突如現れたアンツィオ高校は、決勝戦前の大洗女子学園に練習試合を持ちかけてきた。新戦車であるセモヴェンテM41の攻撃に苦戦を強いられる。
戦車道科に戻ることを拒んだ琴羽は、戻る気すらなかったにも関わらず、一時的に戦車道科に戻ることを決断する。押されていた大洗も、急遽戻ってきた琴羽たちの協力によって反撃に成功する。試合で無事に勝つことが出来た大洗に、杏ほ琴羽と琴音に戦車道科への復帰を認める。
そして今、『真の西住流』と『もう1つの西住流』がぶつかり合おうとしていた。
〔それでは、これより黒森峰女学院と、大洗女子学園の決勝戦を開始します!〕
場所は決勝戦の試合会場、かほと夏が向かい合っていた。初めて戦った時と同じように・・・・・とは言えなかった。かほの横には、S特ギアを着装している宗谷が立っている。
黒森峰のメンバーを前に、特殊部隊員擬きが立っているというシュールな光景だった。そんな2人を前に、夏海が話し出す。
「・・・・・アンツィオとの試合で、かなり変わったようだな。だが、『もう1つの西住流』なんて物は無いことを証明して見せる」
「そ、そんなことない!私がもう1つの西住流があることを証明して見せる!」
言い返すかほ、キッと睨むように見返す夏海。そしてその間に割って入る宗谷。
「無いなんて事はないだろ?ここに後継者がいるじゃねぇか」
「所詮は付け焼き刃だ。お婆様が言っていたように、西住流は1つだ」
そう言い残すと夏海は自分のチームに戻っていった。宗谷は鼻で笑っている。
「フン、どっちが付け焼き刃か、思い知らせてやるよ。行くぞ」
宗谷とかほの2人も自分のチームに戻り、準備を始めた。
試合の前日、対黒森峰戦に向けた実戦練習を行っていた。相手は88ミリ砲が主力のティーガー1など、ドイツの戦車を主に保有しているので、これとほぼ同じ砲を持つチリ改とポルシェティーガーによる退避練習を主にやっていた。
ただ退避するだけではなく、近づいて近距離射撃で撃退する動きの習得などといった練習を積んでいた。特に岩山の射撃に関してはいい練習になっただろう。
S特ギアのインカムに変わったことで、声が拾いやすくなっただけではなく、射撃時に発生するノイズの低減も出来ているため、以前よりも指示は通りやすくなった。
そして正確で無駄の無い射撃、これがかほたちにとってかなりネックだった。岩山は動きを先読みし、遠距離でも容赦なしにバンバン当てていた。当てていたと言っても、ただ色が付くだけのカラー弾なので、当たったとしても損害は無い。
良い動きをしていたのはルクスだった。機動力が高いのと、琴音の操縦技術が劣っていなかったので、岩山が当てるのに苦労している姿が見れた。
そしてチリ改も練習をしたが、エンジンをディーゼルに換装したことで以前よりも加速力、立ち上がりが若干遅くなったこともあり、福田は苦戦していた。
エンジン換装だけで苦労するとは思っていなかっただろう。ただその変わりに馬力と頑丈さは上がったので、後は慣れるしかないだろう。
練習が終わった頃にはインクが大量に付き、落とすのが大変だった。洗車が終わったあと、杏が激励の言葉を贈った。
「去年負けちゃったけど、今のあなたたちなら絶対に勝てるよ。今までの経験を活かして、存分に戦ってきなさい!」
そして解散した後、宗谷たちはこっそりと格納庫に残って何やら怪しいことをしていた。黒森峰戦に向けて、こっそりと製作していた物らしい。そして、この新たなるマシンに乗るのは、水谷と北沢だ。
水谷の得意分野であるマシンだ、取り扱い方は知っている。しかし、乗っていたのが4年前の事なので少しうろ覚えの所もあったため、操作の仕方を思い出すだけで手一杯だった。
「ハァー、こりゃ本番でどうなるかってとこだなぁ。ただでさえ思い出すだけでいっぱいいっぱいだってのに、これじゃあ試合で役に立てそうにねぇよ」
「そんなに悲観すんなよ。万が一乗れなくても、使うか分からないからさ」
「だけどさぁ、これ使えんのかよ・・・・・攻撃力は無いにしても、こいつは・・・」
「そう言った場面にならない限りは、極力使わないつもりでいるぜ。あくまでも、これは最後の切り札だ」
そして現在、かほは試合展開を予測していた。去年はかなりの接戦だったが、今年はどうなることか。これまでの試合展開を調べると、夏海が愛用している予測プログラムがバージョンアップし、「動きを100%読んでいるかのような攻撃が来た」と言っていた。
