ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

大洗女子学園のもとに、一通の手紙が届いた。送り主は『旭日機甲旅団』という名で、九州から届いた手紙だった。誰も聞いたことの無い、謎の部隊から届いた手紙だった。
どう考えても怪しかったが、角谷は出方を見ようと判断し、新しく手紙を送って返事を待つことにした。

そして、旭日機甲旅団隊長、宗谷佳は、角谷からの手紙を受け取り、大洗女子学園学園艦に乗り込むと決心をした。1日半掛けて、茨城県大洗町に着いた一向。

その翌日、宗谷たちの目の前に学園艦が停泊していた。憧れの学園艦で待つものは、歓迎の声か、それとも非難の声か。期待と不安を胸に、彼らは学園艦に乗り込む!



第2章 憧れの町

 大洗に朝が来た。港に学園艦が1隻停泊している、その近くに宗谷たちはいた。乗ろうとしているのだがどうやって乗ればいいのか分からず途方にくれていた。福田が辺りを見渡しながら宗谷に言った。

 

「ところで、どうやって乗るんだ?ここまで来て乗る術が無いなんて言うなよ」

 

「何処かにエレベータがあるはずだ。それで戦車の積み降ろしをしているって本で見たことがある」

 

「ん?あれじゃねぇか?」

 

 北沢が指を指す方向に、戦車を乗せるためか、エレベータが設置されていた。

 

「よし、乗り込むぞ。福田、戦車を前に出せ」

 

「勝手に操作していいのか?怒られても知らねぇぞ」

 

「そのときはそのとき、行くぞ」

 

 宗谷がエレベータのボタンを押すと、台座がギシギシと音をたてて下がってきた。まずは戦車を上げるので後ろに繋いでいた荷車を切り離し、台座に戦車を乗せた。

 

「上に着いたらすぐに戦車を進めてくれよ。じゃないとリヤカー乗せられないからな」

 

 ボタンを押すと台座がゆっくりと上に上がっていく。まずは福田、岩山、柳川が上に上がり、着くとすぐに戦車を降ろした。3人は唖然した、さっきまでいた町とほぼ同じ景色が目の前にあったからだ。

 

「うわー、スゲーなぁ。隊長が言ってた通りだぜ」

 

「よく沈まねぇな。確か、人口3万人住んでいるんだよな?」

 

「とりあえず、こっから学校探さねぇといけないのか・・・・・骨が折れるぞ」

 

 そうこうしていると宗谷たちも上がってきた。リヤカーを接続するとゆっくりと進みだした。

 

「なぁ、隊長・・・・・いや宗谷、いいのか?カバー取っちまって」

 

「問題ないだろ。この町は4号戦車もヘッツァーも走ってるんだからさ、俺たちの『5式中戦車 チリ』が走っても何にも気にされないないだろ」

 

5式中戦車 チリ』、大日本帝国陸軍が造った、最後の中戦車である。オートマチック変速機と似た変速機や、半自動装填装置等と言った、斬新な機能を集結させた日本では最先端の戦車だった。

 しかし、造り始めたのは終戦末期のことで、1輌のみしか造られなかった。また、半自動装填装置が不調だったことで制作は難航、終戦までに出来たのは車体と砲身がない砲塔のみだった。

 チリにその後関しては、、海上輸送でメリーランド州アバディーン性能試験場に運んでいる最中に台風に遭い、海に捨ててしまった。また一説では、朝鮮戦争が始まったために鉄不足に陥り、スクラップにされて鉄の塊になってしまったとも言われているので、チリのその後を知るものは誰もいない。

 そんなチリを製作した理由としては、6人全員が乗れる戦車がこれしかなかったこと。それから、大洗女子学園にも引けをとらない戦力になれそうだと思ったのが、このチリなのだ。装甲は協会の基準を満たすため、カーボンで覆って安全性を高め、砲弾も自作ではあるが安全弾にしてある。いきなり試合を持ち込まれたとしても柔軟に対応出来る。

 宗谷は大洗女子学園までの道を聞こうと人に訪ねようとしたが、流石に戦車が近くにある状態で聞くのは怪しまれると考え、チリを隠して1人か2人で聞くという作戦に出た。都合がいいことに、登校時間と重なったので、もしかしたら生徒に道が聞けるかもしれない。

 だが現実はそう上手くいかない。大洗女子学園の生徒らしい子に話し掛けるも怪しまれてしまいそそくさと逃げられてしまう始末だった。こうなれば学園艦に住んでいる人に直接話を聞くしかない。

