ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

レーヴェの応急修理を終えた種島率いる東京パンツァーカレッジは敵の完全殲滅を目指して戦力を纏め、敵が潜んでいると思われるエリアCに向かって進軍を開始した。
同じ頃。合同チームは敵を迎え撃つためにエリアAに進軍していたが、進軍が想像以上に遅れ、漸くエリアBの境界線と、出発点の中間に着いたところだった。ここで迎え撃つしかないと察したかほは、全員に待ち伏せ攻撃の用意をするように指示。
待ち伏せを開始して数分後、敵の戦車郡が姿を見せた。トータスの先手攻撃により、戦闘が始まった。敵は機動力の高いM26を先頭に進軍し、徐々に合同チームを押し込み始めた。前線の崩壊が始まりだした時、後方で待機していたKV-4が爆発した。何事かと混乱していた時、合同チームの通信機から久しぶりに聞く声が聞こえた。


mission23 突入!最終決戦

 後方からの爆発に、敵味方共に困惑していた。あれは戦車砲で撃たれた時にしか発生しない音だ。爆発したのは重戦車のKV-4、鈍足故に後方を張っていた戦車だ。

 

「みんな。待たせてすまなかったな」

 

 かほたちの通信機から久しぶりに聞く声がした。宗谷の声だ。

 

「作戦は聞いてる。後方にいる敵はこっちで対処する。前線維持を頼むぞ!」

 

 チリ改は本隊が形成している防御網の反対側にチリ改を回し、後部を晒している敵戦車の攻撃を始めた。

 

「目標敵戦車M26パーシング!主砲でエンジンを、副砲は足を止めるために履帯を狙え!攻撃始め!」

 

 呼号が車内に響き渡る。指示通り、岩山が88㎜の主砲でエンジンを、水原が37㎜の副砲で履帯を狙って攻撃を開始した。

 

「隊長!敵中戦車が後方に回り込んでいます!」

 

 レーヴェの装填手、水無月が叫ぶ。

 

「分かってるわよ!さっさとあの中戦車を吹っ飛ばして!M26かE5で叩いて!」

 

 種島の怒号が車内に響き渡る。

 機動力が高い戦車をチリ改の迎撃に回し、残りの重戦車で前線突破を目指した。後方を張っているKVー4は機動力が劣悪で、旋回速度も遅い。そこですぐに動けるパーシングを回したのだ。しかし、この判断が作戦遂行を大きく狂わせることになる。

 迎撃に向かった3輌のM26と2輌のE5が、チリ改の目の前で履帯を切られたのだ。前を走っていた2輌の内、1輌はチリ改の副砲によるものだったが、もう1輌はビルで狙っている(ゲヴェア)が撃ち抜いた。敵に対して有利な位置を取れる11階建てのビルに潜んでいたのだ。

 この影響で後ろからついてきていた3輌が完全に足止めとなり、行動不能になってしまったのだ。

 攻撃された2輌は履帯を切られたが、砲塔を旋回させれば攻撃出来るし、もう片方の履帯は生きている。車体を少し斜めに傾けて、簡単に貫通出来ないように対策を取る。しかし彼女たちは上に狙撃手(スナイパー)が何処から狙っているのか分かっていなかった。

 

「チリ改の攻撃には対処出来ているようだが、こっちからは『どうぞ撃ってください』って言ってるようなもんだぜ」

 

 (ゲヴェア)はスコープを覗きながらほくそ笑んだ。上から見ると、チリ改は左側に待機し、履帯を切られた2輌も正面を左側に向いている。

 この状態だと(ゲヴェア)から見てエンジン部が丸見えで、これなら撃ち抜けると踏んだのだ。距離が近くなったので、牧野(ロケット)のロタ砲でも何とか当てられそうな距離になった。観測手(スポッター)をしていた羽田(ラントミーネ)が2人に報告する。

 

「距離約42メートル。南東より微風。上手く当ててくれよ」

 

