイクの使用禁止』なんて無いからな、これぐらいのハンデがねぇとやってられねぇよ」
「・・・・・今すぐにその生意気な口を叩けないようにしてあげるわ」
サティがそう言うとT-34がじわりじわりと迫ってきた。七海が動揺し、車載機銃に手をかけたが福田が止めた。
「落ち着け。こんなことでビビってたら、旭日の名が廃るぜ」
福田がエンジンを吹かし、サティたちを煽った。迫るT-34に動揺することなくひたすら煽り続けた。
「冷泉、しっかり掴まってろ」
そう言うとロケットスタートで飛び出し、脇の道に入り込んだ。陸王がギリギリ通れる道なので、T-34は入れない。
「なっ!?ルフナ!そっちにサイドカーが行ったわ!食い止めなさい!!」
「分かりました、一旦持ち場を離れます」
IS-2に搭乗しているルフナが動き出した。
何とか危機から脱した陸王は軽快に飛ばしていた。これ以上追いかけられるのはごめんなので、早く帰り着くために最短距離を走っていた。
もうバレているのでわざわざ遠回りする必要も無くなったのだ、今は早く報告する方が先だ。
「・・・・・福田、もうロケットスタートは勘弁してくれ。身が持たない・・・・・」
七海が疲れきった声で福田に訴えた。
「ロケットスタートぐらい対した事ねぇって、リボルバーショットするよりかよっぽど気が楽だぜ」
確かにそうかもしれないけど、リボルバーショットと比べられても違いは全く分からないんだが・・・・・と七海は心の中で思った。
後少しで到着する、そう思った矢先いきなり戦車砲の爆音が響いてきた!福田は急ブレーキをかけ、着弾を警戒した。しかし、何も無かった。どうやら音だけしかしない『
回りを見渡すと、進行方向にIS-2が構えていた。まさに弁慶の立ち往生と言ったところだろう、七海は福田に別ルートを選択した方が良いと言ったが、福田は真っ直ぐ突っ切ると言い出した。
「な、何で突っ切るんだ!」
「後ろから追っ手が迫ってる、ここは突っ切った方が良い」
福田の言う通り、後ろからは戦車のエンジン音が迫っていた。だが突っ切ると言われてもIS-2は小屋の間に往生して、陸王が通り抜けられるほどの隙間はない。
側車無しなら通り抜けられるが、この状態では通り抜けることは不可能だ。七海はどうやって切り抜けるのか考えていると、福田が前を見ながら七海に言った。
「冷泉、ちょっと
『浮く』とは一体どういう事なのか?七海が答えを聞く前に、福田はスロットル全開でIS-2に急接近し始めた!
「お、おい!まだ何も聞いてないぞ!!」
「言った通りだよ!落とされないように掴まってろ!!」
突然の急接近にルフナは戸惑いを見せること無く、砲を真っ直ぐ陸王に向けた。血迷ったかと思った直後、福田は左のグリップを思いっきり引き、陸王が右に大きく傾き側車が宙に浮いた!
そして側車の車輪がIS-2の装甲を掴み、陸王はそのままIS-2の横を通り抜けた!