 宗谷と福田でペアを組み、誰かが通りかかるのを待つことにした。5分ほど待っているとくせっ毛の女性が通り掛かった。宗谷がすかさず話しかける。

 

「すみません、大洗女子学園までの道のりを聞きたいんですが」

 

「大洗女子学園でありますか?それなら2つ目の角を右に曲がって、4つ目の角を左に曲がれば着くことにでありますよ」

 

「ありがとうございます、それでは」

 

 宗谷たちは気づかなかったが今話しかけたのは戦車道科指導員の秋山(あきやま)優香里(ゆかり)だった。ただこれはこれで良かったのかもしれない、もしチリが近くにあったら戦車に関するうんちくが飛び交い、とてもじゃないが道案内どころじゃなかっただろう。

 

 とりあえず教えてもらった通りに2つ目の角を右に曲り、4つ目の角を左に曲がったのだが・・・

 

「えーっと、教えてもらった通りに来たよな・・・?」

 

「そのはずだか・・・おかしいな。道間違えたか?」

 

 何故か着けなかった。教えてもらった通りに進んだのに、学園らしき建物は見えなかった。一方、秋山は大洗女子学園に着いて、指導員室に入ったところだった。席について授業の準備をしているみほに挨拶した。

 

「お早うございます西住殿!今日もいい天気ですね!」

 

「お早うございます秋山さん、今日も張り切って行こうね」

 

「あ、西住殿、実はついさっきここの道のりを聞かれたので教えてあげたんですよ!えーっと2つ目の角を右に曲がって、4つ目の角を左に曲がればすぐだって」

 

 張り切って答える秋山に、西住は苦笑いしながら訂正した。

 

「あの、秋山さん?あなたの家からなら、2つ目の角を右に曲るのは合ってるけど、左に曲がるときは6()()()()()を曲がるんだよ?」

 

「え!?大変!間違えてしまいましたぁー!!」

 

 一方、宗谷たちは道のりを間違って教えられてしまったので、完全に迷っていた。山を走り、町の中を走り、学園艦の中をグルグル回っていた。そして成り行き任せで着いたのは、海が見える展望台だった。岩山が冗談半分で言った。

 

「もしかして、ここが大洗女子学園か?」

 

「「「「「んな訳あるか」」」」」

 

 ひとまず停車してどうするかを考えることにした。

 

「さっき人に聞いた時の道に戻って探し直すか」

 

 宗谷の提案には全員が賛成し、もと来た道に戻ることにした。だが・・・

 

「・・・あれ?なぁ、宗谷、どっから来たんだっけ?」

 

「・・・え?えーっと・・・」

 

 宗谷も福田もどこから来たのかを完全に忘れてしまい、途方にくれた。宗谷は町の中を走ればいずれ着くだろうと完全運任せにすることにした。

 

 

ーー

 

 

 

 その頃、大洗女子学園では、秋山が科長室に呼び出されていた。女学園までの道のりを聞いてきた男2人がいたという話を聞き付け、角谷が呼び出したのだ。角谷が秋山を問い詰める。

 

「秋山ちゃん。西住ちゃんと会話しているとこ聞いたんだけど、今日誰か道案内でもしたの?」

 

 秋山には何故こんな質問をされるのか、その意味が全く分からない。そこで、今日のここまでの行動を思い出してみることにした。朝早くに娘の由香を起こして、学校に先に行かせて、それから・・・・・

 

「ええ、出勤する途中で、男2人組にここまで道のりを聞かれたであります。あれ?でも大分若かったような気が・・・高校生ぐらいだったような・・・・・?」

 

「オッケーオッケー、もう下がっていいよ。授業頑張ってねー」

 

「え?あ、はい」

 

 そう言われて科長室を後にしたが、秋山には何が何だか分からず仕舞いだった。秋山が科長室を出ていったあと、角谷は少し安心した表情を見せた。

 そして今分かっていることは、この学園艦には、いるはずがない()()()()()()()()()()()ということだ。

 

「男子高校生2人、か。もうちょい人数いるかと思ってたけど、まぁ私たちの娘と同い年ぐらいなら良いか」

 

「良くありません!!2人でも1人でも大問題ですよ!!」

 

「まぁまぉ落ち着いてよ。ですけど、道のり聞いたんなら、もう着いていないとおかしいと思いますけど。いくらなんでも遅すぎませんか?」

 

 小山が言うのはごもっともだった。秋山が道案内したのは1時間ぐらい前のことなので、順調に来ていればもう着くはずなのだが、いっこうに来る気配がない。

 

