ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

偵察で得た情報を元に作戦を立てた合同チーム。

まずはより詳しい戦力の情報を得るため、PSCの羽田(ラントミーネ)(ゲヴェア)が敵陣偵察を行うことになる。

宗谷はこの作戦行動中に敵がバラバラで動くであろうと予想し、合同チームの戦車を5個小隊に分けて行動する作戦を立案。
分けられた小隊は戦車2輌、歩兵2名体制で分けられ、それぞれで作戦を立てた後随時出撃していった。
この他にも航空偵察、PSCの輸送を担当するカ号、周囲の偵察を行う陸王が出撃した。

まずは敵の戦力を知るために羽田(ラントミーネ)(ゲヴェア)がカ号と共に敵陣があると思われる北のエリアに向かっていた。


mission15 発見!アメリカ試作(エクスペリメント)戦車(タンク)

市街地エリア

 

 現在、カ号はPSC2人を吊り下げて上空300メートルを飛行している。

 目標地点は西住かほが割り振った5つのエリアの内、エリアD(デルタ)に向かっていた。

 敵が陣取っているエリアE(エンド)に降りるのは見つかってしまうリスクが高いので、近くのD(デルタ)で2人を降ろすことになっていた。

 

「2人共聞こえるか!?後1分で目標地点に着くぞ!降下準備に掛かってくれ!」

 

 水谷の呼び掛けに(ゲヴェア)が質問を返す。

 

「降下準備って言ったってどうやって降りるんだよ!フックで吊るされてるんだぞ!」

 

「そのフックはこっちの操作で外す事が出来るんだ!目標地点でホバリングするからその間にロックを解錠する!」

 

「そりゃ良い!ラペリング降下よりも楽そうだな!」

 

 (ゲヴェア)が皮肉そうに答えると、再び水谷が呼び掛ける。

 

「見えた!12時の方向のレンガ造りの建物だ!あの屋上で降ろすぞ!!」

 

「了解!!」

 

「よっしゃぁ行くぜぇ!」

 

 目標地点に到着するとすぐに機首を上に上げてホバリングの態勢を取った。

 

「行くぞ!フック切り離し!」

 

 操縦席横に付いているボタンを押すと、2人を吊るしているフックのロックが解かれる。

 吊るされていた2人は無事着陸し、腕を降って水谷に知らせる。知らせを確認した水谷は手でグッジョブと返してすぐにその場を離れた。

 

 2人は一階まで降りると、(ゲヴェア)が地図を広げて現在位置を確認する。

 

「今俺たちがいるのは西北エリアだ。この先に敵が潜んでいる可能性が高い」

 

「じゃあこの辺りを重点的に張るか。よし出発だ!」

 

 2人は角を警戒しながら少しずつ敵陣に近づいていく。

 地図を確認すると、例のE(エンド)エリアまであと少しのところまで着いた。

 

「この先だな。警戒して進むぞ」

 

 (ゲヴェア)が慎重に進むように促し、気付かれないようにEエリアに侵入した。

 

「うわ、荒れてんな」

 

 羽田(ラントミーネ)が率直な感想を述べる。

 エリアの端にあるのでE(エンド)と名付けたのだが、その名前の通り景色は目も当てられないほど荒れている。

 

 建物の壁は砲弾が当たった跡が多く残っていて道は雑草だらけ、背の高い建物が多いせいか昼間にも関わらず薄暗い。

 さらに悪いことに、敵陣の手掛かりになりそうなものは1つも見つからない。

 唯一見つかったのは履帯跡の一部ぐらいで、敵陣への道標にはなりそうもない。

 

「おいおいどうするよ。車長(コマンダー)西住の読みが外れた可能性高いぜ」

 

「そんなことはないと思うが。ルクスの偵察でも敵陣を発見出来なかったし、探索してない所はここしかないぞ」

 

「そうは言っても敵の影も形も無いんじゃどうしようもない。

 履帯の跡でも残っていればと思ったけどその跡すら見つからないんじゃお手上げだぜ」

 

「まぁそうだが・・・・・ん?」

 

 突然(ゲヴェア)がしゃがんだ。視線の先には、雑草に隠れるように履帯の跡が残っていた。

 

「この履帯跡、おかしくないか?」

 

「どこが?」

 

「だって変だろ。戦車が通った跡なら、道に沿って残るはずだ。なのにこの跡は道に対して真横に残ってる」

 

