最終決戦も終盤に差し掛かり、敵戦車を次々と撃破していった合同チーム。しかし敵チームと相討ちする結果となってしまい、歩兵団の方も弾薬を使い果たしてしまった。
残されたチリ改とⅣ号の2輌は、レーヴェを撃破するために連携攻撃を計画していたが、Ⅳ号がレーヴェに撃たれたらしく通信が繋がらない。嫌な予感がした宗谷は、Ⅳ号に交信を試みる。
「西住!西住!応答しろ!Ⅳ号戦車!誰か応答してくれ!」
チリ改を追っていたのに、関係ない場所を砲撃したレーヴェ。その時は誤射かとばかり思っていた。しかし、地面に転がっているシュルツェンを見て、嫌な予感がしたのだ。
ずっと呼び掛けているが、Ⅳ号からの応答は全く無かった。聞こえてくるのはザーッという砂嵐のような音だけだ。
「宗谷!そろそろ反撃しないとヤバイ!これ以上は持ちこたえられないぞ!」
砲手席に座っている岩山が呼び掛ける。Ⅳ号の応答を待っている間、レーヴェからの攻撃を避け続けていたがこれ以上は限界だ。宗谷は呼び掛けをやめて、新たに命令を下した。
「・・・接近戦で対処する!まずは機動力で敵を翻弄するぞ!」
「分かった。車体振り回すから酔うなよ!」
福田がジグザグ走行を始める。正面装甲の貫通は出来ない。後ろに回り込んで装甲が薄い箇所を攻撃する以外に方法はないだろう。この動きに付いて来れないのか、レーヴェは中々攻撃を仕掛けない。
「福田!このまま前進だ!岩山!」
「おう!これまでやられた分、きっちりとやり返して・・」
岩山が言い終わる瞬間、車体が大きく振動した。レーヴェはどのタイミングで攻撃するのか見計らっていたようだ。同時にエンジンの出力が下がり始め、止まってしまった。
「福田!どうした!?」
「エンストだよ!今の攻撃で完全にイカれた!」
福田がエンジンキーを何度も捻るが、クランキングするだけでエンジンは掛からない。宗谷がハッチを開けてエンジン部を見る。火は出ていないが、僅かに軽油の匂いがする。
(まずい・・・燃料系統か。パイプに穴が空いて、そこから漏れてんのか)
宗谷の予想は当たっていた。破片がパイプを掠め、僅かだが漏れ始めている。ガソリンと比べて爆発的な引火の可能性は低いが、もう1発食らったら高確率で引火する。
更に砲塔の旋回装置が故障し、レーヴェに対して反対方向に砲身が向いてしまっている。動けないだけではなく、反撃も出来ない。
「宗谷!レーヴェが近付いて来てるぞ!!」
岩山が旋回ハンドルを引きながら叫ぶ。何とか動かそうとしているが、ハンドルは最初から固定されていたかのように動かない。
チリ改に問題が起き、動けないことを知っているのか焦らしながら少しづつ近付いてくる。
(エンジンは燃料系統がやられている。動こうにもエンジンが掛からないんじゃどうしようもない・・・ここまでか)
宗谷は目を瞑った。福田たちの呼ぶ声が少しずつ遠ざかっていく・・・かほたちと過ごしてきた楽しかった思い出が、走馬灯のように浮かんでくる。「みんな、ごめん」ボソッと呟いたとき、ヘッドセットから声が聞こえた。
「まだ諦めるのは早いと思うよ。宗谷くん」
突然呼び掛けられ、ハッと我に返った。今の声は・・・と考えていると、レーヴェのエンジンに直撃弾が当たった。撃ったのは、Ⅳ号だった。左側の車体側面のシュルツェンを飛ばされているが、まだ動けそうな状態だ。
「西住!無事だったのか!?」
「冷泉さんが咄嗟に避けてくれたから被害は軽微だったよ。でも通信機が故障しちゃって、さっき応急措置が済んだとこ」
連絡が取れなかったかほと漸く通信が繋がったことに安堵したのか、肺の中の酸素が全部出てしまいそうなほど深い溜め息を吐いた。
「ここは任せて、宗谷くんたちは応急措置をして。後でみんなに謝ることがないようにしてよ」
スピーカーの奥からクスッと笑う声が聞こえた気がした。もしかして、聞こえていた・・・?そう思った直後、急に体が熱くなった。
「宗谷!レーヴェが下がっていくぞ!」
岩山が指を指す。Ⅳ号の攻撃を鬱陶しく感じたのか、狙いをⅣ号に変えた。1㎜も動けない戦車を相手にする暇はないということだろうか。何がともあれ、これはチャンスだ。