「うーん、迷ってんのかなぁ。まぁ、その内来るでしょ・・

 

 その時、外から『ガラガラ』と戦車が走るような音が響いてきた。今は戦車道の授業はやっていないので戦車が走っていることはないはず。

 

「ん?自動車部の連中が戦車動かしてんの?」

 

「いえ、確か午前中は整備をするから、動かすことは無いって言ってましたけど?」

 

 3人は大慌てで外を見た、上の階にいた生徒たちも先生たちも外を見る。西住の娘のかほ、五十鈴(いすず)の娘の(あい)、秋山の娘の由香(ゆか)も外を見ていた。由香は戦車に興奮している。戦車というのはチリのことだ。

 

「あ!ああーー!!すごーい!せ、戦車が走ってる!!写メ!写メ撮らないとぉ!!」

 

 興奮する由香を横目に、藍はチリを不思議そうに見ている。

 

「あんな戦車見たことがないです。大洗のものでもなさそうですけど」

 

「そんなことはどうでもいいじゃないですか!あれすっごく珍しい戦車なんですよ!!」

 

 女子学園中が大騒ぎになっているのを全く気にせず、チリは校門の前に着いた。福田はほっと胸を撫で下ろしている。

 

「ハァー・・・・・やっと見つけたぞぉ~・・・まさか限られた空間の中で1時間も迷うとはな」

 

「よし、中に入るか。福田、右旋回」

 

「え?入るのか?『関係者以外は立ち入り禁止』ってやつじゃねぇのか?」

 

「その『関係者』になるんだからいいだろ」

 

 福田はチリを女子学園のグランドに乗り入れ、宗谷はチリから降りた。これから偉い人に会うということで近衛の時に着ていた制服を着用していた。

 

「じゃあ科長に会ってくるから、その間お前らはチリを移動させて中で待機していろ 」

 

 

「了解。じゃあ頼むぜ隊長。ここまで来て『ダメです』はごめんだからな。ちゃんと話しつけてくれってことよ」

 

「ばーか、余計な心配すんな。じゃ、行ってく・・・

 

「コラァーーー!!!!」

 

 突然の大声に宗谷たちは固まってしまった。怒鳴ったのは元B1bisの車長、(その)みどり子だ。大洗女子学園の生徒だった時は風紀委員の委員長で、規則には厳しかった。現在は大洗女子学園戦車道科指導員の傍らで、風紀指導長もやっている。

 当然のことながら女子学園に男子が入るなんてあってはならないこと、園はカンカンだ。

 

「あんたたち!ここは女子学園の学園艦よ!おまけに戦車ごと乗り入れるなんてどういうつもりなの!!!」

 

「待ってください、自分達は呼ばれてここまで来たんです。せめて科長に話だけでもさせてください」

 

「話なんてさせるわけがないでしょ!!早く出ていきなさい!!」

 

「港から離れちまったんですから、出ていけって言われたって無理だと思いますけど?」

 

「屁理屈言うんじゃなぁい!!!」

 

「どーしたの?そんな大声だして」

 

 声を掛けてきたのは角谷だ。宗谷には誰か分からなかったが、上の立場にいる人らしいことであることは確信していた。

 

「角谷科長!丁度良かった、こいつが科長に会いたいなんてふざけたことを言っていたんで、追い出そうとしていたとこなんですよ」

 

「ふーん・・・・・」

 

 角谷は戦車を見た、ドイツでもアメリカでもない。砲搭には旭日が描かれていたが日本の物には見えない。興味本意でチリをジーっと見ていると宗谷がポツリと話しかけた。

 

「あの~・・・俺たちの戦車になんか付いてます?」

 

「うん?あ、ごめんごめん。ところで、単刀直入に聞くけど、この手紙送ったの君?」

 

 角谷が手紙を出した。

 

「あっ!これ確か1週間ぐらい前に送った手紙ですよ!」

 

「やっぱり、じゃあ名前教えてくれる?」

 

 宗谷は慌てて手紙をしまい、ビシッと敬礼しながら自己紹介をする。

 

「旭日機甲旅団隊長兼、チリ車長、宗谷佳と申します!!あなたは、戦車道科科長の・・・角谷科長ですか?」

 

「ええ、私が角谷よ。成る程ね、君がこの手紙を・・・」

 

 角谷は納得したようだ。話をしたかったが全校生徒が見ている中で学園の中に入れる訳にはいかないので宗谷に一言言った。

 

