ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

エリアCで戦闘状態になった合同チームは、チリ改との合流で一時的にだが戦況をひっくり返すことに成功する。
しかし敵の進軍の勢いを止めることは出来なかった。そこでルフナが囮となって残るといい、味方の撤退を援護した。
エリアBまで撤退することが出来た合同チームは、敵の隊長車のレーヴェを撃破する作戦を立てる。
チリ改とⅣ号でレーヴェを、残された合同チームの戦車で敵を殲滅すると言うものだった。作戦通りに事を運ぶ合同チーム、勝負の行方は!?



mission24 激戦の果てに

「・・・上手くいった」

 

 遠井(スコープ)はそう呟きながら大きく息を吐いた。その視線の先には隊長代理を務めている冴木佳奈が搭乗しているKVー4が見える。右の履帯を切断されて大きく右に傾いていた。構えている銃は(ゲヴェア)から借りたパンツァービュクセ39だ。普段から使っている99式狙撃銃では履帯切断は難しいと感じた(ゲヴェア)が借してくれたのだ。

 

「こちらスコープ。先頭を走行していた重戦車を狙撃。狙撃時に大きく左に傾いて戦車が1輌通れる隙間が出来てる」

 

 遠井(スコープ)が別の位置で構えている羽田(ラントミーネ)(ゲヴェア)に報告する。応答したのは観測手(スポッター)をしている羽田(ラントミーネ)だ。

 

「分かったそこを通り過ぎようとしたところをゲヴェアが狙撃する。スコープはその場から撤退して味方と合流しろ」

 

「了解」

 

 手短に報告を済ませると、銃を担いでその場から離れた。同じ場所で狙撃を続けると敵に居場所を知らせる事になるからだ。

 

 遠井(スコープ)が撤退を始めた時、M26がKV-4の間をすり抜けて先に進もうとしていた。そのM26を、パンツァービュクセ39よりも一回り大柄な銃がその姿を捉えている。

 T26E1ー1の砲塔上面に固定する形で乗せて、片膝をついた状態で銃を構えている。

 

「こんなのがまだ残ってたとは驚きだぜ。いつから準備してたんだ。この日本製対戦車小銃」

 

 操縦席で双眼鏡を覗いている羽田(ラントミーネ)が話し掛ける。試合に合流した段階では持っていなかったからだ。

 

「ちゃんとした名前で呼べっての。重量があるから試合の前日に積んどいてくれってドライバーに頼んだんだ」

 

「成る程ねぇ。こいつ軽量化したとは言っても30㎏前後はあるもんな」

 

 (ゲヴェア)が持ってきたこの小銃は『97式自動砲』と呼ばれるもので、旧日本軍では対戦車小銃に区分されていた。20㎜の銃弾を7発発射可能で、距離350メートルで30㎜。700メートルで20㎜の装甲を貫通出来た。反動が大きかったので、正確な射撃が難しかった。重量が59㎏もあり、10人の兵士で運んだという逸話もある。

 今回(ゲヴェア)が使用している物は、各部位を改良した物で、重量30㎏前後、貫通力は350メートルで40㎜、700メートルで30㎜の装甲を貫通可能とされている。反動の軽減は出来ず、精度は劣悪なままだった。最低でも履帯は切断したい。(ゲヴェア)は自動砲を構えながら大きく息を吐く。双眼鏡を覗いている羽田(ラントミーネ)が呟く。

 

「頼むぜ。お前が外したら作戦はパーだからな」

 

「黙ってろ。集中出来ねぇだろうが」

 

 スコープを右目で覗きながら舌打ちをする。敵が見えた。側面だ。右手の人差し指でトリガーを絞る。ギリギリまで絞り、その場で止める。スコープのクロス・ヘアがM26を捉えた。あと少し。中心よりやや手前でトリガーを引く。パンツァービュクセ39よりも強い衝撃が肩に伝わる。自動砲を撃つ度に肩が外れてしまいそうな思いをしている。肩に残る痛みを感じながらも、そのままスコープを覗き続ける。標的に命中した。エンジン部から黒煙を上げて、砲塔の天板に白旗を掲げた。

