前回のあらすじ
ついに学園艦に乗り込んだ旭日機甲旅団一向。大洗女子学園を見つけるのに苦労したが、どうにか角谷と話をすることが出来た。
伝統ある武芸に対し、男子を参加させるのは戸惑いを見せた角谷は、協会長である西住しほのもとを訪ねた。このことを相談すると、しほは特別に参加を認めてくれた。旭日機甲旅団は、大洗戦車道科のメンバーと対面することになるのだが・・・・・
場所は大洗学園艦、時刻は朝9時。戦車道科のメンバーがグラウンドに呼ばれ、何が起こるのかを待っていた。生徒も指導員も特に何も知らされていない、何が起こるのかを知っているのは角谷と小山と河嶋だけだ。
待つこと5分、『ガラガラ』と音を立ててチリが走ってきた!福田は慌てている。
「うわー遅刻したぁ!」
「誰だよ!ここからなら10分ぐらいで着くって言った奴!!思いっきり迷ってんじゃねぇか!!」
「とにかく急げ!!」
チリは全速力でグラウンドを駆け、メンバーの前で急停車した。
「下車!」
宗谷の指示で6人がチリを降り、チリの前で整列した。全員唖然とした、突然戦車が来たかと思えば中から深緑色の服を来た男子が6人も出てきたのだから。
ポカンとしている生徒たちに対し、角谷が前に立って説明する。
「えーっと、突然なんだけど、今日から一緒に戦車道をやっていくメンバーだから宜しくねー」
ざわめき始めだした、当たり前だが納得できるはずがない。いきなり男子6人と練習するなんて一体何の冗談なのか、そう思っている彼女たちに対し、角谷は話を続けた。
「一応言っとくけど、この6人と一緒に戦車道の試合に出るからね?ちゃんと許可も貰っているから」
より一層ざわめきが増した、練習だけでなく試合にも一緒に出ることになるなんて・・・・・
ざわめきを見ながら福田は心配そうに宗谷に話しかけた。
「・・・大丈夫・・・じゃないよな・・・」
「いずれ慣れるよ」
ざわめいている彼女たちを横目に角谷は宗谷たちに自己紹介するように言った。
「じゃあさ、こんな状態だけど自己紹介してあげて隊長くん」
「はい」
自己紹介しなければ何も始まらない。宗谷は自己紹介をするため、1歩前に出た。
「我々は、戦車道に関する経験、知識は全くありません。それでも、引けを取らないように頑張りたいと思っています!旭日機甲旅団隊長兼チリ車長、宗谷佳であります!」
宗谷に続き、福田たちも1歩前に出て自己紹介をする。
「同じく副隊長兼操縦担当、福田彰です!」
「主砲砲手担当、岩山将であります!」
「主砲装填手、柳川勇大」
「副砲砲手、水谷仁!」
「副砲装填手担当、北沢弘です!」
一通り自己紹介したあと、宗谷は角谷に向けて報告した。
「角谷科長!旭日機甲旅団、宗谷佳以下6名、大洗女子学園戦車道科に入隊したことを報告させていただきます!戦車道科の生徒、指導員に向け、敬礼!!」
『ビシッ』と敬礼する宗谷たちを前に、指導員も生徒も圧倒されてしまった。角谷は笑いながら宗谷たちに言った。
「ちょっと、そんなに固くならなくて良いのに。それから『入隊』じゃなくて、『編入』でしょ?」
そう言う角谷を前に指導を担当しているみほたちは呆然としていた。沙織は華に心配そうに話しかける。
「・・・どうなるんだろ、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫ですよ。悪そうな感じじゃ無さそうですし」
「じゃあ、西住隊長。何か一言言ってあげて」
みほがそう言うと、かほは宗谷の前に来てポツリと一言言った。
「その・・・よ、宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくな」
宗谷が手を差し出すとかほは握手をしてくれた。そして角谷が指示した。
「よし、じゃあ今日の午後から練習しようか」
