旭日機甲旅団は、大洗戦車道科のメンバーと対面することになる。しかし、大洗側は不安でしかない。その一方で、宗谷にはある疑問が浮かんでいた。
それは、かほの『戦車道嫌い』だ。 彼女に聞いても、結局何も分からずじまいで終わってしまった。そしてその翌日、角谷から『戦車道の練習試合をする』と告げられる。旭日にとって、初めての試合だった。
練習試合当日、今日は朝から外で戦車道の授業だ。普段は通常授業を受けてからなので、大抵は午後からなのだ。しかし、今回は練習試合なので、朝から戦車道の授業だ。もうすぐ試合は始まるのだが・・・・・
「もう!七海はまだなの!?」
栞は怒っていた、操縦という1番重要な役割を担当している七海がまだ来ていないからだ。母の麻子に似て、貧血で朝にも弱いので遅刻することは珍しいことではない。と言っても麻子は今でも朝に弱い、そんな感じなので毎朝沙織がモーニングコールをしている。
だが今日は麻子は朝早くに来て準備をしていたので、七海がまだ起きていないだけなのだろう。栞が電話をかけると寝ぼけた声が聞こえてきた。
〔・・・もしもし〕
「何やってんの!もうすぐ試合始まるよ!早く起きてきてよ!」
〔眠い・・・今日は栞がやって・・・・・〕
「出来るわけないでしょ!早く起きてきて!!」
〔・・・・・無理・・・・・〕
そんなやりとりを見ていた宗谷が栞の携帯を借りて七海にこう言った。
「おーい、早く起きてこいよ」
〔栞にも言った・・・無理・・・・・〕
「早く起きないと、幽霊が押し入れから出てくるぞ」
〔『ガタ!!ガタガタガタ!!!』〕
電話からでも分かる程の慌てている。何があったのかは知らないが幽霊は大嫌いのようだ。
〔今起きた・・・すぐ行く・・・・・〕
「おう、早くこいよ。早くしないと幽霊ついてくるぞ」
〔よ、余計な事を言うな!!〕
プツっと電話が切れ、宗谷は栞に電話を返した。
「すぐに来るってさ」
「そ、そう。すごいね、あの七海をどうやって起こしたの?」
「幽霊が出るって言ったらバタバタと準備を始めたよ」
「へぇ、七海が幽霊苦手なの知ってたの?」
(あ、ヤッベ・・・まだ互いのことは知らないはずなのに・・・・・)
この間かほたち5人から隠れたときに七海が幽霊に関して苦手そうにしていたのを聞いていたのだ。そしてその事に関しては誰も知らないのだ、この間すれ違った後に隠れて聞いたとは流石に言えない。
「女子って幽霊が苦手そうだなぁと思ってさ、言ったらあの状態になったからビンゴだったよ」
何とか誤魔化せた。とりあえずはバレていない、だろうと思う。それから10分後、七海も到着し準備は出来た。いよいよ試合が始まる、宗谷たち旭日にとっては初試合だ。
基本的なルールは殲滅戦とフラッグ戦の2つに別れる。殲滅戦は相手のチームの戦車を全滅させた方が勝ち、フラッグ戦は相手チームのフラッグ車を倒した方が勝ちというルールだ。今回のルールは殲滅戦なのだが少し内容を変更し、1輌だけ残った戦車が勝ちということにした。
戦車同士で撃ち合うのだが安全性確保のために『安全弾』を載せている。ただチリの75ミリ砲に合う安全弾が無かったので、仕方なく自作の弾を搭載している。
整備担当の中嶋は安全であることを証明したが、河嶋は危険だと言い張った。だがこれしかないので角谷は今回だけという条件で使用を許可した。
完全に貫通するわけではないので安全なのだが自作なので全弾が安全とは限らない。結局、150発あった砲弾のうち、絶対に安全だと証明出来た弾はたったの30発だけだった。
これではハンデがありすぎると角谷は言ったのだが宗谷はこれぐらいが丁度良いと言って試合をすることにした。
だが福田たち5人は30発だけというハンデは心配になってきた。本来なら202発(主砲100発、副砲102発計202発)は搭載可能だというのに半分にも満たない数でいけるのか心配なのだ。
おまけに30発と言っても全体での数なので、正確に言うと主砲、副砲共に15発ずつしかないということなのだ。最終確認をしていると岩山が弾の数を見ながら呆然としていた。
「おい宗谷。大丈夫なのかよ、たったの30発なんてさ・・・」