「岩山は旋回装置の応急措置!北沢は俺と来い!エンジンの応急措置だ!」
「旋回装置はもうイカれてる!修理不能だ!」
岩山がターレットリングに指を指して怒鳴る。車体と砲塔の間に破片が入り込み、装置を完全に破壊してしまったのだ。
「砲身の俯仰角は調整出来るか?」
「それも無理だ。ー6度の辺りで止まってやがる」
岩山が舌打ちをした。駆逐戦車と同じ運用をしようにも、砲塔が正面に対して大きくそれている。操縦手と砲手の息を合わせようにも非常に難しい状態だ。
「分かった。取り敢えずエンジンの応急措置を優先する。射撃は・・・何か手を考えよう」
狙いをこっちに向けたは良いものの、どうやってレーヴェを追い詰めようかと、かほは頭の中で考えを巡らせていた。
五十鈴藍が牽制射撃を何発か撃ってみたが、攻撃は全然聞いていないようだ。
「西住さん。どうしましょう。正面の貫通は不可能です」
少し慌てた様子で藍が言う。それはかほも同じだった。分かってはいたが、過去に一戦交えたマウスに比べればまだマシな方だ。何処かに弱点は無いかと隅々まで車体を見た。
「藍さん。履帯を撃って。とにかく動きを止めないと」
「分かりました」
藍の顔がより一層真剣になる。
止まったままだと確実に狙い撃ちされるので、走りながら撃つ走行間射撃で仕留めるつもりだ。車体が揺れる中で標的をに狙うのは難しい。
そこで一度試し撃ちをし、標的に対して砲弾がどこへ飛んで行くのかを見て、2発目で確実に当てる。自走砲の射撃でよく用いられる手法だ。
藍は試し撃ちをして弾道を見た。砲弾は目標に対してやや左側に着弾。次は少し左側に修正してもう一度撃った。次は右の履帯を掠めて着弾。焦りがあるのか上手く当たらない。その様子を見ていたかほが囁いた。
「藍さん。花を生けるように、だよ」
かほの囁きに藍は少しだけ気持ちが楽になった気がした。
花を生けるように、母の華からいつも言われていた言葉だ。どうやったら射撃が上手くなるのかと聞いたとき、「花を生けるようにするのよ」と微笑みながら言われたことを思い出した。
藍はかほに頷くと、深呼吸をして再び照準器を覗いた。トリガーに指を掛けて、そっと引く。命中だ。レーヴェは右の履帯を切断さ肩をポンと叩き、ニコッと笑った。
「かほちゃん!レーヴェが砲身をこっちに向けてるよぉ!」
通信手の武部栞が叫ぶ。同時にかほたちが大きな衝撃に襲われ、そのまま1回転した。エンストを起こし、エンジンを動かそうとかけ直そうとするが、掛からない。朝子の顔が青ざめていく。
「マズい・・・こっちもだ」
何度もクランキングするが、エンジンは動かない。チリ改と同じ状況に陥ったのかもしれない。
「マズいです!相手の攻撃をまともに受けたら撃破されてしまいますよ!!」
優香子が藍の肩を持って揺らす。さっきは避けられたが、今度は避けられない。レーヴェの砲口がこちらを捉えた。このままでは撃破されてしまう。
レーヴェの砲口がⅣ号を捉えた。撃たれる、かほはそう覚悟した。砲口から砲弾が撃ち出されるその時だ。レーヴェの車体が大きく揺れ、砲弾はⅣ号の砲塔をギリギリで掠めて着弾した。
「ありがとう西住。応急措置が済んだ」
宗谷の声が通信機を通して聞こえてきた。レーヴェの後方でチリ改が突っ込んでいる。体当たりで砲口の向きを変えたようだ。
「宗谷くん!大丈夫だったの!?」
「燃料パイプに穴が空いてたけど何とかなった。そっちは動けるか?」
「無理だ。動くには動くが・・・出力が上がらない。これじゃすぐにエンストする」
朝子がアクセルを吹かしながら答えた。
エンジンの再始動には成功したが、Ⅳ号も燃料系統をやられたのかアクセルを吹かしても回転数が上がらない。
「こっちから押すから待ってろ。福田!!」
「Ⅳ号の後ろに回る!」
福田が応答すると、すぐにⅣ号の後ろにチリ改を回し、思い切りアクセルを吹かして押し出した。その後ろでレーヴェの砲撃が車体を掠めた。宗谷は「このままⅣ号を安全圏まで退避させる」と言ったが、かほはこう尋ねた。
「待って。そっちは砲塔の旋回装置が故障しているんでしょ?どうやって戦うつもり?」
「車体を左に向け続ければ何とかなるし、副砲がまだ生きてる」
