ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

ついに始まった黒森峰戦、森林での妨害工作をしようにも戦車の位置がバレてしまったことで戦況は黒森峰が有利に!

しかし歩兵と化した宗谷たちの活躍により生還、ここでかほは各車単独行動に移るという指示を出す。単独行動になり、4号が川沿いの道を走行中にパンターに遭遇。追い詰められ回避不能に!
絶体絶命という危機にチリ改が参上!パンターを撃破し、危機は脱した・・・・・と思ったが束の間、崖からの救助作戦中に七海が4号を動かしたことにより状況は悪化してしまう!
そんな4号落下の危機に現れたのは、旭日の最後の切り札、カ号観測機だった!


第20章 奇術で挑む突破作戦

「な、何よアレ!!オートジャイロじゃない!!」

 

 カチューシャが指を指すモニターには旭日の切り札、カ号が写っていた。空を悠々と飛行しているカ号は、4号の救助現場に急行している最中だった。ケイは自分の予想が的中したからか、喜んでいた。

 

「ほら、言った通りでしょ!?彼らのニューマシンよ!」

 

「これはまた・・・・・珍しい代物ですわね。日本軍にヘリなんて無いと思ってましたから」

 

 不思議そうに見つめるダージリン、そして少し落ち着いた様子でカチューシャが話す。

 

「どっちにせよ、あれで危機的状況をひっくり返せるの?人、1人吊り上げるだけで一杯一杯な感じじゃない」

 

「『見掛けによらない』という言葉があるでしょう、 カチューシャさん。旭日(彼ら)の事です、きっと奇跡を起こしますよ」

 

『奇跡を起こす』、みほにはその言葉がグッときていた。今までの試合でも、どんな危機に陥ったとしても旭日の6人は想像のつかないことをやりのけ、勝利に貢献してきた。

 様々な奇術で挑み続け、敵味方を混乱させることも度々してきて、桃に怒鳴られることも少なくなかったが、それでも奇術で挑まなかった試合は数少ないだろう。そして、今も。

 

「あのような小型オートジャイロで、24トンもある4号は引き揚げきれない。物理的に考えて、4号と一緒に落下していくぞ」

 

 まほは既に不可能だと思っているらしい。小型が大型を持ち揚げるのは確かに不可能かもしれないが、みほはこう言い返した。

 

「物理的に言えばそうかもしれないけど、理論だけじゃ分からない事だってあるよ。旭日(彼ら)が、それを証明してくれる」

 

 みほたちがいる席から少し離れた席では、ルフナとリゼがティーカップを片手に持って試合観戦をしていた。モニターに映るカ号を見て、リゼは驚きを隠せない。

 

「すっ、凄い。宗谷佳の差し金でしょうか?」

 

「大方そんなところでしょう、こんなことを思い付くのは宗谷(彼以外)いませんわ」

 

 飽きれ気味に紅茶を啜るルフナだが、隠れたところで旭日の試合は度々観戦していた。何だかんだ言いながら気になっていたのだろう。

 リゼはその度に付き合わされていたが、初めての戦車道でここまで勝ち上がる新米もそうそういないと思ったのか、旭日の動きを研究し、自分の物にしようと色々と考えていた。

 ただ、試合観戦に来ていたのはルフナ、リゼの聖グロペアだけではなかった。サンダースのリン、プラウダのサティ、ルリエーペア、アンツィオの千代子も一緒だった。

 観戦席で見れば良かったのに、折角だから集まって観戦しようと言うことになったのだとか。リンと千代子は盛り上がり、サティ、ルフナの2人は呆れていた。

 リゼは興味津々でモニターに目をやり、ルリエーは興味なさげな感じだった。呆れ声でサティがポツリと呟く。

 

「あいつらもバカよねぇ、後で協会側から咎められても何にも言い返せないわよ」

 

 興味津々でモニターを見るリン。

 

「でもさ、凄いと思わない?旭日のメンバーがオートジャイロを出そうっていうイメージが出来るなんて」

 

 戦車道のあるべき姿を問いかける千代子。

 

「もはやイメージ所の話じゃない、あいつらは本当に戦車道がどういうものなのか分かってんのか?」

 

 ルフナは紅茶をゆっくりと呑みながらモニターに目を向けた。

 