 

「お!1発で仕留めたぜ!流石だな」

 

「落ち着けバカ。見つかるだろうが」

 

 子供のようにはしゃぐ羽田(ラントミーネ)を宥めている(ゲヴェア)も、心の中でガッツポーズを決めていた。訓練では100発程撃って半分命中すれば上出来だった。まぐれなのか、狙い通りだったのかは分からないが、兎に角1輌撃破に成功したので急いでその場から撤退することにした。

 

「こちらゲヴェア。足止めと撃破に成功。今からそっちに加勢に行く」

 

 (ゲヴェア)が報告を終えて、車体をバンバンと叩いて合図を送る。羽田(ラントミーネ)がE1ー1のエンジンを絞りながら、そっとその場を離れた。

 

 

 冴木佳奈は混乱していた。戦車砲の砲撃音は一切無かったのに、目の前で味方が撃破されてしまった。歩兵による攻撃か?それとも聞こえなかっただけ?思考が頭の中を駆け巡っている。

 

「冴木副隊長。どうします?」

 

 側で座っている砲手が尋ねる。今は作戦行動中だ。このまま部隊を動かさなければ敵に見つかる。

 

「私たちは履帯の修理を。他は敵を見つけ次第各個撃破していきなさい」

 

 冴木の命令を受けて、後方で待機していた戦車郡が一斉に動き始めた。残り19輌。まだ大丈夫だ。今からでも巻き返しは出来る。敵の早期発見のために10輌の班と9輌の班に分けてエリアに散った。

 

 

 その様子を黒江琴羽がビルの上から見ていた。ルクスは近くにいない。歩兵の真似をすれば上手く行くだろうと考えて、徒歩でここまで来たのだ。側には歩兵の灘川(ボンベ)がいる。通信機を担いで琴羽と見張っていたのだ。

 

「お前も変わってんな。戦車から降りて偵察に来るなんてよ」

 

「この場所に戦車で来たらバレちゃうでしょ。それより早く連絡しないと」

 

 琴羽が通信機の電源を入れてヘッド・セットを頭に着けて話始める。

 

「こちら偵察班。敵が動き始めたわ。半分ずつで分かれて探すみたい」

 

「了解。急いで戻ってこい。合流ポイントはエリアAのβ(ベータ)だ」

 

 西住夏海が応答する。このエリアも市街地と同様に、3つの呼び方に分けている。エリアAのβは西側に位置している。

 

「分かりました。すぐに行きます」

 

 夏海との通信を終えると、今度はルクスの中で待機している琴音に迎えに来てほしいと連絡を入れた。

 

 

 エリアAのβ。敵が動き始めたと報告を受けた夏海たちも迎撃準備を始めていた。今度は待ち伏せではなく、歩兵と連携して少しずつ撃破していく事にした。最初で最後の全力を戦闘をする。その覚悟があるのだ。

 

「敵が近いかも。音がしてるよ」

 

 ポルシェティーガーの車長、中嶋美優が囁くように言った。近付いている。ルクスの走行音しては重い音が響いている。

 

「全車、戦闘態勢だ!ここで敵を殲滅するぞ!」

 

 夏海が激を飛ばした直後、敵が姿を見せた。角を曲がってこちらに接近してくる。

 

「先手必勝だ!ロケット!」

 

 赤坂(マガジン)が叫ぶ。敵が来るまで構えていた牧野(ロケット)による先制攻撃がE5ジャンボに命中し、撃破に成功した。

 

「全車突撃!敵を殲滅するぞ!」

 

 夏海が叫ぶと同時に、敵に向かって突撃していく。敵は奇襲攻撃を受けたからか反応が遅れているらしい。戦力の差を一気に埋めるチャンスだ!