様々な攻撃方法は考えてきたが、勝利するには臨機応変に対応しなければならないだろう。そして、忘れてはならないのは、これで優勝出来なければ戦車道科がなくなってしまうということ。
母であるみほと同じ状況に置かれてしまったが、そんなことは言っていられない。今までみほたちが守って来た物だ、見捨てるなんて出来ない。
ここで絶対に優勝して、廃科を食い止めないといけない。自分で立てたマニュアルを読み直していると、宗谷から通信が入ってきた。
〔西住、まずは纏まって動くんだよな?〕
どうやら試合の動きの確認のために通信してきたらしい。
「うん、そうするつもりだけど、黒江さんたちは別行動で偵察に出てもらうよ。位置の把握は大事だから」
〔よし、内容はこれで良いな。相手が何だろうと関係ねぇ、一気に勝負を付けようぜ!〕
張り切る宗谷、しかしかほは不安気味だった。試合に勝たなければならないという
考えることは、今の実力が通用するのかということだけ。『撃てば必中、守りは固く、進む姿に乱れなし。鉄の掟、鋼の心』、それが、本当の西住流・・・・・
〔『自由な発想、奇術で挑みチームワークで切り抜ける。自由な掟、楽しむ心』だぜ、西住。この流派に偽者なんてねぇ、ただぶつかり合うだけだ。ただ、俺たちは事情があるけどな〕
どうやら聞こえていたらしい。安心した反面、恥ずかしさで顔が一気に赤くなった。チリ改では各装備の最終確認を行っている。アンツィオ戦では駐退機に問題はなかったが、その問題点を逆に利用しようと仕掛けをしていた。
「うーん、これが上手くいけば良いんだがなぁ」
岩山が例の仕掛けを眺めながらぼやいた。新マシンと同じように、これも最後の切り札なのだ。一歩使い方を誤れば、自爆しかねない。それでも取り込んだのは、
腕に自信はある、でもこれだけでは護り抜けないと思う自分がいた。かほと同じように、宗谷も珍しく緊張していた。
『最後の最後まで護り抜く!旭日に二言は無い!!』
と、しほの目の前で言い切ったのだ。ここまで来て負けるわけにはいかない、負けられないのだ。大洗に同じ運命を辿らせないためにも、勝たなければならないのだ。
場所は変わり、観戦席。大洗の指導員、全員が見守っていた。本当なら自分達がどうにかしなければならないのに、娘たちに押し付ける形で戦車道をやらせていることが申し訳なかった。
「隣、失礼しますよ?」
ほのかに香る紅茶の香りと共に、ダージリンがみほの横に座った。手にはティーカップを持ち、注がれている紅茶はまだ暖かそうに湯気を揺らしている。
「ダージリンさん?あなたの仕事は?」
「有給を取りましたわ。あなたの娘さんの決勝戦、どのような内容になるのか気になったんです。それと旭日のメンバーがどんな試合展開を見せるのか、期待してますわ」
ニッコリと笑顔を見せるダージリン、その間に今度はケイが割り込んできた。
「ハロー、西住!応援に来たわよー!」
明るい声と共にダージリンの横に座るケイ、応援のためにわざわざ有給を取ってきてくれたらしい。
「お、ダージリンも一緒だったのね?あなたも応援に?」
「ええ、37年前と同じような光景が見れますからね」
「何よー。ミホーシャだけじゃないのー?」
不満そうな声を上げたのはカチューシャだ、隣にノンナも立っている。
「私が一番乗りする予定だったのにー」
「カチューシャ様が時間を間違えていなければ、一番乗りだったかもしれませんね」
痛い指摘をするノンナ、そして少し顔を赤らめるカチューシャ。
「ッ!そ、そう言うことは言わなくて良いの!座るわよ!」
みほの横に座るカチューシャ、そして4人の話題は旭日の活躍についてと、かほたち率いる大洗チームが、今度こそ勝つのかということだった。
「旭日はかなり腕を上げたと思いますよ?ルフナとの対決の時よりも動きが良くなりましたからね」
「私はニューマシンが出ると思うなぁ。リンとの試合の時にはロケット砲が出てきて、プラウダの時にはサイドカーでしょ?きっと何か新しい物出すって」
とケイは言うが、あれだけ桃に怒られたのだ。正直もう来ることはないだろうとみほは思っていた。
「あんな物を出すなんて卑怯にも程があるわ!サイドカーと戦車じゃ圧倒的に機動力が違うでしょ!?」