「うん?大丈夫だろ?」
「大丈夫な訳ねぇだろ、重砲科の時でも通常の半分以下でやれなんて言われたことねぇぞ」
「大丈夫だって、相手は8輌だから2発ぐらいで仕留める感じで行けば大丈夫だろ」
「2発・・・・・結構キツいぞ」
「そこは腕の見せ所だろ、俺も何とか当てられるように頑張って指示するからさ」
そう言われても不安なものは不安だ。射撃には自信があるが、初試合でまさかのハンデを受けるはめになるとは思ってもいなかったことだ。まあ、何とかなるだろうと思い直し、準備を続けるのであった。
その一方で4号に乗るかほたちも準備を進めていた。かほが確認をしている。
「かほちゃん、通信機も照準器もオッケーだよ」
「ありがとう武部さん、じゃあ後は試合をするだけだね」
「うん、それよりもさ、あの旭日のメンバーと試合するなんて楽しみだよね」
「う、うん・・・・・そうだね」
「あれ、ノリ悪いね。どうしたの?」
「えっ?そんなことないよ」
「じゃあ全員集合ー!ルール説明するよー!」
角谷が全員を集め、最終確認をしたのちに激励の言葉を送った。
「よーし、じゃあみんな頑張ってね。今回は新メンバーの旭日の6人とチリが加わってるけど、手加減なしでバンバン行ってあげてね」
「「「「「「「「はい!!」」」」」」」
「よーし、じゃあ行ってこーい!!」
送り出すかのように良い放つ角谷。これは戦車に搭乗してという合図なのだ。宗谷たちは何が起こったのか分からず、出遅れてしまったがすぐにチリに向かった。角谷は通信機を使い、全車に通信をする。
「じゃあ全車配置に着いたら試合始めるからねー・・・ん?」
角谷が視線を変えるとチリはまだ出発していなかった。それどころかまだ搭乗していなかった。
「鉄帽!」
「「「「「よし!」」」」」
「戦闘服、戦闘靴!」
「「「「「よし!」」」」」
宗谷たちがやっているのは搭乗前の装備確認で、お互いに確認をしているのだ。近衛の時では当たり前のようにやっていたのだ。
「装備確認よし!全員搭乗!!」
この指示でようやく戦車に搭乗し始めた。宗谷はまだ乗らずに外から状態を見ている。
「燃料、弾薬よし!エンジン始動!!」
燃料、弾薬を確認した福田がエンジンを掛ける。
「エンジン始動よし!砲搭旋回!!」
「砲搭旋回!旋回異常なし!照準器異常なし!」
岩山が砲搭の旋回状態と照準器を確認し、宗谷に報告をする。その後は水谷と北沢が副砲と通信機の確認をする。
「副砲、通信機問題なし・・」
「早く行けぇーーー!!!!」
河嶋に怒鳴られ宗谷は慌てて搭乗した。
「確認終わってないけどこのまま行くぞ!スポット339に急行!」
全速力でチリが走っていく所を見ながら角谷が河嶋に話しかけた。
「何も怒鳴らなくてもよかったんじゃないの?」
「何やってたんですかあいつら、さっきから『鉄帽よし』とか『戦闘服よし』とか言ってましたけど」
「確認とか?というよりそれしかなくない?」
「それにしても乗り込むだけに時間かけすぎですよ、ただでさえ時間無いのに確認とかされても困ります。」
「まぁまぁ。元近衛だってこともあるんだし、それに確認することは悪いことじゃないんだからさ」
4分後、チリがポイントに着いた。角谷が画面で確認し、全車に通信した。
〔よーし全車ポイントに着いたね。今回の試合内容は分かっていると思うけど『殲滅戦』ね。1輌残った戦車が勝ちだから、頑張ってねー〕
角谷からの通信が終わると、河嶋が号令をかけた。
〔戦車道は礼で始まり、礼で終わる。一同、礼!!〕
「「「「「「「宜しくお願いします!!」」」」」」」
全員が一斉に礼をする。お互いに相手同士は見えないのだが武道としての嗜みなので、礼をして礼で終わるのは当たり前のことだ。とりあえず宗谷たちも礼をし、試合が始まった。
全車が一斉に動き出した。宗谷は地図を見ながら地形の把握をしている、この時点ではまだチリは動いていない。
「なあ宗谷、そろそろ動こうぜ。このままボーッとしてたら見つかるぞ」
「あー、そうだな。じゃあスポット106に移動しよう、そこなら茂みがあるから隠れるはずだから」
「了解、スポット106に移動開始!」