 羽田(ラントミーネ)はニッと笑った。(ゲヴェア)は大きく息を吐いて心を落ち着つかせ、牧野(ロケット)はロタ砲を肩に担いで照準越しにエンジン部を狙った。当たってくれよ、と心の中で願った。直進性が悪い弾なので命中率は低い。照準を合わせても当たるか分からない。

 (ゲヴェア)の射撃に合わせ、牧野(ロケット)もロタ砲のトリガーを引く。ロケット弾はライフルと違って弾速は早くなく、轟音を立てて飛翔していく。

 先に着弾したライフル弾が置くにいたM26のエンジンを破壊し、撃破。ロタ砲のロケット弾も遅れてE5に着弾し、エンジンを吹き飛ばした。後方の爆発を見て敵は上から攻撃していると分かった。

 

「敵は上よ!煙幕を張って対策を!」

 

 チリ改の迎撃に回っていたE5車長、宇田が見上げながら叫ぶ。ロタ砲のロケット弾のせいで気づかれてしまったようだ。

 生き残った3輌は煙幕を発生させ、チリ改と歩兵3人からは完全に見えなくなった。

 

「煙幕焚きやがった」と(ゲヴェア)が舌打ちをする。

 上からだと捕捉が出来なくなり、この狙撃ポイントはもう使えないと判断した3人は、場所を変更するために装備を抱えて動き出した。

 チリ改からも敵の状況を把握することは出来ず、何処から敵が出てくるのか予想出来ない。

 

「気を付けろ・・・ご丁寧に正面から出てくるとは思えない」

 

 宗谷がキュウポラから上半身を出して外の様子を見た。岩山と水谷は照準器から目を離さないようにしている。

 音で聞き分けようと考えたが、大通りで戦闘している砲撃の音や走行音のせいで聞き取れない。

 

「クソッ何処からだ・・・何処から来る」

 

 雲のように留まる煙幕を睨んでいると、3輌の重戦車が飛び出してきた。M26が2輌、E5が輌だ。岩山の咄嗟の射撃でM26の履帯切りに成功したが、E5はチリ改の正面に、もう1輌のM26は側面に回り込んできた。

 

「岩山、砲塔を旋回!照準が合い次第撃て!北沢は正面だ!貫通出来なくても良いから兎に角撃ち込め!」

 

「旋回間に合わねぇぞ!」

 

 岩山が叫ぶ。全開で砲塔を旋回していたが戦車の移動速度には勝てない。このままでは後方に回り込まれる、と覚悟した時、突然エンジンが撃ち抜かれて白旗を掲げた。辺りを見渡すと、(ゲヴェア)がライフルを構えている姿が見えた。視線が合うと、「ありがとう。助かった」という意味を込めて手を振った。

 

「とどめを指すぞ!副砲で履帯を切ってその隙に側面に回り込み、主砲で攻撃、撃破せよ!」

 

 宗谷の怒号が響く。

 指示通りに副砲で右の履帯を切り、確認した福田はすぐに側面に回り込み、すかさず主砲でエンジンを撃ち抜く。黒い煙と炎が上がり、白旗が砲塔の上に掲げられた。

 履帯を切ったもう1輌は、羽田(ラントミーネ)が99式破甲爆雷を使って撃破していた。この3人の到着が少しでも遅れていたらと撃破されていただろう。

 

「ラントミーネ、ゲヴェア。助かったよ」

 

 宗谷が2人に感謝を伝える。

 

「どうってことねぇよ!」

 

「急いで戻らないと!本隊の前線が支えきれなくなるぞ!」

 

 (ゲヴェア)がライフルをしまいながら言った。

 チリ改が3輌の戦車を相手にしている間、戦線は種島側が有利に進んでいた。猛烈な弾幕を受けていたが、自慢の重装甲で砲弾を弾き返し、少しずつだが詰め始めていた。撤退も視野に入れなければ、とかほは考えていた。

 今はこの一本道に押さえ込んでいるが、いつまで持つか分からない。戦線が崩壊した後の撤退は手遅れになる。

 