「それでも、カチューシャ様は、珍しく試合を止めませんでしたね」
「う・・・・・ち、ちょっと気になっただけよ!次に何か変なもの出したら絶対に止めるわ!!」
ノンナはクスッと笑っていた。本当は、物凄く興味津々で見ていたということを知っていたから。
「あー、西住!やっと見つけたわ!今度こそちゃんと応援に来たわよ!娘のね・・・・・」
バタバタと駆け込んできたのはアンチョビだ。走っきたのか、息が上がっていた。37年前は寝坊してしまい、起きた頃には試合が終わっていたという事があった。『
さっきまでもこの4人で盛り上がっていたので、5人に増えたことで会話が弾んでいる。
「あの時は西住家同士の直接対決を見れなかったからな!今度こそしっかりと目に焼き付けてやるぞ!」
アンチョビは旭日よりも夏海とかほの試合展開の方が気になっているようだ。去年の試合の時は出張だったで見ることは叶わなかったのだ。目の前に置かれているモニターを見ながらカチューシャが話始める。
「去年の試合もかなり凄かったわよ。お互いに隙を見せないし、攻めと防御のバランスが取れていたしね」
「ええ、まさに接戦というやつですね。どちらも譲らず下がらずでしたからね」
こんな感じで、口々に試合のことを話す5人。37年前時と同じような試合が目の前で広がっていたのだ。興奮するもの当然だろう。
「あれが接戦だとは言い切れないと私は思うがな」
声がする方向に視線を変えるとまほとしほが座っていた。これで、戦車道の主要メンバーは全員揃った。
「勝つのは夏海だ。
「去年は負けてたけど、今年は私たち大洗女子学院の勝利で終わらせて貰うよ。かほは、きっと勝つ」
「
しほは密かに行われた口喧嘩を聞き流し、じっと目の前のモニターを直視していた。大洗チームが、試合開始を待っている姿が映る。そして、信号弾が打ち上がり、『パーン!』と大きく音を立てる。
〔試合、開始!!〕
合図と共に両校の戦車が一斉に動き出す、最終試合の始まりだ。ルクスが隊列を離れ、森の中に消える。琴羽から通信が入った。
〔私たちはこれから隊列を離れ、そちらに向けた情報共有の任に付きます。もう同じ失敗は繰り返さないから、心配しないで。検討を祈ります!〕
通信が切れ、かほたちは戦闘体勢に入る。敵からの攻撃を避けるため、まずは森の中に入る。ここまでは予定通りだ、ここから黒森峰がどう動くかが気になるところだが・・・・・
〔全車!敵戦車が森に入って来たわ!!攻撃に警戒せよ!〕
琴羽の声と共に情報が伝わる。予定より大分早い、ここまで来ていると言うことは、アップデートされた電子戦の力は侮れない。そしてかほは、予定の行動を変更して、別の方法で対策を取ることにした。
「敵が近づいてきたら、発煙筒を投げてください!ここで足止めをして、森を抜けます!」
木が密集気味の森なので、発煙筒を使えば敵を混乱に陥れることが出来るなのだ。サンダース戦でも森の中で大量の発煙筒をばら蒔いて足止めに成功しているので、効くかは分からないが、試す価値はある。と思っていると宗谷から助言が来た。
「西住、風向きがやや東よりだ。俺たちがいるのは南東よりだから、南側に寄らないとこっちが迷うぞ」
「分かったわ、全車西南よりに転進。転進したらエンジンを切って待機してください!」
かほの指示通りに動き、木の裏に隠れて様子を見ることになった。それから20秒と経たない内に黒森峰が近づいてきた。数は12輌、フラッグ車であるティーガー1を始め、ティーガー2、そして4号突撃砲『ラング』が3輌、そして残りはパンターこと5号戦車が7輌だ。
残りの戦車が何処にいるかは定かでは無いが、今は目の前にいる戦車に集中する方が先決だろう。かほたちが発煙筒を投げようとするなか、夏海はソフトで敵の動きを探っていた。
大洗チームまで残り3メートル弱と行ったところで、突然停止するように命じた。マリカは通信を通して夏海に質問をする。
「隊長?何故止まるんです?」
「・・・・・私たちの戦車とは別の排ガスの匂いがしている。この匂いは・・・・・ディーゼル車だ」
黒森峰にはディーゼル車はない。つまり、近くに敵がいるということになる。嗅覚がここまで優れていることはかほも知らない。さらに悪いことに、丁度風上にかほたちが待機しているので場所まで特定されてしまった!
