ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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お待たせいたしました。更新が遅くなってしまいまして、誠に申し訳ありません。もう少し更新が早くなるように頑張りたいと思います。

前回のあらすじ

犠牲を払いつつも、何とか4号と合流出来たチリ改。しかし、ティーガー1の攻撃により、チリ改は不具合が発生してしまう。
そんな状態にも関わらず、果敢に挑もうとする宗谷。この状態を、どう切り抜けるのだろうか。



第25章 背負う者、背負わされる者

 私は、産まれたときから西住流と共に生きてきた。そしてその流派に従ってきた。それが正しいと思っていたから。そのお陰で、今の私がある。母にも負けず劣らずになるまでになれた。

 だから、『もう1つの西住流』なんて認めたくなかった。母も、祖母も同じ気持ちだったはず。だからこそ、この試合では負けられないのだ。もとい、この黒森峰にいる限り、『敗北』の2文字は許されない。

 ただ、この試合で優勝出来なければ、大洗の戦車道科が無くなることは知っていた。でも私だって負けられない。宗谷(よそ者)が勝手に名付けた流派なんかに、負けるわけにはいかない。

 それなのに・・・・・私は今、攻められている。何故だ?完璧な戦術で挑んでいるはずなのに、何故攻められている?何故、何故、何故 ・・・・・

 

ーーー

 

ーー

 

 

 観戦席では、やられてしまった大洗のメンバーが心配そうに見守っていた。残る戦車はチリ改と4号だけ。

 ルクスとポルシェティーガーの2輌は、迫る敵戦車12輌と戦っていた。唯一スポット364に繋がる道、1輌も通すわけにはいかない。

 ルクスは、相手が予測出来ない動きで翻弄している。急旋回、急停止、至近距離での攻撃などで、相手を混乱させ、ポルシェティーガーは混乱しているところを目掛けて砲撃を敢行していた。

 

 ここまでで撃破したのは7輌。しかし、まだ5輌残っている。マリカが搭乗しているティーガー2も残っていた。しかし、敵は1番の強敵である、ポルシェティーガーを撃破しようとしない。理由は簡単、その後ろには、唯一スポット364に繋がる道があるからだ。

 ここで立ち往生されてしまえば、スポット364で交戦中の夏海の応援に行けなくなる。どうにかして退かしたいところだが、ルクスの邪魔に続き、ポルシェティーガーの正確な攻撃で近づくことはままならない。

 

 みほたち指導員たちは、勝利してくれることを願っていた。今までの試合展開を見ていても、4号は攻められていた。反撃出来ていただけでも良しと見るべきだろうか。チリ改でさえも手こずっていた。

 そして悪いことに、チリ改には多数の不具合が発生していた。エンジン、砲搭旋回装置、そして副砲の照準器。照準器に関しては、レンズにヒビが入ってしまっただけで、見れないわけでは無いが、距離が測れないためほぼ目測で撃つしか出来ない。

 

 砲の取り扱いにようやく慣れてきた水谷からしてみれば、頼みの綱が無くなってしまったのも同然。正確に狙らうのは至難の事だ。

 旋回装置に関しては、電動モーターが故障し、動かそうとしても反応がない。手動でも動かせるが、ただでさえ重い砲搭を補助無しで動かすのは困難だ。

 と言った状況なのにも関わらず、宗谷は今現在の状態を改めて確認していた。

 

「福田、エンジンの状態はどうだ?」

 

「あぁ・・・・・アイドルは安定していないけど、動いているってことは、壊れていないってことだ。まだ走れると思う」

 

「岩山、電動モータがイカれて、旋回出来ないって言ったな。手動でどれぐらい動かせる?」

 

「10°、良くても20°だ。いや、回せねぇかもしれねぇ。固定砲として捉えてくれた方がありがたいね」

 

「水谷、照準器はもう使えねぇか?」

 

「ヒビが入っちまってるけど、見れないことはない。ただ、肝心の目盛りがズレまくってるから、正確な距離は測れない。至近距離で行けるかってとこだな」

 

「・・・・・」

 

 宗谷は顎に手を掛け、考え込んだ。エンジンは問題ないだろう。福田が言うように、()()()()()と言うことは()()()()()()ということ。少なくとも、動けなくなるという最悪の事態は避けられるだろう。

