ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

プラウダとの準決勝戦で、かほたちは衝撃的な事実を聞かされた。大洗女子学園戦車道科は、大会で優勝出来なければ廃科になるというのだ。
この事実を隠されていたかほたちは、宗谷たちに対する信頼を1度は失った。しかし、全てはかほたちのためだと知り、なんとしても勝利すると誓った。旭日と共に。

準決勝戦も無事に勝利した大洗に、宗谷はある提案を持ち掛けていた。それは、『チリの改造計画』だった。


第16章 チリから『チリ改』へ

「チリって今以上の改造って出来るの?」

 

 場所は科長室、宗谷が杏にチリを改造すると提案をしているところだった。ただ、杏は改造出来るのかが気になっていた。

 半自動装填装置に続いて、自動変速機、そして電動モーターで回転する砲搭、この三拍子が揃っていながら更なる改造が出来るのか、と。宗谷はチリの改造箇所を書いた紙を差し出した。

 

「改造するのは大きく分けて2箇所です。主砲を88ミリ砲にして、エンジンをガソリンからディーゼルに換装します。そして、新機構に対応出来るように、走行装置、装填装置を少し改良して完成です」

 

 宗谷から聞かされた改造箇所を聞きながら、杏は聞き返した。

 

「うーん、確かにそうだけど・・・・・私の記憶の中じゃ88ミリ砲を搭載した日本戦車は無かった気がするんだけど?分かってるとは思うけど、換装するんだったら1945年以内に計画段階までいっていなかったら出来ないよ?」

 

 杏が言うように、旧日本戦車のほとんどは47ミリ砲か75ミリ砲を搭載したものばかりで、88ミリ砲を搭載した戦車は無い。杏はそう思っていた。

 

「チリに関しては、88ミリ砲を換装を巡って《/b》88ミリ砲論争《/b》があったって言われてます。協会からの基準は通るはずですから、許可していただけませんか?」

 

 杏は考え込んだ。計画段階までは行ってはいるらしいので、試合には出せないことはないだろう。しかし、実戦で充分に活躍出来るかはまた別問題だ。そんなことを30分間考えた末、結論を出した。

 

「・・・・・分かったわ、許可するよ。ただし、この高射砲が見つからなかったら換装はエンジンだけだからね?」

 

「ありがとうございます!失礼します!」

 

 そう言い残し、宗谷は科長室を後にした。そして、福田たちに許可がおりたことを伝えた。88ミリ砲の換装が認められたので岩山はテンションが上がっていた。

 

「マジか!?俺たちも88ミリ砲が使えるのか!」

 

 75ミリ砲に満足出来ていなかった岩山からしたら、夢にも思わなかったことだろう。福田が宥める。

 

「落ち着け岩山、許可は下りたけど肝心の88ミリ砲は無いだろ。で?どうやって手に入れるんだよ、その99式8糎高射砲ってやつ」

 

「この間4号戦車の部品を買ったところから、買うつもりさ。それと、88砲弾に対応出来るように半自動装填装置も改良しないといけないから、やるべきことは山ほどあるぞ」

 

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 それから2日後、授業が終わった宗谷たちのもとに88ミリ砲が届いた。台座に固定するための部品が付いていて、元高射砲だという名残りがあった。

 ここから戦車砲に向けた改良を施し、搭載出来るようにしなければならない。宗谷たちは早速取りかかった。まずは搭載するに先立ち、テストをしなければならない。

 テスト内容は、正確に砲弾の発射が出来ることと、正確に当てることが出来ること。早速射撃練習場まで砲を運んでいった。

 練習場に着くと、砲を発射時の反動を吸収する『駐退機(ちゅうたいき)』にセットし、砲弾を装填した。

 

「射撃テストを実施する!目標、前方2キロ!射撃用意!」

 

 宗谷の指示で岩山が的に照準を合わせ報告した。その報告に合わせ、宗谷が双眼鏡で確認した。本来なら照準合わせの2段確認はしないのだが、安全のため、やむを得ないのだ。

 今回は安全弾は無かったため、仕方なく実弾でテストをする。万が一外れたら災害になりかねない。そのため、第2者に目標に対して照準が外れていないかを確認してもらうのだ。