「・・・・・とりあえず、一端外に出て。この状態で真正面から堂々と入れる訳にはいかないからさ。その、チリを隠したら裏に回ってきてくれる?」

 

「わ、分かりました」

 

 宗谷はチリに乗り込み、外に出るように指示し、角谷はグランドから生徒たちに授業に戻るように言った。

 

 

ーー

 

 

 

 30分後、宗谷は福田を連れて裏口に来た。福田は何故自分まで呼ばれたのか全く分からない。

 

「何で俺まで来なきゃいけないんだよ。隊長のお前だけで十分だろ」

 

「はじめはそう思ったんだがなぁ、やっぱり副隊長と一緒の方が良いかと思ってな」

 

「何で2人の方が良いって思ったんだよー・・・」

 

 そんなことを言い合っていると、河嶋が呼びに来た。

 

「おい、行くぞ。っていうか横の奴は?」

 

 福田は敬礼し、名前を言った。

 

「旭日機甲旅団副隊長の福田彰です」

 

「副隊長か、まあいい。ついてこい」

 

 2人は言われるがままについていった。そして科長室の前に着くと河嶋が先に入った。宗谷は大きく深呼吸をすると中に入った。

 

「「失礼します」」

 

 科長室に入ると3人が身構えていた。いや、正確に言えば身構えているのは小山と河嶋だけだが。

 

「よく来たねぇ、座って座って」

 

「何故この科長室に招いたんですか、相手は男ですよ」

 

「ま、まあ良いんじゃない桃ちゃん」

 

「桃ちゃん言うな!!」

 

 3人のやり取りを見ながら福田は何だか心配になってきた。

 

「おい宗谷・・・大丈夫なのか・・・?」

 

「心配すんな、これでも戦車道科のトップ3(宗谷の見解)だぞ。」

 

 宗谷はそう言うが福田は心配でならない。ずっと立ちっぱなしというのもあれなのでひとまず座ることにした。2人掛けのソファー2組が正面に向かい合わせで置いてあり、間に机を挟んでいるというどこにでもありそうなスタイルだ。

 宗谷と福田が座り、その向かいのソファーに角谷が1人座り、その両サイドに小山と河嶋が立っている。2人はただならぬ圧迫感を感じている。

 

「どうしたの?そんなに固くなって」

 

 角谷は緊張をほぐそうとしたのだろう、だが宗谷と福田にとっては逆効果になってしまった。より一層緊迫感が増した。しかしこのままでは拉致が明かないので宗谷が話を切り出した。

 

「自分達の目的は手紙に書いてあった通りです。無茶なお願いだとは承知していますが、戦車道に出させて下さい。お願いします」

 

 宗谷の言葉に角谷は少し迷いを見せた。

 

「う~ん、出させてあげたいのは山々だけどさ、君たちも分かっているように、戦車道は女子が出る伝統ある武芸。君たちが出たいのは分かるけど、そんな簡単にはいかないよ?」

 

 角谷が言うことは正論だった。今まで無かったことであると同時に、その伝統を崩しかねないことでもある。そんな簡単にはいかないだろう。

 

「ところで、話は変わるけど君らはどこの生徒なの?その制服の校章を見ても何かピンと来ないんだよね」

 

「自分達は元近衛機甲学校の中等科(中学生のこと)2年です。横の福田も元近衛の中等科2年で、同い年なんです」

 

「!!、近衛!?あの有名な『防衛学校』の!?」

 

 角谷は驚愕しているが河嶋には全く分からない。小山が焦りを見せながら説明する。

 

「えっ!?知らないの!?近衛機甲学校っていうのは全国からのエリートが集まる防衛学校だよ!」

 

 

「でも確か近衛は・・・・・」

 

「・・・・・廃校になりましたよ。4年前に・・・・・」

 

 科長室はしんとなった。3人はそんな過去があったなんて思いもしなかった。福田が口を開く。

 

「近衛が廃校になったときに、自衛隊に入るか普通の中学校に行くかを選択されたんですが、宗谷が引き留めてくれました。『俺と一緒に戦車に乗らないか』って」

 

「でそのあとはどうやって過ごしてきたの?」

 

「6人でバイトをしつつ、チリを組み立てながら過ごしました。もちろん勉学もしましたよ」

 

 ここまで話を聞いていると3人は何か引っ掛かることが・・・・・

 

「ん?今何て言った?」

 

「6人でバイトしてきたことですか?」

 

「いやその後」

 

「じゃあ勉学もしてきたことですか?」

 

「いや行き過ぎ」

 

「チリの組み立てながら過ごしてきたことですか?」

 

