これが相手の物であると確信し、ドローンを全機撃墜する。敵の目を完全に潰したと思っていた宗谷たちだが、種島は新たに『エージェント』と呼ぶ刺客を送り込んでいた・・・・・
ドローン撃墜後、宗谷たちは休憩を取っていた。敵が来ない今しか、こうしてゆっくりと休憩を取ることは出来ないだろう。
そんな中でも、宗谷は地図を確認してどの進路で進軍するか考え、福田たちはエンジンに損傷を受けた97式中戦車の修理を行っていた。休憩を促されたが、宗谷たちはこうしている方が落ち着くらしい。
「宗谷くん、どう?」
かはが覗き混むように話し掛けてきた。
「うーん。色々考えているんだけどさ、これだっていうのが思い付かくて苦戦しているよ」
「・・・お姉ちゃんたちも休憩しているそうだけど、大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよ。向こうには頼りになる連中がいるんだ、心配することはないさ」
森林エリア付近
夏海の指示で一旦休憩をしている中で、
「・・・と言うわけさ。バラバラのように思えるかもしれないけど、ちゃんと意味あるんだぜ?」
「へぇー、みんなマガジンとかボンベとか呼びあってるのそう言うことなんだ」
「そうさ。俺は重機関銃が好きだから、92式重機関銃の呼び名から取って『ウッドペッカー(英語でキツツキの意)』、隊長の赤坂はすぐに弾を撃ち尽くして新しい弾倉を使うから『マガジン』っていうニックネームなのさ」
どうやらニックネームの由来を話しているようだ。
酒田は車輌操縦担当という理由で『キャプテン・ドライバー』、竜は大型の武器の中で『ガトリング』が好みなので、そのまま名前を取って『ガトリング』。
青山は負傷者の手当てをするのでメディック、遠井に関しては『スナイパー』という意見があったが、「そこまでの腕はないから」ということで、狙撃のメインアイテムの『スコープ』。
田所は拳銃に詳しく、外国の拳銃が好きだったのでフィンランドの拳銃、『ラハティ』という名前を取った。灘河は水中からの奇襲を得意にしていたので、水中で使う『ボンベ』をニックネームにした。
ちなみに
「赤坂、ちょっと良いか?」
夏海が
「ここからだと市街地まで20分程で着ける。宗谷たちの方も、このまま順調に行ければ15分ぐらいだと言っていた」
「順調に行けるとは思えねぇな・・・ドローンは全機落としたが、あの連中の事だ。次は何を仕掛けてくるか分かんねぇぞ」
「確かに、ドローンを使って私たちを監視していたなんて想定外の事です。彼女たちは、私たちが思っている以上にフェアな戦いをする気は無さそうですね」
「・・・そうだな。全滅を避けるために分かれているが、集まって動いた方が良いかも知れないな。後でかほに相談して、合流するか聞いてみよう。チームの出発は15分後だ、他の乗員に伝えてくれ」
3人がこの事を話している時、ティーガー1の陰から誰かが話を聞いていた。話を聞き終わると、誰にも見えないところまで行ってしまった。
その後、夏海はかほに連絡を取り、30分後に合流するように伝えた。
市街地エリア
優衣が搭乗しているヤークトティーガーは、スタート地点からほとんど動いておらず、ただ指示をするだけの司令塔になっていた。
先行していった友軍からの報告を受けて優衣に報告し、優衣が作戦を立てて乗員が返信するという作業の繰り返しで、乗員は『いつになったら動くのだろう』と考えていた。
「隊長、『エージェント』から連絡です。内容は・・・」
「・・・・・そう、まぁ良いわ。少しは休息の時間を与えて上げないとね」
「あの・・・我々はいつまでこうしているつもりですか?」
「その時になったらこっちも動くわよ、それまではここで司令塔としておくわ。どうせあいつらは
