ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

市街地到着した大洗チーム。そこには超重戦車が2輌待ち構えていた!超重戦車に苦戦し、B1と3式中戦、M3がやられたが、超重戦車の撃破には成功した。

そして何故か別行動を取っている、黒森峰フラッグ車、ティーガー1撃破のため、チリ改と4号は目的地に向かっているところだった。



第22章 倒れて行く戦士たち チリ改の危機!

 作戦を立て直し、それぞれの行動に移った大洗チーム。4号はチリ改と行動を共にし、他の戦車はそれぞれで交戦することとなった。

 4号とチリ改は、スポット364に向けて進軍していた。かほがポツリと質問を投げ掛ける。

 

「ねぇ、宗谷くん。さっき護衛付いてって言ったとき、不満そうにしてたけど、護衛の任務嫌になった?」

 

「そう言う訳じゃないんだ。護衛に付けることは有り難いことさ。ただこれほどの大役を担うのが俺たちで良いのかって話さ」

 

「何だ、そんなこと?良いに決まってるじゃない。それに、あなただから私は護衛に選んだんだよ?だから、自分達で良いのかなんて思わないでよ」

 

「・・・・・良く分からないんだが、そういうことなら快く引き受けるよ」

 

ーー

 

 

 一方、別行動を取っているヘッツァーは、壁沿いに身を潜め、隊列が通りすぎるまで待機していた。ルクスから「敵は5輌で2チーム、6輌で2チームの3チームに分かれて動いている」と情報が入り、その1つのチームに奇襲を仕掛けようということだ。

 パンターが3輌、重駆逐戦車エレファントが1輌、という編成らしい。ただ、奇襲を仕掛けると言っても、隙をついて後ろに回り込むというだけで、上手く付けれたとしても撃破出来ずに終わってしまう可能性が高かった。

 それでも最悪足止めが出来ればそれでいい。目的はフラッグ車を撃破する、ただそれだけだ。穂香が照準器を見ながら呟く。

 

「来たねぇ、みんな準備は良い?」

 

「い、行くしか無いですもんね。準備は出来てますよ、ただ心の準備が・・・・・」

 

「ええい、そんなこと言っている場合じゃないだろ!今はこうするしかないんだ!とにかく今は、行くしかないだろ!」

 

「よーし、隊列が私たちの目の前を通り過ぎたら一気に前に出てね」

 

 ヘッツァーの目の前を隊列が通り過ぎていく。柚子の手は震えていたが、深く深呼吸をして落ち着きを取り戻した。

 

「どう?落ち着いた?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「よーし、突撃ぃー!!」

 

 柚子がアクセル全開でヘッツァーを前に出し、攻撃を開始する。黒森峰側は突然現れた敵に反撃するが、軽快に動くヘッツァーを追うだけで手こずっていた。

 

「梅ちゃん!次!」

 

「梅ちゃんじゃありません!!」

 

 隊列の周りを走り、次から次へと砲弾を撃ち出す。砲撃から装填までスムーズに進めているので攻撃がほぼ途切れることなく続いていた。

 それに加えて柚子の素早い切り返し、撃破には至らないものの、引き付けておくには十分な動きをしている。これで時間が稼げる、穂香はそう思っていた。

 

ーー

 

 

 一方 スポット364を目指す2輌は、何もない静けさの中、市街地を走っていた。エンジン音を響かせ、堂々と道を走る2輌を止めるものはいない。

 この状況にかほは怪しさを感じていた。ここまで堂々とした状態で市街地を走れるなんて普通では考えられないことだ。隠れているのか、それともただ気づけていないだけなのか。

 だが、この2つ選択肢があるなかで、『気づけていない』はあり得ないと思っていた。相手は大洗側の数は把握しているはず、だとしたらすぐに追っ手が・・・・・

 

「西住、風に排ガスの臭いが混じってる。何かが近づいている可能性がある、警戒した方が良いぞ」

 

「宗谷さん?何を言っているんですか?私たちが走っているんだから排ガスの臭いがしても当たり前なんじゃないですか?」

 

「気のせいかもしれないんだけどさ、ガソリンエンジンの排ガスの臭いが濃い気がするんだよなぁ。今走っているガソリン車は4号(そっち)だけだろ?」

 