その日の昼、かほたちは食堂で昼食をとっていた。午後からはあの6人と練習、由香はチリと一緒に練習出来るのが楽しみで仕方がない。
「楽しみですねぇ、あのチリと走れるなんて」
「うーん、確かに新しい戦車と練習するのは楽しみだけど・・・素性もろくに知らない人たちと上手くいくのかなぁ」
栞が心配するのは無理もない。今まで女子がやってきた戦車道に男子が参戦するのだ。それだけにとどまらず、得体の知れない人たちと一緒に戦車道をやるのは不安でしかない。
その食堂の片隅で、宗谷たち旭日もひっそりと昼食を取っていた。回りからは「何で男子が?」と言う声が上がっているためか、落ち着いて食べられない。
「・・・・・何で
「無断で侵入してるわけじゃねぇんだから良いじゃないか。それに、落ち着かねぇのも今だけさ」
宗谷は平気そうにしているが、福田たちは落ち着こうにも落ち着けない。何故平然といられるのか、福田たちは不思議でならなかった。
そして午後、戦車道の練習が始まろうとしているなか、宗谷たちもかほたちと一緒に準備をしている。
「いいか?今日は初
「「「「「了解!」」」」」
そんな宗谷たちを見ながら栞は宗谷の第一印象を話していた。
「はあー、緊張したぁー。でも結構優しそうだったよ、でも私たちの戦車に付いてこれるかなぁ?」
「でも乗り慣れている感じはしますよ、もしかしたら砲撃も上手いかもしれませんね。」
「・・・負けないぞ・・・」
「私たちの戦車道ぶり、見せるであります!」
「そうだね、頑張ろう」
「「「「「パンツァーフォー!」」」」」
かほたちも掛け声で気合い十分、早速練習を始めることになった。
〔隊列作れ!!〕
通信機越しに河嶋の指示が来た、早速隊列を作り始めるが中々上手くいかないようだ。
〔何してるんだ!早く隊列を作れ!〕
〔まあまあ、そんなに怒らないで。みんなゆっくりでいいからね〕
角谷からそう言われたが早く作ることに必死になり、ますます上手くいかず、焦り始めてしまった。4号戦車に乗っているかほは指示を送ることに必死だった。
「亀チームはアリクイチームの後ろに・・・」
〔あちゃーダメだわ、アリクイの後ろにはもうウサギが入ってるよ?〕
「え、じ、じゃあ・・・・・」
〔西住さん、レオポンの私たちはどしたら良いかなぁ?〕
「え、えっと・・・・・」
あちらこちらからの指示待ちの声に対応出来ずにあたふたしていた。福田はぐちゃぐちゃな隊列を見ながらため息をついている。
「あーあ、ポルシェティーガーが外れてら、ああ、ヘッツァーも外れてるぞ。」
岩山が宗谷に提案する。
「なあ、宗谷。手を貸してやったらどうだ?」
「え、俺が?隊長はあの4号戦車の車長だぞ?」
「良いじゃねぇか、このままじゃ先にも進めそうに無いしさ」
「分かったよ。北沢、周波数を合わせろ」
「了解、すぐにやる」
北沢が周波数を合わせ、宗谷が通信する。
「全車に通信、今から指示を送る。西住隊長、隊列作り、俺に任せてくれよ」
〔えっ?で、でも・・・〕
「心配無用だぜ隊長、やらせてくれよ」
自信がある宗谷に、不本意ではあったがかほは任せてみることにした。
「分かりました、お任せします」
〔了解、じゃあちょっと待ってくれ。まずは状況把握したいから〕
栞たちはいきなり任せて大丈夫なのか心配になった。自信はありそうだが失敗しそうな気しかない。
「かほちゃん、大丈夫なの?急に任せて。」
「失敗したら河嶋指導員にどやされますよ」
「大丈夫だよ。慣れていそうだし、どういう隊列を組むのかも参考にしたいし」
宗谷は砲搭から頭を出すと指示を送った。
「とりあえず、1から隊列を組み直そう。まずはヘッツァーを前に、右後ろに3突(3号突撃砲)、左後ろにM3、3突の後ろに3式中戦(チヌ)、ポルシェティーガーが3突の後ろに、で89中戦(89式中戦車)はチヌの後ろについて、4号はポルシェティーガーの後ろについて」