 宗谷が確認し、安全であることを証明出来たので射撃テストを実施した。「撃て!」の指示で岩山がトリガーを引く。

 

『ズドーン!!』

 

 75ミリ砲よりも重い音が響いた。反動が大きかったからか、弾は的に対して2~3ミリずれて命中した。射撃も装填にも問題は無かったので、搭載しても大丈夫そうだ。

 格納庫に戻ると砲にカバーを被せ、その日は終了となった。これから搭載出来るように改良するのだ。エンジンは明日届くそうなので、砲の換装と並行して行うことにした。

 

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 翌日、宗谷たちはかほたちが練習している間に砲の換装を行うことになり、早速取りかかっていた。75ミリ砲と駐退機を外し、半自動装填装置の改良に入った。

 75ミリ砲弾と88ミリ砲弾は重量と大きさが全く違うため、装填装置を改良しないと正常に作動しない可能性があるためだ。

 砲搭から外さない状態で装填装置を改良し、砲も搭載可能な状態まで改良出来た。そして、残った75ミリ砲は処分せずにそのままにしておくことになった。後で役に立つからと。

 

 そして、例のディーゼルエンジンも届き、エンジンの換装も終えた。搭載したエンジンは、4式中戦車に使用されていた『4式ディーゼル』と言う物で、過給機(ターボ)付きのV12気筒エンジンだ。

 ターボ無しで400馬力、ターボ有りで500馬力発揮したと言われ、このエンジン自体はチリの派生型に搭載する予定のエンジンだったと言われている。

 

 駐退機と半自動装填装置の改良も済み、砲の搭載作業に入った。クレーンで吊り上げながら砲を砲搭に少しずつ近づけ、正確にはまるように慎重に作業を進める。そして砲身を取り付けることに成功した。

 気がつけばもう夜の7時を過ぎていた。かほたちは邪魔にならないようにという配慮からか、何も言わずに帰ったようだ。

 換装作業は無事に終わったので、今日はここまでで一旦区切りをつけた。片付けを終えた後、宗谷が全員集合させ、明日の予定を話した。

 

「明日はエンジンの耐久テストと走行テスト、そして、射撃テストを実施する。無事に終わることを祈るけど、88ミリ砲は初めて使うから、特に注意するように」

 

 作業は無事に終わったが、テストでどうなるかは分からない。そのため、警戒は怠るなと注意を促し、今日は終了となった。

 

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 翌日、チリは悟子率いる整備班に見守られながら、テストをしていた。走行、エンジンの耐久に関しては特に問題は無く、このままなら無事に終われそうな雰囲気だった。

 残すは射撃テストをするため、チリは射撃練習場まで移動し、早速射撃態勢に入った。柳川が砲弾を装填し、岩山が照準を合わせる。

 

「照準、射撃用意よし!目標確認よし!」

 

 岩山が報告し、宗谷が指示をする。

 

「撃てぇーー!!!」

 

 指示に従い、トリガーを引く!

 

『ズドーン!!ガギィーン!!!』

 

 射撃音と同時に鈍い金属音が悟子たちの耳に入った。大丈夫かと心配していると、搭乗ハッチとガンポートが開き、煙が出てきたではないか!

 宗谷たちが咳き込みながら出てきた、テストは失敗してしまったらしい。整備班が慌てて駆け寄った。

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

 幸いにも怪我人は出なかったようだが、チリの砲身は上を向いたまま止まっている。咳が落ち着いた岩山が説明した。

 

「射撃と同時に砲身が思いっきり後ろに下がってきて、ゲホッ、その後に煙が充満したんです」

 

 岩山の証言を元に整備班が確認したところ、駐退機が完全に壊れてしまっていた。上手く反動を吸収しきれなかったのだろう。

 本来なら砲身だけを下げて反動を吸収するのだが、砲身を下げきれなかったのか、途中で止まっていた。

 整備班が確認した結果、砲自体には問題無いが駐退機が完全にやられているということが分かった。悟子が呆然としている宗谷に点検の結果を伝える。

 

「宗谷くん?点検したんだけどね、駐退機が完全に壊れたから交換を進めるけど、どうする?」

 

「・・・・・分かりました、点検ありがとうございました」

 

