ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

大洗と旭日が対戦!チリは安全弾が少かったため、30発のみで試合に挑むこととなった。砲弾が少ない中で戦うことになったが、引き分けまで持ち込むことが出来た。
試合の結果に不満はない宗谷だったが、この後波乱の展開になるとは、誰も予想していなかった。


第5章 本当の西住かほ

 試合が終わった。今回は引き分けとなったが、旭日の実力を十分見せつけられた試合でもあった。たった1輌でここまで奮闘出来るとは思っていなかったので、指導員たちは圧倒されっぱなしだった。ただ、元4号の搭乗員だったみほたちからすれば、昔の自分達を見ているような感じだった。

 当時はみほを除く全員が初心者だった。操縦も、装填も、射撃も初めてだったあの時はみほからのアドバイスを基に手探りで戦車を操っていた。それから試合を通していく内に、みほは自分の戦車道を見つけた。大切な仲間と一緒にやるから戦車道は面白いのだ。

 みほが指導員になったとき、必ず生徒に伝えていたのは『一緒になったチームメイトは絶対大事にすること。』戦車道で勝ち抜くならチームワークは必要不可欠になる、だからこそチームメイトは大事にしてほしいという思いがあるのだ。

 ただ、今のチームは宗谷も感じていたことだが統率感がないのだ。つまり、チームワークが足りていないように感じているのだ。

 今回の試合は、隊長車である4号が1輌での単独行動をしていた、この選択が大きな間違いをしていたのだ。本来なら、1輌だけでの単独行動は隊長車以外の戦車が行うはずだ。偵察などの任に就くなら尚更だ、隊長車が単独行動をすると一気にチームワークが崩れる可能性も十分あり得る。そして、みほの思惑通りになってしまったと言うことだ。

 現在のヘッツァー車長の穂香は、1発勝負で挑む所があるので冷静な判断が出来ないのだ。チリとの勝負の際も、B1bisの判断を待たずに攻撃を仕掛けて返り討ちに遭ったのだ。この性格は去年の試合でも出してしまったことで、連携が一気に崩れて大洗側が窮地に立たされてしまったのだ。この時で一番活躍したのはかほの冷静な判断力だった、この対応をしたからこそ連携は保たれたと言っても過言ではないだろう。

 連携は大洗側が上手だったが攻撃の面では黒森峰が1枚上手だった、大洗側は連携と戦術で挑んだが負けてしまった。みほはいい連携が取れていたから良かったと褒めたが、かほは納得出来た試合では無かったと言った。思えば、チームがバラバラになってしまったのはそれからだろうか。

 あの試合以来、このチームが上手く連携を取れたことはほとんど無い。全車がバラバラに動き、1部だけがまともに連携が取れている感じだ。これでは意味がないのだがどんなに言い聞かせても変わることは無かった。今度ばかりはガツンと言わなければとみほは思っていた。

 一方、チリと4号は学校に戻っている最中だった。激戦を繰り広げたスポット294から学校まではかなり距離があるので時間がかかるのだ。宗谷は退屈しのぎに4号に通信していた。

 

「いやー、今回は引き分けかー。せめて勝敗は決めたかったな」

 

 〔引き分けは良いですけど宗谷さんたちズルいです。機銃を撃ってくるなんて想定外ですよー〕

 

「そう言うなよ、これもある意味戦術だよ」

 

 〔それよりも!あの回転撃ちは凄いですよ!あれ試合でもやれますか!?〕

 

「まあ、出来ないことはないな」

 

 岩山が通信器を手に取った。

 

「なあ、回転撃ちよりも『リボルバーショット』の方が格好よくないか?」

 

 〔なるほど!回転するからリボルバーなんですね!誰だか分かりませんけど冴えてますね!!〕

 

「褒めらてんのか分からないけどサンキューな」

 

「おい、そろそろ着くぜ」

 

 2輌は20分かけて学校へ戻ってきた。宗谷が砲搭から頭を出した。

 

「すみませーん、遅くなりましたー」

 

「遅いぞ!早く戦車を停めて整列だ!」

 

「すみません。福田、格納庫の近くにチリを移動させろ」

 

 チリが格納庫の前に着くとすぐにエンジンを止めた。整列しようと集合場所に近づいていくとみほがかほに話をしていた。宗谷たちでも分かるほどに機嫌が悪そうだ。

 

「かほ、何であなたの戦車が別行動を取ったの?」

 

「それは相手の出方を見るためよ。特に今回は新しい戦車が1輌加わってたから、どれだけの戦力なのかを確かめたかったのよ。」

 

「何で隊長車が別行動を取るの?隊長車は全体に指揮を取らないといけないってずっと言って来たでしょ?」

 

「私の戦車道が気に入らないの?お母さんいつも言ってたよね、『自分にとって納得が出来る戦車道をやってほしい』って、私のどこがいけないのよ!」

 

「『チームワークを守ってほしい』って言ってきたでしょ!チームワークも大事にしないと試合で勝ち抜くなんて無理よ!!」

 

