出発前の作戦会議で喧嘩をしてしまい、別行動を取っていたコマンダー・マガジンとシベリア小隊。サティは作戦通り、市街地エリアの中心部であるエリアCに進軍する。
そこで彼女たちは旧ソ連軍が計画していた重戦車、『KV-3』と『KV-4』と戦闘をすることになった。その戦闘中、KV-2の履帯が切断されたり、IS-2が集中砲火を受けるなど想定外の事が立て続けに起こり、シベリア小隊は全滅するかに思われた。
しかし、その戦闘に割り込むようにマガジンが自らの手で改造したヤークトパンターで現れたことで状況は一変。3輌の戦車で敵を完全撃破することに成功した。喧嘩していたマガジンとサティは無事仲直り(?)し、行動を共にしたのだった。
身を潜めていた模擬工場から出発したエレキ・シェル小隊は、時速20㎞以下で進軍していた。進めた距離は模擬工場が目と鼻の先に見える程度だった。
原因は聖グロリアーナ女学院が持ってきた新重突撃砲トータスにあった。
第2次世界大戦時、イギリス陸軍は「敵は強固な防衛陣地を形成して迎え撃ってくる」と予想し、その防衛陣地を突破出来る重突撃砲を計画した。
『AT』という呼称で、『AT1』~『AT18』までの計画案として提出することになり、数字が上がっていく程大きくなり強力になっていった。
最終的には『AT16』までの設計案を提出し、その設計案を基に25輌のモックアップを制作。この25輌のモックアップを元に直接工場生産という形になった。
トータスの性能は、全長10m、全幅3.9m、全高3m、重量79t、最高速度約19km、武装オードナンスQF32ポンド(94mm)砲1門、装甲厚228mmである。
コンセプトは『敵の防衛陣地を蹂躙し、兵の戦力を分散させる』というものだった。そのため、ATシリーズは全て機動力より防御力を重視した構造となっている。
本車は『敵の防衛陣地を破壊する』といった専門の任務を担うために造られたので、イギリスの特殊機甲部隊『第79装甲師団』に配備する予定であった。
しかし開発中に終戦となってしまったので、生産数は25輌から6輌に減らされ、配備もされなかった。その内の1輌がドイツで輸送試験を実施し、武装、操向装置の安定性が証明されたが、全高3mという高さと、79tという重量はどうしようもなく、「輸送手段に大きな課題がある」という結論に至った。
またこの戦車に搭載されている『メリット・ブラウン操向変速装置』は逆回転機構を備えているので、前進と同じ速度(19km)で後退することが出来た。
主武装であるオードナンスQF32ポンド砲は、高射砲を戦車砲用に改造したもので、火力はドイツにもひけを取らないものだった。射撃試験では、約1000ヤード(940メートル)離れていたパンターを撃破した記録が残っている。
現在は6輌ある内の1輌がレストアされ、ボービントン戦車博物館に保管されている。
「・・・・・どうするんだ?散々時間を使って進軍出来たのはここまでだぞ」
エレキ・シェル小隊の歩兵、
ポルシェティーガーの車長、中嶋美優も予定より大分遅れていることに不安になっていた。
「うーん、これは困ったねぇ。まぁ仕方ないか、この
「そうだとしてもだ、これからどうする?予定の半分も進んでいないんだぞ」
予定通りにいかない事に焦りを感じているのか、
「落ち着けよラハティ。どっちにせよ俺たちの作戦は待ち伏せなんだ。予定通りいかなくても支障は無いよ。さっきの情報では敵が動き始めたって言ってたから、油断した敵がこの道を通るかも」
「成る程。この道にトータスを停めて、油断して出てきた敵を撃ち抜く・・・という事ですか。敵の方もこんな堂々と道の真ん中で佇んでいるなんて思っていない。この作戦でいけるかもしれませんね」
説明を聞いていた美優と
進軍は予定よりかなり遅れているが、この遅れは逆に状況を好転させるかもしれない、彼らはそう考えることにした。
奇襲を仕掛けるにはその場所に上手く同化しなければならないので、トータスは側に置かれていた木箱の破片や、落ちていた枝や枯れ葉を使って擬装を始めた。
そして
「ねぇ。田所、さんだっけ?いつからの付き合いなの?」
「ラハティの事ですか?あいつとは近衛の時からの付き合いですよ。機甲歩兵科でペアだったんです」
「そうなんだ。じゃあペアを組んだときからずっと一緒?」
「えぇ。あいつとは地元が同じだったんですぐ馴染みましたよ」
「ちょっと。手が止まっていますよ」
ルフナから注意され、2人は平謝りをして作業を再開した。側に落ちていた板でトータスの全体を隠し、鉄鋼の棒をクロスで組んだものを前に置いてバリケードを作った。