「サイドカーを出した時点で、戦車道らしさも欠片もありませんでしたよ。彼がイメージしている戦車道と、私たちがイメージしている戦車道は少しズレていますから」

 

 口々に批判を募らせる3人だったが、宗谷との試合を通して自分達には足りないものがあることに気付いていた。チームワークとしての結束力だ。

 別に結束力が無いという訳ではない、同期、先輩、後輩みんな仲はいいし、連携も十分に取れている。それでも、旭日の連携の良さに勝てたとは思っていなかった。

 飛行中のカ号は、全速力で救助現場に向かっていた。北沢が懸念していたトラブルが起きることは無く、問題無しで飛行していた。後少しで救助現場に着く、水谷と北沢は、どういった対処をすべきかお互いに話し合っていた。

 

「先に乗員を救助した方が良いだろ?その方が重量の軽減が出来て、やり易くなると思うけど」

 

「いや、もう時間がない。乗員を助け出す前に4号が落下する可能性が高い、ウインチ使って後部(リア)側から引っ張り上げた方が良い」

 

 2人の意見が交差していると、救助現場が見えてきた。あれから少しも動いた感じは無く、苦戦している様子が伺えた。北沢が無線を通して宗谷に通信を試みる。

 

「宗谷、聞こえるか?今チリ改と4号の真上に着いたぞ!」

 

〔やっと来たか!もう落下寸前だぞ!〕

 

 4号は自車の履帯でどうにか地面を捉えているもの、状況はかなり悪化していた。チリ改下の地面はもう削れ過ぎて掘削機状態、七海は車体が斜めったときに頭をぶつけたらしく、気絶していた。

 先に戻った福田がチリ改と大木を鎖で繋ぎ止め、これ以上下がらないように対策を取っていたが、木からは「ミシミシ」と不吉な音が聞こえ始めている。

 乗員を救出してほしかったところだが、怯えて動けそうにないのでこのまま作業を行うしか無さそうだ。

 

「宗谷、今からワイヤーを降ろす!そのワイヤーと4号を繋いでくれ、何とか引き揚げる!」

 

 水谷が左手側に付けられているレバーを引くと、カ号からワイヤーが降ろされた。宗谷がワイヤーの先に付けられているフックを4号と繋ぐ。

 

「接続完了!引き揚げろ!!」

 

 指示に合わせてスロットルを全開位置まで開く。機体がホバリングで上に上がり、ワイヤーが張り詰める。ワイヤー自体は重量級でも耐えられるが、心配なのはカ号のフレームだ。

 元の設計上では60キロの爆弾(乗員2名に対し、爆装時は1名のみ)を1発しか搭載しない構造なので、24トンも重量がある4号を引き揚げるのは至難の事だ。

 

 設計を多少変更してはいるものの耐えられるかはまた別問題だ。だがそんなことを気にすること無く、カ号は上に上に上がろうとしている。エンジンから唸り音が聞こえ、プロペラが高速で回り、フレームが「ギシギシ」と音を立てる。

 カ号は全力を出していたが、4号はびくともしない。そこで、垂直ではなく前に進むように引こうと考えた。進行方向に進めば早く引き揚げれるのではと思ったのだ。

 

 ホバリングをやめ、進行方向に操縦桿を倒す。機体が前に進み出すが、状況は変わらない。そこでまた、新たなる問題が発生していた。エンジンが上手く冷却出来ず、異音が発生していたのだ。

 異音が出始めていたのはカ号だけではなく、チリ改も同じだ。お互いに空冷式のエンジンで、かれこれ13分近くこの状態でいる、走行風すらまともに当たらないので、エンジンが異音を出してもおかしくない状態なのだ。

 水谷はいち早く異常に気付き、シリンダーの温度を表示する『筒温(とうおん)計』と、エンジンオイルの温度を表示する『油温(ゆおん)計』を見た。表示温度を見ると、既に限界温度を超えていた!