自分の作戦によっぽどの自信があるのか、動こうとしない。乗員同士では、ヤークトティーガーは燃費が悪く、搭載している弾もそこまで多いという訳ではないので、燃料と弾薬の節約を狙っているのでは?と見解を示す乗員もいたが、自分がただ楽して勝ちたいだけだろうと言う乗員もいた。
ここまで見て分かるように、優衣は誰にも支持されていない。だが、戦車の乗員としているためには、隊長である優衣に従うしかない。なので、逆らおうとする生徒はいない。
意見具申をする生徒も時にいるが、その意見が通るのはほぼ無い。優衣は自分が立てる作戦が全てであるがゆえに、誰の意見にも耳を貸さない。例えそれが、上級生であったとしても。
森林エリア付近 丘
チーム星十字は丘の麓を進軍し、夏海がかほに連絡して途中で合流することになっていた。
「戦車接近!左前方!」
「チーム星十字、損害は?」
「今のところ損害はない。急に攻撃が来なくなったから、何もなくここまで来れたぞ」
「そうか・・・・・実はこっちもなんだ。奴の事だから絶対に物量作戦で来ると思ったんだが、今回はやけに冷静のみたいだ」
「・・・・・そう言えば、試合が始まって2時間近く経っているが、敵の隊長車に会っていないぞ」
「恐らく、どこか安全なところに留まって指示を出しているんだろ。市街地にいる可能性が高い」
「それで、これからどうする?」
「そうだな・・・ルクスに市街地の状況を探らせてみよう。まだ近くにいるはずだから、先行して状況を把握しよう」
市街地エリア前
ルクスはまだ市街地前にいた。1度は追い返されたが、そう簡単には引き下がらずに留まって、新しい指示を待っていたのだ。そのタイミングで宗谷から通信を受け取り、指示を受けていた。
「市街地の様子を探るの?」
〔ああ、戦車が何輌いるか、隊長車がいるかを確認してもらいたいんだ。出来るか?〕
「・・・分かったわ。市街地に侵入する」
〔ありがとう。何かあったらすぐに連絡してくれ〕
やってみるとは言ったものの、無事に偵察を終えられる保証はない。何があるか分からない中で市街地に入るのは危険だと分かっていたが、激戦地で戦っている宗谷たちのためにも情報を持ち帰らなければならない。
琴羽は大きく深呼吸した後、琴音に指示を出す。
「市街地に向けて前進。角待ちに注意しながら進んで」
琴音はエンジン音を極力響かせないために、ゆっくりと進んでいった。市街地はかなり広く、大きな建物が幾つも建っている。壁はボロボロで、今にも崩れ落ちそうな感じだ。
「お姉ちゃん、凄いところだね」
「ええ・・・かなり厳しい練習をしているようね」
琴羽はハッチから頭を出し、手持ちのデジタルカメラで回りの風景を撮り始めた。口頭で伝えるより、こうして証拠として写真を撮っておいた方が伝えやすく、確実だからだ。
種島率いる残りの戦車たちは、スタート地点であるこの市街地エリアに留まっていると宗谷は予想していたので、琴羽たちも警戒を怠ることなく風景を写真に収めていく。
「ねぇお姉ちゃん。敵全然いないね」
「・・・・・そうね、何故かしら・・・琴音、市街地の中央に向かって、そこならいるかも」
こちら側が市街地に着いていないのに散開している可能性は低いと考え、集まりやすい中央にいると考えた。
中央付近に到着して見渡してみると、思った通り残った戦車が集合していた。そこには隊長車であるヤークトティーガーと、見たことの無い戦車が多数待機していた。
「何あれ・・・アメリカのT28に・・・T29・・・多砲搭戦車も何輌かいるわ」
「お、お姉ちゃん・・・!あれ・・・戦車・・・なの?」
琴音が恐ろしい物でも見たかのように言葉を失っている。琴羽には一瞬分からなかったが、
「あれは・・・・・一体何?」
呆然としているところに、見張りで動いていたと思われる敵戦車が後ろから攻撃してきた!M26だ!