「目標、10時の方向。撃ち方始め!!」
黒森峰の攻撃がかほたちを襲う!砲弾は木に当たり、破片が飛び散る。かほたちが反撃に出るが、時すでに遅し、既に囲まれていた!もう発煙筒を投げても意味はない。
「終わりだ・・・・・ん?」
夏海が何処か違和感を感じた。ルクス以外はここに集まっているはず、それなのに・・・・・この違和感は何なのだろうか?
「隊長!何を迷っているんですか!早く止めを刺しましょうよ!」
マリカが痺れを切らして通信してきた。目の前に標的はいる、あとは撃つだけだ。夏海が指示を出そうとしたとき、突然『パパパパーン!!』と破裂音が響いた!その音で味方も敵も一瞬固まった。
そしてその隙を狙っていたかのように、マシンガンを持った宗谷たちが現れた!
「旭日は戦車だけじゃないってことを見せてやる!行くぞ野郎ども!!」
宗谷、柳川、水谷、北沢の4人が散開し、マシンガンを射ちながら戦車の間をすり抜けながら走っている!戦車の中では何が起こっているのか分からない。夏海はようやく違和感の原因が分かった、チリ改がいつの間にか消えていたのだ。
どの隙を狙ったのかは知らないが、今はフラッグ車を撃破する方が先だ。ティーガー1の砲手が、4号に狙いを付ける。しかし周りの戦車が応戦し、上手く狙いが定まらない。
おまけに歩兵と化した宗谷たちがためらいなく戦車の上に乗ったりして攻撃を妨害するのだ。撃つどころの話ではない。
「隊長、妨害工作が激しすぎます!新たな作戦指示を!」
指示を出そうにも今までにない事例なので、夏海も少し困惑気味だった。歩兵対戦車の対処法なんて知るはずがない、と思っていると、パンターの1輌から白旗が上がった!チリ改が動き始めたのだ!インカムを通して、宗谷が通信している。
「福田!突破口を形成!形成と同時に西住たちを囲いから解放する!」
〔任せろ!すぐに形成してやる!〕
チリ改が撃破したパンターに近づき、ワイヤーを接続する。そして轟音を立てながら思いっきり引っ張る!何も抵抗が出来ないパンターが退かされ、突破口が作られる。
その隙を縫ってかほたちが脱出した!夏海が妨害しようとするが、宗谷たちがばら蒔いた発煙筒で周りが見えなくなってしまった。煙が晴れた頃には、もう既にいなかった。
「何ボケーっとしてんの!!さっさと捜しにいきなさい!!」
マリカの指示で一斉に捜索に分かれていった。夏海はタブレットを触り、新たなる作戦を練り直していた。
「はぁーーー・・・・・歩兵役なんて勘弁してくれよー・・・・・」
柳川が大きく息を吐いている、マシンガンを持たされて走り回るのは堪えたようだ。ちなみに持っていたのは100式機関短銃、チリ改の搭載性を考慮して選んだサブマシンガンだ。
そしてもう1つ、何故チリ改が後ろを取れた理由は、敵の砲撃音と同時にエンジンを始動と同時に一気に回り込み、一時エンジンを切って待機し、緊急的に編成した歩兵隊を所定の位置に付かせたのだ。
先程の破裂音の元は爆竹で、敵を混乱に陥れるには持ってこいのことだった。
現在は黒森峰がいた位置から離れ、次の作戦を考えていた。ルクスからの情報だと、敵は散開しているらしく、纏まって動くのは危険だろうと言われた。相手の編成は2~3輌で1チームらしく、1輌だけでの行動は危険だろうと思われた。
しかしかほは、纏まると発見されたときの損害が大きくなるといい、1輌ずつで行動しようと提案した。確かに損害のリスクは減らすことが出来るかもしれないが、相手は2~3輌、たった1輌で対抗するなんて不可能に近い。