 

「1輌ずつ確実に仕留めろ!1発も無駄にするな!!」

 

 乱戦状態になってしまったので夏海の命令は届かなかったが、その想いは誰もが感じていた。残りの弾数も少ない。確実に当てていく。

 知波単の西佳代子と、サンダースのリンは2輌で協力して動いている。互いに重戦車と戦うには戦力不足。その不足分を連携攻撃で補おうと言うのだ。

 

「リン殿!我々は正面に回って敵を引き付ける!その間に側面に回り込んで仕留めてくれ!」

 

「オッケー!任せて!」

 

 西が指揮を取る97式中戦車が標的であるM26に向かって突進していく。主砲の狙いは97式中戦車に向いている。速度は落とさない。敵の狙いを定めにくくするためだ。

 

「隊長!このままなら行けば突貫出来ます!やりましょう!」

 

 操縦手が目を輝かせている。他の乗員たちも同様に目を輝かせ、突貫しましょうと訴えている。

 

「いや。突貫はしない!今はその時じゃない!兎に角生き残らないと!」

 

 90㎜の砲弾が砲塔の側面を掠めていった。砲撃音が聞こえてきたので咄嗟に避けたのだ。乗員たちも西の言うとおりにしようと考えを改めた。

 M4シャーマンを指揮するリンも、速度を維持したまま前進しろと言っている。側面に回り込んでいる最中に囮役の97式中戦車に砲撃したので、今は装填中のはずだ。

 

「チャンス!今のうちに側面に回り込んでファイヤーよ!」

 

「「「「イエッサー!!」」」」

 

 車内は舞い上がっている。これまで逃げてばかりだったので、攻められる戦いが出来る事が嬉しいのだ。

 

「目標捉えました!」

 

 砲手が叫ぶ。

 

「ファイヤー!!」

 

 リンの指示に合わせるようにトリガーを引き、エンジン部に直撃させた。

 

「ナイス!よしこのまま次のターゲットを探すわ」

 

 突然車体がひっくり返された。撃破したM26の死角に別の敵が残っていたのだ。車体は横倒しになり、エンジン部から黒煙を上げている。

 

「隊長!味方のM4が!」

 

 砲手が指を指して叫んだ。

 

「リン殿!大丈夫ですか!?」

 

 西が安否を確認する。通信機からリンの明るい声が聞こえてきた。

 

「アハハ。やっちゃった。・・・後は任せるね」

 

「・・・分かった。任せろ!」

 

 西は通信を切ると、乗員たちに新たに命令を出した。

 

「一撃離脱戦法で敵を減らすぞ!敵がのけ反る程に接近して撃ち抜け!」

 

 西の命令を受けた乗員は声を張り上げて返事をすると、すぐに作戦を実行した。

 最高速度で敵の正面に突っ込んでいく。目の前に砲弾が着弾し、瓦礫が宙高く舞い上がる。少しだけ車体が浮き上がる。履帯が地面を捕まえて、グンと加速する。迫る敵戦車をギリギリで回避し、主砲で側面を一撃!爆発と同時に、ブワッと黒い煙が立ち込める。

 

「良いぞ!その調子だ!」

 

 西が奮闘している最中、重戦車たちも必死の抵抗を続けていた。1輌、また1輌と数を減らしていくが、終わりが全く見えない。その後ろで身を隠しながら攻撃している歩兵団も同じ気持ちだった。弾数も残り僅かなのに、終わりが見えない戦いに苦戦していた。

 

「マガジン!前に出られるか?」

 

 夏海が問い掛ける。

 

「この状況でか!?抵抗するだけで手一杯だよ!」

 

 悪態をつきながらも、反撃の手は緩めない。その直後だった。側で攻撃していたKVー2のエンジンから火の手が上がり、庇おうとして前進したISー2も猛攻撃を受けて撃破されてしまった。

 

「早く消火しなさい!この隙をついて距離を詰めて来るわよ!」

 

