合同チームが潜んでいるエリアCの倉庫に、ホハがたった1台だけで出現し、ホハの操縦手である
宗谷はかほたちにこれ以上迷惑を掛けたくないという思いから、たった1輌で敵隊長であるレーヴェを狙っていた。例え相討ちになったとしても仕留めるつもりだと話した。
話を聞いた
種島の一件は解決出来ていないという意見があったが、かほは「今は戦闘を優先すべき」、と全員に言い聞かせた。
エリアD、倉庫。
東京パンツァーカレッジの生徒たちは、各車それぞれの修復作業をしていた。その間、室内は言葉では言い表せない緊張感が漂っていた。
その源は種島だった。敵からの猛反撃を受けたことで15輌撃破、1輌相討ちという大損害を被ったからだ。それだけでなく味方のT26E1ー1が奪われるという事態が発生し、種島の苛立ちは頂点に達していたが、今はじっと地図を見ながら反撃する手段を黙考している。
これまでの試合は、敵を追い詰めてからの殲滅はとても簡単だったのに・・・この試合は何かが違う。いや、今は運が付いてないだけ。こちら側が優勢なのだから、数や火力、装甲に物を言わせて殲滅すれば良い。まだ勝機はあるのだ。
「種島隊長。よろしいですか?」
レーヴェの操縦手、風見が種島に敬礼をしながら話し掛けた。
東京パンツァーカレッジの2年生で、高い操縦技術を買われて隊長車の操縦手という立場にいる。
種島が立案する作戦には納得しかねる場面もあったが、勝利のためならそれもやむ無しなのだろうと納得している。
顔には飛び散ったオイルが付着して真っ黒になっているが気にしていない。この作業で汚れてしまうことをいちいち気にしている暇はないのだ。種島は視線を地図から離さずに返事を返した。
「ええ。何か用かしら」
「レーヴェの修理が終わりそうなので報告に。後10分程で移動が出来ます」
「そう。終わったら教えて頂戴。指示を出すから」
「分かりました」
風見はそう答えると、修理中のレーヴェに戻った。これ以上報告することもないし、早く作業を終えてしまいたかったのだ。
レーヴェは敵の歩兵が仕掛けた吸着地雷の攻撃を受けてエンジンと履帯が損傷していた。
エンジンは燃料タンクの破損でガソリンが漏れて引火。すぐに消火したが機関室は丸焦げになっている。
そして右の誘導輪、履帯を破損。地雷の影響を受けたからか転輪も損傷していた。
履帯は『
修理内容は破損した履板を予備の物に交換してまた嵌め直す、やることは至って単純なのだが、何トンもある履帯をのはかなりの重労働だ。
種島に報告した段階で、エンジンの応急修理、履板、転輪の交換を終えて、履帯を繋げれば修理完了だ。やり方は起動輪と履帯の端をワイヤーで接続し、起動輪を回して引き上げるのだ。戦時中のドイツ軍では短時間で終えられるように、反復訓練が実施されたという。
「何か・・・種島隊長様子がおかしいよね。今までの冷静さが欠けている気がする」
レーヴェの砲手、阿南は種島の方を見ながら装填手兼通信手の水無月に話し掛けた。
阿南は風見と同じ2年生で、種島から誘われて隊長車の砲手をしている。種島が立てる作戦には納得いかない部分が多く、いつも不満を抱えている。が、余計なことを言って整備員に降格となるのだけは御免なので、何も言わず命令に従っている。
装填手の水無月は阿南の親友で、風見、阿南と同じ2年生だ。装填手と通信手を兼任することに不満は無く、与えられた任務を黙ってこなしている。種島の立てる作戦に興味はなく、何か詮索をしようという気にもならない。余計な事をして面倒事を増やしたくないからだ。
「うん・・・て言うかさ、私たちがここまで追い詰められたのって始めてじゃない?」
水無月が言うように、乗員同士で「ここまで追い詰められたのは始めてじゃないか」という言葉がちらほら見られた。今日まで、数えきれない程試合を経験してきたが、他校の試合のようにギリギリの駆け引きをするような事は一度もなかった。
