ガールズ&パンツァー ~伝説の機甲旅団~   作:タンク

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前回のあらすじ

大洗と聖グロリアーナの親善試合が始まった。始めは大洗側の方が流れが良かったが、少しずつ押し込まれ始めていた。
市街地に移動し、何とか反撃に転ずる事が出来たが、隊長であるルフナに追い込まれてしまう。絶体絶命の危機に陥ったとき、チリが現れた!


第8章 決着、アンコウ踊り、そして茶会

「・・・チリ、と宗谷くんたちだよね・・・?みほちゃん」

 

「え、ええ・・・・・」

 

 杏たちは呆然としていた、何故かチリが試合に出て、射撃までしている。観戦席も少しざわつき始めていた、こんな戦車が大洗にあっただろうか?一体何が起こっているのか、疑問は積もる一方だ。

 

ーー

 

 

 旭日機甲が無断出場をしてかほたちと合流する30分前、宗谷は木の上から試合の流れを見ていた。双眼鏡に写る景色は大洗の町、そしてけたたましく音を立てながら走る戦車だった。

 受信機の電源を切ったので会話は聞き取れないが動きだけでどうなっているのかは把握出来ていた。ただ細かいことは分からないし、ころころ変わる動きを100%把握出来る訳がない。

 ずっと見ていると89中戦がやられているところが見えた、宗谷はこの時点で流れがまた聖グロリアーナ側に向くと思ったのだ。そしてその読みは的中してしまい、大洗はどんどん追い詰められていったのだ。

 宗谷はこのまま見ているのが辛くなってきた、そして4号とM3が追いかけられているところを見たとき、ついに決断した!

 

「福田!燃料と弾薬を確認しろ!」

 

〔は?何で?〕

 

「出場する!急げ!」

 

〔し、出場!?お前正気か!?〕

 

「正気も正気!行くぞ!!」

 

 宗谷が木から降りてチリに乗り込んだ、福田は燃料と弾薬の確認を終わらせ、操縦席に座っていた。

 

「おい宗谷、準備は出来たけど許可無しで出場するなんてマジで言ってんのか!?」

 

「マジに決まってんだろ!これ以上黙って見てられるか!!」

 

 練習試合なのに宗谷は熱くなってしまい、結局出場するしかなくなった。そして、4号とM3に合流して現在に至る。

 突然の出来事にかほたちも言葉が出ない、しかし無断で出場してきたのは流石にまずい。どう言おうか迷っているかほを差し置き、ルフナが宗谷に質問を返す。

 

「・・・旭日機甲旅団?聞いたことのない名前ですが」

 

「だろうな、俺たちは無名のチームだし、知らないのも無理ないな」

 

「まぁ、良いでしょう。でも、私たちは負けませんわ」

 

「それはどうだろうな。もしかしたら、俺たちが勝つかもしれないぜ?全員、鉄帽着装!!」

 

 旭日のメンバーが一斉にヘルメットを付ける、そのヘルメットはヘッドホン型のインカムと一体型の物で宗谷たちが近衛の時から愛用してきたものだ。栞がヘルメット見て言った。

 

「ちょっと!私たちとの試合の時にはしてなかったじゃない!」

 

〔そう言うなよ、調整しなけりゃいけなかったから装備すんのが遅れたんだよ。〕

 

 宗谷もヘルメットを着装し、準備万端だ。

 

「よっしゃー!!行くぜ!!」

 

「行くぜじゃないよ!早く下がって!」

 

 かほが思っていたのは指導員たちも一緒だった、杏は慌ててダージリンに謝る。

 

「ご、ごめん!一旦試合を中断して・・

 

「あれが、新しいメンバーと戦車ですか?」

 

 ダージリンは少し驚いた表情でモニターを見ていた。

 

「へ?う、うん、そうだけど・・・?」

 

「男子が入っているとは少し驚きですけど試合を中断するなんて勿体無いですわ、このまま続行してください。どんな戦術を見せてくれるのか、楽しみですわ」

 

 怒るどころか興味津々だった。杏は少し呆然としてしまった。そしてルフナは、今の状況を不利と察し、アールグレイに応援を要請する。

 

「アールグレイさん、今あなたが見た戦車がここにいます。すぐに来てください」

 

〔分かったわ、30秒で合流する〕

 

 宗谷はルフナが通信している様子をじっと見ていた。そして通信が終わったタイミングで話し掛ける。

 

「何だ?援軍でも呼んだのか?」

 

「フフ、そんな軽口を叩けるのも今のうちですわ」

 

 ルフナがそう言ったとき、後ろから別の戦車が5輌走って来た。あれが十字軍の正体だ。宗谷が双眼鏡で覗く。

 

「何だあれ?・・・・・あー、『巡航戦車 クルセイダー』か」

 