「マズい!逃げて!!」
琴羽が気付いて指示を出したが、相手は既に砲を向けて待機していた。急いで中央から離れようとしたが、至近弾を喰らってしまい、車体は大きく飛び上がって中央に飛び出してしまった。
この時打ち所が悪く、琴音は気を失ってしまった。琴羽も同じように打ち所が悪く、薄れていく意識の中で種島と思われる声を聞いた。
「やれやれ・・・軽戦車がこんなところに来たらダメでしょう?バカねぇ。隠密行動のつもりで来たんでしょうけど、『エージェント』から情報があったからバレバレよ?」
「どうします?この戦車に留めを刺しますか?」
「このままで良いわ。気絶しているみたいだし、目覚めた頃には試合が終わっているわ」
留めを刺す気は無いようだが、このままでは味方が大きな損害を被ることは避けられなくなる。何とかして通信機に手を掛けようと、琴羽が必死に手を伸ばす。
(早く・・・・・この事を伝え・・・ない・・・と・・・・・恐ろしい戦車がいることを・・・・・)
琴羽が何とかして手を伸ばしたが、虚しくもその思いは届かなかず、気を失った。
合同チーム 森林エリア付近
「ルクス、応答せよ!黒江琴羽、応答せよ!偵察班、どうした!?応答せよ!!」
北沢がルクスに呼び掛けていたが、応答が全く無い。呼び掛け続けていると、宗谷が状況を聞きに来た。
「応答無いのか?」
「ああ、全く応答が無い。通信機が故障でもしてんのかなぁ?」
琴羽から応答が無いことに疑問を持ったが、時間的にも動かなければならないので、再び隊長たちで集まって作戦を立て始めた。
「市街地に入れる入り口は大きく分けて3つだ。中央が大きく開いているから、そこから一気に入って応戦する」
「待って、黒江さんたちから情報無いんでしょ?情報無しで突っ込むのは危ないと思う。陸王で市街地に行って、様子を見てきた方が良いんじゃない?」
かほが陸王による偵察を提案したが、宗谷はその提案を却下した。
「それは出来ない。ここからだと陸王を隠しているところから大分離れているから時間が掛かる。近くまで行って、歩兵団から偵察班を編成して行った方が良いだろ」
かほは情報が無い中で向かうのはリスクが高いのではと感じたが、今は偵察が出来る戦車もいないので、今は宗谷が立てた作戦に従うしかないと判断し、了承した。
会議が終わったあと、宗谷たちはすぐに各車に乗り込み、敵隊長車がいると思われる市街地エリアに向かっていった。
市街地エリア前
出発してから約15分、全く会敵することなくここまで来れた。何故攻撃が無いのか、チームの間で大きな疑問となっていた。宗谷が双眼鏡で周りを見渡してみる。
「・・・前方敵影無し、右にも左にも・・・・・いないな」
周囲の確認を終えると、全車に指示を送る。
「前方、左右に敵影無しを確認したが、建物の陰に戦車が待ち構えている可能性が高い。コマンダーマガジン、偵察班を向かわせてくれ」
「了解。俺とガトリングで行く、少し待ってろ」
「なぁマガジン、俺たちが入ったと同時に撃たれる何てことない・・・よな?」
「何心配してんだ。そんなことあるわけな・・」
「「「あ・・・・・」」」
目の前に敵がいた。
「撃てぇー!!!」
「逃げろぉー!!!」
「何がそんなことあるわけねぇだぁー!!!」
「ヤベェ!完全にバレてるぞ!!」
「宗谷!急いで逃げろ!!この入り口は固められてる!!」
その攻撃で後ろにいた戦車に命中し、履帯が破壊されて退路を塞いでいた。
「くそ!全車戦闘体勢!目の前にいる戦車に攻撃しながら後退だ!」
宗谷が迎撃を指示し、赤坂も歩兵団に指示を出す。
「全員武器を持って外に出て応戦だ!ロケットは※ロタ砲で戦車を撃破しろ!ドライバーはホハでやられた戦車の移動!退路を作れ!!」
静かだった市街地前はたった数秒で戦場と化し、砲弾が放たれる轟音が響き渡った。
観客席
試合を見ていたみほは、今までの試合の流れで妙に感じていることがあった。それは、パンツァーカレッジの読みが高確率で成功していること。
数分前、合同チームが3つのチームで分かれて進軍していた時、パンツァーカレッジも同様に3つのチームで分けて迎え撃った。普通なら1チームのみか、多くても2チームぐらいで攻めるだろう。