いつも損害は戦車2輌程度で、敵を見つけて完全に殲滅するのに1時間も掛からなかった。それなのに、この試合は始まって既に3時間が経過し、味方の損害は半分近くに達している。種島が焦るのも無理ないのかもしれない、そんなことを言い合った。
「でもさ。種島隊長、対戦相手の宗谷って人に負けているんだよね?」
「そうそう。ヤークトティーガーで出撃したのに、1式中戦車チヘに負けたって聞いた。信じられないよね」
「あなたたち。話し込んでないで作業を進めるわよ」
風見が報告から戻ってきた。叱責された2人は渋々作業に戻る。風見は操縦席に座ると、キーを捻ってエンジンを再始動させた。
丸焦げから自走出来る状態まで復元するのには骨が折れたが、その甲斐あってかエンジンは問題なく回っている。アイドル回転が安定しないハンチング現象も起きなかった。
外で待機していた阿南と水無月は、風見の合図を確認すると履帯の端と起動輪をワイヤーで接続して風見に合図を送る。風見は慎重に操縦レバーを操作して履帯を引き上げる。
状況報告は阿南がしている。履帯は独特な金属同士が擦れる音を放ちながら、ワイヤーに引っ張られていく。
履帯の端が誘導輪に乗り、そのまま転輪の上を転がっていく。そして起動輪上部の歯は履帯を捉えたところで止めて、起動輪に巻き付いたワイヤーを外す。後は履帯の端通しをピンで繋げるだけだ。少し手こずったが履帯修理は無事に完了した。2人揃って深呼吸をしていると、風見が出てきて労った。
「お疲れ様。少し休んでいて良いわよ。種島隊長に報告してくるから」
種島の方に向かおうとする風見に、阿南がポツリと言った。
「ねぇ。この試合勝てると思う?」
風見の足が止まり、体の半分を阿南に向ける。
「何が言いたいの?まさか負けるとでも?」
目を細めて睨むように阿南を見た。風見は「隊長としての地位に立つ人間には敬意をはらえ」と両親から厳しく育てられている。その為、隊長である種島の陰口を聞くのはとても嫌がるし、負けそうになるという言葉も耳に入れたくない。
冷静さを保っているように見えるものの、声には怒りが込められているように感じた阿南は、直ぐに言葉を付け加えた。
「そんな気がしてるってだけよ」
「取り越し苦労よ。くだらないこと言ってないで、配置に付きなさい」
風見は阿南の意見を一蹴し、その場を離れて種島のもとに向かって歩き始めた。阿南は軽く息を吐いて、静かに見送った。
合同チームが隠れているエリアCの倉庫は敵チームとの最終決戦に備えて、戦闘準備に取り掛かっている。
先程まで静まり帰っていたとは思えない程騒がしくなり、怒号があちらこちらから響きわたる。種島の過去の一件など気にしている場合などない。
赤坂たち歩兵は、弾薬箱から弾倉を取り出して手持ちの銃や、着ているベストに付いている弾薬ポーチに入れていく。弾切れを起こす訳にはいかないので詰められるだけ詰めていく。
かほたちは自分たちが搭乗する戦車の点検を実施している。エンジン、履帯、通信機器類、照準器、弾薬の数を確認し、作動させて問題が起きないか、戦闘に支障が出ないかを細かくチェックしていく。
準備を進めている最中、作戦会議を開く為にそれぞれの車長、隊長が召集を掛けられた。
Ⅳ号戦車車長、西住かほ。ティーガーⅠ車長、西住夏海。トータス車長、ルフナ。M4シャーマン車長、リン。KVー2車長、サティ。セモヴェンテM41車長、安斎千代子。97式中戦車車長、西太鳳。ポルシェティーガー車長、中島美優。M3中戦車車長、澤あずさ。Ⅱ号戦車ルクス車長、黒江琴羽。旭日機甲歩兵団隊長、コマンダー・マガジンこと赤坂登だ。
またこの召集に
元々特殊な作戦を実行するための訓練を受けていたので、作戦立案のヒントを得ようと思った
ここに来るために買った地図の文字を見誤り、試合開始に遅れてしまうというトラブルがあったが、遅刻してきたという事実が気にならなくなる程の活躍をして見せた。
彼女たちの真ん中には錆びてボロボロになっているスチール製の机が置かれ、その上にこの市街地の全体図が描かれた地図を広げている。作戦を立てる前に各車の損害状況、残りの弾薬携行数を確認する。