 撃破されてしまったISー2が盾となり、敵の攻撃を緩めていた。この間に何とかしなければと焦る。

 

「俺たちが前に出る!歩兵団は後に続け!」

 

 そう叫んだのはE1ー1を操縦している羽田(ラントミーネ)だった。E1ー1をKVー2の正面に回し、そのまま前進していった。正面装甲を増強しているので、M26の砲弾なら弾き返す事が出来た。

 その後ろを歩兵団員が続いていく。夏海たちもE1ー1で敵の射線を遮りながら攻撃を加えた。

 

 

 エリアB。

 レーヴェを孤立させることに成功した宗谷一行は、レーヴェを引き付けながら、かほと話し合って決めた合流ポイントに向かっていた。

 ポイントはエリアBとCの境界線。かほ一行はそこで待ち構えている。距離は約3㎞。攻撃を回避しながら高速で向かわなければならない。

 

「おい!予定の合流ポイントまでどれくらいだ!」

 

 素早いギア操作と回避行動を繰り返していたからか、福田には余裕が無くなっていた。集中力の糸が今にも切れそうな状態だ。

 

「後5分ちょいだ。そこまで何とか逃げ切れるか?」

 

 今は戦闘中だという事を忘れているような雰囲気で質問をする宗谷。この状況を理解していないのではないかと疑いたくなる言動に思わずため息が出る。

 

「ハァ。無理だ・・・って言いたいところだけど、やるしかないんだろ!?」

 

 福田の問い掛けに宗谷は頼むと一言だけ返した。

 レーヴェを孤立させようと言う作戦を立てたのはかほだった。宗谷は敵味方共に戦力を分散させないで殲滅しようとしていた。残り時間が少ないので短期決戦でけりを付けようという考えだった。

 そう伝えた時、かほが意見具申と称して待ったを掛けた。

 かほは隊長車であるレーヴェを孤立させ、チリ改、Ⅳ号戦車の2輌で決着を付けようと提案。宗谷はその考えに乗った。隊長車が抜ければ指揮系統は崩れると読んだのだ。

 種島は誰の意見も認めなかったと聞いている。副隊長がいたとしても、やられてしまえば指揮を取る人間がいなくなる。隊長無しで、どこまで戦えるのか。

 

「宗谷!現在戦闘中のティーガーⅠの西住から通信!」

 

 宗谷は軽く頷いてヘッド・セットを耳に押し当てた。

 

「西住だ。統率が取れてないのか、急に戦い方が雑になった。1輌の戦車に集中砲火を加えて、撃破したら次の敵に集中砲火と言った状態だ」

 

 やはりそうか。統率を取る人間がいなくなると、対応に遅れが出ている。

 

「分かった。こっちはあと少しで予定の合流ポイントに着く。ささっとレーヴェを撃破してそっちの手助けに行くから待っててくれ」

 

 通信を切って外を確認すると、かほが用意した合流ポイントの目印が見えた。下手な絵で描かれたアンコウの目がこっちを見ている。

 

「ポイントが見えたぞ!ここから先は反撃をする番だぞ!気を抜くな!」

 

 宗谷が激を飛ばす。合流ポイントに選んだのは建物が無い開けた場所で、重戦車と決着を付けるには最適とかほが考えたのだ。

 

「西住。何とかレーヴェを連れてきたぞ。それと・・・一体何をするんだ?」

 

 宗谷の問い掛けにかほはこう答えた。

 

「今は私の作戦を実行して。詳しい事は後で話すから」

 

 一体何を考えているのか。納得できない所はあるが、今はその指示通りに動くべきだと思い直した。

 

 

 Ⅳ号はビルの影に隠れてレーヴェが通り過ぎるのを待っていた。囮役のチリ改が通り過ぎた後、レーヴェが通り過ぎる筈。そのタイミングで攻撃し、足止めをするという作戦だ。

 

「西住殿・・・いよいよですね」

 