見つかれば75ミリ砲と88ミリ砲に袋叩きにされてしまう。それでもかほは単独行動を取ると言い続け、宗谷と意見が合わず言い合いになっていた。
「ダメだ、危険すぎる。たった今囲まれたばっかだろ?」
「大丈夫だよ!だっ、だって宗谷くんたちのと初試合の時だって上手く隠れられたし!」
「そん時はそん時だろ、毎回毎回そう上手く行くわけない」
福田たちはこのやり取りをボーッと眺めていた、こんなことをしている場合では無いような気がするのだが・・・・・その状況を見かねて、北沢が間に入った。
「単独行動させても良いんじゃねぇのか?
北沢が言っていることが正しいかったからか、宗谷は何も言えなかった。宗谷に出来ることは、助言と護ることだけだ。
「・・・・・分かった。ただし、何かあったらすぐに連絡しろ。負けてからじゃ遅いからな」
「分かったわ。それじゃあ、スポット187(市街地)で合流しましょう。解散してください!」
各車で走行ルートを決め、それぞれで発進し出した時、宗谷は1輌だけで去っていく4号を見ていた。その様子を見てか、福田が話し掛ける。
「本当に良いのかよ。フラッグ車1輌だけで単独行動だなんてさ」
「・・・・・良い訳ないだろ、正直不安でしかないよ」
「だったら、何でもっと説得を・・・」
「だから福田、
かなり遠回しではあったが、宗谷は福田に見張らせることにした。かほも昔より成長しているだろう、しかしそれと平行するように夏海も成長しているのだ。音沙汰なしで突破させてはくれないだろう。
福田は張り切って陸王のもとに走って行き、すぐに4号の後を追いかけていった。チリ改は、遠回しに4号の軌跡を追いながら走行していた。
それから2分後、4号は川沿いの道を走っていた。その後を陸王が追い掛けていく、
「おいおいおい、大丈夫かよ川沿いなんて」
福田が追い掛けようとスロットルを吹かそうとしたときだ!4号の後をパンターが追い掛けていった!福田はインカムの電源を入れ、チリ改に向けて通信する!
「宗谷!緊急事態だ!
〔何!?分かった!今すぐに向かう!見張りを続行しろ!〕
もう『偵察』ではなく『見張り』に変わっていた。しかしそんなことはどうでも良い、今は4号の見張りを続行する方が先だ。スロットルを吹かし、川沿いの道に入っていった。
一方、4号は緊張感に包まれていた。言い出したのはかほだが、既に後悔していた。しかし、後悔する暇は無さそうだ。
『バァーン!!』
と音を立て、近くに立っていた木に命中して破片が飛ぶ。さっきのパンターだ!かほは待避すると言い、七海は加速する!パンターからの猛攻が4号を容赦なく襲う、さらに目の前には別の敵が待ち構えていた!
別方向に逃げようにもパンターが回り込み、逃げ道が無い!後ろは川だ、下がろうにも下がれない。そんな危機的状況にも関わらず、パンターはじわりじわりと距離を詰めてくる。4号の車体が少しずつ崖に寄っていく、何も出来ないことを良いことに、追い詰めていく。
「に、西住殿!緊急事態です!」
「このままじゃ墜ちちゃうよぉーー!!」
「西住さん!指示を!!」
焦る5人、無慈悲に迫るパンター、そして揺れだす車体、みほたちもその絶望的な状況に手に汗を握っている。車体が半分近く崖から出てしまったその時だ!パンターに向かって数発の機銃弾が当たった。見ると、陸王が急速で接近しているではないか!