「あばよIS-2!次はお前を飛び越えてやるぜー!!」
福田はそう言い残し、再び帰路に着いた。ルフナは遠くなっていく陸王を見つめ、通信機を手に持ち、サティに連絡を取った。
「サティ様、すみません。突破されてしまいました」
〔突破されたぁー!?あいつらぁ、絶対に許さないわよー!!!〕
IS-2を突破し、無事に帰り着くことが出来た。陸王を停め、スーツに付いた雪を払いながら福田は報告をした。
「旭日ライダー
あまりの静けさに思わず抜けた声を出してしまった。戦車の陰から宗谷が出迎えた。
「何だその間抜けな声は、ちゃんと報告しろ」
「いや、それ以前に何だよこの状況・・・・・静かすぎるだろ。喧嘩でもしたのか?」
「・・・・・みたいなことはしたな」
理解出来ていない福田に、かほの冷たい視線が刺る。
「宗谷くんから聞いたよ。戦車道科が無くなることを、旭日のメンバー全員が知っていたって・・・・・」
かほの一言に福田と七海は驚きを隠せなかった、帰って来て早々に信じがたいことを言われたのだから。だが福田には心当たりがあったので、慌てて宗谷に聞いた。
「話したのか?今言ったこと」
慌てる福田に、宗谷は言い訳することなくすんなりと答えた。
「ああ、全部な」
「全部なって、じゃあ西住隊長の視線が冷てぇのは何でだよ?」
「・・・・・悪いな福田、
静かな笑みを浮かべる宗谷に、福田は何も言い返さなかった。こうなってしまうことは分かりきっていたから。
2人はかほたちに聞こえない位置に動き、お互いに現状を報告しあった。大洗チームの現状を聞いた福田は、これからどうするのかを聞いた。
大洗が旭日に対する信頼は完全に無い。そして1年生のあいかを始め、ショックを受けている人も多く、戦意を失った人も多い。
こんな状態でプラウダと戦っても結果はたかが知れている。何とか戦意を取り戻してほしいが、旭日のメンバーが励ましたところで効果は無いだろう。策は無いだろうと思ったが、まだ最終手段が残っていた。
「福田、『ド号作戦』で行くぞ」
「あの作戦で行くのか?とてもじゃねぇけど正当な考えとは思えねぇが」
「今はこれしかねぇよ。それに、
笑う宗谷に福田はため息をつき、小さくうなずいた。作戦決行に合意したということだ。
「あー、そうだ。さっきチリに乗ってた時にエンジンの調子がおかしかったんだよなぁ、ちょっとかけて見てみるかぁ」
わざとらしくチリに乗り込み、エンジンをかけた。この一言が、旭日のメンバー全員が『ド号作戦』が決行されたことを知らせる合図なのだ。
いきなりエンジンをかけられ、かほは困った表情を見せた。このエンジン音がプラウダに聞こえ、動き出すと判断されるかもしれないと思ったのだ。
「ちょっと、勝手にエンジンかけないでよ。向こうに聞こえたらどうするの」
焦るかほに宗谷は落ち着いた表情を見せながら宥めた。
「大丈夫だって、流石にあいつらには聞こえちゃいねぇよ」
かほは怪しんだ、さっき一緒に走行してた時にはチリから変な音は聞こえていなかった。それなのに点検を理由にエンジンをかけるなんて、何か企んでいるに違いないと思ったのだ。
宗谷に問いただそうと思い、近づいたその時だ。サティの声が市街地に響いた。
「大洗女子学園!!これ以上は拉致が開かないからこっちから攻撃を仕掛けさせてもらうわよ!!」
サティからの宣戦布告に宗谷が聞き返した。
「どういうつもりだ!」
「市街地外からの総攻撃で、あんたたちを誘き出すのよ!出てきた瞬間を撃ち抜いてくれるわ!!楽しみにしてなさい!!」
サティの声が聞こえなくなったと同時に、今度は戦車が動き出す音が聞こえてきた。サティが言ったことが本当なら、急いで市街地を脱出しなければならない。
だがこれが罠だという可能性もある、わざわざ自分たちが作った作戦をこんなに堂々と告げるものだろうか?動こうとする人もちらほらといたが、かほは止めた。
「もしかしたら敵の罠かも知れません、ここはあえて待ちましょう」
かほの指示に優香子は戸惑いを見せながら聞き返した。
「でも西住殿、もし本当だったらどうするんでありますか?」
「サティさんは敵に塩を送る真似をする人じゃないからきっと罠だと思うよ。ひとまず待とうよ」
慎重派のかほに全員が賛成し、様子を見ることになった。宗谷はうんともすんとも言わず、じっと外を見ていた。
サティ率いるプラウダチームは、市街地を出てそれぞれの配置についていた。サティが言ったとおり、総攻撃に入ろうとしているのだ。
準備を進めていくなか、ルフナが通信機を通して現状の報告をした。
「サティ様、大洗女子学園に動きはありません。もしかしたらデマだと思っているのかも知れません」
「あらそう、残念ねぇ。折角忠告してあげたっていうのに、でも楽になったわ!さぁ、全車一斉射撃よ!
