敵重戦車を撃破するため、大胆な作戦を立案したアメリカ・ヒノマル小隊。その内容はクレーンアームを付けているベルゲ・ティーガーを使ってM3を吊り下げて攻撃するという大胆なものだった。
標的は重戦車『T28』と『T29』。どちらも正面装甲は桁違いに硬いので、どんな重戦車でも薄い車体上部を撃ち抜いて撃破しようというのだ。
様々なトラブルに見舞われたが、敵戦車2輌という戦果を上げた。
しかし脱出時、
アメリカ・ヒノマル小隊はその戦車を詳しく調べることは出来ないまま、崩れるビルからジャンプで脱出。作戦は無事に成功したのだった。
シベリア小隊はエリアBを出発し、何事もなく順調に進んで行た。当初の予定どおり、敵の進行を抑えるために市街地エリアの中央、エリアCに向かって北進していた。今のところは敵戦車の見ていない。
「ほらね!言った通りでしょ?
とサティは安堵していた。しかしルリエーは
作戦会議の時、PSC2名をエリアEに送り込んで戦力を把握するために強行偵察を実行するという事になっていたが、その偵察で全体の何%を確認出来るかが非常に曖昧だ。
先行してルクスが偵察に出ていたが、それでも確認出来たのはアメリカの重戦車T29だけ。
相手は試作の段階で没案となった戦車が大多数を締めている。出来れば半分以上の戦力が把握出来れば、そう考えていると、
「ルリエー車長、偵察班の陸王から報告が来ました」
「敵の戦力が分かったのかしら?それで?」
「見つけたのは7輌、アメリカのT26EーE1、T26E4・・」
通信手が報告された戦車の名前を読み上げる。見つけたのはアメリカの試作重戦車T26シリーズが6輌、そしてドイツのレーヴェだと聞いて、やはり全ての戦力の把握は出来なかったかと感じた。
こちら側が撃破してきた戦車は片手で数えきれる程だ。PSCが見つけてくれたのはほんの一部に過ぎない。「詳細な情報が来ていないか」と
相手はアメリカとドイツだけではない。旧ソ連とイギリスの戦車も持っていると聞いている。それも日の目を見ることが出来なかった試作戦車ばかり。性能、武力、防御力の全てが未知の領域だ。これまでの経験は全くと言って良いほど通用しないだろう。
「ルリエー、みんな疲れているからそろそろ休憩しましょう。」
「え、あ・・・・・すみません、もう1度良いですか?」
サティの指示を聞きそびれてしまったので、慌てて聞き返した。サティは「ちゃんと聞きなさいよ」と少し面倒そうに返事を返し、「休憩するわよ」と溜め息混じりに言った。
ビルの陰に戦車を停車させてエンジンを切った。旧ソ連の戦車はクラッチが固いので変速だけでも重労働だ。
暫く休憩すると言われたISー2の
サティとルリエーは作戦の再確認のために地図を拡げて話し合っていた。現時点で目標の中央エリアまで後数百メートルの位置まで進んでいる。今のところは敵の姿は見ていないので、このまま行けば作戦通り事を運ぶことが出来るだろう。
「このままなら、予定通り中央を占拠して待ち伏せが出来るわね。敵に今までやれた分ここでやり返してやるわ」
とサティは意気込んでいる。一方的に攻められてばかりだったので鬱憤が溜まっているのだろう。その一方で、ルフナは頭の中でここまでの状況を整理し、手に顎を乗せて黙考していた。
当初の目的は敵の進行を遅らせることだったが、今のサティは敵を殲滅することだけを考えている。その作戦でも活躍出来るとは思うが、敵の戦力が分からない状態エリアCを占拠した場合、真っ向勝負を挑むことになる。
現在確認出来ているのはアメリカ、ドイツ、ソ連の重戦車と駆逐戦車が数種類。まだ視認出来ていない無い戦車もいるはず。
もしかしたら視認していない戦車と戦闘することになるかもしれない。そう思ったルリエーは、サティに意見具申を試みた。
「サティ隊長、意見具申しても宜しいでしょうか?」
「意見具申?何か良い案でも思い付いたの?まぁ良いわ。聞かせて」
