大洗合同チームと旭日合同チームの練習試合が行われ、結果は引き分けで終わった。
試合が終わった時、宗谷は会いたくない人物と遭遇することになる。名前は『種島優衣』、過去に宗谷を自分の学校に招こうとしたのだ。
そして種島は、宗谷のことを『孤独なエース』と呼んだ。その呼び名は誰も知らなかった。福田を除いて。
種島優依、東京パンツァーカレッジ(旧名東京機甲大学校)の隊長を勤めている女子高生であり、種島流戦車道の後取りだ。
種島流戦車道の流儀は、如何なる犠牲を払っても勝利し、勝利のためなら戦車、戦闘員は最高峰のものを揃える。聞くだけだとチームワークの欠片も無さそうな流派だが、この流派で多くの勝利を手にしてきたことは間違いない。
東京パンツァーカレッジはまさにその象徴と言えるだろう。15年前に戦車道専門学校、東京機甲大学校として開校し、戦車道の専門学校ととして数多くの優秀生を輩出してきた。それから5年後、専属の中学、高校が開校し、戦車道の大会にも度々参加してきた。
しかし、種島が入学して1年後、学校は変わっていった。何を思ったのか、種島の親である種島
まず始めに、攻撃力、防御力に欠ける戦車を排除し、ドイツ、ソ連、アメリカ、イギリスの4ヵ国に限定。4ヵ国に限定したと言っても残したのは重戦車ばかりで、3号戦車などの中戦車は排除されていった。
それだけではなく、実力が乏しい生徒は戦車の整備員にして、成績が優秀な生徒だけを乗員として残した。300人いた生徒の内、200名が整備員に、残り100人が乗員に区分けされた。そして200名の整備員の内、54名が辞めた。
小百合は、戦車道の世界大会に出場した経験がある実力者で、立場はしほと同じだ。優衣本人も、過去に世界大会に何度も出場している。そのため、他の学校の生徒からしてみれば、優衣に誘われることは名誉あることだ。
しかし宗谷と福田は全く動じていなかった。何故なら5年前に1度だけ、種島と会ったことがあるからだ。
種島がここを訪ねて5日が経った。戦車道科のメンバーは、宗谷と種島に何があったのか気になっていたが、この状態では聞くことは出来ない。
宗谷からも話そうとしないため、謎は謎のままで終わるのだろうと思っていた。
場所は変わり、展望台で福田が海を見ていた。学園艦が作る波の音が響き、吹き抜ける風が潮の香りを運ぶ。
「あら、ここにいましたか」
声がする方に振り向くと、聖グロのルフナが立っていた。福田は何故ここにいるのか理由を尋ねる。
「・・・・・何であんたがここにいるんだよ。ここは大洗の学園艦だぞ」
「あんたとは随分失礼ですね。まぁ良いでしょう、それにちゃんと乗艦許可証は取ってますから、心配しないでください」
「心配はしてねぇ」
ルフナは福田の隣に座った。福田は何故来たのか聞き出そうとする。
「で?わざわざ遠いところから一体何のようだ?」
「ここに、種島優依さんが来たそうですね。しかも、あなたと宗谷さんのことを知っていたと聞きましたから、親しい仲なのかと思いまして」
「冗談言うな。あんなやつと親しくなりたくねぇし、親しくするなんてこっちから願い下げだ」
福田は種島のことなどお構いなしに罵倒する。ルフナはあまり良い関係を築いているようではなさそうだと察した。
「種島さんのことに対して随分な言い様ですね。何かあったのですか?」
「過去の話だ。あんたには関係無い」
「関係無いとは言わせません。互いに戦車道をする身として、知る権利はあります」
「どこにそんな権利があるんだよ」
どうしても関係を知りたいルフナに対して、福田は全く話す気がない。だがあまりのしつこさに負け、条件付きで話すことを約束した。
「話すのは良いが、1つ条件がある。今までの試合で戦った学園の隊長を全員集めろ。勿論、練習試合で一緒になった隊長もだ。期限は1週間だ」
「・・・・・意地悪な条件ですね」
「当然だろ?他の学園の奴等だって、俺たちと種島の関係を知りたがっている。それなのにあんただけ特別扱いするわけにはいかない、だから俺たちが戦った学園の隊長たちだけに話そうと思ったのさ」