「「「それ!!!」」」

 

 思わずハモってしまったがそんなことはどうでもいい、何よりも聞きたいのは、()()()()()()()()ということ。角谷が苦笑いを浮かべながら聞き返す。

 

「あのさ、冗談だよね?戦車を組み立てたって」

 

「本当ですよ、冗談じゃないです。なあ福田」

 

「ええ、6人で地道に組み立てていった戦車ですよ。冗談抜きで」

 

 3人は信じられなかったが福田が携帯の写真を見せたので本当のことではありそうだと信じた。今まで戦車道をやって来たなかで、1から戦車を造ったなんて聞いたこと無かったが角谷が見た限りではしっかり出来ていた。

 だがこれで出られるかどうかはまた別問題だ。角谷は宗谷に改めて何で戦車に出たいのか、その意思を聞くことにした。

 

「今さら聞くけど、何で戦車道に出たいの?」

 

 そう聞かれた宗谷は何の迷いも見せずに一言だけ、こう言った。

 

「この学園に、憧れていたからです」

 

「・・・・・憧れていた?」

 

「自分の中では、この学園に来るというのは1つの目標でした。無名だった学園が、戦車道に出場して、優勝した。自分もそうなりたいと思ったんです。それから、今の目標は・・・いや、目的は、戦車道科を危機から救うことです。今、非常にマズい状態にあるんですよね?」

 

 その言葉を聞いて角谷は思わず動揺してしまった。

 

「ど、どこからその話を聞いたの?」

 

「風の噂で聞きました。『大洗女子学園戦車道科が危機に陥っている』って。もちろん噂は噂ですから100%信じてきたわけではないですよ。違うのであれは違うって言ってくれれば・・

 

「ううん、違くないよ・・・・・」

 

 3人の顔が曇った。その表情を見て、宗谷は察した。「本当なんだ」、と。

 

「参ったなぁ、そこまで噂が広まっているなんて」

 

「科長・・・どうします?」

 

 小山の言葉に角谷は本当のことを言うべきか迷った、まだ戦車道の生徒たちにも話していないことを言わなければならないのか、言うべきか、言わないべきか・・・・・迷っている姿を察したのか、宗谷がポツリと話を切り出す。

 

「言わなくて大丈夫ですよ。そこまでして聞き出そうとはしません。その状態からしたらまだ誰にも話していないようですし」

 

「宗谷、余計なこというな」

 

「あっ、すみません。忘れて下さい」

 

 角谷は何だかホッとした。そうだ、今はこいつらをどうするか、そこが優先だろうと思い直した。2分ぐらいの沈黙のあと、角谷が宗谷たちにこう言った。

 

「ここまで来てもらったばかりで悪いんだけどさ、今は出られるかどうかはここでは決められないから、明日また来てくれない?」

 

「分かりました、では宜しくお願いします」

 

 2人は頭を下げて科長室を出ようとしたとき、河嶋が忠告した。

 

「1つ言っておく、お前らはまだこの学園の生徒じゃない。ましてや男だ、大洗女子学園の生徒との接触は禁止する。分かったな?」

 

「分かりました、気を付けます」

 

 2人は敬礼をすると科長室を出て、人目につかないように裏口からこっそりと出ていった。3人はこれからのことを話し合った。

 

「どうするんですか、受け入れるのはともかく戦車道の試合に出せるかはまた別問題ですよ」

 

「うん。だからさ、今から協会長のところへ行って、話をしてこようと思うんだ。流石に何の断りも無しに出させる訳にはいかないしさ」

 

 今の大洗女学園の学園艦にはヘリポートがあり連絡用にヘリが1機ある。そのヘリで協会まで飛ぶということだ。角谷は早速ヘリに乗り、協会本部まで向かった。

 

 

ーー

 

 

 

 ヘリに乗り30分、協会本部に着いた。今この戦車道の協会長を勤めているのはみほの母の西住しほだ。陸上自衛隊の師範の職務を全うした後に退官、その後戦車道協会長に推薦され、10年近く協会長を勤めている。仕事内容は全国の戦車道科を管理すること。

 そして今は、今までの戦車道の試合の結果を見直していた。去年勝ったのは黒森峰女学園、一昨年はプラウダといった具合で、今となってはどっこいどっこいだが、5年前には黒森峰が15連覇を達成し、準優勝は大洗女子学園、3位にプラウダが入るという結果を残し、その翌年には大洗女子学園が優勝した。