「みなさん。行って下さい。ここは私たちが何とかします」

 

 そう言ったのは盾役を引き受けたトータスの車長、ルフナだった。ルフナの提案にかほは反対した。

 

「何言ってるんですか!そんなこと出来ません!」

 

「この戦車は鈍足ですし、今更逃げ切れるとは思っていません。私たちがここを離れたらみなさんが集中砲火を受けます」

 

「ですけど・・・」だからと言って置いていくなんて出来ません。そう言い掛けた時、夏海が割り込んで言った。

 

「ここはルフナに任せよう!全車撤退だ!急げ!!」

 

「撤退!?トータス(こいつ)はどうすんだ!本当に置いていくつもりか!?」

 

 赤坂(マガジン)の問い掛けに、夏海は「任せる」と一言しか言わなかった。本心ではない。本当はやりたくない。だが今撤退しなければ全滅してしまう可能性がある。赤坂(マガジン)はそれ以上何も聞かなかった。

 

「歩兵団全員ホハに搭乗しろ!撤退準備急げ!ラントミーネ、ゲヴェア、ロケットの3人はチリ改に戦車跨乗(タンク・デサント)で撤退!モタモタすんな!」

 

 一本道に建っているビルで戦闘をしていた酒田(ドライバー)青山(メディック)田所(ラハティ)水原(ウッド・ペッカー)の4人は機銃掃射を中止し、階段を掛け下りた。ビルの中を通り抜けて、隠していたホハに搭乗。

 羽田(ラントミーネ)(ゲヴェア)牧野(ロケット)の3人はチリ改の車体に乗り込み、搭乗を確認したら宗谷は撤退命令を下した。

 戦線を維持していた戦車郡は、先に中戦車を撤退させて最後に重戦車郡を撤退させる手筈となった。中戦車のⅣ号で戦闘をしているかほたちも撤退を余儀なくされた。

 

「・・・撤退は出来ましたか?」

 

 ルフナはティーカップを片手に装填手に聞いた。絶望的な状況にも関わらず、車内は穏やかな雰囲気だった。諦めた訳ではない。こういう時こそ冷静でいなければならないと思っているだけだ。

 

「はい。全車撤退しました」

 

 装填手が弾を持つ手の指先は震えていた。武者震いなのか、敵の総攻撃に怖じ気づいているのだろう。

 

「落ち着いてください。足止めを引き受けたからには、最後までその使命を果たさなければなりません。行きますよ!」

 

 ルフナは張りきって声を上げる。

 今のトータスは、まさに『弁慶の立ち往生』。その重装甲は、敵の攻撃を無効にしていく。17cm砲の直撃弾を耐えただけあって、その装甲は侮れない。

 

「側面に回りなさい。正面だとあいつは撃破出来ないわよ!」

 

 種島が舌打ちをする。トータスの重装甲はよく知っている。この学校にも導入して重装甲を活かして敵を叩こうという構想を思い描いていた。

 そんな時にトータスの姿を見たのだ。ティーガーⅠの88㎜砲を弾き返し、高火力で返り討ちにする。まさに理想の戦車だと惚れ掛けたが、最高速度が僅か19㎞という点が悩みの種だった。

『重装甲で敵の陣地を突破する』をコンセプトに設計されているので、機動力の向上など全く視野に入っていない。この機動力では味方に随伴出来ないし、かえって邪魔になる。そう考えて導入をやめたのだ。

 そんなトータスが今、種島たちに牙を剥いている。絶対ここは通さない。そんな気迫が伝わっているような気がした。

 

 

 トータスを置いて戦線を離脱した本隊は中戦車、重戦車、チリ改、ホハとバラバラになって目標地点のエリアAを目指した。

 その途中でチームは合流し、偵察に出ていたセモヴェンテM41と、ルクスも合流した。敵は戦力を纏めているので、偵察をする必要が無くなったのだ。

 エリアAは西洋づくりの建造物が多く、道は大小様々な石で示されている。建物の損傷は少なく、実物大の模型が佇んでいるような雰囲気だった。本隊は建物の陰に身を潜め、次の作戦を立てようとした時、ルフナから通信が入った。通信機がやられたのか、会話は途切れ途切れだったが、会話に支障は無かった。