 水谷は危険を感じ、エンジン出力を若干落とした。これで冷却出来るわけがないのだが、自爆しないためには仕方がない。すると異変に気付いた宗谷から通信が来る。

 

「水谷どうした!?エンジン出力が落ちてるぞ!」

 

「油温計と筒温計が限界超えたんだよ!オーバーヒートする可能性が上がったから少し出力を落としたんだ!」

 

「何!?くっそ!爆発しない程度に出力を上げろ!」

 

 車体はさらに後ろに下がり、チリ改と大木を繋ぐ鎖が「ギシギシ」と音を鳴らす。

 宗谷は何か出来ないか模索していたが、何も出来ずにいた。チリ改とカ号のエンジンからは異音が響き、今にもオーバーヒートしそうな状態だった。もう手立てはない、そう思った時、天気が宗谷たちに味方をした!

 

「雨だ!雨が降りだしたぞ!」

 

 北沢が空を指差していると、ポツリポツリと雨が降ってきた!雨水はエンジンを濡らし、少しずつ冷やしていった。そのお陰でオーバーヒートを気にすることは無くなった。

 

「こんな時に雨が降るなんて・・・」

 

 水谷が信じられないという顔で空を見ていた。それは観戦席に座っているみほたちも同じだった、ダージリンが言ったように、奇跡を起こしたのだ。

 エンジンは十分冷却出来た。しかし、ここで新たに問題が発生した。

 

「ヤバい、雨で地面が濡れたからスリップしてる!」

 

 チリ改が走る地面が泥濘に近い状態になり、履帯が地面を捉えられずスリップしているのだ。どうにか地面を掴もうにも、そこらじゅう泥だらけで捉えられないのだ。

 この報告が宗谷の耳に入り、柳川に履帯の下に石や枝を敷き詰めるように指示を送った。これで少しは捉えやすくなるはずだ。

 

 柳川はそこらでかき集めた石や枝を敷き詰めたが、チリ改は前に進むことが出来ない。岩山が操縦に慣れていないこともあるのか、焦ってしまっていた。福田と交代させた方が良いのだが、今は時間がない。

 福田も陸王とチリ改を繋ぎ、牽引しようとするがタイヤはスピンする一方で進む気配すらない。さらに、川が増水し、濁流に変わっていた。万が一落ちてしまったら助かる保証は無い。

 引き揚げるために必死になる戦車とオートジャイロ、宗谷でもどうしたらいいのかわ分からずにいた。

 

 〔かなり苦戦しているようだな〕

 

 突然謎の通信が入ってきた、声は何処かで聞いたことがあったような?宗谷がインカムを通して通信を返す。

 

「誰だ!こんな時に通信暇なんてない!」

 

 〔『誰だ』とは失礼だな、まぁ、いい。戦車道協会長の西住だ〕

 

 通信の相手はしほだった。この状況になってから5分後ぐらいの時に、通信機を持ってこさせていたのだ。こんな時に通信してくるとはどういうつもりなのか?

 

「何の用ですか!?」

 

〔そんなに慌てることはない、1つ提案をしようと思っただけだ〕

 

 この通信は旭日のメンバー全員に聞こえていた。福田は怪しさを覚えた。

 

(提案?このタイミングで?旭日(俺たち)を懸念してると思っていたが・・・・・)

 

 〔その状態では拉致が開かないだろうから、戦車回収車を出して手助けでもと思っただけだ〕

 

『手助け』、その言葉がしほの口から出るとは誰も予測出来なかっただろう。横で聞いていたみほとまほは驚いていた。

 

「手助けですか、それは有難い・・・・・と言いたいところですけど、何か条件があるんでしょ?」

 

 〔察しが言いな、その通りだ。何も難しくはない、お前たちが()()退()()すれば済むことだ〕

 

「「「「「「途中退場!!??」」」」」」

 

 旭日のメンバーは唐突過ぎる一言に思わず叫んでしまった。4号を助ける条件が、()()()()()退()()だとは思いもしなかった。宗谷がしほに言い返す。

 

「ここまで来たっていうのに、途中退場だなんて言語道断だ!」

 

 〔意地だけでは乗り越えられないこともある。この状態が続こうものなら、あと3分と持たないだろう。4号と共に心中するか、それとも4号を生き残らせるために自らを犠牲にするか、好きな方を選べ〕

 

 どっちにしても、旭日が犠牲になることに変わり無い。しほの言葉が宗谷たちに刺っていた、『共に心中』するか、『自らを犠牲にして途中退場』するか・・・

 

「宗谷!どうすんだ!このままだとマジでヤバいぞ!!」

 

「んなことは分かってる!!だが、途中退場なんて絶対にしない!任務は、果たさなければならないんだ!!」

 

 宗谷はそう言うが、しほの言うように意地だけで乗り越えるのは無理だ。どうにかして流れを変えなければ、心中してしまう可能性が非常に高い。

 宗谷がどうしようか考えていた時、ある1つの言葉が浮かんだ。

 

『4号を生き残らせるために自らを犠牲にするか』

 

(『生き残らせるために()()()()()()()()』・・・・・なら、俺はこれを犠牲にする!!)