 主砲に関しては砲撃が出来ない訳ではないが、砲搭の旋回はもう出来ないと感じていた。突撃砲と同じように戦うしかない。

 

 副砲は攻撃するときの要となる照準器が壊れているが、至近距離での攻撃に持っていければまともに戦えるはず。

 ティーガー1と戦うには若干の不足があるが、対したことは無いだろう。問題があるとすれば、4号を守れるのかということだ。攻撃の要となる物は壊されてしまい、まともに戦うことは出来ない。

 この状態で、4号は守れるか分からない。今までしたことがない戦い方を強いられるため、()()より()()()()側に付くことになりかねない。宗谷はどの戦術で守りながら戦うか、頭の中はそれだけで一杯だった。

 

〔宗谷くん。私たちをどうやって守ろうか考えているんでしょ?〕

 

 かほが全てを見越したような通信をしてきた。宗谷はちょっと驚いた。

 

「え?何で分かった?」

 

「分かるよ。宗谷くんは自分のことは後回しにしてるもん。()()()()()()()()よりも、()()()()()()()()()()()()って言う考えが先に来るでしょ?」

 

「う・・・・・まぁ、確かにそうだが・・・・・」

 

「宗谷くん、もう守ろうとするんじゃなくて、一緒に戦おう?宗谷くんの気持ちは有り難いけど、今の状態で私たちを守れるとは思えない。もう自分で戦えるから、心配しないで」

 

 かほは共に戦おうと提案してきた。流石の宗谷も、これには了承するしかないと思った。

 

「・・・・・そうだな。お互いに気遣いながら戦えば良いよな。俺たちのチームワークを見せてやろうぜ!」

 

 福田たちも、かほたちも、同じ気持ちだった。フラッグ車を落とせば、戦車道科は無くならなくて済む。そしてチリ改と4号が動き始める。

 

(来たか・・・・・だが心配することはない。奴等の動きは至って単純だ。どんな攻撃をしてこようと、私に敵うはずがない)

 

 夏海は自分の腕に自信を持っていた。今までもそうして勝ってきた。過去にもかほと戦って勝っている、何も心配することはない。

 電子戦のソフトを開き、戦車のデータ、相手のデータを打ち込み、次の動きを予想する。助言を借りること無く、正確なデータを出してくれる。そこに西住流のを加えれば、誰も対抗出来ない戦術が出来る。

 夏海が電子戦というものがあることを知ったのは、中学に上がった頃だった。最適な戦術を組もうとしても、意見が中々噛み合わず、「これが最適だ」と思っていた戦術をやってみたら通用しなかったということも多々あった。

 

 そんなときに、「大学の戦車道のチームが新しい戦術を導入している」と聞いた。その戦術が、電子戦だった。誰でも正確な戦術が組めると言う魅力に惹かれ、パソコンの扱いには慣れていたこともあり、導入してみると想像していた以上に使えた。

 少し慣れてきたあたりから、西住流の戦い方と照らし併せ始め、誰もが想像の域を越えるほどの電子戦を確立していった。

 ただその反面、通信する以外で戦いの最中に人と会話することは無くなっていった。誰かが意見を述べて、そこから戦術を組み立てるということが無くなっていったと言うべきか。

 

 誰かの意見がなくても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。電子戦と出会ってから、勝率は上がり、今となっては無敵と言えるほどのチームを作り上げた。

 間違っているとは思わなかった。しほもまほも、何も言わなかったから。これが1番正しいと確信していたから。西住流を、守るために。

 データを打ち込み、新しい戦術が表示される。そして他の乗員にその内容を伝える。あとはその通りに動けば良い・・・・・はずだった。

 

(・・・・・何故だ?何故攻められている?このデータに狂いはないはず。乗員も、正確に動いてくれているはずなのに・・・・・)

 

 ソフトが予想したデータは、きちんと伝えている。一字一句、間違いなく。「相手は恐らく散開する。チリ改はまともに戦えないはずだから、先にチリ改を倒し、4号に対しては接近戦を仕掛けて仕留める」、と。

 まずはチリ改を狙わせたが、エンジンが壊れ掛けているとは思えない速力を発揮し、砲手は戸惑っていた。そしてその後ろをつつくように、4号から攻撃される。

 

「くっ・・・・・西住隊長!相手が早すぎます!それに後ろから攻撃を受けています、4号を狙った方が!」

 