サティの指示でSU-85をはじめ、10輌の駆逐戦車が一斉射撃を始めた!そして放たれた砲弾は、立て籠っている建物の周辺に次々と着弾し、地面が大きく揺れた。
かほたちは一斉に戦車の中に入り、脱出のタイミングを図ろうとしたが、敵からの攻撃は間髪を入れること無く続き、タイミングが見つからない。
かほがチリを見たとき、宗谷が何かを持って歩いてきた。そしてかほに差し出した。
「西住、受けとれ」
冷静な宗谷に、かほは戸惑いながら受け取った。渡された物は、拳銃とホルスターだった。
「何なのよ、これ!」
「そんな慌てるほどの物じゃねぇよ。こいつは『※
いきなり信号拳銃を渡されても一体何をしろと言うのか、そう思っていると宗谷の声が響いた。
「全員聞け!これより旭日機甲旅団は、敵の陣営を崩しに向かう!終わるまでここで待機していろ!崩せたらこっちから信号弾を打ち上げる、確認したらそっちからも打ち上げてくれ!」
宗谷が信号拳銃を渡した理由は分かったが、
チリに乗り込もうとしている宗谷を、かほが慌てて止めに入った。
「ちょっ、ちょっと!たった1輌で残り14輌も相手する気!?無茶だよ!!」
宗谷は立ち止まり、かほの方を向いた。
「1輌じゃねぇよ、陸王も一緒さ。結構久し振りだけど、
「だとしても、あなたたちだけじゃ勝てないよ!チームで動かないと・・」
「この状況でチームとしては動けねぇよ。一緒に来たとしても、足手まといになるのがオチだ」
宗谷の冷たい一言に、かほは激怒した。
「足手まといって何よ!!私たちじゃ邪魔っていうことなの!?」
かほの問いに宗谷は何も答えること無く、チリの方に向かっていった。
「答えてよ!!」
怒鳴るかほに宗谷は静かに振り向き、こう言った。
「西住、
『信じてる』、宗谷はそう言うと敬礼をし、チリに乗り込んだ。かほにはもう怒りは無かった。宗谷がヘルメットを着用し、インカムの電源を入れた。
「これより、独立戦闘作戦・ド号作戦を開始する!総員戦闘に備えろ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
先行して陸王が飛び出し、チリはその後に続くように出撃していった。かほは宗谷が何故あんなことを言ったのかが分からず、止めること無く呆然としていた。
「何やってんだ!さっさと行くぞ!!」
梅が呼んだが、かほはこう返した。
「今は・・・・・少し待ちましょう。宗谷くんが私たちを置いていったのにも、きっと理由があるんですよ・・・・・」
サティは市街地に向けて攻撃をし続けさせていたが、そろそろ弾数にも限度が来そうだったので攻撃を止めさせた。
雪が舞い上がり、少しずつ晴れてきた。建物が見え始めていたその時、市街地から砲弾が飛んできた!その砲弾はT-34に当ったが、撃破とはならなかった。サティが砲搭から頭を出して外の様子を見た。
「ようやく姿見せに来たわね・・・・・は!?」
サティは目の前の光景に目を奪われた。そこには大洗の戦車の姿は無く、チリと陸王しかいなかったのだ。これにはプラウダの全員が驚いた。
重戦車ばかりの隊列に、たった1輌の戦車とサイドカーで挑もうとは夢にも思わなかったことだろう。差は歴然だったが、サティは容赦無しに攻めようと言い出した。
「良い?元はエリート学校の生徒だったかも知れないけど、所詮は初心者よ!私たちの実力を見せつけてやりなさい!!」
チリに乗っている宗谷は、攻撃をどうするかを模索していた。チリの操縦は福田に及ばないが、攻撃を避けるぐらいなら自信はある。
独立戦闘作戦、通称『ド号作戦』はその名の通り独立して戦闘を行う作戦で、単独行動が出来る今しか出来ない作戦だった。そんな中、宗谷は全員に謝った。
「・・・・・みんなすまねぇな。本当はもっと穏便に済ませるつもりだったんだけど、ああするしかなかったんだ」
後悔している宗谷に、福田は励ました。
「今さら何言ってんだよ、俺たちはそんなこと百も千も承知で挑んでんだ。気にすることは何もねぇって」
そう言われ、少し気が楽になった。そして、全員に指示を出した。
「これよりプラウダとの戦闘を開始する!先制奇襲開始!!」
チリと陸王がプラウダの隊列に攻撃しながら接近していく、前代未聞の戦闘が始まった!