「クル()()()()?美味そうな名前だな」

 

「バカ、クル()()()()だ。『十字軍』の事だ」

 

 クルセイダーとは、前型の『カビナンター』の改良版の巡航戦車だ。『巡航戦車』というのはイギリス独自の戦車の区分で、高い機動力を兼ね備えている。その機動力を活かして敵戦車を追撃、敵前突破をすることを主任務としていた。

 巡航戦車の名の通り、クルセイダーもカビナンターもかなりの高速であった、最高で約43キロ出せるが変速機やエンジンの冷却が欠点だ。宗谷は中に入りかほに通信する。

 

「西住、ここは任せろ。攻撃するからその内に下がれ」

 

「え、このまま試合するの!?」

 

「当たり前だろ?このまま行くぜ!撃てーー!!」

 

 岩山と水谷が同時にトリガーを引く。チリから2発の轟音が響き、主砲弾はクルセイダーへ、副砲弾がチャーチルとマチルダに向けて飛ぶ!当たりはしないものの牽制にはなる。M3のエンジンがかかり、4号と一緒に後退していく。チリも射撃をしつつ全力で下がっていく。

 

「福田!そのまま後退!岩山、水谷は射撃を続行!当てなくていいからそのまま撃ち続けろ!柳川、北川は装填に遅れを取らないようにしろよ!」

 

 クルセイダーが後退しているチリを追撃しにきた。流石に後退するだけでは持ち堪えるのは厳しくなってきたので、宗谷が新たに指示を出す。

 

「福田!180°旋回!攻撃を中止して逃げるぞ!」

 

「追撃されるぞ!まぁ良いか・・・」

 

 隙を付き、180°旋回してアクセル全開でクルセイダーを振り切ろうとする。

 

「大物が逃げるよ!全車全速で追いかけろ!」

 

 アールグレイも負けじとチリを追う、差は広がらず縮まらずで大通りをただ走っているだけだった。

 アールグレイは先回りさせようと考え、後続の2輌を裏道を使って先回りするように伝えた。すぐに2輌は裏道を使って次にチリが通るであろう場所に着いた。

 そしてチリが近づいてきたタイミングを計らい、2輌は立ち往生をしようと前に出た。福田は慌ててブレーキをかけたが宗谷は正反対の指示を出した。

 

「福田!速度をなるべく落とすな!」

 

「無茶言うな!目の前に戦車止まってんだぞ!」

 

「左に脇道があるからそこに入れ!無理なら速度落としても良いが」

 

「クッソ!やってやらぁー!!」

 

 福田はアクセルペダルを思いっきり踏み込み、操縦レバーを旋回する方向へ倒す。履帯が凄まじい音を立て、火花を散らす。ほぼ強引に旋回し、どうにか脇道に入った。後ろからついてきたアールグレイたちは、流石に付いていけず、一旦停止した。

 

「くそ、中々やるじゃない。全車、そのまま日本戦車を追いかけるよ!」

 

 チリは脇道を抜けてまた大通りに出た。クルセイダーが来ている様子はない、何とか振り切れたようだ。少し余裕が出来たので、宗谷はここからどうするかを考えることにした。これ以上単独で動くのは無理だと思い、他の味方と行動することにした。

 通信回線を開き、繋がったのはヘッツァーだった。穂香の声が宗谷の耳に聞こえてくる。

 

〔お、誰かと思えば旭日の宗谷くんじゃん。あんた後で大目玉食らうよ?〕

 

「分かってること何だから言わないでくださいよ。それより、今何処にいます?」

 

〔えっとねぇ、今スポット39にカバチームといるよ。合流する?〕

 

「出来ればしたいですね、単独行動よりかは安心出来ますから」

 

「そうだねぇ、こっちも合流出来れば良いけどそう簡単にいけるかなぁ」

 

〔上手くいきますよ、何とかして見つからないようにすれば・・・ゲッ!すみません!後でスポット67に3突と来て止まってて下さい!〕

 

 慌てた様子で通信が切れた、何となく想像出来るがここはあえて何も聞かずに言われた通りにしようと思い、3突の美幸に動くことを伝えて一緒にスポット67へ向かった。

 着いてしばらく待っていると、目の前をチリとクルセイダーが全速で通り抜けていった。

 

「あっちゃー、やっぱ追われてたかぁ」

 

「どうします?加勢しますか?」

 

「ここはちょっと待って、宗谷くんから何か指示あるまで待とうか。」

 

 追われているチリはクルセイダーからの射撃を受けながらも逃げ切ろうと必死になっていた。しかし振り切ろうとしてもすぐに追い付かれるので差は広がらない。

 観戦席ではダージリンがチリの動きだけをずっと追っていた。逃げているだけで何も変化がないし、攻撃をするような感じもしない。何か作戦でもあるのだろうか?