 藍は全く気にならなかった。排ガスの臭いが濃いと言われても、大馬力エンジンを載せているので普通のことではないのかと思っていたからだ。

 しかしかほは、宗谷の警告に耳を傾けていた。ただの思い過ごしになるかもしれないが、警戒することに越したことはない。と思っていた。

 

「来たぞ!6時の方向!ティーガー2とパンターが2輌だ!!」

 

 真後ろからは戦車3輌が接近していた!2輌は振り切るためにアクセル全開で進み始めた。逃げ始めたと察してきたのか、後ろの3輌が攻撃を仕掛けてきた。

 砲弾が地面に当たり、破片が飛んでくる。それでもひたすら逃げることだけに集中した。今すべきことはここで交戦することではなく、敵のフラッグ車を倒すこと、ただそれだけだ。

 

「冷泉!今から発煙筒を投げる!その隙にこの先角を曲がれ!」

 

「・・・・・何故宗谷(お前)が指示する?まぁ良いか、分かった」

 

 宗谷がガンポートを開け、発煙筒を投げ付ける。煙が上がり、辺りが真っ白になった。ティーガー2が砲撃で煙を払うと、既にいなかった。

 

「チッ、小癪な真似を・・・・・まぁ良いわ。こうなることは予測済みよ」

 

 宗谷たちは、どうにか振り切れたので少し安心していた。ただ目的地からは少し遠ざかってしまったので、近道が出来るルートを選択しているところだった。福田がジーっと地図を睨んでいる。

 

「えーっと、ここを行って、それから・・・・・クソッ、これも駄目か。これじゃ逆戻りするだけだ」

 

 優香子も頭を掻きながら地図を眺めている。

 

「うーん、どの道を使っても絶対に敵と鉢合わせになる可能性が高いでありますね。壁をぶち抜いて近道するしかないでありますよ?」

 

「だったら壁ぶち抜くか?」

 

 岩山の冗談にかほは焦りながら答える。

 

「だ、駄目だよ!そんなことしたら敵に位置を知らせることになる!」

 

「ハハっ、冗談だよ、冗談。だけど、これだったら壁ぶち抜いた方が早そうだな。何たって、どの道使っても遠回り気味だし、安全に行けそうにないし」

 

 岩山も優香子と同じ意見のようだが、宗谷は別の意見を持ち出した。

 

「近道探すよりも、どうやってスポット364(この場所)まで行くかだろ?安全に行くんだったらもう1輌戦車がいた方が良い。『遊軍(ゆうぐん)』はいるか?」

 

 水谷は首をかしげた。

 

「? 『友軍』ならいるぞ?」

 

「そっちの『友軍』じゃなくて戦略的に何もしていない状態にいる方の『遊軍』だよ」

 

『遊軍』とは、特定の任務に付かず待機している部隊のことを指す。つまり、暇している部隊、ということ。

 

「とりあえず通信してみよう。近くにいるかも」

 

 北沢が通信機の周波数を調整し、別の戦車に通信を試みる。まずは3突から。

 

「今現在戦闘中だ!これはまさに、※ヒュルゲンの森の戦いか?」

 

「いやそこは※嘉数(かかず)の戦いだろ?」

 

「違う※クルクスの戦いだ!」

 

「・・・・・いや、※モスクワの戦いぜよ」

 

「「「それだ!!」」」

 

 北沢は何を言っているのか分からなかったが、応援は呼べないと言うことだけは分かった。

 

「つまり、無理ってことだな。戦闘頑張ってくれ」

 

 そう言い残し、別の周波数に合わせて89中戦に通信する。

 

「ごめーん、今無理だよ。敵に奇襲仕掛けようと思ってるからさ」

 

 そして次にポルシェティーガー。

 

「今エンジントラブル起こしたから進軍出来ないなぁ。中々動かないから10分ぐらい掛かるよ?」

 

 そしてヘッツァー、ルクスに通信してみたが、反応が無かった。ヘッツァーは戦闘中で、ルクスは偵察行動中の時は基本通信機を切っているので通信が来ていることに気付けない。応援は呼べそうにない。

 

「なぁ宗谷、こりゃ無理だぜ。どの戦車も応援来れねぇって言ってるぞ」

 

「しゃぁねぇ、自力で行くしか方法無いな。取り合えず動こう」

 

 ここでボーッとしていても仕方ないので、少し危険かも知れないが目的地に動くことになった。各車エンジンを始動させ、走り出そうとした時、後ろから敵戦車が現れた!