「ありがとうございます。早速ですが、今私たちの手元にある情報はPSCが発見した数種類の重戦車と、敵が動き出したという警告です。コマンダー・マガジンが言ったように、このまま中央を占拠するのは危険だと思います」
『コマンダー・マガジン』という言葉を聞いたサティの顔から笑顔が消えた。聞きたくない言葉だったのか、眉を寄せて睨むようにルリエーを見上げた。
「・・・・・それで?」
「ここは別行動しているコマンダー・マガジンを呼び戻して、一緒に行動すべきだと思います。彼が言うように、この状態で中央の占拠は避けるべきです。もし呼び戻したくないのなら、何か別の作戦を立案すべきかと」
ルリエーは遠回し気味に「この作戦は実行すべきではない」と反対した。出発前の時はPSCが強行偵察である程度は戦況把握が出来るはず、そう思っていたが実際は恐らく全体の半分に満たない程度しか把握が出来ていない。戦闘が始まったとなれば、相手も中央付近を進軍してくる事は予想出来る。
その相手がこのKVー2、ISー2を遥かに上回る性能を誇った戦車である可能性は非常に高い。
こちらが中央を占拠する前に歩兵である
「つまり?私の作戦が気に入らない、と言うことかしら?」
「そう言う訳では・・・」
「だったらあいつの名前を出さないで!歩兵1人に何が出来ると言うのよ!」
「前路の偵察や敵の撹乱等で力を発揮すると思います。それに敵戦車の撃破にも貢献しています」
「それは何人かの班で行動していたからでしょ!1人じゃ何も出来やしないわ!」
ルリエーは何とか認めて貰おうと説得を試みてみたが、戦闘前のいざこざがあったからかサティは断固拒否している。怒声が聞こえてきたので、中にいた乗員が何かあったのかと思い飛び出してきた。
「あの、何かあったのですか?」
「何でもないわ!休憩は終わり!出発するわよ!」
苛立ちながら戦車に乗り込むサティの姿を見た乗員は、「揉めたんですか」と尋ねるようにルリエーを見た。普段から揉める事は無かったので、乗員たちは目を丸くしていた。
「・・・・・聞こえたでしょ。出発よ」
指示を出したルリエーは普段通りに振る舞っていたが、乗員は互いに目を合わせながら大丈夫なのだろかと心配していた。いつも通りにの試合ならこんな風に揉めることはない、だが今回はいつもと違うのだ。
初めは戦車で決着を付けるつもりでいたが、試合が進むに連れてこれまで通りの戦い方では勝利することは難しい。だから宗谷は『歩兵』とともに戦う新しい戦術を考えたのだろう。
こうして生き残ったからには、何としてでも勝利に流れを持っていきたい。そうするためには歩兵という武器が必要になる。しかしサティは拒否し、
呼び戻しても素直に参加してくれるかどうか。心配要素はかなり多いが、今はサティが立案した作戦を実行するしか無いだろう。
2輌の戦車は気まずい雰囲気の中、予定通りエリアCに向かった。その間、サティは自分が立案した作戦に反対されたことにまだ苛立っていた。
今まで自分が立案して来た作戦は、大洗との一戦以外で失敗したことはない。今回の作戦も絶対成功すると確信を持っていた。今まで作戦を反対された事がなかったので余計に腹が立ったのだ。
出発して10分後、目標地点であるエリアCに到着した。立地はビルが円を作るようにそびえ立ち、中心には枯れた噴水が佇んでいる。
相手の不意を付くには噴水より後方で構えた方がより効果的だろうと考え、ビルの陰に戦車を隠して待ち構える事にした。勿論エンジンは停止している。
「ルリエー車長、先程はサティ隊長と何があったんですか?」
ISー2の
「何もないわ。そんな事をより今は作戦実行中よ。ちゃんと構えて」
と注意した。そう言われたものの、どうしても気になったので、今度は言い合いの原因になりそうな言葉で揺さぶりを掛けてみようと考えた。
「もしかして、コマンダー・マガジンの件ですか?」