 

「みな・・・ん。エリ・・・Aにはつけ・・ましたか」

 

『みなさん。エリアAには着けましたか』、そう聞いたのだ。かほが「はい」と一言で返事を返すと、

 

「よか・・・す。こちらは・・・を2輌たおし・・・した。後は・・・みます」

 

『良かったです。こちらは敵を2輌倒しました。後は宜しくお願いします』、その言葉を伝え終わると、通信は切れてしまった。置き去りにしてしまったことへの罪悪感は残るが、先にやられてしまった味方のためにも、負けられない。

 

「みんな。集まってくれ」

 

 宗谷が召集を掛けた。今度は隊長だけではなく全員を。宗谷は集めたメンバーたちの顔を見ると、軽く息を吐いて話し始めた。

 

「味方の戦力は僅かだ。弾薬も残り僅か、短期決戦で決着をつけるつもりだ。みんな、最後まで頼むぞ」

 

 どうやって敵を叩くのか、宗谷はその点を詳しく指示しなかった。それぞれに任せる、と言ったところだろう。

 

「宗谷くん。レーヴェは、敵の隊長車はどうするの?」

 

 かほが質問をする。何故そんな質問をしたのかと一瞬考えたが、すぐに答えを出した。

 

「一緒に叩く。敵は戦力を纏めているし、こっちも戦力を纏めている方が良いだろ」

 

「提案があるんだけど、良いかな?」

 

 かほは宗谷に『提案』と言って話を始めた。

 

「私たちと宗谷くんたちでチームを作って、レーヴェを孤立させて叩きたいと思ってるんだけど」

 

「レーヴェを孤立させる?どうやって」

 

「種島さんは宗谷くんのチリ改を集中的に狙ってくる。こう言ったら悪いけど、チリ改を囮にして引き寄せる。決着をつける場所は・・・このエリアAよ」

 

 かほはそう言って現在位置であるエリアAを指差した。入口は西側にある1つだけで他には見当たらない。出口はその反対側で、これも1つしかない。

 建物の中を通ればエリアBに抜けることは出来そうだが、高さは低く、幅も狭いので重戦車が通ることは不可能だ。

 

「レーヴェだけをエリアAに誘い込むのか・・・難しい作戦だな」

 

 宗谷は顎を手に乗せて目を細めた。

 今の敵戦車隊は戦力を纏めて、機動力が高いM26シリーズを先頭に、レーヴェ、KVー4を後方に組んで進軍している。レーヴェだけを本隊から外すにはこの立ち位置を逆にしなければならない。

 

「問題なのはこの立ち位置をどうやって逆にするかだ。エリアAに他の戦車が入ったら作戦は失敗だ」

 

 夏海が地図を睨む。

 入り口は戦車が2輌程通れる程幅が広いので、ここで足止めに失敗したらチリ改とⅣ号の戦闘で不利になる可能性がある。

 どうやって敵の流れを変えるか話し合ったが、良い答えは見つからなかった。

 後方から攻撃して敵の動きを変えるという案が出たが、エリアBでの戦闘中、チリ改が敵本隊の後ろから攻撃したが、種島は咄嗟に前線を張っていた中戦車を迎撃に回したので、この作戦を実行してもレーヴェだけを本隊から外すことは出来ないだろう。

 

「・・・エリアAじゃなくてBで決着をつけよう」

 

 宗谷が呟くように言った。

 

「連中はレーヴェを最後尾にしてエリアAに進軍している。レーヴェがAに入る前に入り口を塞いでしまえば逃げることは出来ない」

 

 エリアAの入り口は1つだけで、他のエリアに抜ける道からは離れている。流石の種島でも他のエリアに逃げるということはしないだろう。

 