 宗谷は砲搭から煙を上げるチリを見た。隊長として大切な仲間と、チリ(相棒)を危険な目に合わせてしまったことには責任を感じていた。

 注意していたものの、まさかここまで酷いことになるとは想定外だった。88ミリ砲はかなり厄介は代物だと思った瞬間だった。

 

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 その後自走で格納庫まで戻り、再び砲身を外した。宗谷が1人で残り、壊れてしまった駐退機を確認していると、かほが飛び込んできた。

 

「宗谷くん!大丈夫!?」

 

 宗谷はいきなり飛び込んできたかほに驚いて固まってしまった。少しばかり沈黙があり、宗谷が口を開いた。

 

「うん、俺たちは全員無事だが・・・・・」

 

「ハァ~~~、良かったぁ~~~・・・・・大怪我してたらどうしようって思ってたんだぁ」

 

 よっぽど安心したのか、かほはヘナヘナと腰を下ろした。宗谷が慌てて駆け寄る。

 

「え?え?おいおい、大丈夫か?」

 

「うん・・・・・良かったぁ~~~」

 

「悪かったな、移動してすぐに砲身の取り外し作業に移ったから報告が遅れたんだよ。ごめんな、めっちゃ心配させたみたいだし」

 

 ここまで心配されていたとは思っていなかったので、宗谷は思わず謝った。

 

「宗谷くんが謝らなくても良いのに。それより、チリはどうなの?」

 

 かほがチリの砲搭の中に入り、駐退機に手を掛けた。その様子を見ながら、宗谷が質問に答えた。

 

「駐退機がぶっ壊れたから、一からやり直しさ。早いとこ原因を見つけないといけないって段階だよ」

 

 かほはその答えを聞き、砲搭から降りた。

 

「早く出来ると良いね」

 

 かほはそう言うと早々と立ち去ろうとしていた。そのかほに、宗谷からの質問が飛んできた。

 

「なぁ、チリはお前に何を語りかけたんだ?」

 

 かほの足取りが止まり、宗谷の方を向いた。

 

「何も語りかけたりしてないよ。エスパーじゃないんだから」

 

「そうなのか?チリに手を掛けてたから、チリ(こいつ)の声でも聞いてんのかと思ったよ」

 

「フフ、そんな分けないじゃん」

 

 かほはそう言うと帰っていった。宗谷はチリの方を向き、ポツリと独り言をこぼした。

 

「・・・・・今日はすまなかった。テストだったとは言え、ここまで酷いことになることも想定するべきだったな」

 

 そう言うと荷物をまとめ、宗谷も帰った。明日はどの部品が悪かったを探し、改善点を見つけるところから始めなければならないだろう。

 

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 翌日の午後、宗谷たちは戦車道の時間を利用し、壊れた駐退機を取り外して全分解で原因を探していた。ここで駐退機について軽く説明しよう。

 駐退機は砲身のみを下げて反動を吸収し、照準などの部品に悪影響が出ないようにするのが役目だ。

 また、下がった砲身を元の位置に戻す『複座機(ふくざき)』という部品と一緒になっているものが主流で、それらは『駐退複座機(ちゅうたいふくざき)』言われる。

 

 4号を始めとした戦車はこの駐退複座機が使用されているため、複座機に関しても合わせて説明しようと思う。

 駐退機は作動油(グリセリンなど)が入っているシリンダー、それに内蔵されているピストンとロッドで構成されている。

 作動時は射撃と同時に砲身を乗せている『砲架(ほうか)』という部品がロッドを介してピストンを引く。

 ピストンは作動油を圧縮しながら引かれるが、シリンダーに設けられている『漏孔(ろうこう)』という細い穴から逃げるため、流動抵抗で砲身はゆっくりと下がる。

 複座機は下がりきった砲身を元の位置に戻すのが役目で見た目は駐退機と変わらない。

 構成部品は圧力タンクであり、不活性ガスが入っているシリンダーと、何も繋がっていない浮動ピストンの2つで、駐退機側の漏孔から逃げてきた作動油を貯えておく働きをする。

 作動時は、作動油で浮動ピストンが押され、その反対側にある不活性ガスを圧縮する。圧縮されたガスは高温高圧になり、ピストンを押し戻しながら作動油を漏孔から駐退機側のシリンダーに戻していく

