ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

宗谷が気掛かりだったかほだが、宗谷の意思を聞かされ、夏海と直接対決をすることを選ぶ。しかし、夏海の実力は想像以上で、対抗するだけで手一杯だった。
どう動いたら良いのかが完全に分からなくなってしまったかほに、宗谷からのメッセージがあることに気付く。

メッセージの内容は、『ティーガー1の砲搭に弱点がある』、と言うものだった。そのメッセージを頼りに、弱点を見つけようとする。

その一方で、どうにか履帯をはめ直し、自走出来るようになるまで回復した。4号と合流するため、全速力で走るチリ改。しかし黒森峰が妨害し、道を塞がれてしまう!

その時、ヘッツァーが道を塞いだ戦車を倒し、自らを踏み台にして飛び越えろと言われる。本当はしたくないことだが、宗谷はその選択肢を選んだ!


第24章 ティーガー1の弱点

「行っけぇーー!!!」

 

 岩山がトリガーを引き、空砲弾を放つ!その勢いに乗り、「ズガァーン!!!」と凄まじい轟音と共に、チリ改が飛んだ!勢いづいてしまったからか、2メートルほど浮いてしまった。

 

 そしてヘッツァーはあまりの衝撃で前が潰れてしまい、戦闘不能になってしまった。それでも穂香は笑っていた。

 

「アハハー、凄い衝撃だったねぇ。耐えれるかなって思ったけど、そんなことなかったね」

 

「当たり前です!35トンの重量が一気に前に掛かったんですから!」

 

「でも、これで良かったんですよね。もう燃料も切れかけで、砲弾も撃ち尽くしちゃいましたからね」

 

 燃料計はE(空っぽ)に近い数値を指し、砲弾庫に砲弾は1発も残っていなかった。

 

「まぁ仕方ないよ。さっきの戦闘で、かなり使っちゃったからね。それに、宗谷くんたちなら、絶対に大丈夫でしょ?」

 

「・・・・・そうですね」

 

「癪ですけど、任せるしかありませんからね」

 

 穂香はハッチを開けてチリ改を見た。まだ宙に浮き、着陸しようとしていた。

 

「着陸するぞ!衝撃に備え!!」

 

「喋るな!舌噛むぞ!」

 

 福田はレバーをグッと握り、「ズドォーン!!」と凄まじい衝撃が車内を襲う。さらに車体が不安定になり、右に左に揺れ、履帯から火花が出ている。

 

「おい福田!しっかり操縦してくれ!これじゃ酔うぞ!」

 

「黙ってろ!俺だって必死なんだよ!!」

 

 急ブレーキを掛けると履帯がロックして、スリップしてしまう危険性が上がるため、ギアを落として速度を落とそうとしていた。操縦レバーを素早く動かし、態勢を立て直す。

 

「よし!これで大丈夫だ!このまま行くぞ!」

 

 速度を上げ、目的地に向けて前進する。その後ろで、穂香が微笑みを浮かべながら敬礼していた。そして宗谷も、砲搭の中で静かに敬礼していた。

 

(すみません、角谷さん。あなたの犠牲、無駄にはしません!)

 

 一方、ポルシェティーガーは敵の猛攻に反撃するだけで手一杯な状態にいた。建物の陰から射撃しているが、精度があまり良くない。1輌1輌撃破しているものの、数は減らない。

 

「こりゃ困ったね。どうすれば良いと思う?」

 

「とりあえず、一旦引くって言うのは?」

 

「それか場所変えて撃つ?」

 

「回り込むって手もあるよね」

 

 全員バラバラの意見を出しあった。美優はそのバラバラの意見を纏めて、1つ作戦を考え付いた。

 

「うーん、一旦下がって、回り込んで攻撃しよう!場所を変えれば精度も上がるかもしれないし」

 

 攻撃が当たらないように少しずつ下がり、建物の陰に隠れる。相手の砲弾が壁を削り、瓦礫と埃が辺りに充満してきた。マリカは一旦砲撃を中止し、逃げたチリ改を追い掛けようとする。

 一旦後退し、陰から様子を見ていた美優は、相手が向かっている方向がスポット364であると察した。このままだと4号とチリ改が総攻撃を受けることになる。回り込もうとするが、既にパンターが3輌向かってしまった!