 

「ダージリンさん?さっきからずっとあの戦車しか追っていませんが、何か気になるところでも?」

 

「さっきから逃げてばかりですもの、何か策でもあるのかと思いまして」

 

「策、ですか?とてもそんな感じはしませんが」

 

 宗谷は何処で攻撃を仕掛けるかを考えていた、このままでは拉致が明かないので、あの技で決めることにした。

 

「福田、『リボルバーショット』だ」

 

「あれやるのか?ていうかあの回転撃ち『リボルバーショット』で決定かよ」

 

「今は名前とかいいから早くやるぞ、岩山もあれから練習して腕上げたんだから。」

 

「分かったよ。岩山、行くぞ!!」

 

「おう!ドンと来い!」

 

 福田が思いっきりブレーキを踏み込んで車体をぐるりと回る!岩山がトリガーを引いて射撃をし、1輌撃破に成功した!火花を散らしながら回り、素早い操作ですぐに元に戻った。

 

「よっしゃー!成功!!」

 

「ていうかあいつらも諦め悪いなぁ、まだ来るぞ」

 

 アールグレイは突然の出来事に処理が追い付いていない。戦車が1回転して射撃するなんて今までに経験したことがない。クルセイダーの乗員たちも焦りを見せている。

 

「アールグレイさん・・・あの戦車の乗員たち・・・私たち以上にエリートなのでは・・・?」

 

「い、今のはたまたま成功したのよ!エリートだとかそんなの気にしないで、撃破するわよ!!」

 

 観戦席では『おおー』っと歓声が上がっていた、今まで見たことが無い技なので驚くのは尚更だ。オレンジペコはただただ驚いている。

 

「す、凄い!1回転する内に射撃をするなんて!」

 

「面白い戦い方をしますわね、ルフナに教えたいですわ」

 

 そしてチリでは、ようやく一段落付いたので宗谷が穂香に連絡を取る。

 

「角谷さん、今何処にいます?」

 

〔さっきからずーっとカバチームと一緒にスポット67で待機してるよ。いつ指示をくれるのかな?〕

 

「あ、ごめんなさい。今からスポット67に行きますから準備してください!」

 

「オッケー、待ってるよ」

 

 穂香は挟み撃ちする作戦だと思い、美幸にもそう伝えた。そして、チリの音が聞こえてきた。

 

〔角谷さん!行きます!〕

 

「オッケー、任せて~」

 

 チリとクルセイダーが目の前を通り過ぎたところを狙ってクルセイダーの後ろを取った!美幸が叫ぶ!

 

「角谷殿!後ろを取りました!」

 

「よっしゃー!撃て撃てぇー!!」

 

 アールグレイはいきなり後ろを取られたので、慌てて指示を出した。

 

「うそ!隊列を崩して!早く!!」

 

 隊列を崩し始めた時にはすでに遅し、固まりで動いているので狙いやすいのであっという間に4輌撃破した。チリは急ブレーキをかけて停車した。福田は大きく息を吐いた。

 

「はぁー・・・逃げ回るのも楽じゃねぇなぁ。ていうかクルセイダー早すぎだろ、全然振り切れなかったぞ」

 

「まあまあ、そのクルセイダーは角谷さん達が撃破してくれたんだから良しとしようぜ」

 

 止まっているチリに梅が近づいてきた、かなり怒っている。

 

「お前ら!!無断出場するなんて良い度胸だな!!無断出場するなんて規則違反もいいとこ!早く下がれ!!」

 

「そう言われましても規則に『途中参加は認めない』って書いてませんし、何の音沙汰も無いんでこのまま決着つけますよ。」

 

「あんたね!」

 

「おーい、取り込み中悪いけど3式中戦がやられたって報告入ってるぞー」

 

 北川が報告する。今は試合中だ、これ以上ここで時間を潰している場合ではない。怒っていた梅も冷静になった。

 

「・・・とりあえず、今はお互いに試合に集中しないといけないな」

 

「そのようですね」

 

「やられたら承知しないからな!」

 

 走ってヘッツァーに戻っていく梅に対して宗谷は敬礼していた。そしてチリに乗り込んで4号と合流するように指示を出した!