「そっちの案の方が確実だな。残りの戦車の処理はこっちで何とかする。思う存分やってこい」

 

 赤坂(マガジン)がグッと親指を立てる。他のメンバーたちもその作戦で了承した。

 作戦概要を纏めると、まずエリアAにレーヴェ以外の敵戦車を収容する。そしてレーヴェ1輌のみになったところで、入り口を爆破し、レーヴェを孤立させる。後はエリアBで待機しているチリ改とⅣ号による攻撃で撃破する。残りの敵戦車は夏海を中心として迎撃に移る。

 

「よし。実行といこうか。西住、宜しく頼む」

 

 宗谷はかほに右手を差し出した。かほはその手を握り返し、「こちらこそ」とニコッと笑った。

 赤坂(マガジン)ら歩兵団員はその様子をニヤニヤしながら見ていた。お似合いだねぇと冷やかしているように見えた。

 

 

 宗谷たちが作戦を実行しようとしていたその頃。

 種島率いる東京パンツァーカレッジの戦車隊は、エリアBの中心部に来ていた。トータスとの戦闘でT26E5が2輌失われたが、戦況に支障はないと種島は考えていた。味方の残りは21輌に対して、敵はトータスを失って残り11輌。数も火力も勝っている。下手な動きをしなければ勝てる。

 

「隊長。このエリアにも敵はいなさそうです。このままスポット561に進軍しますか?」

 

 レーヴェ操縦手の風見が訪ねる。スポット561は、かほが区分けした際に名付けたエリアAの事だ。

 

「ええ。止まらずに進んで。見つけたら集中砲火よ。いい加減決着を付けたいからね」

 

 残り少ない敵を倒したにも関わらず、種島は浮かない表情だった。決着を急いでいるのも、全滅を危惧しているからだろうと、横で見ていたレーヴェ砲手の阿南は感じていた。

 この市街地エリアに来てから味方が急激に減っていき、エリアCトータスとの戦闘でも、チリ改に後ろを取られてKVー4、M26が2輌、E5が1輌撃破されるという損失を被っている。これ以上減るような事は極力避けたいところだが、敵の反撃が想像以上という事もあり、このまま殲滅されるのではないかと思っていた。

 

「隊長。もうすぐでスポット561です。M26隊が先に侵入していきます」

 

 風見がハッチを開けて外を見た。M26が次々とエリアに侵入していく。エリアレーヴェだけを残してエリアAに侵入して5分程索敵してみたが敵の姿は無く、とても静かだった。

 安全を確認して、M26の乗員がレーヴェに向かって青い旗を振った。『安全を確認した』という合図だ。

 

「敵はいなさそうですね。行きましょう」

 

 風見が合図を確認してレーヴェ前進させた。

 

 レーヴェが前進を始めた時、歩兵団の狙撃手遠井(スコープ)が狙いを定めていた。狙っている所はエリアAの入り口に掛かっているアーチ、ここに遠井(スコープ)が見つけた地雷から抜き取った火薬が仕掛けてある。

 火薬の種類は黒色火薬と呼ばれるもので、比較的簡単に作れるものだ。爆発力が高く、衝撃に弱く、そして可燃性が高い。爆発すると白い煙が上がるのが特徴で、昔の大砲の炸薬に使われていた。その一方で吸湿性が高く、湿気を吸ってしまうと火がつかなくなる。乾燥させればまた使うことが出来る。

 その黒色火薬を導火線を引くように仕掛け、その先端を狙っている。本来なら観測手(スポッター)と一緒に行動するのだが、遠井(スコープ)は他人が傍にいると集中出来なくなるので、1人で任務をこなしている。

 

「距離30メートル。風速、北北西より微風。狙撃に支障無し・・・」

 

 何かを狙っている時は標的の距離、風速等を呟いている。頭の中で考えるよりも、口に出して言った方が分かりやすいと本人は思っていた。

 トリガーに指を掛けてタイミングを計る。レーヴェが入り口に迫っていく。

 