「何とかなるわけないじゃない。副砲は前に固定されているし、主砲は下に向いているんでしょ?」
かほの意見に宗谷は何も答えられなかった。砲身が水平になっていない以上、ギリギリまで接近しなければ当てることは出来ない。上手く接近出来たとしても、弱点に命中させられるかも怪しい。
「こっちはエンジンがダメだけど、主砲は使える。福田さん、私の指示に合わせて戦車を操作して下さい」
「二人羽織かよ・・・どうする宗谷」
「二人羽織、か。それで行こう!福田、頼むぞ!」
宗谷はその作戦に乗り、福田は「まじでやるのかよ!」と突っ込みを入れた。無理そうな気もしたが、今はそうするしかない。かほからの指示に合わせて操縦を始めた。押す形になっているので前が見えない事に不安を抱えながらも、何とか指示通りに戦車を動かす。
レーヴェは履帯を切られて動きが制限されている。仕留めるなら、今しかない。2輌はレーヴェの右を通って後ろに回り込んでⅣ号の一撃で仕留めようという作戦だ。
「おいおい!レーヴェの砲口がこっち向いてるぞ!」
岩山がガンポートから外を見ていた。履帯は切れているがエンジンはまだ生きている。エンジンの動力を砲塔の旋回に回しているのだろう。宗谷はレーヴェの砲口に追い付かれると警戒し、福田を急かす。
「福田、もっと飛ばせ!」
「無理だ!これ以上出力を上げたら、修理をした箇所から燃料が漏れるぞ!」
「少しの間持てば良い!このままだと砲口に追い付かれるぞ!」
福田は舌打ちをしながら更に深くアクセルペダルを踏み込んだ。エンジンが嫌な唸り声を上げ、少し焦げ臭い臭いがしてきた。今はもってくれと祈ることしか出来ない。
あと少しでⅣ号の砲口がエンジンを捉えられる。藍がトリガーに指を掛け、優香子が砲弾を装填する。普段とは少し状況が違うのでタイミングが掴みにくい。
「藍さん。お願いします」
優香子が神に祈るように頼み込む。この一撃を外せば、次は無い。藍は深く息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。周りの音が遠ざかり、自分の鼓動が聞こえてくる。レーヴェの砲口がチリ改を捉える。
「水谷!副砲の空砲でⅣ号を撃ち出せ!!」
宗谷の怒鳴り声が響いた直後、レーヴェの砲口から砲弾が撃ち出された!砲弾が当たる直前にⅣ号が撃ち出され、加速する!
「頼むぞ!」
宗谷が全てを託した直後、チリ改がエンジンから火の手が上がった。攻撃をかわすことが出来たが、漏れ出した燃料が引火したのだ。ここから先はかほたちに全てを託すしかない。
Ⅳ号の車内は撃ち出された衝撃で大きく揺れたが藍は標的を捉え、トリガーを引いて砲弾を撃ち出した!
レーヴェの燃料タンクが誘爆して大爆発を起こし、砲塔の天板に白旗を掲げた。
〔東京パンツァーカレッジチーム、全車戦闘不能!よって、合同チームの勝利!!〕
アナウンスが興奮気味に勝敗を伝える。観客が一斉に立ち上がり、歓声を上げた。
かほたちはⅣ号から降りてチリ改に駆け寄った。火災は鎮火しているが、エンジンはやられてしまったらしい。宗谷はチリ改から下車し、かほに向かって頭を下げた。
「ありがとう」
「宗谷くんのためじゃないよ。勝つためにやっただけだから」
かほはそう言って手を差し出し、宗谷はその手を握り返した。色々あったが、より一層絆が深まったような気がした。
「何で・・・あんなに優勢だったのに」
声がする方を見ると、優衣がレーヴェから降りて寄り掛かっていた。絶望の谷に突き落とされたような目で俯いている。そんな優衣に、かほは近付いて話し掛けた。
「あなたは強かったよ」
「励ましてるつもり?余計なお世話よ。さっさと消えて」
優衣はかほに背を向けた。表情は見えないが、肩を小刻みに震わせている。
「強い戦車を使っても、優秀な乗員を揃えても、あなたは勝てなかった。宗谷くんはその答えを知っている。あなたも、今ならその答えが分かるんじゃないの?」
優衣は背を向けたまま何も言わなかった。その直後に戦車回収班が到着し、互いにその場を離れた。
会場。
宗谷と福田が故障してしまったチリ改の前に立っていた。砲塔は傾いたままで、車体は傷だらけになっている。機関室は完全に丸焦げになってしまった。学園に帰ってエンジンを乗せ換えないとならないだろう。