 

「マズい!このままじゃ西住さんたちが!」

 

〔大丈夫よ!私たちが食い止めるから、急いで!〕

 

 通信の相手は琴羽だ。ずっと音信不通だったルクスから、数時間ぶりの通信だった。

 

「黒江さん!?食い止めるって、出来るの!?」

 

「大丈夫、作戦ならもう立ててる!早くスポット363に来て!」

 

 チリ改はスポット364に向かう道を飛ばしていた。今はスポット363の市街地を走り、スポット364に向かう道であるビル型の建物の前に来ていた。

 

「よっしゃ!ここまで来ればこっちのもんだ!行くぜ!」

 

 と意気込みを見せる福田。しかし阻止しようと追っ手が現れた!

 

「うわ!来たぞ!!」

 

「待て!このままこの道をそのままにしていたら、追っ手はそのままの勢いでスポット364に来るぞ!砲搭旋回!足止めだ!!」

 

 砲搭を回し、反撃に転ずるが上手く当たらない。焦る宗谷たちに、ルクスが来た!チリ改の目の前で停車し、砲を敵に向けている。

 

「宗谷くん!行って!!ここは私たちが!」

 

「黒江か!?何やってんだ!その戦車で反撃は無理だぞ!」

 

「分かってるわよ!だけどそんなこと言っていられないでしょ!?あなたが早く支援に行かないと、このチームは勝てない!行って!!」

 

 琴羽の気迫に何も言い返せなかった。これ以上犠牲は出したくない、だがここで葛藤していればいるほど、勝利への道は遠退く。

 

「分かった!足止めは任せたぞ!出せ!!」

 

 加速するチリ改は建物の中に入っていく。その確認が終わると、ルクスは砲搭を回転させ、壁を壊して道を塞いだ!突然の崩落にチリ改が停車する。

 

「な!?おい!どういうつもりだ!」

 

「足止めよ!これで時間が稼げる!止まらないで!早く行って!!」

 

 塞いだ道は唯一スポット364に繋がる道、確かに時間は稼げるがこれではルクスの逃げ場が無い。宗谷はまだ少し埃が舞っている瓦礫の山を呆然と見ていた。

 

「宗谷、急ごう。気持ちは分かるが、今は・・・」

 

「分かってる・・・・・行くぞ!」

 

 悔いが残るが、作ってくれたチャンスを無駄にしないためにも行くしかない。琴羽は照準器を覗きながらホッとしていた。

 

「・・・・・これでよし。ずっと索敵しかしてなかった私たちにはお似合いね」

 

「そんなことないよ。索敵だけでも十分役に立ってたよ。ただ戦闘する機会が少なかっただけ。それに、今からでも役に立てるはずだよ!」

 

「そうよね。それじゃあ、行こうか!」

 

 琴音がアクセル全開でパンター3輌に突進していく。ぶつかる寸前で左に避け、後ろを取った!透かさず攻撃を加えるが、ルクスの主砲でパンターの装甲は貫通できなかった。

 

「琴音!パンターの真後ろに付けて!至近距離で仕留めるよ!」

 

 琴音が言われた通りに後ろに付ける。ほぼ零距離で1発喰らわせた!砲搭と車体の間に命中し、エンジンから火が吹く!

 

「こんな軽戦車にやられてどうすんのよ!37号!挟み撃ちにするわよ!」

 

 2輌で挟み撃ちにしようとするが、機動性が高いルクスを捉えるだけで精一杯だ。琴音が追い付かれないように素早く切り替えすが、ついに捕まってしまった。ルクスを壁に押し付け、もう1輌で止めを刺そうとしているのだ!