「お母さんは考えが古いのよ!昔はチームワークが大事だったかもしれないけど、今は攻撃をどうするかを考える方が大事なのよ!!チリの戦い方を見たでしょ!?1輌で残るために攻撃をバンバンしてたでしょ!!」

 

 宗谷たちはいきなりのとばっちりに戸惑ってしまった。まさかのここでとばっちりが来るとは思っていなかった。みほは旭日のメンバーは関係がないと言い返し、2人の喧嘩は更にヒートアップしてしまった。

 こうなってしまったら誰にも止められない、杏も止めに入るが全く効果は無い、福田たちはただただ呆然と見ていた。宗谷はため息をつくとチリに向かっていった。呆然としている福田たちに、桃から止めに入れとさらなる追い討ちをかけられ、止めようとするが女性同士の喧嘩はそう簡単に止めることは出来ない。

 

『ズバーン!!!』

 

 喧嘩が止まった、止めたのは福田たちや大洗のメンバーではない。チリの空砲が2人の喧嘩を止めたのだ。これはこれで効果はあったようだ。宗谷がチリから降りて歩いてきた。

 

「・・・・・何で空砲で喧嘩を止めるんだよ」

 

「まぁ、取り敢えずな。でもちゃんと収まっただろ?」

 

「収まったと同時に静まり返っちまったよ」

 

 宗谷はかほの前で止まり、話し掛けた。

 

「考えが古いなんて失礼じゃないか?確かに今も昔も攻撃の方がメインかもしれない。だがな、俺個人の意見としては、チームワークの方が大事だと思うんだが」

 

「あなたに何が分かるのよ!戦車道の試合に出たことなんてないくせに!!」

 

 そう言い残すとかほは走って校舎に行ってしまった。4号のメンバーはかほを追いかけていった、宗谷はため息をついた。

 

「ハァ・・・・・『試合に出たことがないくせに』、か。まあその通りなんだけど」

 

 みほが宗谷に謝った。

 

「ごめんね、宗谷くん。後でちゃんと言い聞かせておくから」

 

「気にしないで下さい。彼女の言うことはごもっともです。言い聞かせるのは、少々お手柔らかに」

 

 岩山たちは宗谷に話しかける女性が誰だか分からなかった。指導員たちの制服には、各戦車に描かれている絵が胸元に描かれている。誰がどの戦車を担当しているのか分かりやすくするためだ。

 みほの胸元にはアンコウが描かれているので4号の担当であることは分かっているが、名前が出てこない。岩山がこっそり福田に聞いた。

 

「なあ福田、あの人誰だったっけ?」

 

「元4号の車長、現4号指導員の西住みほさんだよ」

 

「あ、思い出した。確か黒森峰の副隊長をやってて、大洗に転校した人か。ん?じゃあ何で大洗に転校したんだ?」

 

「さぁな、それは俺も知らないよ」

 

 すっかり静まり返った格納庫前に、杏の声が響く。

 

「えっと、今日の戦車道の授業はここまでね。午後の一般教科、頑張ってね」

 

ーーー

 

ーー

 

 

 今日の授業は終わった、ただ宗谷はなんだかすっきりしなかった。試合はともかく、あの2人のその後が気になって仕方がない。栞たちが追いかけていってどう慰めたのか、気にすることではないのだがこれからこのメンバーでやっていかなければならない。どうしても気になってしまう。

 

『あなたに何が分かるのよ!戦車道の試合に出たことなんてないくせに!!』

 

 頭にはこの言葉が過る、確かにまだ本番に出たことはない。ああいう風に言われても仕方がない。ただそれ以上に気になるのだ。かほはどうして、戦車道を嫌うのか・・・

 

「おい、おい。大丈夫か?しっかりしろ」

 

 はっと我に帰ると目の前に紅茶が入ったティーカップが置かれていた。宗谷は福田と一緒に学校帰りにそのままの足取りでルノーに来ていたのだ。そして紅茶を頼んで・・・それからどうしていたのか記憶にない。

 

「お前頼むだけ頼んでぼーっとしてたんだぞ。もしかして、さっきのこと気にしているのか?」

 

「ああ・・・西住隊長が、どうして戦車道を嫌うのかを考えてた」

 

「他人の心配かよ。まぁ良いか、さっさと飲めよ。冷めるぞ」

 

 カップを手に持ったがどうも飲む気にはなれなかった。かほの事が気になり、授業が終わった後に探したが見つけられず、もしかしたらここに来るかもしれないと思いルノーに来たのだ。

 ルノーに来て30分経ったが来る気配は一向に無い。店の中は紅茶の香りに包まれ、静かだった。あまりに静かだったので福田から話を切り出した。

 

「なぁ、この間ここに来たときにお前と西住隊長だけで席を外したよな?あの時何を聞いたんだ?」

 

「あの時は何で戦車道を嫌がっていたのかを聞こうと思っていたんだよ。でも肝心な事を聞こうとしたら川井店長に止められた」

 

「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでよ。あれは紅茶を差し入れようとしただけだからね」

 

「分かりました、そういうことにしときますよ」

 