チリがゆっくりと動き出した。目標はスポット106、ここから約1キロ前後の距離なのでうまくいけば見つからずに済むはずだ。エンジン音を響かせないようにゆっくりと進んでいく、かなり遅いが見つかってしまうよりはマシだ。
一方、チリの現在地から5キロ程先にいる大洗のメンバーは、どうやってチリを仕留めるかを検討しているところだった。現在のヘッツァーの車長は角谷の娘の
話は戻るが、穂香はチリのデータを見て、弱点を探していた。チリの弱点としては後ろのエンジンルーム、後はどの戦車でもある弱点は履帯だろう。ただその一方でかなりの最新技術を詰め込んでいる、電動モーターで回転する砲搭、半自動装填装置に自動変速機を搭載している。
動きはかなり素早いだろう、だがあくまでも平地での見解だ。今いる試合開場は山と森、重量が35トンあるチリが森の中を素早く動けるとは思えない。
考えながら導きだした答えは、機動性が良い89中戦とヘッツァーをチリに近づけて注意を引き、隙をついてポルシェティーガーの88ミリ砲で留めを、という作戦でいこうと思った。上手くいけばこの3輌でいけなくは無いが失敗した場合は返り討ちに遭うだろう。
その場合も想定してある程度の戦力は残さなければと考え、全車に近くに来るように通信しておいた。だが4号に通信すると意外な答えが返ってきた。
〔すみません、私たちは別行動を取らせてください〕
「えっ・・・?別行動すんの?それはちょっと困るかなぁ、せめて纏まって動きたいからさ」
〔お願いします、迷惑はかけませんから〕
「分かった、まあ隊長車の担当はあなただからね、私からはどうこう言わないよ。気を付けてね」
通信を終えるとチリを探し始めた。図体はでかいので落ち着いて探せばあっという間に見つかるだろうと思っていた。
一方、チリはスポット106に向かっている途中だった。予定のスポットまであと2~3メートルと言ったところだろう、だが油断は出来ない。
何故ならチリが走っている先の道には戦車が通ったであろう履帯の跡が残っているからだ。つまり、この先に相手がいるかもしれないと警戒しているのだ。
だが跡は途中で途切れていた、道を外れて茂みに入ったのだろうと思い、そのまま前進した。宗谷は砲搭から上半身を出し、双眼鏡で周りを確認していた。今のところは誰もいない、そう思っていた時。
「福田、右旋回」
突然旋回するように指示を出した。
「え?相手はいなさそうだぜ?」
「左方向に戦車の砲搭が見えた、多分射程外のはずだから撃たれても大丈夫だ。気付いていない様に見せないといけないから、ゆっくり旋回しろ」
宗谷の指示通りに右に旋回し、茂みの中を進んでいった。その後、180度旋回した後にまた道の近くに戻ってきた。相手に見られてはまずいので、茂みで隠れられる程度に前に出て停止し、エンジンを切った。
宗谷は砲搭の中に入り、主砲の照準器で戦車を見た。こうする方が相手に見られていると思わせなくて済むのからだ。
「あー、89中戦だな。砲搭がリベット接合されていたからまさかと思ったけど」
「どうするよ、こっからなら主砲でいけるぞ」
「相手の出方を待とう、もしかしたら味方に通信してここにいるって伝えているかもしれないからな。慌てさせたら一気に攻められるぜ」
宗谷の読みはどんぴしゃだった。89中戦の車長兼装填手、
「角谷さん、スポット106にチリを発見しました。作戦いきますか?」
〔お、見つけた?じゃあそっちに行くからチリから目を離さないでね〕
「了解です、万が一の場合はこっちからアタック(攻撃と言っているつもり)かけます!」
〔アタックはちょっと待ってね、すぐ行くから〕
通信を終えると4人で作戦を立て始めた。搭乗員は汰恵に続いて、砲手の
砲手のあけみは照準器を覗きながらチリを探していた、チリは茂みに隠れているので見えないのだ。
「汰恵さん、チリは近くにいなさそうですよ」
「むぅー、ブロック(防御と言っているつもり)に入っているのかもしれないね。キャプテンは待ってろって言ってたけど、見つけるのは良いよね。よーし、探しに行こう!!前進!!」
89中戦のエンジンがかかった、宗谷が砲搭から頭を出して様子を見た。89中戦が真っ直ぐ迫ってきている。