「目標到達まで、5、4、3、2、1」

 

 カチッ。トリガーを引ききる音が聞こえ、撃ち出された銃弾が目標に向かって飛んでいく。火薬の先端に当たると衝撃で火薬に火が着き、爆発と共に轟音を立てて壁が崩壊していく。爆発時に発生した白い煙と埃が立ち込め、ものの数秒で瓦礫が道を塞いでしまった。

 先にエリアAに侵入した戦車搭乗員たちは、突然の出来事に一瞬固まってしまい、状況を理解するまでに少し時間が掛かった。

 

「種島隊長!大丈夫ですか!?」

 

 エリアAに侵入したM26の車長が問い掛けた。種島はハッチを開けて舌打ちをする。

 

「あいつら・・・私たちを孤立させるつもりだったのね。爆破して道を塞ぐなんて。こっちは問題無いわ。恐らく敵はそっちに集中している。あなたたちは先に戦闘をして。こっちは何とかして行けるようにするわ」

 

 車長は分かりましたと返事少し不安気味に返事をすると通信を切った。

 行けるようにするとは言ったが、レーヴェより高く積み上げられた瓦礫の山をどうやって片付けるか、まずはそこを考えなければならない。乗り越えようと考えたが、塹壕と違って崩れやすく、足場が崩れてひっくり返ってしまう恐れがあった。そのため、瓦礫は撤去してから先に進もうと考えていた。

 

「阿南。砲撃で瓦礫を吹っ飛ばして」

 

「え・・・敵に気づかれませんか?」

 

 砲撃で瓦礫を吹き飛ばす事には気が進まない様子だ。音で敵に気付かれないかという心配よりも、こんなことで無駄弾を使いたくないと言っているようにも見えた。

 

「どうせ敵には私たちがこのエリアに来ることは悟られてるし、気にすることはないわ」

 

 種島はレーヴェから降りると、道を塞いでいる瓦礫の山の前に立った。高さは約4~5メートル弱。ビルの横の壁が破壊されている。この瓦礫を撤去した瞬間にビルが崩れないか心配だったが、壁だけを破壊しているので撤去しても問題なさそうだ。

 

「隊長。これは敵の意図的なものなのでは?」

 

 操縦手の風見横に立って口を挟んだ。

 

「意図的なもの?」

 

 そんな訳ないだろうと言っているように種島がオウム返しで聞き返す。

 

「私たちを孤立させて、残りの味方を殲滅しようとしているような、そんな気がするんです」

 

「仮にそうだとしたら、相手は自分で自分の首を絞めているようなものよ。時間を見たの?」

 

 種島が左腕に巻いている腕時計を指差した。敵車両を殲滅した方が勝利する試合形式ではあるが、制限時間は設けられている。試合強制終了まであと1時間半。他の戦車を殲滅した後にレーヴェの迎撃に掛かるのは理想的ではない。味方の殲滅が終わる頃には試合が終わってしまう。種島が自分の首を絞めるようなものと言った事も納得出来る。

 

「ここに来るまで敵に遭遇しなかったし、連中は向こうのエリアに集中してるわよ」

 

「そ、そうですね。じゃあこの瓦礫を撤去して先に進みましょう」

 

 種島の言い分に納得した風見は操縦席に戻ろうとした時、何処からかエンジン音が響いた。音を辿ると、レーヴェが向いている反対方向から聞こえてくる。身構えていると、レーヴェの真後ろにチリ改が姿を表した。

 

「隊長!敵です!」

 

 風見が思わず叫ぶ。その声を聞いて、車内で待機していた阿南が砲塔を旋回させて攻撃体勢を取る。

 

「待ちなさい。相手は攻撃する気は無さそうよ」

 

 種島が止める。何故止めるのかと風見に聞かれると、相手は砲塔をこちら側に向けていないし、こっちの砲塔が敵を捉えていると言うのに攻撃体勢を取ろうとしない、と答えた。

 