 

「ヤバイ!!全速前進!!突っ走れ!!」

 

 宗谷が指示を出し、4号 チリ改が全速力で走り出した時に砲弾が地面に当たる。今は目的地に行くより、振り切る方が先だ。

 エンジン音をバリバリに響かせながら走り、チリ改が反撃をしながら振り切ろうと試みる。追って来ているのはパンター3輌、40キロ近く速度が出せるので簡単に追い付かれてしまう。

 

「速度を上げろ!追い付かれる!」

 

 宗谷が速度を上げるように指示を出す。

 

「・・・・・無理だ。これが限界」

 

 4号の最高速度は約38キロ、パンターは約44キロと、速度はパンターの方が速い。チリ改だけなら振り切ることは可能だったかも知れないが、前に4号を走らせているので簡単に追い付かれてしまう。

 

「なら強引に上げるしかねぇな!福田!4号を押せ!」

 

「無茶ぶりにも程があるって、まぁやるけどさ」

 

 アクセルを更に吹かし、4号に近付いていく。履帯同士がぶつかり、火花が散った!

 

「これ以上近づくのは危険だ!履帯が接触しちまう!」

 

「だったら攻撃中止!砲塔を元の位置に戻して、砲身を車体に当てろ!それなら多少距離を稼げる!」

 

 すぐに砲塔を戻して砲身を下向きにし、車体に当てる。当たったことを確認した後、アクセル全開で4号を押し始める。

 

「よっしゃぁ!ターボディーゼルの底力、見せてやる!!」

 

 チリ改が少しずつ加速し、徐々に引き離していく。※ブースト計は最大圧力を指している。

 

「福田、あまり加速させ過ぎるな。4号を押す分負荷が掛かっているから、下手するとターボが飛ぶぞ」

 

「分かってるって、ちゃんとブースト計確認した上で加速させてんだからな!」

 

 更にアクセルを踏み、加速させていく。しかし、ただ真っ直ぐ走るだけでは攻撃を避けることは出来ない。その状況を変えるため、かほが福田に通信する。

 

「福田くん、私たちが2つ目の角を曲がるから相手に気づかれない程度に速度を落として。それから、例の『リボルバーショット』を決めて」

 

「曲がるは良いが、この速度じゃ急制動でも掛けないと安全に曲がれないぞ。いくら幅があるからって言ったって・・・・・」

 

「理論ばかり言っても何も解決しないよ!とにかく言われた通りにして!!」

 

(言うようになったな。いろいろあって吹っ切れたか?・・・・・取り合えず西住(あいつ)の指示に従うか)

 

「分かった。そっちの判断に任せるよ。岩山、久々にやるが、行けるか?」

 

「任せとけって、絶対に決めてやる!」

 

 チリ改が少しずつ減速していき、4号もそれに合わせて速度を落としていった。それでも速度は34キロ、かなり無茶なことをしなければならない状態にいる。

 

「冷泉さん、ちょっと無茶な頼みかも知れないんだけど、聞いてくれる?」

 

「・・・・・『横滑りで曲がれ』、か?」

 

 七海はかほが何を言い出すかを予測していたかのように聞き返してきた。

 

「うん。この速度で普通に旋回したら横転する可能性があるから、横滑りで切り抜けて欲しいんだけど」

 

 その頼みを聞いて七海は緊張してきた。1度目で横転させてしまった記憶が蘇ってきたのだ。初見だったとは言え、横転させた上に乗員を危機に晒してしまったことは忘れられない。

 福田からレクチャーを受けたが、不安要素が消えたとは言い難い。あれから横滑りなんてしていない。する機会が無かったと言うこともあるが、トラウマが残っていて出来る自信がない。

 

「良いか冷泉、自分が曲がりたい方向に操縦レバーを操作しろ。後はブレーキングとアクセルワークだけでどうにかなる」

 

 福田が七海に声を掛ける。その言葉に安心したのか、緊張感がスーっと消えていったような気がした。

 

「分かった・・・・・ありがとう」

 

 旋回まであと10秒、七海は横滑りに備える。操縦レバーをグッと握り、距離を目測で捉える。

 

「行くぞ!!」

 

 と声を上げ、一瞬急制動を掛けてレバーを操作し、車体を横に滑らせる!「ガガガガガ」っと火花を散らしながら、車体は角を曲がっていく。

 そのタイミングに合わせ、チリ改は車体をぐるんと1回転させ、照準器が目標を捉える!