「まずⅣ号ですけど、特に大きな損害はありません。残りの弾数が28発なので、今後の戦闘に大きく影響しそうです」
少し不安そうにかほが言う。
「ティーガーⅠは履帯が破損したが修理は終わっている。だが正面装甲に直撃弾を受けすぎたから、あまり無茶は出来ない。残りの弾数は34発だ」
怪訝な顔つきで夏海が答える。
「トータスは17センチの直撃弾を受けましたが、装甲には異常無さそうです。走行装置も特に問題はないと聞いています。弾数は後37発です」
ティーカップを片手にルフナが言う。
「私たちも問題なしネ!戦闘準備はオッケーヨ。砲弾は残り25発ネ」
リンが陽気に言った。
「KVー2も履帯切られたけど特に問題ないわ。だけど同伴しているISー2が攻撃を受けすぎたから、心配なところはそれだけね。あとは弾数だけど、残り14発よ」
少し申し訳なさそうな顔でサティが答えた。
「セモヴェンテM41も特に問題ない。弾数も200発ぐらいは残っている」
腕組みをしながら安斎が答える。
「我々も大丈夫。突貫でも問題なく行けるぞ。弾数は36発だ」
西が威勢よく答える。
「私たちも特に問題ないかなぁ。あ、17センチの至近弾食らって回路イカれてるから、修理完了まで少し時間掛かるかも。弾数はー・・・18発ね」
ポルシェティーガーを指差しながら中島が答える。
「私たちは戦車でジャンプしましたけど、戦闘に支障ありません。弾数は主砲が12発、副砲が20発です」
澤が少し緊張気味に言う。
「ルクスは通信機器類に支障が出てますから、現在修理中です。修理完了まであと5分ぐらいで終わると思いますけど・・・弾数は後300発です」
琴羽が小さな溜め息を吐く。
「ドライバーの報告ではホハに特に異常は無いとさ。残りの弾数の正確な数は割り出せないが・・・敵を殲滅する分は残ってる筈だ」
全ての報告が終わると、全員が地図に視線を向けた。レーヴェと遭遇し、戦闘状態になったエリアDの南西付近に赤丸で印を付けてある。
そして履帯を切られて救援されて動けそうな範囲を半径約2~5キロの範囲で絞り混んだ。レーヴェはかなりの重量である上に、救援車を呼んだところで長距離を動けるとは思えないからだ。
「正確な位置が分からない以上、迂闊な行動は出来ないな。特にこの範囲に敵の隊長車がいるとなると、警備は厳重にしている筈だ」
夏海は赤丸を指でなぞりながら言った。
「出来ることなら、偵察は戦車で行って貰えると助かる。あいつらの体力は限界に近い。敵を見つけて、そこから引き返す間に見つかったら元も子もないからな」
体力の限界が近いようには見えなかったが、何かした後に背伸びをしたり、深く深呼吸をしている。その様子を見たかほたちはその通りだなと納得した。
ここで問題になるのは、偵察戦車をどのように動かすかだ。見つからないようにするというのが大前提だが、敵の様子を探れなければ偵察は意味を成さない。
「安斎、黒江。あなたたちが偵察任務を遂行してたけど、どんな感じだったのか教えて貰って良いか?」
夏海が尋ねると、安斎が地図の道筋を指差しながら説明を始めた。
「私たちは建物から建物へ移るよう動いたんだ。敵が通りそうな道を全部見たんだけど、これがほぼ全部外れでさ。やっと見つけられたのはヤークトEー100だけで・・・これでも善戦したつもりだけど」
「エンジン音聞かれたら一発アウトですし、見張れなかったら意味が無いで困っているんです。敵に見つかる心配がない偵察用の道があれば、こっちも何とかなると思うんですけど」
琴羽は地図の大通りを指差した。市街地エリアの中心点に当たるエリアCの噴水を基に、枝分かれしながら成長した大木が何本も伸びたように道が続いている。
大体は重戦車が2輌並んでも余裕で走れるか、1輌なら走れる程の道幅だった。その大通りを避けるように細道が続いている。
「何だか・・・この細道だけを見るとクモの巣みたいですね」