 その時にはみほに対して素直に祝福の言葉を送った。だがそれ以降は大洗女学院が優勝したことはなく、去年は1回戦目に黒森峰対大洗で接戦を制し、優勝した。

 表向きは普段通りだがその一方で大洗のことを心配していた。資料を整理していると役員が部屋に入ってきた。

 

「失礼します。協会長、大洗女子学園の角谷科長が見えていますが、如何なさいますか?」

 

「角谷が?・・・・・分かったわ、通しなさい」

 

 角谷が会長室に入るとまずはお互いに挨拶をする。

 

「ご無沙汰してますしほさ・・・・・じゃなくて協会長」

 

「わざわざ協会長なんて呼ばなくていいのに。気軽に“しほ”と呼びなさい」

 

「いや、流石にそう呼ぶ訳には。立場が立場ですから」

 

「そうね。ところで、一体どうしたの?試合が近い時に来るなんてよっぽどなにかあるような感じだけれど」

 

「はい、実は・・・・・」

 

 角谷は学園艦に元近衛の男子が訪ねて来たこと、そして戦車道に出場したい意思を見せていることを話した。しほは何も言わない。そして角谷にこう質問した。

 

「その・・・元近衛の男子はどんな戦車を持ってきているの?」

 

「確か、チリ・・・って言っていましたね」

 

「チリ・・・あの中戦車を持っているとは、少し驚きね」

 

 角谷はしほの反応を見る限り、興味は示しているようだが出場は認めなさそうと感じた。だがしほは角谷にこう答えた。

 

「分かったわ、今回は特別に出場を認める。そう伝えてあげなさい」

 

「え、いいんですか!?」

 

 角谷が驚くのも無理はない。あの協会長がこんなにあっさりと認めるなんて思いもよらなかったからだ。

 

「何度も言わせないで、出場を認める。今から許可証を作るから少し待っていなさい」

 

 しほは許可証を作成し角谷に渡した。角谷は宗谷に渡すために颯爽と部屋を出ていった。

 

「・・・元近衛か。どういった技術を見せてくれるのか気になるところね」

 

 そしてまた整理をしようとした時、まほがバタバタと入ってきた。みほの姉の西住まほは母校である黒森峰女学園戦車道科、科長を勤め、黒森峰を何度も優勝に導いてきた。だが今は授業中のはず、そんな中で何故飛び込んで来たのかというとさっき角谷とすれ違った時に話の内容を聞いてきたからだ。

 

「お母様!角谷から聞きましたよ、男子を次の戦車道に出場させるなんてどういうおつもりなんですか!?」

 

「落ち着きなさいまほ。私はその男子たちが元近衛であると聞いたからどんな戦い方を見せてくれるのか興味があるだけよ。他校の男子だったら受け入れなかったわ」

 

「でも・・・相手は元近衛かもしれませんが男子ですよ!?それを承知の上で許可証を!?」

 

「そうよ、何もそう慌てることはないわ。元近衛でも、我が西住流にかなう者はいない。実力の差を見せ付けるには打ってつけでしょう」

 

 しほはそう言うと整理を続けた。まほは納得出来なかったが母が決めたことなら反対は出来ない。しほに一言「分かりました」と言い残し、会長室を出ていった。

 

 

ーー

 

 

 

 一方、大洗の学園艦では宗谷と福田が2人で会話をしつつ、チリを目指して歩いていた。

 

「大丈夫なのか、『出られるかは分からないから明日こい』って言われたけれど、何かやっぱ心配だなぁ」

 

「心配すんなよ福田、大洗を廃校から救うためにかなりの手を尽くしてきた人だぜ。心配することは何にも無いって」

 

「だと良いがなぁ」

 

 

 そんな会話をしている最中、学園内は朝に乗り入れてきた戦車と、1人の男子の事で話題になっていた。昼食の時間はもっぱらその話しかない。

 

「ねぇねぇ、あの戦車何だったんだろうね」

 

「うん、すっごい気になる。あの男子もめっちゃ気になるなぁ」

 

「もしかして、戦車道科の新メンバーとか!?」

 

「ありそうー!」

 

 そんな会話を聞きながらかほ、由香、藍の3人も昼食を取っていた。藍は戦車と男子の事が気になっていたが、由香は戦車のうんちくばかり喋っている。

 

「朝来たあの戦車は“5式中戦車チリ”っていう戦車なんですよ!世界でもたった1輌しかなくて、昔アメリカに輸送途中で消えてしまったらしいんですよ!って聞いてます!?」

 

「聞いてますよ由香さん。それより昼食を早く食べないと、昼休みの時間無くなりますよ?」

 