 

ーー

 

 

 かほはどうやって撃破するかを考えていた。今はマチルダからの攻撃が激しさを増してきているので、マチルダの撃破を優先するべきだと考えていた。

 宗谷に助けられた後、M3と一緒に安全圏まで動いたあと、別行動に切り替えて戦車を探すことにした。走っている最中にマチルダ1輌を撃破して残りは後2輌、しかしこの2輌を探すのに時間をとってしまい、その内に3式中戦が撃破された。

 

 そして相手を見つけたのは良いのだが相手は間髪を入れる間もなく攻撃をされて反撃する間がない状態だった。由香は不安そうにしている。

 

 

「西住殿、どうしましょう。このままではこちらが不利であります」

 

「うーん、回り込みとかしたいけど裏道は全部把握されているみたいだから、真正面から勝負しようって思ってるよ」

 

「・・・応援、呼んだ方が良くないか・・・?」

 

「そうですね、宗谷くんを呼んで一緒に戦う方が良いと思いますよ」

 

「でも折角の練習試合なんだから、宗谷くんの力なしで決めようよー」

 

 意見はバラバラだ。応援を呼ぶ派と自分たちで何とかする派で分かれている。七海と藍が言うように応援を呼んだ方が確実だ、でも栞の意見も捨てがたい。

 折角の練習試合を誰かに任せっきりというのも釈然としない、かほは判断に迷ったが出した答えは。

 

「私たちだけで撃破しよう、応援を呼んでも時間がかかるからここで決めよう!」

 

 導き出した答えは『自分たちで対処する』。そうは言ったものの本当は応援が欲しかった。でも宗谷に任せっきりというのも悪い気がしていた。そう思っていた時、宗谷から通信が入った。

 

〔西住!今何処だ!?〕

 

「え、えーっと、スポット29にいるけど?」

 

〔よし、分かった。今そっちに行くから持ち堪えてくれ!〕

 

「そ、それなんだけど、私たちだけで何とかするから大丈夫だよ。じゃあ、後でね」

 

 かほは通信を切った、そして電源も落とし、受信出来ないようにした。

 

「あ!?おい!おい!くそ、電源切りやがった!福田、スポット29に急げ!」

 

 チリが今いる場所はスポット25、差ほど離れていないので急げばすぐに着ける。チリは全速力でスポット29へ急行した。

 一方、4号はマチルダの攻撃を回避しつつ、角を曲がった。そして180°ぐるりと旋回し、マチルダが角から出てきたタイミングで射撃をして撃破した。

 そして残りは隊長車であるチャーチル1輌のみ、態勢を立て直す間に角から出てくることは分かっていたのでまた別の方法で撃破しようと考え、角から距離を置いて指示を出す。

 

「七海さん、チャーチルが角から出てきたら全速で加速して、横滑りで後ろ取ること出来る?」

 

「・・・つまり、ドリフトをしろということか・・・?」

 

「うん、かなり練習してたから大丈夫かなって思っているんだけど、ダメかな?」

 

「・・・大丈夫、何とかやってみる・・・。藍、ちゃんと撃てよ・・・」

 

「はい、頑張ります!」

 

 チャーチルが角を曲がって真正面を4号に向けた、作戦を実行するチャンスだ!

 

「前進!!」

 

 かほの掛け声で4号がチャーチルに向かって前進する、加速は上手く行っている。後は急ブレーキをかけて車体を滑らせるだけ、難しいことではない。

 誰もがそう思っていたが、七海はかなり緊張していた。操縦レバーを握る手は震え、額には汗が滲んでいた。

 

「行くぞ!」

 

 七海は声を上げて急ブレーキをかけた、しかしブレーキと同時に操縦レバーを倒しすぎて車体はスピンしてしまった!4号は履帯から火花を散らしながらスピンし続け、壁に激突して横倒しになってしまった!

 駆け付けた宗谷たちはこの現状に慌てた、戦車が横倒しになるなんて滅多にないことだ。宗谷は通信機を繋いでかほに呼び掛ける。

 

「西住!大丈夫か!?応答しろ!」

 

 4号からの応答はない、通信機が壊れたのか全く繋がらない。

 

「応答がない、試合を中断して救助作戦に移行する!準備しろ!」

 

 宗谷は目の前いる敵を無視し、試合を後回しにして救助を優先する言い出した。

 

「救助作戦に移行するって、敵はどうすんだよ!」

 

「チャーチルは後回しだ!今は救助に専念しろ!」

 

 宗谷はチリから下りてチャーチルの横を通り4号に駆け寄っていった。チリもチャーチルのことを完全に無視して4号に近づく、ルフナは突然無視されたことに納得がいかない。

 

「構いませんわ、あの戦車に向けて攻撃しなさい!」

 

 チャーチルから攻撃が来るがお構い無しだ。全く戦意が感じられない。試合は後回しだと言っているような感じで、反撃する感じもない。チリは4号を守るために『弁慶の立ち往生』と言わんばかりに攻撃を受け流していた。

 

ーー

 

 

 観戦席では桃が苛立っていた、目の前に敵がいるというのに救助をしているのだから無理もない。

 

「なにやっているんだ!さっさと止めを刺せ!!」

 