「あぁー、確かにこいつは変だな。ということは・・・・・」

 

 履帯跡を辿ると、建物の間を通り抜けるように残っている。跡の先には重戦車でも通れる大きさの扉と工場のような建物があった。

 2人は顔を合わせると側にあった非常階段を使って屋根の上に上がった。穴から覗いて見ると、敵の戦車群が待機していた。

 乗員らしい人影がぽつぽつと見える。

 

「ははぁ、こんなところに隠れていたか」

 

「よし偵察開始だ」

 

 (ゲヴェア)が双眼鏡を取り出して戦車を確認し、羽田(ラントミーネ)が戦車の種類を聞いてメモしていく。

 

「南側にアメリカ重戦車の『M26』、西と東側に『スーパーパーシング』の『T26E1ー1』と『T26E4』。

 北側に『T29』、『T30』、『T34』だな。後は・・・・・お、『T32』がいた。見えるのはアメリカ戦車だけだ」

 

 ではここで、(ゲヴェア)が発見した戦車の解説をしよう。

 

 

 アメリカの第2次世界大戦最後の戦車、『M26パーシング』。

 ティーガーを撃破するために設計された重戦車(1946年に中戦車に区分けされた)である。

 

 全長8.65m、車体長6.33m、全幅3.51m、全高2.78m、重量41.9t、主砲50口径90㎜砲を搭載、最高速度約40キロ。

 

 この戦車はエンジン、トランスミッションを一体化させた『パワーパック式』を採用している。

 M26や後に製造されるアメリカ戦車共通の装備となった。

 

 M26はM4の後継車として試作され、原型となる『T26』が1943年5月に完成。

 その後派生型として、90mm砲を搭載した『T25E1』、装甲を強化した『T26E1』が試作された。

 

 

 翌年の5月までにT25E1が30輌、T26E1が10輌製造されたが様々な理由から配備はかなり遅れていた。

 その理由の1つとして「ティーガーと会敵する確率は低いから90mm砲はいらない」、「M4の76mm砲でも充分だ」と軍関係者が反対していたからだった。

 

 しかしとある実験で、76㎜砲では『パンターの正面装甲すら貫通させることは不可能』という結果が提示され、76mm砲の貫通力不足は明らかになった。

 また前線で戦う戦車兵からは、配備されたM4が全体の損耗率32%と高い数値が出ていたので「より強力な戦車を配備してほしい」と懇願していた。

 

 

 1944年12月、『バルジの戦い』でアメリカ軍兵士が『ティーガー恐怖症』を発症してしまったことで防衛に失敗。

 これを受けて90mm砲を搭載したT26E3の配備が進められることになった。

 

 

 1945年1月、完成した『T26E3』20輌が第3機甲師団に配備。同年4月に制式化され、『M26パーシング』と命名。

 1945年8月までに1436輌が製造され、310輌がヨーロッパ方面に配備されたがそれでも軍全体の2/3にしか満たなかった。

 

 

 M26は制式採用された『T26E3』の他にも様々な型が試作され、制式採用された戦車もいる。

 その内の1つは、『22.5口径105mm』の榴弾砲を搭載した『T26E2』という名称で試作され、後に『M45突撃戦車』として制式採用された。

 

 この他にも、試作車『T26E1』の主砲を長砲身『90㎜砲T15』に換装した型が試作された。

 それが『T26E1ー1スーパーパーシング(以下E1ー1)』である。

 元々長砲身砲を搭載出来る設計では無かったため、砲身を安定させるための平衡器が砲塔前面に剥き出しで付けられている。

 

 

 このE1ー1で成果を得た後、T26E3の改造して『70口径90㎜砲T15E2』を搭載。

 油圧式の平衡器を砲塔内部に納めた『T26E4スーパーパーシング(以下E4)』が25輌試作された。

 

 更に正面装甲、砲塔前面、防盾の装甲を強化した突撃戦車型の『T26E5パーシングジャンボ(以下E5ジャンボ)』。

 この強化で重量が51tに増大したので履帯幅5インチのアダプタを標準装備している。

 

 このような経緯で製造されたM26だが、終戦間際ということもあって戦果は偶然遭遇したパンター、ティーガー1、4号戦車を撃破とあまり芳しくなかった。

 