「それより、これからどうやっていくつもりだ?親子関係のいざこざに巻き込まれながら、戦車道の練習なんてやってられねぇぞ。しかもあの状態じゃ、勝ち上がるなんて夢のまた夢になるぞ」

 

 福田は今後のことが気にかかっているようだ。福田が言うように、このような状態では勝ち上がることは不可能に近いだろう。宗谷はすっかり冷めてしまったティーカップを手に持ちながら答える。

 

「うーん・・・お前の言うことには一理あるな。今の状態じゃあ勝てないよな・・・まぁ何も難しくないさ、要はあの2人の関係を治してあげれば良いんだよ。周りがどうにも出来ないなら俺たちでどうにかするまでだ」

 

「何も難しくないって・・・・・相当難しいと思うが・・・で?どうするつもりだ?」

 

「まずは、西住っていう人物像を整理しないといけないからな。明日は聞き込みだ」

 

「聞き込みって・・・俺たちは刑事じゃなくて、戦車の搭乗員だぞ」

 

「情報収集は基本だろ?さぁ行くぞ」

 

 宗谷は冷えきってしまった紅茶を一気に飲み干し、店を出た。呆れながらも、福田はついていくことにした。

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 翌日の午後、生徒たちは戦車道の練習に励んでいた。あんないざこざがあったので、かほは来ないのではと思っていたが、今日も全員集まった。

 今日も今まで通りに練習をする。隊列を作り、砲撃の練習をして、敵から逃げるために退路を作る練習も行った。そして、一通り練習を終えて休憩している1年生チームに北沢が話しかけに来た。

 

「休憩中に悪いけどちょっと失礼するぜ」

 

 1年生たちはいきなり北沢が来たので和やかな雰囲気が急に緊張感に変わった。あいかがポツリと話しかける。

 

「な、何か用ですか?」

 

「そんなに固くなるなよ、西住隊長の事を聞きたいんだ」

 

「西住先輩ですか?何かやらかしたんですか?」

 

「いや、やらかしたとかじゃなくてどういう人なのかを聞きたいんだよ。何かあんまし良い人っていう感じがないからさ」

 

「西住先輩はいい人ですよ!あの人ほどいい先輩はいませんよ!!」

 

「わ、分かったから落ち着けよ。で、どういう人なんだ?」

 

 あいかたちが知る限りでのかほは、1年生の自分達をよく気遣ってくれる優しい人なんだと言った。入学したての時に戦車に乗ることに手こずっていたところにかほが様子を見に来て、どうやったら良いのかを教えてくれたのだという。

 だが、ただ優しいというだけでなく、練習試合の時も手加減せずに全力でかかってきてくれるのでいい練習相手にもなってくれているのだとか、澤の印象としては優しく、時に全力で練習にも付き合ってくれる気遣いが出来る人、と言った。

 

「へぇー、西住隊長にも以外な一面があるもんだな」

 

「だからそう言ってるじゃないですか。西住先輩はとってもいい人なんですよ」

 

「よく分かったぜ、ありがとよ」

 

 北沢は一通り話を聞くとその場を去っていった。1年生たちの印象としては気遣いが出来る人、という事が分かった。北沢は今聞いたことを全て宗谷に伝えた、この話を聞いて宗谷も驚いている。

 

「気遣いが出来る人か、以外だな。そんな感じはあまりしないけど」

 

「俺もそう思ったけど、1年生の・・・誰かは分からないけど、そいつはとっても『良い人だ』って言い張ったから、間違いではなさそうだ」

 

「そうか、ご苦労だったな」

 

「ところで、後の連中は何処行ったんだ?」

 

「聞き込みに行ってもらってるよ。情報が届くのを待ってるとこさ」

 

 3突のメンバーの聞き込みに行っている岩山は、砲弾の補給の手伝いをさせられていた。話してくれたのは車長の松本美幸(まつもとみゆき)(里子(りこ)の娘)だ。

 

「へぇー、西住隊長って独りよがりなとこがあんの?」

 

「うむ。あまり会話もしないし、思いっきり笑っているところも見たことがない。アンコウの五十鈴殿も、西住殿に関してはあまり会話はしていないと言っていたな」

 

「それってつまり、人付き合いが苦手ってこと?」

 

「そう言うことだな」

 

 人付き合いが苦手だというのは納得が出来た。この間一緒にルノーに行ったときも会話はほとんどしなかったし、笑っているところも今のところ見ていない。岩山は砲弾の補給を済ませるとチリに戻っていった。

 一方、柳川は3式中戦の搭乗員の3人組に話を聞きに来てい 。だが3人は携帯ゲームをしていてあまり会話は成り立っていない。

 

「・・・えーっと、西住隊長がどんな人なのかって言うのを聞きに来たんだけど・・・何でゲームしてんの?」

 

「あ、ごめんなさい。今良いとこなんですよ」

 

 

「援護お願い出来る?ミカンさん」

 

「任せてー!ほい!やったー!!クリアー!!」

 

 柳川には全く分からないがゲームはクリアしたらしいので、とりあえず話を聞くとこにした。

 3式中戦の車長の猫田(ねこた)(ねこにゃーの娘)も里子が言っていたことと同じだった、が柳川からしてみればゲームばかりしているから会話をあまりしていないのでは?と別の疑問が浮かんできた。後の2人も同じ話だったのでチリに戻ろうとした、が猫田が柳川を止めた。