「何で救助やってんだろ?救護班ならすぐに来るのに」

 

 観戦席は混乱していた、試合中でしかも目の前に相手がいるのに救助をしている。納得がいかない人たちが多いが、みほだけは昔の自分を見ているようだった。

 決勝戦のあの日、仲間が戦車ごと濁流に飲まれて危険な状態だったあの時。試合なんて関係なしに飛び込んだ、仲間を助けたいという一心で。

 

「おい!新しい戦車が動いたぞ!」

 

 観客の1人が指を指しながら叫んだ、ずっと攻撃を受け続けたチリは、先にチャーチルを仕留めないと救助が困難になると判断したのか、砲塔を180°旋回させていた。

 

「これ以上攻撃来たらエンジン撃ち抜かれるから先に仕留めるぞ!」

 

「分かった、ターレットリング付近を狙え!そこなら確実だ!」

 

 宗谷は砲塔のハッチを開けて乗員の安否を確認する。

 

「全員無事か!?」

 

 宗谷の声に、かほが反応して顔を上げる。顔には炭が線を描いていた。怪我は無さそうだ。

 

「そ、宗谷くん・・・?ありがとう、大丈夫だよ。」

 

 乗員の安否が確認出来たあと、岩山がチャーチルを仕留めて試合は終わった。アナウンスが会場に響く。

 

〔聖グロリアーナ女学院、全車走行不能!よって、大洗女学院の勝利!〕

 

 観戦席は歓喜に包まれたが救助はまだ終わっていない、宗谷は福田にも声をかけて乗員を4号から出していた。

 

「戦闘室の3人は助け出せた。福田、そっちは?」

 

無線手(ラジオオペレーター)救出、後は操縦手(ドライバー)だけだ」

 

 そう言うと操縦席のハッチを開けて七海に声をかけた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「・・・う・・・くっ・・・」

 

「何か言ってくれよ、えーっと確か・・・冷泉・・・だったっけ?」

 

「・・・私が、私がしっかり操縦していれば・・・」

 

 七海は泣いていた、操縦に失敗してしまったのだからかなり落ち込んでいた。

 

「おいおい、泣くのは後回しにしてくれよ。今は脱出してくれないと困るんだよ」

 

 福田は七海を引っ張り出し、全員脱出が出来た。4号の側面にフックを引っ掛けてチリで引っ張り、何とか元の状態に戻せた。シュルツェンは完全に潰れて自走が困難な状態だったので牽引することにした。

 牽引の準備をしている最中に、宗谷が何故こんな状態になってしまったのかを聞いた。かほはことの発端を全て話した。

 

「なんでわざわざ危険な方を選んだんだ?誰でも良いから応援を呼べば良かったんじゃ?」

 

「応援を呼んでも間に合わないって思って、だったら私たちだけでも何とかしようって思っちゃって」

 

「それなら応援を呼んで『間に合わない』って思うんじゃなくて、『応援が来るまで引き付けよう』っていう別の考えにすれば良かったじゃないか」

 

「そ、そうだね・・・ごめん」

 

「あ、いや。こっちこそ、ちょっと言い過ぎた」

 

 宗谷は少し慌てた、落ち込ませるつもりはなかったのだ。

 

「おーい、準備出来たぞー」

 

「わ、分かった。じゃあ、4号に乗ってくれ。俺たちが牽引するから」

 

 全員が搭乗したところを確認した後、チリは4号を牽引しながら出発した。

 かほはすっかり落ち込んでいる、宗谷はどうやって励まそうか考えた。

 

「な、なあ西住。さっきはごめん、その・・・あれだよ『失敗は成功のもと』って言うだろ?だからさ、えーっと、そんなに気にしなくても良いぜ?」

 

「・・・お前何が言いたいんだ?」

 

 柳川につっこまれてしまい、宗谷自身も何が言いたかったのか分からなくなってしまった。でもかほは励まそうとしてくれた意志は伝わったようだ。

 

「フフ、ありがとう。『失敗は成功のもと』、だよね?」

 

「そ、そうそう。『失敗は成功のもと』だよ。」

 

 励ませたようなので少し安心した、そして会場まで後少しという距離で福田が違和感を感じた。

 

「・・・なぁ宗谷、虫の知らせを感じているのは俺だけ・・・か?」

 

「え?虫の知らせ・・・?あ!!」

 

 忘れていた、完全に忘れていた。無断で出場していたことを・・・

 

ーー

 

 

「バッカたれぇー!!!」

 

 会場中に桃の怒鳴り声が響く。それもそうだ、無断出場で試合に参加したのだから。とは言っても相手のダージリンも合意のもとでやったので苦情はなかったが桃はかなり怒っていた。宗谷は全力で頭を下げている。