 

「チリ改!カ号!そのまましっかり牽引してろ!!」

 

 宗谷がそう言うと、操縦席に座っていた七海を引っ張りだし、砲搭の中に入れた。七海を預けると急いで操縦席に座り、エンジンを始動した!北沢が音を聞き、宗谷に通信をする。

 

「何やってんだ!?そんなことしたら落下する危険性が高まるぞ!」

 

 北沢の声を無視し、4号は少しずつ前進を始めた!あまりに突然過ぎて何が何だか分からない。観戦席に座っている観客たちも、4号が動き出したことに驚いていた。

 救助しようとしている車両を動かそうという発想に行き着くとは誰も思わなかったことだ。かほは宗谷に怒鳴るように叫ぶ。

 

「ちょっと!やめて宗谷くん!!落ちちゃうよ!!」

 

「今は4()()()()()()()()()()()()しか方法はないんだ!後部(リア)が重くて沈んでいってるから、少しずつでも動かさないと拉致が開かない!とにかく今は、これしかない!!」

 

 さらにアクセルを踏み込み、車体が『ガゴン』と揺れる。履帯は滑り、エンジンは唸り、車内は悲鳴が響く。操縦レバーを握る手は震え、手汗で滲んだ。

 履帯がグリップするところを探りながら操作を続け、少しずつ動き出した!

 

「あと少しだ!踏ん張れ!チリ改!カ号!!」

 

「分かってるって!全力で行くぜ!」

 

「くっそぉー!!行くぞおらぁー!!」

 

 岩山がアクセルを吹かし、水谷はスロットルレバーを全開位置まで押し込んだ。2輌の戦車と、1機のオートジャイロの音がこだまし、4号が進み始める!

 

「行っけぇーー!!4号ぉーー!!!」

 

 宗谷がアクセル全開にし、クラッチを繋いで動力を伝える!その勢いで、4号が崖っぷちから飛び上がった!

 

『ガゴォーン!!』

 

 鈍い金属音を立て、4号は止まった。崖からの救出に成功したのだ!

 

「やった!やったぞぉーー!!!」

 

 思わずガッツポーズを決める福田、あとの4人も歓声を上げていた。宗谷は、操縦レバーから手を離し、背もたれに寄り掛かった。

 

「っはぁーー・・・・・危なかった・・・」

 

「宗谷くん・・・・・」

 

 くたびれている宗谷に、かほの泣きそうな声が聞こえてきた。かほを見てみると、既に涙目だった。

 

「怖かったか?もう大丈夫だ」

 

 かほはその言葉に安心したのか、泣き出してしまった。かなり緊張していたのだろう。

 

「おいおい、泣くのはそこまでにしとけよ。黒森峰に勝利するまでは、嬉し涙として取っておけ」

 

 宗谷は操縦席から降り、繋いでいたワイヤーを外し始めた。その様子は観戦席のモニターに映し出されている、しほはその映像をじっと見ていた。

 

「『奇術で挑み、チームワークで切り抜ける』、宗谷()はそう言ってましたね」

 

 その横でまほがポツリと呟いた。救出でオートジャイロを使う『奇術』、誰1人無駄な動きをしない『チームワーク』、宗谷が言っていた通りに事は進んでいるように思えたのだろう。

 

「まさか救出出来るとは思わなかったけど、夏海が作る『防衛ライン』はそう簡単には突破出来ないでしょう。彼らもそこで足止めよ」

 

ーー

 

 

 かほたちがようやく落ち着いたみたいなので、ぼつぼつ動くことにした。目覚めた七海は落ち込んでいたが、かほたちが励ましたので、試合は続行出来そうだ。

 