宗谷の指示で戦車が一斉に動き出した。宗谷の予想では矢印型の『※パンツァーカイル』になることを考えていた。そして何とか隊列を作ることが出来た。後はこの隊列を崩さないように進むことが出来るかだ。栞は上手く隊列が出来たことに驚いている。
「うそでしょ?私たちがこんなにてこずってたのに、あっさりと隊列が出来ちゃったよ」
「侮れませんねぇ、思ってた以上に出来る人たちかもしれませんよ」
かほは何でここまで出来るのかが疑問だった、とても素人とは思えない。この矢印型の隊列は実戦向けの型で、黒森峰もよく作る隊列の1つだ。そして何よりも気になったのは隊列の作り方だ、パンツァーカイルは最も実戦的だが、何故中心と前にヘッツァーとM3、3突を配置したのかが謎だった。
本来なら、一番装甲厚と攻撃力が高い戦車が前に出なければならないのに、装甲厚がやや低めの戦車を配置してしまっては簡単にパンツァーカイルが破られることになる。
かほがこの謎を考えているなか、チリは隊列の後ろを走行していた、宗谷は「隊列に入れ」と指示を出さない。福田は隊列に入ろうとしたが指示がないので隊列に入れない。
「なあ宗谷、そろそろ俺たちも隊列に加わろうぜ」
「俺たちは入らない、よく見ろよ。今丁度いい具合で隊列が出来上がってるんだからさ」
「うーん、でも・・・・・良いのか?俺たちも参加しようかって言うのに」
一方、本部にいる角谷たちは隊列に入らないチリを見ていた。現在の学園艦の練習場にはカメラ付きのドローンと各ポイントに分けて設置されているカメラがあるので状況を細かく見ることが出来るのだ。カメラの映像を見ながら角谷とみほが2人で話をしていた。
「あれー?何で入らないんだろ、入ればいいのに」
「もしかしたら遠慮しているんじゃないでしょうか、始めてということもありますし」
「あー、なるほどね」
チリは後方についたままで入る気配は全く無い。宗谷は双眼鏡を見ながら隊列により細かい指示をしていた。
「M3、やや遅れているぞ。もう少し速度を上げて」
〔は、はい、すみません!〕
「謝らなくて大丈夫だから、落ち着け」
〔あの、我々カバチームは如何すれば宜しいか?〕
「・・・カバ?」
宗谷は車体に描かれている絵までは把握していないので、探し当てるのに時間がかかった。
「あー3突ね、3突はそのままを維持、何もしなくて大丈夫だよ」
〔宗谷くん、私たちはどうしたらいいかな?〕
「ん?どれ?」
〔あ、ごめん。アンコウチームだよ、どうしたらいい?〕
「アンコウ?4号か・・・そのままを維持で大丈夫だよ。というより、隊長なんだからさ、後は西住隊長の指示に任せるよ」
〔・・・隊長ね・・・・・〕
「? どうかしたか?」
〔な、何でもないよ〕
「そう?なら良いけど」
〔はいはーい、隊列はそこまでね。15分間の休憩に入るから戻っておいでー〕
角谷からの指示が入り、隊列の練習を止めて本部へ戻っていった。本部に戻るとチリには戦車道のメンバーが近付いて来ていた。話しかけてきたのは元M3車長の
「あの、さっきはありがとうございます。私たちのチームは1年生しかいないので、中々慣れなくて」
「あー、1年だったのか?道理でと言ったら失礼だけど、慣れてなさそうな感じはあったな」
「その、一緒に試合に出るんですよね?これから宜しくお願いしますね」
「こちらこそ、宜しくな」
軽く挨拶をしたあと、あいかはM3のメンバーの元に戻った。柳川は宗谷に話しかける。
「慕われているってことでいいのか宗谷」
「まだまだだろ、たった数時間そこらで慕われるほどにはならないだろ。そんなことより、装填装置のチェックしとけよ。練習中に故障したら洒落にならないぞ」
「了解、じゃ後でな」
柳川が砲搭に入り、宗谷が1人になったところを見計らってか、今度はかほが来た。さっきの隊列のことについて聞きに来たのだ。