澤が細道を目で辿りながら言った。細道だけを見ると、市街地エリア全体を覆い尽くすかのように延びている。大通りに対して、細道の方が距離が長そうに見えた。
その例えを聞いた安斎が「それだ!」と叫び、右手で拳を作って左手の掌に落とす。何か閃いたようだ。
「この細道を利用すれば良いんだ。いくら重戦車と言っても、細道に入ってしまえば軽戦車に追い付ける筈がない」
細道を指で辿りながら興奮している。安斎の言うとおり、細道に入り込んでしまっては重戦車と言えど追い付けはしない。
見る限りかなりいりくんでいるので敵に発見される可能性も低そうだ。
「成る程!じゃあこの細道は、『
リンが細道に名前を付ける。安易なネーミングだったが、その場にいた全員が納得した。
「よし。偵察の問題は解決だな。後は敵戦車の迎撃の方法だが・・・歩兵の対戦車兵器はまだ残ってるか?」
夏海が
「対戦車兵器を持ってるのは吸着地雷を持ってるラントミーネと、対戦車ライフルを持ってるゲヴェアと、ロタ砲を持ってるロケットだけだな」
「確認してみないと何とも言えないが、思ってる以上に残ってないかもしれねぇなぁ。10発あるかどうかってとこかなぁ」
腕組みをしながら
「こっちはそこまで撃たなかったから、残弾は結構残ってるぜ。約30発前後だ。ロケットのロタ砲は残り7発って言ってたな。1発無駄にしたって肩落としてたけど」
顎を手に乗せて
「あ、そう言えばもっと頼れる奴があったな。俺たちが奪・・・借りてきた
機動力はそこそこで火力、防御力のバランスも取れている。敵の重戦車群とも戦闘出来る筈だ。
「残弾は41発で目立つ問題も無いし、前線に出ても問題ないと思うぜ」
「それなら歩兵を何人か選抜して、戦車の搭乗員とするのはどうでしょうか。携行弾数が一番多く残ってますし、ティーガーⅠやKVー2と一緒に戦った方が良いと思いますよ」
かほがE1ー1を見て言った。現時点に置いて、走・攻・守のバランスが取れて弾数が多く残っているのはE1ー1だけだ。かほの考えを聞いて、
その後も議論は続き、作戦の内容が決定した。
まずセモヴェンテM41とルクスはクモの巣の道で偵察を実施し、敵戦車の行動を見張ってもらう。
そして重戦車を先頭にエリアAまで退却し、そこで敵を迎え撃つという事になった。待ち伏せ、ということになるが、これはあくまで敵をそう思わせる為の罠だ。重戦車、突撃砲トータスで前線を張り、敵に感づかれないように中戦車で後方に回り込んで殲滅する。この一連の流れを戦車の動きとした。
そして歩兵11人の内、4人がE1ー1の乗員に振り分けられた。
残った7人の内、
チリ改の操縦手である福田は偵察用サイドカー陸王での偵察任務を終了し、宗谷たちが待っているチリ改の方へ向かった。その間に敵に発見されないよう、エリアC、B、Aの3つのエリアを跨いで走行して合流しようと試みていた。
作戦と人員配置が決まったので、かほたちは早速作戦を実行することにした。と、その前に
チリ改。
宗谷、岩山、柳川の3人は、チリ改の側で大通りを見張っていた。現在の位置はエリアBとCの境界線付近で、コンクリート造りの建物の1階で外を眺めている。
「あーぁ。暇だなぁ。なぁ・・・そろそろ動いても良いんじゃないか?」
岩山は大欠伸をしながら背を伸ばす。ここの見張りを始めて15分。敵の動きは全く無かった。
見張りを始める前に「レーヴェに傷を入れた」と報告があったが、どの程度の傷を入れたのかは把握していない。
小隊別に分けた後は殆ど会敵せず、敵の損害がどれ程なのかも把握しきれていなかった。
「宗谷隊長、聞こえるか。こちらコマンダー・マガジン、応答しろ」
通信機から
「こちら宗谷。どうした。敵と遭遇したか?」
「いや。作戦を立てて実行するから報告をと思ってな」
「分かった。カ号で航空偵察をしている水原と北沢が合流したらすぐにいく」
「了解。揃ったらまた連絡してくれ」