 

「行っけぇーー!!リボルバぁーショットぉーー!!」

 

 岩山の掛け声と共に真後ろに付いていたパンター目掛けて砲弾が飛んでいく!砲弾はパンターの砲塔と車体の間に当たり、1発で撃破できた。

 そのお陰で、後ろに付いていたパンター2輌が足止めを喰らう羽目になり、多少時間が稼げた。チリ改は砲塔を戻し、すぐ4号に追い付いた。

 

「上手く行ったな西住。これなら、暫くは追われることは無いぜ」

 

「うん。冷泉さんが上手く切り抜けてくれたからね」

 

「たまたま上手く行っただけだ」

 

 かほに褒められ、七海は少し頬を赤らめた。そして幸いなことに、目的地からはそんなに離れていない。少し走ればすぐに着ける。宗谷たちは先を急いだ。

 

ーー

 

 

 一方、交戦中だった3突は、敵の増援が現れたことで一気に不利になってしまったので、一旦下がって様子見をしていた。

 猛攻を受けながら反撃し、撃破出来たのは随伴していた3号戦車のみ、美幸は悔しそうにパンター5輌が通り過ぎていくところを見ていた。

 

「参ったことになってきた、この調子だと西住殿たちのもとに敵戦車が向かっていくことになるぞ」

 

 美幸は次の手を考えたが、今の状況で次の手が通用する感じが無い。せめてもう1輌居てくれれば、と思う自分がいた。考え込む美幸に、装填担当の鈴木(すずき)(らん)(貴子(たかこ)の娘)が心配そうに話しかける。

 

「※ハインツ(美幸のあだ名)、これからどうするつもりだ?このままでは」

 

「分かってるよ※ブイヨン(蘭のあだ名)、だが我々だけではあの隊列を撃破できない。近くに味方が居れば良いのだが・・・・・」

 

 美幸はそう言うが、砲手担当の杉山カヨ子(清美(きよみ)の娘)と、操縦担当の野上武美(たけみ)(武子(たけこ)の娘)はこう返した。

 

「私たちに味方の増援なんて皆無に等しい。最後の1輌になったとしても、我々だけでどうにか切り抜けなくては」

 

「たとえ1輌だけでも、何か出来ることがあるはずぜよ」

 

 2人の言っていることは間違ってはいない。だがたった1輌で何が出来るのか、そう思ったとき、1つ名案が浮かんだ。

 

「・・・・・そうだ!これなら隊列(やつら)の動きを止められるぞ!」

 

 急に大声を出す美幸、一体どんな作戦を思い付いたというのか。

 

「隊列が逃げ道の無い一本道に入ったところを狙う!※加尾(かお)(武美のあだ名)!急いで回り込むぞ!!」

 

 回り込んでどうしようというのだろうか、取り合えず言われるがままに先回りした。隊列は狭い路地に入り、文字通り逃げ道の無い一本道に入っていった。

 路地は戦車2輌がギリギリで通れるかと言った幅しかなく、道の途中には角も何もない。隊列が道を出ようとしたその時だ!

 

『ドォーン!』

 

 と砲撃音が響き、先頭を走っていたパンターの履帯が外れた!乗員が慌てて前を見ると、3突が砲を構えている姿がチラッと見えた。死角に隠れていたようだ。

 隊列はすぐに下がろうと後退し始めたが、3突が阻止した。素早く回り込み、最後尾を走っていたパンターの履帯も破壊、残った3輌は味方に閉じ込められてしまった。思っていたより上手くいったので美幸は喜んでいた。

 

「よし、これなら暫く動けないだろ。ブイヨン、加尾、※与一(よいち)(カヨ子のあだ名)、よくやってくれた。ありがとう」

 

「私たちは言われた通りに動いただけだ。礼を言われるほどのことじゃない」

 

「ブイヨンの言う通りだ、水くさいこと言わなくても良いぞ」

 

「そんなことより、早く動くぜよ。すぐに敵の増援が来るぜよ」

 

 武美がシフトレバーを動かし、走り出そうとしたその時!