 戻された作動油はロッドを介して緩やかに砲架を元の位置に戻す。以上が駐退機と複座機の構成、及び作動になる。

 

 話を戻すが、全分解しながら原因を探っていると柳川が問題の部品を見つけたようだ。

 宗谷たちに示したのはシリンダーで、別の位置に穴が空いていた。作動油が上手く漏孔を通らなかったことが原因のようで、漏孔を少し大きめにして対策を取ることにした。

 そして新しいシリンダーを取り付けたところで、今日の作業は終了となった。明日は2回目のテストから始まることになるのだった。

 

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ーーー

 

ーー

 

 

 そして翌日、整備班と杏に見守られながら2回目のテストを行っていた。前回の反省を生かし、ガンポート、ハッチは全開にし、砲搭には宗谷だけを残して、後の5人は外にで見張り役を務めるとこになった。

 これならまた失敗したとしても、被害は最小限に留めることが出来る。2回も危険な目に合わせるわけにはいかないという宗谷の判断だ。

 砲弾を装填し、照準を合わせる。車長という役を担う身なのだが、操縦、砲の取扱い、装填、通信機の取扱いに関しては最小限知識は持っている。上に立つ者、知識無しでは務まらないということだろう。

 

「これより第2回射撃テストを開始する!総員、半径200メートル以内から退避せよ!!」

 

 福田たちは宗谷の指示通りにチリから離れた。これも宗谷の考えで、被害を食い止めるためだが、福田たちは申し訳ない気持ちでいた。

 確かに危険なことではあるが、宗谷1人だけにして見物という形になって良いものだろうか。本心としては宗谷と一緒にテストに参加したかったのだが、「危険だからダメだ」と言われ、参加させてもらえなかったのだ。

 そして、福田が退避完了の指示を出し、宗谷はトリガーを引いた!

 

『ズドーン!!』

 

 轟音が練習場に響く、今回は怪しい音はしなかった。今度こそ成功したか、と誰もが思ったが、宗谷は浮かない顔をしていた。慌てて駆け寄った福田たちに、指を指しながらこう言った。

 

「ちくしょう、今度は複座機がイカれやがった」

 

 岩山が砲搭に入って確認してみると、砲身は下がりきったままで元の位置に戻っていなかった。

 後でシリンダーを確認してみたものの、特にこれと言って以上は見られなかった。

 戻る途中で詰まってしまったかという意見が出たが、組み付けるときにはホコリに十分注意していたため、詰まるというとこはない。となると、別の部品に問題が出てしまったということだろう。

 どう討論しても結果はまた失敗で終わってしまった。唯一幸いなことと言えば、砲自体に問題が無いということと怪我人が出なかったことだろうか。

 点検をしている宗谷たちのもとに、杏が近寄ってきた。

 

「また失敗したみたいだけど、原因は分かった?」

 

 優しい声で聞いてきた杏に、宗谷は浮かない顔で答えた。

 

「複座機を全分解して、点検してみないどうとも言えませんけど、すぐに分かると思います」

 

「そっか、何か困ったことあったらいつでも相談してよ?抱え込まれても困るからね」

 

 そう言い残すと、杏は校舎に戻っていった。宗谷は2度も失敗したことを悔やんでいた。

 

ーー

 

 

 授業が終わり、戦車は全て格納庫に入って休んでいる。その片隅で、宗谷はチリの複座機を点検していた。宗谷が注目していたのは、圧縮圧力が上手く上がっていたかということ。

 前途であったように、複座機は高圧になったガスの力で元の位置に戻そうとする。つまり、圧縮圧力が低ければ高圧にはならないため、戻すための力が足りなかったということになる。

 圧力が上がらない原因として考えられるのは、シリンダーに穴が空いていて漏れてしまったということだろうか、だがシリンダーに穴は空いていなかった。原因は他にありそうだが、思い付く節がない。

 これ以上考えても何も思い浮かびそうにないので、帰ることにした。軽く整理をして、荷物をまとめて格納庫を出ると、かほが待っていた。もう6時を回っているというのに。

 

「西住、まだ帰ってなかったのか?」

 