「お?89中戦の方が動き出したぞ。バレたかな?」
宗谷は余裕の表情を見せているが福田は慌てている。
「え!?エンジン切ってるからすぐに動けないぞ!!」
「まあ落ち着けよ、89中戦の砲弾が直撃しても大丈夫だからさ。岩山、照準を89中戦に合わせろ。ただし、目標は車体の下部な」
「了解、道に出た瞬間を撃ってやる」
岩山が照準器に目を当てた、照準は89中戦を捉えている。
「よーく見えるぜ。柳川、砲弾装填してくれ」
「もうやってるよ。」
柳川が半自動装填装置を動かし砲弾を装填している。今のところ、問題は無さそうだ。
「装填完了、これスゲー便利だな」
「よーし、行くぜー」
岩山が照準器を覗き、トリガーに指を掛ける。その時、89中戦が道に出た!
「
『ズバーン!!』と音が鳴り、89中戦に砲弾が跳ぶ!だが弾は木に当たってしまった。
「あっちゃーしくじった」
「大丈夫、大丈夫。まだ副砲があるから」
89中戦では突然の砲撃に何が起こったのかが分からず困惑していた。
「え?え?何!?何!?何今の!?」
「何か来ましたよ!何か来ましたよ!!!」
「ど、どうします!?撃ちますか!?逃げますか!?」
「そ、それとも通信しますか!?」
89中戦が全く動かない所を見ながら水谷は副砲の照準を合わせる。
「何で動かないのか分からないけど、初めての対戦車射撃には丁度良いぜ」
『ズバーン!』、副砲が火を噴き、弾は見事に89中戦の車体に命中した。車輌が行動不能になると白旗が上がる仕組みになっている。
水谷は89中戦から煙ではなく白旗が上がっていることに焦っていた、何かとんでもないことでもやらかしたのかと思っているのだ。
「え・・・?白旗?おい白旗が上がったぞ!?何かやらかしたのか!?」
「落ち着け、『降参』って意味だよ。何かやったとかじゃねぇから安心しろ」
水谷はほっと胸を撫で下ろした。
「ほっとするのは後にしろよ、後ろから追っ手が来るぜ」
耳をすませると後ろから戦車が走行する音がしてきた。宗谷は音で何輌来ているのかを把握している。
「1、2・・・6輌か。その内の1輌は電動モーターの音がしているからポルシェティーガーだな」
「えー、88ミリが来てるのかよ。あんなの喰らったら終わりだぜ」
「とにかく逃げるぞ、エンジン始動!!」
福田がチリのエンジンをかけ、逃亡を開始した。
本部では画面を見ながら戦車たちの動きを見ていた。杏はチリの砲撃を見直していた。
「狙いは悪くないねぇ、これなら戦車道に出ても問題無さそうだなぁ」
みほもチリの様子を伺っていた、まだ移動と射撃しか見ていないが戦車を操ることに関する能力は十分にあると感じていた。移動経路の選択も良かったし、射撃の腕は満更ではない。
他の指導員たちもチリの動きには関心していた、始めての試合とは思えない程いい動きをしているからだ。麻子は操縦技術を見ている、木々をすり抜けはかなり上手い。
木と木をギリギリですり抜けているのだ、車体の大きさを把握していないと木に車体をぶつけてしまったりこすってしまい、速度の低下に繋がる。麻子はついポツリと言った。
「上手い・・・」
褒めている麻子を見ながら沙織が話しかける。
「麻子が褒めるなんて珍しいね。七海ちゃんのことを褒めたことないのに」
「た、たまたまだ」
「でも、麻子が褒めるのも分かるかも。結構早いし、ギリギリを攻めるのも上手だよね。」
杏が2人の会話に入った。
「でも、逃げてばっかりだね。敵前逃亡って訳じゃないだろうけど、反撃する様子もないし、これじゃあ勝てないね」
チリでは何とか逃げることに必死だった、狭い木々をすり抜けながら走行するのは大変だ。だが木が遮蔽物になってくれるはずなので弾が当たることはないだろうと宗谷は思っていた。
「福田、もうちょい速度上げれないか?」
「無理だ、木が邪魔で速度が上げれない。それより後ろからの砲撃は大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫。木が盾になってくれるはずだから心配することはな・・・」
宗谷が言いかけた直後にチリが走行している近くの木に弾が当たった!