 

「あの、もしよければゲーム友達になりませんか?これ面白いんですよ」

 

「いや、俺は遠慮しとくよ。ゲームなんてあまりやらないし」

 

「えー、やりましょうよ」

 

「お願いしますー、絶対楽しいですよ」

 

 柳川が迫られている最中、水谷はB1bisの車長、園秋子(そのあきこ)(緑子(みどりこ)の娘)に話を聞きに来ていた。だが秋子は中々会話に応じてくれない。

 

「頼むよー、あんたが知っている西住隊長の事を話してくれればそれで良いんだよ」

 

「なんであなたに教えないといけないのよ。それに、私今忙しいんだけど」

 

「磨き終わっている双眼鏡をただ拭いているだけがそんなに忙しいのか?」

 

「うるさいわね!とっととチリとか言う戦車に戻って、練習の準備していなさい!!」

 

「・・・・・ハイハイ、分かったよ」

 

 諦めるしかない。これ以上問い詰めたら何をされるか分からないし、女子を怒らせると怖いと聞いた事がある。昨日のあれがあった後に怒らせる訳にはいかない、怒らせる前に去ろうと思っていたとき、B1から声が聞こえてきた。

 目を向けると女子が1人呼んでいた、B1の操縦担当の後藤優衣(ごとうゆい)(もよ子の娘)だった。何故か秋子から隠れるように言われ、B1の中に入った。ここなら外に声は漏れないからだ。

 

「サンキューな。て言うかあいつ何なんだ?話に応じてくれても良いじゃねぇか」

 

「ごめんね、園さんってお母さんに似て規則に厳しいから」

 

「俺と話するのと規則と何の関係があるんだよ」

 

「うちの学校男子との接触禁止だから、その規則を守ろうとしていると思うよ?」

 

 水谷は納得出来ると思う反面、これから一緒に試合をしようとしているのに男子との接触禁止を守ろうものならまともな意志疎通が出来なくなりそうと思うのだった。

 優衣の見解としては規則を忠実に守る真面目な人だということだった。去年も皆勤で服装の着こなしもよく、成績もそこそこ良い、と言った。

 だが暗い感じがあり、同い年なのだが会話したことはほとんど無いのだという。暗い感じはあまり感じしないが、どうもそうらしい。

 

「・・・で?私たちに何を聞きに来たの?」

 

「えーっと・・・ちょっとしたことなんですけどね・・・・・」

 

 福田はいつも以上に緊張していた。何故なら一番聞き込みにくいイメージがあるヘッツァーの3人に話を聞きに来たのだ。相手は3年生の集団だからなのか、ただ話を聞きに来ただけなのに半端じゃない緊張感を味わっている。梅が疑わしい目で福田を睨む。

 

「何か企んでいるのか?この学園の秘密を探っているなら容赦しないぞ」

 

「待ってくださいよ、学園の秘密なんて知る気は全くないです。俺が聞きたいのは西住隊長の件なんです」

 

「かほちゃんのこと?そんなの知ってどーすんの?」

 

「これから一緒に戦車道をやっていく身ですから、どういう人物像なのかを聞いておこうと思って」

 

「かほさんねぇ・・・あまり感じがいい人ではないよのね」

 

 夏子の見方としては取っ付きにくい感じがあるらしく、入学したてのときはよく会話もしていたのだがかほとっての初めての試合のあと、急に暗くなったというべきか、何故か戦車道の見方が変わったのだという。

 自分から進んでやる、というよりも母であるみほの立場に泥を塗らないためにやっているとしか思えなくなったのだという。西住家には『西住家流戦車道』という流派があるらしく、かほがもし辞めるということになればみほが責任を問われるかもしれない。

 かほは自分のための戦車道をやっているのではなく、流派のためだけに戦車道をやっているという感じがして、疲れきっているように見えるのだという。

 

「『西住家流戦車道』ですか、そんな流派があったとは初耳です。流派を守るために戦車道をやっているんですか?」

 

「そんな感じがするの、西住家流っていう流派があるっていうのはお母さんから聞いたんだけどね。それを聞いてから思うの、流派に泥を塗らないためにやっているんじゃないかって」

 

 流派を守るため、ただそれだけなのだろうか。後で辞めようと思うのなら最初から入らなければ良かったのに、何故わざわざ入ったのか・・・福田は疑問が深まった。だが必要な情報は聞けたのでこれでおいとますることにした。

 

「ありがとうございました。お陰で、貴重な話が聞けましたよ」

 

「ところで、何でこんなこと聞いて回ってんの?もしかして、かほちゃんに惚れてんの?」

 

「まさか、どういう人なのかを聞きたかっただけですよ。」

 

 そう言い残すと福田はチリに戻った。聞き込みに行った5人が全員戻ったところで、宗谷は情報を元に人物像を整理した。

 暗い感じでほとんど人と話さない性格だが、人を気遣うという長所がある、といった感じだろう。宗谷の見解は隊長としての素質はあるのだろうが、少し覚束ない感じだということ。そして、戦車道を嫌っているのには別の理由があるだろうということ。

 福田たちはその別の理由が知りたかった、戦車嫌い以外に理由があるとは思えないのだ。ほかに何かあるとすれば・・・なんだろう?