通信機の電源を落とすと、岩山が手招きしながら宗谷を呼んだ。瞬時に理解した、敵がいると。岩山の横に来ると双眼鏡で見渡した。
「何処だ?」
「距離約50メートル。正面だ」
岩山が指を指す。指している方向に双眼鏡を向けると、戦車の影が見えた。ズームアップして見てみると、M26パーシングが2輌確認出来た。
「どうする。攻撃するか?」
「いや。西住たちに無線連絡で敵を発見したと打電してくれ。カ号には、合流ポイントを変更をすると言ってくれ」
岩山は「了解」と言って敬礼すると、チリ改に乗り込んで通信機のスイッチを入れた。
宗谷は外の状況を見渡して安全を確認すると、操縦席に座ってエンジンを掛ける。勘づかれない程度にエンジンを吹かしながらビルを後にした。
ルクスとセモヴェンテM41は作戦通りにクモの巣の道を通って偵察任務についた。
ルクスは西側を、セモヴェンテM41は東側の索敵をしていた。地図が示していた通り、道はかなりいりくんでいるだけでなく、軽戦車でもギリギリ通れる程度の狭さだった。
ルクスはエリアCから遠回りにDに侵入し、大通りを見張れる位置を確保してエンジンを止めた。
セモヴェンテM41はエリアCからBに侵入。大通りを見張れる場所を確保することは難しいと判断し、走りながら偵察を実行することにした。
西側を見張っている琴羽はルクスから下車し、双眼鏡を使って周囲の見渡していた。見張りを始めて5分が経過していたが、とても静かだった。何処からか風に乗って、鳥の鳴き声が聞こえてくる。試合中だと言うことを忘れてしまいそうな程だ。
「お姉ちゃん。どう」
妹の黒江琴音が尋ねてきた。
「琴音。通信機の側にいてって言ったでしょ」
「だけどずっと座ってたら疲れちゃうんだもん。少しぐらい良いでしょ?」
屈託のない笑顔を見せられた琴羽はこれ以上咎める気になれず、好きにすればと言って視線を戻した。
「静かだね。敵はどう動くかな」
琴音が背伸びをしながら言った。
「さあね。半分ぐらい減らしたし、戦力纏めて突撃してくるかも」
「そんなことするかなぁ。でも何するか分からないし、あり得るかも」
「こっちのルートを通過すればの話だけど。もしかしたら安斎さんの方に行っている可能性もある訳だし・・・ん?」
琴羽が異変に気付いた。近付いている、戦車だ。重戦車が走っている。双眼鏡で音がする方向を見ると、その姿が確認出来た。
T26E5パーシング・ジャンボが先頭と走り、その後ろをT26E4スーパー・パーシング、M26パーシング、T30、T34、レーヴェ、KVー4姿が確認出来た。琴羽が数を数えていく。
「1、2、3、7・・・27輌!?琴音、本隊の現在位置は?」
「えっと。エリアCの倉庫を出たあとは南下しながらエリアAまで後退するって言ってたけど、進軍スピードはかなり遅いって言ってたから・・・」
ここかな、と言って広げた地図の一点を指差した。その場所は出発点であるエリアCの倉庫と、エリアBの境界線の中間点にあたる場所だった。
作戦会議中に、トータスの最高速度に合わせて進軍するという話を聞いていた。トータスと行動を共にしたので、かなりの鈍重であることは知っている。このままでは敵に追い付かれてしまう。
「すぐに知らせなきゃ。通信機のスイッチを入れて」
琴羽の指示に琴音は「分かった」と言って車内に飛び込んだ。通信機の電源を入れて、周波数を合わせる。その間に琴羽はインカムを頭に付けて準備が整うのを待った。
エリアC。
琴音の予想通り、本隊は出発した倉庫と境界線の中間点に着いたところだった。
偵察隊からの報告も無く、順調に進軍していたが、琴羽からの情報で状況は一変した。
「本隊応答して!こちらルクス、琴羽!」
「琴羽さん。どうしたの、何かあった?」
琴羽の通信にはかほが応答した。ただならぬ気迫を感じて何か起こったんだ、と悟った。
「敵の進軍を確認したわ。まっすぐそっちに向かってる。迎撃体勢を取った方が良いかもしれない」