置いていかれてしまった大洗チームのメンバーは、宗谷の態度に怒っていた。『足手まといになる』と言われたのだから、当然といえば当然かもしれない。
ただかほだけは、あんな風に言ったことに何か理由があるのではないかと思っていた。『チームで動くことが大事だ』と言い続けてきたのだ、きっと何かあるに違いない、と。
「宗谷先輩、酷すぎます・・・・・足手まといになるなんて・・・・・」
あいかが悲しげな声を響かせた。かほの次に信頼していたので、裏切られたような気持ちだった。
「試合が終わったらとっちめてやる!そうしましょう、角谷会長!!」
梅の考えに賛成する人が大多数で、流石の穂香でも宥めるのはキツくなってきた。そんな時、かほも一緒に宥めに入ってきた。
「みんな落ち着いてよ!宗谷くんも考えがあってこんなことをさせたんだよ!」
「じゃあその考えって何なんだ!足手まといになるなんて捨て台詞を残したあいつの考えって・・」
梅が言い返そうとしたとき、4号の通信機が電波を受信した。発信元はチリの通信機からだった。全員が4号の前に集まり、通信に耳を傾けた。聞こえてきたのは北沢の声だった。
〔ザ・・・・・ザザ・・・・・宗谷には内緒だぜ、お互いに勘違いされたままはごめんだからな〕
その後に電波が切り替わり、宗谷たちが奮闘している声がかほたちに聞こえてきた。
〔宗谷!応援を呼ぼうぜ!これ以上重戦車だらけの中で暴れるのは危険だ!〕
〔まだ呼ばねぇ!あんな風に言っちまったからには責任ってもんがある!!それに、西住たちは絶対に来る!踏ん張れ!!〕
さっき言っていたことと正反対のことを言っている、かほたちは何が何だか分からなくなっていた。
〔俺は、俺は西住たちを信じる!どんな危機に陥ったとしても、絶対に立ち直って来るはずだ!
通信が途中で切れてしまった、だが宗谷が何故あんなことを言ったのかが分かった気がした。『足手まといになる』と言ったのは、本心では無かったのだ。
宗谷なりに、戦意を取り戻して欲しかったのだろう。ああ言う風に言えば、悔しさから戦意に変えてくれるんじゃないか、と。そしてもう1つ重要なことを思い出した、『廃科は、まだ止められる』。
「・・・・・一番信頼していなかったのは、私たちだったようだね・・・・・」
穂香がポツリと呟いた。宗谷にも問題はあったが、自分自身で気づけなかったことに、かほも後悔した。
「今すぐに行きましょう!これ以上1輌だけで戦わせるわけにはいきませんよ!」
藍が先導するように言い、4号に乗り込んだ。それにつられ、全員が一斉に乗り込んだが、またかほが止めた。
「慌てないで!宗谷くんたちの足を引っ張らないように、こっちもちゃんと準備しないと!」
一方、前代未聞の戦いに挑んだ宗谷たちは、窮地に立たされていた。宗谷は慣れない操縦に苦戦し、福田は雪の中、そして重戦車の中を陸王で爆走していた。
陸王の攻撃は片手で機銃を持って撃ちまくり、相手を混乱させることだけを主に戦っていた。そしてチリは装填完了と同時に射撃し、攻撃をと切らせないようにしていた。
しかし、その攻撃にもそろそろ限界が来ていた。IS-2からの一撃がチリの砲搭側面に当たり、火花を散らしながら弾き飛ばされた。履帯がグリブップ性能を失い、木に激突して止まった。
福田が慌てて近寄った。かなり激しくぶつかったのでチリの状態を心配したが、特に問題は無さそうだった。IS-2の砲弾の跡が痛々しく残っていた。
「宗谷、大丈夫か!?」
「大丈夫に決まってんだろ!ここで諦めてたまるかぁ!!」
何とか立て直せたが、もうこれ以上は持ちと耐えられそうにない。ここまでで戦況は何1つ変わっていないうえに、チリのダメージはかなりでかい。
この数分間奮闘出来たのが奇跡だろう。観戦席に座っている夏海も、チリの奮闘に感心していた。宗谷たちが次の攻撃に備えたその時、後ろからの攻撃がプラウダに飛んだ!