妥当な条件だが、隊長を集めるのは難しそうだ。断るかと思ったが、ルフナはその条件を受け入れることにした。
「良いでしょう、隊長を全員集めてきますわ。あなたもこの事は忘れないで下さいよ?」
「忘れるもんか、約束は絶対に守る」
そう言われ、ルフナは軽く頭を下げて去っていった。その姿を見た福田は、ため息を付きながら頭を掻いた。
「ったく、そんなあっさりと話す分けねぇだろ。まぁこの条件を受け入れるって言っても無理だろうな。相手の連絡先知ってても、1週間以内に集れるとは思えねぇし、向こうが諦めるだろ」
そう呟くと福田は寮に向かって歩いていった。その時に、ふっと昔の事を思い出した。宗谷と初めて出会った、あの時の事を・・・・・
それから1週間後の放課後、旭日のメンバーたちはチリ改の手入れをしていた。履帯に付いた泥を落とし、油を注して照準器を磨いていた。操縦席の窓を拭いている福田に、宗谷が呼び掛る。
「福田、西住がお前を呼んでいたぞ。『ルノー』で待ってるってさ」
「俺を?何かの間違いだろ?呼ばれるようなことした覚えねぇぞ?」
「お前忘れっぽいからなぁ、何か約束でもしてたんじゃないのか?とにかく、整備が終わったらルノーに行けよ」
そう言われたが、福田には全く覚えがない。しかし1週間前に何か約束したようなことはぼんやりと覚えていたが、かほに呼ばれるような覚えはない。
覚えは無いが、呼ばれているなら行くべきだろうと思い、作業が終わった後すぐにルノーに足を運んだ。
(気のせいかなぁ・・・・・何か忘れてる気がするんだよなぁ。えーっと、何だったっけ??)
そんなことを考えながらルノーに着くと、扉を開けて中に入った。
「こんちはー、おーい隊長。俺を呼んだって聞いた・・・・・」
福田は言葉を失った。目の前には、各校の隊長が座っていた。黒森峰の西住夏海と逸見マリカ、プラウダのサティとルリエー、サンダースのケイ、アンツィオの安斎千代子、知波単の西太鳳、そして大洗の西住かほだ。
(あれ?隊長が揃ってるぞ?・・・いやまて、なーんか思い出してきたぞ・・・・・)
「福田さん?何しているんです?早く話を聞かせてもらえませんか?こちらの約束は果たしました、今度はそちらの約束を果たす番ですよ?」
ルフナに言われ、ようやく思い出した。『今まで戦った学園の隊長を、1週間以内に集める』ことを条件にしていたことを。
(忘れてたぁー。そうだった・・・・・話すんだったなぁ、俺たちの過去を・・・仕方ねぇ、約束は約束だ)
福田は川井店長に、「彼女たちのリクエストを聞いて何か出してあげてください」と言い、席についた。テーブルに肘をつき、何から話そうか悩んだ。そして川井店長が全員分の紅茶を持ってきたとき、ようやく口を開いた。
「えーっと、まずこっちから1つ聞きたいんだが、何で副隊長までいるんだ?俺は『隊長を集めろ』って言ったんだが」
「あら、『副隊長は連れてこないで』とは言いませんでしたよ?それに彼女たちも知りたいようですから、構いませんよね?」
「・・・・・そうか、まぁ良いよ。さて、何から話そうか。じゃあまずは・・・何故宗谷があんな風に呼ばれたのから話すか」
5年前、まだ近衛機甲学校が廃校になる前のことだ。宗谷は両親を早くに亡くし、祖父である陸丸に育てられた。その頃から、戦車に乗りたいという意思があり、近衛機甲学校に入学することを目標にして頑張っていた。
そして小学校卒業後、近衛機甲学校に入学することが出来た。しかし入学式が終わったその2日後、陸丸が72歳でこの世を去った。近衛は全寮制であり、自衛隊のように食事や寝床などは提供してくれるため、衣食住に不自由は無い。その変わりに宗谷は帰る場所を失った。
その時から宗谷は1人で行動することが多くなり、チームで組んでやることでも1人でこなすようになった。周りからは良く思われていなかったが、個人の成績はいつもトップだった。その時に付けられたあだ名が『孤独なエース』だった。陰口で言われていたが、宗谷は全く気にしていなかった。