「・・・・・」
「サティ隊長はコマンダー・マガジンを毛嫌いしています。でも彼の助けが無いと勝つことは出来ない。それで言い合いになったんですよね?」
「・・・・・」
確信を付かれてどう答えれば良いか分からないのか、ずっと俯いている。
「こんな話をしてすみません。でも気になっちゃうんです。幼い頃からずっと一緒で、喧嘩をしたことがないって聞いていましたから」
そう言われたルリエーは軽く溜め息を吐いた。幼い頃からの付き合いで、一度も喧嘩をしたことが無いのは事実だ。
作戦の立案を全部サティに任せていたので、自分から意見を具申することなんて無かったのでトラブルも起きなかった。彼女の作戦は危険な場面もあったが殆ど失敗しなかった。
サティはこう言った経験、知識は豊富なので、今回の作戦も自信とプライドを持っている。だから余計な口出しをされたことに腹を立てたのだろう。ルリエーも作戦実行に反対する気は無かった。
しかし今回の試合は今までの経験が全く通用しない。規則完全無視の攻撃、名前を初めての聞く重戦車の登場。このような想像も付かない事態に遭遇し、相手が正々堂々と勝負する気は全く無いという事が分かったのだ。
こちらも歩兵という変わり種で勝負するしか無い、その事を伝えたかったのだ。ルリエーは顔を上げて
「KVー2のサティ隊長に繋いで、話がしたいの」
と頼んだ。今からでも遅くない、ちゃんと話し合えば分かって貰えるはず。そんな期待を胸に、ヘッドセットを頭に付けた。
「緊急通信!KVー2の
見えた。オリーブドラブの独特な緑色で車体を塗っている。どちらも車体、砲塔の形状はKVー1に酷似していて見分けが付かない。しかし良く目を凝らしてみると、車体の大きさに違いあること、そして砲塔上部に副武装の機銃の有無で判別出来た。ルリエーはすぐサティに通信した。
「サティ隊長、まさかあれって」
「えぇ、そのまさかかも。KVー3とKVー4ね」
『KVー3』、『KVー4』。この2輌はKVー2の次に計画された重戦車である。どちらもKV系列だが、特に大きな違いは無く車体の形状はほぼKVー1に似ている。
KVー3はKVー1の車体の装甲、エンジンを強化した『Tー150』と、車体を延長して107㎜砲を搭載した『Tー220』が試作された。砲塔の形状もKVー1と殆ど変わっていない。今目の前にいるのは火力強化型である後者の『Tー220』であると推測した。
そして、このKVー3を上回る性能を目指して計画されたのがKVー4である。
武装は長砲身の107mm砲で、重量100トン越えの超重戦車として計画された。史実では計画だけで試作されなかったと言われていたが、とある資料に『車体までは試作した』と言う記述が残されているという。
どちらも計画のみで終了したので実戦配備はされなかった。もし実戦に出ていたら、ドイツのティーガーでも太刀打ち出来なかっただろう。
車体の形状はKVー1に似ているが、正面装甲はかなり強化されている。どちらも長砲身107㎜砲なので正面で撃ち合うのは無理があるだろう、そう感じたサティはルリエーに指示した。
「良い?あいつらは私たちの存在に気付いていないはず。ここは待ち伏せよ」
「は、はい」
ずっとソ連の戦車に乗ってきたので、とても厄介な相手だと認識するのに時間は掛からなかった。相手はまだ気付いていない、誰もがそう思っていた。
相手の出方を待っていたが、2輌の戦車は噴水の手前で止まった。エンジントラブルだろうか、そう考えていると轟音を立てて壁に大穴が空いた!近くにいたISー2に瓦礫が降り注ぐ。
車内は瓦礫が装甲に当っている重い音と、混乱する乗員の声が響き渡った。その直後、今度はKVー2付近の壁が爆発した!その時に直感で分かった、「完全に読まれている」。