 

「くっ!お姉ちゃん!マズいよ!」

 

「何とかして逃げるのよ!このままだと回り込まれて撃破される!」

 

 アクセル全開で抜け出そうとするが、履帯は空回りする一方だ。立ち往生してしまっているルクスに、もう1輌のパンターが迫り、後ろを取る。

 

「よく頑張ったほうだと褒めてあげるわ。撃ち方用意!」

 

 ルクスのエンジンを主砲が狙う!琴音が思わず目をつぶった、その時!

 

「ドォーン!!」

 

 と轟音が響いたかと思うと、後ろにいたパンターが撃破されていた。ポルシェティーガーが追い付いたのだ!

 

「あと1輌、頼むよ~。撃て!」

 

 ポルシェティーガーの射撃でパンターが2輌撃破され、ルクスは窮地を脱した。

 

「中島さん、ありがとうございます。助かりました」

 

「大丈夫そうで何より。それより、作戦ってこの道を塞いで、敵を通さないようにしようってこと?」

 

「今私たちに出来ることは、これしかありませんから。それに、あなたのお母さんだってこの道を守って敵を通さないようにしていたんですよ?私たちにも出来ますよ!」

 

「よぉーし、やってやろうか!」

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 今から1週間前のこと、まほと整備担当者が話していたころに遡る。黒森峰と聖グロとの準決勝戦の時にティーガー1に問題が発生してしまったのだ。

 敵戦車からの攻撃が砲搭の弾薬庫付近に当たり、4ミリ程度の亀裂が入ってしまったのだ。攻撃を受け続けてしまったことによる金属疲労かと思われ、すぐ修理に掛かった。

 しかし、亀裂が進行しないために溶接しただけで、防御力とは完全に回復したとは言えない状況にあった。

 

「ティーガー1の防御力は完全とは言えません。修理はしましたが、この状態では88ミリ砲が耐えられるか微妙なところです。新しい装甲板が届くまでは出場は見合わせたほうが宜しいかと思いますが」

 

「もう手遅れだ。協会にはティーガー1をフラッグ車にする書類を送った。まぁ、大丈夫だろう。88ミリ砲を装備している戦車は、ポルシェティーガーしかないはず。夏海のことだ、4号と一騎討ちするつもりだろうから、心配することはない」

 

「ですが、万が一バレたら敗北確定ですよ?」

 

かほ(あの娘)がそう簡単に気付けるとは思えん、そこは心配しなくても良い。ただ、夏海には警告しないといけないな」

 

 その時まではチリが88ミリ砲に換装し、『チリ改』になっていたことを知らなかった。完全な思い込みで、まほは油断していた。

 そして夏海にティーガー1に問題があることを伝えたが、全く動じていなかった。それどころか、むしろハンデになると言い出した。

 

「やつらと対等に戦うには、手加減になります。むりろ防御の練習するには最適です」

 

「そうか。だが油断はするな。相手は私に勝ったみほの娘だからな。あまり無茶はするな」

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 そして現在。まほは4号の攻撃の仕方に不安を覚えた。弱点である砲搭を集中して狙っているため、バレる可能性が高いことを察したのだ。

 心配だったが、夏海が上手く防御しているので少し安心していた。だが、まだ不安要素は消えてはいない。

 

ーー

 

 

〔西住隊長!そっちに例の日本戦車が向かっています!それから、友軍はほぼ壊滅状態で、あと6輌だけです。それと、申し訳ないことなんですが・・・・・そちらに向かう道が塞がれて、援護に行けません!でも、すぐ向かいます!何とか耐えてください!〕

 

「・・・・・分かった。あとはそっちに任せる」

 

 マリカからの通信を聞き、夏海は頭を外に出した。その様子をボロボロになってしまった4号とともに、かほたちが見ていた。

 

「夏海さんは何をしているんでしょう?頭をそとに出したりして」

 

 かほはその姿を見て、同じことをしだした。

 