「一緒にルノーに寄らない?疲れてそうに見えたから、リフレッシュしようよ」

 

 何かと思えばお茶の誘いだった。遅くはなるが、折角の誘いを断るわけにもいかず、ついていった。

 

ーー

 

 

 ルノーに入り、席につくと川井店長が興味津々でチリの改造の件を聞いてきた。

 

「ねぇねぇ、チリを改造してるって聞いたけど、どうなの?」

 

「失敗ばかりしてますよ。1発目で駐退機が壊れて、今回は複座機、改良点はごまんとありそうです」

 

「そっかぁー、やっぱ大変だね。かほちゃんが言ってた通りだわ」

 

 川井店長の一言を聞き、宗谷は思わずかほの方を向いた。かほは恥ずかしそうに顔を赤らめている。

 

「だって、テストで思いっきり失敗したなんて言われたから、すっごく心配したんだよ?それで、川井店長に話して・・・・・」

 

 慌てて言い訳をするかほを、宗谷は静かな笑みで見届けた。ここまで心配してくれる人がいる、それだけで嬉しかった。

 紅茶を飲みながら、宗谷はポツリとかほに聞いた。わざわざこんな時間帯になるまで待っていたのだ、誘ったのにも何か理由があるだろうと思ったのだ。

 

「なぁ、西住。何か聞きたいことでもあったのか?」

 

「え?ただ一緒にお茶がしたかっただけだよ」

 

 そう返され、宗谷はポカンとしてしまった。そんな宗谷に、かほは本当の目的を伝えた。

 

「お茶がしたかったっていうのもあるだけど、チリの改造はいつ出来るのかなって思って誘ったの。どれぐらい掛かりそう?」

 

「う~ん、原因がすぐに分かれば2~3日ぐらいには完成するかもしれない。少し時間が掛かったら1週間後だな」

 

 そう言われ、かほは少し残念そうな表情を見せた。宗谷が聞き返す。

 

「何でそんな顔するんだ?西住が落ち込むことないだろ?」

 

「落ち込んでいるんじゃないよ。宗谷くんたちがいないから、決勝戦に向けた本格的な練習が出来ないなぁって思ったの」

 

 宗谷はハッとした。チームとして動くのだから、1チームいないだけでも戦況は大きく変わることがある。それなのに改造に時間をかけすぎてしまっていた、宗谷は思わずため息をついた。

 

「はぁー・・・・・早く練習に戻らないといけないってのに、改造に時間を使いすぎてたな」

 

 落ち込む宗谷に、かほが慌てて慰めた。

 

「ご、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃなくて、他の皆がチリのことを待っているんだよ。改造が始まって、3日も練習に出れてないでしょ?そんな感じで、皆調子が出ないみたいだから」

 

 その一言を聞き、宗谷はフッと笑った。

 

「調子が出ない、か・・・・・だったら早いとこ改造終わらせて、復帰しないとな。待ってる奴らがいるから、いつまでもぐずぐずしちゃいられねぇな」

 

 かほは宗谷の笑顔にホッとしていた。改造期間に入り、どこか思い詰めた顔ばかりしていたので、少しでも元気付ければという思いでルノーに誘ったのだ。

 かほは宗谷の屈託の無い笑顔をひそかに見つめた。それから30分間、2人はゆっくりとお茶を飲み、「また明日」と言って別れた。

 

ーー

 

 

 宗谷が寮に帰宅し、部屋に入ると福田たち5人が図面を広げて話し合っていた。図面を覗くと、チリの駐退機の設計図だった。岩山が宗谷に気付き、今の現状を伝えた。

 

「あ、お帰り。中々帰ってこなかったから、俺たちなりに原因探ってたんだよ」

 

「悪いな、西住とお茶に行ってたから遅くなった。それより、原因は分かったか?」

 

 宗谷が座ると同時に福田が近寄り、図面に指を指しながら説明した。

 

「俺たちは中に入ってるグリセリンが沸騰して、『エアの噛み込み』が起こったんじゃないかって睨んでんだ」

 

 エアの噛み込みとは、液体が入っている配管に気泡が発生してしまうことを意味する。吸湿性がある液体に起こりやすい現象で、湿気を吸って沸点が下がり、外からの熱で沸騰してしまうことが大きな原因だ。