 

「あ、そうそう、午後は別の戦車に乗るからその点よろしくな」

 

「別の戦車に?それは良いけど、どの戦車に乗るんだ?」

 

「決まってんだろ」

 

ーーー

 

ーー

 

 

 午後の練習を始めるため、メンバーが各戦車に乗り込み、準備を始めた。しかし、4号のメンバーはまだ乗り込んでいなかった。宗谷が4号に乗って同行させてほしいと言ってきたのだ。

 宗谷はかほの活躍を見たいからと言ったが、本当の目的は推測を確信にするためだった。つまり、本人の横にについてより詳しく知ろうと思ったのだ。

 

「私たちについてくるってどういう意味?ていうか、あなたチリの車長なんでしょ?」

 

「チリへの指示はこれを使ってやるから心配いらないよ」

 

 宗谷は肩に掛けているものを見せた、80年代に造られた※ショルダーホンだ。無線機もあったのだが、調子が悪いのでショルダーホンを持ってきたのだ。これなら車外でも通話が出来る。栞はショルダーホンを不思議そうに見た。

 

「へー、これで通話出来るんだ」

 

「頼むよ。許可は貰ってるし、迷惑はかけないからさ」

 

 かほはどうしようか迷ったが、『許可は貰っている』と言われたので同行させることにした。

 

「分かったわ、でも車内は狭いよ」

 

「ああ、俺ならここで良いから」

 

 そう言うと宗谷は4号の車体に乗り、シュルツェンの接合部にフックをかけた。

 

「はっ!?そこに乗るの!?」

 

「おう、ここならわざわざ車内に入らなくても良いし、今からやる練習は対戦車砲撃じゃなくて的当てだし、それに命綱はちゃんと付けとくから心配いらないぜ」

 

「でもそこじゃ危ないですよ、狭くなっても構いませんから車内に入ってくださいよ」

 

「心配どうも、でも俺はここで良いよ。中だとショルダーホンの電波が届かないから、チリに通信できないんだよ。だからここで良いさ」

 

「分かったわ、でも本当に良いの?」

 

「ああ、心配無用だ」

 

「宗谷!出発するぞ!」

 

 福田に呼ばれ、4号のメンバーも乗り込む。全車が一斉に動き練習場に向かっていった。

 

「福田、遅れるなよ。離れすぎたら通信できなくなるぞ」

 

 〔了解。どうだ?戦車の外は〕

 

「思ってた以上に快適だぞ。風が気持ちいいからかな?まぁとにかく、距離置きすぎんなよ。じゃ、また後でな」

 

 通話を切るとかほが砲塔から頭を出して様子を見た。

 

「あの、本当に大丈夫なの?砲撃を始めたらかなりの轟音が出るよ?」

 

「大丈夫大丈夫、耳当てあるから轟音対策も万全だよ」

 

「そう、それなら大丈夫だね。でも、気を付けてね」

 

 何故なのだろう、昨日と全く様子が違うように感じる。あの時の威勢はどこへ行ったのか・・・・・ああいう風に言われたから確実に拒否されると思っていたのにすんなりと受け入れてもらえた。あいかが言っていた『良い先輩』と言うのは、断れない性格だからなのか?

 練習場に着き、早速砲撃の練習が始まった。内容は各車10発ずつ撃ち、的を撃ち抜く。10発撃ったら交代し、また別の戦車が練習をする。

 やることは単純なのだが各車ごとに砲の大きさは違うことと、個人差があるので全車の命中率が100%とは限らないのだ。宗谷が見る限りでも10発中10発当てられた車両は無かった。

 双眼鏡で的の距離を目測しているとかほが別の戦車に通信している声が聞こえてきた。耳を澄ませると撃つ時のコツを教えているようだった。初めての練習で隊列の作り方はいまいちだったが、個人で説明するなら出来るようだ。

 宗谷も車外通信しながら指示を送り、チリも砲撃をする。やはり中とは違い外の方が音がでかい、おまけに別の戦車も撃ち始めたので中々指示は伝わらない。

 そんな中で砲撃練習を終えると、本部の杏から全車に向けての通信がきた。

 

 〔みんなご苦労さん、と言いたいところなんだけど、今から『潜水渡渉(せんすいとしょう)』の練習するから、渡渉練習場まで来てね〕

 

 潜水渡渉とは河を潜って渡ることで、重量級の戦車が橋を渡れない時に行う技法である。旧式の戦車はマフラーから水が入らないようにするためにシュノーケルを取り付けなければならないのだが、2メートルにも満たない深さなのでシュノーケルは不要だ。

 練習場は戦車が入れる幅に水が入ったプールがあった。なるべく波を立てずに素早く渡る事が望ましい、波を立てると発見されてしまうし、エンジンに入ってしまい止まってしまう可能性も出てくる。つまり、『焦らず素早く渡れ』という事だ。