「西住殿?何故そんなことを?」

 

「シーッ。夏海従姉ちゃんがあんなふうにするときは、戦車が迫っているのか確かめるために、音を聞いているんだよ」

 

 その時、戦車が走ってくる音が聞こえてきた!チリ改が向かっているのだ!かほは一瞬喜んだが、それどころではなくなった。

 

「武部さん!早く宗谷くんに通信して!このままだとチリ改が撃破されちゃう!!」

 

 今かほたちがいる場所は、建物で囲まれた広場のようなところにいた。そしてその広場に入る入り口は1つしかない。このままでは待ち伏せ攻撃をされる可能性があるのだ!慌てて通信機に手を掛けるが、通信は繋がらない。

 

「どどどどどうしよう!繋がらないよう!!」

 

「お願い!早く繋げて!宗谷くんたちが!!」

 

 焦るかほたち、そして夏海は砲搭を入り口に向けるよう指示を出す。ティーガー1の砲口が、入り口を捉える。

 

(残念だったな。待ち伏せされたとしても、悪く思うな・・・・・ん?)

 

 夏海は聞こえてくる音に違和感を感じた。音がこだましているように聞こえてくるのだ。例えるなら、トンネルの中にいるときのような音。しかし、この辺りにトンネルは無い。

 

(何故だ?何故こだましている?建物は密集しているが、こだまするほどではないはずだが・・・・・待て・・・・・まさか!?)

 

「砲搭190°旋回!急げ!!」

 

「へ!?何でですか!?」

 

「やつはあそこから来ない!やつは・・

 

 その時!「ドゴォーン!!!」と音を立て、チリ改が壁を壊して現れた!!

 

「いたぞ!岩山!撃てぇーーー!!!」

 

 福田が急ブレーキを掛けて車体を回し、岩山が1発喰らわせる!そしてそのままの勢いで4号の前で停車した。かほが舞い上がった砂ぼこりを払っていると、目の前に誰かがしゃがんでいた。砂埃だらけになっている宗谷だ。

 

「よう西住。調子はどうだ?」

 

 ニッと笑っている宗谷。その顔を見てかほは思わず涙を流した。

 

「宗谷くん・・・・・良かった・・・・・来なかったらどうしようって・・・・・」

 

 宗谷はその顔を見て、笑いながら頭を撫でる。

 

「泣くんじゃねぇよ。そんな顔は似合わねぇぞ?」

 

「だって・・・・・だって、ずっと心配してたんだから!無理矢理引き離されて、通信すら無かったんだよ!?」

 

「あー・・・・・それは悪かったよ。そこまで心配してくれたとはな・・・・・だけど、もう大丈夫だ。チリ改はちゃんと走れるし、何よりこうして合流出来たじゃないか。頼むから泣くなよ」

 

「な、泣いてない!」

 

 夏海はその会話を聞き流し、宗谷に質問を投げ掛ける。

 

「何故だ!?何故私が待ち伏せするとこが分かった!?」

 

 宗谷は服に付いた砂埃を払いながら自慢げに答える。

 

「簡単なことだ。助けにいくために突っ込んでいく、でも入り口は1つ、そして待ち伏せされる可能性が高い。じゃあどうするか?建物突っ切って裏をかくしかねぇだろ?それに建物ぶっ壊しても協会が保証するしな」

 

「そのおかげで、チリ改傷だらけだけどな」

 

「そんなことはいいんだよ。傷は後で塗り直せる。だがな、今ここで勝利を手にしないと、塗り直せない傷を残すことになる」

 

 宗谷はじっとティーガー1を見た。『砲搭に弱点がある』とメッセージを送ったが、確証はない。()()()()()()()()()()()()()というだけで、本当にそこが弱点なのかと言われると、自信はない。

 

 だが今はその確証を信じるしかない。宗谷はくるりと向きを変え、かほに手を伸ばした。

 

「かほ、銃を寄越せ。ここは、俺たちに任せろ」

 