「・・・ん?」
「おい、何が大丈夫だって?」
「・・・前言撤回!ジグザグ走行で弾を避けながら走れ!!」
「とっくにやってる、ここで負けるのはゴメンだぜ。」
チリを射撃しながら追いかけている6輌は少しずつ狙いを定め始めていた。宗谷が思っている以上に射撃の腕はありそうだ。
穂香は作戦を実行する前に改めて全車に確認を取っている。89中戦がやられてしまったことと、攻撃を仕掛けるには分が悪いので作戦を変更していた。
「良い?
〔は、はい!頑張ります!〕
「よーし、行くよ!!」
ヘッツァーとM3が速度を上げてチリに近付いていく、宗谷は2輌が迫ってくる所を見ていた。
「ヘッツァーとM3が来るぞ、砲撃に警戒」
するとM3が左に旋回し、ヘッツァーが右に旋回した。挟み撃ちにでもしようとしているのかと思っていると前に出てきた、そして速度を落とし始めた。
「おいおい、何しようとしてんだ?」
福田が疑問を持っていると宗谷が後ろを見た、ポルシェティーガーが砲を構えている!
「福田!左旋回!!!」
宗谷の指示に福田はすぐに反応し、左に旋回した。旋回したと同時にポルシェティーガーから砲撃が!!砲弾は前を走っていた2輌に当たらず木に当たった。梅は思わず叫んだ。
〔何やってんの!!私たちを狙ってどうするんだ!!〕
「すみません!急に旋回したので狙えませんでした!」
チリでは何とか砲弾を避けきることが出来たのでほっとしていた。
「ひゃーあぶねぇ。ドイツの88ミリは威力抜群だな。」
「とにかく、このまま真っ直ぐ突っ走れ!もうすぐ拓けて来るはずだ」
そういうとすぐに森を抜けた。
「よし、こっからは俺たちのターンだ。ここまで散々やられたが、これから反撃できるぜ!」
大洗チームの6輌が森から出てきた。穂香は散開して攻撃を仕掛けようと考案し、全車がバラバラになった。宗谷が様子を見ながら作戦を伝える。
「大洗チームが散開した、砲弾が少ないから1輌ずつ確実に仕留めろ。福田、まずは3突からいくぞ」
「了解。岩山、右側面を攻めるぞ」
「オッケー、頼むぜ副隊長」
「行くぞ!全速前進!目標、3突!!」
チリがエンジンの轟音を響かせて3突に向かっていく!3突からは砲弾が飛んできたがチリは華麗に避ける。
「行くぞ!準備しろ!!」
福田が更にアクセルを踏み込み速度を上げる!そして急ブレーキをかけて車体を横に滑らせる、主砲の照準器が3突の側面を捉える!!