「4号に目標を変更しても無駄だ。すぐにチリ改のカバーが入る。牽制でも良い、チリ改に攻撃を続行しろ!」

 

 夏海はとにかくチリ改を狙わせていた。4号とチリ改を比較したとき、同じ88ミリ砲を装備しているチリ改が特に厄介だと判断したのだ。

 貫通能力は500メートルの距離で120ミリの鋼板が貫通出来るらしいのだが、どのような砲弾を使い、どのような防御鋼板だったのかが不明なため、ティーガー1の装甲板が貫通出来るのかは分からない。

 それでも厄介なのは変わりない。先にチリ改を倒すのは間違いではないだろう。4号の貫通能力ではティーガー1の装甲は貫通出来ないはず。4号が抵抗しているが、案の定貫通出来ていない。

 

 しかし、夏海はその攻撃の仕方に違和感を感じていた。弱点である弾薬庫を狙うこと無く、回りを狙っていた。フラッグ車に弱点があるのは千載一遇のチャンスのはず、それなのにとどめを刺そうとしない。

 かほも宗谷と同じ考えを持っているのだろう。しかし、夏海は情けを掛けられるのは嫌いだ。

 

「目標変更だ!4号を狙え!一撃で仕留めろ!!」

 

「しかし、4号は真後ろです。砲搭旋回には時間が!」

 

「なら砲搭を旋回させながら車体ごと回せ!その方が早い!」

 

 突然の作戦変更に戸惑いながらも、指示に従う。しかし、その変更が仇となった。

 

「宗谷くん!今よ!!」

 

 かほの合図が宗谷に伝えられ、チリ改が車体を90°ほど回して砲をティーガー1に向ける。照準器を覗く岩山は笑っていた。

 

「へへ、上手く引っ掛かったな」

 

「『従姉妹同士の情報』も、案外役に立つもんだな。撃ち方始め!!」

 

 2門の砲口がティーガー1目掛けて砲弾を撃ち込む。距離はそこまで離れていないため、照準器が壊れている副砲でも当てることはできる。

 車体ごと砲搭を回してくれたお陰で、履帯も一緒に狙うことが出来る。攻撃目標を変えたのは間違いだったようだ。

 かほから届いた、『従姉妹同士の情報』というのは、「夏海は情けを掛けられるのが一番嫌い。先に情けを掛ける方を撃破しようとする」と教えられ、かほが弱点を外す攻撃をしたのだ。

 

(くそっ、こんな単純な策略に掛かるとは。だが、まだ挽回出来る)

 

「旋回中止!10時の方向に逃げるぞ!」

 

 これ以上攻撃を受け続けるわけにはいかないので、一旦退避して別の方向から攻撃することにした。旋回をやめ、すぐに動き出そうとする。

 

「おっと、そうはいかねぇぞ!福田!27°旋回!1発ぶちかましてやるぜ!」

 

「了解、外すなよ?」

 

 車体を旋回させ、ティーガー1を捉える。幸いにも敵の砲口はこっちを向いていないため、落ち着いて狙い撃つことが出来る。重量もチリ改の方が軽い、瞬発力はこっちの方が上だ。すぐに旋回出来た。

 

「よし、旋回出来たぞ!ぶちかましてやれ!!」

 

 主砲弾の数も少ない。「ぶちかます」とは言ったが、無駄弾は控えなくてはならない。

 

「岩山さん!私も一緒に撃ちます!どこを狙うか指示を下さい!」

 

 五十鈴が岩山に協力してくれるようだ。砲弾の数が残り十数発しかなかったので少しホッとした。

 

「サンキュー!じゃあ一緒に砲搭下部を狙ってくれないか?弾薬庫じゃなくて、ターレットリングをな」

 

「はい!」

 

 2輌同時に攻撃され、ティーガー1は成す術が無い。乗員は焦り、新しい指示を待っていた。

 

「西住隊長!どうしましょう!?」

 

「隊長!次の指示を!」

 

「攻められています!このままではやられます!」

 

「隊長!指示を!! 」

 

「指示を」、夏海はその言葉にどう反応すれば良いのか分からなかった。こんなに攻められ、乗員から質問攻めにされたのは、何年ぶりなのだろうか・・・・・夏海にはもうどうしたら良いのか、分からない。

 