「へ・・・・・?い、今なんて・・・・・?」

 

 突然下の名前で呼ばれて思わず聞き返す。

 

「だから、ここは俺たちに任せろって言ったんだよ。お前らは一旦下がって、態勢を立て直せ」

 

「いや、あの・・・・・そうじゃなくて、何で下の名前で呼んだの?」

 

「だって『西住』が2人もいるんだから下の名前で呼ばないとややこしいことになるだろ。まぁそんなことは良いから、早く銃を返してくれ」

 

 かほはホルスターに付けた銃に手を掛けたが、すぐに遠ざけてしまい、渡さなかった。

 

「? 何やってんだ?早く寄越してくれよ」

 

「・・・・・お願い。せめて試合が終わるまでは、私に預けてくれない?」

 

「は?何で?お前が持ってても何の得もねぇぞ」

 

「この銃は、離れたもの同士を引き付けてくれるんでしょ?私はもう宗谷くんと離れたくない、またこうして合流したいから!」

 

 かほの訴えに「ダメ」とは言えなかった。そして頭を掻きながら大きく息を吐いた。

 

「ハァー・・・・・分かったよ、お前が持ってていい。ただし、試合が終わったら返してもらうからな?」

 

「あ、ありがとう」

 

『パァッ』顔が明るくなるかほ。そして宗谷は立ち上がり、ティーガー1の方を向いてビシッと指を指した。

 

「西住夏海!お前に何が足りないのか、俺たちが教えてやるぜ!!」

 

 突然の宣戦布告に、夏海は理解出来なかった。『何が足りないのかを教える』、足りないものとは何のか?

 

「お前から学ぶものはない。むしろお前が学ぶべきだ。戦車道(この場)に、お前たちは似合わないと言うこと」

 

「似合わなくったって良いさ。そんなことより、あんたは何か大切なことを忘れている。ずっと前に、おいてけぼりになっちまってるのさ」

 

 そう言うと、こっそりとインカムのスイッチを入れ、かほに向けて小声で通信をする。

 

「かほ、今から銃を撃つ。その発砲を合図にして、冷泉に逃げ出すように言え。俺たちが弱点を探すから、その間に態勢を整えろ」

 

「・・・・・分かったわ。後は頼むよ」

 

「よし、戦闘再開だぜ!!」

 

 南部を構え『パァーン!』と銃声が響く。

 

「前進!!」

 

 七海はかほからの指示で回避行動を取る。しかし阻止しようとティーガー1から砲撃され、先に進めない。

 

「福田!岩山!4号を護るぞ!前進しつつ反撃しろ!」

 

 チリ改が4号の横に付き、攻撃を受けながら反撃する。しかし宗谷はまだ外にいる。

 

「おい宗谷!早く車内に入れ!お前も吹き飛ばされるぞ!」

 

「やつの弱点を見つけるためにはここにいねぇとダメなんだよ。心配してくれるのは嬉しいけど、俺は大丈夫だ」

 

「ったく、吹き飛ばされても知らねぇからな!」

 

 チリ改が方向を変え、真っ直ぐティーガー1に突っ込んでいく!かほは一瞬振り向いたが、今は逃げることが最優先だ。今度は止まることなく、前を見続けた。

 

 チリ改は真っ直ぐティーガー1に突撃し、「ガァーン!!」と音を立て、車体同士が当たって火花が散る。岩山と水谷が超至近距離で照準を合わせる!