 額に汗を滲ませ、やや引き笑いで秋山が言った。

 

「ここで決着を付けるよ。もうこれ以上試合を長引かせる訳にはいかないからね」

 

 かほは落ち着いている雰囲気だったが、秋山と同じように額に汗を滲ませている。ティーガーⅠと行動している最中にレーヴェと遭遇した時、その迫力に押されそうになった。真正面から突っ込んで勝てる相手ではない。

 

「西住さん。来ます!」

 

 照準器を覗いている五十鈴が声を上げた。はっと我に帰ったかほは、射撃用意、と強めの口調で言った。チリ改が通り過ぎた後でこちらが射撃をする。ここからはタイミングが重要になる。

 エンジン音が近付いてくる。2輌。チリ改とレーヴェだ。五十鈴がトリガーを握り直す。車内は気が遠くなりそうな静寂が支配している。チリ改が通り過ぎた。次はレーヴェ・・・ここで決める!五十鈴がトリガーを掛ける指に力を込める。見えた!レーヴェが・・・砲口を向けている!

 

「冷泉さん!」

 

 かほが回避せよと指示を出した。レーヴェの砲口から発砲炎が見え、目の前が真っ白になった。

 

 

「何だ?誤射か?」

 

 宗谷が砲撃音を聞いて後ろを向いた。ここに来るまでこちらに向けて攻撃していたのに、突然関係無い方向に撃ち込んだ。進行方向に対して真横に撃ち込んでいる。Ⅳ号の現在位置までは把握していなかったが・・・まさか?

 

「宗谷!あれ、Ⅳ号のシュルツェンじゃないのか!?」

 

 柳川が砲撃で舞い上がった砂埃の一点を指し示した。1枚の鉄板が転がっている。目を凝らして見てみると、大洗の校章が描かれていた。

 

「北沢!Ⅳ号に通信を繋げろ!」

 

 最悪の事態かもしれない。さっきのレーヴェの攻撃は誤射ではなく、その場に隠れていたⅣ号を狙ったのだ。

 

「西住!応答しろ!」

 

 Ⅳ号と通信販は繋がっている筈。だが応答は無い。聞こえてくるのはブラウン管テレビの砂嵐のようなザーっと言う音だけだ。

 

「嘘だろ・・・西住!応答しろ!Ⅳ号戦車!現状を報告しろ!!」

 

 宗谷の問い掛けを無視しているような砂嵐は止まなかった。

 

 

 エリアAで戦闘中の夏海たちは、敵の数を11輌まで減らした所だった。歩兵と戦車の連携で、漸く終わりが見えて来た。

 だがこちら側の戦力もかなり削られてしまった。残っているのはティーガーⅠ。KVー2。ルクス。ポルシェ・ティーガー。E1ー1の5輌だ。歩兵団の装備の弾薬に限界が近付いていた。

 西が指揮を取る97式中戦車による一撃離脱戦法と、それに翻弄された敵に対して有効な攻撃を与える事が出来たが、97式中戦車はその途中で撃破された。最後まで勇敢な戦いをしてくれた。

 セモヴェンテM41は敵に接近して攻撃を仕掛けようとしたところを狙い撃ちされ、有効な攻撃を与えることが出来ないまま撃破されてしまった。

 M3はM26の側面に回って攻撃を仕掛けようとしたところ、別の敵に囲まれてあっけなく撃破された。

 KVー2は乗員たちによる必死の修理作業の甲斐あって何とか自走出来る段階にまでこぎ着けた。今の状況なら巻き返しは十分可能だ。

 

「みんな。いけるか?」

 

 夏海が問い掛ける。それぞれ大丈夫と返事を返す。

 

「よし。一気に畳み掛けるぞ!」

 

 突撃!そう言い掛けた瞬間、後ろからの砲撃でルクスが1メートル程飛ばされた。後ろを見ると、遠井(スコープ)が履帯を切ったKVー4が砲口を向けている。

 