それから月日がたち、近衛は夏休みが終わって後期の授業に入り2ヶ月が経った。福田が操縦科に移り、戦車の操縦に慣れたとき、突然教官に呼び出された。
怒られるのかと思いながら教官室に入ると、部屋には教官以外に宗谷と他の科目の生徒がいた。車長戦術科の宗谷、操縦科の福田、重砲科の
八神と佐藤は、この時だけ宗谷と一緒になった生徒で、この2人は廃校になったときに普通の中学に転校した。
全て戦車の一部分に関係する科目だけが集められ、何を言われるのかと思っていると、教官からこう言われた。
「お前たち4人は、我々から見て最高峰の生徒たちだ。何故お前たちを集めたのかというと、これから2週間後に東京機甲大学校と、戦車道の練習試合行う。お前たちはその選抜メンバーとして出場してもらう」
急に戦車道をすることになり、福田たちは困惑したが、宗谷は普段通りだった。
「あ、あの・・・・・戦車道って何です?新しい武芸ですか?」
佐藤が教官に尋ねる。男子からしてみれば、戦車道という言葉すら聞いたことがないのも無理ないだろう。
「女子の嗜みとして、代々引き継がれてきた伝統ある武芸だ。戦車に乗って戦うらしい。本来男子は出ないんだが、向こうの生徒が手合わせしたいと言ってきたらしい。本来の規則とはことなるが、1対1で勝負したいと言っているそうだ」
事の発端を説明され、3人は急にプレッシャーを掛けられたが、宗谷は「それは楽しそうですね」と答えた。そして教官から、宗谷を中心に試合まで訓練を積むことを命じられた。
宗谷が車長、福田が操縦手、八神が砲手、佐藤が通信手兼装填手を担当するということで話は終わり、明日から訓練に励めと任を受けた。
翌日、宗谷たち選抜メンバーは授業に参加せず戦車道に向けての訓練漬けの生活になった。向こうの指示で、互いに戦車を3輌用意して試合で使う戦車を隊長が選び、試合をするというのだ。
近衛側が用意した戦車は、1式中戦車、98式軽戦車、89式中戦車の3輌だ。戦車道に向けて、装甲をカーボンで覆い、砲弾は安全弾にするための改造を施している。
しかし相手の戦車はドイツのティーガー1、アメリカのジェネラル・パーシング、ソ連のISー3の3輌の内どれかだと聞かされ、福田は敗北が確定したと確信した。どの戦車でも、1発直撃を受けたら勝負は決まる。
せめて3式中戦車や1式砲戦車といった防御に強い戦車を貸してもらいたいと教官に頼み込んだが、『1式中戦車以上の戦車は、試合までに改造が間に合わない』と言われ、貸し出しを許可されなかった。
そして宗谷たちは2週間厳しい訓練を積み、3輌の戦車と共に東京へ向かった。その内の1輌は、89式中戦車を3式中戦車に入れ換えられた。ギリギリで改造が終わり、貸し出しを許可されたのだ。これで対等に戦える、と誰もが思った。
学校に着くと、向こうの学園長が出迎えてくれた。学園長同士の挨拶を流し、宗谷たちは学校の中へと入っていく。そこでは、様々な戦車が走り回り、砲弾を撃ち合っていた。宗谷以外の3人は見たことない光景に呆然としていた。
そこへ、生徒が2、3人歩いてきた。まだ入学して半年経ったばかりの種島と、この学校の生徒だった。
「あら?誰かと思ったら近衛の生徒じゃない。見なさい、戦車道の素人たちが揃っているわよ」
初対面にも関わらず、近衛を罵倒する種島。3人は頭に来たが、宗谷が止めた。「何故止めるんだ」と尋ねる福田に、宗谷はこう答えた。
「奴の言葉に流されるな。やつが言うとおり、素人であることは事実だが、戦車の技術なら俺たちの方が上だ。実力勝負ならこっちに分がある」
その言葉に種島はピクッと反応する。
「あんた、私に勝つ自信があるって言うんだ?」
「少なくとも、他人の実力を知らないのに勝った気でいる奴に負ける気はしないな」
その言葉を聞いて引き笑いを見せる種島、バカにされているようでカチンときたのだろう。
「あんたみたいに生意気な奴には負けないわ。弱い戦車しか持たない学校にはね」
「戦車の強さは乗っている乗員によって決まる。砲が小さくても、装甲が薄くても、速度が遅くても、乗員の腕が良ければ小物でも大物になれる」