福田が振り向くとその先にはかほ率いる大洗女学院がプラウダの方を向いていた。
「宗谷!援軍だぞ!」
福田が弾む声で宗谷に言った。宗谷はホッと胸を撫で下ろした。4号がチリの隣に来た時、インカムを4号の通信機に繋げた。
「遅ぇぞ西住、待ちくたびれちまったよ」
「しょうがないでしょ?でも、信じてくれてありがとう」
「・・・・・礼を言われるほどのことじゃねぇよ。だけど、さっきの言動には謝るよ。すまなかったな」
「謝らなくて良いよ。本心じゃなかったんでしょ?分かってたんだから」
本当は分かってなかったんじゃ、と宗谷は思ったがあえて言わなかった。
「あ、そう・・・・・まぁとにかく、反撃開始だ!」
観戦席では、大洗の反撃に歓声を上げていた。ようやくお互いに燃えてきたと言ったところだろう、かなり激しい攻防を見せ始めていた。
その姿を見ている大洗の指導員一同は、かほたちの成長を感じていた。攻めも守りも完璧で、言うとこ無しだ。一時期はチームとして動けるのか心配だったが、旭日が来てから一気に変わった。
そう考えれば、宗谷たち旭日の6人はある意味救世主なのかもしれない。
「試合が終わったら、あの子たちに謝らないとね」
杏の言葉に指導員全員がうなずいた。やむを得ない事情だったとは言え、隠し事をしていたことは謝らないといけない。
そう思う一方で、試合にも無事に勝利してほしいという思いもあった。みほは手をグッと握りしめ、勝利してくれることを願った。
戦闘中の大洗チームはプラウダの猛攻に反撃が追い付いていなかった。10輌の駆逐戦車のうち、5輌ずつ射撃をして、残りの5輌は装填に時間を使い、攻撃をと切らせないようにしていた。
おまけにT-34の近距離射撃に加え、IS-2の正確な射撃が来るのだ。かなり奮闘してくれたが、ポルシェティーガーに続き、89中戦が撃破されてしまった。
かほは真っ向勝負が不利になると感じ、また市街地に逃げ込むことにした。一旦下がり、作戦を練り直そうとしたのだ。
「後ろからの攻撃に警戒しながら後退してください!一旦市街地に逃げ込みます!」
「後ろは俺と福田に任せろ!急いで下がれ!!」
旭日がプラウダに攻撃をしながら後退し、かほたちはその隙を付き、一斉市街地に入っていった。全車が入ったところを確認し、宗谷も攻撃を中止させ、市街地に駆け込むことにした。
「福田、プラウダの注意を引け。俺たちも市街地に入る!」
「任せとけ!絶対にやられるなよ!」
福田はプラウダの隊列に突っ込んでいき、チリは全速力で市街地に下がっていった。サティはすぐに追いかけるように指示を出したが、陸王が邪魔をするのですぐには追いかけられなかった。
市街地に逃げ込んだは良いものの、ここからどうするかが悩みどころだ。時間的にもそろそろ決着をつけなければならないのだが、攻撃力に関しては圧倒的な差があるため、真正面からは到底勝ち目はない。
おまけにフラッグ車の位置も把握出来ていないため、闇雲に攻撃を仕掛けても仕方がない。作戦を考えていた矢先、福田から通信が入った。
「フラッグ車はKV-2の後ろに隠れている」、と。
丁度良いタイミングで嬉しい情報が来たので、かほは早速作戦を考え始めた。真正面からは不利だ、せめて相手の注意が引ければ・・・・・と思った時、腰に付けたホルスターが目に止まった。そして、チリに通信を繋げた。
「宗谷くん、1つ作戦を思い付いたんだけど、手伝ってくれる?」
「良いぜ。で、どういう作戦だ?」
プラウダの隊列が市街地に迫り始めていた。陸王は限界がきたためと、宗谷から作戦実行に移ると聞いたため、一旦離れることにした。
かほが砲搭の上に立ち、信号拳銃を空に構えた。信号弾で相手の気を引こうというわけだ。トリガーを引き、赤い信号弾が空に打ち上がった!
『パーン!』
信号弾が爆発し、プラウダの乗員が一斉に信号弾の方を向いた。一瞬止まったところをチリと4号が一斉にKV-2に向かって突進した!
作戦は相手の気を引き、一気に距離を詰めようということだ。その作戦は成功した。穂香たちは建物の陰からから援護射撃をし、攻撃対称をチリと4号から離そうとしている。
攻撃をもろともせずに突っ込んでいく2輌を見たサティは、KV-2にに向かっていると勘づき、一斉にフラッグ車の守りを固めた!