 他にも試作されたE1ー1が配備され、現地にてボイラー用鋼板と遺棄されていたパンターの装甲板を切り出して取り付けた装甲強化型が重戦車(形式不明)を1輌撃破したという記録が残っている。

 (ゲヴェア)が視認したE1ー1は、その装甲強化型である。

 

 

 また、試作されたT26の派生型の重戦車が試作された。

 それが『T29』、『T30』、『T32』、『T34』だ。(T31は砲弾運搬車として試作)

 

 最初に設計されたのは『T29』。T26E3の車体を延長させて設計が進められた。

 

 全長11.57メートル、車体長7.62メートル、全幅3.81メートル、全高3.226メートル、重量64.2t、最高速度32キロ、武装『105㎜砲T5E2』。

 

 T29と同時期に製作されたのが『T30』だ。スペックはT29とほぼ同じだが、『155㎜砲T7』を搭載出来るように砲塔を改造した派生型である。

 そして最後に試作されたのが『T34』、120㎜砲を搭載した重戦車である。T34は先に試作されたT29、T30の車体を改造して試作された。

 

 この3輌とは別系統で、E5ジャンボの車体を使って試作されたのが『T32』である。

 E4に搭載されている主砲、E5の強化された装甲と車体、E2に搭載されたエンジン、トランスミッションと、これまでのT26シリーズを1つに纏めたような戦車になった。

 

 この試作された4輌は実戦に参加する前に終戦となったので計画は中止となり、配備もされなかった。

 しかしT34で培ったノウハウが重戦車『M103ファイティングモンスター』に活かされることになる。

 

 と暫くして、羽田(ラントミーネ)は戦車のメモを取ったあと、中を覗いた。

 

「・・・・・『T34』っと。特殊歩兵科で習った事が役立ったな」

 

「あの時は戦車の特性を理解する為に試作車から量産車まで全部覚えさせられたからな。

 お陰で頭の中にしっかり残ったぜ。お?あれは・・・・・」

 

 少し視線を変えると、南側に巨大な黒色の重戦車が見えた。

 前面は傾斜装甲を取り入れた車体、足回りはドイツ戦車特有の千鳥型転輪、前側に取り付けられている丸形の砲塔。

 羽田(ラントミーネ)(ゲヴェア)の肩を叩く。

 

「おい。あれってまさか・・・・・装填手(ローダー)の秋山が言っていたレーヴェじゃないか?」

 

「かもな。ドイツ語で『ライオン』って意味らしいが、あれじゃバイソンだろ」

 

「ははっ確かにな」

 

「通信機を起動させろ。味方に報告だ」

 

「おう、ちょっと待って・・・・・あれ?」

 

 羽田(ラントミーネ)が持ってきた通信機を起動させようとしたが、電源が入らない。

 電源レバーを何度も上げ下げしてみたが全く反応しない。

 

「何やってんだ、早くしろ」

 

「緊急事態だ・・・・・通信機が故障しやがった」

 

「はぁ!?故障!?」

 

 (ゲヴェア)の驚愕した声が建物全体に響き渡り、羽田(ラントミーネ)が慌てて口を押さえた。

 

「ば、静かにしろ。見つかっちまうだろ」

 

 2人は少し動きを止めたあと、そーっと下を確認した。乗員の動きが少し慌ただしくなったがすぐに収まった。

 何とか見つからずに済んだのでホッと胸を撫で下ろして、落ち着いたところで(ゲヴェア)が聞き返す。

 

「おい、電源が入らないってどういうことだ」

 

「電子部品がイカれたかもしれない。全部バラしてみないと分からないぞ」

 

「そんな時間はない。すぐに報告しないと手遅れになる」

 

「そう言われても・・・・・あ、そうだ。良いこと思い付いたぜ」

 

 にっと笑う羽田(ラントミーネ)に嫌な予感がしたが、取り敢えず作戦を聞いてみることにした。

 

 

 3分後、2人は屋根からロープを垂らしてT34の砲塔の上に降りた。音を立てないよう慎重に進み、少し離れているT26E1ー1に向かった。

 目標の戦車に到達すると、羽田(ラントミーネ)通信手(ラジオオペレーター)の席に座り、(ゲヴェア)が周囲を見張る。

 

「早くしろよ、いつバレるか分からないんだぞ」

 

「分かってるよ」

 