今まではドローンやスパイによる妨害工作をされてきたが今回は違う。こちらの動きを読んでいたのだ!距離を置いて攻撃しているのは、反撃された時のダメージを極力少なくするため。107mmの長砲身ならある程度距離を離しても問題無い火力だ。
事実、厚さ約30㎜はあるコンクリートの壁を撃ち破ったのだ。このままではやられしまうのも時間の問題、サティは1つの賭けに出ることにした。
「ルリエー!私たちのKVー2が先行するから続きなさい!正面装甲で相手の砲弾を弾きながら前進して、至近距離で砲弾を叩き込むのよ!」
サティは自車の重装甲を活かして距離を縮めようと考えた。KVー2はその重装甲を活かし、『ティーガーの88㎜砲弾を貫通させること無く弾いた』という記録が残っている。だが今回は107mm、弾けるか分からない。
「いえ!ここは私たちが前に出ます!こちらの方が正面装甲は傾斜していますから弾きやすいはずです!」
ルリエーはまたしてもサティの作戦に待ったを掛けた。ISー2の装甲は約100mm、しかし装甲は傾斜しているので実際は100mm以上の装甲があるはず。理論上でいえばISー2の方が跳弾する確率が非常に高い。しかしサティは、
「今更作戦変更なんて出来ないわ!このまま行くわよ!」
と全く耳を貸さなかった。中央は一番戦車が集まりやすいポイント、そして既に敵に居場所を悟られているので、もたもたしていたら
ルリエーが再度呼び掛けてみたが、その時既にKVー2は動き出していた。もう行くしかない、ルリエーは
敵の攻撃を待つ必要はない。先行したKVー2は躊躇すること無く前進し、その後ろをISー2が続く。敵は装填中なのか、全く攻撃する気配はない。それどころか距離を離すように後退している。サティは「これはチャンスだ」と思ったのか、兎に角前進するようにとしか言わない。その単純な行動が敵に大きなチャンスを与えてしまった。
後少し、後少しで追い付ける。サティはそれだけを考え、周りを見ていなかった。視線の先に見えるのはKVー4だけ。超重戦車を一方的に叩くのは悪い判断ではない。しかし忘れてはいけない、もう1輌いることを。
途中まで順調に進んでいたKVー2が、KVー3攻撃を食らってしまった。107mm砲をまともに食らったのでKVー2の車内はかなり揺れたが、エンジンに支障無し。このまま前進、とサティは指示したが、進まない。エンジンの唸る音が木霊するだけで、1mmも動かない。
「ちょっと何やってんの!早く前進して!」
サティは
「しゃ、車長・・・・・今の攻撃で、履帯を切断せれました」
そう、KVー4はあくまで囮役。後ろから続いていたISー2もKVー3は完全にノーマークだった。KVー4の後ろにいたか、既に撤退したと思い込んでしまったからだった。KVー2は噴水の右側、その手前で左側の履帯を切られて立ち往生になってしまった。
「すぐに履帯の修理を始めて!後は車体を傾けて!敵の攻撃をなるべく弾くのよ!」
サティはそう言ったが、今外に出るのは危険だ。前にはKVー4、横にはKVー3、まさに
応援を呼びたいが今呼んでも間に合わない。ルリエーはサティにこう告げた。
「サティ隊長。ここは私たちが盾になります、その間に履帯の修理をしてください!」
「何言ってるの!そんなのダメよ!」
「今は・・・・・これしか無いんです!」
ISー2はKVー2の左側に停車し、正面からの攻撃に対しての防御姿勢を取った。敵はISー2の方が厄介だと判断したのか、KVー2そっちのけで攻撃を始めた。
ISー2の車体に107mm砲弾が集中的に撃ち込まれる。が、敵は1発で仕留めようとしない。何発も撃ち込んで、なぶり殺しにするつもりのようだ。
「ルリエー!早く下がりなさい!ISー2も限界よ!」
サティは涙声で後退指示を出した。これ以上味方が傷ついていくところを見るのは耐えられなかった。少し間を置いて、焦りを感じさせないルリエーの声が聞こえてきた。