「撃ーー!!!」
『ズバーン!!』と轟音を立て主砲が火を噴く!ほぼ零距離で3突の側面を撃ち抜いた!チリは車体を1回転させて態勢を立て直した。3突のメンバーは何が起こったのか分からず、呆然としていた。
「い、一体何が起こった?」
「わ、分からない。迫ってきたかと思ったら、姿が消えた・・・」
「攻撃が・・・追い付かなかったぜよ」
「奴ら、何者なんだ?」
突然チリが横滑りしたと思えば今度は横から1発で撃ち抜かれたのだ。呆然とするのも無理はない。だがチリは止まらず、速度は一切落とさない。速度を維持しつつ今度はM3に照準を合わせる。
「ちょっと!こっちに来るよ!」
「撃て!撃てー!」
M3から砲撃が来たが当たらなかった。チリの速度は最高で45キロは出せる、その高速を活かしてM3の真後ろを取り、副砲の零距離射撃でエンジンを撃ち抜こうと言う作戦だ。
チリは速度を維持しつつM3の背後を取ろうとした、がポルシェティーガーが1発砲撃をしてきたので一旦下がることに。M3のあいかはポルシェティーガーの車長の
「中嶋さん、ありがとうございます。助かりました」
〔ドンマイ、ドンマイ。でもまだ終わってないよ〕
チリはM3を後回しにし、先にポルシェティーガーを倒そうと近付いていく。美優はチリに狙いを定めるように指示し、砲撃を開始したが弾は当たらない。
チリの動きは素早い、ポルシェティーガーの砲弾はかなり重いので装填には一番時間がかかる。宗谷の作戦は的中している、福田はあっさりと後ろに回り込み、主砲の零距離でポルシェティーガーを仕留めた。
「よし、あと4輌だ!このままの勢いで行くぞ!」
宗谷は次にB1bisを仕留めるように指示した。パッと見は強そうに見えないが防御力はポルシェティーガーに次ぐ強さだ。先に防御力が強いB1bisを仕留め、次に3式中戦、M3、ヘッツァーの順で仕留めていくという作戦を立てた。
砲弾数も少ないので確実に倒していくしかない。おまけに副砲では仕留めきれない戦車もあるので無駄には出来ない。
「砲弾も減ってきた。B1と3式は主砲で、ヘッツァーとM3は副砲で確実に仕留めろ。失敗は出来ないぞ!」
「任せろ隊長!確実に仕留めてやるぜ!」
「5秒後にB1の横に着くぞ!主砲射撃用意!!」
福田が指示をし、チリをB1の横に着かせようとしたが周りからの弾幕が厚く、中々撃てない。そこで宗谷は2輌まとめて撃破しようと考えたのだ。
「岩山、水谷、1輌ずつじゃこっちが撃破されるリスクが高い。2輌一気に撃破して、数を減らすぞ!」
「「了解!!」」
「福田!速度を維持、2輌が並走しているところを狙うぞ!」
「了解、かなり遠心力がかかるからしっかり掴まってろ!」
チリはアクセル全開で弾幕を避けつつ、戦車が2輌並ぶタイミングを伺う。するとヘッツァーとB1が並走を始めた、福田はすかさず突っ込んでいく!梅は慌てて照準を合わせる。
「え!?何!?突っ込んで来ますよ!」
「お!やる気だねぇ。いいよ、受けて立つよー!!園、準備は良い?」
〔は!?待ってください!まだ心の準備が・・・〕
「撃てぇーー!!!」
穂香が叫び、2輌の戦車が砲撃を始めたがチリはお構い無しに突っ込んでくる。
「ヤバい、避けろー!!」
穂香はこのままでは何も変わらないと判断し、チリを避けて態勢を取り直そう考え、避けることにした。チリは側面を通りすぎると同時に急旋回して2輌の後ろを捉える。
「岩山!水谷!今だーー!!!」
チリから2発の砲弾が撃ち出され、2輌に向かって飛んでいく!弾は見事にエンジンを撃ち抜き、残りは2輌になった。後は3式中戦とM3だ。
「よし、残り2輌だ。とにかく落ち着いて撃破していくぞ、まずは3式中戦、最後にM3の順で行くぞ。とりあえず零距離射撃だ!!」
チリは3式中戦にあっさりと近付き、すぐに撃破した。そしてM3に照準を合わせたが・・・
「こっち向いたー!!」
「どうしよう、どうしよう!!」