「あの、何であんな隊列を?パンツァーカイルを作るならポルシェティーガーを前に出すほうが良かったんじゃない?」
「あー、あれね。あれは、砲搭が回せない砲戦車を前に出したのさ」
「砲戦車を?でもM3は砲戦車じゃないけど」
「確かにそうだけど、固定砲が付いているだろ?それに、M3もヘッツァーも3突も共通して75ミリ砲を載せているし、防御力はやや劣るかもしれないけれど攻撃力はそこそこあるだろ?だからこの3輌を前に出すようにしたのさ」
「そこまで考えてたんだ、私なんてまだまだだね」
「そんなことないよ。君だって隊長を勤めてるんだからさ、何も悲観することは・・・」
「・・・隊長ね・・・私には勤まらないよ、戦車道科に入ったことを後悔してるんだから・・・」
「は?それってどういう・・・」
「かほちゃーん、ちょっといい?」
かほは栞に呼ばれて4号に戻っていった。宗谷はなんであんなことを言ったのか、それが気になってしまった。
「おい、宗谷。宗谷、宗谷!」
「うん?何だ?」
「何だじゃねぇよ、練習始まるぞ。早くチリに戻ってくれよ、出発出来ないよ」
「あー、ごめんごめん、すぐ戻るよ」
福田に呼ばれて宗谷もチリに戻った。その後の砲撃の練習でもかほたちを驚かせることばかりしていた。的を撃ち抜く単純なものだが、走行しながら2500メートル先の的を撃ち抜くなどといった技を披露した。
岩山は元々榴弾砲を扱うことが専門分野だったので遠距離射撃は得意だった。副砲を担当する水谷もそこそこの腕を見せていた、とは言ってもこんなにガッツリと砲を扱うのは今回が始めてなので慣れないところもあった。
装填を担当する北沢も素早い装填はまだ無理なので「慣れるまでゆっくりやれ」と宗谷に言われ、素早さより正確に出来るように努力した。
その一方で4号では藍が砲撃練習をしていたが上手くいかなかった。母の華からの通信で「花を活けるように落ち着いて」、そう言われ落ち着いて撃つと上手く当たった。やはり元々砲手であったこともあるのだろう、母に似て射撃も上手かった。
もちろん、七海も操縦の腕は高く、母譲りで頭が良いこともあり、今のメンバーの中でいち早く操縦技術を習得した。栞も由香も少し時間はかかったが今となってはお茶の子さいさいだ。かほも悪くはないのだが、一気に指示を求められるとあわあわしてしまうところがあるのだ。
その日の練習が終わった。戦車を格納庫に入れて軽く点検を済ませたのち、角谷の前に集合した。
「よーし、じゃ今日の練習はここまでね。また明日も頑張ってねー」
「「「「「「「お疲れさまでした!!」」」」」」
練習が終わり、メンバーが次々と帰宅していくなか、宗谷たちは工具箱を持ってチリの方に向かったいた。これから整備をするためだ。整備を始めようとした時、栞が近付いてきた。
「何やってんの?」
栞の質問に北沢が答えた。
「何って、これから整備するんだが?」
「整備は後回しにしてさ、私たちと一緒にお茶でも飲まない?」
「え、でもこれからやらないと遅く・・・」
「おー、行こう行こう。整備は後回しだ、みんな行くぞ」
「え!?整備は!?」
「後でも出来るだろ。それに、こういう時は参加しないとな」
そう言うと宗谷はついていってしまった。後の5人は迷っていたが結局ついていくことにした。
お茶しようと言っても学園艦にカフェなんてあるのだろうか?と思っていたらあった。6年ほど前に出来たカフェの名前は『ルノー』、戦車好きの店長が経営しているこじんまりとした店だ。おすすめなのは、店長が淹れる紅茶とチーズケーキ。かほたちにとっては隠れ家のようなもので、よく来ている店なのだ。
見た目はインテリア風だが、中には戦車のグッズや写真がところ狭しと置かれている。由香はここに来るのが楽しみで仕方がない、まさに子は親に似ると言ったところだろうか。早速中に入っていった。