「スコープ!さっき仕留めたんじゃ無かったのか!?」

 

 (ガトリング)が怒鳴る。

 

「こっちは指示通りに履帯を切っただけだよ!現状の武器じゃ装甲貫通出来ないだろうからって言われたから」

 

 遠井(スコープ)は声を震わせながら答えた。そう指示を出したのは夏海だ。重戦車ともなれば履帯の修理には時間が掛かるはず。今目の前にいるM26を全て片付けてから取り掛かろうとしていたのだ。

 

「今はそんな事を言い合ってる場合じゃないでしょ!私たちが相手をするから、あんたたちはM26を片付けて!」

 

 そう言ったのはサティだった。自慢の152㎜の榴弾砲で一撃必殺を狙うつもりだろうか。

 

「任せる!後のものは私に続け!」

 

 KVー2が後ろに回り、残りは目の前にいるM26の掃討に回った。

 1発ずつ確実に当てていくが、弾かれたりするので中々数が減らない。KVー4の撃破に回ったKVー2も苦戦していた。同じKV系列の戦車なので弱点を知っているつもりだったが、想像以上に装甲が厚かった。2発当てたが有効なダメージを与えることが出来ない。

 互いに苦戦しながらも何とか6輌まで減らすことが出来た。KVー2はKVー4のエンジン部を攻撃したが撃破には至らなかった。

 

「おいギガント野郎!こっちは何とかなりそうだからそっちに加勢に行くぜ!」

 

 羽田(ラントミーネ)がサティにそう言った。サティは「結構よ!」と返事をしたが、その時には既に向かっていた。

 

「結構って言ったでしょ!ここは私たちで何とかするから!」

 

 サティが怒声を浴びせたが、羽田(ラントミーネ)はお構いなしだ。

 

「何とか出来そうにないから加勢するんだよ。文句言わずに一緒にやろうぜ」

 

 羽田(ラントミーネ)はKVー4の後ろに回り込むために時速40㎞弱のスピードで接近させた。貫通力の高い主砲と言っても、正面装甲が簡単に貫通出来る程ではないと判断したからだ。

 

「行くぞゲヴェア!1発デカイ花火上げてやれ!」

 

 (ゲヴェア)羽田(ラントミーネ)の言葉を無視しながら照準器越しにKVー4を捉えている。トリガーを指に掛けて、大きく息を吐く。射線が通った。トリガー掛ける指に力を込める。引ききろうとした瞬間、KVー4の砲口がこっちを向いていることに気付いた。

 

「ラントミーネ!避けろ!!狙われているぞ!!」

 

 (ゲヴェア)が叫んだが既に遅かった。気付いた時には車内に大きな衝撃が走った。直撃弾を食らったのだ。その勢いのまま車体は傾き、横倒しになってしまった。

 

「だから良いって言ったのに。仇を取るわよ!車体後部を狙って、今度こそエンジンを吹き飛ばして!」

 

 サティが砲手に命令を下す。さっきは上手く行かなかったが、次こそは、必ず。

 照準器がKVー4のエンジン部を捉えた。もう外しはしない。

 

「撃てぇー!!!」

 

 叫び声とほぼ同時に榴弾が火を吹いた。E1ー1から脱出した2人が凄まじい轟音と爆風に煽られる。

「撃ったな」煙たい表情で羽田(ラントミーネ)が言った。

 煙のせいでどうなったかまでは分からない。徐々に煙が晴れてくる。降伏を意味する白旗が見えてきた。撃破したか。そう思った。

 

「おい・・・嘘だろ」

 

 (ゲヴェア)が絶望のどん底にでも突き落とされたような声で呟く。白旗を掲げていたのは、KVー2だった。

 KVー2が撃つギリギリのタイミングでKVー4も射撃をしたのだ。KVー4の弾がKVー2に命中し、車体を大きくずらして射線を変えてしまったのだ。もう対向出来る手段は残っていない。

 