「それは面白いわね。なら見せてもらおうかしら?あんたたちの腕を」
それから5分後、試合の開始時間になり宗谷たちは広場に集まった。広場には近衛の選抜メンバーと3輌の戦車、そして東京の選抜メンバーと3輌の戦車がいた。
福田たちはその戦車を見て言葉が出なかった。相手の戦車はドイツのヤークトティーガー、イギリスのセンチュリオン、アメリカの ジェネラル・パーシングだ。
1輌は事前に聞いていたのと同じだったが、あとの2輌を見て完全に倒す気でいると察した。唯一対抗出来るのは
種島が真っ先に選んだ戦車は、ヤークトティーガー。そして宗谷が選んだ戦車は、
「アハハハ!あんた正気!?こっちはヤークトティーガーなのに、そっちはチヘなんて、笑いが止まらないわ!」
「正気だ。俺はこの戦車でお前に勝つ」
大笑いしている種島に対して、宗谷は真剣だった。互いに戦車に乗り込む時、福田が詰め寄った。
「お前マジでこの戦車で戦うのか!?98式軽戦よりはマシだが、相手はあのヤークトティーガーだぞ!勝ち目がない!」
八神と佐藤も同じ意見だった。「勝てるわけがない」、「1発で負ける」と言ったが、宗谷は落ち着かせた。
「落ち着け。さっきも言ったが、戦車の強さは乗っている乗員で決まる。良いか?自分の腕を信じるんだ、俺も」
そう言うとチヘに乗り込み、残された福田たちは呆然と突っ立っていた。これには教官たちも驚きを隠せない、チヌの改造が間に合ったので使用を許可したと言うのに、よりによってチヘを選ぶとは想定外だった。
そこに種島小百合が姿を見せた、娘の試合を観に来たのだろう。その様子を見て、小百合も驚いていた。「これでは勝敗がすぐに分かる」と小百合は呟いた。
試合が始まると、ヤークトティーガーからの容赦ない攻撃がチヘを襲い始めた。チヘからも反撃するが、正面装甲が厚いヤークトティーガーには歯が立たない。
戦場は防御に使えそうな木や岩が全くない
「隊長!この状態じゃ反撃出来ない!」
八神からそう言われ、宗谷は外を見て土埃が上がっているところを見て福田に指示を送る。
「福田!ジグザグに走って土埃を上げろ!!戦車が隠れるように思いっきりやれ!」
指示通りチヘを走らせ、回りは土埃で見えなくなった。種島は土埃が上がっているところに撃ち込めと指示し、砲弾が土埃を払っていく。
種島が頭を出して回りを見渡すと、チヘは横に回っていたヤークトティーガーは砲搭が無い砲戦車型、敵を攻撃するには車体ごと旋回させなければならない。「早く回せ」と種島は急かしたが、重量級の戦車はそう簡単に回らない。
チヘが横から攻撃するが、47ミリ砲では側面装甲は貫通出来ない。そこで宗谷は、1発逆転を狙うため新たに指示を出す。
「福田!このまま後退してやつと距離を取れ!指示したらすぐに戦車を止めろ!八神!砲身仰角を最大にして合図したら撃て!!」
何の意味があるのか疑問に思ったが、指示に従い距離を取る。ヤークトティーガーが小さく見えるところまで距離を取ったとき、宗谷が新たに指示を出す。
「停止!!主砲発射用意!目標ヤークトティーガー!方位224、仰角最大!!撃てぇ!!!」
合図を受け、トリガーを引くと迫撃砲のように砲弾が空高く撃ち出された。見ていた校長と教官は「無駄なことをした」と思ったが、この方法が勝敗を左右することになる。
ヤークトティーガーは車体を旋回させてチヘに砲を向けている。この砲なら、少し離れていてもチヘを撃ち抜くことは可能だ。種島はにんまりと笑っていた。
「これで終わりよ近衛!射撃用意!目標チヘ!撃て・」
『ドォーン!!!』
「・・・・・え?」
種島は一瞬何が起こったのか分からず、ハッチを開けて後ろを見た。エンジン部から黒い煙が上がり、『やられた』と報せる白い旗が棚引いていた。何故エンジンに弾が直撃したのか、どこから砲弾が来たのか分からなかった。
福田たちも何で勝ったのか分からずにいた。指示に通りに戦車を動かし、射撃しただけだ。沈黙していたとき福田が閃いたかのように声を上げた。
「! そうか!!