「
栞が声をかけるその先にはたった1人でカップを磨く女性がいた。凛としているが優しそうな一面がありそうな感じといったところだろうか。
「お、来たね“4号組”。いつものメニューは用意してるよ。」
川井店長はかほたちのことを親しみの意味を込めて“4号組”と呼んでいる。4号戦車に乗るメンバーだからということらしい。だが今日はいつもの5人に加えて変わった6人が混ざっていることに気付いた。
「あら?新顔?な訳ないわよね」
「新顔ですよ川井店長、今度の戦車道の試合に出るんですよ」
「ええ!?戦車道に出るの!?」
川井店長は信じていない。それもそうだ、女子が出る伝統ある武芸に男子が出るなんてあるわけがない。宗谷が事情を説明する。
「まあ、簡単に言いますと・・・手助け、ですかね?」
「手助けねぇ、変わってるね」
「そうですかね?」
「まあいいわ、ゆっくりしていって」
宗谷たちは店の中に飾ってある戦車の模型を見た。どこを見てもフランスの戦車しかない。
「川井店長、フランスの戦車が好きなんですか?」
「大好きだよ、なんかこう・・・ヒヨコ、みたいなとことか?」
宗谷にとっては理解不能だったが、確かにソミュアなんかはヒヨコに見えなくもない、と思ったのはあと30分経ったあとぐらいの話になる。
そんなことはさておき、宗谷なかほに改めて聞くことにした。『戦車道科に入ったことを後悔している』、と言っていたが冗談だろうと思っていたのだ。宗谷は栞たちがおしゃべりをしている隙をついてこっそりとかほを呼んだ。
全員にこのことを聞かせるわけにはいかない、それに全員がいるなかでは聞きづらいし、当の本人も言いづらいだろう。2人だけになったところで宗谷は単刀直入に切り込んだ。
「・・・西住。さっき言ってたこと、あれ冗談だよな?戦車道科に入ったことを後悔しているなんて」
「冗談じゃないよ、本気で後悔しているから。戦車道科に入ったこと」
「・・・それは、どういう意味・・・」
「お話し中ごめんねぇ、紅茶持ってきたわよ」
川井店長が話を遮ってしまい、理由は聞けなかった。ただ宗谷が感じたことはとてもじゃないが後悔しているようには見えなかったということ。
本当に後悔しているなら、1年のときにとっくに辞めているはずだ。なのに、2年になっても続けているというのは、なにか別の理由があるとしか思えない。
結局別れるまで理由は分からず仕舞いだった。店を出ると「また明日」と言って別れた。宗谷たちもチリに戻ろうとした時、川井店長が宗谷を呼んだ。
宗谷はメンバーに「先に戻っててくれ」と言い残すとまた店の中に入った。席にエスコートされ、紅茶を淹れてくれた。
「川井店長、さっきはわざと話を反らしましたね?」
「話を反らす?まさか」
「とぼけてもダメですよ、俺何も頼んでいないのにコーヒーカップを2つ持ってきたでしょ?慌てて話を反らそうしてた証拠ですよ。」
「あちゃー、バレた?しかし鋭いね、刑事になれるんじゃない?」
「そんなことより、何で話を反らしたんですか?」
「まあまあ、ちょっと落ち着いて」
川井店長も席についた。
「えーっと、何だったけ?」
「西住かほが戦車道科に入ったことを後悔している理由ですよ。」
「あーそうそう、その話だったね」
川井店長は紅茶を一口飲んで話をしてくれた。
「かほちゃんの戦車嫌いは今に始まったことじゃないの、実は入学して半年も経たないうちにああなったらしいのよ」
「入学してから半年で?」
「そうらしいわ。ここは科長の角谷さんや、指導員の西住さんも来るのよ。その時に聞いたの、『かほちゃんが戦車が嫌いで困ってる』って」
聞く限りでは、かほは戦車が嫌いらしい。だがそう言われてもじゃあ何故戦車道科に入ったのかということになる。戦車が嫌いなのにわざわざ戦車道科に入るのか?疑問は膨らむ一方だ。