「それにしてもお前の作戦はいっつも危険と隣り合わせだな」

 

「しょうがないだろ。他に通信機無いんだから」

 

 通信機の電源を入れ、周波数を調整して呼び掛ける。

 

「こちら偵察班ラントミーネ、応答してくれ。こちら偵察班ラントミーネ、誰か応答してくれ」

 

 呼び掛けて数秒後、ヘッドホンから味方の声が聞こえてきた。

 

 〔こちら陸王福田、どうした?緊急事態か?〕

 

「福田か?今何処にいる?」

 

 〔西北(デルタ)エリアを走行中だ。あと少しで北(エンド)エリアに侵入するところだが〕

 

「そ、そうか。福田、お前に頼みたいことがあるんだ」

 

 福田は羽田(ラントミーネ)の切羽詰まった声を聞いて、何かトラブルに見舞われていると察した。

 身を案じて状況を聞き出す。

 

 〔おい、何かあったのか?〕

 

「持って来た通信機が故障しちまってさ、今敵戦車の通信機を使って交信してるんだ」

 

 〔敵戦車の通信機!?戦車を乗っ取ったのか!?〕

 

「そんな事してねぇよ。とにかく今は時間が無いんだ。良いか、今から言う情報を味方に報告してくれ」

 

 戦車の前で見張りをしている(ゲヴェア)は、見つからないかと不安になっていた。

 早く通信を終わらせてほしいと思っていたその時、遠くから女子の声が聞こえてきた。

 

「ラントミーネ、急げ!乗員が戻ってきた!」

 

「うおっマジか。福田頼むぞ!」

 

 通信機を切ると通信手の席から飛び出し、出口に向かって走り出した。

 

「連絡ついたのか!?」

 

「バッチリだ!福田に連絡して味方に報告するように頼んだ!」

 

「なら良かった!早く脱出するぞ!」

 

 2人は出口に向かって一直線に走った。あと少しで扉に手を掛けようとした、その時!

 

「あらあら、逃げられるとでも思ったのかしら?」

 

 出口に種島優衣と生徒が前に立ち塞がった。

 まさかの事態に羽田(ラントミーネ)は目を見開いた。

 

「うそぉー!何でバレたんだ!?」

 

「『持ってきた通信機が壊れから敵戦車の通信機を使う』・・・・・悪くない作戦だと思うわ。

 でも残念だったわね、あなたの通信は全部筒抜けよ。レーヴェの通信機が正体不明の電波を受信したから確認したの。

 そしたらあなたの声が聞こえてきた、ラントミーネくん」

 

「あっちゃー、まさか電波を受信してたとは想定外だったな」

 

「ったく!だから嫌だったんだ!どうすんだよ!」

 

 (ゲヴェア)が突然怒鳴り始め、羽田(ラントミーネ)も負けじと反論する。

 

「何だよ急に!お前だってこの作戦に乗ったじゃねぇか!」

 

「勘違いすんなよ、俺は仕方なくついてきただけだ!お前の作戦は無鉄砲過ぎるんだよ!」

 

「何ぃ!?そう言うお前は慎重過ぎるんだよ!時にはこうして大胆に動いた方が良いときもあるだろうが!」

 

「慎重過ぎて何が悪い!」

 

「無鉄砲で何が悪いんだよ!」

 

 2人は優衣たちが見ている前で喧嘩を始めてしまった、彼女たちはその光景を呆然と眺める事しか出来ない。

 見ていると掴み掛かるほどにヒートアップしてきたので、優衣が止めるように指示を出した。

 

「はぁ、さっさと止めさせて。もういい加減にしてほしいわ」

 

 指示に従って止めに入ろうとしたとき、羽田(ラントミーネ)が突然「あっ!!」と何かに驚いたように大声で叫んだ。

 その視線は腰元に向いている。

 

「ゲヴェアお前、やりやがったな!?」

 

「何だよ。俺が何かしたのか?」

 

「あーぁ・・・・・こいつはエライことになるぜ」

 

 と不適な笑みを浮かべながら右手を上げた。その右手にはピンが抜けている手榴弾が握られている!

 

「手榴弾よ!!逃げて!!」

 

 生徒たちの悲鳴が建物内に響き渡る。羽田(ラントミーネ)が手榴弾を離す。右手から離れた手榴弾は床に落ちると、一帯を包み込むように激しい閃光が走る!