「何故だ!!何故私たちが攻められるんだ!!!」

 

 気がつけば、ハッチから頭を出して叫んでいた。その光景に、宗谷たちは何が起こったのか、頭の整理が追い付かなかった。岩山がトリガーに指を掛ける。

 

「何かよく分からんが、チャンスだぜ。どうする?今なら1発で仕留められる」

 

「いや、ここは最後まで聞こう」

 

 宗谷は攻撃を中止させた。今は攻撃をするべき時では無いと察したのだ。

 

「私は正しい道に沿ってきた!それなのに、どうして私たちが攻められる!?何故だ!!」

 

 宗谷は黙って夏海の言い分を聞いていた。夏海がこんなに取り乱すことは、よっぽどのことだろうと思ったのだ。

 

「お前に分かるか!?代々続いてきた流派を背負う者の気持ちが!!後から勝手にやって来て、戦車道のいろはも分からないお前に!!」

 

「そんなことは・・

 

「かほ、言わせてやれ」

 

 かほが言い返そうとしたが、宗谷はそれを止めた。

 

「でも、これじゃ言われっぱなしだよ」

 

「良いんだ。色々と溜まってたんだろう。言わせるだけ言わせてやろう」

 

 宗谷は黙って聞いた。真剣な目で、真っ直ぐに夏海を見た。

 

「何が、何がもう1つ西住流だ!そんなもの、ただの幻に過ぎない!お前が勝手に名付けたものだ!私が背負っているものが、本物の西住流だ!」

 

「流派を背負う気持ちだ?そんなの分かるわけが無いだろ!分かりたくても、分かれねぇよ!!俺には背負う流派なんて無いからな!!」

 

 黙って聞いていた宗谷が言い返した。流石の夏海も、これには黙ってしまった。

 

「あんたが背負っている流派にどうこう言うつもりは無い。だがな、その『()()()西住流』が、戦いでどう役に立つ?『鉄の掟』?『鋼の心』?それが戦いで、どう役に立つ!?」

 

「黙れ!!お前なんかに分かるものか!!私が背負う西住流が、どれだけ重要なのか!!流派を背負うことが、どれ程責任があることなのかを!!」

 

「流派は後継者がいて、それなりの実力があれば守っていける!だがな!今の大洗女子学院戦車道科は、どれだけ実力がある奴がいても、何人後継者がいても、上が必要ないと判断してしまえば、それで途絶える!お前に分かるか!?大切な居場所を失う者の気持ち、居場所を失い掛けてる者の気持ちが!」

 

 福田たちはその言葉を聞き、改めて自分達が何を失ってしまったのかを思い出した。そこにいた誰もが、自分達よりも実力があった。だが、実力者がいくらいても、居場所は守れなかった。

 宗谷が言ったように、()()()()と判断されてしまえばそれまでだ。宗谷たちの居場所だった、近衛機甲学校は、もう無い。

 

「でも、あんたの言うことには一理ある。俺たちは戦車道のいろはもまだ全部は分からないし、『もう1つの西住流』は幻なのかもしれない。だがな、誰になんと言われようと、俺たちの目的はただ1つだ。大洗戦車道科を廃科の危機から救うこと、それだけだ」

 

「目的は危機から救うこと」。そう言われ、夏海は宗谷が何故ここまで手を差し伸べるのか、その理由が知りたかった。

 

〔宗谷くん!西住さん!聞こえる!?何とか黒江さんたちと足止めしようと思ったけどダメだったよ。そっちに副隊長の戦車が行ったから、気を付けて!〕

 

 美優からの通信だった。副隊長の戦車が行った、ということはティーガー2が向かってきているということだ。夏海には、マリカから通信が入っていた。

 

〔西住隊長!ようやく抜け出せました!ですが、残ったのは私だけです。少し待っていてください!すぐに行きます!!〕

 

 苦戦の末、残った黒森峰の戦車はティーガー2 1輌だけとなってしまった。しかし、ティーガー2だけでもかなりの脅威だ。早く決着を付けなければ、逆転されかねない。

 

「かほ、もう時間が無い。ここは一気に決着を付けよう」

 

「一気には良いけど、どうするの?」

 

「もう主砲弾が切れた、あとは副砲弾が15発だけだ。射撃じゃ戦えない。チリ改で押さえるから、その隙に決めろ」

 

「・・・・・分かった。かなり無謀かもしれないけど、それでいこう!」

 

「よっしゃあ!これで決めて、良い景色を見ようぜ!」

 

 チリ改が急加速し、ティーガー1に激突した。車体同士があたり、火花が散った。そしてそのまま壁に押し付け、車体を横に動かした。

 

「かほ!今だ!!」

 

「了解!そのまま踏み止まって!」

 

 4号が最適なポジションを選び、ティーガー1を狙う。狙いが定まり、五十鈴はトリガーに指を掛ける。撃つ直前、照準器越しにティーガー2が見えた!