「それにね、みほさんとかほちゃんは関係が上手くいっていいらしいの。みほさんいつも気にしているのよ、娘が心配だって来るたびに言ってるの。どうにかしてあげたいけど、家族のことに首を突っ込むわけにはいかないから見守るしか出来ないんだけれど。」
親子の関係は仕方がないと言える。高校生となれば、反抗期の時期なので、関係がギクシャクするのはまだ説明がつく。全く納得出来ないのは戦車嫌いということ、どういう理由で嫌いなのかが分からないので納得出来ない。
「納得出来ないかもしれないけど、問い詰めないであげてね。今の女子は問い詰められるの嫌うからさ」
川井店長の忠告は素直に受け入れるしかなさそうだが理由は気になる。店を出て思ったのは自分で理由を探るしかない、と思った。
ただ問い詰めてもどうしようもならないので、自分で理由を探り、改めて本人に聞くという作戦に出ようと考えたのだ。このままでは、大会で勝ち上がることもままならないだろうと思ったからだった。
格納庫に着くと整備は既に終わっていた。チリの回りには誰もいないので整備を終わらせて寮に帰ったのだろうと思い、宗谷も寮に向かった。
寮は角谷科長が貸してくれた部屋で、2部屋余っていた。そこで3人ずつで分かれで入寮することにした。部屋に入ると福田と岩山の2人は着替えていて休んでいた。
「お、帰ってきたか。さっき呼ばれてたのは何だったんだ?」
「ああ、実は西住隊長の話をしていてね」
宗谷は川井店長との会話を話した。2人とも信じる気はさらさらない。
「戦車嫌いとは思えないがなぁ。嫌がってるようには見えないし普通そうだけど」
「宗谷も信じていないんだろ?『西住隊長の戦車嫌い』」
「信じるも何も、それらしい態度を見せないからな。正直、俺もよく分からないよ」
「でもさ、隊長なのに指示力無さすぎじゃねぇか?あれじゃあ試合をやっても結果は目に見えるぞ」
「まだ慣れていないだけだろ。普通ならま3年とかがやることを2年でいきなりやらされるんだからプレッシャーについていけないだけさ。」
「そういうもんかね」
「それに、西住隊長は何かを気にしている。誰にも話せない何かを、ね」
翌日の午後、練習が終わってパラパラと帰宅していくメンバーを見ながら、宗谷は小山にあるものを借りていた。
「観たら早めに返してね、桃ちゃんにバレたらくどくど言われるからね」
「ありがとうございます、ではお借りします」
宗谷が借りたのは去年の戦車道の試合を録画したビデオだ。内容はもちろん大洗対黒森峰、1試合目で黒森峰と接戦を繰り広げた上で大洗は負けてしまった。
何故このビデオを借りたのかというと、試合がどのように行われるのかを確認するためと、かほの戦車嫌いの理由を探ろうと言うわけだ。
このビデオは旭日のメンバー全員で見ることにした、そもそもこのビデオを借りる時に言った理由は、「戦車道の試合形式を見たい」。そう言ったからには全員で観なければ意味がない。
銭湯で汗を流し、夕飯を済ませた後に宗谷はビデオを再生した。皆は黒森峰との試合がどのようなものなのかが気になっている、今も昔も最強を誇る黒森峰は5年前に15連覇を達成している強豪校だ。いずれ当たることはあるので、今のうちにどういった戦いをするのかを把握には丁度良い。
試合を見始めて30分、状況は大洗側が3輌撃破され、黒森峰側は6輌撃破されている。見る限りではかなりの接戦だ。どちらも退けをとらず、隙あらば攻めて撃破するといった感じだ。
福田たちは関心しているようだが宗谷は関心している感じはない。宗谷が感じているのはどこかバラバラになっているように感じていた。簡潔にいうと統率感がないということだ。
そんな試合を見ながら宗谷は4号をずっと目で追っていた。4号の動きは悪くない、1輌ずつ確実に撃破しているので流石は隊長車だと感じるものだ。