報告を聞いたかほは、敵の進軍速度を聞き出して迎撃体勢を取るべきか否かの判断を迫られたが、考える暇等無かった。迎撃するしかない。
かほはチーム全体に連絡し、「予定より大分早いですが、チームの戦力を纏めて迎撃します」と伝えた。
大通りを進軍する可能性を考慮し、交差点を陣取って重戦車を角に配置した。左側にE1ー1、KVー2。右側にティーガーⅠ、ポルシェティーガーである。
交差点の中心にはトータスが配置され、敵の進軍を止める役割を担うことになった。トータスは近くに放置されていた鉄屑を正面に積み上げて擬装した。
残りの中戦車郡はトータスの後ろで待機している。重戦車たちが前線を張っている間に裏へ回り込む、その準備をしていた。
歩兵団のもそれぞれで戦闘準備を始めていた。残された
右側の3階に
対戦車兵器を持っている
彼らは敵の進軍を逆手に取ろうと考え、本隊が砲を向けている交差点から60メートル程離れているT時路に向かい、壁のように建っていた11階建てのビルに侵入し、6階まで上がった。そこからロタ砲と、対戦車ライフルのパンツァービュクセ39で敵の背面を攻撃するという作戦だ。
吸着地雷を使って戦闘をする
陣取っている大通りに抜け道は無い。上手くいけば前と後ろで挟み撃ちする事が出来るので、敵の進軍を大幅に遅らせることが出来るはずだ。
「来るかねぇ。敵は」
双眼鏡を覗きながら
「来ないことはないだろ。ここはエリアBに抜ける唯一の大通りだ。ルクスの報告だと戦力を纏めているって言ってたからな・・・その気なら強引にでも突破するだろ」
牧野はロタ砲の組み立てを終えて、照準器越しに大通りを見る。数本の細い棒が、照準器としての形を作っているだけの簡素な物だが、無いよりはマシだ。
「お?・・・来たか」
「こちらラントミーネ。南西側から敵戦車が接近中。ルクスからの報告通り、敵は戦力を纏めているみたいだ」
双眼鏡を目に当てて戦車郡を見る。
「先頭をパーシングE5が走ってる。数は約・・・6、いや12輌。その後ろをM26が約10輌。後にT30とT34、レーヴェが続いている。後はー・・・旧ソ連軍のKVー4が3輌」
報告を受けた本隊に緊張が走った。背後から迫るプレッシャーの波に呑まれそうになる。予想していたものの、いざとなるとどうしようもなく不安になってくる。
それは東京パンツァーカレッジも同じだった。主力が強固な重戦車であっても、敵が何処に潜んでいるか分からないのだ。後ろを取られると対処のしようが無い。
27輌全ての戦車が大通りの一本道に入り込んだとき、先頭を走っているパーシングE5の車長が異変に気付いた。
「うん?あれは・・・」
道の中心に何かある。目を凝らして見てみると、鉄の塊がポツンと置かれている。
それは擬装を施したトータスなのだが、遠目だとただの鉄の塊にしか見えない。このまま前進すればトータスの餌食になる。擬装は完璧だと思っていたが、前進していた敵軍はその場で停車した。パーシングE5車長が停車するように指示を出したのだ。
「車長。何で止まるんですか?あれはただの鉄屑ですよ?」
操縦手が車長に質問をする。
「そう見えてるだけかもしれない。エリアCに侵入した突撃隊が待ち伏せ攻撃を受けたのよ。もしかしたらあれも・・・」
囮かもしれない、車長はそう言って鉄屑を指差した。
「そんなことあるかけないじゃないですか」と、操縦手は言いたかったが、これまでの作戦や戦闘方法を思い返してみると、十分あり得ると考えて喉元まで来ていた言葉を飲み込んだ。
車長は真意を確かめる為、E5隊による試射を試みることにした。ただの鉄屑なら、砲弾を2、3発受けるだけで吹き飛んでしまうはず。安全に進軍するためにはやむ無しと考えたのだ。
「種島隊長。あの鉄屑に試射を実施します。宜しいですか?」
「あんな鉄屑に向けて撃ち込むつもりと言うことは、相応の理由があるんでしょうね」
種島は少し強めの口調で聞き返した。車長はこれまでの経緯と、試射をする理由を簡潔に伝えた。あくまで可能性の話なので、確率は五分五分と言ったところだろう。