 

『ズドォーン!!!』

 

 と轟音が響き、3突は後ろから半回転し、横転してしまった!その後ろには、マリカ率いるティーガー2が砲を構えていた。履帯が切れ、白旗を靡かせる3突を眺めながら、閉じ込められた友軍に通信する。かなり機嫌が悪いようだ。

 

「あんたら何をどうしたらそんな間抜けな状態に陥るわけ!?まぁ良いわ、救援隊が来るまでそのままじっとしてなさい!私たちがチリ改(あの戦車)を吹っ飛ばしてくるわ!」

 

ーー

 

〔すまない西住殿、我々カバチームもやられた。ただ戦車2輌撃破して、3輌を閉じ込めることは出来たから、暫くは安心だ。あとは、任せた〕

 

「分かりました、救援隊が来るまで待機しててください」

 

 これで残った戦車はあと5輌、相手は残り約14輌、圧倒的に不利だ。だが、フラッグ車を撃破してしまえばあとはこっちのものだ。今は目的地である、スポット364を目指すだけだ。

 チリ改と4号の2輌は、周囲に警戒しながら進んでいく。安全に行けるルートは、無い。

 

「後方6時!敵戦車5輌!パンター 3!エレファント!ティーガー2!」

 

 マリカが率いる戦車隊が迫っている!2輌は速度を上げ、振り切ろうとする。その2輌をパンターが追い掛けていく!

 

「冷泉さん、敵の流れ弾が飛んでくる可能性があるからジグザグに走行して」

 

 かほの指示でジグザグ走行に切り替え、逃走を図る。宗谷は一撃必勝を考え、リボルバーショットを決められるか福田に聞いていた。

 

「福田、もう一度リボルバーショットを決められるか?」

 

「これ以上は履帯が切れるから無理だ!通常戦で持ち堪えるしかない!岩山!砲搭回せ!!」

 

「言われずとも回すよ、いい加減反撃してぇとこだしな」

 

 チリ改の砲搭が後ろに向き、反撃を開始する。チリ改の攻撃はかわされ、更なる猛攻が2輌を襲う。パンター3輌が同時に攻撃し、反撃の隙すら与えない。

 当たりはしないものの、近くに着弾する度に地面が揺れる。チリ改の砲身には、砲を安定させる『ジャイロスタビライザー』という部品が付いているので、照準さえ合えば当てられないことはない。

 

 しかし、砲弾を避けるため、右に左に揺れているので落ち着いて射撃が出来ない。岩山は揺れる車内の中で、当てようとはせず、()()()()という気持ちでトリガーを引いていた。

 当てるのが不可能なら、反撃のために撃ってた方が良い、と思っていたが、新たに問題が発生した。

 

「ヤバいぞ。主砲砲弾携行数が半分切った、あと49発だ」

 

 柳川が砲弾を確認したところ、既に半分を切っていた。これ以上砲弾の無駄は出来ない。

 

「砲撃中止!敵の攻撃を避けつつ、4号を護衛する!砲搭戻せ!!」

 

 砲弾を節約するため、一旦攻撃を中止し、逃げることに専念する対策をとった。しかし相手からしてみたら反撃が無いということは好都合でしかない。

 反撃しないことを良いことに、容赦ない攻撃が2輌を襲う。砲撃が車体、砲搭に当たり、かなり危うい状態に陥っている。

 角を急旋回で曲がったり、発煙筒を投げたりしたがほぼ効果は無い。宗谷が機銃で応戦するが、猪突猛進のごとく迫るパンターを止めることは出来ない。岩山たちは必死に車体を掴みながら叫んでいる。

 

「本格的にヤバいことになってきたぞ!どうする!?」

 

「どうするもなにも、携行弾数減ってんだから反撃どころじゃねぇ!て言うか副砲弾大量に残ってるだろ!?」

 

「残ってるけど前方固定式何だから何も出来ないんだが!相手が前に来てくれたら助かるんだがな!」

 