トータスの後ろにポルシェティーガーを停車させ、トータスの装填中に援護射撃をする構図を作った。こうすれば前にも後ろにも攻撃が可能というだけでなく、互いに互いを守ることも出来る。美優が手に付いた埃を叩きながら言った。
「よし。これなら何とかなるかな。後は田所の偵察次第だね」
そんな噂をしていると、
「ウッド・ペッカーの予想通りだ。敵が来る!迎撃の準備だ!」
その一言で場の空気に緊張が走った。歩兵の
その直後、聞きなれないエンジン音と、履帯が地面を蹴りながら進んでいる音が聞こえてきた。
構えていると、角からT26E5ジャンボ3輌が姿を現した。しかし3輌の戦車は特に確認を取ることなく真っ直ぐ近付いてくる。
待っていると敵がバリケードの手前で停車した。敵戦車の車長と思われる人の上半身が見えた。「こんなとことにバリケード何てあったっけ?」と言う会話が聞こえてきたので、気付かれていないようだ。
ルフナが「攻撃用意」と指示を出すと、全員が攻撃体制に入り、「攻撃開始!」と指示を聞くとトータスがE5ジャンボに零距離で撃ち込んだ。
トータスの正面にいたE5ジャンボを一撃で撃破した所を確認すると
動けなくなったE5ジャンボを確認したポルシェティーガーが1輌、そしてトータスがもう1輌を完全撃破して戦闘は終わった。
「撃破完了だ。さっさと移動しよう。敵が来るぞ」
戦闘区域から離脱したエレキ・シェル小隊は当初の目標であったエリアCまで進軍し、倉庫のような建物の中で少し休むことになった。
歩兵の2人はいつでも銃が撃てるように弾薬の確認と手入れをしていた。
「ハァ・・・くそっ無駄に撃ちすぎたな」
予備の弾倉は全てホハに乗せたままで、別れるときになるべく多く弾倉を持ってきたつもりだったのだが、思っている以上に弾薬を消費してしまったのだ。
出来ることならホハに弾薬を運んで貰いたいところなのだが、このエリアCは敵と遭遇する確率が非常に高い。こんなところにホハを呼ぶことは出来ない。
「弱ったなぁ。このままじゃ戦闘中に弾切れ起こしちゃうよ。別の小隊に連絡して弾薬分けて貰おうか?」
「そんなこと出来るわけねぇだろ。節約して戦うしかない」
「皆!パスタ・キャット小隊から緊急連絡よ!」
美優が大声で全員に呼び掛けた。その声を聞いて乗員たちが一斉にポルシェティーガーの前に集まった。美優が報告内容を伝える。
「内容はこうよ。『敵重駆逐戦車を発見、近くにいる小隊に救援を要請する』、だって」
その内容を聞いてルフナが質問する。
「その重駆逐戦車、形式は分かるのでしょうか?」
「形式は分からないけど、『何かに似てる』って琴羽さんは言ってた」
「その『何か』、とは?」
「一度見たことある戦車に似ているらしいんだけど、その詳しい情報を聞き終わる前に通信が切れちゃったの」
「切れた・・・追われているのですか?」
「分かんない。でもかなり切羽詰まってた感じだったわ」
2人の会話を聞いていた
「じゃあこの倉庫まで誘導しよう。詳しいことはその時に聞けば良い」
「そうね。通信機が故障していなければ良いけど」
美優は周波数を暗号化した誘導信号に切り替えて発信し、パスタ・キャット小隊をこの場所へ誘導を開始した。
誘導を開始して10分後、パスタ・キャット小隊が無事に合流した。パスタ・キャット小隊の黒江琴羽が出て来てお礼を言った。
「誘導有り難う。電波送信機が壊れて連絡取れなかったの」
「気にしないで。それより重駆逐戦車がいたって聞いたけど」
「えぇ・・・あれは駆逐戦車って呼んで良いのかわからない・・・ラーテ並みの怪物よ・・・」
『怪物』、そう表現した琴羽の手は震えていた。何があったのか、容易に想像出来る。恐怖のあまり話せない琴羽に変わって、安斎千代子が変わりに説明した。
「私たちはエリアC、Dと偵察をしていたんだ。その・・・例の駆逐戦車を見つけたのはエリアDだった。報告をしようとした時に発見されたみたいで1発撃たれて・・・正直かなり危なかった」
千代子の話が終わると、今度は
「俺たちが見た奴は大型の車体で、足回りは千鳥型転輪だった。車体の左右にはサイドスカートがあって、固定型の戦闘室と恐らく15~18センチぐらいの大口径砲を搭載してた。そいつの1発だけでこのこの2輌の軽戦車がひっくり返されるかと思ったぜ」
その説明を聞いたエレキ・シェル小隊のメンバーには疑問が幾つも浮かんだ。聞く限りドイツの戦車であるということは分かる。しかしそれ以外の情報は初めて聞く物ばかりだった。