「・・・私たちが孤立したか確認に来たのかしら。まぁ良いわ。転進180度!あの中戦車を追うわよ!」

 

 種島の呼号が響く。

 レーヴェが旋回を始めた所を見た福田が焦り始める。

 

「おいおい。どうすんだ?相手はこっちに気付いたぜ」

 

「ギリギリまで粘るんだ。向こうに俺たちの居場所を知らせておかないと意味がないからな」

 

 焦る福田を宗谷が宥め、ハッチを開けて外を見た。レーヴェが砲塔の正面を向けて接近してくる。宗谷は北沢に西住たちに通信を繋げてくれと指示し、インカムのマイクを口元に向けた。

 

「西住、聞こえるか?こっちは作戦通りにレーヴェを引っ掻けた。そっちの準備は出来てるか?」

 

「準備は出来てるよ。後は宗谷くんたちが合流するのを待つだけだよ」

 

 明るい声でかほが応答する。宗谷は分かった、じゃあまた後でと返信して通信を切った。レーヴェとの距離を確認すると、後5メートルまで迫っていた。

 

「よし・・・こっちもぼちぼち移動するか。福田、頼むぞ」

 

「へいへい。なんでそんなに落ち着いていられるんだか・・・」

 

 少し呆れた声で福田が呟くと、チリ改を転進させてレーヴェと付かず離れずの距離を保ちながら予定のポイントへ走らせた。

 

 

 レーヴェと離れ離れになってしまったM26隊は、敵の残党を探していた。指揮は種島に任せっきりだったので、こう言った時にどうすれば良いのかと戸惑いながら戦車を走らせていた。

 敵がこのエリアにいることは確かだ。まだ新しい履帯の跡がいくつも残っているし、これ以上逃げるとも思えない。絶対にここにいると確信していた。

 エリアAはかほが分けた5つのエリアの中で1番広い。敵が何処に隠れているのか把握しづらいので警戒を強めていた。

 

「敵は何処なの・・・よりによってこのエリアに逃げ込むなんて・・・最悪」

 

 悪態をついているのは種島の代わりに指揮を取っている冴木(さえき)佳奈(かな)だ。東京パンツァーカレッジの3年生で、副隊長を務めている。乗っている車両は重戦車KVー4。3輌の中の1輌は冴木の同期が車長を務めていたので、仇を取ろうと躍起になっていた。

 

「良い?連中はこれ以上逃げも隠れもしないはずよ。残り時間も少ないんだし、一気に勝負を仕掛けに来るかもしれないから、絶対に気を抜かないで」

 

 冴木が激を飛ばす。今まで試合をしてきた相手とは違う。歩兵が一緒だからそう感じている訳ではなかった。感じたことのない気迫、そんなものを感じるのだ。

 

 

 入り口を塞いでレーヴェの通り道を寸断した後、残された戦車郡をルクス車長の黒江琴羽が見張っていた。敵はレーヴェと別れた後も隊列を崩すこと無く進軍していた。重戦車KVー4を先頭に、M26が後ろに続いている。琴羽が通信機の電源を入れる。

 

「敵は隊列をそのままにして進軍してるわ。迎撃体勢を取った方が良いかも」

 

 琴羽が警告する。

 

「分かった。ルクスもこっちに合流してくれ。味方は多い方が良い」

 

 応答したのは隊長代理を務めている西住夏海だ。

 敵の残りは20輌。弾薬の残りも少ないので長期戦には持っていきたくない。なるべく短期決戦で済ませたいと考えていた。

 

「さて。やりますか、隊長」

 

 赤坂(マガジン)がティーガーⅠの側に近寄った。

 

「マガジン。そっちは良いのか」

 

「こうでもしてないと落ち着かないんだよ。あいつらと一緒にいると疲れるからな」

 

「気持ちは分かる」

 

 夏海が笑う。笑い事じゃないんだが、と赤坂(マガジン)が溜め息を吐いた。

 

「あいつらとは長いのか」

 

 夏海が質問する。

 