「そうだ!福田!副砲(こっち)を向こう側に向けろよ!そうすりゃ反撃出来るだろ!?」

 

「全速力で後退しろってか!?そんなの危険すぎて出来るか!!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ車内。宗谷は呆れた表情で聞き流していたが、北沢の一言にピンと来ていた。

 

「福田、車体180°旋回。副砲を相手側に向けて、反撃するぞ」

 

「はぁ!?今言っただろ!危険だって!おまけに後ろ見れねぇんだぞ!どうやって避けろって言うんだよ!」

 

「俺が後ろを見るから指示に従って旋回すればいい。護るためだ!急げ!」

 

「・・・・・あぁー、もう!!どうにでもなれ!!」

 

 福田はやけくそで車体を半回転させ、副砲をパンター側に向ける!アクセル全開で後退させるのは恐怖でしかないが、宗谷が外に出て見張っている。今は任せるしかない。

 

「っしゃぁー!!岩山ばかりに良い格好させねぇぞオラぁー!!」

 

 出番が少なかったからか、水谷は張り切って砲撃している。37ミリ砲とは言えど、弱点に当たればかなり痛い。それにここ最近は水谷自身も射撃の調子が良く、以前よりは狙いが付けられるようになっていた。

 今は履帯を狙い、1発逆転を狙っているが上手く当たらない。攻撃が来る度に大きく揺れ、上手く砲撃が当たらない。

 

「なぁ福田、ちょっと揺れ抑えられねぇか?上手く狙えないからさ」

 

「そんなの出来るか!」

 

「お前ら何コントやってんだ?」

 

 北沢の静かな突っ込み、その静かさとは裏腹に砲撃音が響き渡っている。前が戦車の方を向いているので相手の砲弾の弾道を読むのは楽だが、逃げるには分が悪い。宗谷が指示を送っているにしても怖いものは怖い。

 

「宗谷くん!3つ目の角を曲がるよ!」

 

「了解!福田聞いてたか?」

 

「いや待て 待て 待て!この状態で曲がんの!?」

 

「そこは心配すんな。何もそこまでして曲がれとは言わねぇよ。水谷、最後の射撃だ!8秒以内で決めろ!」

 

「そんな無茶なぁ・・・・・照準さえまともに合ってねぇってのに・・・・・」

 

 独り言を溢し、照準をどうにか合わせる。

 

「水谷!旋回するぞ!」

 

 福田の掛け声と共に車体が回り始め、水谷は適当なタイミングでトリガーを引いた。そして後ろを走っていたエレファントの左の履帯に命中した!

 エレファントは操縦不能になり、壁に激突した後に横転してしまった。撃破と同時に車体が前を向く。水谷は初めて撃破出来たので喜んでいる。

 

「やったぜ!見たか!?1輌吹っ飛ばしたぞ!」

 

 北沢が水谷をどうにか落ち着かせ、4号とチリ改は角を曲がる。道は戦車が2輌通れるかどうか微妙な幅で、抜けるまでに時間が掛かりそうな感じだった。

 避けようにも幅が狭すぎてあまり動けそうにない。そして砲弾の命中率が少しずつ上がり、チリ改の車体、砲搭に当たり始めていたので、宗谷は嫌な予感がしていた。そして、その嫌な予感が適中することになる。

 

『ガキィーン!!』

 

 と金属音が聞こえてきたかと思うと、突然車体が不安定になりだした!

 

「福田!どうした!?車体が安定していないぞ!」

 

「最悪だ!!履帯外されて、操縦不能だ!!」

 

 福田が慌てて操縦レバーを動かすが、思う方向に進んでいかない!外されたのは右の履帯で、右方向にずれ始めていた。どうにか車体を安定させようとするが、流石に限界に来ていた。

 

「福田!前を右に向けて横に停車しろ!岩山!車体旋回と同時に、砲搭を右方向90°旋回!砲身を敵戦車に向けろ!!」

 

 左の操縦レバーを前に倒し、右方向に旋回する。砲搭が90°旋回し、火花を散らしながら横向きに停車した。チリ改の停車と同時に、パンターも止まってしまった。

 

「何やってんのよ!さっさと進みなさい!」

 

「無理です!あの中戦車が道を塞いでしまっています!先に行けません!」

 