そもそも大型の車体に15~18センチの主砲を搭載したドイツの駆逐など聞いたことがない。ポルシェティーガーの
「その情報って本当に正しいものなの?私たちはある程度戦車の種類は知ってるけど、そんな情報に該当しそうな戦車は聞いたこと無いよ」
「そうは言っても本当なんだ。俺たちは確かに見た」
「そうだ!他の小隊に連絡して、目撃していないか聞いてみようよ!えっと・・・その歩兵さんがいう情報に一致するものがあるかも!」
美優が思い付いた閃きは曖昧な情報の信憑性を上げるには打ってつけのアイデアだった。メンバーは早速各車の通信機を使って別の小隊に連絡をしてみた。すると、セモヴェンテM41の
「皆さん!ありましたよ、目撃情報!」
その声を聞いてメンバーがM41の前に集まり、
「どうぞ話してください。どういう感じだったか」
「えーっと・・・こちらアメリカ・ヒノマル小隊の歩兵、スコープです。ボンベたちが見たっていう戦車は俺たちも見たよ。ただ遠目だったし、こっちの作戦中に攻撃されたから細かい情報は無いけど」
「構いません。こちらも確認がしたいだけなので」
「・・・分かった。まず目に入ったのは真っ黒に塗装された大型の車体だ。その側面にファイヤーパターンが描かれてた。戦闘室は後ろよりで、足回りは千鳥型転輪、サイドスカートが付いてた。それと大口径砲を搭載していた。数キロ離れていたのにコンクリートの壁を破壊出来る程の高火力だ」
「数キロは離れていた」と言う割には
「俺が知ってるのはこれで全部だ。戦うときは注意した方が良い」
「分かりました。ありがとうございます」
と言って通信手が電源を切ると、メンバーは顔を見合わせた。
しかし琴羽が言っていた「何かに似ている」という情報は分からず仕舞いだった。ドイツの駆逐戦車は既存の戦車を改造している物が殆ど。つまり『何かの戦車に似ている』ということは確かな事だった。
「なぁ。思ったんだが、車体が大型で、戦闘室が後ろよりになってて、サイドスカートを付けた大口径のドイツの駆逐何ていたか?」
「あ!あ!あぁー!!思い出した!!思い出したよ!あれだよ!Eー100!きっとそれだよ!!」
そう叫んだのはポルシェティーガーの
「菊、いくらなんでもEー100ってことはないでしょ。あれは駆逐じゃなくて重戦だよ?」
「それがあるんだよ!Eー100の駆逐設計案が!私全国大会が終わった後にEー100の事を調べたんだ。そしたらあったんだよ!固定戦闘室にして、17㎝砲を搭載する案が!」
Eー100は設計段階で15㎝砲にするか、17㎝砲にするかと言う案があった。前者は回転砲塔、後者は固定式戦闘室にするという計画だったのだ。
「弱りましたね・・・そんな高火力相手にどうやって対抗すべきか・・・」
ルフナが言うように、そんな高火力を持つ戦車相手にどうやって立ち向かうかが一番の問題だ。軽戦車がいるので機動戦を仕掛けるにしても、相手は数キロ離れていても当ててくる優秀な腕を持つ
近付いて叩く前に
「盾があれば、近付けると思うけどなぁ」
『盾があれば』、その言葉を聞いたルフナが何か閃いた。
「そうだ!良い作戦を思い付きました!」
作戦を立てて出発した2個小隊は、敵重駆逐戦車がいるエリアDまで進軍した。そして少し小高い丘に、『ヤークトE-100』と名付けた例の戦車がいた。
その黒い大型の車体が発する独特のオーラが出ている。情報通り、後ろよりの戦闘室に大口径の主砲、改めて見るととてつもない圧迫感を感じた。
「では行きますよ。付いてきてください!」
ルフナの掛け声と共に、2個小隊はゆっくりと前進した。突撃砲のトータスを先頭に、残りの戦車がその後ろを付いていく。文字通りトータスが盾役となっているのだ。
「本当に大丈夫何だろうな!?相手は17㎝砲だぞ!」
「大丈夫です!このトータスの装甲なら弾き返せます!」
そんな事を言っていると、トータスに向かって砲弾が撃ち込まれた!後ろにいた戦車たちにその威力を見せつけるように衝撃波が伝わった。その衝撃で一瞬通信が切れたが、すぐに復活した。
「・・・・・皆さん!トータスは何とか耐えました!前進してください!」
ルフナの指示を聞いた
「よーし展開だ!一気に距離を詰めて敵を叩くぞ!」
指示に合わせて後ろに控えていた軽戦車隊が歩兵を乗せて前進する。近付くと歩兵が展開し、敵を翻弄するために機銃を撃ち始めた。
軽戦車2輌も上手く展開して攻撃しているが、手応えはあまり感じない。更に敵が動きが鈍いトータスを狙い始めた!