福田の言葉に八神と佐藤は納得した。宗谷が狙っていたのは車体の後ろにあるエンジン部、しかしチヘの47ミリ砲では近距離で撃っても装甲貫通は出来ない。
それなら車体の上にある吸気口を狙えばいい、しかし至近距離では上を狙うことは出来ない。そこで、砲身仰角を最大にして砲弾が山形に飛ぶようにしたのだ。このように砲弾が飛ぶことを、『曲射弾道』という。
先程の砲弾は空へ向かって跳び、ある程度飛ぶと少しずつ下へ落ちていく。その時、ヤークトティーガーは砲を撃つために車体を旋回させていた。
旋回が終わった時、砲弾はエンジンを捉えていたのだ。車体上部は狙われることを想定していないために装甲は薄い、47ミリ砲でも撃ち抜くことは出来る。
そして種島が射撃に気づかなかったのは、チヘがヤークトティーガーから離れたことが大きく関係している。
エンジンが大きい分、音も大きくなる。そして47ミリ砲の射撃音はヤークトティーガーのV12エンジンより音は小さいため、種島の耳には届かなかった。宗谷は全て計算した上で指示を出していた、これには教官たちも頭が上がらない。
ヤークトティーガーの回収が終わり、各校互いに向き合うように整列していた。
「弱い戦車しか持たない学校には負けないんじゃなかったのか?」
宗谷が痛いところをついてくる、種島は何も反論出来ない。
「言ったはずだ。戦車の強さは、乗っている乗員によって決まると」
「・・・あんたはこういう戦い方をするためにチヘを選んだ、ということね?」
「そうさ。この作戦を成功させるには機動力があるチヘを選ぶしかなかった。そしてお前は負けたんだ、ヤークトティーガーよりも弱い戦車にな」
勝った相手に攻める宗谷、福田は相手に同情したが、宗谷がバカにされた分言い返してくれたので少しスッキリしていた。
「お前には
そう言い残すと歩き始め、福田たちはサッと敬礼して宗谷の後を追った。種島は右手をグッと握りしめた。
それから1週間後、再び種島が近衛を訪れ、宗谷に「東京機甲大学校に来てほしい」と勧誘してきたのだ。しかし、「そんなところには行かない、俺には行くべき場所がある」と言って勧誘を断った。この時から、大洗に行くつもりだったようだ。
種島は1週間に1回は必ず勧誘に来て、宗谷はその度に断ってきた。そして近衛が廃校になり、勧誘されることはなくなった。
いや、なくなったというわけではなく、宗谷の居場所が分からなくなったから勧誘出来なかったというべきだろう。近衛が廃校となった時、宗谷が旭日機甲旅団を結成して大洗へ行くために準備を始めたのだ。
「・・・・・と、ここまでが俺の知っている宗谷の過去だ。これ以上は知らねぇから、細かいことは奴に聞いてくれ」
福田は1時間に渡って過去のことを話してくれた。話を聞いていた隊長たちには、驚きと疑問が残っていた。『東京パンツァーカレッジと、近衛が試合をした』ということ話しは聞いたことがない。
「種島が
夏海が福田に問いかける、口からの出任せではないのかと感じたのだ。
「本当のことさ。こっちの西住隊長に聞いてみな、種島が来たとき居たからな」
福田がかほに話を振る。聞いてみろと言われてもと思ったが、種島が福田に対する態度を思い出した。
「福田くんが言っていることは、多分本当だよ。種島さんは、福田くんのことを『あの時のドライバー』って言った。本当に赤の他人ならそんな風に呼ばないよ」
「多分じゃなくて本当なんだよ。宗谷も同じ事言うと思うぜ?」
「ああ、同じ事を言うよ」
後ろから声がしたので慌てて振り返ると宗谷が腕組みをして立っていた。
「そ、宗谷!?何でここに!?」
いるはずがない本人が目の前にいるので福田は驚きながら宗谷には尋ねた。宗谷はフッと笑って答えた。
「何か怪しいと思って後つけていったら・・・全く、何の断り無しに自分だけ話すなんてつれねぇぞ」
そう言うと宗谷も席につき、紅茶を頼んだ。そして自分の口から過去を語った。
「福田が言っていたことは全部本当さ。俺たちは種島と試合をして勝った、でやつから来ないかと誘われている・・・今もな」
「宗谷くん。種島さんは、諦めないと思うよ。きっとまた来る」
心配そうにしているかほに、宗谷は顔を上げた。
「・・・また来るさ。今度は
その言葉に一同はざわついた。あの種島と、再び試合をするというのだ。
「宗谷・・・それ、マジで言ってんのか?」
「向こうが持ち掛けてきたんだ。俺はこの試合で決着を付けるつもりさ。負けたら俺が東京パンツァーカレッジに、こっちが勝ったら戦車を10輌くれるそうだ。くだらない条件だが、俺はこの試合で決着を付ける。絶対にだ」
場所は変わり、種島家。優衣と小百合がテーブルを挟み、向い合わせで座っていた。
「優衣、今度は負けないでしょうね?」
厳しい声で尋ねる小百合に、優衣は自信気に答える。
「絶対に勝つわ。今はチリ改に乗って指揮を執ってるけど、私の敵じゃないわ。5年前は負けたけど、今回は負けない。そして、宗谷佳をこの学校に入れてやるんだから」
5年前の決着を付ける宗谷。絶対に勝利し、宗谷を東京パンツァーカレッジに引き抜きたい種島。互いに負けられない戦いが、始まろうとしていた。
知らされた宗谷の過去、そして始まる新たなる戦い。新たなる戦車道が今、始まる。
今回も読んで頂き、ありがとうございました。
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