 早速練習を開始すると、結構上手く渡れる戦車ばかりだった。ただ渡るだけだからそんなに難しくはない。4号の番が回ってきた、だがかほは指示を出さない。

 

「どうしたんだ?順番回ってきたぜ」

 

「う、うん。ち、ちょっと待って」

 

 かほは深呼吸すると前を見た、目の前には水が波紋をたてている。大丈夫、難しいことじゃないんだから・・・

 

「ぜ、前進!」

 

 4号がゆっくりと前進し、プールに入っていく。後はこのまま渡っていくだけだ。かほは緊張しているのか手が震えている。

 

「て、停止!!」

 

 いきなり止まれと言われたので七海はブレーキを踏んで止まった。エンジントラブルでもないのにいきなり止まったので宗谷は何が起きたのか分からない。

 

「どした?トラブルか?」

 

「いや・・・エンジンは問題ない・・・」

 

「車内も浸水したとかはないですよ」

 

「トラブル無し?一体何があったんだ?」

 

「ご、ごめん、前進して。大丈夫だから」

 

「おい、汗だくだけど大丈夫か?」

 

「大丈夫、本当にごめんね」

 

 チリから覗いている福田たちも急に止まったので心配になっていた。すぐに動き出したが、また止まるんじゃないかと思っていた。

 

〔おい宗谷、何があった?〕

 

「あー、大丈夫だ。エンジンも問題無いし、浸水も無いってさ」

 

〔あ、そう・・・なら良いけど〕

 

 宗谷はこの時点で、かほが戦車道を懸念している理由がある程度分かっていた。どういう事かというと、かほには直接的な関係は無いが全ての理由は過去にあるという事だ。

 その後、チリも練習を終えて今日の練習は終了した。全車が格納庫に入り、宗谷はチリの整備をするように指示をして何かを書いていた。福田が覗いてみるとかほに対して手紙だった。

 

「何だよ、整備の記録じゃなくて手紙か。しかも西住隊長宛じゃねぇか」

 

「あったり前だろ、これから理由を聞き出すんだから招待状ぐらい書かないと失礼だろ?」

 

「招待状ほど大袈裟な物じゃないだろ?ていうか、お前も携帯持てよ」

 

 宗谷は携帯を持っていないのだ。情報社会と言われている世の中で携帯を持っていないのは不便極まりない。それなのに、「今は必要ない」と言うのだ。

 

「まあ、携帯はその内な。じゃあ書き終わったから行ってくるぜ」

 

ーー

 

 

 宗谷が出発した頃、かほは自分の部屋でチリのデータを見ていた。昨日の試合の後、どういう性能を持つ戦車なのかが気になりずっと調べていたのだ。

 日本の戦車を保有している知波単(ちはたん)学園でもチリという戦車は見たことがない。というのも、日本の中戦車は3式中戦で終わっているのだろうと思っていたので、まだその次があったとは思っていなかった。

 一通り見た後、別のファイルを開いた。中身は過去の戦車道の試合結果を纏めたもので、みほが現役だったころのデータまであった。データの中には動画も入れて試合の流れを見れるようにしていた。みほが黒森峰の時の動画も入れてある。

 かほはその動画を初めて見たとき、戦車道に対して恐怖の感情が芽生えたのだ。何故なら・・・・・

 

「かほー、宗谷くんがあなたを呼んでるわよー」

 

 宗谷くんが?一体何のようなの、こんな時間に。そんな疑問を持ちながら外に出ると宗谷が手を降っていた。

 

「よ、寝てた?」

 

「寝てないよ。何か用?」

 

「これを渡しに来たんだ、出来ればみほ指導員にはバレないようにしてくれよ。バレたらこれ渡した意味が無くなっちまうからさ。」

 

 ポケットから手紙を出した、かほは受け取ってくれた。

 

「バレたら意味が無くなるってどういう意味なの?」

 

「まあ、読んでみてくれよ。詳しいことはそれに書いてあるから、じゃまた明日」

 

 詳しく聞くことは出来なかったが手紙を読めば分かるだろう。みほには何も言わずに部屋に入り、手紙を開いた。

 

『西住隊長へ

 

 あなたと一度、きちんと話してみたいと思ってこの手紙を書かせてもらったよ。明日、19時に学園のグラウンドに来てくれ。話をしたくないなら来なくても構わないよ。

 

 

旭日機甲 宗谷佳

 

 手紙を読む限りでは話をしたいだけらしい。それだけならわざわざ時間指定しなくても良かったのに、何で?頭の中は疑問しか浮かばない。

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 翌日の午後、戦車道の練習を始めるために準備をしている宗谷に、かほが話しかけた。

 

「昨日の手紙、あれどういう意味なの?」

 

「そのまんまさ、ただ話がしたいだけなんだよ」

 

 何か怪しい、本当にただ話がしたいだけなの?それなら今ここですればいいのに。

 

「じゃ、今夜待ってるぜ」

 

 宗谷はチリに乗り込んでしまった。どうしよう、行くべきか行かないべきか、かほは迷った。

 