「と、とりあえず退却ー!!!」
M3から搭乗員が全員逃げ出してしまった。宗谷は何故逃げ出したのか理解が出来なかった。
「あれ?どうしたんだ?エンジントラブルか?」
「そんな感じは無さそうだったけど、何か逃げ出したって感じだが」
「でもこれで終わりか?」
そう思っている宗谷に本部から通信が入る。
〔君ら凄いね、でもまだアンコウが残っているから頑張ってね〕
「え?あ、忘れてた。おい、捜索始めるぞ」
「まだ残ってたのかよ。まあいいや」
「まずは、スポット427に行くか。その辺はまだ走ってないから、いるとすれば多分そこだろ」
早速スポット427に動いたが、戦車が走った跡は無く、隅々まで走ったが何も無かった。その後もひたすら4号を探したが見つけられなかった。30分経っても見つけられず、森の中を走り、山道を走って頂上まで登ったが成果は無かった。
試合終了まで後20分、この残り時間では別のポイントに移動しても、移動だけで終わるだろう。そう思った宗谷は山を下りながら探そうと思い、福田たちにもこのままゆっくり下りながら探すと言い、さっきの素早さとは裏腹に普通に歩く程度の早さで下り始めた。
宗谷は砲搭から上半身を出し、双眼鏡で周りを見渡している。周りは木と茂みばかりで戦車らしいものはどこにもない。
このままで終わるのだろうか、そう思っていた。下り始めて5分が経ったが4号らしき影は無く、福田は半分諦めていた。
「なあ宗谷、4号何処にもいねぇぞ。リタイアしたとかじゃないのか?」
「だとしたらとっくに知らせが来るだろう。今のところ何も変化ないし、上手く隠れているのかもしれない」
その読みは的中だった、チリはとっくに4号の前を通り過ぎていたのだ。かほは出方を伺っていたがチリの後ろが取れれば隠れる必要はない。
「前進!!」
指示と同時に4号のエンジンがかかる、宗谷はエンジン音を聞くなり周りを見たが何処なのか分からず、辺りを見渡していると4号が後ろから走って来ている!
「やべ!後ろに付かれた!!福田、飛ばせ!!」
「え!?後ろ!?くそ、掴まってろ!!」
福田はアクセルを『バン!』と音を立てて踏みつけ、急加速する、4号も負けじと追いかける。山道は狭いうえに下り坂になっている、チリの最高速度は約45キロ、4号は約38キロ、7キロ程差はあるはずだが下り坂では速度の差は広がらない。
スピードメーターはあっという間に60キロを越えた。それでも差は広がること無く、4号は後ろを捉えている。藍は射撃しようと照準を合わせようとするが車体がガタガタと揺れて照準がぶれ、狙うことが出来ない。
「七海さん、揺れが激しくて上手く狙えません。もう少し速度を落とせませんか?」
「速度落としたら逃げられる、これでなんとか狙って」
「えぇ~、厳しいですよ~」
ただでさえ揺れが激しく、照準器がブレブレの状態なのにこれで射撃するのは困難だ。それでもチャンスは今しかない、チリにとっては逃げ場が無い状態だ。
素早く動くチリを相手するのは厄介だ、撃破するなら逃げ場が無い今しかない。藍はどうにか狙いを定め、1発射撃してみることにした。
「かほさん、1発撃ってみますね」
「了解、頑張って」
藍はチリのエンジンに向けて射撃をした。砲弾はチリの砲搭をかすめ、木に当たってしまった。でもこれである程度の感触を掴めることが出来たので次は絶対に当てようと狙いを定め直す。
宗谷は次の射撃は絶対に当たると確信し、柳川と一緒に※ガンポートから機銃を出して牽制しようと考えた。
「柳川、機銃持て!ガンポートから射撃するぞ!」
「別に構わないが、これ7.7ミリ機銃だから撃っても何も変わらねぇぞ」
「ただの牽制だから車体とかにパラパラと当てりゃいいよ。機銃弾ならいくらでも使えるからな」
藍が狙いを定めた。後は命中させれば良い、そう思っていた矢先、砲搭の横から機銃が2丁出てきた。何をするのかと思っているといきなり機銃弾が4号を目掛けて飛んできた!