「まあ良いわ。撃って見て何も無ければさっさと移動するわよ」
あれこれ考えるのが面倒なのか、深く考えること無くあっさり承認した。
車長は「ありがとうございます」と言って返信すると、E5隊に砲の照準を鉄屑に向けるように言った。その指揮に合わせ、トータスが擬装している鉄屑に向けられた。
「ルフナ車長。想定外の事態になりそうです」
照準器を覗いているトータスの砲手が引き笑いを浮かべながら言った。擬装は完璧の筈だが、同じ方法で待ち構えてしまったので悟られてしまったようだ。
「同じ轍はニ度も踏まない・・・ですか。やむを得ません。攻撃開始!」
ルフナが叫ぶ。同時に静寂を切り裂くような轟音と共に砲弾が撃ち出され、正面で構えていたE5に直撃した。撃破とはならなかったが、行動不能に陥れることに成功した。
「攻撃されました!敵です!」
レーヴェの砲手である阿南が叫んだ。鉄の塊が一変し、突撃戦車へとその姿を変えた。種島は口角を上げてニヤッと笑みを浮かべた。
「攻撃開始!あの突撃戦車を破壊しなさい!」
種島の怒号を聞いたE5隊が一気に突撃していく。餌に飢えた猛獣のように、一気に距離を詰める。
「ヤベッ擬装がバレたか。ゲヴェア頼むぞ」
双眼鏡で動きを見ていた
まずは敵の動きを封じる必要がある。
トリガーに指を掛けて、大きく息を吐く。正確な狙撃をするためには、自分自身を冷静にしなければならない。僅かなコンマのズレが、命中率を大きく下げる要因になる可能性があるからだ。
カチッ、トリガーの引ききる音が耳に入る。ライフルから飛び出した銃弾は、高所からの落下エネルギーを受けながら加速し、1番前を走っていたE5の右の履帯に命中した。
履帯を切られたE5は大きく右に振れた。急旋回に耐えられず、車体は土埃を上げながら横転した。突然の横転に反応が間に合わなかった後続は次々と衝突していった。
この大混乱に便乗して、隠れていた重戦車が一斉に攻撃を開始する。トータスを中心に扇型のような体勢で敵を迎え撃つ。玉突き事故が発生し、隠れていた戦車からの総攻撃を受けたが、種島は慌てていなかった。戦力は未だこちらが有利なことは変わり無い。敵戦力を一気に壊滅させればいい。
「敵が迫ってくるぞ!このままじゃ押しきられる!」
「何としてでも押さえるのよ!絶対に通さないで!」
サティの呼号が響く。
残弾の残りが少ない今、兎に角敵の数を減らしていく以外に方法は無い。しかし敵は強固な装甲を持つ重戦車、正面の貫通は不可能に近かった。
戦闘に有利な位置を陣取っている歩兵3人は、敵戦車に対して有効な手段が与えられない状況に置かれていた。
パンツァービュクセ39は対戦車ライフルとして申し分ない性能ではあったが、思っている以上に敵に有効なダメージを与えることは出来なかった。
占拠していたビルにいる歩兵4人も機銃掃射による攻撃をしていたがこれも空振りだった。もっとも弱い上部からなら貫通出来ると考えていたのだが、彼らはその甘さを痛感していた。
そんな猛攻をもろともせず、種島率いる戦車郡はその足を止めない。数でも劣勢の合同チームは徐々に押され始めていた。中戦車郡が裏に回り込む作戦だったが、この状況では戦線の維持だけで手一杯だった。
「西住さん!これ以上は持ちません!撤退しましょう!」
M3の澤が涙声で叫んだ。
「今は出来ない!これ以上押しきられない為にも、何とか持たせないと・・・」
西住の言葉が途切れた。後ろで謎の爆発があったのだ。どうやら攻撃を受けたらしい。
「みんな。待たせてすまなかったな」
合同チーム全車の通信機に、謝罪の声が聞こえた。
「今回も最後まで愛読ありがとうございます。Ⅱ号戦車ルクス車長の黒江琴羽と、」
「黒江琴音です。やっと敵とまともに戦えそうね」
「まともに戦えるのかしらねぇ。何するのか分からない連中だし」
「何かして来ても絶対大丈夫だよ。あの人もやっと合流してくれたんだし」
「そうね。ラストスパート、頑張ろうか!」