「まずい!トータスがやられるぞ!」
「機銃掃射を止めて!敵の目を潰すわ!」
全速力で迫るルクスから琴羽が上半身を乗り出し、手には何かを持っている。目の前まで来ると手に持っている物を投げ付けると、白い煙が立ち上った。
発煙筒が上手く車体の上に乗ったようだ。そのタイミングで駆逐が射撃したが、砲弾はトータスの側面を掠めて飛んでいった。
「このまま接近して仕留めましょう!中嶋さんお願いします!」
「オッケー!いっくよぉ!」
ポルシェティーガーは例の加速装置、
ほぼモーターの強制加速で走っているので戦車とは思えない音が響いている。そしてエンジンからは強制的にエンジン、モーターを冷却しているので湯気が上がりながら走っているという異常な光景だった。美優はこの連続運転が出来る間に後ろに回り込むように指示していた。
「良い!?今の内に後ろに回り込むよ!あいつは後方の装甲が薄いはずだから、後ろから攻撃すれば・・」
後ろに回り込むことを予想していたのか、ヤークトEー100は高速で迫っていたポルシェティーガーを至近距離で吹き飛ばした!
進んでいた方向と少しずれる形で停車している。幸いひっくり返ることは無かったが、動く気配がない。
「みんな!大丈夫か!?」
「・・・・・私たちは大丈夫!」
「大丈夫じゃない!今の衝撃でモーターの回路がやられたわ!」
ハルがレバーを動かしながら叫んだ。至近距離で衝撃を受けた影響か、操縦レバーを前後に動かしても応答しないのだ。
動けないと察したのか、ヤークトEー100がポルシェティーガーに砲身を向けた!
「マズい!奴がポルシェを狙ってる!敵の目標をこっちに向けるぞ!」
ヤークトE-100はポルシェティーガーから目を離そうとしない。機銃しか撃ってこないので撃破されるはずがないと思っているのだろう。
今残っている武器は機銃しかないので撃破は愚か傷を入れることすら出来ない。
ポルシェティーガーは助けられないと誰もが思ったその時、ヤークトE-100の履帯が切断され、砲口の向きが変わってしまった。
「皆さん何をしているんですか!今がチャンスですよ!」
振り返るといつの間にかトータスが回り込んでいて履帯に向かって1発撃ち込んだようだ。ルフナの声を聞いて我に返った千代子が声を上げた。
「そ、そうだ!今がチャンスだ!今の内に相手の履帯を切るんだ!」
その指示を聞いた
「よーし!やられた分きっちりやり返すわよ!」
ポルシェティーガーはヤークトE-100の真横まで前進し、横に付いて至近距離でエンジン部を撃ち抜き、火災を発生させたが完全撃破とはならなかった。
まだ攻撃するつもりだったらしいが、最後はトータスが車体下部を撃ち抜いてエンジンを完全に破壊。白旗を掲げて完全撃破となった。
「やったぁー!ドイツの怪物を倒したぞ!」
「おい!今すぐエリアCの倉庫に来てくれ!全員だ!」
何故か慌てている
「エリアCの倉庫?何かあったの?」
「あいつ・・・えっと種子島か!?あいつに関係しているものだ!」
『種島に関係しているもの』とは一体何なのか想像出来ないが、何かとんでもないものに違いないと感じた一行は、すぐに行くと返事を返し、エリアCに向かった。
「今回も最後まで読んでくれてありがとう!ポルシェティーガーの中嶋美優と、」
「トータスのルフナです。今回は厳しい戦いになりましたね」
「本当にね。でもトータスの正面装甲で17㎝砲を弾き返したのは凄かったね!」
「ギリギリの賭けでしたけどね。でもその後のラハティさんたちの活躍のお陰で、私たちは全滅せずに済んだんですよ」
「確かにそれもそうね。それにしてもメディックが見つけた物って一体何なんだろ」
「それは次回の時に分かりますよ。最後に、感想、評価を宜しくお願いします。ではまた次回」