「きゃっ!かほさん、チリが機銃掃射してます!」
「お、落ち着いて。機銃だから心配いらないよ」
柳川は機銃を撃ちながら宗谷に話しかける。
「おい宗谷!4号からの砲撃は止まったぞ!もう撃たなくてもいいだろ!?」
「まだだ!しばらくこのままで行くぞ!」
「マジかよ!これ地味に重いからキツいんだよ!!」
「山道を抜けるぞ!」
福田がそう言った時、チリと4号は山道を抜け、広い所へ出た。ここは木がないので射撃には打ってつけだ、地面もガタガタではなくなったので照準も余裕で合わせられる。
「母から教わったように、慎重に・・・」
藍はチリに照準を合わせ、射撃を続行する。チリは右へ左へと弾を避けるがいい加減こっちも反撃しなければやられてしまう。宗谷は一瞬だけ180度旋回するように福田に指示を送る。
「福田、一瞬だけ180度旋回出来るか?」
「出来るけど危険な賭けだぞ、上手くいかなかったら次のチャンスはないぜ」
「少しばかり賭けても損はないさ。岩山、何をするかは分かるな?賭けに乗るか?」
「いいぜ、その賭け乗ってやる!」
「よし、すぐにやるぞ、準備しろ!」
福田は左右に障害物が無いことを確認し、速度を上げる。七海もチリの加速に合わせて追いかける、4号からの射撃は止むことはなく続いている。
試合終了まで後5分、これで終わるだろうと誰もが思っていた矢先、チリが急ブレーキをかけて車体がぐるんと回り出した!同時に砲口が4号を捉える!!
「いっけー!!」
岩山がトリガーを引き、砲弾が飛び出す!狙いは完璧だったが4号はとっさに避けたので右側面の※シュルツェンを飛ばしただけで終わってしまった。チリはそのまま回転し続けて、元の状態で態勢を立て直した。
「すまん、しくじった」
「仕方ないな、この技成功する確率極端に低いし。失敗しても仕方ないよ」
本部にいる杏はさっきの動きが凄すぎて唖然としていた。1回転する内に射撃をして態勢を立て直すなんてやったことが無い。
ましてやこの技を実戦した学校もない、ただ逃げているだけと思っていたので、いきなりこんな物を見せられては固まってしまうのも無理はない。
宗谷は時計を見た。もう時間が無いので、方向転換して4号に2発おみまいしてやろうと考えた。岩山と水谷に射撃の用意をするように指示し、2人は準備に入った。福田が車体を半回転させて正面を4号に向けた。
「砲弾よし!照準よし!」
「撃てーーー!!」
チリから2発の砲弾が飛んできた。七海は左に旋回して弾を避け、藍が射撃を敢行した。しかしこれも当たらず、チリが4号を捉えたその時だ。
〔そこまで!今回は引き分け!!〕
桃の声が試合会場に響いた、かなり接戦だったが勝敗は決まらなかった。
〔お疲れさん、じゃあ戻っておいでー〕
杏からの通信が入り、チリと4号は本部である学校に戻っていった。福田たちは疲れきっていた。
「あー疲れたー、誰か操縦変わってくれよ」
「俺は腕が疲れたよ、機銃持ち続けるのは辛いなぁ」
「まあ、とにもかくにも全員ご苦労だったな。初試合としては上々だったぞ」
「あったりめーだろ、これぐらい余裕だぜ」
4号では4人がチリとの戦いを振り返っていた。
「いくらなんでもずるいです。戦車砲じゃなくて機銃で対抗するなんて」
「でもさっきの回転射撃は凄かったですよ!私たちでも出来たらなぁ」
「無理だろ・・・あんなの出来るほどの腕はないし、危なそうだからやりたくない」
「えー、やりましょうよー」
「やだよー、あんなことやって横転したら大変じゃん」
「でも出来たら格好いいですよー」
かほは4人のやり取りを静かに見ていた。
(・・・・・やっぱり、只者じゃなかった。彼らは戦車道に出たことは無いって言ってたけど、戦車同士の戦いには長けてる・・・彼なら、
※解説
ガンポート
対歩兵用の機銃を出すための穴のこと。チリには砲搭の左右の側面に1つずつ付いている。現在でも自衛隊の車両に使われている。
シュルツェン
ドイツの戦車に見られるもので、通称『追加装甲板』と言われる。4号G型などに施されており、足りない防御力を補うために後付けされたものである。