 

「ほんっとうに申し訳ありません!!黙って見ていられなくなって気付いたら試合に参加してしまっていましたぁ!!」

 

「全く、今回は相手のダージリンさんがそのまま続けてくれって言ってくれたから良かったものの、本来は途中退場だったからな!」

 

「はい!以後気を付けます!」

 

 桃の説教が終わった後、今度は杏が宗谷に質問をする。

 

「試合には勝ったから結果オーライって感じだけどさ、目の前に敵がいたのに救助に移行したのは何でなのかな?」

 

 怒ってはいなさそうだが口調はかなり不機嫌気味だ。宗谷は何の迷いも見せずに答えた。

 

「確かに敵は目の前にいました。しかし状況判断上、救助作戦に移行したほうが良いと思い、あえて実行しました」

 

「状況判断上ねぇ。だけどさ、試合中に救助してたら撃破された可能性もあったんだよ?それを承知でやったの?」

 

「その可能性があったとしても、仲間が危機に陥っている時は救助を優先します」

 

 杏はため息をついた、そしてやや強めに言った。

 

「あのね、何かあったら救護班が出るし、相手も救助中だからって言って手を緩めてはくれない!本戦じゃこんな事は通用しないんだよ!」

 

 みほは宗谷が怒られているところをずっと見ていた。指導員としてではなく、過去の自分と照らし合わせていた。

 自分にもこんな事があった。仲間を助けて、そのせいで試合に負けた。母のしほには凄く怒られた、そして自分の戦車道を見失ってこの大洗女子学園に来た。当時は戦車道が無かった、この大洗女子学園に・・・・・

 

「お言葉ですが、救助作戦に移行した考えは間違っていなかったと思っています!」

 

「なっ、確かに助けたかったっていう気持ちは分かるけど、本戦じゃこんな事は絶対に通用しないって言ってるの!」

 

「確かに、通用しないかもしれません!ですが、今までの試合を見てきて、私は戦車道でもっとも重要なのは、『大切な仲間と共に勝ち抜くことだ』と学びました!仲間を思い、助け合いながら戦うことだと!」

 

 その一言で、杏たちは大切なことを思い出した。そうだ、戦車道で学んだのは戦車の技術だけじゃない、仲間と共に勝ち抜いて試合で勝つ。

 今までずっと一緒に頑張ってきた。辛かったことも、嬉しかったことも、仲間と共に共用して乗り越えてきた。そして、今も・・・・・

 

「・・・・・ですが、今回の無断出場の件でかなり迷惑をかけてしまったことは反省しています。それから、生意気な事を言ってしまいました・・・申し訳ありません」

 

 宗谷は深々と頭を下げた、みほは前に出た。

 

「宗谷くん、君が救助してくれたことは間違っていないよ。仲間を大切にする気持ちは私も良く分かるから」

 

「・・・え?いや、あの・・・・・」

 

 ポカンとしている宗谷に、杏が罰を与えることにした。

 

「まぁ、試合には勝ったから救助の件は大目に見てあげるよ。ただし、無断出場の件は、あれで償ってもらうからね?」

 

「・・・あれって何です?」

 

「えっとねぇ、じゃあ『アンコウ踊り』でもやって貰おうかなぁ?」

 

「・・・アンコウ踊り?」

 

 宗谷は罰としてアンコウ踊りを踊ることになった、かつてみほたち元4号搭乗員たちも、試合に負けたということで踊ったことがある。かなり恥ずかしい過去なので、みほは顔が赤くなった。

 宗谷はどんな踊りなのが聞きたかったがどの指導員に聞いても誰も答えてくれなかった。というわけで宗谷はかほたちに聞くことにした。

 

「「「「「アンコウ踊り!!?」」」」」

 

 何故か驚かれた、ただの盆踊り的な踊りかと思っていたのに。

 

「ああ、無断出場の罰としてって杏科長にそう言われたんだけど、どんな踊りなの?」

 

「え、えーっと・・・その・・・。」

 

「?、何だよ、はっきり言ってくれよ」

 

 

 答えを求める宗谷に福田が苦笑いを浮かべながら話しかける。

 

「あー、宗谷・・・これ踊るの相当キツいと思うぞ?」

 

 福田が携帯でアンコウ踊りの動画を見せた。ピンク色の服を来て頭にアンコウの絵を付けて踊っている、旭日のメンバーは呆然としていた。

 

「・・・これを踊るのか・・・お前・・・。」

 

「・・・ピンクの服は、勘弁してくれると良いな」

 

 宗谷は全然平気そうにしている。

 

「何で平気そうにしてんだ!」

 

「え?だってそこまで変じゃないだろ?」

 

「・・・・・そう思うならそうなんだろうな・・・・・」

 