 

「西住さん!ティーガー2が!!」

 

「構わず撃って!早く!!」

 

『ドォーン!!!』・・・・・砲撃音が響いたあと、静かになった。砲撃の衝撃で煙が上がり、少しずつ晴れてきた。晴れてきたその先は、ティーガー1の砲搭の上に、白旗が上がっていた。

 

「に・・・・・西住さん。か、勝ったんですか・・・・・?」

 

「わ、分からない・・・」

 

〔黒森峰女学院、全車戦闘不能!よって、大洗女子学園の勝利!!!〕

 

 このアナウンスのあと、会場は歓声が響き渡った。沙織がみほの手を取り、涙を流した。

 

「みぽりん!やったよ!あの子達が勝ったよ!!」

 

 みほは呆然としていた。勝てたことに喜びを感じるには、もう少し時間が掛かりそうだ。かほも同じだった。『勝った』と言う認識が、まだ無かった。

 

「かほちゃーん!!勝ったよ!!私たちが勝ったよ!!」

 

「勝っ・・・・・た、勝ったんだよ・・・・・ね?」

 

 ようやく理解出来てきたかほに、宗谷が通信してきた。

 

「そうだよ。俺たちが勝ったんだ。まさか、最後は水谷の気転に救われるとはな」

 

「へへ、まさか当たるとは思わなかったぜ」

 

「さぁ、帰ろう。みんなが待ってる。遅れると、また河嶋さんに怒られるからな」

 

ーーー

 

ーー

 

 

 試合が終わり、辺りは夕日に包まれた。会場では、みほたちが宗谷たちの帰りを待っていた。

 

「あ!来たよ!」

 

 沙織が指を指す先に、チリ改と4号がゆっくりと帰ってきた。チリ改の車体の上では、宗谷たちが手を振っていた。停車したあと、宗谷がサッと敬礼をしながら状況報告をした。

 

「遅くなりました。旭日機甲チリ改、ならびに大洗4号、帰還しました」

 

「うん。お疲れさまだったね。みんな・・・・・よくやってくれたね」

 

 感動のあまり、みほはまた涙を流した。始めは勝ち上がることすら絶望的だったというのに、ここまで来てくれたことには感謝の言葉もない。

 

 そしてかほは、戦車道のメンバーにもみくちゃにされていた。宗谷は笑いながらその光景を見た。その時、黒森峰の生徒が突然目の前に現れた。福田が指を指しながら質問をした。

 

「あれ?その制服、あんた黒森峰の生徒か?」

 

「西住隊長が、宗谷佳さんと西住かほさんを呼んでいます。話がしたいと」

 

 夏海から話があるとはどういうことなのだろうか。また何か言われるのかと思いながら、黒森峰の陣地に足を踏み入れた。

 見たところによると、撃破された戦車の回収が終わり、帰る準備を進めているようだった。その中で、夏海はただ戦車を見つめているように見えた。

 

「西住隊長、連れてきました」

 

「・・・ありがとう。準備の手伝いに回ってくれ」

 

 夏海は3人で話がしたかったらしい。少し間を置いて、夏海が振り返りざまに話始めた。

 

「・・・・・まず、宗谷佳、お前に聞きたい。どうして見ず知らずの他人のために、あそこまで戦えた?」

 

 今回の試合で、夏海自身が1番疑問に思ったことだ。見ず知らずの他人のために、どうしてそこまで尽力出来たのか、そこが気になったのだ。

 

「どうしてって言われてもなぁ。別にこれといって理由は無いぞ?」

 

「理由が無いはずが無いだろ?何か理由があったから、そこまで戦えた、違うか?」

 