 

「よっしゃぁー!行くぜ水谷!」

 

「おう!こいつの相手はするのは、」

 

「「俺たちだ!!」」

 

 同時にトリガーを引き、「バァーン!!」という轟音が響く。少し後ろにずれるティーガー1、夏海は次の対抗策を打とうとタブレットに手を掛ける。

 すぐに策は出たが、手を打つ前にチリ改は次の策を打っていた。

 

「宗谷、準備出来たぞ。全くよぉ、ジャイロスタビライザー付いてるから出来ることだぜ」

 

「分かってる。それより、しっかり確認しろよ。安全設計にはしてるけど、いざとなるとどうなるか分からないからな。福田、『ム号攻撃作戦』開始だ!」

 

「了解!振り落とされるなよ!」

 

 アクセル全開でティーガー1の回りを走り始める!そして空かさず照準を合わせる。

 

「さぁーって、どれ程の衝撃が来るかなぁ」

 

 岩山がトリガーを引くと、「バァーン!!!」と凄まじい音が響き、「ガァーン!!」という金属音が響く。夏海は疑問が浮かんだ。さっきよりも攻撃力が上がっているような感じがしたのだ。

 

(おかしい。何故攻撃力が上がった?砲弾を変えているのか?いや、装甲は貫通していないから、それはない。いや、待て・・・・・砲弾の速度が上がっている?それにこの射撃時の音は、正常とは言えない。砲が故障しているように思えるが・・・・・)

 

 そう思い、射撃時の様子をじっとみた。そして、その違和感の正体に気付いた。射撃時には反動で砲身が下がるはず。それなのに、砲身は下がっていない。

 

(・・・・・まさか、本当に故障しているのか?いや、だとしたら普通に攻撃なんてしないはず。何故だ?)

 

 夏見が疑問を抱えているなか、チリ改の砲搭の中は射撃の度にビリビリと痺れていた。

 ジャイロスタビライザーが付いているため、砲搭は安定しているが、通信機は射撃の衝撃耐えられず、一瞬電源が落ちる。主砲に付いている岩山と柳川は例の仕掛けを見ながらぼやいていた。

 

「うへぇー、凄ぇ衝撃だなぁ。こりゃ通信機の電源も落ちるわけだぜ。というより、あっちの西住は気付いてるかな?」

 

「さぁな。だけど、違和感は感じてるだろうよ。だけどさ、あいつも何でこんなことを思い付いたんだろうな?砲撃テストの失敗から、『簡易駐退固定器(かんいちゅうたいこていき)』を思い付くとはな」

 

 宗谷が考案、設計した『簡易駐退固定器』。思い付いたきっかけは、88ミリ砲換装後の射撃テストの時だった。射撃の衝撃に耐えられずに壊れてしまったが、その直後の砲弾の速度は設計の時よりも速かった。

 

 その時にこう思った。『駐退器を人為的に固定することが出来れば、ティーガー1の強固な装甲に対抗出来るのではないか?』と。無反動砲とほぼ同じ原理で射撃をしているため、『無反動砲』の頭文字を取って、『ム号攻撃作戦』と名付けたのだ。

 

 固定器に掛かる反動は砲搭に逃げるように設計しているが、これもテスト無しのぶっつけ本番で使っているため、全ての反動が砲搭に逃げ切れていなかった。

 

 ここまで5発撃ったが、固定器もそろそろ限界に来ていた。部品の一部が曲がり始めたのだ。

 

「宗谷、固定器が限界に来そうだ。解除した方がいい」

 

「分かった。固定器解除!通常攻撃に移行する!ただし、やつの問題点を探し出すまでは1発も撃つな!砲搭、進行方向そのまま!全速前進!!」

 

 宗谷が南部を構え、砲搭目掛けて発砲する!弾は砲搭に当たる度に「カン カン」と音を立てて弾かれるだけ。そんなことをしてる間にもチリ改は攻撃を受ける。

 

「宗谷!そろそろ反撃させてくれよ!このままだとこっちの身が危ねぇ!」

 

「もうちょいで見つかる!少し耐えてくれ!」

 

「これ以上は無理だ!やつがエンジンを狙ってる!折角走れるようになったのに、これじゃ二の舞になっちまうよ!」

 

 宗谷は集中し、まだ撃っていてないであろう箇所を狙って撃った。その弾は砲搭に当たったときに「カィーン」と違う音が聞こえた!