「サティ隊長。あなたが立てる作戦は、どれも目を見張るものがありました。あなたは、何がなんでも生き残らなければならない人です」
サティはその一言を、死を悟った時に聞く遺言と同様の物と捉えた。ここまでかなりの犠牲を出してしまった、もうこれ以上犠牲を出したくはない。
「バカ言ってんじゃないわよ!私は良いから・・・・・早く下がりなさい!」
この一言はルリエーの耳には入っていなかった。ヘッドセットを外したのだ。ISー2の車内は驚く程静かで、穏やかな空気が流れたいた。これで良かったのだ。役に立てないままやられるよりは良い。このまま撃破されるのを待つだけか、そう思っていると、前から重い発砲音が響いた。
「おいおい。ちょっと目を離している間にエライ事になってんな」
現状を見てやっぱりかと思わせる呆れている声に、サティたちは驚いた。隊を離れた
「こ、コマンダー・マガジン?どうして・・・・・」
サティは驚きを隠せない様子で尋ねると、
「勘違いすんなよ。俺はただ自分の任務を果たしに来ただけだ」
KVー4の後ろに、主砲から煙を出している戦車が見えた。恐らく
車体は駆逐戦車のヤークトパンターで、ティーガーの88㎜砲を車体上部に2門、そして左右の車体側面に1門ずつの計4門を増設している。
それは規格外な自走砲、アメリカのM50オントスを連想させる見た目をしていた。
オントスは無反動砲だったので反動を吸収する駐退機が無くても問題無いが、今ヤークトパンターに搭載されている88㎜砲は無反動砲ではない。
駐退機がないと反動を吸収しきれないので、撃つ度に強い反動を受けてしまうので弾道はかなりぶれてしまう。確実に当てるにはなるべく至近距離で撃つしかない。
「コマンダー・マガジン!一緒に挟撃しましょう!」
ルリエーは共に戦おうと言ったが、
「コマンダー・マガジン!応答してください!一緒に戦いましょう!」
「今更一緒に戦うなんて出来るか」
「そんなことを言ってる場合じゃないでしょ!?」
「兎に角俺は俺のやり方でやる。邪魔すんな」
車内に付けた照準器で車体後部に狙いを定めて、増設した88㎜で撃ち込んだ。しかし狙いは外れ、砲搭側面を掠めて飛んで行ってしまった。その攻撃で敵の標的がヤークトパンターに向いた。味方の2輌はまともに戦うことは出来ないと思ったのだろう。
KVー3が追いかけ、KVー4が狙撃という形で撃破を狙っている。そのお陰でKVー3の後方が無防備になった。ルリエーがサティに言った。
「隊長!私たちがKVー3を追撃しますから、KVー4を攻撃して下さい!敵の戦力が割かれた今なら可能なはずです!」
「ちょ、指示するのは私よ!・・・・・まぁ良いわ!その作戦で決定!」
漸く作戦が実行出来そうだとルリエーは嬉しくなった。ISー2は砲塔だけを旋回させ、偏差射撃でKVー3の履帯を撃ち抜いた。動けなくなったところでヤークトパンターがエンジンとミッションを撃ち抜いた。しかし2発撃ってしまったので残り1発。再装填も出来ないので外すことは出来ない。
「誰か手を貸して!KVー4が逃げるわよ!」
サティが叫んだ。KVー3がやられたところを見て退却している。
「私たちが食い止めます!」
ルフナがそう言うと、ISー2が逃げるKVー4に対して正面から潜り込むように突っ込み、噴水の前まで押し込んだ。押し込んでいく度に車体がギシギシと音を立てた。
「早く!今のうちです!」
ルリエーの合図でヤークトパンターが最後の1発をエンジンに向けて撃ち込んだ。しかし火災だけで撃破にはならなかった。燃料タンクを撃ち抜いただけのようだが、かなりのダメージを与えたはずだ。
KVー4の動きが鈍くなった。これなら履帯を切られてしまったKVー2でも狙えるはず。サティが叫ぶ。
「砲塔を全開で回して!車体下部を撃ち抜くわよ!」
「撃てぇ!!」
敵の撃破を確認したサティとルリエー、そして乗員たちは大きな溜め息を吐いた。ギリギリの戦いの緊張感から解放され、心臓はまだバクバクしている。ISー2の乗員が外に出てKVー2に駆け寄り、切れた履帯の具合を見てみた。