「ッ!宗谷くん!作戦は中止よ!守りが固すぎるから攻撃は無理だよ!」
「まだ大丈夫だ!後ろががら空きに違いねぇから、一気に攻め込んでやれ!!」
宗谷はそう言ったが、速度的には後ろに回り込む前にやられるか撃破出来なくなる可能性がある。かほは無理だと言ったが宗谷は攻撃態勢を崩すなと言った
そしてチリが後ろに回り、砲を4号に向けた。かほは何をするのかと思っていると、宗谷から通信が入った。
「今から
「撃ち出すって、何をするつもり!?」
「過去に西住指導員がやったことと同じだ!行くぞ!!」
宗谷は4号とほぼゼロ距離を保ち、柳川に空砲弾を装填するように言った。空砲弾が装填完了し、宗谷は岩山に言った。
「岩山!思いっきり撃ち出してやれ!」
「雪の上だからな、思いっきり吹っ飛んでも知らねぇぞ!」
照準を4号に合わせ、トリガーを引いた!
『ズバーン!!』
と戦車砲が轟音を響かせ、4号を撃ち出した!撃ち出された4号はスリップしながらプラウダチームの横をすり抜け、七海は車体を大きくカーブさせた。そして、藍がフラッグ車の後ろを捉えた!
「撃てぇー!!!」
かほが叫び、藍が狙いを定めトリガーを引いた!
『ドーン!!!』
戦車砲の音が宗谷たちの耳に入った。宗谷はチリを止め、何がどうなったのかと把握しようとした。
〔プラウダ高校フラッグ車、戦闘不能!よって、大洗女学院の勝利!!〕
アナウンスが勝敗を伝えた。観戦席からは歓声が上がり、みほは思わず涙を流した。そして宗谷は操縦レバーから手を離し、席にもたれ掛かった。
撃破された戦車の回収も終わり、かほたちは杏率いる指導員たちの前に集合していた。杏が申し訳なさそうな声で話し始めた。
「えっと・・・・・もう聞いちゃってるよね、この試合で優勝出来なかったら、戦車道科は・・・・・無くなるんだよね。今まで隠してきたことは、本当に申し訳ないって思ってた。本当に、ご免なさい」
杏に続き、指導員全員が頭を下げた。かほが杏の前に出た。
「もう良いですよ。突然聞かされたときは驚きましたけど、ここまで来たんですから絶対に優勝して、廃科から救って見せます!」
かほの言葉に、杏は涙を流した。もっと早く言うべきだったと後悔する反面、こんな風に言ってくれたことが何より嬉しかった。
ここまで来たら、もう後戻りは出来ないとかほたちも覚悟したのだろう。宗谷はその姿を何も言わず、静かに見届けた。
宗谷がチリに戻ろうとしていると、向こうからサティとルリエーが歩いてくる姿が見えた。サティが宗谷の前に止まった。
「あんたと西住に話があるの、ついてきなさい」
サティに呼ばれた2人は、何故呼ばれたのか検討がつかなかった。一体何を言われるのかと思っているとサティが話始めた。
「まず、
その問いはかほも聞きたかったことだった。サンダース戦の時も、フラッグ車の履帯を破壊して行動不能に陥れたが、そんなことをしなくても1発で撃ち抜けば良かったのだ。宗谷はその問いにこう答えた。
「
その答えにサティは少し呆れた表情を見せた。そして今度は西住の方を向き、手を差し出した。
「あんたには完敗だったわ。それと、良い仲間を持ったわね。決勝戦も勝ちなさいよ」
まさか激励の言葉を貰うとは思っていなかったので、かほは一瞬戸惑ったが、握手はきっちりと受け入れた。その姿を夏海がじっと見ていた。そしてこう思いながら去っていった。
(・・・・・決勝まで上がったか、旭日。奮闘には関心するが、我が西住流には勝てないと言うことを教えてやる。覚悟していろ)
宗谷とかほは夏海に気づくことなく、サティと分かれた。そしてこの後、陸王を使ったことを桃にキツく説教されたのだった。
そしてプラウダ戦の3日後、宗谷は科長室で杏に提案を持ちかけていた。チリを黒森峰戦に向けに改造する、と。
※解説
10年式信号拳銃
旧日本軍が使用していた信号拳銃で、数キロ離れた部隊とのコミュニケーション用として使用されていた。色は赤、緑、黄、黒、白の5種類で、飛距離は約50メートル。
目視出来る距離は昼間で約8キロ、夜間で25キロと言われている。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
プラウダ戦にも勝利したかほたちは、戦車道を廃科から救うために前に向いて進んでいくようです。
そして宗谷はチリを改造すると提案したようですが、一体どんな改造を施すのでしょうか?
感想、評価、お待ちしています。