 藍の言葉に渋々昼食を取り始めた。そんな由香を見ながらかほもチリのことを考えていた。一体何のために、そして、何が目的なのか・・・・・

 

「かほさん?かほさん?大丈夫ですか?」

 

「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてた」

 

 かほは慌てて食事を取り直した。すると由香がこんな事を言い出した。

 

「そうだ!授業終わったら武部さんと冷泉さんも誘って探しに行きましょうよ!」

 

「あの戦車を探しに行くんですか?見つかりますかね」

 

「絶体見つけますよ!探しだしてみせます!!」

 

 

ーー

 

 

 

 その頃、宗谷たちは※擬装(ぎそう)したチリの側で昼食を取っていた。コンビニで買ったおにぎりをつまみながら残された4人が宗谷と福田を質問攻めにしていた。

 

「へぇー、科長がねぇ。でなんて?」

 

「明日また来いってさ。今は出場を認めることは出来ないからって」

 

「えー、明日かよ。明日まで待たされて『ごめんダメだった』って言われたら洒落にならねぇぞ」

 

「まあ落ち着けよ、とにかく明日まで待つしかないさ。あの科長だぞ?きっと何とかしてくれるって」

 

 福田が大切なことを思い出した。

 

「あ、そう言えば・・・・・片目眼鏡の人、確か桃ちゃんとか呼ばれてた人から大洗の生徒との接触を禁止するとか言ってたな」

 

「は?ここ大洗女子学園の艦だろ?しかも朝のどたばた騒ぎで俺たちの格好とか見られてるし、どうやって接触しないようにするんだよ」

 

「うーん、とりあえずもう少し楽な格好にするか?」

 

 宗谷がそう言うのは無理はない。宗谷と福田は近衛の制服、後の4人は全員深緑色の実習服(宗谷たちは戦闘服と言っている)を着ている、これでは目立つ。

 宗谷の指示で、私服に着替えた。少なくとも、これなら目立たないだろう。宗谷はとりあえず自由時間と言い、学園艦内を自由に探索しよう、と言って30分後。全員がチリの隠し場所に戻ってきた。

 

「あれ?どしたの?こんなに早く帰ってきて」

 

「あー・・・・・実は住んでる人たちにちらっちら見られてさ、全然ゆっくり出来そうにねぇから帰ってきた」

 

 全員同じ意見で合致したので、探索は少し時間を置いてからにすることになった。

 

 

ーー

 

 

 

 時刻は午後4時、大洗では今日の授業が終わったところだった。というわけで、由香が4号のメンバーを集め、例の戦車を探すことになった。

 メンバーは今の4号戦車搭乗員の5人、かほ、藍、由香、武部の娘、(しおり)冷泉(れいぜい)の娘の七海(なみ)も加わった。由香は早く探したくてうずうずしている。

 

「早く行きましょうよ、ワクワクします」

 

「行くのは良いですけど、あてはあるんですか?」

 

「そうだよ。まずはある程度把握しないと失敗するよ。恋も戦車探しも」

 

「・・・・・恋のことは意味が分からない・・・・・」

 

「とりあえず、空き地とか見に行こうよ。もしかしたらそこにあるかも」

 

 かほたちがチリを探し始めた頃、水谷と岩山が買い出しに出ていた。大洗の生徒と接触しないように、なるべく普通にしていた。

 

「・・・・・ただならぬ緊張感があるんだが・・・」

 

「ま、まぁな。取り敢えず、普通にしとけば問題ないって」

 

 そんなことを言いながらコンビニに着き、とりあえず食べ物を買って戻っていった。その一方で宗谷はぶらぶらと町の中を歩いていた。

 朝は道に迷ったりと大変だったで、町の見物ついでに道の状況を把握しておこうと思ったのだ。

 

「・・・・・本当に普通の町と変わらないなぁ。どうやって浮いてんだろ」

 

 その時、前から女子が5人向かってきた。チリを探しているかほたちだ、近付くと話が聞こえてきた。

 

「はぁ、見つからないですねぇ」

 

「簡単に見つかると思って侮りましたね」

 

 宗谷には何が何だか全く分からなかったが続きを聞いていると。

 

「もう、何処にあるのよ!あの戦車!」

 

「ただの戦車じゃないですよ、あれは『チリ』って言って珍しい戦車何ですよ」

 

「!?」

 

 宗谷は思わず動揺してしまった、無理もない。お互いに知らないはずなのに何故か自分達のチリを探している、何で探しているのか全く分からない。

 