 

「緊急停止!!同時に3センチ後退、目標砲搭後方部!恐らく弾薬庫の方だ!撃て!!」

 

 火花を散らして停止した後、岩山が空かさず攻撃する。しかし、弾は「ガイン!」と音を立てて弾き、異変無かった。

 

「おい!本当に合ってんのか!?」

 

「場所は合ってるはずだ!少し位置をずらして攻撃してみてくれ!絶対に合ってる!!」

 

 宗谷は必死に説得している。その必死さに、岩山は反論しようがなかった。微妙に位置を変えて撃ってみたが、それでも結果は変わらず。

 

 そこで、砲搭をじっと見てみることにした。もしかしたら何か違うところがある、そう思った。

 

(うーん・・・・・分からん。何処にも異常はない。あれ?何で側面に溶接の跡があるんだ?)

 

 岩山は側面に溶接された跡が残っていることに気付いた。上手く塗装を施しているが、微妙に歪みがある。

 

(溶接された跡って言うか、溶接して削った感じか。待てよ、そう言うことか!)

 

「宗谷!耳塞げ!」

 

「は?何て!?」

 

 宗谷の質問を返す暇も無く、すぐに射撃をした!弾は目標に真っ直ぐ向かって飛び、「バカァーン!!」と聞いたことの無い音と共に、装甲に大きな亀裂が入った。

 

「よっしゃー!!大成功だ!弾薬庫に穴開けてやったぜ!!」

 

 弾薬庫から黒い煙が上がっている。岩山はさらに追い討ちを掛けようと亀裂を狙う。しかし、宗谷はそれを止めた。

 

「やめろ岩山。これ以上追い詰める必要は無い、せめて動けないようにする程度にしてやれ」

 

「何でだ!?やつを倒して、勝利するチャンスだぜ!?」

 

「俺たちの目的はフラッグ車を守ることだ。撃破するのは俺たちの目的とは大外れだ。そうだろう?」

 

 岩山はトリガーに一瞬指を掛けたが、すぐに離した。

 

「ハァ、分かったよ。お前の言う通りだ、俺たちの目的じゃない」

 

「分かればそれで良い。福田!場所を変えるぞ!」

 

ーー

 

 

 観戦席はざわめいている。あの強固な装甲に亀裂が入るとは思いもよらない事態だった。みほも今までに無い事態に驚いていた。

 だが1番驚いていたのはまほだった。場所を特定され、ティーガー1に大ダメージを与えることになるとは。そしてその弱点を見つけたのはかほではなく、宗谷だった。想定外であることが多すぎて混乱していた。みほは頭を抱えるまほを見て、ポツリと話し掛ける。

 

「お姉ちゃんは宗谷くんを甘く見すぎていたみたいだね。彼ほど推理力があるからこそ、分かったことだと思うよ」

 

「何だと?前から知っていたと言うのか?」

 

「知ってたっていうよりは、感じてたって言う方が正しいかな?決勝戦前の試合を見て、違和感を感じてたみたいだったよ」

 

 まほは完全に見誤ってしまった。目を光らせるべき相手は、かほではなく宗谷だったのだ。夏海もまほと同じことを考えていた。完全にノーマークだった相手に、ここまでやられることになるとは想定外。

 そしてチリ改は亀裂が入ってしまった箇所を狙うこと無く別の箇所しか撃たない。その行為に夏海は嘗められている気がしていた。

 

「弱点を見つけたぐらいで調子に乗るな!!!撃て!!」

 

 夏海の指示と共に、ティーガー1の一撃がチリ改に命中する!一瞬バランスを崩したが、何とか立て直して無事に停車した。そのチリ改に向けて、夏海が叫んだ。

 

「お前、一体何の真似だ!!大ダメージを与える一撃をしておきながら、何故止めを刺さない!?そこまで惨めに見えたか!?」

 

 宗谷には何故夏海が怒っているのか意味が分からなかった。何か誤解していると思い、訂正するつもりで話し出した。

 