 ちなみに通信機が繋がらなかった理由は、栞の操作ミスによるヒューマンエラーによるものだった。動き始めようとしたとき、先行したはずのチームが戻ってきた。通信機に穂香の声が入る。

 

「ごめーん、西住ちゃーん。『防衛ライン』作ったみたいで突破出来なかったよー」

 

『防衛ライン』、去年の試合の時も市街地に移動するときにこれに当たり、一気に4輌ほどやられてしまったという苦い経験がある。二の舞にさせまいと撤退させたのは良い判断だった。

 

(夏海お姉ちゃんの防衛ラインは簡単に突破出来ない。だけど・・・・・突破しないと市街地には行けない、どうしよう・・・・・)

 

 黒森峰の配置は市街地に向かう道を完全に塞いでいる状態で、何処に動いても狙われてしまう始末らしい。相手の戦車のデータ、そしてその戦車に乗る乗員のデータを利用して動きを先読みし、撃破する。それが夏海の電子戦なのだ。

 天才的な頭脳を持つ夏海、そして狂うことのない電子の力。この2つが合わさり、100%外すことの無い最強チームが出来ている。

 やみくもに動いたとしても、正確かつ無慈悲な攻撃が襲ってくる、しかし何か対策を立てようにも時間がない。意見が飛び交う中、宗谷がある提案を持ち掛けた。

 

「ようはその防衛ラインとかいうのを突破すれば良いんだろ?」

 

「簡単に言うけど、突破するのは難しいんだよ?バラバラで動いたとしても、すぐにカバーが入るから1輌突破出来たら良い方だよ」

 

「1輌じゃなくて、全車で一気に突破するんだ。よし!『A7V式突撃作戦』実行だ!」

 

 何だか聞いたことの無い作戦名が出てきた。『A7V』はドイツ初の突撃戦車のことだが、その名前を組み合わせた作戦を考えていたようだ。

 唯一理解出来るとこと言えば、作戦名に『突撃』と入っているのだから突撃することは間違いない。ただ『A7V』という単語が入っていることが気になる。と思っていると宗谷が指示を出し始めた。どうやら隊列を作るらしい。

 

 指示に従いながら戦車を動かしたが、出来た隊列は練習の時に作ったものと全く変わらない。変わったことは、チリ改が混ざったことと、4号が丁度真ん中に来たことだろうか。

 先頭にヘッツァー、その右後ろに3突、左後ろにチリ改。3突の後ろにM3、チリ改の後ろに89中戦。M3の後ろにポルシェティーガー、89中戦の後ろにB1。そして、ポルシェティーガーとB1の間を取るように3式中戦が入り、ヘッツァーの真後ろに4号を配置した。

 真上から見ると、菱型になっているという謎の編成が出来た。こんな編成で、どうやって突破しようというのだろうか。考え混むかほたちに、宗谷から説明が始まった。

 

「この編成で例の防衛ラインを突破する。つまり、どんなことが起こったとしても編成は崩してはならない。全ての戦車の最高速度はバラバラだから、ワイヤーで全戦車を繋げる。それから・・・

 

ーー

 

 

 市街地に唯一抜けられる道を黒森峰が塞いでいた。夏海の予想では、突破はほぼ不可能だろうと確信していた。去年と編成は差ほど変わらないが、大丈夫だろうと思ったようだ。

 キーボードを「カタカタ」叩きながら、次の作戦、またその次を考えていた。考えているのは夏海ただ1人、車内はキーボードを叩く音しか聞こえず、会話は全く無い。何処と無く寂しい気がする。

 

 〔西住隊長!敵戦車の音が聞こえて来ました!接近している模様です!〕

 

「分かった。全車、戦闘に備え!敵が来たら予定通りに攻撃を開始しろ!」

 

 夏海の指示で一斉に所定の位置に付いた。各方面に対応出来るように、車体と砲塔の位置は各車でバラバラにしている。準備が整った時、戦車のエンジン音が響いてきた。

 

(来たか・・・・・どう足掻こうと、無駄であることを教えて・・・・・!?)