 宗谷はどこか感覚がズレている。そのため、福田は何を言っても無駄だと悟ってしまい、諦めてしまった。

 

「宗谷くん?準備は出来てるかなぁ?」

 

 杏がニヤニヤしながら近づいてきた、手には頭に付けるためのアンコウの絵があった。福田たちは杏の笑顔が悪魔の笑顔に見えた。

 

「ピンクの服探したんだけど無かったからさ、これだけ頭に付けて踊ってね。っと、じゃあ、ほかに踊りたい人、手上げて!」

 

 ノリノリだ、何故か杏科長はノリノリだ。そして誰も手を上げない。

 

「じゃあ宗谷くんだけだね?」

 

「待ってください!俺も踊ります!!」

 

 福田が名乗りを上げた、副隊長としての責任もあるということで一緒に踊ると言い出した。宗谷はキョトンとしている。

 

「踊るは良いけど、良いのか?さっきキツそうだって言ってたのに?」

 

「確かにキツいかもしれないけど、隊長だけに罪を被って貰う訳にはいかねぇ!!」

 

ーー

 

 

 そして、2人のアンコウ踊りが始まった。

 

「・・・ああ、何なんだろうな・・・この光景・・・」

 

 岩山がボソッと言った、ステージの上で深緑色の服を着て、頭にアンコウをくっつけて踊っている。

 宗谷は少しまともに踊っていたが福田は手先があっちこっちに動いている、踊っているのかそうじゃないのか全く分からないが、必死さは伝わってくる。

 

「・・・本当に何なんだろうな・・・、自衛官の幹部官的な格好しているヤロウが2人でアンコウ踊り踊っているって・・・」

 

「これぞまさに・・・一罰百戒ってやつか?」

 

「大袈裟だよ、そんな見せしめほどのことじゃないだろ」

 

 それから約10分後、アンコウ踊りが終わった。福田は疲れきっている。

 

「お疲れだったなぁ、福田」

 

「・・・ああ・・・本当に疲れた・・・」

 

 福田はこんな状態だというのに宗谷は全然堪えていなかった。

 

「いやー、楽しかったな。たまには踊るのも悪くないな」

 

「何でお前は平気なんだよ、あんな踊りしたのに」

 

「何でって言われてもなぁ、まぁ罰は罰だし仕方なくないか?」

 

 感覚がズレているだけなのか、それともこう言う性格なのか、福田には分からなくなってしまった。

 

「お疲れさーん、宗谷くんちょっといいかな?」

 

 杏が宗谷を呼びに来た、また踊るのかと思っていたが違ったようだ。

 

「聖グロのダージリンが呼んでるよ、話がしたいんだって」

 

「ダージリンさん・・・って誰です?」

 

「聖グロの指導員で、私と同じ科長だね」

 

 杏と同じ科長だと言われてもいまいち察しが出来ないので、とりあえずついていくことにした。

 そして、会場から少し離れた場所に着いた。小さなテーブルが1つ、そして椅子が3つ並んでいた。椅子にはルフナが座っていた。

 

「あれ?さっきの、チャーチルに乗ってた」

 

「ルフナです。それからあなたを呼んだのは私の母ですわ。あなたと私たちでお茶会をしたいって」

 

「・・・え?」

 

「あ、言い忘れてたけど、このルフナちゃんのお母さんがダージリンだから。じゃ、後はごゆっくり~」

 

 手を降りながら去っていく杏、そして焦る宗谷。杏を含めての3人かと思っていたのに、まさかの隊長と科長の親子コンビという気まずい空気の中でのお茶会になるとは・・・

 

「いらっしゃいましたか、待っていましたよ」

 

 慌てて後ろに振り替えるとダージリンが立っていた。宗谷は慌てて敬礼した。

 

「そんなに固くならなくても良いんですよ?えっと、お名前はなんて言いましたっけ?」

 

「旭日機甲旅団隊長兼、チリ車長、宗谷佳です」

 

「ああ、あなたが。申し遅れましたわ、私はダージリンと申しますわ」

 

 ダージリンは笑顔でエスコートしてくれた。

 

「宗谷さん、どうぞ席についてください。聞きたいことがたくさんありますから」

 

 ヤベー・・・絶対にさっきの試合の件だ、と思いつつ宗谷も席についた。

 緊張している宗谷の前にカップが置かれ、オレンジペコが紅茶を注いでくれた。ダージリンとルフナは淹れたての紅茶を飲んで一息つく。

 出された物はきちんと飲まないと失礼だと思い、宗谷も慌てて口に含む。砂糖を入れ忘れ、少し冷さなかったので、熱い上に苦かった・・・何も言わない宗谷に、ダージリンが話し掛ける。

 

「宗谷さんに、聞きたいことがあります」

 