「うーん・・・・・強いて言うなら、同じ目に合わせたくなかったから、かな?俺たちの近衛は、守れたはずなのに守れずに廃校になった。そんなときに大洗も同じ状態にあったから、同じ目に合わせたくなかった、それだけだ」

 

 これで納得してくれるのだろうか。宗谷自身、そんなことを考えたことはなかった。確かなことは、『()()()()()()()()()()()()()』と言うことだけ、それ以外理由はない。

 

「・・・フッ・・・それだけ、か」

 

「何だよ、バカにしてんのか?」

 

「いや、そうじゃない。そんな簡単なことに気づけなかった私が可笑しかっただけだ・・・・・」

 

 夏海は優しい目付きで黒森峰の生徒を見つめた。そして少しうつむきながら話を続けた。

 

「宗谷、お前の言う通りだった、私は大切なことをおいてけぼりにしていた。ただ流派を守るためだけに必死になりすぎて、回りが見えなくなっていたんだ。隊長として、本当に情けないな、私は」

 

「そんなこと無いよ」

 

 慰めの声を掛けたのはかほだった。こんなふうに話すのは久しぶりなので、どう話したら良いのか分からないが、何とか慰めようとした。

 

「私はあまり西住流を意識したこと無かったから、偉そうなことは言えないけど、従姉ちゃんは誰よりも頑張っていたよ。流派を守ろうと頑張った従姉ちゃんを責める人はいないよ」

 

「そうだな、誰も批難出来ないだろうよ。あとは、あんたがこれからどうしていくかだ」

 

「私が?」

 

「回りが見えていなかったんだろ?まさかこれからも回りが見えないままでやっていくつもりじゃないだろうな?」

 

 夏海はハッとし、また生徒を見た。確かに、回りが見えていなかったということには気付いた。宗谷が言いたいことも分かる。だが、今さら変われるのだろうか?

 

「・・・・・宗谷・・・・・私は、変われるのか?この6年間、ずっと回りが見えていなかったのに、今さら変われるのか・・・・・?」

 

「・・・・・さぁな。そればっかしは、あんた自身がどうしていくか、だろ?」

 

 ここからは夏海の問題、夏海が変わらないといけないのだ。

 

「全員集まってくれ。話がある」

 

 夏海が全員を呼び寄せた。準備の途中だったが、全員集まった。このあと反省会でもするのだろうと、大半の生徒はそう思った。

 

「みんな、今まですまなかった」

 

 突然頭を下げて謝る夏海に生徒たちはざわついた。謝られる理由がないのに、どうして謝るのか分からなかった。

 

「に、西住隊長?なんで謝るんです?私たち、謝ってもらうことなんて何も・・・・・」

 

「いや、私は謝らなくてはならない。私はこの3年間、チームを意識して試合をしたことが無かった。みんなの意見を聞かずに、電子の力に頼ってばかりで、この戦車道で必要なものを完全に見失っていた。

 今さらこんなことを頼むのも恥ずかしいのだが、もう一度だけ・・・・・私と、『本来あるべき姿の戦車道』をやってくれないか?頼む、この通りだ」

 

 夏海はまた頭を下げた。夏海が言う、『本来あるべき姿の戦車道』、それは電子の力に頼らず、人が持つ力だけで戦い、勝利するという意味だ。今までほとんど1人で戦ってきたようなものだった。

 

 だから、高校卒業まではこの戦い方でやっていきたい、という意思だった。

 

「西住隊長、頭を上げてください。私たちは、隊長がそうしてほしいと言うのなら、喜んで従います。あなたの実力のおかげで、私たちは強くなったんですから」

 

「異論はありません。意見を集めながら戦うなんて、楽しそうじゃないですか」

 

 夏海の意思は伝わったようだ。反論する生徒は誰もいなかった。

 

「ありがとう・・・・・みんな。本当に・・・・・」

 

 夏海は涙を流した。宗谷はかほに、目で「帰ろう」と言い、その場を去ろうとした。もう話すことも無いだろうと思ったからだ。

 

「それじゃあ、夏海従姉ちゃ・・・・・じゃなくて夏海さん。私たちは戻りますね」

 

「待て、かほ。もう『さん』付けなんてしなくて良い。『夏海従姉ちゃん』で構わない。それから、敬語も良い。私たちは、『従姉妹』どうしなんだから」

 