他の車両も傷やへこみ、焦げだらけだった。どの車両も、激しい戦闘をしてきたと物語っている。
「本気で言ってんのか」
福田が叫びそうになりながら聞き返した。
宗谷は今回の試合で起きた不祥事を全て水に流すというのだ。本来なら協会に報告し、対応してもらうのが筋というものだろう。
「それにお前、『戦車10輌貰う』っていう約束も破棄するんだろ。あれだけ酷いことされたのにお咎め無しなんて、誰も納得しないぞ」
「・・・これ以上の事をするつもりは無い。種島は負けた。それだけでも充分過ぎるほどの罰だ。俺たちが勝ったら勧誘を止めるっていう約束だけ守ってくれれば良い」
「お前なぁ・・・最初からこうするつもりだったなら、何で試合を引き受けたんだ」
「あいつに分からせるべきだと思ってな。戦車道では何が大事なのかをな」
宗谷は福田を残してその場を立ち去った。福田は何だかはぐらかされたような気分だった。
あの試合から1週間が過ぎた。宗谷たちは戦車道の授業に励んでいる。
あの後宗谷は参加してくれた生徒たちに種島の一件は水に流すと伝えた。「宗谷がそれで良いなら」と納得した生徒と、納得しない生徒と半々だったが、他校の隊長たちの計らいもあって、最終的には全員が納得した。
参加した歩兵団11名はそれぞれの地元に帰り、いつもの生活に戻っていった。隊長を勤めた赤坂は「久しぶりに楽しめた」と笑っていた。
授業が終わり、いつも通り戦車の整備をしていると、優香子が雑誌を片手に持って飛び込んできた。
「皆さん!大変です!種島さんが隊長を辞めたそうですよ!」
その報告を聞いて、整備をしていた生徒が一斉に優香子の周りに集まり、持っていた雑誌を覗いた。
最初の文には大きめのフォントで『東京パンツァーカレッジの種島優衣、隊長を辞める!?』と記載されていた。周りが驚いている中、宗谷は整備を続けていた。側にかほが近寄って話し掛ける。
「種島さん。隊長辞めちゃったんだね」
「・・・そうらしいな。でも、戦車道を辞めた訳じゃないんだ。種島流を絶やさないためにも続けるさ」
「そうね。彼女は凄かった。でもあんな事をしてまで勝利しようとしたのは、残念だったけど」
かほが軽く溜め息を吐いた。宗谷は特に気にすることはなく、黙々と作業を続けた。
「戦車道を辞める?本気で言ってるのか?」
会場に戻り、戦車の回収が終わった後の事だった。宗谷は優衣に呼び出され、戦車道を辞めると告白されたのだ。
「私はこの試合に全てを掛けてきたのよ。負けたら戦車道を辞める覚悟もあった。この試合で危険な事に手を出して、私は負けた・・・もう戦車道を続ける資格なんて無いのよ」
「何で俺にそんな事を告白をする?自分が抜けるから埋め合わせをして欲しいとか言うつもりか?」
「まさか。そんなつもりは無いわ。話はそれだけよ」
優衣は宗谷に背を向けて歩き始めた。そんな優衣に、宗谷は声を掛けた。
「続けろよ。戦車道」
優衣の足が止まった。かほの時と同じように背を向けたままだ。
「戦車は1人で動かせない。車長、操縦手、砲手、装填手、通信手・・・この5人で戦車を動かすんだ。俺が特に重要だと感じているのは、乗員同士でどれだけ連携が取れるか、互いを信頼出来るかだ。戦車に乗る時だけじゃない。どんな場面でも大事な事だろ?お前も、その事に気付いている筈だ。それでも続けるか、辞めるかは自由にすれば良い」
話し終わると優衣と反対の方向を向いて歩き出した。自分の陣営に戻り、大事な話があると言って福田を呼び出した。
(あの様子じゃ辞めるかと思ったけど、続けるか。次に試合をする時は、正々堂々とやろうぜ。種島)
宗谷は整備の手を止めて上を見上げた。雲1つ無い、青く澄みきった空が広がっていた。
宗谷佳 奪還作戦!!編
あとがき
かなり時間が掛かってしまいましたが、無事に完結させることが出来ました。最後まで読んで下さった読者様には、心から感謝致します。本当に有り難う御座いました。
伝説の機甲旅団は完結となりましたが、これからも小説を執筆していこうと思います。これからも宜しくお願いします。