片手に機銃を握る福田、表情は不安そうだが止まろうとはしていない。後で何か問い詰められたら、「偵察に出ていたらたまたま遭遇した」と言えば済むだろう。パンターの砲手は陸王を捉え、攻撃態勢に入っていた。
「サイドカーでこのパンターに挑もうなんて、自殺行為も良いとこね」
1発だけ脅しのつもりで射撃したが、陸王は怯まない。機銃で反撃し、パンターに近づいていく。
「くっそー、全っ然効かねぇ、って言ったって効くわけがねぇよな、ただの機銃だし・・・・・」
片手に握る機銃をチラッと見て、パンターから離れようとしたとき、パンターの1輌が陸王を追い掛けだした!しかも牽制のためか、機銃を撃ちながら。
「え?嘘ぉーー!!」
陸王は攻撃を回避しながらパンターと共に森の中に消えていった、残ったパンターはそのまま4号の前に立ち塞る。手も足も出せない4号、援軍を呼ぼうにも通信が繋がらない。
絶望的だった、これで終わるのかと誰もが思ったその時だ!
〔西住!今肉眼でお前たちを捉えたぞ!!〕
宗谷だ!チリ改と共に援軍に来た!アクセル全開でパンターに近付いていく!パンターの車長が標的を変えようとする。
「チッ、もう少しだったのに!まぁ良いわ、大物がやられに来たんだから!さぁ、我が黒森峰の力を見せつけてやりなさい!」
砲搭がチリ改を睨む、そして『ドーン!!』と音を立てて砲弾がチリ改の車体に当たり大きく揺れる!態勢を立て直しつつ、急速接近していく!
「
宗谷から『衝撃に備えろ』と言われるときは、突進するときだけだ!!車内は一斉に対衝撃姿勢を取り始める。砲身保護のため、砲搭を後ろに回し、岩山と柳川は安全姿勢を取る。
宗谷は更にアクセルを踏み込み、速度を上げながらパンターに突っ込んだ!『ガァーン!』と打撃音が響き、火花が散る。パンターの履帯が地面を削りながら横にずれ、チリ改が横に付く!
「岩山ぁーー!!撃てぇーー!!!」
岩山が指示に合わせてトリガーを引き、パンターを一撃で撃破した!流石は88ミリ、パンター1輌を撃破するのは容易いようだ。岩山は興奮しっぱなしだ。
「やったぜ!見たか黒森峰!これが俺たちの新戦力だ!」
「そんなことは良いから、4号を助けるぞ」
宗谷が操縦席から降りて4号に近より、砲搭のハッチを開けた。由香は涙目で、藍は手が震えていた。かほは息が上がったらしく、呼吸を整えていた。
「だから1輌だけで動くのは危ないって言ったろ。たまたま近くにいたから対処出来たけど、マジで危ないところだったんだからな。何で単独行動にこだわったのかは知らねぇけど」
「だ、だって・・・・・宗谷くんたちに頼りっぱなしだったから、私たちだけで対処しようって、思ってたの・・・・・」
「頼りっぱなしって事はなかったぞ?西住は西住らしく戦ってきたじゃねぇか。まぁ、今は、とっととここを離れた方が良いな。動くなよ?崖が崩れかかってるかもしれないから」
宗谷は砲搭から降りると崖の状態を見た。ヒビが入り、崩れかかっていた。動き始めると崩れる可能性があったので、4号の変速ギアを
早速4号のフックにワイヤーを取り付け、チリ改と繋いだ。そして岩山の操縦でゆっくりと牽引を始めた。宗谷は4号の車体に乗り、岩山に指示を送っていた。しかし、宗谷たちは気付いていなかった。七海がエンジンの始動がいつでも出来る状態を作っていたことに。
ワイヤーが張り、4号の車体が軋み音を上げる。車体が安全圏に入り出したものの、緊張感が漂っている。岩山がアクセルを少し強めに踏み込み、『ガクン』と車体が揺れた。
七海にはその揺れで墜ちると思い込み、エンジンを始動させてギアを1速に入れ、アクセルを吹かして前進し始めた!