「あのチリを探して、何で持っているのかを聞いて、それから写真を撮って、えーっとあとは~」

 

 話を聞く限りでは見つかったら何か面倒なことになりそうだと感じた。とりあえずこの場は離れた方がよさそうだと思いすれ違った。すると藍が何がを感じた。

 

「?、何だか火薬と鉄の錆が混ざった匂いが・・・・・」

 

 藍は母譲りで鼻が効くのだ。

 

「本当ですか藍さん!?戦車は近そうですね!」

 

「いえ、あの人から匂っているんですよ」

 

「「「「え・・・?」」」」

 

 全員の視線が一斉に宗谷に向けられる。宗谷はその辺に関しては鈍いので全く気付かない。

 

「誰が話しかけるの・・・・・?」

 

「・・・・・私やだ・・・・・」

 

「私もちょっと・・・」

 

「西住殿、お願いします」

 

「え!?私!?」

 

 嫌々ながら引き受けたかほはそっと近付いて話しかける。

 

「あ、あの・・・・・」

 

 何故か呼ばれた、宗谷は思わず振り返る。

 

「はい?」

 

「あの、かなり不躾な質問何ですけど・・・・・もしかして今日の朝、学園を訪ねて来た人ですか?」

 

「いえ、人違いですよ」

 

 そう言うとくるりと向きを変えてその場を颯爽と去っていった。さっぱりとした対応を見せたが宗谷は冷や汗ダラダラだ。しかし、“人違い”と言われても藍の鼻の良さは侮れない。

 どうしてもチリの場所が知りたい由香は尾行しようと言い出し、宗谷の後を着いていくことに。このままついて行けばきっと着けるだろうと思ったのだ。気分はスパイ、何処かの組織のアジトを突き止める、まさにそんな感覚だろう。

 だがこの技術に関しては宗谷の方が上だ、5人が尾行してきていることは分かっていた。

 

「尾行か、まだまだだな」

 

 宗谷は少し本気を出そうと思い、角を曲がった。かほたちが慌てて角を曲がると、宗谷は忽然と消えていた。

 

「うぇ!?さっきまでいたよね!?」

 

「どっ何処いったんですか!?」

 

 宗谷が曲がったこの道は壁しかない、隠れる場所なんて何処にも無いのだ。

 

「ま、まさか幽霊、とか!?」

 

「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊なんて、いるわけがない!!」

 

 七海は幽霊が大の苦手なのだ。

 

「と、とりあえず捜索続けよう」

 

 かほの言葉に何とか平常心を取り戻した5人は、再び探索をすることにした。かほたちが見えなくなったタイミングを計らい、壁の向こう側から宗谷が出てきた。どういうことかと言うと、角を曲がると同時に壁を登って隠れたのだ。

 

「幽霊ねぇ・・・まぁ、俺たちは無名だからな。半分幽霊みたいなもんか」

 

 そういうと今度は山を登り、町を見下ろした。見える町並みには、さっきまでいた大洗女子学園や住宅街が見える。その景色を見ながら、宗谷はポツリと呟いた。

 

「大洗戦車道科を救えないと、その代償は計り知れない。この景色を失いかねないことだからな・・・・・」

 

 

ーーーーー

 

 

ーーーー

 

 

ーーー

 

 

ーー

 

 

 

 翌日、朝6時、宗谷は校門の前に立っていた。流石にこの時間帯なら生徒が来ることは無いだろうと思っていたのだ。目的は昨日の話の続きを聞くためだ。

 もしかしたら『ダメだった』と言われるかもしれない。そうなれば全てが無駄になるなぁ、と思う一方で学園艦に乗れただけ良かったか、と思っていた。

 もし駄目であれば素直に諦めて、6人で自衛隊の機甲科にでも入ろうか、とその後のことも考えていた。

 

「お?朝が早いねぇ、隊長くん」

 

 角谷が来た。宗谷は早速、例の出場の件について聞いた。すると角谷は鞄から封筒を出した。

 

「・・・・・これは?」

 

「良いから良いから、出してみて」

 

 封筒から1枚の紙が出てきた。その紙には『出場許可証』と書かれていた。

 

「これは・・・・・」

 

「よかったわね。君たちの出場許可が下りたのよ、早速だけど今日から一緒に練習してもらうから、とりあえず今日の朝9時にここに集合ね」

 

「はい!宜しくお願いします!!」

 

 宗谷は笑顔でチリに向かって走っていく、新たなる戦車道が今、始まる!

 

 




※解説

擬装(ぎそう)
カモフラージュの意味。
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