 横向きに停車し、主砲がパンターに抵抗する。宗谷が咳き込みながら乗員の無事を確認する。

 

「ゲホゲホッ 全員無事か!?」

 

「無事な訳あるか!履帯外されて行動不能だぞ!」

 

 行動不能の時に怖いのは、止めを刺されること。主砲弾の残りも少ないので、せめてもの対抗策として機銃で応戦することになった。

 

「水谷!北沢!機銃を持って車外に出ろ!岩山と柳川はなるべく砲弾を節約しながら敵戦車を撃て!俺も車外に出る!福田はエンジン、駆動系に異常がないか確認しろ!」

 

 宗谷も一緒にチリ改を降り、機銃でパンターに対抗する。しかし、対抗すると言ってもこれではただの消耗戦に過ぎない。応戦しているところに、かほが4号から降りて駆け寄ってきた。

 

「宗谷くん!大丈夫!?」

 

「西住!?何やってんだ!早く行け!今の狙いは4号何だぞ!」

 

「だからって置いていけないよ!私たちにも何かさせて!」

 

 かほの後ろを見ると4号は後退しながら帰ってきた。応戦しながらチリ改を護ろうとしているが、宗谷は早く行ってほしいという焦りが出ていた。

 

「頼むから行ってくれよ!俺たちだけでどうにか出来るから!今ここで4号やられたら、取り返しの付かないことになるんだぞ!」

 

「大丈夫だよ!私たちだって役に立てるから!」

 

 観戦席ではみほたちがこの状況を見ていた。宗谷とかほが何やら言い合っているところも映っている。

 

「何やってるよ。早く逃げて・・・・・お願いだから・・・・・!」

 

 みほも宗谷と同じ気持ちらしい。チリ改を挟んで敵戦車が攻撃している、4号が撃破されるのも時間の問題だ。

 

「何でそんなに俺たちを助けようとする!?俺たちは大丈夫だ!すぐに履帯をはめ直して追い付けるから!」

 

「そんなこと言ったって、このまま置いていって止めを刺されたらどうするの!?」

 

(クソッ このままじゃ拉致が開かねぇ・・・・・仕方ない、やりたかねぇけど、強行手段に出るしかない・・・・・)

 

 宗谷は一旦深呼吸すると、かほの胸ぐらを思いっきり掴んで叫んだ!

 

「良いか西住!!これは命令だ!!今すぐに4号に戻って、敵フラッグ車撃破に向かえ!!何度も言わせるな、俺たちは大丈夫だ!!チリ改は部品の1つが壊れただけで、まだやられたと決まった訳じゃない!!」

 

 本当はやりたくなかった。怯えさせればすぐに動いてくれるだろうという浅はかな考えだ。相手の胸ぐらを掴んで叫ぶなんて、アホらしくなってきた。

 

「痛いよ、離して宗谷くん。それが()()()()()()ことぐらい分かってるよ。前にも同じ手を使ったじゃない」

 

 かほは怯えることも無く、怒ることも無く、静かな笑みを浮かべている。全てを見抜いていたらしく同じ手は通じなかった。宗谷は静かに手を離した。

 

「宗谷くんたちはいつも私たちばかり気にかけて、自分達のことはいつも後回しになってたじゃん。だから私たちにも、協力させてよ!!」

 

(・・・・・あーあ、こりゃ完全にダメだなこりゃ。何言ってもテコでも動きゃしねぇじゃねぇか・・・・・しょうがねぇ、シークレットミッション発動と行くか)

 

「・・・・・分かったよ。じゃあ少し手伝って貰おうか?」

 

 何故か諦めた様子で承諾してしまった。機銃を持っている水谷と北沢は驚いていた。

 

「は!?お前嘘だろ!?この状況で!?」

 

「早くここから引き離した方が良いって!」

 

「しょうがねぇだろ?手伝いたいって聞かねぇんだから、ちょっとここ見てくれるか?転輪が曲がってねぇか見てくれよ」

 

 そう言うと、宗谷は足元にあった石を蹴り、操縦席付近に当てた。福田がそれに反応し、顔を出した。そして宗谷の手元を見て、シークレットミッション発動を察知し、こっそりと操縦席から降りて、4号の方へ向かっていった。

 4号の上に音を立てずに上がると、操縦席の方へ進んでいく。

 

(はぁ~・・・・・偵察科で習った、『隠密行動』がここで役立つとはなぁ)

 

 操縦席のハッチを音を立てずに開けると、うとうとしている七海がいた。

 

(悪く思うなよ、これも作戦の内なんだ)

 

 福田は『バシン!』と首の急所を叩き、七海を気絶させてしまった!操縦席から引き揚げると、砲搭の方へ進み、ハッチを『バーン!』と蹴りあげた!