 エアの噛み込みが発生すると、油圧が気泡を潰してしまう方にかかってしまうため、100%伝えることが出来なる。

 つまり、浮動ピストンに掛からないといけない油圧が噛み込んでしまった気泡を潰す方に掛かり、圧縮圧力が上がらなかったことが原因ではないのかと福田は推測していたのだ。それには宗谷も納得がいったらしい。

 

「・・・・・なるほど、漏孔を通るときに摩擦熱が発生するから、その熱で沸騰してエアが噛み込んだなら説明がつくな」

 

 考え込む宗谷に、福田がある物を差し出した。

 

「それと、これ。シリンダーに入ってたグリセリンだ、かなり変色してるだろ?」

 

 宗谷が手に取り、粘度(ねんど)と匂いを確かめた。匂いに違和感は無いが、粘度は少し落ちている。グリセリンは吸湿性があるため、経年劣化で沸点が下がったと考えられた。

 そこで、グリセリンでは無く耐熱性、耐吸湿性に優れた『シリコンオイル』に入れ換え、漏孔の大きさも一から考え直すことになった。

 宗谷が設計図を書き直していると、福田が話し掛けに来た。かなり深刻そうな顔をしている。

 

「なぁ、宗谷。今度のテストは俺たちも参加させてくれよ。お前の配慮は分からなくはないけど、チリは俺たちの手で組み立てたんだ。だから、俺たちだけ傍観するだけなんて嫌なんだ。頼むよ」

 

 福田の訴えに、宗谷は思わず昔のことを思い出した。宗谷がチリの設計、車体の製作を担当し、福田は走行装置製作、岩山と柳川が主砲搭、装填装置の製作、水谷と北沢が副砲、通信機の製作を担っていた。

 製作、そしてテストや改良もろもろ合わせて3年の時間を費やし、チリを完成させた。その間、誰1人欠けることはなかった。

 今思えばテストの時は危険なことだらけだったが、1人だけでやるということは一切なかった。失敗しても全員で笑い飛ばして、考え込む何てしたことがない。

 福田が言うように、全員で造り上げた物のテストを誰かに任せるほど詰まらないものは無いだろう。宗谷は手を止め、福田の方を向いて笑いながら言った。

 

「そうだな、俺たちで造ったものだから全員でテストしないと意味無いしな。明日は全員でやるぞ、怪我しないよう、注意するように言っておけ」

 

 その答えを聞き、福田は喜んだ。宗谷はその姿を見ながら設計の続きに入った。

 

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ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 翌日、宗谷たちは朝から駐退機の修復作業に入っていた。早く作業を終わらせ、早く練習に戻るために。宗谷の設計図を元に福田が新しいシリンダーを製作し、砲架に取り付けた。

 予定通り、シリンダー内にはシリコンオイルを充填させ、漏孔も少し大きめに製作した。理論上では成功するはずだが、本番になるとどうなるかは分からない。

 緊張感が漂うなか、旭日はチリと共に練習場に着いた。練習場には悟子たち率いる整備班、そして杏が待っていた。

 テストの内容は2キロほど先の的を狙い、撃ち抜くというもの。今までなら撃ち抜くことは出来ていたが、連続して射撃が出来る状態ではなかった。今回のテストが成功することだけを一心不乱に願いつつ、柳川が砲弾を装填する。

 装填完了と同時に岩山が的に照準を合わせ、トリガーに指をかけた。そして、宗谷がインカムを通して指示を送った。

 

「これより第3回射撃テストを実施する!充分に警戒し、怪我の無いように注意せよ!!岩山、目標確認が出来たら撃て!」

 

「了解、すぐに撃つぞ!」

 

 岩山はトリガーを握り直し、照準器を通して的を再確認する。そして、トリガーを思いっきり引く!