「別に惨めに見えたからじゃねぇよ。俺は自分自身の任務を優先しただけだ」

 

「自分の、任務だと?」

 

「俺たちの任務は()()()()()()()()()()()()()こと。()()()()()()()()()()()のは俺たちの任務じゃないのさ。お前さっき言ったよな?『この場に俺たちは似合わない』って。その通りさ、俺たちには、フラッグ車を撃破して、勝利するのは似合わねえってことさ」

 

 そう言った直後、4号がチリ改の横についた。

 

「宗谷くん、大丈夫?」

 

「ああ。よっしゃ、行くぜ!」

 

「その状態で、か?」

 

 何故か状態を伺う夏海。宗谷はすぐに理解出来なかった。

 

「それってどういう・・

 

「宗谷、マズい事態だ。エンジンの調子が悪くなった」

 

「・・・・・え?」

 

 慌ててタコメーターを見ると、※エンジン回転数が上がったり下がったりし、アイドリングが安定していない。エンジンが不調を来している証拠だ。

 さらに悪いことに、岩山たちからも良くない報告が入ってきた。

 

「こっちもだ。電動モーターがイカれて、旋回出来ない」

 

「照準器が割れた!距離がまともに測れないぞ!」

 

 重要な機能がやられてしまった。さっきの1発でここまで不調を来すことになるとは予想外のことだった。宗谷は言葉が出なかった。

 

「・・・・・嘘だろ・・・・・?至近距離の1発で、ここまでやられるものか?」

 

「そうとう酷使した使い方してきたからなぁ。1撃喰らっただけで不調が出てもおかしくない状態だったんだ。無理ねぇよ」

 

 かほはチリ改の異常な振動に気づいていた。しかし、かほだけでなく、藍たちもだ。どう見ても正常とは思えない。

 

「宗谷くん?大丈夫なの?」

 

「・・・・・大丈夫、とは言えねぇな。これじゃあまともに戦えそうにない」

 

 すっかり戦意を失ってしまった宗谷に、夏海の冷たい視線が刺さる。

 

「自分の事を後回しにし、他人を守ろうとする。そこがお前の弱さだ。これで分かっただろう、お前たちに戦車道は似合わないと」

 

 夏海の言葉に、宗谷は真剣な顔で言い返した。

 

「・・・・・その言葉、そっくりそのまま返すぜ。お前は、俺たちに勝てねぇ。意地でも『西住流』にこだわる、そこがお前の弱さだ」

 

「何だと?」

 

「言ったはずだ。『お前に何が足りないのか、俺たちがを教える』って。もう気づいているんじゃないかと思ったけど、その様子だとまだ気づけていないみてぇだな」

 

 宗谷はヘルメットを被り直し、砲搭の上に立った。

 

「大洗と共に勝つまでは、俺たちは終わらねぇ!終わらせねぇ!最後の最後まで、かほたちを護る!!」

 

「わ、私も!宗谷くんたちと一緒に、『もう1つの西住流』で、この試合に勝つ!」

 

 戦意を取り戻し、最後の宣戦布告を告げる宗谷とかほ、その姿を見て睨む夏海。そして勝利を願うみほたちと穂香たち。もう、引き下がることは出来ない。

 

 次回、決着!!

 




※解説

エンジンのアイドル(空転 遊びという意味)回転数が上がったり下がったりすることを『ハンチング(乱調)』という。

起きる原因は様々だが、エンジンが空気を吸う量を調整するスロットルにカーボンなどのごみが付着することで、空気の流れが安定しないことが主な原因である。

ちなみにチリ改の場合はディーゼルエンジンで、スロットルは無いため、主な原因としては燃料の噴射を調整する『ガバナ』という部品に問題があるときに起こる。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

ハンチングの説明はいかがだったでしょうか?ディーゼルに関しては簡潔な説明なので、詳しく知りたい方は、いつでも質問してください。

感想、評価お待ちしています。

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