砲弾が掠めた時に切れたようで、幸い機動輪、転輪と言った走行装置の損傷は軽度なものだった。しかし履帯の板が1枚足りず、繋げ直すことが出来なくなった。
途方にくれていると、魔改造ヤークトパンターがKVー2の前で停車し、
「ちょっと、何やってんの?」
サティが呼び掛けたが
「俺たちが隠れていた工場に放置されていたKVー1の履帯だ。同じ系列の戦車なんだから使えるだろ」
そう言って履帯を足元に置くと、乗員が履帯を繋ぎ直した。作業しているところを横目に、
ルリエーに訪ねられると「燃料が切れて動けなくなったから、敵に持っていかれないようにしている」と答えた。鹵獲されないためだろうか。
作業を終えると、車内から自分の荷物を持って出てきた。その時左手にズキッと痛みが走った。見てみると手袋ごと掌を切ってしまっていた。荷物をから包帯を出して巻き付けて結ぼうとしたが、片手が塞がっているので上手くいかない。「あーくそっ」と愚痴を漏らしていると、
「ちょっと、貸しなさいよ」
と言いながらサティが近寄ってきた。
「何だよ急に」
「別に、困ってそうだから手伝ってあげようと思っただけよ」
少し無言の空気が流れ、
「・・・・・痛くすんなよ」
「子供みたいなこと言わないで。消毒は?」
「してねぇよ。めんどくさいし」
「しなきゃダメでしょ。消毒液は?」
「鞄の中。赤十字のマークが付いてるポーチの中だ」
「用意がいいのね」
「基本装備だ」
サティは消毒液を傷口に付け、ガーゼを付けて包帯を巻いてほどけないようしっかりと結んだ。
「はい。これで良いわよ」
「待って。どこに行くの?」
サティは
「何処に行こうが俺の自由だろ。どっかで戦闘している小隊と合流するさ」
「ねぇ、その・・・・・今更だけど私たちと一緒に戦わない?」
「あ?何だよ今更。役に立たないんだろ?」
「初めはそう思ってたわ。でもこれまでの戦いを通じてやっと分かったの。歩兵も役に立つんだって。あなたたちをバカにしてきたことは謝るわ。だから、一緒に戦って。お願い」
サティが深々と頭を下げた。ルリエーと乗員たちはこの光景に目を見開いた。サティが頭を下げてお願いするところを見たのは初めての事だった。
「何ボケッとしてんだ。さっさと行くぞ」
と
「コマンダー・マガジン。さっきはありがとうございました」
「何の事だ?」
「さっきの戦闘です。ずっと私たちのことを見ていてくれたんですよね。そうじゃなければあんなに早く到着出来ないですし、改造したヤークトパンターで来たのも、履帯の替えを持っていたのもこうなると予想していたからですよね?」
「・・・・・そんな訳ないだろ、たまたまだよ。」
「でも本当に助かりましたよ。あなたが来てくれなかったらどうなっていたか」
「礼を言われる筋合いはねぇ。ヤークトパンターを改造したのは反撃する手段を増やすため、そして履帯は装甲強化のために付けただけだ。
さっきも言ったが、俺は与えられた任務を遂行しただけだ。『敵戦車を撃破し、味方を守る』、それが俺の任務だ。・・・・・お喋りは終わりだ。そろそろ前に出て見張らないと」
「今回も最後まで読んでくれたことに感謝するわ。プラウダ高校のサティよ」
「そして副隊長のルリエーです。サティ隊長、今回は流石に危なかったのでは無いですか?」
「そ、そんな事無いわよ?履帯さえ切られなければ何とか・・・・・」
「ったく。下手な突撃するからだ。もっとよく考えてだな」
「ま、マガジン!?あんたに言われなくても分かってるわよ!」
「だったらもう少し慎重に立ち回れよ!」
「余計なお世話よ!」
「あぁ、また言い合いが始まってしまいました。でも『喧嘩するほど仲が良い』って言いますもんね」
「「仲良くない(わよ)!!」」
「フフ。では最後に感想、評価を宜しくお願いします」