「スゲー、やっぱ黒森峰は強いなぁ。でも大洗も退けを取らねぇな」
水谷はそう言ったが宗谷はただただ4号の動きを追っていた。そんな中で気になる動きを見つけた、4号だけなのだが水辺を避けた行動をとっているのだ。試合開場に水辺があることは珍しくない、川があるなんて当たり前のことだが水辺を避けているように見えるのだ。
もし川に入ったとしても、車体全体が水に浸からなければ走ることは出来る。エンジンに水が入ってしまえば壊れてしまうが、車体の1/3が水に浸かっても全く問題はない。何故避けるのか、そう思っていた時に思い当たる話が浮かんできた。この話はまたの機会にしよう。
そして試合はクライマックスに入り、最後は4号とティーガー1との一騎打ちになった。かなり激しい攻防戦を繰り広げたあと、4号の隙をついてティーガー1が撃破した。
〔大洗女子学園フラッグ車、戦闘不能!よって、黒森峰女学園の勝利!!〕
アナウンスが勝敗を報告した。4号からは黒い煙が上がり、白旗が上がっている。試合時間は2時間37分とかなりの長時間だった。
「すごかったな、さすが強豪校ってとこだな」
「ティーガー1とかパンターとかばっかしだったけどな」
「でもいずれは戦うんだろ?あんなのばっかし来られたらたまったもんじゃねぇぞ」
「さあ、もう寝るぞ。明日も朝が早いからな」
全員が寝静まったあと、宗谷だけまたビデオを見返していた。推測を確信にするためだ、ビデオをもう一度見ていると見慣れない戦車が1輌写っていることに気付いた。
よく見ると軽戦車程の大きさしかない、だが黒森峰でもなければ大洗でもなさそうだが、どっちかのものではあることは間違いない。車体をよく見ると大洗の校章が描かれていた、ということは大洗の戦車なのだがいつからあった戦車なのかは分からない。
宗谷が知る限りではみほが学生のときにはなかった戦車だ。多分数年ほど前に新しく導入された戦車なのだろうが、どこの国の戦車なのかが分からなかった。軽戦車なだけあって、あまりに小さく写っているので把握しづらいのだ。
「うーん、ドイツの戦車かなぁ。※リベットがないし、大きさ的にも日本の戦車ではなさそうだしな」
一通り見たあと宗谷も就寝した。
翌日、旭日のメンバーも戦車道に関係する座学を受けられることになった。学園にいながら何もしないのはさすがにまずいので、かほたちと一緒に座学を受けた。
勉学は中等科で止まっているとは言え、戦車に関する知識はかなりのものだった。そしてその日の午後も戦車に乗って実戦練習を夕方になるまでやった。練習を終えて集まったとき、角谷科長は明日の予定を話した。
「えーっと明日なんだけど、宗谷くんたちの実力を知りたいのと、みんなの成長ぶりをみたいから明日はこの学園だけのメンバーだけでの練習試合するから覚えといてね」
『おおー』っと歓声が上がり、宗谷たちはいまいち状況が把握出来ていない。分かったことは明日試合をすると言うこと、いきなりではあったが自分たちの実力を試すには丁度良い。そして宗谷たちは明日の練習試合に向けて整備をするのだった。
※解説
パンツァーカイル
第二次の際、ドイツ軍がソ連軍の対戦車部隊に対抗するために考案された装甲戦術で、先頭をティーガーなどといった重戦車が担当し、その後ろを4号戦車などの中戦車が担当した。
この陣形の利点としては装甲が薄い戦車を守れると言うことがあげられるが、結果としてはまちまちだったと言われている。
リベット
鉄板の接合方法の1つで旧日本軍戦車などに使われていた。89式中戦車の車体に付いている丸い物がリベットの一部で他にも鉄橋などにも見られる接合方法である。2枚の鉄板を重ねて太い釘の様なものの反対側を変形させることで止める。
ガス溶接よりも強度があり、溶接が出来ないアルミでも使用出来る利点があるが、重量が増えてしまうという欠点がある。