 

ーーー

 

 

ーー

 

 

 

 時間は18時43分、指定された時間に間に合わせるなら今から出ないと間に合わない。かほは迷ったが行くことにした、この間思わず怒鳴ってしまったこと、まだ謝っていなかったし。

 かほ自身は宗谷に謝るつもりでいた。昨日も今日も謝るタイミングが中々見つからなかったので、ちゃんと謝らなければと思っていた。

 

「かほ?何処へ行くの?」

 

「ちょっとコンビニに行ってくる。すぐに帰る」

 

 みほには適当に理由を付けた。これから宗谷に会うなんて言えるわけがない、何か勘違いされたら困るからだ。かほは家を出ると真っ直ぐ女学院に向かって歩いて行った。

 夜道は月の灯りと街灯が照らしてくれる、今日の空はよく晴れている。かほはどうやって謝ろうかずっと考えていた。『あの時はごめんね。』、それだけでいいかな。そんな事を考えていたらもう女学院の校門の前に着いていた。

 グラウンドを見渡すと宗谷が1人で立っていた、何故か実習服のままだ。かほはそっと近付いて話しかけた。

 

「宗谷くん、来たよ」

 

「お、来てくれたか。いやー、来てくれなかったらどうしようか思ったよ。何にせよ他のメンバーには話しづらい事だからね。」

 

「話しづらい事って?」

 

「そうだなぁ、君の戦車道に対する・・・思い、かな?」

 

 まず最初に、何故戦車道を嫌うのかをもう一度聞き直してみた。返ってきた答えは前と一緒だった、入ったことに後悔している、ただそれだけだ。

 

「うーん、それは前にも聞いたんだよなー。もうちょっと詳しく教えてくれないか?」

 

「・・・楽しくないのよ。毎日ただ戦車に乗って指示を出すだけだから・・・。こんな思いをするんだったら茶道とか、華道とか別の科目にしていれば良かったと思っているのよ」

 

「なるほどねぇ、楽しくない・・・か。でも毎日同じことしかやらないからっていう理由なら茶道でも華道でも一緒じゃないか?」

 

「毎日戦車に乗るだけよりかはずっと楽しいと思うわ。限られた狭い空間の中にいるよりはマシよ」

 

「成る程ねぇ、確かにそうかもしれないな」

 

「・・・これで分かったでしょ?私が戦車道を辞めたいと思っている理由。納得出来たでしょ?」

 

「いいや、全く」

 

 宗谷は納得していなかった。ちゃんとした理由を聞いたのにも関わらず。

 

「あなたちゃんと聞いてた!?理由は今言った通りよ!」

 

「本当の理由はそこじゃないだろ?もし、今言った通りなら1年生のうちにとっくに辞めて、別の科目に入っていただろ?」

 

 かほは黙ってしまった、言葉が見つからないのだろうか。沈黙が30秒続いた後、宗谷が話を切り出す。

 

「本当の事を話してくれよ。いつまでも隠し事されても先に進めないんだが」

 

「・・・もう話すことなんてないわ。そろそろ帰るね、遅くなるとお母さん心配するから」

 

 かほが帰ろうとしたその時、宗谷が思いきって確信した事を伝えた。

 

「38年前の黒森峰対プラウダの決勝戦。これが原因なんじゃないのか?」

 

 かほの足が止まった。

 

「そ、それが何なの?38年前の事なんて・・・。」

 

「違うか?俺の見解としては38年前の事が関係しているとしか思えないんだよ」

 

「何でそう言えるの?そんな昔の事なんて関係ないよ?」

 

「そうなのか?俺は試合中に黒森峰の戦車が大雨の中で河に落下した事が大きく関係あるんじゃないかと思っていたんだけどなぁ」

 

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 38年前の決勝戦、黒森峰にとっては10連覇が掛かっていた大事な試合であった。当時、1年生だったみほが黒森峰の副隊長を勤めて、フラッグ車の車長を勤めていたあの時、大雨が降っていた。

 その時、みほの前を走っていた戦車が砲撃を受けて河に落ちたのだ。戦車が濁流に呑まれてしまったところに、みほが助けるために河に飛び込んだのだ。フラッグ車の車長としての任を捨ててまで助けに行ったのだ。

 それが仇になってしまい、フラッグ車は隙を突かれて撃破され、黒森峰の10連覇は叶わなかった。しほはその行動を認めることはなく、みほは黒森峰を去った。そして戦車道が無かった大洗に転校したのだ。

 

 

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「それが何なのよ、それとこれとはまた別じゃない」

 

「俺はそう思えない。去年の試合の行動も、今日の渡渉練習の時にいきなり止まったのも、この話がないと辻褄が合わないんだよ。君の母さんの過去が、今の試合に影響してるんだろ?いい加減本当のことを話してくれよ」

 

「・・・・・ばか・・・そこまで言われたらもう隠せないじゃない」

 

 かほはようやく本当の事を話す気になれたようだ。ここまで問い詰められたら隠す必要は無いと思ったのだろうか 。

 