 来た、無断出場の件を問い詰められる・・・宗谷の勘はそう語っていた。

 

「まず、どの学校のご出身なのか、それから何故戦車道に出ようと思ったのか、その経緯を教えてもらえませんか?」

 

「・・・え、それだけ・・・ですか?」

 

「『それだけ』というのは?」

 

「いや、てっきり無断出場のことかと思っていましたから・・・・・」

 

「ああ、さっきの試合はしっかりと観戦させて貰いましたわ。面白い戦法を使うんですね」

 

 ホッとした、今までの緊張が一気にほどけた。だが、それも束の間だった・・・・・

 

「ただ、ルフナは快く思っていないようですけどね。」

 

 宗谷は『グフッ』と思いっきりむせた。落ち着いたあとでそーっとルフナを見ると、ジーっと見られていた。

 

「えっと、怒って・・・いるよな」

 

「別に怒ってなんていませんわ。ですが、さっきの威嚇射撃は忘れませんわ」

 

 宗谷はゾッとした。女子の裏の顔というよりも、ルフナの裏の顔の方が怖いということが良く分かった瞬間だった。

 苦笑いを浮かべながら紅茶を飲み、宗谷から話を切り出した。

 

「あー、何でしたっけ?ああそうだ、出身校でしたっけ?自分は出身は近衛です、出身と言えるかどうか分かりませんけど・・・・・」

 

「近衛・・・もしかして廃校になってしまった近衛機甲学校?」

 

「ええ、その通りです」

 

 ダージリンは驚いていた。まさかあのエリート学校からの生徒だったとは思っていなかった。

 

「まさか、本当に?」

 

「本当ですよ、旭日のメンバー全員が元近衛です」

 

「では、ここに来た目的は?」

 

「・・・それは、今までずっと大洗と試合してきたあなたなら分かると思いますよ」

 

 ダージリンには分からなかった、確かに今までずっと試合してきた。だがそれだけでは全く分からない。

 

「・・・何か、ヒントは無いのですか?」

 

「そうですね・・・ヒントになるかは分かりませんが、『もう1つの西住流』があったから・・・ですかね」

 

「『もう1つの西住流』?ですか・・・分かりにくいヒントですね」

 

「いずれ分かりますよ、今は分からなくてもその内に。では、そろそろ戻らないといけないので失礼します。お茶、美味しかったです」

 

 そう言うと宗谷は敬礼をしてその場を去っていった、ダージリンとルフナは宗谷をじっと見ていた。

 

「中々面白い方でしたわね。今度また会うまでに答えは考えておきましょうか」

 

「・・・私は良い方とは思えません。試合中にも関わらずに救助に専念して、相手を無視するなんて失礼ですわ」

 

「フフフ、そうですね。では、そろそろ行きましょうか、学園艦も出港しますしね」

 

 宗谷は静かに出港していく聖グロリアーナの学園艦を見送っていた。敬礼している宗谷に福田が声をかける。

 

「宗谷、お前何聞かれたんだ?」

 

「何聞かれたって言われてもなぁ、どこの出身校なのかって聞かれただけだよ」

 

 そう言うとその場を去った、福田は絶対に他に何か聞かれただろうと思いながらあとを追いかけていった。

 その後、杏は学園艦の出港まで時間があるのでゆっくり町を見てきて良いよと言い、メンバーはそれぞれバラバラに町を見てくることにした。

 宗谷たちも町を見学することにして、各自で動くことにした

 宗谷が1人でブラブラしているとかほたちにばったりと遭遇した。栞が声をかけた。

 

「あ、宗谷くんじゃん。1人で回ってんの?」

 

「ああ、そうだけど」

 

「だったらさ、私たちの買い物に付き合ってよ。買いたいもの多くてさー」

 

「買い物に付き合うのは良いけど、荷物は自分で・・

 

「じゃ、決まりね!早く行こう!」

 

 宗谷の答えを待たずに栞は先に行ってしまった、慌ててついていくかほたちに宗谷も一緒についていった。

 その景色を着物を来た女性が見ていた。

 

「・・・あら?あれは、藍かしら?」




今回も読んでくださり、ありがとうございます。感想、評価、お待ちしています。

今回の章で出てきた『ヘッドホン型インカム付きヘルメット』は宗谷たちがずっと使ってきた物なのですが、当時の近衛ではは喉に付ける『咽頭マイク』と選べるようになっていたようです。

ちなみにかほたちが使っているのは咽頭マイクなのですが、宗谷がインカムを選んだのは「喉元に付けると違和感があるから」と言うことだそうです。

福田たちも宗谷と同じヘルメットを使っていますが、旭日のメンバーになるまでは宗谷以外全員咽頭マイクを使っていたということです。

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