 閃光が消えたので辺りを見渡すと、2人の姿は消えていて出口が開いていた。

 

「奴らは外に逃げた!行くわよ!」

 

 1人の女子生徒が周りの生徒数人を率いて外に出ていき、残った生徒はそれぞれの持ち場に戻った。

 すると、近くの木箱の陰から羽田(ラントミーネ)が笑いを堪えながら頭を出して辺りを見回した。

 

「くっくっくっ見たかゲヴェア、あいつらの驚きよう。俺たちの演技にまんまと引っ掛かってくれたぜ」

 

「あぁ、手榴弾を間近で爆発させる分けねぇだろってんだ」

 

 2人は倉庫から脱出せず、物陰に隠れて様子を伺っていた。そのまま逃げても確認出来ていない別動隊に発見される可能性を考え、敢えてその場に留まったのだ。

 作戦は上手くいったようで、「これぞまさに『灯台もと暗し』だな」と笑う羽田(ラントミーネ)に、(ゲヴェア)は次の作戦を聞き出す。

 

「で?これからどうするつもりだ」

 

「そうだなぁ、このままトンズラするのが良いだろうな。隙を見て動くか」

 

 そう言って耳を澄ませると、生徒が優衣に伝言を伝えていた。

 

「種島隊長、偵察に出ている『T29』2号車から通信です。『敵、動きあり。散開して行動中』」

 

 その伝言を聞いた優衣はにやっと笑い、戦闘準備に取り掛かるよう指示を出す。

 

「遂に動き出したわね。全員戦闘準備掛かりなさい!エンジンは各車の確認が取れ次第、一斉に始動させるわ!!」

 

 優衣の指示を聞いて、蜘蛛の子を散らすように一斉に動き始めた。羽田(ラントミーネ)たちがその様子を見ていると、1輌だけ乗員が全く乗らない戦車が見えた。

 それは先程通信機を拝借したT26E1ー1、どうやら先程出ていったのはその戦車の乗員だったようだ。

 

『お前戦車乗っ取ったのか!?』

 

 羽田(ラントミーネ)の頭の中に福田から言われた言葉が過った。と同時に、脱出作戦を思い付いた。

 

「ゲヴェア、あの戦車に向かうぞ」

 

 と、指を指す先には無人のT26E1ー1が見える。(ゲヴェア)はその提案に訝った。

 

「お前・・・・・今度は何する気だ?」

 

「良いから動くぞ」

 

 2人は周囲を警戒しながら再びT26E1ー1に戻ると、羽田(ラントミーネ)が「こいつに乗れ」と言い出した。

 

「まさかと思うが、この戦車を奪うつもりじゃないだろうな」

 

「当たりだ」

 

「当たりだじゃねえよ!正気か!?」

 

「こいつを奪えば脱出に役立つし、戦力の増強にもなるぜ?どっちにしろ救援は望めそうに無いからな」

 

 この説得に(ゲヴェア)は頭を抱えた。戦車道で戦車を奪う何て聞いたことがない、しかし他に脱出する手段は見当たらない・・・・・

 頭の中で考えを巡らせ、決断した。

 

「・・・・・乗るぞ!早くしろ!!」

 

 もうこれしかないと悟った(ゲヴェア)は砲手席に、羽田(ラントミーネ)は操縦席に座った。

 車内無線機のヘッドセットを付けると、確認がてら通信回路を開く。

 

「お前アメリカの戦車操縦出来るよな!」

 

「あったりめぇよ!どんな戦車でも年代が同じなら構造も大体同じ!操縦ぐらい余裕だぜ!」

 

 羽田(ラントミーネ)がエンジンキーを回して始動させる。後部に搭載されている大馬力エンジンが力強く回りだす。

 他の戦車に乗っている乗員が指示を受けずにエンジンを始動したT26E1ー1の方に視線が向いた。

 

 〔スーパーパーシングE1!何をやってるの!?まだエンジンを始動の指示はしてないわよ!〕

 

 ヘッドセットから何も知らない優衣の声が聞こえてきたので、羽田(ラントミーネ)が返答する。

 

「悪いな!この試作車は俺たちPSCが借りるぜ!」

 

 〔ちょっあんた誰よ!?〕

 

「さっき名前を言い当てられたラントミーネだよ!」

 

 羽田(ラントミーネ)が返答している間に(ゲヴェア)が警戒のために外を確認していると、「私たちの戦車のエンジンが動いてる!?」と驚愕している声が聞こえてきた。

 後ろに振り帰ると、さっき出ていった生徒たちが戻っていた!