 

「ふ、福田殿!?何やってるでありますか!?」

 

「おーい!気絶してるぞ!ちょっと看病してやんな!」

 

 質問に答える隙も無く、七海を砲搭の中に入れた。そしてハッチを閉め、操縦席の方に向かって走り、座ったかと思えばエンジンを始動させたではないか!

 

「ちょっと!何やってるの!?冷泉は!?」

 

「気絶中だ!」

 

 福田は計器類、操縦レバーを確認すると宗谷に向けて通信した。

 

〔宗谷!4号の()()()()()()に成功した!いつでもいけるぜ!〕

 

 その声はかほにも聞こえていた。ハイジャックしたと言われて一瞬手が止まった。

 

「宗谷くん・・・・・?どういう・・

 

「行くぞ西住!!」

 

 かほが言い終わる前に近づき、お姫様だっこで抱え上げて4号に向かって走っていく!

 

「福田ぁーー!!!前進だぁーー!!!」

 

「了解!!行くぞぉー!!」

 

 4号を操縦する福田。五十鈴たちからしてみればあまりに突然すぎて何が何だか分からない。宗谷は4号に近づくと、片足を踏ん張らせてかほを4号の上に放り投げた!

 かほは慌てて着地し、すぐに宗谷の方を向いた。片足で踏ん張った反動からか、転けていた。斜めになってしまったヘルメットを直しながら、顔を上げている。

 

「宗谷くん!!何で!?何でなの!?」

 

 宗谷に向かって叫ぶかほ、そして福田が声を掛ける。

 

「西住!車内に入れ!振り落とされるぞ!」

 

 福田にそう言われ、危険を感じて大人しく車内に入った。福田はかほが入ったことを確認すると全速力で飛ばし、チリ改から引き離した。

 4号が見えなくなると、宗谷は息を切らしながら立ち上がった。

 

「頼んだぞ福田。西住たちを、そして4号を・・・・・安全圏まで導いてくれ!」




※解説


ヒュルゲンの森の戦い

第2次世界大戦時、オランダ、ドイツの国境にあるヒュルゲンの森で行われた戦闘。アメリカとドイツが対峙し、ドイツ軍の戦闘では最も長かったと言われている。


嘉数の戦い

沖縄で行われた戦闘。嘉数高台を狙ってくる米軍相手に、丘の斜面を利用して反撃してくる日本軍に対し、『死の罠』、『忌々しい丘』と言われた。


クルクスの戦い

ソ連、ドイツの間で行われた戦闘。ソ連の都市、クルクスを巡って行われた史上最大の戦車戦と言われ、ドイツでは『ツィタデレ(城塞)作戦』と言われた。


モスクワの戦い

ソ連、ドイツの間で行われた戦闘。ソ連の近郊、モスクワを巡って行われた防衛戦で、ドイツは『バルバロッサ作戦』と言われた。


ブースト計

ターボ車に付けられ、過給圧を表示する計器のこと。


ハインツ

ドイツ陸軍の上級大将であり、電撃戦の生みの親、『ハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン』のこと。


ブイヨン

騎士道を体現する偉大なる人物として、『9偉人』の中の1人である、『ゴドフロワ・ド・ブイヨン』のこと。第一次十字軍に従軍し、後に伝説となった人物である。


加尾

坂元龍馬の初恋の相手である、平井加尾のこと。


与一

弓の立つ武将で知られる、那須与一のこと。平家物語で、扇を射ぬく話が有名である。


今回も読んで頂き、ありがとうございました。履帯を外され、行動不能となってしまったチリ改。そして、従姉妹同士の夏海とかほの一騎討ち。

果たして、どうなっていくのでしょうか?


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