「何で本当の事を言わなかったんだ?正直に言っていればあんないざこざを起こさなくても済んだのに」

 

「・・・河に戦車が落ちたって記事を見て、私もそうなるんじゃないかって怖くなったの・・・だけど、お母さんの過去が原因で、戦車道をする事が怖くなったなんて、言えなかった・・・・・」

 

「俺だったら、正直に話すね、隠し事とかしたところで何の解決にもならないし。話すだけで解決するんならそっちを選択する」

 

 かほはまた黙ってしまった。顔には不安な気持ちが出ている。

 

「話しても解決出来るか分からないよ。この1年間ずっと喧嘩ばかりしていたんだよ?まともに話なんて出来ないよ」

 

「先の事ばかり考えないで、今自分がどうするべきかを考えろよ。このままじゃいつまで経っても解決しないぜ」

 

「分かってる、分かってるけど・・・・・」

 

 宗谷は少し間をおいた。そしてかほにこう言った。

 

「・・・・・あのな、原因が分かっているなら素直に言えよ。それが原因で、試合に影響が出てるのは明らかなんだ。さっさと解決させて、先に進もうぜ?」

 

 宗谷は少し言い過ぎたかと思ったが、かほには響いたようだ。そして決心した。

 

「宗谷くん、今からで悪いけど一緒に来てくれる?お母さんに本当の事を話そうと思うの」

 

「良いぜ、じゃあ行こうか・・・・・と言いたいけどその必要はなさそうだ」

 

「え?何で?」

 

「何でって言われても、行かなくてもここで出来るからだよ」

 

 かほには全く意味が分からなかった、ここで出来ると言われても当の本人はいないはずなのに。

 

「ですよね?西住指導員」

 

 宗谷が茂みに向かって声をかけると、みほが出てきた。心配でついてきたのだ。

 

「お、お母さん!?いつからそこにいたの!?」

 

「多分最初っから全部だと思うぜ。俺が戦車道の思いを聞こうとした時に茂みから音してたしな」

 

「わ、分かってて話をしていたの!?」

 

「おう、だって『ここにお母さんがいるぞ』って言ったら振り出しに戻ると思ったからな。まぁ、やり方ちょっとは汚かったけど」

 

「宗谷くん、かほと2人で話をさせてくれる?」

 

 そう言われた宗谷は何も言わずにかほから離れた。かほはあまりの唐突さに言葉が出ない。

 

「お、お母さん・・・その・・・私・・

 

 みほは答えを聞く前に、かほを静かに抱いた。

 

「ごめんね、かほ。私が気付かなかったせいで辛い思いさせたね・・・・・」

 

「・・・そんなことないよ・・・私もお母さんの気持ちを知らないで、喧嘩ばかりで・・・」

 

 かほは気付かずに涙を流していた、涙を拭いて泣かないようにしている。そんなかほに宗谷はぽつりと言った。

 

「泣いても良いじゃねぇか。今ここには、俺たち3人しかいないんだからさ」

 

 かほはどうしたら良いか分からなかったが、母の温もりがかほを素直にさせたようだ。ただ涙を流していただけなのにいつの間にか泣いていた。ようやく素直になったかほに安心したのか、みほも涙を流した。

 かほ越しに宗谷を見ると帰ろうとしている感じだった。折角親子の関係が治ったなのに邪魔は出来ないと、そう言っているようだった。

 宗谷はみほと目が合うと静かに敬礼をしてその場を去っていった。お礼が言いたかったのにこうなるだろうと分かっていたかのように颯爽と行ってしまった。

 

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 翌日の午後、戦車道の練習の時間になったとき、かほは明るくメンバーに話しかけていた。突然の変化に誰もが戸惑ってしまったが、かほは全く気にしていない。穂香が急に変わったかほに話しかける。

 

「かほちゃんどうしたの?何か吹っ切れた感じだね」

 

「はい。私、悩むことをやめたんです。先の事ばかり考えないで、今何をすれば良いのかを考えることにしたんです」

 

「成る程、そういうこと・・・ね」

 

 かほの変化に指導員たちも驚いていた、一体何があったのかが凄く気になった。沙織がみほに問い詰める。

 

「ねぇみぽりん、昨日何かあったの?」

 

「何もないよ?吹っ切れたって言ってたけどね」

 

 疑問に思っているのは福田たちも同じだった。宗谷は昨日21時前に帰ってきたのだが、良い話が出来たように見えなかったのだ。

 福田は何を話したのかを聞いたのだが、「誰もがするありきたりな話だったよ」としか言われなかった。宗谷自身はたいしたことではないと思っていたからだ。

 宗谷はそう思っていても、みほは感謝していた。自分でも治せなかった親子関係を治してくれたのだから。

 

(これで良い。親子関係は、常に温くないといけないからな)

 

 




※解説


ショルダーホン
現代でいう携帯電話のこと。当時は持ち運びが出来る電話として作られたが一般向けではなく、サラリーマンなどが使う仕事用としてだった。



あとがき

今回も読んでいただきありがとうございます。今回は少し長いように感じましたがいかがだったでしょうか。感想、評価をお待ちしています。
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