 

「ヤバい!ラントミーネ!早く出せ!乗員が戻ってきたぞ!!」

 

「お、やっと帰ってきたか!でも一足遅かったな!掴まれ!全速後退!!」

 

 バックギアに入れてアクセル全開で巨体が全速で後退しながら壁に向かって突進し、凄まじい轟音を立てて壁を破壊してしまった!

 倉庫から脱出すると、戦車とは思えない見事なクイックターンを見せて車体正面を反対側に向ける。

 

「それじゃ借りるぜ!あんたらも色々とやったんだからこれでお会い子だ!」

 

 と羽田(ラントミーネ)がいうと、エンジンを響かせながらその場を離れていった。

 この一部始終に愕然としていると、優衣が怒鳴り声を上げた。

 

「何ボケッとしてるの!『突撃機甲班』に連絡してあいつらを追って!!」

 

 

 何とか脱出する手段を手に入れた羽田(ラントミーネ)たちは、E(エンド)エリアの脱出のために動いていた。

 

「はっはっはっ!上手くいったな!」

 

「ラントミーネ!壁破壊して脱出するやつがあるか!この騒ぎ聞き付けて敵が寄ってくるかもしれないだろうが!」

 

「しょうがないだろ。目の前敵だらけだったんだから。不可抗力ってやつだよ」

 

「ったく、まぁいい。俺は味方に状況を報告する、このままこのエリアを出ていくぞ」

 

 と言うと、(ゲヴェア)は通信機の電源を入れて味方に向けて一斉通信で呼び掛け始めた。

 その時!目の前に別動隊と思われる敵戦車が姿を現した!

 

「うわっ!!ゲヴェア!前方に敵だ!」

 

 羽田(ラントミーネ)の怒鳴り声を聞き、キュウポラのハッチを開けて前方を凝視する。

 見えたのは黒色に塗装されたM26と思われる戦車が数輌、しかし砲塔の防盾を確認してすぐに回避行動を指示した。

 

「ラントミーネ!左に避けろ!あの戦車相手に真っ向勝負は不利だ!」

 

 (ゲヴェア)の指示に従い、E1は左に向けて急旋回して攻撃を避けた。

 羽田(ラントミーネ)は敵を振り切ったことを確認すると、先程見えた戦車を聞き出した。

 

「さっきのは何だったんだ?見た目は『M26』に見えたが」

 

「今のはT26E5だ。かなり厄介な敵だぜ」

 

「E5・・・・・ジャンボか、確かに正面は不利かも知れない、な!?」

 

 羽田(ラントミーネ)が何かに驚き、急ブレーキを掛けて停車させた。目の前には先程振り切ったT26E5が道を塞いでいる。更に後ろも塞がれてしまった。

 T26E1ー1(スーパーパーシング)が停車しているのは脇道が無い一本道。前も後ろも塞がれ、文字通り八方塞がりだ。

 

「マズいなぁ、どうするよ?」

 

「どうするったって・・・・・前も後ろも塞がれてたらどうしようもないだろ」

 

 羽田(ラントミーネ)たちが戸惑っていると通信機からE5の乗員からと思われる声が聞こえてきた。

 

 〔PSCラントミーネ!その戦車を返しなさい!あなたたちは、我々『突撃機甲班(ダッシュ・タンク・ユニット)』が包囲している!

 応じない場合は強行手段に出るわよ!〕

 

 彼女からの警告を聞いた2人は顔を合わせた。「強行手段に出る」と言う事は、この戦車を撃破することも視野に入れていると捉えることが出来る。

 折角ここまで来たと言うのに、諦める訳にはいかない。しかし前も後ろも塞がれている状態では応戦しても無駄だろう。

 

 と色々と考えを巡らせている羽田(ラントミーネ)が、先程の通信の内容を思い出した。

 

『あなたたちは、我々突撃機甲班(ダッシュ・タンク・ユニット)が包囲している!』

 

「・・・・・ゲヴェア、作戦を思い付いたんだが、聞くか?」

 

「いや良い。お前のことだ、突撃して突破口を作るんだろ?」

 

「ほとんど正解。ただ突撃するだけじゃ、後ろからの攻撃に対応出来ないだろ?そこでちょっと無茶な挙動するけど」

 

「それは聞かない方が良さそうだな・・・・・やるならさっさとやれ!」

 

「へへ、後悔するなよ!」

 

 羽田(ラントミーネ)はアクセルペダルを思いっきり踏むと、正面に向かって真っ直ぐ突進していく!