 夏海は久しぶりに見せる微笑みと共に、手を差し出した。かほはその手を取り、握手を交わした。そこには、流派なんてものはなかった。ただ2人の友情だけがそこにあった。

 

「おーい!!そろそろ表彰式やるから集まれって言ってるぞぉー!!」

 

 福田が呼びに来た。そろそろ戻らなければならない。

 

「じゃあ行くか、みんな待ってるだろうし」

 

「うん。それじゃあ、またね。夏海、従姉ちゃん」

 

 別れを告げ、2人は歩きだした。すると、夏海が宗谷を呼び止めた。

 

「宗谷」

 

「うん?なんだ?」

 

「こんな私に、大切なことを思い出させてくれてありがとう。お前の強さがよく分かったよ」

 

「・・・勘違いすんな。俺は何もしてないし、強くなんて無い。あんたが大切なことに気付けた。ただそれだけだ」

 

 そう言うと、また歩きだした。マリカが夏海に話しかける。

 

「あいつ、自分で成し遂げたことに気付いていないんですかね?」

 

「・・・・・いや、そんなことはないだろう。あいつは、対したことをしたと思っていないんだろう。困っているやつがいたら、助けることは当たり前だと思っているんだろう」

 

ーー

 

 

〔それでは、表彰式を行います。大洗女子学院の生徒は、優勝旗を受け取りに来てください〕

 

 代表のかほが、優勝旗を受け取った。旗は少し重かったが、優勝出来た喜びと比べたら対したことはない。会場には拍手の音が響き、かほは優勝旗を掲げた。

 夕日に包まれる生徒たち、そして掲げられた優勝旗、かは昔の自分を見ているようだった。かほが宗谷を見ると、ヘルメットを脱いでいた。

 

「全員、整列!!気をつけ!休め!」

 

 そして福田たちを整列させた。かほたちは突然の出来事に何が起こったのか分からなかった。

 

「宗谷くん?何をしてるの?」

 

 宗谷は質問に答えず、2、3歩前に出て気を付けの姿勢を取った。

 

「まず1つ、みんなには礼を言いたい。俺たちと一緒に戦ってくれてありがとう。みんなには感謝しかない。本当に、ありがとう」

 

 サッと頭を下げたあと、宗谷は観戦席に座っているみほたちの方を向いた。

 

「指導員一同!我々、旭日機甲旅団、宗谷佳以下6名は、大洗女子学園、護衛の任を終了したことを報告させて頂きます!!」

 

 報告が終わると、またかほたちの方を向き、気を付けの姿勢を取った。

 

「一同!!大洗女子学園の生徒一同に向けて!そして、我々を戦車道科の一員として、指導してくれた指導員一同に向けて、感謝を込めて!敬礼!!」

 

 これは今の宗谷たちに出来る、最高のお礼だった。本当なら、出場すら出来るはずが無かったのに、こうして戦えたことにずっとお礼の言いたかったのだ。かほはその姿を見て、フッと笑った。

 

「宗谷くん、感謝しないといけないのは私たちだよ。あなたたちのおかげで、私たちの戦車道科を守れた。ありがとう。一同、礼!!」

 

「「「「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」」」」

 

 今度はかほたちが一斉にお辞儀をし、みほたちが拍手を送った。これに、宗谷たちは感動のあまり目が潤んでいた。お礼を言われるようなことはしていないと言っていた宗谷だが、言われることには悪い気がしなかった。

 こうして、大洗女子学園戦車道科の運命を掛けた大会は終わった。これで暫くは安泰だろう、旭日と大洗の絆を深めることも出来た。しかし、かほたちは知らなかった。この喜びも、束の間だと言うことを・・・・・

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 大会が終わった翌日。戦車道の授業が始まる前、かほたちは格納の前に集められていた。何故か旭日のメンバーだけ、かほたちの前に並んでいた。深刻そうな顔で。

 

「宗谷くんから大事な報告があるから、全員しっかりと聞くように」

 

 いつも以上に真剣な杏、そして軽く頭を下げて宗谷が報告する。その報告は、かほたちにしてみれば、衝撃的なものだった。

 

「・・・・・我々、旭日機甲旅団は、1週間後にこの大洗を去ることになりました」

 

 




今回も読んで頂き、ありがとうございました。

突如「大洗を去る」と宣言した宗谷。一体どうなってしまうのでしょう?

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