 

 夏海はまさかの光景に一瞬戸惑った。相手は拡散すること無く、また避けること無く、猪突猛進のごとく防衛ラインの真ん中を全速力で駆けていく!宗谷がチリ改の操縦席から指示を送っていた。

 

「全車、ヘッツァーの最大速度に合わせ!作戦通り、各方面に向け、牽制攻撃を開始せよ!撃ち方始め!!」

 

 正面はヘッツァー、3突、M3の副砲、チリ改の副砲が対応し、右方面はチリ改の主砲、89中戦、が対応。左方面はM3の主砲、ポルシェティーガーが対応し、後方はB1が護っていた。

 陸王が機銃を撃ちながら先行し、空からカ号が進路を指示しながら飛行している。特に狙いは定めていない、牽制になればそれで良い。今はひたすら市街地に向かうだけなのだから!

 

「あいつら、この状況で市街地に抜ける気!?」

 

「全車撃ち方始め!」

 

 一斉攻撃が始まった。陸王は危険を察し、隊列から離れた。黒森峰の攻撃が大洗の隊列目掛けて飛んでくるが、お構いなしに進んでいく。

 

(別々で動かず、纏まって一直線に進み、敵の懐を突破する。これが、A7V式突撃作戦)

 

 黒森峰の方は今までなかった事態にあたふたしていた。バラバラに動く的には有効だが、纏まって動く敵には不利だということを思い知らされていた。

 塞ごうとすれば別に穴が空くので、そこを突いて逃げていくのだ。しかし黒森峰も逃がしまいと隊列めがけて攻撃してくる。しかし、その攻撃も空しく、敵を逃す結果となった。

 

「攻撃中止だ、隊列を崩せ。それから市街地に向かう、急げ!」

 

 夏海は冷静だった。これだけ混乱していた中で、正確で落ち着いた判断が出来ている。相手がどう出ようとも、深追いはせず、まずは自分のチームをどうにかすることが先決だと思っているからだろう。

 大洗チームは防衛ラインを突破し、市街地に向かっていった。今回の要因は、味方の位置を把握しきれていなかったマリカの判断ミスだ。隊列を組み直している最中も、悔しそうに隊列を睨んでいた。

 

ーー

 

 

〔こちらルクス、敵はさっきの位置から少し動いた程度よ。余裕を持って市街地に向かえる、私たちはもう少し相手を見張ってから市街地に向かうわ〕

 

「分かったわ、引き続き偵察をよろしくね」

 

 琴羽からの情報を聞いたときには市街地の入り口にまで差し掛かっていた。ワイヤーを外す時間が無かったので、そのままで走行していた。

 市街地に辿り着くとワイヤーを外し、自由に行動出来るようにした。ルクスからの新しい情報によると、敵戦車が市街地に到着するのは5分後だろういうことだった。それだけ時間があれば対策を立てるには充分だ。

 

「後方!敵戦車が2輌接近しています!」

 

 優香子が後ろを指差しながら叫んだ。最初から市街地(ここ)にいたらしい。

 

「あれは・・・・・マウスです!超重戦車のマウスと・・・・・ティーガー2・・・・・ですか?」

 

 1輌はマウスであると識別出来た、もう1輌はティーガー2らしい。しかし、双眼鏡を覗く宗谷には、それが()()()()()2()()()()()ということが分かっていた。

 

「全車回避!!あれはティーガー2じゃなくて・・・・・」

 

 迫る2輌の戦車から砲撃が始まった。その攻撃で、近くにいたB1がいとも簡単に吹っ飛ばされてしまった!

 

「え!?え!?何これ!?こんなのあり!?」

 

 突然吹っ飛ばされてしまったB1を見る栞、宗谷は双眼鏡を片手に叫んだ!

 

「あれはティーガー2じゃない!あれはもう1つの重戦車、150ミリ砲を装備しているE-100だ!!」

 

 

 




今回も読んでいただき、ありがとうございました。

諦めない宗谷たちの意思が、奇跡を起こしたのかも知れませんね。

ちなみに、宗谷が名付けた作戦『A7V式突撃作戦』。この作戦に何故A7Vの名前が入っているのかというと、隊列を作った見た目がA7Vに類似していたから、だそうです。


さて、市街地に着いたまでは良かったものの、新たなる敵、マウスとE-100が大洗チームに牙を剥く!果たして、大洗チームの運命やいかに!?


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