「ああ。近衛の機甲歩兵科で初めて組んだメンバーがあいつらだったんだ。教官に纏め役として隊長になれって言われたからなったんだ。4年前に廃校が決定して歩兵科も解散。二度と組むことはないと思っていたんだが、またこうして組むことになるとは思っても見なかったぜ」

 

 赤坂(マガジン)が歩兵団の方を向いた。武器の手入れをしたり、手伝いをしたり、ふざけあったり、思わず笑ってしまった。

 

「宗谷に呼ばれて召集したんだが、俺を含めてみんな普通の学生になってたよ。また歩兵として活躍する日が来るとは思ってもみなかったがな」

 

 と言って苦笑する。その2人の会話に田所(ラハティ)が割り込むように報告に来た。

 

「残党軍が来たぜ。後2分ぐらいで到着する」

 

 報告を受けた夏海が叫ぶ。

 

「みんな!殲滅作戦を実行するぞ!各自戦闘体勢!」

 

 その声を聞いた乗員と歩兵が迎撃準備を始める。乗員は戦車の最終点検を、歩兵は弾倉を一度外して弾薬を確認したあとすぐつけ直した。

 最終点検が済んだ直後、重々しいエンジン音が聞こえてきた。敵の重戦車がすぐそこに来ていると言っている。その場にいる全員が気を引き締める。

 

 冴木は獲物を探す狼のような目付きで周囲を睨んでいた。正面、右、左、後方の順番で見渡し、最後に上を見上げる。エリアCでの戦闘で歩兵による狙撃で味方の動きが制限された事を受けて他の乗員にも警戒を厳とせよと言い聞かせていた。

 聞こえてくるのは味方の戦車が走る音だけ。それだけなのに、言葉では言い表せない嫌な予感が頭の中で渦巻いていた。敵を見つけたら撃破すれば良い。殲滅すれば良い。何も難しいことではない。冴木はそう自分に言い聞かせていた。

 冴木が搭乗しているKVー4が右に曲がろうとした時、バキンと鈍い音が響いたと思ったら車体が大きく左に傾いた。履帯を切断されたのだ。

 

「敵襲!警戒せよ!」

 

 冴木が叫ぶ。戦車砲の音は聞こえなかった。恐らく対戦車ライフル、履帯ぐらいなら切ることは十分出来る筈。

 KVー4は交差点の手前で大きく左に傾いたが、後続が通り抜けるには十分なスペースが残されている。辺りを確認した後続のM26車長が異状なしと報告すると、冴木はハッチから身を乗り出して前を指差した。先に進めと合図しているのだ。ハッチから上半身を乗り出している味方は拳に親指を立てて、了解、と合図を送った。

 壁と戦車に注意しながら先に進んでいく。交差点の中間地点に到達した瞬間、突然エンジンが爆発し、出火した。消火装置を作動させたが鎮火が間に合わず、砲塔の天板の上に白旗を掲げた。

 

「何・・・?何処から?」

 

 冴木は言葉を失った。戦車砲の音は聞こえなかった。しかし、それはあり得ないことだ。敵に有効なダメージを与えられる戦車砲の有効射程距離は最低でも800メートル、最高でも1.5kmだ。遠距離であっても市街地エリアで、限界まで距離を離したとしても精々1km弱、砲撃の轟音が聞こえてくるはずだ。対戦車ライフルを使ったとしても、距離を離してしまうとその分貫通力が落ちる。側面であっても貫通出来るか怪しいところだ。撃破されたM26の乗員は、訳が分からず混乱していた。

 




「今回もご愛読有難うございます。チリ改砲手の岩山と」

「装填手の柳川です」

「大分遅れを取ったな。でもやっと活躍できるからいいけどな」

「まぁな。それにもうすぐ決着がつくぜ。今度こそ、これで終わりに出来れば良いんだがな」

「大丈夫だ!俺たちが勝つぜ!最後に、感想、評価を宜しくお願いします!最後まで宜しくお願いします!」
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