 

『ズドーン!!!』

 

 88ミリの爆音が響き渡り、弾は的に命中した!そしてチリの砲身は元の位置にゆっくりと戻った。宗谷は岩山に問題が無かったかを聞いた。

 

「岩山、大丈夫だったか?」

 

 宗谷の問いに、岩山はニッと笑いながら答えた。

 

「問題なし!砲身もちゃんと元の位置に戻ったから、大成功だぜ!!」

 

 その一言にチリの中は歓声に包まれた。宗谷はホッと胸を撫で下ろし、チリから下りて報告するために杏に近寄った。

 

「テストは成功しました。これで黒森峰と対抗に戦えます」

 

「本当!?やったじゃん!!あ、そうだ。渡さなきゃいけないものがあったんだ」

 

 そう言うと悟子から何かを受け取り、宗谷に手渡した。それは、大洗女子学園の校章が描かれたステッカーだった。

 

「角谷科長、これは・・・・・」

 

 驚く宗谷に杏は笑みを浮かべながら説明した。

 

「渡すのが遅れちゃってごめんね、あなたたちが本当に信用出来るかどうかを見極めてからにしようって思ってたんだ。黒森峰戦の前日辺りに渡そうって思ってたけど、そこまで待つ必要は無くなったからね」

 

 その笑みを見た宗谷は静かに一礼をした後、チリの車体に登った。砲搭に付いていたゴミを払い、ステッカーを張り付けた。ステッカーは日の光に照らされ、輝いている。

 福田たちも下りてステッカーを見つめた。ようやく認められた、そんな気がしていた。その様子を見ながら杏が近寄った。

 

「これで、君たちの改造は終わりかな?」

 

 その一言に反応するように宗谷が振り向いた。

 

「いえ、まだ終わってません。今度は俺たちが変わる番です。完成テストは終わっているんで最終調整だけですから昼までには出来ます」

 

「じゃあ昼休み後にお披露目だね?」

 

「はい!」

 

ーー

 

 

 昼休みが終わり、生徒、指導員が格納庫前に集まり、新しくなったチリを見ようと待っていた。すると、格納庫の扉が開き、力強いエンジン音と共にチリが出てきた。

 その姿を見て少し歓声が上がった。チリが止まると「下車!」の指示を受けて乗員が全員下りてきた。下りてきた宗谷たちの姿にかほたちは驚いていた。

 いつもの戦闘服の上に加えて黒色のベスト、その胸元には近衛機甲学校の校章が光り、ヘルメットは元の物よりインカムが少し口元に近づいていて、黒色に変わっていた。

 そして肘と膝にプロテクターを着用している。その見た目からは、特殊部隊のように見えた。

 

「宗谷くん、何その格好・・・・・」

 

 呆然としているかほに、宗谷が説明する。

 

「これは近衛で厳しい試験に合格した者だけに着用を許される装備さ。旧日本軍で唯一存在した特殊部隊、『※S特攻部隊』から名前を取って名付けられたギア、『S特ギア』だ!」

 

 その一言に格納庫前は大きな歓声に包まれた。宗谷が言った通り、チリと一緒に変わったのだ。まさかここまで変わるとは想定外だったが。かほが近づき、宗谷に祝福の言葉を送った。

 

「宗谷くん、良かったね。このチリなら、黒森峰と互角に戦えるよ」

 

「ありがとう西住、だけどこいつはもうチリじゃない。『チリ改』だ」

 

 その一言にかほは小さくうなずいた。そしてお披露目の時間は終わり、チリ改と旭日のメンバーは数日ぶりの練習に向かっていった。

 その後の練習では、特に問題はなく無事に終わった。S特ギアの調子も良く、いつでも実戦で活躍出来ることが証明出来た。

 チリから取った75ミリ砲は、3式中戦に換装され『長砲身型』と名前を改められた。チリの改造に合わせ、3式中戦の改造も終わった。

 これなら黒森峰と少しは対等に戦えるだろう。黒森峰との決勝戦まで、残り2週間。

 




※解説

S特攻部隊

呉鎮守府第101特別陸戦隊』という海軍の特殊部隊の1つで、潜水艦を使用する隠密行動をすることが主任務だった。

部隊名として、指揮官の名字から取って『山岡(やまおか)部隊』と呼ばれていた。また、潜水艦を使用することから、『submarine(潜水艦)』の頭文字から取って『S特攻部隊』(略してS特)とも呼ばれていた。


今回も読んでいただきありがとうございました。

黒森峰との決戦が近づいてきました。これから活躍していくチリ改に期待してください!

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