「ゲヴェア!さっきの対戦車ライフルは!?」

 

「横転した時にぶっ壊れちまったよ!!」

 

 KVー4がじわりじわりと近づいてくる。このまま蹂躙されていくと絶望しかけたその時。KVー4のエンジンが突然爆発し、白旗を上げた。誰も攻撃はしていなかったので、一瞬何が起きたのか分からなかった。

 

「これなら文句無いだろ。ちゃんと撃破したからね」

 

 ふんと鼻を鳴らしながら遠井(スコープ)が言った。KVー4の注意がそれている間にビルに入り込み、狙撃ポイントを見つけて射撃したのだ。

 

「みんな。よくやってくれた・・・残ったのは私だけみたいだな」

 

 夏海が荒い息づかいで感謝を伝えた。味方はティーガーⅠを残して全滅。歩兵団の武器も弾薬が底をついてしまった。

 

「私はこれから宗谷たちの援護に行く。みんなは回収車が来るまで待機だ」

 

 全員が素直に従うことにした。弾薬も戦車も無くなってしまった以上、何も出来ない。後は見守るだけだ。

 ティーガーⅠが反転し、エリアBへ向かっていく。その様子を眺めていると、赤坂(マガジン)が異変に気付いた。

 

「ティーガーⅠ!後ろのM26がまだ生きてるぞ!!」

 

 夏海がその方向に視線を向けた時には、既に砲口を向けていた。白旗を掲げているとばかり思い込んでいたのだ。砲塔を旋回させるが間に合わない。

 結局間に合わず、エンジンに直撃弾を食らって撃破されてしまった。その時、凄まじい轟音と共に1発の砲弾が飛翔し、最後のM26を撃破した。

 赤坂(マガジン)たちが視線を一点に集中させた。その先には、砲口からうっすらと煙を吐いているロタ砲を構えている牧野(ロケット)の姿があった。

 

「わりぃ。最後の切り札のつもりで1発残していたんだが・・・たった今使いきった」

 

 ロタ砲を下ろしながら大きく息を吐いた。赤坂(マガジン)牧野(ロケット)の右肩に片手を置いて労った。

 

「いや、よくやったよ。1輌でも逃したら戦況が変わっていたかもしれないからな」

 

 夏海がそばに近寄って来た。その表情はとても暗く、今にも泣き出しそうな状況だ。

 

「みんな・・・すまない。私が不甲斐ないばっかりに・・・」

 

 深々と頭を下げる夏海に、サティが溜め息を吐きながら言った。

 

「あんたのせいじゃないわ。見落としていた事は私たちにも責任がある。落ち込む必要はないわ」

 

 赤坂(マガジン)が目を見開いている。慰めたりするんだな、という目で見ている。

 

「でもこれで、残ったのはチリ改とⅣ号だけになったんですね」

 

 琴羽の言葉に、乗員たちは顔を曇らせた。敵を殲滅し、援護に向かうつもりだったのに、完全に孤立させてしまう形になってしまった。

 

「あいつらなら大丈夫だろ」

 

 口を開いたのは(ゲヴェア)だ。

 

「俺には戦車道のせの字も分からないし、あいつらがどんな奴なのかも分からない。だけど・・・あいつらなら、なんか大丈夫な気がするんだよな」

 

 その言葉に、乗員たちは頷いた。根拠の無い事だが、何故か大丈夫だろうと感じている。彼らは危機的状況に何度も逢ってきたが、そんな中でも上手く切り抜けてきた。今回も、きっと上手く切り抜けるだろう。

 回収車が到着し、やられた戦車の回収作業を始めた。乗員たちは歩兵団が持ってきたホハの荷台と、トレーラーに分けて乗り込み、その場から撤退した。

 荷台から大通りを見る彼らの目には、エンジンからうっすらと灯る火を出しながら横たわる戦車が映っていた。それはまるで、戦争映画を見ている様な光景だった。

 




次回、最終回!
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