「うわ!冷泉!!止せ!!」
あまりの緊張に耐えきれなかったのか、その声は届いていない。同時に、一気に崖が崩れて4号が川に堕ち掛ける!岩山がとっさにアクセル全開にしたことで落下は防げたが、4号の自重で徐々に川に引き込まれていく。
「宗谷!何があった!?おい!応答しろ!」
岩山の声は宗谷のインカムに届いていた、しかし答えられる状況に無かった。車体が急に斜めになり、とっさに片手で掴まってどうにか耐えていた。真下は川が流れ、川底が見えないほど深そうだった。
どうにか両手で車体を掴み、体全体を車体に戻せた。息を荒げてインカムの電源を入れる。
「大丈夫だ!ちょっと斜めっただけさ」
「斜めった所じゃねぇだろ!落下の前触れってやつとかじゃないのか!?」
エンジン全開で引き上げようとするが、リアエンジンの4号は後ろが重いこともあり、履帯が地面を捉えられずにスリップしている。
その時、パンターに追い回されていた陸王がようやく帰ってきた。福田はまさかの状況に驚いていた。
「はぁーー!!??何じゃこの状況ーー!!」
叫んでいる福田に、4号の車体にしがみつく宗谷が声を張り上げる。
「福田!水谷と北沢をスポット64に運べ!アレを使うぞ!!」
「は!?お前正気か!?テスト無しのぶっつけ本番で使えると思ってんのか!?」
「ここで使わないと、4号は落下する!こんなとこで終わらないためにも、早く連れていくんだ!急げ!!」
珍しく怒鳴る宗谷に、福田は従うしか無かった。他に方法は無いのだから。
「分かった!水谷!北沢!早く来い!!」
戦闘室から2人が慌てて出てきて、陸王に乗り込んだ。乗り込みを確認すると陸王は全速力でスポット64に急行した!
スポット64に着くと、2人は取り付けていたカバーを取り外し始めた。
「早く来いよ!あの様子だと、10分も持たないぞ!」
「分かってるって、すぐに駆け付けるさ!」
陸王はその場を去り、チリ改のもとに戻っていった。カバーを取り外すとすぐに乗り込み、出撃準備を始めた。後席から北沢の不安そうな声が聞こえてくる。
「本当に大丈夫なのか?結局テスト無しで行くことになったけどさ」
「今はそんなこと言ってられるか!検査じゃ問題は無かったんだから大丈夫であることを信じるしかないだろ!エンジン始動!」
水谷がエンジンを掛けた頃、観戦席では焦り声が響いていた。4号が落下ギリギリの状態で、チリ改が砂ぼこりを巻き上げながらも懸命に引っ張っていた。
そんな緊迫感の中、しほにある連絡が入っていた。『戦車以外の何かが発進しようとしている』、と。モニターから映る映像は、チリ改の救命現場から木々が生い茂る森に変わった。
木葉が風で揺れる木々の間から排ガスらしき煙が上がっていた。それから20秒程度経った時、『戦車以外の何か』が姿を現した。
それを見た観客たちは困惑の声を上げていた、それはヘリコプターの原型にあたる、『オートジャイロ』だったのだ。
「『旭日
ホバリングで上がってきたのは旭日機甲旅団の最後の切り札であるカ号観測機だった。使うつもりは無かったのだが、救援のために
機体の横には、旭日のマークと『旭日機甲偵察隊』という文字が書かれていたので、みほたちには宗谷が準備していたものだとすぐに分かった。
「高度230メートル、水平飛行に移る!」
水谷が操縦桿を倒し、カ号は真っ直ぐ救援現場に向かった。しかし、宗谷たちはこの救援作業に、究極の選択を迫られることを知らなかった。
※解説
カ号観測機
旧日本軍陸軍が開発した対潜哨戒、弾着観測を行うために開発されたオートジャイロのこと。対潜は対潜水艦のことを指し、海軍の『あきつ丸』に搭載される予定だった。
ちなみにカ号の名前の由来は『回転翼機』の『カイテン』の頭文字からとって『カ号』という名前が付けられた。後に『オートジャイロ』の頭文字から取って、『オ号観測機』と名前を改められた。
滑走距離は約30~50メートルだが、向かい風があれば数メートルの滑走で離陸が可能だったと言われている。
いかがだったでしょうか。決勝戦で起きたピンチ、そしてピンチヒッターとして現れたカ号観測機、4号の運命はどうなるのでしょうか?
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