 

 〔ち、ちょっと!止まりなさい!止まらないと撃つわよ!!〕

 

 突撃機甲班(ダッシュ・タンク・ユニット)の生徒が最後の警告をしたが、羽田(ラントミーネ)はその警告を無視して突撃していく!

 

「ゲヴェア!砲塔を180度旋回させろ!」

 

「お前マジで何考えてんだ!」

 

「良いから言う通りにしろ!敵の砲弾を避けるにはこれしか無いんだよ!」

 

 (ゲヴェア)は言われるがままに砲塔を旋回させると、突然車体が大きく振れ始めた!

 何をしているのかを聞く暇を与えないように車体が回転し始めたのだ!

 

 旋回させたと同時に、E5の砲弾がE1ー1に向かって撃ち出される!

 車体が半回転したタイミングで前から撃たれた砲弾は砲塔に、後ろから撃たれた砲弾は空気抵抗と重みで弾道がやや下向きになり、車体上部に当たったが貫通することなく弾いた。

 車体はもう一度回転して正面を向けて全速で突っ込み、前を塞いでいたE5を勢いで弾き飛ばした!

 

「よっしゃぁ!突破ぁ!!」

 

 と羽田(ラントミーネ)はガッツポーズを決めた。砲塔に乗っていた(ゲヴェア)は狭い砲塔内で振り回されて伸びてしまっていた。

 

 〔ラントミーネ!聞こえるか?こちら福田、応答してくれ!〕

 

 ヘッドセットから羽田(ラントミーネ)を呼ぶ声が聞こえてきた。

 たまたま近くを通り掛かった福田からの交信だった。心配して連絡してくれたのだ。

 

「おう福田か!今俺たちは敵の戦車を奪・・・・・じゃなくて、ちょっと借りて逃走してるところだ!」

 

 〔敵の戦車!?お前ら揃いも揃って強盗の真似事でもしてきたのか?〕

 

「詳しい話は後だ。それより近くにいるなら誘導してくれ。この荒れたエリアからさっさと脱出したいからさ」

 

 その後、羽田(ラントミーネ)たちは偵察に出ていた福田と無事に合流し、E1ー1は陸王と共にエンド(E)エリアを脱出した。

 

 

 優衣は格納庫でイライラしながら報告を待っていた。戦車を奪われたことと、こんな単純な策に引っ掛かってしまった自分が情けなく感じ、焦燥感にかられていたのだ。

 

「種島隊長・・・・・突撃機甲班(ダッシュ・タンク・ユニット)から報告が」

 

 レーヴェの通信手が優衣におそるおそる話し掛ける、優衣は視線を変えずに応答する。

 

「報告して」

 

「その、非常に申上げにくいんですが・・・・・包囲網を突破されたそうです」

 

 通信手の報告を聞いた他の生徒たちは激しい悪寒を感じた。敵歩兵に戦力を知られただけでなく、貴重な戦力を奪われた。

 更にその戦力を取り返せなかったとなると、激昂して何をするか分からない。

 誰も話すこと無く時間だけが過ぎた。時計の秒針が一周した時、優衣が突然笑い始めた。

 

「ふ、フフフ、面白いじゃない・・・・・ここまでコケにされたのは宗谷との一件以来かしら。久しぶりね、この感覚・・・・・」

 

 生徒たちは独り言を呟く優衣があまりにも不気味だったので、誰も話し掛けることが出来ずただだた傍観していた。

 どうすべきか悩んでいると、優衣が振り替えって指示を出した。

 

「出撃よ。あいつらを徹底的に叩き潰す」

 

 そう言った優衣の表情は感じ取れず、その目には光がなかった・・・・・

 




「今回も読んでくれてありがとう!PSCのラントミーネだ!
ゲヴェアはどうしたのかって?あいつはまだ気絶してるから今回は俺だけだ。
奪・・・・・借りたT26E1ー1はこの後も俺たちの戦力になってくれると思うぜ!

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