しかし、パンツァーカレッジは3チームで分けた。これがただの偶然ならともかく、みほは事前に優衣の戦い方を見ていたので偶然とは思えなかった。
そして今、市街地前で待ち伏せをして見事奇襲に成功、宗谷たちが市街地前に着く15分前に待ち構えていたのだ。それも、戦車を全て1つの入り口に固め、万全の体勢で構えていた。
「お姉ちゃん。この試合、どこかおかしいよね?」
みほは隣に座っているまほに、問いかけるように話しかけた。
「ええ、私も思っていたわ。この試合、最初から何かがおかしい。宗谷があそこまで苦戦を強いられることになるなんて・・・・・」
その会話を聞いていた小百合が、割り込むように話に入ってきた。
「あら、宗谷さんのことを随分買い被っているのですね。そんなに信用出来る人間なのですか?」
「少なくとも、お前よりは信用出来る人間よ。卑怯な手を使うお前よりは、ね」
と話をしていると、受付をしている黒森峰の教員がしほに話し掛けてきた。
「協会長、試合のご観戦中大変申し訳ないのですが・・・受付まで来て頂いても宜しいですか?」
「どうしたの?何か問題?」
「それが・・・『試合に参加する元近衛の生徒だ』と言っている男子が2名来たんですけど、出場名簿に名前が無いんです。その事を伝えたら、『じゃあ協会長に話をするから呼べ』、と・・・・・どうされますか?」
「・・・・・分かった、行くわ」
男子に関連する問題にはもううんざりだと思いながら、しほは教員と一緒に受付に向かった。
会場 受付
「俺たちの名前が名簿に無いってどういうことだよ。あいつ絶対名前入れるの忘れただろ」
「名前が無いとかいう以前の問題だ!お前が地図を間違えなければ今頃試合に参加してた!」
「だから悪かったって言ってるだろ?いい加減機嫌治せよ」
「ったく!どうしてお前はそんなに能天気なんだ!俺たちは・・」
「お、協会長っぽい人来たぞ」
2人が言い合っているところにしほが不機嫌そうな顔で近寄ってきた。
「お前たちか?私を呼べと言ったのは?」
「ん?あんたが協会長?」
「おい!失礼だろうが!」
「・・・・・お前たち、本当に元近衛の生徒か?」
「え?そうですけど?」
しほは2人の姿を見て疑問に思った。目の前の2人の男子は迷彩服を着用し、背には大型のバックパック、弾薬ポーチを10個付けたサスペンダーを身に付け、オリーブグリーン色のヘルメットを身に付けている。
パッと見は自衛隊の隊員に似た格好をしている、元近衛の生徒の見た目は旧日本軍に似ているので、本当に元近衛なのと疑ってしまう。
「あの、俺たちが元近衛の生徒じゃないって思ってるかもしれないんですけど、本当に元近衛の生徒ですよ?」
「無理ないよなぁ。だって俺たち元『PSC』だし、この格好じゃ陸自に思われても仕方ねぇさ」
「『PSC』?それは何?」
元『PSC』と名乗る2人組、彼らの正体は?そして追い詰められている宗谷たち、彼らの運命は!?
※解説
ロタ砲
旧日本軍が設計、製作したロケットランチャー、試製4式7糎噴進砲のことである。
ドイツのパンツァーシュレックの設計図を基に製作されたが製造が難航し、部隊への配備は終戦間際だった。またこの砲は、ボルト3本と蝶ナット1つを外して分解することが可能で、専用の背負い具で持ち運ぶことが出来た。
ちなみに『ロタ砲』とはこの砲の
「今回も読んでくれてありがとう!元突撃班、ウッドペッカーこと、水原だ!」
「同じく元突撃班、ニックネーム、ラハティの田所だ。敵の目は全部潰したと思ったんだが、まだ何かあるみたいだ」
「でも、俺たちに掛かれば何てこたぁない!それより、会場の受付に自衛隊員に似た男子が2人いるみたいだけど、まさかあいつらか?」
「・・・・・あー、あいつらか。後で合流出来るだろ」
「そうだな。あ、あと50人突破記念だが、番外編を投稿する予定だそうだ。内容は『ある人』の学生時代を描いている、投稿前に報告するそうだぜ」
「それじゃあ今回はここまでだ。もしよければ、感想、評価を宜しくな」